緒 言 子宮内膜症は生殖女性の3∼10%にみられ 〔1〕,腸管子宮内膜症は子宮内膜症患者の3∼ 37%に合併すると報告されており〔2―4〕,稀で はないものの日常の診療では腸管子宮内膜症は 診断,治療に苦慮することが多く,術前の診断 率は21∼37%との報告もある〔5〕.今回われわ れは直腸,S 状結腸の子宮内膜症を術前に診断 し,腹腔鏡下に妊孕性を温存した,直腸および S 状結腸切除を含む子宮内膜症病巣除去術を施 行したので報告する. 症 例 36歳:経妊0,経産0. 主訴:両側卵巣子宮内膜症性N胞の治療. 既往歴,家族歴:特記事項なし. 月経歴:初経11歳,過多月経(−),月経痛は
VAS(Visual Analogue Scale)で50/100,鎮 痛 剤を時々服用する程度,月経時以外の下腹部痛, 腰痛は特になく,性交痛は20∼30/100,排便痛 は月経時のみ30/100で血便なし. 現病歴:挙児希望で前医を受診し両側卵巣のN 胞性腫瘤を指摘された.MRI 検査で子宮内膜 症性N胞が疑われ,不妊治療前の手術を勧めら れ当科紹介受診となった. 初診時内診所見:子宮は鶏卵大,可動性不良, 両側付属器はN胞性に腫大し可動性不良,左側 仙骨子宮靭帯とダグラス窩には圧痛を伴う硬結 を認めた.超音波断層法では子宮は正常所見, 右卵巣は長径8.4cm,左卵巣は長径7.2cm に腫 大,両側ともに多房性N胞性で内容は砂粒状の エコー輝度を呈していた. MRI(前医):子宮は正常所見 右卵巣が長径 〔一般演題/手術1〕
腹腔鏡下に直腸および S 状結腸切除を施行した重症子宮内膜症の1例
松山赤十字病院産婦人科 本田 直利,横山 幹文,久保 絢美,小玉 敬亮 宮崎 順秀,兵頭 慎治,河本 裕子,妹尾 大作 図1 MRI 両側卵巣はそれぞれ長径9cm 大と7cm 大の多房性N胞性腫瘤を 形成,内容は血性で子宮内膜症性N胞が疑われる(→) 子宮後壁,腟円蓋部付近とN胞性腫瘤,直腸が索状構造により密 に連結している.高度の癒着疑い(→)9cm,左卵巣が長径7cm に腫大した多房性N 胞性腫瘤であった.内容は T1強調像で高信号 を呈しており血性の子宮内膜症性N胞が疑われ た.また,T2強調像で子宮後壁,後腟円蓋部 付近と左N胞性腫瘤,直腸が索状構造で連結し 高度の癒着を疑わせた(図1).
腫 瘍 マ ー カ ー:CA125 219.4U/mL, CA199 50.8U/mL, GAT 12.2U/mL.
MRIゼリー法および造影MRIゼリー法:T2強 調像で直腸の内腔に突出する直腸壁の肥厚がみ られ造影により肥厚部にも造影効果がみられ, 直腸子宮内膜症と診断した(図2). 注腸造影検査:直腸前壁と S 状結腸に片側性で 辺縁不正な集束像,狭窄像を認め直腸,S 状結 腸子宮内膜症と診断した(図3). 排泄性尿路造影:左尿管の拡張,尿流の停滞を 認め,尿管内膜症と診断した(図4). 治療方針を検討.腸管子宮内膜症の症状が軽 度でありホルモン療法による保存療法も考慮し たが,消化器内科専門医の意見では将来的に腸 管狭窄∼閉塞の可能性が高く外科的切除が望ま しいとのことであった.患者は挙児希望があり, 妊孕性温存でかつ腸管切除を含めた根治手術を 希望しため,産婦人科,外科で十分なインフォ ームドコンセントを得たうえで腹腔鏡下手術を 行うこととした.術前に2ヵ月間ジエノゲスト を投与した.手術2日前に入院,術前日は絶食 とし尿管ステントの挿入とニフレックの服用を MRI ゼリー法 造影 MRI ゼリー法 図2 MRI ゼリー法でみられた直腸前壁の肥厚に造影 効果がみられ,便塊と鑑別可能となり直腸内膜症と診断. 注腸造影検査 図3 直腸前壁と S 状結腸に片側性で辺縁不整な集束 像,狭窄像を認め腸管子宮内膜症と診断(→) 図4 左尿管の拡張(尿流の停滞)
