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羊水検査を受けることについての女性の価値体系

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Academic year: 2021

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全文

(1)

原  著

*1

東京医科歯科大学大学院博士後期課程(Doctoral Course, Graduate School of Allied Health Sciences, Tokyo Medical and Dental University) *2

東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科(Graduate School of Allied Health Sciences, Tokyo Medical and Dental University) *3

東京医科歯科大学生命倫理研究センター(Bioethics Research Center, Tokyo Medical and Dental University)

2005年6月20日受付 2006年3月18日採用

羊水検査を受けることについての女性の価値体系

Women’s value system about doing amniocentesis

小 笹 由 香(Yuka OZASA)

*1, 3

松 岡   恵(Megumi MATSUOKA)

*2 抄  録 目 的  羊水検査を受ける女性の意思決定に影響を及ぼした価値判断とその根底にある価値体系(慣例規範・ 維持欲求,期待規範・適応欲求,統合規範・調和欲求の3段階)を明らかにすることを目的とした。 対象と方法  対象は,羊水検査の結果に異常がなかった女性16名で,研究デザインはインタビューガイドに基づ く半構成面接による,質的後方視的記述研究とした。 結 果  義兄がダウン症であるもの以外の15名は,35歳以上であった。慣例規範・維持欲求の低次の段階を 優先していた者は16名中12名だった。慣例規範は,精神的に弱く,高齢のため一生介護責任は持てず, 障害児の養育は困難というもので,維持欲求は安定した生活の維持というものだった。夫婦の慣例規範・ 維持欲求の相違がある場合は,夫の期待に応え,受け入れられるという期待規範・適応欲求が得られず, 心理的葛藤が起こっていた。また,羊水検査の受否を決めた,同じ立場の女性が,何を悩み,どう判断 したかを知ることにより,自分の決定した行動を正当化し,心に調和を感じていたいという,統合規範・ 調和欲求があった。 結 論  羊水検査を受けることについての価値体系には,慣例規範・維持欲求,期待規範・適応欲求,統合規 範・調和欲求の3段階があった。本研究の対象の多くは,十分に考慮できずに低次の慣例規範・維持欲 求を優先させ,検査を受ける価値について判断していた。 キーワード:出生前診断,羊水検査,遺伝カウンセリング,価値体系,意思決定 Abstract Purpose

The purpose of this study is to explain women’s value system which was consisted of three stages (Customary standard and Maintainable want, Hopeful standard and Adaptable want, Unific standard and Agreeable want) about having amniocentesis.

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Method

1) Sample: They were sixteen women who had a choice to do amniocentesis and had heard the results without any chromosome abnormality and in normal pregnancy.

2) Design: The design was qualitative, retrospective description with semi-structured interviews and had gathered information from chart with their consent.

Results

Except one whose brother-in-law had Down’s syndrome ,they were over 35 years old. There were twelve women who had decided to do amniocentesis in a low stage of their value system; Usual standard and Maintainable want. The contents of Usual standard were their mental weakness and physical limits to think about having a handi-capped baby. Maintainable want was to keep stable present life like now. The difference between wife and husband’s Usual standard and Maintainable want had caused trouble in women without Hopeful standard and Adaptable want, because they could not get husband’s agreement. On the other hand, there are Unific standard and Agreeable want which women had wish to know about reasons doing amniocentesis like them or not. And they had expected to jus-tify their choice and to feel at ease.

Conclusion

Women’s value system about having amniocentesis were three stages of Standards and Wants. They were Cus-tomary standard and Maintainable want, Hopeful standard and Adaptable want, Unific standard and Agreeable want. Many women as samples in this research had priority over Usual standard and Maintainable want; a low stage of their value system. It means their choice to do amniocentesis were not with well thoughts.

