潰瘍性大腸炎における体外式超音波検査の
病変範囲描出能と重症度評価
古藤 文香
森田 勇
*
宇野 博之
*
國吉 玲奈
伊東ひろみ
田中 瞳
古藤 俊幸
平野 玄竜
**
壁村 哲平
*
福岡市医師会成人病センター医療技術部超音波室,同消化器内科*, 福岡大学医学部消化器内科**Usefulness of Transabdominal Ultrasonography for Evaluating Lesion Area
and Severity of Ulcerative Colitis
Fumika KOTO et al.
Department of Medical Technology, Fukuoka City Medial Association Hospital
Abstract
Ulcerative colitis (UC) is a non-specific chronic intestinal inflammation with unknown etiology, resulting in erosion and ulceration in the mucosa and submucosa of the colon. For treatment and follow-up of this disease, information about the extent of lesions and severity of the disease is critical. In general, colonoscopy (CS) and barium enema exami-nation are used for diagnosis of UC, but these are invasive. On some occasions, CS is carried out without any bowel preparation during the UC active stage. In this study, trans-abdominal ultrasonography (US) was compared to CS for their capabilities to reveal the large intestine and to determine the disease severity and lesion area. Eighty five sessions for 41 UC patients that underwent both US and CS simultaneously between August 2003 and July 2012 were studied. Regarding evaluation of the capability to detect the large intestine, the inserted area was used for CS, and the detected area with systematic scan-ning was used for US. Regarding determination of the disease severity, “Guidelines for the Management of Ulcerative Colitis in Japan” prepared by the Ministry of Health, Labour and Welfare, Research Group for Intractable Inflammatory Bowel Disease was applied for CS, and the following classification determined for the layer structure was used for US: the normal wall structure (normal: U1); wall thickening in the mucosa (mild: U2); wall thick-ening in the submucosa without hypoechoic change (moderate 1: U3); wall thickthick-ening in the submucosa with hypoechoic change (moderate 