資 料
日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 21, No. 2, 77-86, 2007
*日本赤十字看護大学大学院(Japanese Red Cross College of Nursing Graduated School)
2007年7月4日受付 2007年12月10日採用
双子を持つ母親の退院後1か月間の育児体験
Child care experience of twins mother’s
during one month after discharge
藤 井 美穂子(Mihoko FUJII)
* 抄 録 目 的 双子を持つ母親の退院後1か月間の育児体験を明らかにする 対象および方法 研究対象は,平成17年6月下旬から7月上旬にA病院で双子を出産し,子どもが先天性奇形や疾患を 有さず子どもと一緒に退院し,研究参加協力が得られた退院後1か月を経過した母親4名である。 研究方法は,退院から1か月間の双子の育児を振り返ってもらい,印象的だった事象やその時に生じ た思いや体験について半構成的面接を行った。得られたデータを逐語録とし,事例ごとに文脈に沿って 内容を分析した。 結 果 研究参加者である母親は,乳腺炎等の突発的な出来事や2人が同時に泣く,時期をずらして交互に嘔 吐する等の双子特有の体験をしていた。経産婦は,前回の出産や育児と比較することで,授乳方法の違 いや体の不調を感じながら育児していた。 また,研究参加者である4名の母親から,病院退院後1か月の育児体験を通して肯定的・否定的な育 児への思いを反映する言動がみられた。 双子の母親は,2人の成長を実感することやそれに応じて直接母乳ができる体験等を通して肯定的な 思いを反映する言動がみられた。また,突発的な出来事など入院中に予測できなかった体験を通して, 「心配」「不安」等の思いを抱いていた。本研究の参加者は,2人が同時に泣くことにより,自分の時間 を作ることや児に対して十分に相手をすることができないことで「かわいそう」等の思いを抱いていた。 里帰り中の母親は,退院後1か月頃になると自宅へ帰った後の生活を考え,イメージできないことで否 定的な思いを反映する言動がみられた。 結 論 双子の母親が退院後1か月間に,2人の成長に気づき対応できる育児体験をしていることや,予想出来 なかった出来事やイメージできない育児に対し不安を抱いていることが明らかになった。家族を含めて 具体的な双子の生活がイメージできるような情報提供や助産師による入院中からの継続的な支援の必要 性が示唆された。 キーワード:双子,退院後1か月,育児体験To give an account of the child care experience of mothers with twins during the one month period after dis-charge.
Objective and Method
The research objective is four mothers that gave birth to twins at hospital A from late June 2005 to early July, that were released together with their children that didn't have congenital malformations or other disorders, and that could participate in research for a one month period after discharge.
The research method looked back on the child care of twins during a one month period after discharge, and consisted of a half structured interview regarding events that were impressionable and feelings and experiences that occurred at that time. Acquired data was recorded word by word, and information in line with the disposition of context was analyzed.
Results
Two of the research participant mothers suffered from unexpected occurrences such as mastitis (breast in-flammation), and were experiencing the characteristics of twins such as crying at the same time and they vomiting at different times. The multipara were feeling the difference in breast feeding methods and their body conditions felt bad in comparison to the prior births and childcare.
Also, the four research participant mothers spoke of their child care experience during the one month period after discharge, and the words and actions that reflected their positive and negative feelings towards child care were monitored.
As for the mothers with twins, spoke about the experience of being able to breastfeed directly in accordance with the realization of the growth of two people, and the words and actions that reflected their positive and negative feelings were monitored. They spoke from their experiences of unexpected occurrences, etc. that they couldn't pre-dict while hospitalized, and their feelings such as "worry" and "anxiety." Of the participants in this research, they thought it was "a pity" because they couldn't make time for themselves or pay enough attention to the babies due to two people crying at the same time. During the homecoming, the mothers thought about their lives after returning home one month after discharge, and words and actions that reflected their positive and negative feelings of things that they couldn't imagine were monitored.
Conclusion
During the one month period after the discharge of the mothers with twins, the feelings were made clear con-cerning child care experiences that could correspond to seeing the growth of two people, anxiety towards occur-rences that couldn't be predicted, and childcare that couldn't be imagined. Including the families, information provi-sions so that the twins specific lifestyle can be imagined and necessity of continuous assistance from the maternity nurses during hospitalization were both suggested.