Key Words: Prenatal diagnosis, Amniocentesis, Genetic counseling, make up women’s mind

.緒   言

 近年,胎児の遺伝性疾患や染色体異常等を診断す る目的で,出生前検査が普及している。しかしこれに は,胎児の障害を理由とした命の選別などの倫理的・ 法的・社会的問題(Rosenberg, 1994/1996;玉井邦夫, 1998;松田一郎, 1998)や,検出できる疾患,予後の 予測など検査精度上の問題など(佐藤孝道, 1999;玉 井真理子, 2000)様々な点が指摘されている。これに 対し,出生前検査にまつわる遺伝カウンセリングの重 要性を示唆する勧告(厚生科学審議会, 1999;日本人 類遺伝学会, 1994;WHO, 1998/1998;ISONG, 1995) が出され,対策が急がれている。しかし出生前検査を 受ける状況にある女性の現状も十分に明らかとされて いない(中込さと子ら, 2000)。胎児を選択することに つながる出生前検査の中でも羊水検査は,検査時期に は腹部が増大し,胎動が感じられるなど,中絶する場 合における精神面での負荷が大きい。そこで本研究は 羊水検査を受ける女性に生じる,考え,悩み,優先事 項,葛藤を把握し,その価値体系を明らかにすること を目的とする。

.概念枠組み

 個人の意思決定についての方法論を吟味した結果, 本研究における目的にそのまま適応するものは見当た らなかった。そこで,社会の意思決定システムを解明 する,見田(1970)や宮本(1996a)による概念枠組みを, 羊水検査を受けるという女性個人の意思決定に適応す ることを試み,図1の概念枠組みを作成した。ここで 見田,宮本による社会の意思決定には,価値と知識に 関する2つの体系があることを参考にして,「羊水検査 を受けると決定」する個人の意思決定の過程にも2つ の体系を設定した。  価値体系には,どうすべきかの基準である「規範」 とどうしたいかの基準である「欲求」を折り合わせて いく3段階がある。そして,それぞれの欲求・規範の 段階は,マズローにおける欲求階層を参考に作成され ており,低次から高次に進んでいく。人間の成長に伴っ て洗練され,同時に欲求に適応するような規範も進む ということを意味している。3段階のそれぞれは,今 までの慣例を守るべき(慣例規範),安定した今まで の生活を維持したい(維持欲求)という低次の段階か ら,夫や家族・周囲の期待に応えるべき(期待規範), それらに受け入れられ適応したい(適応欲求)と進み, 考えと行動が首尾一貫しているべき(統合規範),心 に調和を感じていたい(調和欲求)という高次の段階 に至り,検査がもたらす望ましい価値についての判断 (価値判断)をすることに該当すると考えた。  知識体系では,羊水検査によって明らかになるデー タを理解(知識表現)し,検査の結果により,妊娠を 継続するか否かなどの状況も含めて現状を把握(知識

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利用)し,羊水検査によってもたらされる利点・欠点 に対して情報収集(知識獲得)し,検査がもたらす事 実についての判断(事実判断)をするとした。  これら知識体系に基づく事実判断に,価値体系に基 づく価値判断を加えることによって,人間は意思決定 を下すことができると考えた。  なお,本研究においては羊水検査を受けた女性の意 思決定の中でも,価値体系について着目し,図1の枠 組みに沿って解明することを試みた。また,それらに 影響する背景因子として,年齢,妊娠・分娩既往歴及 びそれにまつわる産婦人科受診歴,過去や現在の障害 児との接触経験とその内容,関わった間柄などに注目 した。

.研 究 方 法

1.対象  総合病院1施設,大学附属病院2施設において,羊 水検査を受け,検査結果に異常がなく,面接時に産科 的な異常がない妊娠中の女性16名とした。 2.方法  インタビューガイドに基づく半構成面接法と,カル テからの情報収集を組み合わせた,後方視的記述研究 とした。面接内容は,羊水検査を受けるに至った経緯・ 事柄(検査を知った時期・内容・情報源,相談者の有 無・内容,迷い・悩み,夫や家族の意見・相違,結果 での対処など),検査結果等の認知,障害児との接触 経験などとした。基礎情報としては,年齢,家族構成, 婚姻関係,職歴,羊水検査受検歴,不妊治療歴,既往 妊娠・分娩歴,遺伝性疾患・染色体異常に関わる家族 歴とした。面接所要時間は1時間とし,場所は,対象 者との相談の上,プライバシーが保たれる自宅又は外 来の一室等とした。本調査の前に,2例の予備調査を 実施し,インタビューガイドの修正を行い,面接技法 の指導を受けた。面接依頼手順は,担当医により羊水 検査の結果が説明され,その後に担当医が研究者を対 象に紹介し,研究者自身が文書及び口頭にて研究の主 旨を説明した。その上で,研究への協力を依頼し,対 象からの承諾を得た。また,面接前にカルテより基本 情報を収集することについても併せて同意を得た。 低次 高次 意思決定 羊水検査を受けると決定 事実判断 検査がもたらす 事実についての判断 価値判断 検査による 望ましい価値についての判断 知識 表現 検査によって明らかになる データの理解 知識 利用 検査結果後の状況も 含めた現状把握 知識 獲得 検査がもたらす利点・ 欠点に対しての情報収集 知識体系 価値体系 規範 欲求 慣例 今までの慣例を 守るべき 維持 安定した今までの 生活を維持したい 期待 夫や家族・周囲の 期待に応えるべき 適応 夫や家族・周囲に 受け入れられ, 適応したい 統合 考えと行動が首尾 一貫しているべき 調和 心に調和を 感じていたい 注:本研究においては,黒枠内の 価値体系のみ注目 図1 本研究における概念枠組み

