問題と目的
愛着スタイルという構成概念は,青年期後期・ 成人期における親密な対人関係での様々な行動を 説明する際に広く用いられている (e.g., Mikulincer & Shaver, 2007)。そしてこの愛着スタイルとは,愛 着の個人差を意味するだけでなく,ストレス状況 下において繰り返される愛着対象との間での相互 作用の質に応じて形成されたパーソナリティ特性 であるとみなすこともできる3)。 愛着スタイル 愛着スタイルの概念化・測定は, Hazan & Shaver (1987) の研究を契機として,急速 に展開してきた (Mikulincer & Shaver, 2007)。彼女 たちは,恋愛を愛着プロセスとして捉え,乳幼児 の愛着分類に対応した安定型,アンビヴァレント 型,回避型という 3 つの愛着スタイルが成人にお いても存在すると仮定した(3 分類モデル)。そし て,調査対象者に 3 つのスタイルについての文章 を読ませ,その中から 1 つを選択させることで, 個人の持つ愛着スタイルを同定する尺度を開発し 1) 本研究は文部科学省科学研究費(若手 (B),課題番 号 20730415)の助成を受けて行われました。また, 本研究は,九州心理学会第 69 回大会 2008 年,(大 分大学)において発表を行いました。 2) 本研究を行うにあたり,いろいろとご協力・アドバ イスをして頂きました三沢 良さん(電力中央研究 所)に心より感謝を申し上げます。そして,有益な コメントを下さいました審査者の方々に,この場を 借りて謝意を表します。また,調査にご協力頂いた 調査協力者の皆様方,ご協力ありがとうございまし た。面識があまりなくとも,他者の愛着スタイルを認識すること
は可能なのか?
1)―愛着スタイル尺度における自己評定と他者評定の一致度の検討
中 尾 達 馬
2) 琉球大学教育学部 本研究では,面識の度合いが比較的浅い 2 者について,愛着スタイル尺度における自己評定と他者評定と の間の一致度(相関や対応性),および,そこでの相関が他者評定実施者の愛着スタイルに左右されるかど うか,について検討を行った。調査対象は,大学・専門学校の一年生 120 名(60 組)であった。その結果, 愛着スタイル尺度の 2 次元については,自己評定と他者評定との間には,値は低いながらも有意な相関があ ること,その相関は,他者評定実施者の愛着スタイルに左右されないことが示された。以上のことから,関 係性初期の段階においても,愛着スタイルは認識可能なパーソナリティ特性であることが示唆された。 キーワード:愛着スタイル尺度,自己評定と他者評定,面識の度合いが低い段階 © 日本パーソナリティ心理学会 2010 3)愛着の個人差については,大別して,個人の持つ愛 着に関するパーソナリティ特性だとみなす考え方と 2者間の愛着関係の性質(情緒的絆)だとみなす考 え方の 2 つが存在する (e.g., 遠藤,2001)。本研究で は,愛着の定義が「危機的状況において,あるいは 今後起きる可能性のある危機に備えて,特定対象と の近接を求め,これを維持しようとする個体の傾向」 (Bowlby, 1969/1982) で あるということを重視し,愛 着スタイルをパーソナリティ特性として捉える。た。
その後,数多くの愛着スタイル尺度4)が開発さ れる中で,Bartholomew & Horowitz (1991) は,3 分類モデルを概念的により洗練した愛着スタイル の 2 次元・ 4 分類モデル (Figure 1) を提案し,関 係尺度(Relationship Questionnaire,以下 RQ と 略す)を開発した。彼女たちは,(1) 愛着対象 (他者)は,自分の支援や保護の求めに対して, 概して,応じてくれる人物かどうか,(2) 自分は, 愛着対象から,援助を受けやすい人物かどうか, という Bowlby (1973) の内的作業モデルの想定に 基づき,他者観と自己観(他者と自己についての 内的作業モデル)という 2 次元を設定した。そし て,これらがポジティヴかネガティヴかにより, 愛着スタイルを安定型,拒絶型,とらわれ型,恐 れ型の 4 つに分類した5)(Figure 1)。 RQでは,まず,調査対象者に 4 つのスタイル についての文章を読ませる。そして,調査対象者 に,それぞれの文章が自分にどのくらいよく当て はまるかを評定させ,その後,4 つの中から 1 つ を選択させる。RQ の用い方には 2 つの方法があ り,1 つは,最後に 1 つ選択させたものを,その 個 人 の 愛 着 ス タ イ ル と み な す 方 法 で あ る (Bartholomew & Horowitz, 1991)。 も う 1 つ は , Figure 1の 2 次元・ 4 分類モデルに基づき,4 つの 記述への評定を用いて,自己観得点(安定型得点 ⫹ 拒絶型得点 ⫺ とらわれ型得点 ⫺ 恐れ型得点)
と他者観得点(安定型得点⫹ とらわれ型得点 ⫺
拒絶型得点⫺ 恐れ型得点)を算出する方法であ
る (Griffin & Bartholomew, 1994)。