Key Words : Twin, One month after discharge, Child care Experience
Ⅰ.は じ め に
不妊治療や周産期医学の進歩により双子の出産率は 漸増し,1990年ころより各地域で支援活動が行われて いる。1999年に「ふたごの育児」の小冊子配布や2000 年から双生児家庭育児支援事業が始まっているが,少 子化で育児の伝承が少なくなり,地域連帯の希薄と なった今日,双子の育児はかなりの困難が予想される。 双子の母親で妊娠中に不安があったものは96.1%で あり,出産後に子どもを育てられるか等の育児に対 する不安が単胎と比べ有意に高い(横山, 2002)。また, 出産後の母親は,双子の育児情報に関する直接的情報 を求めているが(大高他, 1998),多胎児の育児情報を 十分得られた人は少なく4∼6割は自分で判断して対 応し(矢野&小池, 2001),双子の育児に対する情報提 供の必要性が先行研究より示唆されている。実際に, 私が臨床で助産師として勤務していた時に,「この先 どうなるのか検討もつかない」と不安を抱えながら退 院する双子の母親と出会い,実際の双子の母親はどの ように育児を行っているのだろうかと疑問を抱き,双 子の母親の育児の実像を明らかにしたいと考えた。 また,退院後から1か月頃までは母親が育児に対し 最も不安が大きい時期であり育児不安に関する様々 な研究が行われている(都築&金川, 2002;川井他, 1994)。双子を育児する母親にとっても,退院後1か 月は睡眠不足や疲労の蓄積により相当な困難を要し,双子を持つ母親の退院後1か月間の育児経験 助産師に対する援助を求めることが多い時期であると 予測する。 しかし,退院後1か月に焦点をあて,双子を育児す る母親がどのような育児体験をしているのかを明らか にした研究は少ない。 以上のことから,本研究では,退院後1か月の双子 をもつ母親が,日々の生活の中でどのような育児体験 をしているかを明らかにし,入院中の産婦や退院後の 継続した効果的な支援を検討する。
Ⅱ.研 究 目 的
双子を持つ母親の退院後1か月間の育児体験を明ら かにする。Ⅲ.用語の定義
育児体験:授乳・オムツ交換・沐浴・着替え・寝か しつけるなど日常の育児を通して,子どもや母親を取 り巻く人々との相互関係の中で出合う出来事やそれに 対する思い。Ⅳ.研 究 方 法
A.研究デザイン 事例検討による質的研究デザイン。 B.研究参加者 平成17年6月下旬から7月上旬にBFH(Baby Friend-ly Hospital)に認定されたているA病院で双子を出産 し,子どもが先天性奇形や疾患を有さず,子どもと一 緒に退院し研究参加協力が得られた母親4名。 C.データ収集期間 平成17年6月24日から8月24日。 D.データ収集方法 半構成的面接法 対象者が入院している研究施設に研究活動の依頼を 行い許可を得た後に,対象に研究参加協力を依頼した。 研究参加の承諾が得られた後,体験した事象に対する 思いを語ってもらいやすい関係性を形成する目的で出 産後入院中よりコミュニケーションを図った。デー タ収集は,子どもの1か月健診もしくは産褥健診来院 時にプライバシーが配慮できる小児診察室の一室で 半構成的な面接により行った。面接では,退院後から 1か月までの育児に関するエピソードやその時の思い を「一番心にのこっていることは何ですか?」等の質 問をし,研究参加者の同意を得てテープに録音をした。 面接回数は各1回としたが,事例Aについては,本人 の都合により退院後2週間及び退院後7週間の2回にわ たり,面接した。面接時間は一人あたり,52分∼72分 (平均62分)となった。また,研究参加者の許可を得て, 診療録,母子健康手帳から,母親の出産後の経過や児 の発育等の情報を得た。 E.分析方法 逐語録を繰り返し読み,その内容を理解し,その中 で育児体験を表す文脈を抽出し,研究参加者ごとに経 時的にまとめた。次に,研究参加者に共通する文脈を 基にテーマをつけて整理して記述した。データの信頼 性について,本研究の参加者は育児で忙しい母親であ るため,逐語録の全てを確認してもらうことはしな かったが,研究者が記述する上でわかりづらい内容は 確認した。分析過程は,定期的に母性看護・助産分野 の専門の研究指導者の指導を受け妥当性を高めた。 F.倫理的配慮 研究参加者となる母親の入院する病院の看護管理者 に研究の主旨を口頭と文書で説明し,承諾を得た後に, 母親が入院している病棟の看護スタッフに対して研究 の主旨を説明し,研究対象の条件を満たす母親を選出 していただいた。 母親に,助産師であり研究者としての立場を明らか にした上で,対象の産褥入院中に研究の目的や方法, 約束事項を文書および口頭で説明し,研究参加者の意 思を確認する。得られたデータは研究目的以外には使 用しないこと,個人情報の保護について,研究参加の 任意性と途中辞退が可能であること,研究協力を辞退 しても母子が不利益を受けることがないことを伝える。 対象の了解を得てテープの録音を行う。研究が終了し た時点でテープや逐語録や研究参加者の情報は破棄す る。Ⅴ.結 果
