海のエコラベル MSC 認証 こうしたエコラベルの一つに 持続可能な漁業 で獲られた水産物に表示が認められるエコラベル MSC ラベル があります 制度の運営機関である MSC( 海洋管理協議会 :Marine Stewardship Council 本部 : ロンドン ) が管理するエコラベルで

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全文

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「エコラベル」とは何か

昨今、我々が手にするさまざまな製品に、“ エコマーク ” や “ 再 生紙使用マーク ” といった、その製品が環境に配慮したもの であることを示す「エコラベル(環境ラベル)」が表示されて います。生活者に選択肢を提示して、環境負荷への低減を目 指しているラベルですが、最近では種類も豊富になってきて います。 世界で最初に導入された「エコラベル」制度は、1978 年に旧 西ドイツで始まった「ブルーエンジェル」(www.blauer-engel. de)で、現在はドイツの連邦環境庁などが運営主体となって、 「環境保全並びに消費者保護に関する関心を促進し、特に環境 保全についての包括的な配慮、さらに高水準な労働安全衛生 および使用品質をも満たす製品およびサービス」にマークが 授与されています。 一方、日本においては、1989 年に “ ちきゅうにやさしい ” の コピーでおなじみの「エコマーク」制度が始まりました。環 境庁(当時)所管の財団法人日本環境協会によって制定され たもので、「エコマーク」を使用・表示するには、同協会の認 定および契約が必要となります。 「エコマーク」は、国際標準化機構(ISO)の規格に則って運 営されており、ISO14024(環境ラベル及び宣言・タイプⅠ環 境ラベル表示・原則及び手続き)で「自主的で多様な基準に 基づいた、第三者機関によってラベルの使用が認められる制 度」となっています。なお、ISO が定めたエコラベルの国際 規格には(図表1)の 3 つのタイプがあります。 世界的に水産物の消費が増大しています。世界人口の増加、欧 米の健康志向ブーム、BRICs などの新興国の経済的成長など、 さまざまな要因によるものですが、一方で、乱獲や環境破壊な どの影響で、水産資源そのものが減少しています。こうしたこ とから、世界各国で「持続可能な海洋資源の利用」が模索され ています。なかでも欧米を中心に取り組まれている「水産物の エコラベル」について、内外の現状を紹介します。 文 / 松尾伸彦 事業者の申請に応じて審査され第 三者認証によるもの エコマーク MSC マリン・エコラベル・ジャパン  など 事業者の自己宣言による環境主 張、第三者による判断はないもの グリーンマーク 再生紙使用マーク など 製品の環境負荷の定量的データの 表示を行う、第三者の認証による もの(ライフサイクルアセスメン トに基づく定量的情報表示) エコリーフ環境ラベル など ■図表 1 ISO が定めた3つの国際規格と主なエコラベル

生活者の選択が水産資源を守る

「水産物のエコラベル」

③ISO14025 ①ISO14024 ②ISO14022

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海のエコラベル「MSC 認証」

こうしたエコラベルの一つに、「持続可能な漁業」で獲られた水産 物に表示が認められるエコラベル「MSC ラベル」があります。制 度の運営機関である MSC(海洋管理協議会:Marine Stewardship Council、本部 : ロンドン)が管理するエコラベルで、持続的に水 産資源を利用できるよう、水産資源や海洋環境を守って獲られた 水産物に与えられます。 MSC は、1997 年、16 世紀から続くタラの世界 3 大漁場の一つと されてきたカナダ東部、大西洋グランドバンク海域の資源の枯渇 がきっかけとなって生まれました。 この海域では全盛期に年間 150 万トンあったマダラの漁獲高が、 わずか 5 万トンにまで落ち込んでしまいました。そこで、この海 域のマダラを原料とし、加工食品を製造していたユニリーバが、 取り扱う水産物を持続可能な漁業からの調達に限ると宣言。持続可 能なマーケットシステムを探っていた WWF(世界自然保護基金) と協力して MSC が生まれました。その後、1999 年にはユニリーバや WWF の手 を離れ、国際非営利団体(NPO)となって運営されています。