なお,乳幼児愛着研究では,養育者が子どもの 愛着行動に敏感に応答してくれる場合には,子ど もは安定した愛着を形成するが,そうでない場合 には不安定な愛着を形成すると仮定されている (Ainsworth, Blehar, Waters, & Wall, 1978)。そのた め,成人愛着研究においても,乳幼児愛着研究と 同様に,安定型と不安定型(安定型以外のスタイ ル)という 2 分類が用いられることがある6)。 4) 本研究では,「愛着スタイル尺度」という用語を, 「愛着スタイルを測定する尺度の総称」として用いて いる。そのため,特定の尺度を指してこの用語を用 いていない。 5) 愛着スタイルの 3 分類モデルと 2 次元・ 4 分類モデ
ルとの関連についての詳細は,Mikulincer & Shaver (2007) や中尾・加藤 (2003) を参照のこと。
Figure 1 愛着スタイルの 2 次元・ 4 分類モデル
注.上段の「自己観・他者観」は,Bartholomew & Horowitz (1991) の理論的想定である。そして, 下段の「見捨てられ不安・親密性の回避」は,Brennan et al. (1998) の命名によるものである。
6) 愛着スタイルの 2 分類は,安定型から不安定型へと
いう変化(あるいはその逆への変化)がテーマとな る愛着スタイルの連続性や変化についての研究で用 いられることが多い (e.g., Cozzarelli, Karafa, Collins, & Tagler, 2003)。
このように,複数の愛着スタイルについてのモ デルや尺度が提案される一方で,今度は,成人愛 着研究を行う際に,どの愛着スタイル尺度を用い た方がよいのかという問題が浮上してきた (Bre-nnan, Clark, & Shaver, 1998)。そこで Brennan et al. (1998) は,14 の愛着スタイル尺度について 2 次的 因子分析を行い,「見捨てられ不安」(Anxiety) と 「親密性の回避」(Avoidance) という 2 因子から構 成される「親密な対人関係体験尺度」(Experi-ences in Close Relationships inventory,以下 ECR と略す)を開発した。彼女たちが,ECR の 2 因子 を上記のように命名したのは,「自己観がポジティ ヴである」ということは「愛着対象から見捨てら れるかもしれないという不安が低い」ということ であり,「他者観がポジティヴである」とは,「愛 着対象との親密な関係を回避しない」ということ であると考えたためである。そのため,「見捨てら れ不安が高い」とは「自己観がネガティヴである」 ことを意味し,「親密性の回避が高い」とは「他 者観がネガティヴである」ことを意味する (Fig-ure 1)。 ECRが開発されて以降,成人愛着研究では,(1) 愛着スタイルを 2 次元・ 4 分類モデルによって捉 えること,(2) 愛着スタイルを測定する際に ECR を用いることが主流になりつつある7)(Mikulincer & Shaver, 2007)。また,本邦においても,中尾・ 加藤 (2004a) が ECR の日本語版を作成し,その妥 当性を実証している。 愛着スタイル尺度を用いた研究知見としては, 愛着スタイルによる親密な対人関係でのコミュニ ケーションパターンの違いや情報処理の違いなど をあげることができる (e.g., Mikulincer & Shaver, 2007)。そして本邦においても,たとえば,金政 (2006) が「見捨てられ不安」が高い人ほど恋愛関 係における排他性を強く感じ,逆に,「親密性の 回避」が高い人ほど排他感をあまり経験しないこ とを実証している。 だが,本邦においては,愛着スタイル尺度の信 頼性や妥当性については既に確認されているが (e.g., 中尾・加藤,2004a),愛着スタイル尺度にお ける自己評定と他者評定との関連については,未 だにほとんど検討がなされていない。他者という 外的評定者から愛着スタイルについて正確な情報 を得ることができれば,愛着スタイル尺度の妥当 性をさらに高めることができることから (Banai, Weller, & Mikulincer, 1998),方法論上,この点に ついて検討を行う必要性がある。 また,理論的には,愛着における個人差が社会 的に(あるいは他者から)認識可能であるかどう かといった点は重要な意味をもつ。乳幼児愛着研 究 で は , ス ト レ ン ジ ・ シ チ ュ エ ー シ ョ ン 法 (Ainsworth et al., 1978) に代表されるように,愛着 の個人差を強く反映する行動は直接観察すること ができ,そして,この行動観察に基づいて個人の 持つ愛着の質は推測・認識される。そのため,青 年期後期・成人期における愛着が乳幼児期の愛着 と同様の性質を有しているかどうかということを 明らかにするためにも,愛着スタイル尺度におけ る自己評定と他者評定との関連を検討することは 重要である。 愛着スタイルが他者からも認識可能なパーソナ リティ特性であるかどうかは,以下の 2 つの方法 により検討することができる (Shaver & Mikulincer, 2004 中尾訳 2008)。1 つは,特定場面において, パーソナリティ特性を強く反映する行動(愛着行 7) Fraley, Waller, & Brennan (2000) は,Brennan et al.