A.対象の背景(表1参照) 本研究の参加者4名の年齢は,33歳から38歳(平均 35.2歳)であった。初産婦(A氏・B氏)と経産婦(C氏・D氏)が2名ずつであり,妊娠中に全員が管理入院を 体験していた。分娩時週数は,妊娠35週から37週で あり,子どもの体重は2242 gから2668 g(平均2446.7 g) で2組の双子(A氏・B氏)が低出生体重児にて3日か ら7日間未熟児室へ入院した。 B.各母親にみられた特徴的な育児体験 双子の母親たちは,退院後にそれぞれ異なる体験を し,いろいろな思いを抱きながら1か月を迎えていた。 その思いには母親ごとに特徴がみられた。 1.事例A 切迫早産にて妊娠10週から妊娠36週まで入院となっ たA氏は,出産後に退院してから1か月間は実家で過 ごしていた。退院後初めての授乳では,育児の準備が 十分でなかったために,哺乳瓶等の消毒準備やミルク の作り方もわからず,全てがわからない状態で大変な 思いを抱き,退院後約1週間は,実家の両親と共に育 児に振り回されていた。 A氏は「自然とそういう担当,まぁ父が周りの事を やってくれて母が育児の手助けしてくれて,私が主に やってる育児,そういう構図がいつの間にかできた」 と語り,何も言わなくても自然に実父母の協力が得ら れ,家族で支えあう構図ができ,育児のリズムを作っ ていった。そして,子どもがよく眠るようになり生活 のリズムが出来てきたことで,A氏が自分の時間を作 ることを考えられるようになっていた。しかしその一 方で,自分の都合で子どもを寝かしているのではない か,これで本当に育児と言えるのかという「微妙な気 持ち」を抱いていた。 退院後1週頃には,第1子の吸啜力が強くなり嘔吐 する機会が増え,吐物によって窒息しないかと心配 していた。その1週間後に第2子も同じように嘔吐し た。その後,「今まではトントンして起こしていたの 年 齢 30代 30代 30代 30代 出産回数 0回 0回 3回 1回 不妊治療 排卵誘発剤 体外受精 無 無 双子クラス受講 有 有 無 無 安静入院となった 妊娠週数 妊娠10週 妊娠28週 妊娠29週 妊娠34週 分娩時週数 妊娠36週 妊娠35週 妊娠36週 妊娠37週 分娩様式 帝王切開 第1子自然分娩 第2子吸引分娩 自然分娩 帝王切開 産後の経過 貧血有り。子宮内に血 腫有り自然吸収待つ。 順調 骨盤輪不安定症にて骨盤ベルト使用。 両乳頭に白斑有り。母乳分泌良好。 産後入院期間 14日間 10日間 9日間 9日間 里帰り予定期間 2か月 3か月 無 無(同居) 育児援助者 実父母 実父母 実母,夫 夫,実母 職 業 無 有 無 有 出生体重1児2児* 2240 g/2300 g 2350 g/2360 g 2570 g/2670 g 2500 g/2580 g アプガースコア 89点,89点 99点,99点 910点,910点 99点,910点 性 別 女/女 女/女 男/男 男/男 未熟児室入院期間 3日間/6日間 7日間/6日間 無 無 退院時体重* 2430 g/2430 g 2430 g/2460 g 2350 g/2520 g 2430 g/2460 g 退院時授乳方法 搾乳・混合 搾乳・混合 搾乳・混合 母乳 一か月健診時の 一日体重増加量 50 g以上/40 g以上 50 g以上/30 g以上 40 g以上/40 g以上 50 g以上/50 g以上 前回出産時の 授乳方法 ─ ─ ほとんど人工乳 ほとんど人工乳 *1の位を四捨五入して示した