「MSC 認証」のコンセプト

MSC は、漁業における過剰な漁獲等による資源枯渇を防ぐため、「持続可能な漁業」 のための 3 つの原則を掲げています。 ①資源の持続可能性 過剰な漁獲を行わず、資源を枯渇させないこと。資源が枯 渇している場合は、回復できる場合のみ漁業を行うこと。 ②生態系の保全 漁場となる海の生態系や生物の多様性、生産力等を維持で きる形で漁業を行うこと。 ③有効な管理システム 国際的、または、国内、地域的なルールに則った漁業を行 うこと。また、持続可能な資源利用を行うための制度や体 制をつくること。 こうした原則に基づき、中立的な立場にある第三者機関が厳格な審査を行い、資源・ 生態系・規則を守った漁業者が認証されます。 さらに、認証された漁業者からの水産物は、流通、製造、加工に至るすべての過程 で第三者認証機関によって「CoC(Chain of Custody= 流通加工管理)認証」を受 けることが必要で、認証を受けて初めて「MSC ラベル」を付けた商品を販売する ことができます。 「CoC 認証」とは、加工・流通チェーン内で MSC 漁業認証製品を非認証製品から 確実に分離し、混入を防ぐための仕組みで、加工業者、卸売業者、レストラン、小 売店など、サプライチェーンのそれぞれの過程で認証を受ける必要があります。た だし、「MSC ラベル」は最終加工者が付けることになっているので、「MSC ラベル」 の付いた商品を加工しないで販売する場合は「CoC 認証」を取得する必要はあり ません。 「MSC ラベル」をつけて店頭に並ぶのは、こうした厳しい審査をパスしたことにほ かなりません。生活者は、水産資源や海洋環境に配慮した、トレーサビリティーが 確保された製品を、安心して選択、購入することができるのです。 量販店の店頭に並ぶ MSC 認証マークの商品。 海のエコマークの説明文が掲出されている。

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「MSC ラベル」の現状

MSC による認証審査は 1999 年から始まり、2000 年 3 月に最初の漁業認証が確定しました。オーストラ リア西部のロックロブスター(イセエビの一種)漁と、イギリス・テムズ川のニシン漁です。 以後、アメリカ・アラスカ湾のサケやスケソウダラなど、認証漁業は世界で 51 漁業に達し(主な漁業は 図表2)、認証審査中の漁業も 108 に達しています(2009 年 7 月現在)。現在、世界の天然サーモン漁獲 量の 42%、世界の主要白身魚(マダラ、スケソウダラ、ヘイク等)の漁獲量の 40%、世界のロブスター 漁獲量の 18%が、MSC 認証漁業による漁獲とされています。 2009 年 1 月に、「MSC ラベル」付きの商品は 2,000 品目を超え、4 月末現在で約 2,500 品目に達していま す(図表2)。 アメリカが本拠の世界最大のスーパーマーケットチェーン「ウォールマート」では、北米店舗における生 鮮・冷凍水産物を 2011 年までに 100% MSC 認証とする目標を掲げています。これは単に MSC 認証製品 という付加価値だけでなく、供給元である「持続可能な漁業」を末永く支援することを表しています。 なおこの動きは世界的に広がっており、数多くの小売チェーン店や単独店が MSC 認証漁業から水産物を 調達しており、「MSC ラベル」の付いた商品が数多く販売されています。 また、欧米のレストランでは CoC 認証を取得し、「MSC ラベル」が付された素材を使っていることをメ ニューにうたう店舗が現れ始めており、環境意識が高いとされる欧米の生活者の支持を集めています。 さらに、KLM オランダ航空では、ワールド・ビジネスクラスの乗客の食事に、MSC 認証の水産物を提供 するプロジェクトを開始しています。 MSC 認証に課題がないわけではありません。最大の課題は認証にかかる費用と時間です。近年は審査も 簡素化され、より短期間でコストのかからない審査になっているようですが、漁業の規模にもよりますが、 第三者認定機関に支払う費用は数百万円から数千万円に達し、審査期間も最低で 10 ヵ月、長ければ 2 年 間に達する場合もあったといいます。 しかし、認証を受ければその水産物の付加価値は高まります。環境に優しい水産物は、今後大きなブラン ドとなるのは間違いありません。さらに、右肩上がりの MSC ラベル付きの製品数の推移を見てもわかる ように、持続可能な漁業で獲られた水産物は、世界から注目される商品であるため、新たな市場への参入、 商機の増大、永続的な漁業経営などが恩恵として漁業者にもたらされることになります。 1,500 2,000 2,500 (品目数) 0 500 1,000 2,474 2 009 ・ 4     2 009 ・ 1 2 008 ・ 1                       2 007 ・ 1                     2 006 ・ 1                     2 00 5 ・ 1                     2 004 ・ 1                     2 003 ・ 1                     2 00 2 ・ 1   2 001 ・    10 「MSC」資料より ■図表 2 MSC 認証を受けた主な漁業と MSC ラベル付き製品数の推移 MSC のロゴマーク www.msc.org/jp 漁業(国名) 魚種 オーストラリア西部 ロックロブスター アラスカ(アメリカ) サケ ニュージーランド、南島西海岸など ホキ 南アフリカ西海岸など ヘイク ベーリング海・アリューシャン列島(アメリカ) スケソウダラ アラスカ湾(アメリカ) スケソウダラ ベーリング海・アリューシャン列島(アメリカ) マダラ 北太平洋(アメリカ) オヒョウ アラスカ(アメリカ) ギンダラ 北海(EU / オランダ) ニシン アルゼンチン EEZ ホタテガイ 北極海・北海(ノルウェー) セイス(シロイトダラ) 北海(イギリス) ニシン カナダ北部 ホッコクアカエビ 京都府沖(日本) アカガレイ・ズワイガニ