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3.調査期間  調査機関は2001年7月から2001年9月で,面接回数 は各女性につき1回であった。 4.倫理的配慮  研究計画書は,研究実施施設に提出し,研究内容・ 面接内容・方法などについて承認され,その上で研究 を行った。  また,以下の項目について説明し,対象の同意を得 た。ⅰ:面接内容は,細部にわたり正確なデータとす るため,テープにて録音すること,ⅱ:面接終了後速 やかに内容をテープから起こし,言語化した後は内容 を廃棄すること,ⅲ:言語化したデータは,氏名など, 個人が特定化されないよう番号で管理し,匿名性を厳 守すること,ⅳ:研究協力に一旦は同意した後,面接 の中断・中止は自由であると保証すること,ⅴ:それ により,今後の当該施設での診療を受けることなどに 不利益が生じないこと。  また,診療への影響など問題が生じた際に備え,担 当医師などと連携し,サポート体制を整えておくこと とした。 5.分析方法  全員の面接内容を,録音したテープから逐語録に全 て起こし,各ケースにおける事実および語られた内容 を時系列に羅列した。次に,それぞれの基礎情報を加 味し,発言内容を規範的な言葉,欲求的な言葉に分け, 価値体系の3段階における規範・欲求(慣例規範・維 持欲求,期待規範・適応欲求,統合規範・調和欲求) としてまとめた。さらに,羊水検査を受けると決める に当たり,各ケースが語った内容から,検査を受ける ことに一番大きく影響したと考えられる段階を優先さ れた段階として明らかにし,自己の規範や欲求の中で の葛藤や,また,夫・家族・周囲の意見との相違など による,期待規範・適応欲求の中でおこる心理的な対 立についてなど抽出し,ケースにおける個別的な内容 と他のケースと共通する内容の特徴を明らかにした。 なお分析にあたっては,母性看護学領域専門家および, 社会学的見地からの専門家のスーパーヴィジョンを受 けた。

.結   果

1.対象の背景  3施設において計21名に依頼した結果,切迫早産に よる入院で対象外となったものが1名のほか,承諾の 得られなかったものが4名だった。その理由について は,仕事が多忙で時間が取れない(3名),染色体異常 児の養育中で,気持ちの整理がつけられない(1名)だっ た。最終的に承諾が得られた女性は16名(33∼44歳)で, 義兄がダウン症であるという1名(ケースe)以外は全 て35歳以上だった。羊水検査の実施週数は妊娠14∼ 17週,検査結果の説明は妊娠17∼20週だった。その 他の対象背景は表1に示すとおりであった。 2.各段階における規範・欲求  羊水検査を受け,結果がわかることについて, 「そうすれば改めて妊娠生活のスタートだと考えられ る」,「年齢や数字でのデータで不安が増したけれど, その不安は解消できるし」「色々ある不安の中で1つは 解消できる」 などと,1名をのぞいて肯定的な意見を述べていた。  その理由として,過去の経験や知識に基づくダウン 症に対する認識や,ケアする施設・システムの不十分 さを挙げ,海外でのスクリーニングテストの普及から, 羊水検査を受ける権利があると考えていた。検査に伴 う流産のリスクについては,数値よりも担当する医師 個人および技術への信頼し,もし流産した場合には, 胎児の運命であるという納得をしていた。 表1 対象背景 ケース ID 初経別 羊水検査受 検 歴 流 産既往歴 不 妊治療歴 今 回 妊 娠 に お け る 血 清 マーカー検査 a 初 b 経 c 経 d 初 ● ●トリプル e 経 ● f 初 g 初 h 経 ●ダブル i 経 ● ●ダブル j 経 ● k 経 ● l 初 ●中絶 m 経 ● n 経 o 初 p 初 ● ●