双子を持つ母親の退院後1か月間の育児経験 が,ギャーギャー泣き出して一時間後とかに100(ml) も飲んでいるとかっていうのが,翌週違う子に同じこ とがおきてる……略……成長なんだろうなって確認で きる」と語り,哺乳欲求が高まり「ぐずる」等の同じ事 象を時期をずらして2回体験することで,客観的に「成 長」と捉えることができていた。 また,A氏は2児が同時に泣く時に,2児それぞれの 泣き方の特徴を見出して2児の「個性」を感じるととも に,2児を同時に抱きあやしてあげられないことに対 して罪悪感を抱き,どうしたらよいかを模索していた。 A氏は,退院後2週目に乳腺炎に罹患した。退院後 3週目には第2子が風邪で入院(5日間)し,翌日に第1 子が入院(3日間)する体験をした。この体験をする前 A氏は,2児を平等に育てたいという信念をもってい たが,2児が交互に入院することによりその信念を貫 くことができなかった。そして,生命を優先させてい くという自分の考えをもてるようになった。 退院後4週頃になると母親は,自宅へ帰った後のこ とを考え「恐怖」という思いを抱いていた。その一方で, 双子の育児は大変だが2児の違いや共通点を見出せる ために「おもしろい」という思いを抱いていた。 2.事例B 病院でやっていることを自宅で続けていけるかとい う不安を抱き退院したB氏は,退院後すぐに,子ども が同時に泣くという体験や第1子が直接母乳できず搾 乳に時間をとられ疲労し,気力と体力ともに大変な思 いを抱いていたが,実母の協力を得ながら乗り切って いた。退院後1∼2週間頃に,2児が哺乳瓶では飲まな いことや授乳後の嘔吐が起こり,排気が上手にできな いことを心配していた。しかし,哺乳瓶の乳首を変え ることでぐずりや嘔吐は改善し,2児の吸啜力の強さ を感じ,成長に対応しながら育児を行っていきたいと いう思いを抱いていた。その後,2児が直接母乳を飲 めるようになると,飲み方の違いを発見し,それぞれ の子どもに個性があり「おもしろい」と感じるように なっていた。夫の勧めにより同時授乳を体験し,2児 を両脇に抱えて母乳を飲ませていることで嬉しい気持 ちがあったが,有効的に飲ませるには,子どものペー スに応じた授乳方法がよいと思い,1人1人のリズムに 合わせて授乳を行うようになっていった。退院後3週 間目に,保健所の新生児訪問を利用し,保健師から「嘔 吐することはしょうがない」と言われ安心し,細かい 心配も聞いてもらえて気持ちが楽になっていた。 退院後3∼4週頃には,2児が夜泣きをするように なったが,泣き続ける2児に対して同時に対応できず, 生まれたばかりの時期に十分に相手をすることができ ないことで,子どもに対し「かわいそう」な思いを抱 いていた。また,寝不足や頭痛により,母親自身の体 力に自信がない時は,実父母に育児を任せて休息をと るという体験を通して,子どもに対する愛情が不足し ているのではないかと感じていた。退院後4週頃には, 「もっとおちつくかなって思ってました」と育児がイ メージと異なることで不安を高め,先が見えない育児 に対し心配していた。 3.事例C C氏は,前回出産時に果たせなかった母乳育児や体 質改善を今回はぜひ果たしたいという希望で,病院退 院後すぐに助産院へ3日間産褥入院した。助産院では, 辛かった恥骨痛も整体により消失し,吸着できなかっ た右の乳頭を初めて児が吸着する等の体験を通して, 嬉しい気持ちを持ちながら過ごしていた。 しかし,帰宅後は,予想以上に長引く貧血症状や腰 痛等の体調の悪さに驚きと不安を抱いていた。また, 入院中より,2児に同じ時間帯に同じ量を目安に授乳 した体験があり,「同じにしたい」という思いを持っ ていたが,退院後は,母乳をあげるタイミングが合わ ず,試行錯誤する体験をしていた。 病院退院後2週目以降に,「おっぱいが張ってなかっ たり,面倒くさかったらもうミルクでもいいやとか眠 かったらもう横になりながら,一緒に寝ちゃって1人 は立てかけて横になりながらでもいいやってそんな感 じでです」とC氏自身の体調を考慮して,児に哺乳瓶 を立てかけて一人飲みをさせたり,C氏が寝ながら授 乳するなどの新たな授乳への取り組み方を見出した。 子どものぐずる時間が長く,2児の欲求と自分の乳房 の状態のリズムが合わないことや排気のための観察す る時間もかかり,困っていた。腰痛や疲労に加え,貧 血症状が出現するなどの体調の悪化を感じたことで, 自分の体調を整えることの大切さを改めて感じ,授乳 を平等にしたいという思いから,子どもにどれだけ向 き合えるかという思いへと切り替え育児を行っていた。 退院後3週目頃に,2児が音をたてながら直接母乳を 飲めるようになったことで,ようやく2児に気に入っ てもらえるお乳になったと感じていた。また,子ども がモービルや母親の顔を見ていることに気づき,嬉し いという思いを抱いていた。同時授乳に関しては,児 が自分の手を持ってきて吸着を邪魔するために一人で 吸着させるのは難しく実際はできないと語った。新生