生活者の選択が水産資源を守る

「水産物のエコラベル」

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日本のマーケットにも普及しつつある MSC とその課題

日本における「MSC ラベル」認証第 1 号は、2008 年 9 月の京都府 機船底曳網漁業連合会(京都府舞鶴市)によるズワイガニとアカカ レイ漁です。同会によるズワイガニの漁獲は、1970 年には 1,800 ト ンであったものが、1992 年には 850 トンにまで落ち込んでいました。 危機感を感じた同会の会員たちは、厳しい禁漁期間や操業禁止区域 を定め、また底引き網の目を拡げて未成熟のカニを逃す工夫をする など、「持続可能な漁業」を追究しました。その結果、2003 年には ズワイガニの漁獲量は 1,080 トンにまで回復しました。 また、同会のアカカレイ漁では、禁漁期間、獲って良いサイズ、保護区などを厳し く設定、さらに混獲をさける網の改良等厳しい規制内容を遵守することで漁獲量を 回復、MSC 認定に至りました。 なお、現在は、遠洋カツオ一本釣り漁業(土佐鰹水産グループ)が MSC 認証の本 審査を受けており、早ければ今秋にも認証を受ける見込みです。一本釣りはカツオ を一匹一匹さおで釣り上げ、必要以上に捕獲をしません。カツオ資源の保全と環境 に配慮した日本伝統の漁法が認められることになるのです。 一方、流通業界においてもMSCに対する認知が広がってきています。流通企業グルー プの最大手であるイオンが 2006 年 11 月から、日本生協連が 2007 年 10 月から、そ れぞれ「MSC ラベル」付き商品の販売を開始しており、トレーサビリティーが確保 された、持続可能な漁業による「MSC ラベル」付きのサケ類やたらこ・明太子など を取り扱っています。 このほかにも、大手量販店の西友やダイエーが「MSC ラベル」を付したサケの切り 身やたらこ・明太子を販売。さらに地方の中堅食品スーパー、百貨店などでも「MSC ラベル」を付けた製品の販売が始まっています。

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日本版「海のエコラベル」マリン・エコラベル・ジャパン

一方で、日本独自の「水産物のエコラベル」も存在します。漁業関係者、水産物の 流通業者、漁協代表者、その他の識者などから構成される「マリン・エコラベル・ジャ パン」で、制度の運営は、大日本水産会内に設置する「MEL ジャパン」が行ってい ます(MEL = Marine Eco-Label)。