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1 )慣例規範と維持欲求(図2) 「赤ちゃんの生命を障害があるからって選別しちゃい けないですよね」,「私が高齢だから,もし子どもに障 害があったら,一生介護し続ける責任が持てないで すよね。だからそういう子は諦めるべきなんじゃな いでしょうか」,「普通の子でも育てるのは大変なんだ から,ましてや障害がある子どもなら,その親はよ ほど精神的に強くないといけないですよね」,「障害が ある子どもって,生まれてきて幸せだと自分は思え るのかしら。そういう風にわかる子どもじゃないと いけないですよね」 などの言葉から,慣例を守るべきとする慣例規範が挙 がった。慣例は,本来一方向性であるはずだが, 胎 児の生命を障害により選別すべきではない に対して, 高齢のため,子どもを一生介護し続ける責任が持て ないため,あきらめるべきである 障害児の親は強 い精神力をもっているべきである 生まれてきて幸 せだと理解できる子どもを生むべきである という2 胎児の命を障害により選別すべきではない ・高齢のため一生介護する責任を持てないなら  諦めるべき ・障害児の親は強い精神力を持っているべき ・生まれてきて幸せだと理解できる子どもを生むべき 慣例規範 維持欲求 検査で流産しないで妊娠継続したい ・子どもが生まれても今まで通りの生活がしたい ・普通の子どもが持ちたい ・安心してこれからの妊娠生活を送りたい ・これからの人生に希望を持ちたい ・一緒に子育てをする夫や家族の意見には添うべき ・ケアをする立場の職業人として,障害児を  受け入れるべきという周りの目に応えるべき ・障害児のことを知っている専門家や  養育経験のある人からの助言は聞くべき 期待規範 統合規範 自分が羊水検査を受けたのは正当な行動だと, 他人に説明できるべき ・障害児を育てることに関しては,  限られた情報での選択であったとされるべき ・検査を受けるというのは個人的な事項だと  考えられるべき ・夫・家族の意見に同意して  受け入れられたい ・周囲の意見と同調することで  周りに認めてもらいたい ・同じような他の女性とこの経験を共有して,  自分だけではないと安心したい ・他人から検査を受けたことを  非難されたくないので話したくない ・障害児を産むという,苦労するようなことから  自分を守りたい 適応欲求 胎児の障害を理由にした中絶をして 自分を責めたくない 調和欲求 図2 各段階の規範・欲求の内容