(1998) と同じ項目プールに対して,項目反応理論を 用いた分析を行うことで,ECR の改訂版(Experi-ences in Close Relationship Questionnaire-Revised, 以下 ECR-R と略す)を開発した(ECR-R の日本語 版は,金政 (2006) が作成している)。ECR と ECR-R との項目の重なりは,「見捨てられ不安」では 13 項 目 (72%),「親密性の回避」では 7 項目 (39%) で あった (Fraley et al., 2000)。心理測定的属性という 点では,ECR-R は,ECR に比べて若干優れているが (Fraley et al., 2000),ワーディングの点については, 逆 に , ECR の 方 が 若 干 優 れ て い る (Mikulincer & Shaver, 2007) ようである。
動)を観察し,得られた指標と愛着スタイルの自 己評定との関連を検討する方法である (e.g.,若 尾,2004)。もう 1 つは,特定場面ではなく様々 な場面を通して大まかに得られる人物像(パーソ ナリティ特性への他者評定)と自己評定との関連 を検討する方法である。本研究では,愛着スタイ ルが乳幼児における愛着分類に相当し,愛着分類 は個々の場面で示される愛着行動というよりも, 様々な場面で現れる愛着行動のパターンから全体 的に捉えられる (Sroufe & Waters, 1977) というこ とを重視し,後者について検討を行う。
自己評定と他者評定の関連 では,愛着スタイ ル尺度における自己評定と他者評定との関連につ いては,今までにどのような知見が得られたのだ ろうか。Bartholomew & Horowitz (1991) は,RQ の 4 つの記述への自己評定と同性の友人からの評 定について因子分析を行い,2 次元・ 4 分類モデ ル (Figure 1) に沿った形で,自己評定と同性の友 人(知り合ってからの期間は 1—2 年)からの評 定が同一象限上に付置されることを示した。そし て,Griffin & Bartholomew (1994) は,RQ の自己 観得点と他者観得点について,自己評定と同性の 友人からの評定や恋人(交際期間は 2 年以上)か らの評定との間に,概ね,r⫽.32—.49 の関連があ ることを実証した。 だが,先の 2 つの研究では,同性の友人や恋人 という面識の度合いが比較的深い人物が他者評定 を行っていた。そのため,面識があまりない段階 (関係性の初期段階)においても他者の愛着スタ イルを認識することが可能かどうかや面識の度合 いが増すことによって,愛着スタイルの自己評定 と他者評定との関連が強くなるかどうかという点 が検討されていなかった (Banai et al., 1998)。 面識があまりない段階については,他者の愛着 スタイルを認識したり推測したりすることが難し いと想定できるかもしれない。だが,Banai et al. (1998) によれば,(1) 愛着という構成概念はそも そも 2 者関係を前提としており,愛着スタイルの 特徴を強く反映した愛着行動は,相互作用の相手 によって直接観察可能であること,そして,(2) 短期間の実験室での見知らぬ他者との相互作用に おいても,愛着スタイルによる愛着行動の違いが 見 出 さ れ る こ と (e.g., Mikulincer & Nachshon, 1991) から,何らかの相互作用があれば,以前に 全く面識がない他者によっても愛着スタイルの認 識や推測は十分可能である。 そこで Banai et al. (1998) は,面識の度合いを 加味し,3 分類モデルに基づく愛着スタイル尺度 について,自己評定と 4 つの他者評定(自己評定 実施者のことをよく知る同性および異性の友人: 知り合ってからの期間は平均 1.75 年,5 分間の会 話を行ったストレンジャー A,ビデオ録画された その時の様子を見たストレンジャー B)との関連 性を検討した。その結果,(1) 自己評定は,同性 および異性の友人からの評定,ストレンジャー A からの評定と有意な関連があること,(2) 自己評 定と同性および異性の友人からの評定との関連は, 自己評定とストレンジャー A および B からの評定 との間の関連に比べて有意に強いこと(i.e., 自己 評定と他者評定との関連は,両者の間に面識があ るほど強くなること)が示された。だが,この研 究には,以下の 3 つの課題が残されていた。第 1 に,Banai et al. (1998) 自身も述べているように, この研究では,他者評定実施者の愛着スタイルの 影響が検討されていなかった。第 2 に,この研究 では,成人愛着研究で近年主流になっている 2 次 元・ 4 分類モデルではなく,3 分類モデルに基づ く尺度が用いられていた。第 3 に,Banai et al. (1998) における見知らぬ者同士が小部屋で 5 分間 の会話を行うという手続きは,ストレンジ・シ チュエーション法 (Ainsworth et al., 1978) と新奇 場面や見知らぬ他者という要素が共通していた。 そのため,Banai et al. (1998) におけるストレン ジャー A が行った評定については,確かに面識の 程度は浅いが,一方で,他者の愛着スタイルの推 測・認識のしやすさという要因が交絡している可