育児サポートに甘えられる時は甘えた方がいいと安堵 感を抱いた。 出産後1か月にC氏は,美容院に行った。「2か月間 とかメイクしてない,すごく嫌だった」とC氏は,化 粧することで自分を取り戻し,気持ちを引き締めてい た。一方で,無理をすると血性の悪露がでる等の症状 があるため,まだ本調子ではないことを自覚するとと もに,家族に余裕があると思わせることで,家族の協 力が得られにくくなるという思いがあり,わざと化粧 をしなかったり,活動量を考えながら育児を行ってい た。また,C氏は,妊娠中から夫が仕事を休み家事を 行うなど協力がみられ,退院後も上の子の育児面での 協力や双子のおむつ交換,授乳等の援助があった。1 か月健診で,夫に対し「気が利かない」と不満をもら した。「何で泣いてるのって聞いてきたり……中略 ……隣で泣いているのにわからないでいびきかいて寝 てるとか腹が立つ」と語り,母親をサポートする夫は, 母親と同じくらい育児のことをわかっていないと,母 親の気は休まらないという思いから夫への不満をつの らせていた。 4.事例D D氏は,入院中に時々同時授乳を行い自律授乳して いたが,自宅では,和室での授乳が中心となり体に負 担がかかるために同時授乳は行っていなかった。また, 第1子が女児だったことにより,男児の双子を育児す ることに対し不安を抱えて退院した。前回の授乳方法 がほとんど人工乳だったD氏は,退院後すぐに,近所 の人から,「男児は母乳だけでは絶対に足りない」と 言われ,自分でも吸着力の強さの違いを感じていた。 双子の2人目を授乳する際に母乳不足を感じていたD 氏は,人工乳を補充したい思いと母乳だけで育てたい という思いの間で葛藤していた。 D氏は,退院後3日目に乳腺炎になり,乳房マッサー ジを受けた。その後,ある助産師に「助産師は皆,母 乳だけで大丈夫と言うが,限界である」と訴えた。そ の助産師が悩みを受容し,人工乳の補充を否定しない 返答をしたところ,D氏は「気持ちが楽になった」と 言い,人工乳を買いに行った。しかし,出産後の入院 中に助産師が示した「ミルクなんて足さなくていいの よ」という言動が頭に強く残っていたことや,男児で あり免疫も弱い等を考えて母乳の利点があることを振 り返り,最後の育児なので母乳での育児をしたいと思 外来を受診した。「30後半で産んだ体力のなさ……中 略……出産後ってやっぱり怖いんだな」と語り,前回 の出産時と比較し,自分の体力のなさを実感し,出産 に対する怖さ等マイナスイメージを持った。また,2 児に与える母乳量の違いを感じるが,身体的苦痛によ り,「どうしようもない」という思いを抱き,混合栄 養となった。人工乳は量を確認し安心できるため,母 乳が出なかったら人工乳でもいいという思いを持ち, 気分は楽になっていった。解熱後に保健所の新生児 訪問を利用し,2児の体重は十分であると言われるが, 第1子と比較し2児の体重増加量が少なく,前回の授 乳方法での人工乳の補充量を思い出し,男児は母乳の みでは,やはり足りないという不安を抱き,人工乳の 補充量を増量していた。 退院後3週目頃より,子どもの反応やリズムがわか るようになっていった。「肉付きが違う,怖いものを 触るんじゃなくて,ひょっとこう抱っこできる」と語 り,身体的な成長からも子どもの扱いやすさを感じて いた。また,「こんなに自分の体(帝王切開で)切って るじゃないですか,それを見るとこんな傷まで作って 産んだんだってかわいさは違う」と語り,双子を貴重 な存在と認識し,帝王切開で出産した双子に対し,自 然分娩で出産した第1子よりもかわいさを強く感じて いた。退院後3週目以降は,児がぐずり泣きをして, 交互に起きて寝なくなる時間が長くなり,母親の睡眠 時間は減少するが,体が慣れてきており,眠らなくて も体が横になっているだけで,楽と感じるようになり, 自分の体調の回復も感じていった。 退院後4週目には,1か月健診時に子どもの体重増加 を確認し,自分自身が頑張ったという満足感や達成感 を抱いていた。夫は日中の育児の話を聞き「大変だっ たね」と共感する言動があり,育児をよくやってくれ ると語った。 C.肯定的な思いと否定的な思いを反映する言動と体 験 4名の母親は各々異なった体験により,肯定的な思 いと否定的な思いを反映する言動がみられた。 母親の「嬉しい」「楽しい」等の肯定的な思いを反映 する言動は,直接母乳を吸着できる(B・C氏),子ど もが見つめる(C氏),子どもの扱いやすさ(D氏)等, 双子の成長を感じることや直接母乳ができた時にみ
