記名株券の除権判決と善意取得者
著者
小関 健二
著者別名
K. Koseki
雑誌名
東洋法学
巻
23
号
2
ページ
p57-90
発行年
1980-04
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00006044/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja記名株券の除権判決と善意取得者
小
関
健
二
一 序 説 8 はじめに 口 実態調査の結果 日 判例 國 学説 二 除権判決の効力 8 公示催告・除権判決の制度 ⇔ 公示催告の申立ができる場合 四 結 語 国 除権判決後株券再発行前の名義書換 口 名義書換後の善意取得者の地位 8 名義書換前の善意取得者の地位 三 除権判決の善意取得者に対する効力 ㈱ 除権判決の積極的効力 画 名義書換後の株券は無効となるか 国 除権判決の消極的効力 東 洋 法 学 五七記名株券の除権判決と善意取得者 五八 序 説 0 はじめに 株券の除権判決があった場合に、当該喪失株券につき善意取得者があるときは.除権判決雛矯得た株券襲失者レ弧善意 取各者との問の権利の優劣訟ついて困難な閥題が生ずる、更に.記名株券の場合には.名義書換の問題もからみ一層 複雑な事態に発展する。しかし.これらについては.いくつかの判例もあり.学説においても論じ尽された感もある が、最近.これが直接間題となった事件で.東京地方裁判所と東京高等裁判所で相反する判決がなされた︵後記縢蘭︶ のを機会に、従来の判例・学説を私の理解のもとに整理し、実務の実態をふまえた上.株券喪失者と善意取得者だけ でなく、発行会社の立場も十分考慮に入れて私見を述べたいと思う。 ⇔ 実態調査の結果 日曜縫を除いて毎日発行される官報を見ると.ほとんどどの官報にも手形.小切手、株券などの公示催告や除権判 決の公告が掲載されており.その公告のない官報は数える程しかない。司法統計年報によれば、昭和五二年の一年間 に全国の簡易裁判所に申立のあった公示催告事件は九〇二四件で、そのうちもっとも多数の事件を取扱う東京簡易裁 判所において、昭和五二年度に申立のあった事件を調査したところ、次表のとおりであった。
東京簡易裁判所昭和52年公示催告事件 2,工21件 数 件 玄公 完、島・ 理 受 ユ,639件 数 件 事 券 株 1件 下 却 立 申 1件
公示催告前取下
1,637件 告 催 示 公 三29件公示催告後取下
14件 公示催告後一部取下 1件 了 満 止 休 1,507件 決 判 権 除株券事件の処理状況
註(1)却下の1件は,株券発行証関書を提 出するよう補正命令が出されたが,補 正しないので,申立が却下されたもの である。 (2)一部取下の14件は,公示催告された 株券のうち,その一部について申立を 取下げ,一部については除権判決がな されたものである。 (3)休止満了の王件は,公示催告期日に 申立人が裁判所に出頭せず,その後6 月内に期日指定の申立がないため,除 権判決がなされなかったものである (民事訴訟法771条参照)。 すなわち、年間一二一二件の公示催告の申立のうち、約七七パーセントに当る一六三九件が株券の公示催告事件で ある。そして、公示催告後株券が発見された等により申立が取下げられたものもあるが、一五〇七件については除権 判決がなされている。しかし、公示催告後裁判所に株券を提出し、権利の届出をした者は皆無であった。なお、株券 の事件ではないが、権利の届出をしたものが一件あったが、それは証券の盗取者が逮捕され、善意取得者の証券が押 収されたので、届出をしたものであった。東洋法学
五九証券代行各社における事故株の取扱状況 (王) (2〉 (3〉 (4〉 (5) 株券喪失の屈出のある 株式について名義書換 請求があったときこれ に応ずるか。 (1〉の場合に喪失届のあ ることあるいは公承催 告中の旨磨名義書換講 求者に通知するか。 (1)の場合に名義書換を したことを株券喪失屈 串人に通知するか。 (めの場合に名義書換を したことを裁判所に通 知するか。 (!/の名義書換をした場 合にその後除権判決に より株券再発行の講求 があったとき再発行す るか。 応ずる 1陰社 通知する 鴛社 通知する 黛祉 通知する 翌社 再発鷲する 3社 拒否する 0社 遜知しない ○社 通知しない 0社 通知しない 7社 再発行しない 2社 記名株券の除権判決と善意取得者 六〇 次に喪失株券に対する発行会社側の応対を調査するため、名義書換代理人である証券代行十二社にアンケ⋮ト調査 をお願いしたところ.ご回答を頂いたので、その結果を集計すると次表のとおりとなる。