2: U4); and marked thickening and lowering of echogenity without stratification (severe: U5). US could reveal all the large intestines in 90% of the study sessions, and it was able to evaluate deeper lesions than CS could. There was a significant difference in determination of the disease severity between US and CS. Lesion area evaluated by the two tended to be more similar as the disease was more active. In conclusion, US could be used for determining the disease stage, lesion area and disease severity of UC as a noninvasive diagnostic imaging tool.
学術賞-原著
原稿受付:2014年3月28日 受諾日:2014年10月17日
[抄 録] 潰瘍性大腸炎(UC)は,主として粘膜を侵し,しばしばびらんや潰瘍を形成する大腸の 原因不明のびまん性非特異性炎症である.治療や経過観察には病期の判定,罹患範囲の 把握,重症度評価などが重要となる.UCの画像診断には,下部消化管内視鏡検査(CS) や注腸X線検査が用いられるが,いずれも侵襲的で,CSは活動期に前処置なしで評価す る場合も多い.今回我々は,UCの経過観察の際に,体外式超音波検査(US)の大腸描 出能と罹患範囲描出能,および重症度評価をCSと比較した.対象は,2003年8月から 2012年7月までにUSとCSを同時期に施行した41症例85検査.大腸描出能は,CSは挿 入範囲,USは系統的走査で描出可能範囲とした.重症度は,CSは厚生労働省「難治性 炎症性腸管障害に関する調査研究」班の重症度で分類,USは壁厚と層構造から,正常 (U1),肥厚が粘膜層に留まるものを軽度(U2),粘膜下層まで肥厚し低エコー化が無い ものを中等度1(U3),U3の粘膜下層に低エコー化があるものを中等度2(U4),全層が 肥厚し,第3層の低エコー化が強く壁全体が不明瞭化するものを強度(U5)に分類した. USの90%が全大腸を描出しCSの挿入より深部の活動病変も評価可能であった.USと CSの重症度評価は強い相関があり,活動が強いほど罹患範囲が一致する傾向にあった. USは非侵襲的に罹患範囲の描出や重症度評価が可能であり,UCの画像診断として有用 であると考えられた. Keywords
ulcerative colitis, transabdominal ultrasonography, imaging ability of the large intestine, judgment of severity, layer structure of the large intestine
(潰瘍性大腸炎,体外式超音波検査,大腸描出能,重症度評価,大腸壁層構造) 1. はじめに 潰瘍性大腸炎(
Ulcerative colitis
;以下UC
)は, 主として粘膜を侵し,しばしばびらんや潰瘍を形 成する大腸の原因不明のびまん性非特異性炎症で ある1).再燃・寛解を繰り返すことが多く,治療 や経過観察には病期の判定と罹患範囲,重症度な どの病態把握が重要となる.UC
の画像診断の基準には,下部消化管内視鏡 検査(Colonoscopy
;以下CS
)または注腸X
線検 査(Barium enema
;以下BE
)が用いられる.し かし,CS
は活動期に前処置を行わずに施行する ことが多く,残便や痛みなどで挿入困難となり, 深部に病変があっても全大腸を観察せずに評価す る場合がある.また全大腸を評価する目的で行うBE
も,被曝や前処置が必要であるため全症例を 行うのは困難となることも多い.いずれも侵襲的 な検査であるため,時に重症化を引きおこす一因 となるという報告もある2,3). 一 方,体 外 式 超 音 波 検 査(Transabdominal
ultrasonography