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種類の相反する内容であった。  また, 「仕事や毎日の暮らしなど,今まで通りの生活を子ど もが生まれても続けたいですよね」,「そのためには普 通の,健康な子どもが欲しいです」,「羊水検査を受け て,何もないとわかって,安心してこれから(妊娠生 活を)過ごしたいです」,「健康な赤ちゃんが生まれて くるって,これからの人生に希望が持てますよね」, 「羊水検査のために流産したくないです。この妊娠が 続いて欲しいなあ」 などの言葉から,安定した生活が欲しいとする維持欲 求が挙がった。維持したいこととしては, 子どもが 生まれても今まで通りの生活がしたい 普通の子ど もを持ちたい 安心してこれからの妊娠生活をおく りたい これからの人生に希望を持ちたい 検査で 流産せず,妊娠を継続したい という内容であった。 2 )期待規範と適応欲求(図2) 「夫は一緒に子育てをするので,その意見は大事です よね」「自分はそういうお子さんをケアする立場(養護 学校教員・看護師)なので,周りの人の意見とかと同 じでないとね」「お医者さんとか看護師さんとか,やっ ぱり障害児がいる現場にいて,知ってるから受けた 方がいいよってアドバイスくれるし」「障害児とか育 ててる人から聞いて,やっぱり大変だからって勧め てくれる」 という言葉が,夫や家族・周囲の期待に応えるべきと いう期待規範として挙がった。期待としては 一緒に 子育てをする夫や家族の意見には沿うべきである ケアをする立場の職業人として,障害児を受け入れる べきという周りの目に応えるべきである 障害児の ことを知っている専門家や養育経験のある人からの助 言は聞くべきである という内容であった。また, 「夫・両親・親戚が色々意見を言ってくるので,今後 の人間関係を考えて,そうしておきたいなあ」「職場 や周囲の人,友人の考えを聞いて,やっぱり同じよ うにしておかないと,みんなに認めてもらえない」 という言葉が夫や家族・周囲に受け入れられ,適応し たいという適応欲求として挙がった。適応としては, 夫・家族の意見に同意して受け入れられたい 周 囲の意見と同調することで周りに認めてもらいたい という内容であった。  期待規範の中で,妊婦健診時や知り合いなどの周囲 にいる医療者(産科・小児科医師,看護師)の助言を 求めたものは16名中11名いた。それらは,医療者は 障害児のいる現場に関わりが深いと考えており,従っ て検査を受けることを勧めるという医療者からの助言 には従うべきであるという期待規範にもつながってい た。 3 )統合規範と調和欲求(図2) 「他の人が,羊水検査を受けた私の事情はもっとも だって,思ってくれるように説明できるかしら」「障 害児を育てる情報は限られているし,そういう状態 で羊水検査を受けるという選択をしたんだから,仕 方ないですよね」「やっぱりこの検査って,赤ちゃん の命の選別ですよね。こういうのって,個人的なこ となので,誰かに言うことではないですよね」 という言葉が,考えと行動が首尾一貫しているべきと いう統合規範としてあがった。統合としては, 自分 が羊水検査を受けたのは正当な行動だと,他人に説明 できるべきである 障害児を育てることに関しては, 限られた情報での選択であったとされるべきである 検査を受けるというのは個人的な事項だと考えられ るべきである という内容であった。 また, 「自分と同じような立場で悩んだ女性がいたら,その 気持ちを聞いて,自分だけが悩んだり検査を受けた んじゃないと思えますよね。」「いろいろ悩んでのこ となんだから,検査を受けたことを周りからいろい ろ言われたくないですよね」「ダウン症の子供を産む かも,そして苦労するかもしれないですよね。でも, だからそういうことからは自分を守りたいんです」 「もしも結果で何かあったら,中絶するかもしれませ ん。そうしたら,あとで自分を責めるでしょうね」 という言葉が心に調和を感じていたいという調和欲求 としてあがった。調和としては, 同じような他の女 性とこの経験を共有して,自分だけではないと安心し たい 他人から検査を受けたことを非難されたくな いので話したくない 障害児を産むという,苦労す るようなことから自分を守りたい 胎児の障害を理 由にした中絶をして,自分を責めたくない という内 容であった。  今回の対象者では,検査を受けることについて相談 した人以外には,全員結果がわかるまで妊娠を告げず, 気づかれないように努力し,統合規範を保っていた。 それは,命の選別をする検査で,倫理上問題があるこ とを十分に認識し,また,検査を受けたことに他人に