行った. 手術 硬膜外・麻酔併用全身麻酔下,砕石位で臍窩 に10mm のスコープ用のトロッカーを挿入,腹 腔内圧を12mmHg とし両側下腹部と臍左側部 に5mm のトロッカーを挿入,子宮内腔にはマ ニピュレーターを挿入した(図5―a). 腹腔内は子宮後壁,両側の腫大した卵巣,S 状結腸が癒着しダグラス窩は完全閉鎖の状態で あった(図6―a).両側卵巣子宮内膜症性N胞 の内容を吸引後にN胞壁を摘出した.周囲の臓 器から癒着を剥離した後に両側付属器を側臍靭 帯に固定し以後の操作の邪魔にならないように した.そして右側広間膜後葉を切開,尿管を剥 離し右外側直腸側腔を展開,側方アプローチで 直腸と子宮後壁,後腟円蓋を正中に向かって剥 離した(図6―b).次に S 状結腸を子宮後壁と 左側広間膜後葉から剥離,左直腸側腔を展開し, そこから正中に向かって直腸と後腟円蓋部を剥 離してダグラス窩を開放した(図6―c).ダグ ラス窩を開放すると直腸と S 状結腸の癒着部 が同定できた(図6―d). ここで当院外科と交代した.腸管の観察後, S 状結腸の癒着部口側と直腸の癒着部肛門側で 腸管を切離し,吻合することにした.右上腹部 に新たに5mm のトロッカーを挿入した.(図 5―b)S 状結腸病変部の腸間膜を切開,直腸間 膜へ向けて間膜の処理を行い直腸の内膜症病変 部位まで間膜を処理しその肛門側を全周性に剥 離後,自動縫合器で直腸を切離した(図6―e). 臍窩の切開創を5cm に延長し切離した結腸を 腹腔外へ誘導し口側の切離部を決定,腸間膜を 処理後,S 状結腸を切離,摘出した.口側結腸 断端からアンビルヘッドを挿入し挿入口は自動 図6―a 腹腔内所見(ダグラス窩は完全閉鎖) 図6―b 側方アプローチで後腟円蓋から直腸を剥離 図5―a 婦人科手術時のトロッカーの位置 図5―b 外科手術時のトロッカーの位置
縫合器で切離した.その後結腸を腹腔内に戻し S 状結腸断端と直腸断端を自動吻合器で側端吻 合を行った(図6―f).吻合部の緊張をとるた めに下行結腸,横行結腸を後腹膜から受動した
後に air leakage test を行い異常がないことを 確認,腸管切除が終了し婦人科チームと交代し た.腸管切除が終了した時点で腹腔内を観察す ると左尿管が拡張し基靭帯部分での狭窄が疑わ 図6―c 開放されたダグラス窩 図6―d 直腸と S 状結腸の癒着部位 図6―e 直腸の切離 図6―f S 状結腸と直腸の側端吻合 図6―g 腸管切除後 左尿管の拡張を認める 図6―h 左尿管周囲の繊維性狭窄の解除
れた(図6―g)ため尿管周囲の線維化した組 織を切開し尿管の狭窄を尿管トンネルの入口ま で解除した(図6―h)).癒着剥離部に癒着防 止材(インターシード,ジョンソンエンドジョ ンソン社)を貼付し手術を終了した.手術時間 は8時間14分(婦人科5時間44分,外科2時間 30分),出血量315mL であった.術後診断は重 症子宮内膜症(R―ASRM 112点),両側子宮内 膜症性N胞,腸管子宮内膜症,尿管子宮内膜症 であった.摘出標本(図7)では腸管内膜症の 病変に一致して粘膜面には,ひだの収束像がみ られ,その断面では粘膜下の血腫や固有筋層の 肥厚がみられた.組織学的にも固有筋層内に島 状に分布した子宮内膜症病巣が確認できた(図 8). 術後経過は術後1日目に排ガスを認め,水分 摂取開始,術後4日目に流動食から開始,術後 合併症なく経過し,術後7日目に退院した.術 後3ヵ月で撮影した排泄性尿路造影では左尿管 の拡張は改善し(図9),子宮内膜症による諸 症状は消失,術前に評価した VAS はすべて0 ∼10/100に改善していた.現在は前医で不妊治 療中である. 考 察 腸管子宮内膜症の診断には苦慮することが多 い.月経周期に関連してイレウス症状を呈した り,下血を認めた場合は腸管子宮内膜症を疑う が本症例のように月経随伴症状が軽度の症例も 存在する.MRI ゼリー法が直腸子宮内膜症の 診断に有用と報告されていて〔6〕,腟直腸診で 骨盤深部子宮内膜症を疑ったときには考慮する 検査と思われる.