;以下US
)は非侵襲的検査法で, 前処置が不要で容易に検査することが可能であ り,粘膜層(第2
層)・粘膜下層(第3
層)の肥厚, 層構造の状態,血流シグナルなどからUC
の重症 度評価を行うと,臨床症状やCS
,BE
の重症度評 価と有意に相関し,治療効果判定にも応用できる という報告がある4∼6).しかし,US
がその特性 を活かしてUC
の重症度評価等を行う検査法とし て利用する場合には,全大腸を描出して病変の罹 患範囲や活動の程度を把握し,適切な部位で判定 することが重要と考えられた. 今回我々は,UC
におけるUS
の大腸描出能, 病変の罹患範囲描出能,および壁厚や層構造の状 態から比較した重症度評価をCS
やBE
と比較し,US
がUC
の画像診断としての検査法になりえる か検討した. 2. 対象と方法 対象は,2003
年8
月から2012
年7
月までにUC
と診断され,US
とCS
を同時期に施行した41
症 例.検査総数は,同一症例で複数回検査を含む85
検査.内訳は,検査時年齢19
∼89
歳(平均50
歳),性別(男女比)24
:17
,UC
発症年齢19
∼76
歳(平均43.4
歳),罹患期間初回発作∼32
年(平均
5.9
年).病型は,全大腸炎型16
症例34
検 査,左側大腸炎型20
症例45
検査,直腸炎型5
症 例6
検査.右側あるいは区域性大腸炎型は除外し た.CS
の施行間隔はUS
施行日から前後4
日以内, 中央値は0
日.なお,US
でCS
の挿入範囲より口 側まで病変があると判断したもののうち,BE
を 施行した9
症例に関しては罹患範囲を確認した. 装 置 は,東 芝 社 製PowerVision8000
(探 触 子;PVN-375AT
,PLN-703AT
),Aplio50
,Xario
(探 触 子;PVT375BT
,PVT674BT
,PLT-704AT
),GE
ヘルスケアジャパン社製LOGIQ E9
(探触子;C1-5
,9L-D
)を使用した.検査は腹部超音波検 査に熟練して消化管領域の検査経験が1
年以上の 技師5
名が施行し,検査中に判定に迷う場合は他 の1
名以上の技師が再走査し協議後判定,検査終 了後に静止画と動画によるダブルチェックを行っ た.CS
とBE
の前処置には,状態に応じてグリセ リン浣腸または経口腸管洗浄剤(ナトリウム・カ リウム配合剤散)を用い,US
は検査まで可能な 限り排尿を控えた状態で行った.なお,CS
やBE
をUS
と同日に施行する場合には,グリセリン浣 腸使用前または経口腸管洗浄剤完了後にUS
を 行った.US
とCS
およびBE
は,以下の二つの方 法で比較した.1
)大腸描出能および病変の罹患範囲描出能の比較 大腸は盲腸(Cecum: C
),上行結腸(Ascending
colon: A
),肝弯曲部(Hepatic flexure: HF
),横行 結 腸 右 側(Transverse colon right side: T/R
),横 行結腸左側(Transverse colon left side: T/L
),脾 弯曲部(Splenic flexure: SF
),下行結腸(Descend-ing colon: D
),S
状結腸下行結腸移行部(Sigmoid
descending junction: SDJ
),S
状 結 腸(Sigmoid
colon: S
),直腸(Rectum: R
)に区分した.CS
の 大腸描出能は挿入範囲とした.US
の大腸描出能 は長谷川ら7)の系統的走査法に基づき,盲腸か ら直腸まで壁が連続的に描出可能であれば全大腸 描出とし,断続的に描出され連続性を確認できな かった場合には描出可能な区分範囲とした.ま た,病変の罹患範囲描出能は,病変の活動範囲を 罹患範囲とし,CS
の挿入範囲内で,正常壁との 境界が描出可能であった症例についてCS
とUS
で比較した.なお,CS
で区別がつきにくいSDJ
はUS
のS
またはD
と一致とした.US
がCS
の挿 入範囲より口側まで病変があると判断した症例の うちBE
が施行された症例については,厚生労働 省「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班 (渡辺班)1)のBE
診断基準と鈴木ら8)の注腸X