能性が残されていた。 上述の課題 1 については,Banai et al. (1998) で は,同性および異性の友人からの評定,ストレン ジャー A からの評定という 3 つの他者評定の間に は有意な関連があったため,他者評定実施者が誰 であろうとも類似した評定を行うことは可能であ ると考えられる。だが一方で,成人愛着研究では 今までに,愛着スタイルによる情報処理の違いが 実証されている (Shaver & Mikulincer, 2004 中尾 訳 2008)。 た と え ば , Simpson, Ickes, & Grich (1999) は,関係性が脅かされる状況下(パート ナーが魅力的な異性に目を奪われる状況下)での パートナーの思考や感情への推論については,ア ンビヴァレント型の推論は正確性が高いが,安定 型の推論はポジティヴな方向に,回避型の推論は ネガティヴな方向へとバイアスがかかることを示 した。そのため,愛着スタイル尺度における自己 評定と他者評定の関連は,他者評定実施者の愛着 スタイルによって影響を受ける可能性がある。愛 着スタイル尺度における自己評定と他者評定との 関連およびズレに寄与する要因を探るためにも, 他者評定実施者の愛着スタイルの影響について検 討する必要があろう。 そこで本研究の目的は,面識の度合いが比較的 浅い 2 者について,(1) 2 次元・ 4 分類モデルに基 づく愛着スタイル尺度 (ECR, RQ) の自己評定と他 者評定との一致度(愛着スタイルの 2 次元におけ る相関,4 分類・ 2 分類における対応性),およ び,(2) 愛着スタイルの 2 次元における自己評定 と他者評定との相関は他者評定実施者の愛着スタ イルの影響を受けるかどうかを明らかにすること であった8)。なお,本研究では,面識の深い他者 ではなく,比較的面識の浅い他者においても,調 査対象者の愛着スタイルが認識可能であるかどう かを検討するために,大学や専門学校への新入生 を調査対象とした。なぜなら,確実な避難所や安 全基地といった愛着の機能 (Ainsworth et al., 1978) が恋愛関係に備わるためには約 2 年,親友関係に おいては約 3.5 年という期間が必要であることか ら (Fraley & Davis, 1997),新入生同士は比較的面 識が浅いと想定することができるためである。 そして実施に際しては,講義室にて,同性の友 人同士で隣に座ってもらい,Banai et al. (1998) と 同様に 5 分間の会話を行うよう教示した。この手 続きは,調査実施時に,隣同士に座ったペアが既 知か未知か(あるいは,どの程度親しい友人なの か)が不明瞭であったために行った。すなわち, たとえ,ほとんど話をしたことのないペアであっ たとしても,他者の愛着スタイルへの推測が最低 限できるように行った手続きである(無論,全て のペアが既知であると事前に分かっている場合に は,この手続きは不要である)。さらに,本研究 では,新入生のペアを比較的面識が浅い者同士と して操作的に定義したが,実際には,大学入学後 に知り合ったペアや高校時代からの友人のペアな どが混在していることが想定された。そこで,こ れらのペア同士の関係性の性質について統制を行 うために,ペア間の親密性の認知についての尺度 を同時に実施し,この影響を統制して自己評定と 他者評定との関連を検討した。
方 法
調査対象 調査対象は,大学・専門学校の一年 生 120 名(平均年齢 18.6 歳,range⫽18—23;男 性 60 名,女性 60 名)であった。 質問紙および手続き 質問紙は,フェイスシー ト(年齢,性別,学部・学年)と愛着スタイル尺 度および親密性尺度から構成された。実施に際し ては,講義室にて,同性の友人同士で隣に座って もらい,Banai et al. (1998) と同様に,「大学生活 8) 成人愛着研究では,愛着スタイルの 2 次元の測定に ついては,ECR を用いることが主流になっている (Mikulincer & Shaver, 2007)。だが,この 2 次元に基 づく 4 分類の同定方法は,未だに定まっていない (中尾・加藤,2003)。