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納得のいく説明が出来ないという,調和欲求を満たせ ないためであった。 3.規範・欲求の中での心理的対立  検査の結果で異常所見が出た場合,中絶すると決め て検査を受けたものは11名だった。他の5名のうち, 1名は,結果が出てから考えるとして検査を受けてお り,他の4名は夫婦の意見の相違から,結果によって どうするか結論が出ないまま検査に至っていた。  最終的に検査を受けるに当たり優先された規範・欲 求の段階は,慣例規範・維持欲求の低次の段階が16 名中12名と非常に多く,期待規範・適応欲求の段階 が1名,統合規範・調和欲求の段階が3名であった。 1 )夫の意見による影響 「自分は高齢なので,障害児の一生を介護をすること は出来ないし,精神的にも自分は弱いため,障害児 は養育していけない」という慣例規範と,「今までの安 定した生活を維持したい,そのためには普通の子供 であって欲しい」 という維持欲求が夫婦で一致した5名は,夫からの期 待規範・適応欲求も満たされていたため,夫婦の意見 調整が必要であるなどの葛藤は生じなかった。一方, 夫婦の意見に相違が見られたのは,主に慣例規範をめ ぐってであった。今まで通りの生活をしたいという維 持欲求と,その支えになる慣例規範を持っていた5名 は,子供の養育責任は自分にあると,自らの意向を通 していた。このうち1名以外は,検査に伴う流産のリ スクと,異常所見による中絶の決定など,全て自己責 任と受けとめ,最終的には夫が同意し,それにより期 待規範・適応欲求も満たされていた。しかし他の1名 は,前回妊娠時には障害による命の選別をすべきでは ないという慣例規範を持ち,夫婦で一致していたが, 今回は第一子への負担という面で,今までの生活を変 えたくないという維持欲求へと,意見が変化した。従っ て,最終的には夫の同意がなかったため,周囲からの 支持が得られても,夫に対する期待規範・適応欲求は 得られず,異常所見による中絶について結論が出せな いまま検査を受けると決め,葛藤が生じていた。夫が, 今まで通りの生活をしたいという維持欲求と,その支 えになる慣例規範を強く主張していた2名は,それに 反対して障害児を養育するとなると,夫からの協力が 得られず,自分だけが子供に縛られると考え,最終的 には夫の意見に同意していた。それにより,夫からの 期待規範・適応欲求を満たしていた。 2 )優先された規範・欲求の実際(ケースb,m,p)  ケースbでは,自己の規範・欲求内での心理的対立 はなく,また,相談した相手は夫のみで,夫婦の意見 は一致し,周囲には妊娠すら告げないなど徹底してい たため,葛藤は生じていなかった。最終的に「障害児 を介護し続けるには,精神的な強さが必要だけれど, 自分には無理だし」という慣例規範,「これから色々と 自分の人生設計したいし,そのためには普通の子ども が欲しい」という維持欲求が優先された(図3)。  しかし,ケースmでは,元来障害による命の選別 はすべきではないと考えていた。しかし,夫・両親・ 周囲の人からは,検査を支持する意見しか得られず, 検査の結果が異常所見であった場合の結論は出せずに, 検査を受けていた。ダウン症児の養育は可能と感じな がらも,夫・両親・友人の意見に従い,期待規範・適 応欲求から検査を受けると決めており,自己の統合規 範・調和欲求との矛盾が生じていた。そのため,同じ 立場の女性の悩みを知り,誰かに相談する機会を持ち, 統合規範・調和欲求を満たしたいと望んでいた。  最終的には「前回35歳以上で妊娠した時には検査を 勧められなかったけれど,その同じ医師から今回は 勧められたので,受けるべきかなあと」という期待規 範,「夫も両親も友人もみんな検査受けた方がいいっ て,受けなくていいんじゃない?って言う人は誰もい なかったから,やっぱりそうした方がいいのかなあっ て」という適応欲求が優先された(図4)。  ケースpは,幼少時にダウン症児と友人であり,羊 水検査を受けることが,胎児の障害により命の選別を する行為と成りうるため,自己の慣例規範の中で,心 理的な対立が生じていた。また,不妊治療による妊娠 で,過去2回流産の既往があるため,流産のリスクの ある検査を受けることと,妊娠の継続という維持欲求 の中でも対立していた。また,夫は流産のリスクに注 目し,そうなった場合の妻の精神面を考慮していたが, 最終的な決断は妻に任せていた。従って,結果が異常 所見であった場合について結論が出せないまま,検査 を受けていた。これらの過程をふみ,結果的には「海 外では羊水検査を受けることは人間として当然の権利 であるし,個人的なこととして決めるべきですよね」 という統合規範,「誰からも検査を受けたことを非難 や批判,意見されたくないです。でも小さい頃ダウン 症のお友達がいたので,みんなに偽善者と思われたく ないです」という調和欲求を優先していた(図5)。  

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.考   察

 羊水検査を受けるに当たり考慮された価値体系では, 女性は今までの経験の中で培った,自らの規範や欲求 に照らし合わせ,周囲の規範や欲求との折り合いをつ け,選択肢を吟味していた。 1.慣例規範・維持欲求の背景  人間は成長に従い,より高度な欲求構造を持ち,意 思決定していくとされる(宮本, 1996b)。従って成熟 した価値体系の持主は,統合規範・調和欲求という高 次の段階で価値判断すると推測できる。しかし,本研 究の16名のうち12名は,慣例規範・維持欲求という 低次の段階を優先し,検査を受けることの価値を決め ていた。この行動は,十分な考慮による判断ではなく, 慣例に従った行動である(Michiel. S. Smith, 1999)こ とを意味している。対象の背景を見てみると,多くは 幼少時から現在に至るまで,ダウン症児と直接接触し 慣例規範 介護し続ける精神的強さがない 障害児の育児は無理 期待規範 医師から必要ないと言われず, 夫も自分と同じ意見 統合規範 育てる自分が決めていいはず 医療を受ける権利である 維持欲求 これからの人生設計ができるよう 普通の子どもが欲しい 適応欲求 結果によって中絶する予定なので 他人には妊娠知らせず 維持欲求 ダウン症で中絶したと 非難されたくない 図3 慣例規範・維持欲求を優先したケースbの価値体系 慣例規範 ダウン症によって胎児の命の 選別はすべきでない 期待規範 同じ医師により,前回は35歳 以上でも勧められず,今回は 勧められたので従うべき 統合規範 検査による命の選別は 正当だと説明できず, 受けるべきではない 維持欲求 障害児でも何とか育てられるので 妊娠を継続したい 適応欲求 検査を勧める夫・両親・友人など 周囲の人に受け入れられたい 調和欲求 苦しい気持ちを分かち合いたい 中絶して自分を責めたくない 夫の協力なしで,障害児を育てる ような苦しいことはしたくない 図4 期待規範・適応欲求を優先したケースmの価値体系