線検 査の重症度評価を参考にして罹患範囲を比較した. 図1 体外式超音波検査(US)による重症度評価(B-mode所見)に対応する下部消化管内視鏡検査(CS)所見 との比較 *文献9)を改変 U1 正常:壁厚は正常で第2層の肥厚が明らかでないもの U2 軽度:正常部位と比べて,ハウストラが消失し壁厚は正常でも第2層が肥厚している,または第2層の肥 厚を伴った壁肥厚があり,いずれも第3層に肥厚がないもの U3 中等度1:第2層,第3層の肥厚を伴う壁肥厚がみられるが,第3層に低エコー化がないもの U4 中等度2:第2層,第3層の肥厚を伴う壁肥厚がみられ,第3層に明らかな低エコー化が出現したもの(↓) U5 重度:壁は著明に肥厚し,第3の低エコー化が強く壁全体が不明瞭化するもの A 寛解期 B 軽度 C 中等度 D 中等度 E 強度 表1 大腸内視鏡検査(CS)の重症度評価 区分 重症度 CS所見 S1 寛解期 活動期の所見が消失したもの S2 活動期軽度 血管透見像消失,粘膜細顆粒 状発赤,アフタ,小黄色点 S3 活動期中等度 粘膜粗造,びらん,小潰瘍, 易出血性(接触出血),粘血 膿性分泌物付着,その他の活 動性炎症所見 S4 活動期強度 広範な潰瘍,著明な自然出血 *文献1)より引用2
)重症度評価の比較CS
による重症度評価は,厚生労働省「難治性 炎症性腸管障害に関する調査研究」班(渡辺班)1) の活動期内視鏡所見による分類に基づいて,寛解 期(S1
),活動軽度(S2
),活動中等度(S3
),活 動高度(S4
)に分類した(表1,図1A∼E).US
による重症度評価は,B-mode
で壁や層構 造の状態から以下のように判定した.畠ら4)や長 谷川ら9)の分類を改変し,正常壁厚を直腸6 mm
, 大腸4 mm
以下として,壁厚は正常で第2
層の肥 U1 U2 U3 U4 U5 A(S1) B(S2) C(S3) D(S3) E(S4)厚がないものを正常(
U1
),正常部位と比べて, ハウストラが消失し壁厚は正常でも第2
層が肥厚 している,または第2
層の肥厚を伴った壁肥厚が あり,いずれも第3
層に肥厚がないものを活動軽 度(U2
),第2
層,第3
層の肥厚を伴う壁肥厚が みられるが,第3
層に低エコー化がないものを活 動中等度1
(U3
),第2
層,第3
層の肥厚を伴う 壁肥厚がみられ,第3
層に低エコー化が出現した ものを活動中等度2
(U4
),壁は著明に肥厚し, 第3
層の低エコー化が強く壁全体が不明瞭化する ものを活動強度(U5
)として五つに分類した(表 2,図1U1∼U5).なお,描出不良などで活動を 判定できなかったものはUx
とした.重症度評価 をCS
とUS
で比較し,CS
で全大腸を描出しな かった症例に関しては,CS
の挿入範囲と同じ部 位までのUS
の重症度と比較した.統計解析には スピアマン順位相関検定(Spearman rank
corre-lation
)を用いた. 3. 結 果1
)大腸描出能および病変の罹患範囲描出能の比 較US
とCS
およびBE
を同日に検査施行したもの のうち,90%
(46
検査)がグリセリン浣腸を行い, 経口腸管洗浄剤を使用したものは10%
(5
検査) であった.CS
を施行したうち,全大腸を観察し たものは35%
(30
検査),観察しなかったものは65%
(55
検査)で,全大腸炎型の32%
(11
検査) は下行結腸まで,左側大腸炎型の20%
(9
検査) はS
状結腸下行結腸移行部まで挿入して判定して いた(表 3).多くは,前処置なしのため残便に より深部まで挿入しなかったが,挿入範囲内で重 症度判定が可能であった.しかし5%
(4
検査) は深部に強い病変が予測されたものの,痛みの為 に挿入を断念して挿入範囲内で判定していた.一 方,US
で全大腸を描出できなかったものは9%
(8
検査)で,描出不能部位は直腸2%
(2
検査),直 腸からS
状結腸まで2%
(2
検査),S
状結腸4%
(3
検査),脾弯曲部1%
(1
検査)であった(表4). 病変の罹患範囲描出能は,CS
の挿入範囲内で 正常壁と活動範囲との境界が描出可能であった44
検査で検討すると,CS
とUS
で判定した罹患 範囲の一致率が66%
(29
検査)であった.しかしCS
とUS
いずれも最も活動が強いと判定した部位 の一致率は80%
(35
検査)で,中等度以上(n