MEL ジャパンは大日本水産会が 2006 年 10 月に設立した「水産エコラベル対策検 討委員会」によって準備作業が開始され、水産物の持続性について消費者をはじめ、 社会に対していかに伝えることが望ましいのかが検討されました。 翌 2007 年 12 月には「水産資源の持続的利用や生態系の保全を図るための資源管理 活動を積極的に行っている漁業者を支援し、かつ、生活者をはじめとする関係者の 水産資源の持続的利用や海洋生態系保全活動への積極的参加を促進すること」を目 的とし、「マリン・エコラベル・ジャパン(MEL ジャパン)」が正式に発足しました。 MEL ジャパンは本部にあたる「協議会」が全体の運営を行い、申請者とは独立した 公平で中立的な第三者機関が審査を行います。認証は主に漁業者に対する「生産段 階認証」と、「流通加工段階認証」があり、申請者は「MEL ジャパン」の事務局に 審査申込書を提出します。  「生産段階認証」の認証基準は、 ①管理体制に関する要件 ( 確立された実効ある管理制度の下で漁業が行われている こと ) ②対象資源に関する要件 ( 対象資源が持続的に利用される水準を維持していること ) ③生態系への配慮に関する要件 ( 生態系の保全に適切な措置がとられていること ) の 3つです。 この「MEL ジャパン」によるマリン・エコラベル認証第 1 号(生産段階認証)が、 鳥取県境港の日本海かにかご漁業協会によるベニズワイガニ漁業で、同会所属の大 臣許可船 12 隻(鳥取県、島根県、新潟県)について認証が行われ、流通加工段階認 証も現地の 6 社について 2008 年 12 月に認められました。 同会のかにかご漁業者は漁具に小型ガニを逃がすための脱出口(リング)を付ける など資源に優しい取り組みを積極的に続け、その努力が認められ今回の認証取得に 繋がりました。認証を受けたベニズワイガニは、境港市内の直販所で購入できるほか、 インターネットでの販売なども行われています。 また、2009 年 5 月には、静岡の「さくらえび2そう船びき網漁業」と、青森の「十三 湖シジミ漁業」についても生産段階認証と流通加工段階認証の両方が認証されまし た。「さくらえび2そう船びき網漁業」については、由比港漁業協同組合の直販所で、 「十三湖シジミ漁業」についても「ゆうパック」を利用した漁業者の直販によるカタ ログ販売を通じて、一般消費者が「海のエコラベル」付きの製品を手に入れること ができることになりました。 マリン・エコ・ジャパンのロゴマーク

生活者の選択が水産資源を守る

「水産物のエコラベル」

日本海かにかご漁業協会ではさまざまな活 動を行っており、漁業協会自らが境港市内の 小学校で「ベニズワイガニの出前授業」を行っ ている。同授業ではその日水揚げされたばか りのカニを 5 年生全員 (66 名 ) に配り、ベニ ズワイガニの生態や漁業の概要、また、マリ ン・エコラベルを取得するに至った資源管理 に対する漁業者の取り組み等について講義を したのち、子供たちが実際にキッチンバサミ で各自調理、試食までを段階的に体験したと いう。「海のエコラベル」取得をきっかけに、 このような水産資源管理の実態を地元の人々 に伝える取り組みも行われるようになってい ます。

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── WWF による ASC 認証

天然だけでなく、養殖の水産物を対象とした「水産物のエコラベル」 も誕生しつつあります。

2009 年 2 月、WWF は、持続可能な形で養殖された水産物を認証する、 新しい国際的な認証機関 ASC(Aquaculture Stewardship Council: 水産養殖管理協議会)の設立を支援することを発表しました。 この機関は、先述の MSC の養殖版で、天然の水産物を認証する MSC に対し、ASC が認証するのは、養殖された水産物です。 ASC は今後 2 年以内に設立されることになっており、第一段階としてサケ、エビ、 マス、アワビ、ムール貝、ハマグリ、カキ、ホタテ貝など、11 種の養殖業を対象と した、認証審査のための基準作りを現在進めています。 海外で持続可能な漁業によって MSC 認証を受けた水産物であっても、日本国内の 加工業者や流通業者が CoC 認証を受けていないため、「MSC ラベル」を製品に付け ることができず、“ 実は MSC 認証 ” といった輸入水産物が残念ながら日本の市場に 出回っています。 日本の市場に「MSC ラベル」の付いた製品が並んだのは 2006 年で、量販店などで の販路が拡大しているとはいえ欧米に比べると、まだまだこれからの取り組みでは あります。 水産物の消費大国である日本は、世界の中でも特に環境に配慮した水産資源の管理 が求められている立場にあります。今後は、エコラベルを見た生活者が水産物の資 源管理について考え、多くの商品の中から選択できるようになることが重要です。 日本で「水産物のエコラベル」の認知度を高めることが、結果的に世界の漁業を「持 続可能な漁業」へ向かわせることにつながっていくのです。 参考資料 /『MSC 認証制度−制度の概要と普及動向』石井幸造(2008.11/ 日本水産学会誌 Vol.74,No.6)、『マリン・エコラベル・ジャパン−未来につなげよう、海と魚と魚食文化!』西村雅 志(2008.11/ 水産振興 第 491 号)など 取材協力 / 海洋管理協議会(MSC)、社団法人大日本水産会

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参照

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