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た経験が乏しく,本やインターネットでの情報や,知 り合いなどの障害児全般の養育体験など,それぞれの 障害の断片的なイメージを全てつなぎ合わせ,ダウン 症の認識としていた。この知識を修正することなく妊 娠して,いきなり羊水検査について考える根拠とする ような状況におかれていた。したがって,今までのよ うな産科・小児科外来等での,妊婦を対象にした,ダ ウン症の子供達の療育や将来についての情報提供だけ では,女性が羊水検査を考慮するには不十分であると 示唆された。 2.期待規範・適応欲求への影響  検査を受けることを相談した中で,養育に対する心 身面での協力,経済的基盤という観点から,夫の意見 は重要視されていた。これは安藤(1994)と同様の結 果であった。検査を受けることに関して,夫と意見の 相違があった場合には,多くは慣例規範・維持欲求に ついてであったが,自ら納得して夫に合わせるか,自 分の意向に全面的に責任を持つかという,二者択一 を迫られていた。夫婦の規範・欲求の決定的な相違は, ケースmのように,今後の生活に影響を及ぼすと推察 される。したがって意見調整などに看護的な関わりが 求められると考えられる。夫以外の相談相手には,両 親,親戚などの姻戚関係か,職場の同僚や友人などの, 身近な存在であった。一方,検査を受けることを相談 しなかった人には,今回の検査や妊娠について話さな いことで,非難や批判を受けないよう注意をしていた。 これはそれらの人々が職業上,障害児をケアする立場 であるなど,自分自身の社会的立場を重視した行動で あった。したがって,出生前検査についてはこうした 倫理的・法的・社会的問題がある(Lea, D.A, 2000)と いう事情をふまえ,本人・夫婦・家族の意見を尊重し, それぞれの権利を擁護する(Leahey. M, 1996)と同時 に,ダウン症についての知識や療育の実際についても, 慣例規範 幼少時に友人として育った ダウン症による,命の選別は すべきではない 期待規範 幼少時の友人の母が苦労したという 養育経験には傾聴すべき 不妊治療担当医師から流産リスク からの反対には従うべき 統合規範 海外では当然の権利であり, 受けるかどうかは 個人的なこととされるべき 維持欲求 自立できない子どもは持ちたくない 安心して妊娠生活をおくりたい 不妊治療による妊娠を継続したい 適応欲求 検査にともなう流産のリスクを心配する 夫には理解してもらい,検査に批判的な 周囲には何も話さず 受け入れられたい 調和欲求 誰からも 非難も批判も意見もされたくない 偽善者と思われたくない 図5 統合規範・調和欲求を優先したケースpの価値体系