= 表2 体外式超音波検査(US)の重症度評価(B-mode 所見) 区分 重症度 US所見 U1 正常 壁厚は正常で第2層の肥厚がない もの U2 軽度 正常部位と比べて,ハウストラが 消失し壁厚は正常でも第2層が肥 厚している,または第2層の肥厚 を伴った壁肥厚があり,いずれも 第3層に肥厚がないもの U3 中等度1 第2層,第3層の肥厚を伴う壁肥 厚 が み ら れ る が,第3層 に 低 エ コー化がないもの U4 中等度2 第2層,第3層の肥厚を伴う壁肥 厚がみられ,第3層に低エコー化 が出現したもの U5 強度 壁は著明に肥厚し,第3層の低エ コー化が強く壁全体が不明瞭化す るもの *文献9)を改変 表3 大腸内視鏡(CS)施行時の挿入範囲 病型分類(n) 最大挿入範囲 R S SDJ D SF T/L T/R HF A C 全大腸炎型(34) 0 5 0 6 1 3 3 1 2 13 左側大腸炎型(45) 0 7 2 10 1 0 8 1 0 16 直腸炎型(6) 0 2 0 0 1 0 2 0 0 1 R:直腸,S:S状結腸,SDJ:S状結腸下行結腸移行部,D:下行結腸,SF:脾弯曲部,T/L:横行結腸左側, T/R:横行結腸右側,HF:肝弯曲部,A:上行結腸,C:盲腸21
)では90%
(19
検査)と活動が強いほど一致 する傾向にあった(図 2).また,US
がCS
の挿 入範囲より口側に病変を指摘したものは20%
(17
検査)あった.そのうち53%
(9
検査)にUS
の 前後5
日以内にBE
が施行されていた.BE
とUS
の 罹 患 範 囲 が 一 致 し た の は89%
(8
検 査)で,67%
(6
検査)にCS
の挿入範囲よりも重症度の強 い病変があった.代表的な症例を図3に示す.罹 患範囲が一致しなかったのは,BE
が下行結腸ま での活動と判定した1
検査で,US
は横行結腸左 側までと判定していた.なお,CS
で下行結腸ま で挿入した全大腸炎型の1
症例は,US
で直腸か ら脾弯曲部までの肥厚に加えて,横行結腸右側か ら回腸末端にも粘膜下層主体の肥厚がみられた が,臨床的経過から感染性腸炎の併発であった.2
)重症度評価の比較CS
のS1
(n
=6
)に対してU1
が4
検査,U2
が2
検査,S2
(n
=27
)に対してU1
が3
検査,U2
が15
検査,U3
が8
検査,Ux
が1
検査,S3
(n
=44
)に対してU2
が6
検査,U3
が22
検査,U4
が15
検査,U5
が1
検査,S4
(n
=8
)に対してU4
が5
検査,U5
が3
検査であった.全病型においてUS
とCS
の重症度評価は強い相関(順位相関係数ρ
値=0.805
)を示した(表5). 表5 重症度評価の比較(検査件数:n=85) US (n) CS (n) U1 U2 U3 U4 U5 Ux 正常 軽度 中等度1 中等度2 強度 不明 (7) (23) (30) (20) (4) (1) S1 寛解期(6) 4 2 0 0 0 0 S2 軽 度(27) 3 15 8 0 0 1 S3 中等度(44) 0 6 22 15 1 0 S4 強 度(8) 0 0 0 5 3 0スピアマン順位相関検定(Spearman rank correlation),順位相関係数ρ値=0.805
A:病変の 罹患範囲 (n=44) 一致 しない 33% 一致 する 67% 一致 しない 20% 一致 する 80% 一致 しない 10% 一致 する 90% B:最大活動部位 (n=44) の最大活動部位C:中等度以上 (n=21) 図2 CSとUSで判定した病変の罹患範囲一致率(CS の挿入範囲内) 表4 体外式超音波検査(US)で全大腸を描出できなかった症例の大腸描出能 症例 年齢性別 病型 US描出範囲(○は描出可能,×は描出不能) CS 尿貯留 原因 R S SDJ D SF T/L T/R HF A C 挿入範囲 重症度 1 46F 左側大腸炎型 ○ ○ ○ ○ × ○ ○ ○ ○ ○ C 中等度 × 深部走行 2 39F 全大腸炎型 × × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ A 強度 × 腸管ガス 3 89M 左側大腸炎型 ○ × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ C 中等度 × 腸管ガス 4 66M 左側大腸炎型 × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ C 軽度 × 腸管ガス 5 74M 左側大腸炎型 ○ × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ T/L 軽度 ○ 腸管ガス 6 27M 全大腸炎型 × × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ C 中等度 ○ 腸管ガス 7 40M 直腸炎型 ○ × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ C 中等度 ○ 腸管ガス 8 78M 全大腸炎型 × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ C 中等度 × 腸管ガス 注) はCSで最も病変の強い部位
4. 考 察
UC
の治療選択や治療効果判定を行う際,病期 や罹患範囲,重症度などの病態把握が重要とな る.しかし,その画像診断の基準とされているCS
やBE
は侵襲的検査であり,検査が誘因となっ て病状の悪化を引きおこすという報告もある2,3). このため活動期のCS
は,前処置なしに短時間で 挿入可能範囲の最も所見の強いところで判定し, 必ずしも全大腸を観察する必要がないとされてい る1).今回の検討でも,CS
は,全大腸炎型の約30%
,左側大腸炎型の約20%
が深部まで挿入せず に挿入範囲内で重症度の判定を行うことが可能で あった.しかし,痛みのため深部への挿入を控え たものもあった(表3).一方,US
は病型に関係 なく,90%
が全大腸を描出し,特に直腸に関して は,膀胱に尿を充満させた状態で検査することで 膀胱が音響窓となり95%
が描出可能であった. 直腸の描出の良・不良例を図 4 に示す.これは,UC
の重症度が増すほど腸管壁と周囲脂肪識との 境界が明瞭となり系統的走査で腸管壁を描出し易 くなることや,UC
が直腸から連続する病変であ ることも要因と考えられた.しかし,描出不能部 位があった8
検査は,病型や重症度にかかわら ず,直腸からS
状結腸,脾弯曲部が深部エコーの 減衰や周囲の腸管ガスの影響により描出すること A B 図3 CSの挿入範囲(脾弯曲部)よりも口側に病変を指摘した症例(35歳,女性,全大腸炎型.CSの挿入範囲は 脾弯曲部まで) A: 30歳女性 全大腸炎型 重症度強度.CSはグリセリン浣腸にて脾弯曲部まで挿入され,最大活動部位はS 状結腸から下行結腸.広範囲の潰瘍や膿性粘液みられ活動中等度とされた.USでは全大腸に壁肥厚がみら れ最大活動部位は横行結腸右側で壁全体が不明瞭化した重度(U5)所見を認めた.*直腸(↑↑)子宮(△) B:同症例の注腸X線写真(BE).横行結腸からS状結腸にかけてハウストラの消失,粘膜粗造,カフスボタン 様ニッシェ(↑)の多発あり. A B 図4 体外式超音波検査(US)における直腸の描出 A:描出良好例 軽度(U2)の直腸(↑) B:描出不良例 中等度(U3)の直腸(↑)RSは 描出不良(▲)(表4の症例6)ができなかった(表 4).これらの部位は深部に あって多様な走行をしていることから,正常でも 系統的走査による描出が困難な場合があるとされ ている10).このため,プローブでの圧排や体位 変換,脾弯曲部に関しては,左側腹部からアプ ローチをして,深呼吸をしながら下行結腸を口側 に追っていく走査を追加して描出の工夫を行っ た.
UC
の病変の主座は粘膜層であるが,その組織 像や肉眼像は,活動期や寛解期といった炎症の時 相や病勢,罹患期間,虚血・感染等の付加的要素, 治療の有無や感受性等により種々の様相を示し, 炎症が粘膜を越えて粘膜下層にも広く波及する場 合も少なくない11).この炎症細胞の浸潤や大腸 粘膜の浮腫が,US
による大腸壁の厚みと層構造 の変化として現れ,臨床的重症度や内視鏡的重症 度と関連があるといわれている.畠ら4,5)や眞部 ら12)は,生体内のUS
像と,切除した腸標本の水 浸法によるUS
像や病理組織学的所見と比較した ところ,壁肥厚がないが正常部位と比較してハウ ストラの消失を認めるものは陳旧性あるいは軽度 の炎症,層構造が温存された壁肥厚を認めるもの は粘膜下層にとどまる炎症,粘膜下層の不明瞭化 など層構造が消失した壁肥厚を認めるものは全層 性炎症に対応し,US
でUC