そのため本研究では,ECR だ けでなく, 2 次元・ 4 分類モデルの提唱者である Bartholomew & Horowitz (1991) が開発した RQ も併 せて実施した。について(たとえば,自分のクラス,講義,サー クル,などについて),好きなことを話して,5 分 間,情報交換をしてください」と教示した。その 後,質問紙への回答を求めた。なお,以下の尺度 における評定では,7 件法(1⫽「全く当てはまら ない」から 7⫽「非常によく当てはまる」)を用い た。 愛着スタイル尺度 本研究では,以下に示す 2 つの愛着スタイル尺度について,自己評定用と他 者評定用(隣に座った相手を評定する際に使用) を 作 成 し 実 施 し た 。 他 者 評 定 用 に つ い て は , Bartholomew & Horowitz (1991) と同様に,自己評 定用愛着スタイル尺度の尺度項目の「私」の表記 を「○○さん」へと変更し,「あなたの隣に座っ ている○○さんについてお尋ねします。相手だっ たらこう答えるだろうなあということを回答する のではなく,『あなた自身が隣にいる相手に対し て感じたまま』を答えてください」と教示した。 なお,愛着スタイル尺度には,様々なバージョン (e.g., 恋愛関係版)が存在するが,本研究では,
先行研究 (e.g., Banai et al., 1998) と同様に,一般 他者版を用いた。そこで以下では,本研究で用い た尺度が一般他者版であることを明確にするため, 尺度名の後に,-GO (generalized other version) と いう表記を行う。 「見捨てられ不安」と「親密性の回避」という 愛着スタイルを構成する 2 次元を測定するための 尺度としては,「親密な対人関係体験尺度」 (ECR: Brennan et al., 1998) の一般他者版(中尾・加藤, 2004b)を用いた(以下 ECR-GO とする)。項目数 は 30 であり,7 件法で評定を求めた。本研究で も,中尾・加藤 (2004b) と同様に,ECR-GO にお ける自己評定および他者評定において,十分な内 的整合性(a 係数)が得られた(見捨てられ不 安:自己評定⫽.88,他者評定 ⫽.90,親密性の回 避:自己評定⫽.81,他者評定 ⫽.86)。 「見捨てられ不安」や「親密性の回避」と概念 的な重なりを持つ自己観や他者観の得点を測定す る た め の 尺 度 と し て は ,「 関 係 尺 度 」 ( R Q : Bartholomew & Horowitz, 1991) の日本語版(加 藤,1999)を用いた(以下 RQ-GO とする)。回答 に際し,調査対象者は 4 つの愛着スタイルの特徴 が記述してある文章を読み,それぞれについて自 分に(あるいは,隣に座っている○○さんに)ど のくらいよく当てはまるかを 7 件法で評定した。 次に,その 4 つの中から,自分に(あるいは,隣 に座っている○○さんに)最もよく当てはまるス タイルを 1 つ選択した。RQ-GO の信頼性や妥当性 については,加藤 (1999) や中尾・加藤 (2004b) に おいて確認されている。 親密性尺度 隣に座った相手との親密性を測定 する尺度としては,愛情の三角形理論尺度 (Stern-berg, 1997) の下位尺度である「親密性尺度」の日 本語版(金政・大坊,2003)を用いた。この尺度 は,親密な 2 者関係の相手を親密な異性に限定し ていないため,父親や母親,そして友人との関係 に 対 し て も 適 用 が 可 能 で あ る ( 金 政 ・ 大 坊 , 2003; Sternberg, 1997)。項目数は 10 であり,7 件法で評定を求めた9)。親密性尺度の信頼性や妥 当性については,金政・大坊 (2003) で既に確認 されている。本研究でも,金政・大坊 (2003) と同 様に,親密性尺度については高い内的整合性が得 られた (a⫽.96)。 厳密には,親密性尺度によって測定される親密 性は,2 者間の関係がどの程度親密であるのかと いうよりも,各個人が相手との関係をどの程度親 密だと認知しているのかという意味での親密性 (親密性の認知)であった。そこで,石盛・清水 (2004) を参考に,ペア間の級内相関を算出した。 その結果,ペア間の級内相関は r⫽.60 (p⬍.01) で あったため,個人ごとの評定によって関係の親密 9) 親密性尺度は,本来,9 件法(1⫽「全く当てはまら ない」から 9⫽「非常に当てはまる」)であるが(金 政・大坊,2003; Sternberg, 1997),本研究では, 愛着スタイル尺度に合わせて,7 段階で評定を求め た。
性の指標を代替可能であるとみなした。 調査時期 大学生については 2008 年 7 月に, 専門学校生については 2008 年 10 月に調査を実施 した。