双子を持つ母親の退院後1か月間の育児経験 られた。また,保健師に話を聞いてもらうことで「安 心した」(B・C氏)や2児の違いを個性と捉えることで 「おもしろい」という肯定的な思いを反映する言動も みられた(A・B氏)。 例えば,A氏は,時期をずらして2児が授乳後に嘔 吐することを成長と捉えられるようになったこと,B 氏は,2児の哺乳瓶の乳首を児の吸啜力の変化に応じ て交換したこと,C氏は,子どもが音をたてて母乳を 飲むようになったこと,D氏は,1か月健診で体重増 加を確認したことで,肯定的な思いを反映する言動が みられた。 「心配」「大変」等の否定的な思いを反映する言動は, 授乳後の嘔吐(A・B)と子どもの入院(A氏),乳腺炎 (A・D氏),原因不明の発熱(D氏)等の予想外の突発 的な体験を通してみられた。 例えば,A氏は,授乳をするための準備ができてお らず,退院直後から大変だという思いを抱いていた。 B氏は,同時に泣かれるイメージを持たず退院し,自 宅に帰りすぐに双子が同時に泣くという体験を通し, 大変さを感じていた。C氏は,予想以上の体調の悪化 に不安を抱え,退院後は,母乳をあげるタイミングが 合わず,試行錯誤する体験をしていた。D氏は,入院 中に2児を同時に抱え授乳していたが,自宅では入院 中のように電動ベッドではなく,和室での授乳が中心 となり体に負担がかかり,大変だと感じていた。また, A氏とD氏は,乳腺炎に罹患するなど入院中に予測で きなかった体験を大変だと感じていた。研究参加者4 名は,入院中に予測していなかった体験をすることで 育児に対して大変という思いを抱いていた。 本研究の参加者は,2児が同時に泣くことにより, どうやって自分の時間を作るかを考えてしまい,自 分の都合で寝かせているのではないか(A氏)や子ど もに対して十分に相手をすることができないこと(B 氏)で「かわいそう」「愛情不足」等の思いを抱いていた。 退院後4週頃には,里帰りから自宅へ帰った後の生活 を考え,イメージできないことで「怖い」「心配」等の 思いを抱いていた(A・B氏)。また,経産婦の抱く「ど うしようもない」「不安」等の否定的な思いを反映する 言動は,前回(単胎)の出産や育児と比較し,授乳方 法の違い(D氏)や体の不調(C・D氏)等の体験を通し てみられた。
Ⅵ.考 察
前章では,退院後から1か月までの間でみられた, 事例ごとに特徴的な体験とその思いについて記述した。 これらの結果について本章では,1.育児に関する事象, 2.母親の身体に関する事象,3.家族のサポートに関 する事象の3点から考察する。その後,実践への示唆, 今後の課題について検討する。 A.退院後1か月までの育児体験 1 .育児に関する事象 本研究を通して,退院後1か月の双子の母親は,予 測していなかった事象の体験により「大変」「怖い」等 の否定的な思いを反映する言動がみられ,その体験の 克服と子どもの成長や授乳体験を通して「嬉しい」「楽 しい」等の肯定的思いを反映する言動がみられた。 初産婦であるA氏とB氏は,2児が同時に泣く体験 を通して,自分の時間を作ることや双子に十分に関わ れないことで「かわいそう」という思いや罪悪感を抱 いていた。母親は自分の体調より子どもを優先して育 児をするものであるという母親像を持ち,イメージと 実際の育児が異なることで,子どもを保護できない自 分に罪悪感を抱いていたのではないか。また,双子特 有の2児を平等に育児をしたいという思いは,子ども の入院や母親の体調の悪化等の体験を通し,双子の育 児が現実的なものになるにつれて少しずつ変化してい た。実際の育児とイメージしていた子育てとのギャッ プが,双子の育児の大変さを高めていたと考える。双 子の母親は,現実的な双子の子育てのイメージを持つ ことが必要である。 また,昆野他(2002)は「母乳栄養を確立できるかど うかは,母親の大きな関心ごとであると共に,これは 母性のアイデンティティの再構築に影響を与えるだろ う」と述べている。本研究においても,授乳体験の成 功により,肯定的な思いを反映する言動がみられた。 子どもが直接母乳を吸着できるようになる体験(B・ C氏)や保健師に話を聞いてもらうこと(B・C氏)に より授乳方法の承認が得られ,授乳体験の成功を感じ 今後の育児をおこなう上で,母親としての自信につな がったと考える。 双子の子育ては,成長や性格の違いにより特別の おもしろさが味わえる(ラ・レーチェ・リーグ・イン ターナショナル, 2000)といわれている。A氏とB氏は, 退院後1か月の間に授乳体験を通して2児の違いを発母親が双子の育児に肯定的な感情を持ち,退院後の 生活をおくるには,双子の生活で起こりうる出来事に 予測性をもつことや児の成長や個性に気づくような支 援と退院後も専門家から継続した支援が必要と考える。 また,これまでの研究では,双子を持つ母親は1日 の生活の中で「授乳」に費やす時間が長く,大変さを 感じている(服部, 2002)ことが明らかにされている。 そのため,授乳時間を短縮する同時授乳が推奨されて いるが,実際に双子の母親の授乳体験の姿を明らかに した研究はほとんど見当たらない。 