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公平に社会全体に情報提供(安藤, 2000)する必要があ ると考えられる。  また,親族や身近な友人であっても,その人が医 療者であった場合には,その発言を「専門家からの勧 め」として捉えているという特徴が認められた。した がって,こうした女性に関わる医療者側は,障害に関 わる自己の価値体系を見つめ,認識し(LeaD. Jenkins, 1998),ケアを提供する自分の役割を理解(Anderson, 2000)することが必要である。 3.統合規範・調和欲求へのケア  本研究における全員が,羊水検査を受けることは, 胎児の障害を理由とした中絶につながり,それは倫理 的に問題であると認識していた。そのため,同じよう な立場の女性が,検査を受けるに当たって考えた経緯 を知ることで,心の調和をはかり,自分を保ちたいと いう欲求を持っている女性が多かった。これは,個人 的な問題でありながらも,羊水検査を受けると決める 自分に対し,周囲からの保証を求めていると考えられ る。「羊水検査の結果がダウン症で,中絶した気持ち は,同じような経験をした人じゃないとわからないか ら,同じような人と話すことで,苦しいことを分かち 合いたい」という発言もあるように,羊水検査の結果 で中絶を選択した女性達が匿名性を保証して語らい, 体験を共有する場を設ける(Joan O. Weiss, 1996/1999) ことは,統合規範・調和欲求を満たすという意味で有 効である。したがって,こうした同じ立場の女性たち による,ピアグループを作ることも検討していく必要 があろう。 4.羊水検査などを施行する専門機関と妊婦健診の連携  羊水検査を受ける際,遺伝外来など妊婦健診施設 と異なる専門機関に紹介されることは少なくない。こ れらの専門機関では,検査目的で紹介を受けるため, 簡単に意思を確認し,具体的な検査に対する説明(予 約・手順・方法・リスクなど)を行い,同意・承諾を 確認して検査を実施している。本研究では,そうし た状況下で,自己の中での相矛盾する考えや,夫婦の 意見の相違から生じる葛藤を抱えたまま,検査を受け ている女性がいることが明らかになった。また,妊娠 初期のため,健診頻度も少なく,羊水検査の説明を聞 き,受けることを決めるまでに,妊婦健診を受けたも のは全くいなかった。これは,検査を受けることを決 める際に生じる,心理的葛藤を抱えていた時期に,物 理的にも相談する機会を持っていなかったことを意味 する。妊婦健診施設では,女性のこうした葛藤が生じ た原因について情報収集し,検査実施施設では,再度 意思を確認する際,その情報を元に,葛藤に向き合う 必要がある。検査の持つ利点・欠点を個人として見極 め,適時に対応(Grant. S, 2000)するためには,両施 設の連携により,継続的な関わりを持つことが重要で ある。その関わりは単に検査の決定だけに関してでは なく,結果の説明やその後の妊娠生活も含め,検査を 受けたことに対する心理的葛藤が生じた原因について フォローするということである。しかしこれまでの看 護教育では,こうした検査を受けることに関わる心理 的葛藤などに,十分に対応しきれないため (溝口満子 ら, 2000),今後の課題と認識しなければならない。

Ⅵ.本研究の限界

 本研究は,羊水検査を実施する専門施設で,出生前 検査についての説明を受けた,限られた対象であるた め,今後は対象を広げ,さらに研究的追求が必要である。

.結   論

1 .「羊水検査を受ける」という意思決定における価値 体系には,慣例を守るべきという慣例規範,安定し た生活欲しいという維持欲求,夫・家族・周囲の期 待に添うべきという期待規範,それらに受け入れら れたいという適応欲求,考え・行動の統合をはかる べきとの統合規範,心の調和を得たいという調和欲 求の3段階からなる規範・欲求が確かめられた。 2 .規範・欲求の3段階は,次のものであることが明 らかになった。 慣例規範:【障害による命の選別はすべきではない】 【生涯介護する責任を持つべき】【強い精神力を持つ べき】【幸せだと理解できる子どもであるべき】 維持欲求:【今までどおりの生活がしたい】【普通の子 どもが欲しい】【安定した妊娠生活を送りたい】【今 後の人生への希望を持ちたい】【妊娠を継続したい】 期待規範:【職業人としての期待に沿うべき】【養育経 験談に傾聴すべき】【専門家などの助言に従うべき】 適応欲求:【夫・両親・親戚へ受け入れられたい】【職 場・周囲・友人から受け入れられたい】 統合規範:【正当な行動だと説明できるべき】【個人的 な事項だとされるべき】【限定された情報下での選

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択だとされるべき】 調和欲求:【同様の経験を共有することで安心したい】 【他人から非難されたくない】【障害児を生むことから 自分を守りたい】【中絶して自責感を持ちたくない】 3 .多くの対象では,最終的に検査を受けるに当たり 優先された規範・欲求の段階は,慣例規範・維持欲 求の低次の段階が優先されていた。 謝 辞  本研究にご協力いただきました女性の皆様,データ収集 にご協力いただきました対象施設のスタッフの皆様に心よ り感謝致します。  なお,本研究の一部は第16回日本助産学会学術集会に て発表し,東京医科歯科大学大学院博士前期課程論文とし てまとめたものに加筆修正したものである。 文 献

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参照

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