結果と考察
まず,先行研究に従い,各尺度の得点を算出し た (Table 1)。具体的には,ECR-GO は中尾・加藤 (2004b),親密性尺度は金政・大坊 (2003) の結果 に従い,それぞれの尺度得点を,各因子に対応す る項目の評定値の平均として算出した。そして, RQ-GOの自己観得点と他者観得点は,Griffin &Bartholomew (1994) の手続きに従い算出した。 ECR-GOにおける「見捨てられ不安」と「親密性 の回避」との相関は,自己評定では r⫽.16 (n.s.), 他者評定では r⫽.18 (n.s.) であった。また,RQ-GO における自己観得点と他者観得点との相関は,自 己評定では r⫽.22 (p⬍.05),他者評定では r⫽.22 ( p⬍.05) であった。 愛着スタイルの 2 次元における相関 愛着スタ イルの 2 次元における自己評定と他者評定の一致 度を検討するために,ECR-GO の「見捨てられ不 安」と「親密性の回避」および RQ-GO の自己観 得点と他者観得点における自己評定得点と他者評 Table 1 愛着スタイル尺度(自己評定と他者評定)および親密性尺度における平均値と標準偏差 自己評定 他者評定 尺度名 下位尺度名 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 ECR-GO 見捨てられ不安 3.53 1.01 3.03 0.96 親密性の回避 3.56 0.95 3.40 1.03 RQ-GO 自己観得点 − 0.94 4.07 1.76 3.36 他者観得点 2.05 3.42 2.12 3.31 安定型得点 3.60 1.73 4.25 1.71 拒絶型得点 2.46 1.46 2.89 1.51 とらわれ型得点 3.97 1.81 3.05 1.46 恐れ型得点 3.03 1.78 2.38 1.35 愛情の三角形理論尺度 親密性 4.26 1.58 注.RQ-GO の安定型得点,拒絶型得点,とらわれ型得点,恐れ型得点は,4 つの愛着スタイルの特徴が記してある RQ-GO の文章へ の評定である(単一項目)。 Table 2 愛着スタイル尺度における自己評定得点と他者評定得点との相関および偏相関 尺度名 下位尺度名 相関 偏相関 1 偏相関 2 偏相関 3 ECR-GO 見捨てられ不安 .23∗ .25∗∗ .25∗∗ .26∗∗ 親密性の回避 .29∗∗ .24∗ .22∗ .19∗ RQ-GO 自己観得点 .24∗ .26∗∗ .21∗ .24∗ 他者観得点 .20∗ .19∗ .22∗ .22∗ 安定型得点 .22∗ .22∗ .20∗ .22∗ 拒絶型得点 .20∗ .21∗ .23∗ .23∗ とらわれ型得点 .21∗ .22∗ .17 .19 恐れ型得点 .22∗ .22∗ .24∗∗ .26∗∗ ∗ p⬍.05, ∗∗ p⬍.01 注.偏相関係数算出時に用いた統制変数は,偏相関 1⫽ 親密性尺度,偏相関 2⫽ 隣に座った相手の ECR-GO および RQ-GO の自己評 定得点,偏相関 3⫽ 偏相関 1 と偏相関 2 で用いた全ての変数であった。
定得点との相関を算出した(Table 2「相関」)。ま た,ペア間の親密性のばらつきを統制するために, 親密性尺度を統制変数とした偏相関を算出した (Table 2「偏相関 1」)。そして補足的に,RQ-GO における 4 つの愛着スタイルの特徴が記述してあ る文章への評定(単一項目)についても,同様の 分析を実施した。 その結果,両者の間には有意な相関があること, そこで得られた相関値は親密性の影響に左右され ないことが示された。同性の友人関係に確実な避 難所や安全基地といった愛着の機能 (Ainsworth et al., 1978) が備わるためには約 3.5 年という期間が 必要であること (Fraley & Davis, 1997),予備的に, 専門学校生に両者が知り合ってからの期間を尋ね たところ,37 組中 36 組はその期間が 1 年未満で あったことを踏まえるならば,愛着の形成という 点では,本研究における自己評定と他者評定を 行った大学や専門学校の新入生ペアの面識の度合 いは比較的浅いと考えられる。本研究において, 愛着スタイル尺度における自己評定と他者評定と の間に有意な関連が示されたことは,青年期後 期・成人期の愛着が,関係性初期の段階において も,乳幼児期における愛着と同様に,社会的に認 識可能な性質を有していることを示唆していると いえよう。 ただし,本研究で得られた自己評定と他者評定 との相関および偏相関の値自体は,必ずしも大き くはなかった。このことは,面識の度合いが比較 的浅い段階では,他者の愛着スタイルについての 認識や推測が必ずしも評定される側の自己認識を 正確に反映していないことを意味する。