本研究の参加者全員が退院後2∼3週目頃(生後3 ∼4週頃)に子どもの授乳後のぐずりや嘔吐を体験し, 排気に時間がかかることや子どもを観察することに時 間をかけており,直接的な授乳行動に時間を要するの ではなく,授乳後に時間を要していた。生後2∼3週 は乳児の成長期であり授乳回数が増える時期である (ラ・レーチェ・リーグ・インターナショナル, 2000)。 1か月健診時に,本研究参加者のほとんどが,1日体重 増加量が40 g以上と平均より多かったことは,退院後 2∼3週目(生後3∼4週)のぐずる体験により,母乳不 足を感じ,人工乳を補充した結果とも考えられる。本 研究では,授乳後の嘔吐の観察や排気などの間接的な 授乳に時間を要していたが,授乳量の過多により授乳 後に嘔吐し,その結果,授乳に時間がかかっていたこ とも推測できる。 また,D氏は,8年前に第1子を育てた際に,母乳量 を測定し,人工乳を補充する方法で授乳をしていた。 今回は,助産師に母乳だけで十分足りると言われてい たが,2児が続いて泣いた時の2人目の授乳に母乳不足 を感じ葛藤を抱き,人工乳を足すことで,量が確認で き安心できるという思いを持っていた。保健師に2児 の体重増加は十分であると言われていても,第1子の 体重増加と比較し,人工乳の補充量が増加していた。 双子の育児では,母乳不足感に対して「大丈夫」とい う指導では解決されない事象があると考える。双子の 母親しか感じられない2人目の母乳の不足感と「泣き」 に対する心身の疲労が重なった時に「ミルクを足した い」という思いが生じるのではないか。双子の授乳に 困難を感じる時には,母親の思いを受け入れることや, 前回の授乳体験がどのようなものであり,授乳のどん な事象に対して困難を感じているか1人1人の思いを 聴き,対象を理解することが必要である。 ているという報告もある(皆川他, 2000)。しかし,本 研究の対象者は,自宅の和室での授乳は姿勢が辛くや りづらい(事例D),2児のペースが異なり,排気をさ せる時に1人では難しい,寝ているのを起こしてもな かなか飲まずかえって時間を要する(事例B・C)体験 を通し,現実的でないという思いを持ち実施していな かった。本研究は退院後1か月までの子どもを対象と したため,子どもの開口が小さいことも1人での同時 授乳を困難と感じる理由であるが,成長とともに開口 が大きくなり同時授乳も可能になることも予測できる ため,退院後も継続して子どもの成長に応じた授乳方 法を見守る必要がある。 2.母親の身体に関する事象 先行研究では,双子の家庭は時間的に余裕のない状 況で育児に追われ,母親は重度の疲労感を感じている ことがわかっているが(横山&山城, 2002),双子の母 親が,退院後1か月に具体的にどのような体験をして, 自分の体に対する思いを抱いているのかは明らかにさ れていない。 本研究により,身体に対する思いは,母親の体験し た事象によって異なることが明らかになった。D氏は, 体力が回復し,退院後3週目頃より帝王切開の傷に対 して「大丈夫」という思いを持つようになると,体が 育児に慣れてきたことを感じた。また,帝王切開の傷 を見て「こんな傷まで作って産んだ」我が子を「貴重な 存在」として認識していた。一般的に帝王切開は経膣 分娩と比較し否定感情を持ちやすいといわれているが (細井, 1991;堀内他, 1989),D氏のように帝王切開 を体験したことで自分を認め,子どもに対し肯定感情 を抱く場合もあることが明らかになった。 C氏は,体調の悪さに驚きと不安を抱いていた。育 児で大変と感じる時期の持続時間は,出産回数が増 すに従って長くなり2経産以上で最も長くなる報告も ある(我部山, 2002)。C氏は,過去に3回の出産を経 験しており,自分の持つイメージと違う体の不調に対 し,不安を高めていたと考える。また,1か月健診では, 家族の協力が得られなくなることを考えながら,活動 量の調整や化粧をしない等のかけ引きを行っていた。 ボディイメージに関する項目は,退院後1か月の褥婦 の関心事の1つである(丸山&稲葉, 1986)。C氏にとっ て化粧する行為は,女性としてのアイデンティティを 保つ上で重要な事象であり,化粧ができない状態に強