今回の症例では MRI ゼリー 法に加えて卵巣N胞の悪性転化を鑑別するため に造影を行ったが,卵巣N胞壁には造影効果は 認められず,肥厚した直腸前壁には造影効果が みられ直腸子宮内膜症が診断可能であった.直 腸前壁に便塊があった場合は直腸子宮内膜症と の鑑別ができないこともあるが,直腸前壁に造 影効果がみられたことで直腸子宮内膜症の診断 が確認できた.しかし MRI ゼリー法では検査 範囲が直腸から S 状結腸の Ra までに限られ, より口側の S 状結腸では診断は困難である. そのために注腸造影が有用である.注腸造影で S 状結腸にも片側性で辺縁不正な収束像と狭窄 像を認め,S 状結腸子宮内膜症が明らかにな った. 腸管子宮内膜症の治療方針は挙児希望の有無 図9 尿管狭窄の改善 図7 腸管内膜症の病変に一致して粘膜面ではひだの 収束がみられ,断面では粘膜下の血腫,固有筋 層の肥厚がみられる 図8 子宮内膜症の組織が島状に固有筋層に散在して いる
に左右される.挙児希望がある症例,あるいは 薬物治療では管理困難な症例には外科的な子宮 内膜症病巣除去が必要になる.腸管子宮内膜症 の96,6%は S 状結腸以下に発症すると報告さ れている〔7〕.子宮内膜症病巣除去術を施行す るにあたって直腸の切離が必要になるが,その ためには直腸と子宮後壁,後腟円蓋の癒着を剥 離しダグラス窩を開放しなければならない.今 回の症例では以前われわれが報告した〔8〕よ うに直腸側腔を展開し,そこから正中に向かっ て癒着剥離を進める側方アプローチで直腸を損 傷することなくダグラス窩の開放が可能であっ た.この側方アプローチにより直腸を全周性に 癒着から開放し直腸切断することができた.腹 腔鏡下の腸管子宮内膜症手術は合併症の発症率 も高く注意が必要である.Ribeiro らは125例の 症例で縫合部の膿瘍や瘻孔形成などの合併症を 5.6%に認めたと報告している〔9〕.また Balles-ter らは直腸内膜症における腸管切除術では 29%に術後排尿障害を認めており〔10〕,手術 には十分なインフォームドコンセントを得てお くことが重要である.今回の症例では腸管の縫 合は端々吻合ではなく側端吻合を行った.側端 吻合は端々吻合と比べ血流に優れていて〔11〕, 術後の縫合不全は側端吻合が少ないとの報告も あり〔12〕今回は側端吻合を選択した.術後は 縫合不全等の腸管手術の合併症も術後排尿障害 も認めず経過順調であった.
尿管内膜症は intrinsic type と extrinsic type に分類される〔13〕.重症例では両者が混在し ていて鑑別が困難な症例も存在する.尿管内膜 症の手術療法は軽度の extrinsic type では尿管 剥離のみでいいという意見から,内膜症の再発 や術後の癒着による再狭窄も考慮して病変部の 切除と尿路再建術を勧める意見もある〔13〕. 本症例では術前の排泄性尿路造影と術中の尿管 の拡張所見から extrinsic type と判断,子宮動 脈の直下まで尿管外側の内膜症による線維性狭 窄を解除することで,術後排泄性尿路造影での 尿管所見の改善がみられた. 腸管子宮内膜症を合併した不妊症の症例では 手術療法が選択される.腸管切除,特に直腸, S 状結腸切除は侵襲が大きいが腸管子宮内膜症 を残存させた状態では術後の不妊治療とともに 腸管子宮内膜症は増悪してしまうため術前の評 価が重要になる.奥らは腸管切除後に積極的に 治療を試みた場合の妊娠例は66%で,全例術後 早期に妊娠が成立しており術後妊娠の可能性が 高い golden time は術後1∼2年と報告してい る〔14〕.本症例でも術後2ヵ月経過した時点 から不妊治療を開始しており,早期の妊娠を期 待している. 文 献
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