の重症度の定量評価 が可能で,臨床的重症度や内視鏡的重症度と有意 な関連を示すと報告した. 今回の我々の検討でも,壁厚や層構造の状態か ら評価するUS
の重症度は,内視鏡的重症度所見 と強い相関を示した.すなわち,軽度では粘膜の 浮腫やびらん,小潰瘍像等を反映して粘膜層が肥 厚し,中等度以上になると広範囲の潰瘍や浮腫を 反映して粘膜下層の肥厚や低エコー化を来たし た.さらに強度になると炎症が粘膜下層に広く波 及し層構造が消失して不明瞭化し,場合によって は筋層まで及ぶ深掘れ潰瘍像(図5)をとらえる ことができた.これらは長谷川ら9)の検討とも 一致しており,US
は非侵襲的にUC
の重症度評 価を行えることが示唆された.しかしUS
は,特 に壁肥厚を伴わない症例において,正常壁と軽度 の活動を鑑別することが困難な場合があった.こ れは,CS
が血管透見像の消失や発赤など粘膜面 を直接評価するのに対して,US
は壁の断面から 厚みや壁構造を客観的に評価するため,腸管の伸 展具合によっては,全壁厚の計測や粘膜層の肥厚 の有無を判断することが難しくなるためと考えら れ,正常壁と罹患範囲の境界の判定を誤る原因に もなったのではないかと思われた. 一方,活動が中等度以上になるとCS
とUS
の 罹患範囲描出能の一致率が90%
になったことか ら,US
は活動が強いほど罹患範囲の判定と重症 度評価が一致する傾向にあると考えられた.さら に,全大腸の描出が良好でCS
の挿入範囲よりも 口側に重症病変の存在を確認できたことは,CS
で挿入困難な症例があった場合でもUS
で全大腸 を描出して活動範囲や重症度を推定できる可能性 があると考えられた.このとき,感染性腸炎など 壁肥厚や下痢を伴う他の疾患を併発した場合との 鑑別が必要になることが予想され,肥厚の範囲や 肥厚の中心となる層の状態などで鑑別を試みてい くことが重要となる. 上野ら13)は,UC
の治療効果判定には臨床的 活動期が特に重症例では侵襲の少ないUS
を使っ て粘膜を間接的に評価し,炎症が改善した所見が 認められれば通常のCS
を施行して追加治療の検 討を行うとしている.今回の我々の検討でも,UC
の活動が強くなるほどUS
の有用性が高まり, 重症化の一因となる侵襲性のある検査を行うより も,非侵襲的に全大腸が描出可能で,罹患範囲や 重症度評価を行えるUS
を行って病態を把握し, 経時的に層構造の変化をとらえていけば治療効果 判定にも利用できると考えられた. 本検討の限界は,後ろ向き検討であること,重 症度評価において壁肥厚を伴わない軽度の活動の A B 図 5 筋層まで及ぶ深掘れ潰瘍像(U5)と対応する 内視鏡像 A:直腸の深掘れ潰瘍(▲)の超音波像 B:対応する深掘れ潰瘍(▲)の内視鏡像場合には,粘膜層の肥厚を正常な部位と比較して 判定するため,客観的な判断が難しくなることに ある.以上の限界点については,前向き検討も含 め,粘膜層の厚みだけでなく粘膜面の細かい凹凸 や内腔との境界エコーの状態や,ドプラ法を用い た壁内の血流シグナルの状態など評価して,活動 の再燃の有無や治療効果を判定していくことも今 後の課題になるのではないかと考えられた. 5. 結 語
US
は,非侵襲的に大腸の罹患範囲の描出およ び重症度評価が可能であり,UC
の画像診断とし て有用であることが示唆された. 参考文献 1)潰瘍性大腸炎診断基準.潰瘍性大腸炎・クローン病診断 基準・治療指針 厚生労働科学研究費補助金 難治性 疾患克服研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査 研究」班(渡辺班).平成24年度分担研究報告書別冊; 平成25年7月:1–3.2) S. Ian Gan and P. L. Beck: A New Look at Toxic Megaco-lon: An Update and Review of Incidence, Etiology, Pathogenesis, and Management. Am J Gastroenterology. 2003; 98(11): 2363–2371.
3)追矢秀人,大川清孝,佐野弘治,ほか.内視鏡検査が誘 因で発症したと考えられた中毒性巨大結腸症をともな う潰瘍性大腸炎の1例.消化器科 1997; 25(5): 527–532.
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