では,な ぜ,自己評定と他者評定との相関値は必ずしも大 きくなかったのだろうか。 その理由としては,本研究の調査対象が面識の 度合いが比較的浅いペアであったことが影響して いると考えられる。Banai et al. (1998) では,自己 評定と他者評定との間の相関は両者の間に面識が あればあるほど,強くなることが実証されていた。 このことは逆に言えば,面識の度合いが低ければ 低いほど,両者の間の関連が弱くなることを示し ている。本研究では,面識の度合いが比較的浅い 2者間における自己評定と他者評定との関連を検 討したため,相関値自体は必ずしも大きくはなら なかったと考えられる。 また,Banai et al. (1998) では,自己評定と 5 分 間の会話を行ったストレンジャー A からの評定と の間の相関は,r⫽.28—36 であった。本研究で操 作的に定義した面識の度合いは,このストレン ジャー A との間の面識よりも深いと考えられる。 そのため,本来であれば,Banai et al. (1998) と同 等あるいはそれより大きい相関値が得られると考 えられる。だが,先に指摘したように,Banai et al. (1998) における見知らぬ者同士が小部屋で 5 分 間の会話を行うという手続きは,ストレンジ・シ チュエーション法 (Ainsworth et al., 1978) と新奇 場面や見知らぬ他者という要素が共通していた。 そのため,愛着の個人差が生じやすい状況におけ る相互作用に基づき他者評定を行ったからこそ, Banai et al. (1998) では,本研究よりも大きい相関 値が得られたのかもしれない。
そして,Kenny, Horner, Kashy, & Chu (1992) に 従うならば,面識の度合いが比較的浅い段階にお ける他者の愛着スタイルの認識や推測については, 今までの経験を通して形成されたステレオタイプ (e.g., 安定型的な記述に当てはまるのは大体こう いう人だ)と相互作用時に示された実際の行動の 両者に基づき行われることになる。本研究におけ る面識の度合いは,Banai et al. (1998) におけるス トレンジャー A との間の面識の度合いよりも深 かったからこそ,逆に,今までの経験を通して形 成された愛着スタイルの尺度の記述と対応するよ うなステレオタイプと大学・専門学校に入学して から実際に観察したペアを組んだ相手の行動の両 者が互いに干渉をし合い,結果として相関値自体 がより小さいものとなったのかもしれない。 愛着スタイルの 4 分類・ 2 分類における一致度
次に,愛着スタイルの 4 分類と 2 分類について, 自己による分類と他者による分類との一致度を検 討した。RQ-GO における一致度のパーセンテージ を算出した結果,4 分類では 38.0%,2 分類では 53.7%であった。そして,カッパ係数は,4 分類 では .09 (n.s.),2 分類では .10 (n.s.) であった。ま た,2 分類におけるファイ係数は .11 (n.s.) であっ た。 ECR-GOについては,Figure 1 の 2 次元・ 4 分類 モデルに基づき,4 分類および 2 分類を決定し, それらにおける自己による分類と他者による分類 との一致度を検討した。具体的には,ECR-GO の 自己による分類については,まず,「見捨てられ 不安」と「親密性の回避」の自己評定の平均値よ りも得点が高いか低いかに基づき,それぞれにつ いて,高群と低群を決定した。そして,Figure 1 に基づき,これらの群を組み合わせて,4 分類を 決定した。また,2 分類については,4 分類の安 定型はそのまま安定型とし,4 分類の拒絶型・と らわれ型・恐れ型は併合して不安定型とした。な お,他者による分類についても同様の手続きで, 4分類と 2 分類を決定した。 ECR-GOにおける自己による分類と他者による 分類との一致度のパーセンテージを算出した結果, 4分類では 39.5%,2 分類では 68.9% であった。そ して,カッパ係数は,4 分類では.19 ( p⬍.01),2 分類では .24 (p⬍.01) であった。また,2 分類にお けるファイ係数は .24 (p⬍.01) であった。 したがって,ECR-GO については,愛着スタイ ルの 2 次元の場合と同様に,面識の度合いが比較 的浅い場合であっても,自己による分類と他者に よる分類との間には,値は低いながらも有意な関 連が得られた。だが,RQ-GO については,4 つの 愛着スタイルの特徴が記してある文章への評定に おいては自己評定と他者評定との間に有意な関連 があったが (Table 2),自己による分類と他者によ る分類との間には有意な関連が見出されなかった。 