双子を持つ母親の退院後1か月間の育児経験 い否定的な思いがあったと考える。 家事育児を行うのに必要な体力に自信がもてないと いう項目が産褥4週目に最も高い相関を示す結果があ るが(丸山&稲葉, 1986),里帰り中であるA氏とB氏 は退院後1か月頃には,自宅に帰ってからの生活をイ メージし,今後の家事と育児に対して援助がなくても 行えるかという身体に対する不安を抱いていた。いず れの事例も里帰り予定期間を2∼3か月としているが, 退院後1か月を経過した面接時には,家事を全く行っ ていない状態であり,今後の予測がつかないことが体 力面での不安を高めていたと考える。 3.家族のサポートに関する事象 双子の場合,夫の育児協力が得られる場合は母親の 疲労感が軽減することが先行研究で明らかにされてお り(横山&山城, 2002),夫の情緒サポートの必要性が 示唆されている。本研究では,双子の母親は各々の体 験する事象によって家族に対する思いが異なってい た。研究参加者は,退院後1か月間は,各々の母親が 肯定的な思いや否定的な思いを抱きながら,双子との 生活リズムをつくるために試行錯誤していたが,生活 リズムをつくるまでには家族の協力があった。特に長 期入院であったA氏は,十分な準備がない中で育児が 始まり,家族全員が振り回された体験を通して,「大 変」という否定的な思いを高めていた。しかし,家族 全員で協力するという構図ができていったことで,少 しずつ時間に余裕でき,肯定的な思いを抱くことがで きるようになっていた。双子の母親は,妊娠・出産を 通して身体に負担がかかり,出産後の身体的不調も強 く,2児のリズムを作るまでに家族の援助は大切であ る。 また,C氏は,妊娠中から夫の育児援助があった。 しかし,夫に対し「気が利かない」と不満を抱いてい た。A氏は実父が何も言わないのに手伝うこと,D氏 は,夫が思いを受け止めてくれることに肯定的な思い を抱いていた。母親は,初めて体験する双子の育児に 対し,不安を抱えながら育児を体験している。母親は, 必要と思われる援助を考え,思いを察して援助する者 に対し,分かり合い,一緒に寄り添い双子の育児を行 う存在として肯定的に受け止めるのではないか。母親 の抱く思いには,家族のサポートが関連しており,双 子の育児での情緒的サポートには,母親が援助者を分 かり合える存在と捉える事象があると考える。 B.実践への示唆 本研究より,入院中に行う助産師の指導が退院後に 母親の思いに大きな影響を与えることが明らかになっ た。双子の母親を支援する実践の場に次の3点を提案 する。 1 .先の見える指導 本研究により,予測していなかった事象の体験によ り,否定的な思いを反映する言動がみられた。双子の 母親の生活に合わせ現実的な指導と育児のイメージを 高められる指導が必要である。経産婦に対しては,前 回の授乳体験やその思いを考慮した個別的な支援が必 要である。また,家族に対し,双子の出産後は体力の 回復に時間を要することを伝え,どのような援助がい つまで必要とされるのか具体的な情報を提供し,自分 たちで考えられるように先の見える指導が大切である。 2.柔軟性のある授乳への援助 本研究において退院後の肯定的・否定的な思いを反 映する言動は,授乳に関連する事象が多いことが明ら かになり,授乳に対する指導の大切さが示唆された。 授乳体験は退院後すぐに体験する事象である。退院当 日の授乳予定を含め,1人1人の生活に即した予測性の ある指導が必要である。 また,乳房の状態が良好であっても,双子の母親は, 気持ちの上で母乳栄養を継続できないという思いを持 つことがあり,一時的に人工乳の補充を試みることも 母乳栄養を継続するために必要であることが本研究で 明らかになった。母親の意思にそって母乳栄養が継続 できるように,個に応じた柔軟な授乳への援助が大切 である。 3.継続した支援 保健所の新生児訪問を利用した研究参加者からは, 肯定的な思いを反映する言動が聞かれた。しかし,授 乳に関する事象での不安が高い1か月の間に,入院中 に直接授乳指導を行った助産師から継続して育児に対 し承認を得ることで,より不安の軽減につながり,母 親の肯定的な思いを高められると考えられる。退院後 も助産師の家庭訪問や電話訪問等で継続した支援が必 要である。 C.今後の課題 本研究の今後の課題として,以下の3点をあげる。 第1に,本研究は,BFH(Baby Friendly Hospital)に 認定された病院で出産した4名を研究参加者としてい るため,母親の母乳育児への思いが強く偏りがあると
きると考える。第2に,本研究では,4名という少人数 であり,本研究の結果を一般化することは難しい。今 後,研究参加者を増やすことで,様々な状況で育児を 行う母親に共通する体験を探っていくことができると 考える。第3に,本研究は,母親が育児不安の高い時 期として,退院後1か月までの双子の母親に焦点をあ てた。しかし,子どもの成長によって事象は異なり, 母親の思いも変化することが予測される。そのため, この時期以降の母親が体験する育児についても追跡調 査することで,母親の体験やその思いの変化を明らか にすることができると考える。