したがって,面識の度合いが比較的浅い場合には, 他者の愛着スタイルの特徴を認識することは可能 であるが,強制的に 1 つの愛着スタイルを分類す ることは難しいのかもしれない。 他者評定実施者の愛着スタイルの影響 最後 に,他者評定実施者の愛着スタイルによって,愛 着スタイル尺度における自己評定と他者評定との 関連が左右されるかどうかについて,偏相関分析 を用いて検討を行った。具体的には,統制変数と して隣に座った相手の ECR-GO の 2 因子と RQ-GO の自己観得点・他者観得点の自己評定を用いた偏 相関分析を行った(Table 2「偏相関 2」)。その結 果,これらの分析における偏相関係数は,上述の 分析における相関係数(Table 2「相関」「偏相関 1」)と比べて,値が極端に低くなってはいなかっ た。さらに,このことは,親密性尺度とこれら 4 つの尺度得点を統制変数として行った偏相関分析 (Table 2「偏相関 3」)においても同様であった。 したがって,愛着スタイル尺度における自己評定 と他者評定との関連は,他者評定実施者の愛着ス タイルには大きく左右されないことが示唆された。 つまり,愛着スタイルによる情報処理に違いはあ るものの (Mikulincer & Shaver, 2007),その情報処 理の違いが,関係性初期の段階において,他者評 定に大きなバイアスを与える可能性は低いことが 示唆された。 今後の課題 本研究は,本邦における愛着スタ イルの自己評定と他者評定との間の関連を実証的 に検討したはじめての研究である。だが,端緒的 研究であるが故に,面識の度合いについての操作 的定義および統制を大筋では行うことができてい るものの,厳密性には欠ける部分がある。今後は, 面識の度合いをより詳細に定義・測定し,個人の 持つ愛着スタイルの尺度の記述と対応するような ステレオタイプと実際に観察された他者の行動と が,どのように相互規定的に影響を及ぼし合いな がら,他者についての愛着スタイルの認識を形成 あるいは変化させるのかについて,より詳細な検 討を行う必要があろう。そして,愛着スタイル尺
度の自己評定と他者評定との関連に与える他者評 定実施者の愛着スタイルの影響については,関係 性の進展にかかわらず小さいのか,あるいは関係 性が進展すればするほど大きくなるのかについて 検討を行う必要があろう。 引用文献
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― 2009.7.31 受稿,2010.5.7 受理―
Do Dyads Recognize the Other’s Attachment Style in a New
Acquaintanceship?: Examining the Agreement of Self and
Other Ratings on Attachment Style Scales
Tatsuma N
AKAOFaculty of Education, University of the Ryukyus THEJAPANESEJOURNAL OFPERSONALITY2010, Vol. 19 No. 2, 146–156
This study examined the agreement (correlations and correspondences) of self and other ratings on at-tachment style scales, and whether these correlations were influenced by the atat-tachment style of the part-ner for the other-rating in dyads of new acquaintanceship. Participants were 60 pairs of university freshmen. The main results showed that two dimensions of attachment style had low but significant correlations be-tween the self-rating and the other-rating. These correlations were not influenced by the attachment style of the partner. These findings might indicate that attachment style is a recognizable personality trait in the ini-tial phase of close relationships.