すなわち、ωについては各社とも名義書換に応じており、後記田④の判決もあり問題はないが、名義書換に際し、 売買証明書の提出を要求するものが二社、公示催告中は権利の届出を条件とするものが一社ある。 ㈹については、会社の告知義務の有無について判例・学説の対立のあるところであるが、各社とも通知しており問 題はない。なお、単なる喪失届で公示催告の申立なき場合は通知しないとするものが一社、喪失届の受理は公示催告 申立を条件とするものが一社ある。 ⑥については、各社とも通知しており問題はない。通知と共に積極的に公示催告申立の取下げを勧告あるいは要請 し、また、取下証明書の提出を求めるものもある。 ㈲については、名義書換がなされたことが裁判所に通知されないので、申立人が取下をせず、所持人が権利の届出 をしない限り、除権判決がなされる危険がある。裁判所は除権判決をなすに際し、株券の所在不明に関し、すなわち 名義書換の有無について職権で調査すべきであるとの意見もあるが︵後記⑥七九六頁︶、裁判所の現状からみると、す べての事件についてそこまで要求するのは無理である。それよりも、公示催告手続中の株券について名義書換がなさ れたら、会社︵又は名義書換代理人︶から積極的に裁判所にその旨を通知すれば、裁判所は申立人に取下げを勧告し、 会社からの通知を無視して除権判決がなきれることはないので、会社も紛争に巻き込まれなくてよい。 ⑥については、該当なしあるいは申立を取下げさせ除権判決に至らしめないとされるものが多く、結構なことであ る。しかし、再発行に応じるとされた三社については、そのようなことが具体的に発生した場合には、名義書換を終 った株主名簿上の株主と株券の再発行を得た除権判決申立人との間に争いの起ることは明らかであり、会社もその紛
東洋法学 六一
記名株券の除権判決と善意取得者 六二 争に巻き込まれる危険性は極めて大である。
日判例
除権判決に関連する事件のうち、本稿に直接関係の深い主要な判例について、その事案の概要と判決の要旨を次に 記載し、本稿においては、頭書の符号をもってこれを引用することにする。 田 昭和二九年二月一九購最高裁判所第二小濠廷判決︵童愚裁民集八巻二号璽一三頁︶ ︹事案の概要︶ 原告村西芳介は被告三菱化成工業株式会社︵溝算申︶に対し.原告は昭和二三年二月一五藏鰯興証券大阪支店から 被告会社の株式一〇〇株を買受け.その名義入錦織英蔵の名発歓捨用臼紙委任状打の株藩の﹂賦をうけ株主と転.った ので、被告会社が企業再建整備法に基く決定整備計画により昭和二五年二月二〇騰現在の株主に割当てた第二会社の 株券をその払込金と引換に引渡せ。もしそれが不可能なら損害賠償金一〇三、四〇〇円︵時価から払込金を差引いた額︶ を支払え、と訴えたが.原告は当該臼紙委任状添付の株券を昭和二三年二月二七環盗取されたため名義書換ができ ず.被告会社へはその旨通知した上、同二四年三月一五爾東京簡易裁判所に公示催告の申立をし、同二五年五月四鷺 除権判決を得て、同月一〇日被告会社から新株券の交付をうけたものであった。なお、喪失株券については、昭和二 五年二月一〇日臼興証券株式会社から名義書換の請求があり、名義書換がなされたため、第二会社の株式も株主名簿 上の株主である同社に割当て交付されていた。 第一審の東京地方裁判所は、割当基準覆までに名義蕎換がなされているか、または名義書換を講求したが会社が正当な事由なくこれを拒絶した場合でなければ、会社に対抗できない。また、除権判決の効力は、判決の時をもって、 将来に向って生ずるに過ぎない。として原告の請求を棄却した。第二審の東京高等裁判所も同一の理由で控訴を棄却 し、最高裁判所も上告を棄却した。 ︹判決の要旨︺ 田④ 喪失株券に関する除権判決の効果は、右判決以後当該株券を無効とし、申立人に株券を所持すると同一の地 位を回復させるに止まるものであって、公示催告申立の時に遡って右株券を無効とするものではなくまた申立人が実 質上株主たることを確定するものでもない。 されば、公示催告期間中会社に対し当該株券を提示して株主名簿並に株券の名義書換を請求する第三者があった場 合、右第三者が実質上の権利者であることもあり得べきであるから、会社は単に当該株券につき喪失を理由とする公 示催告の申立があるという一事を以て書換を拒むことを得ない。 国◎ 右書換後除権判決のあった場合、所定期間内に権利の届出及び株券の提出をしなかった前記第三者が除権判 決の効果としてその実質的権利︵たとえば公示催告期間中における善意取得にもとずく権利︶を失うに至る場合があ るかどうか、また会社は株主名簿の最終名義人が右第三者のままとなっている場合、これを株主として一切を処理し て免責されるかどうか等の点については必ずしも論議の余地なしとしないが、少くとも除権判決を得た者の会社に対 する関係が、株券喪失前におけるそれ以上に出るものでないことは、前記除権判決の効果から考えて疑を容れないと ころである。
東洋法学 六三
記名株券の除権判決と善意取得者 六四 圓 昭和三一年七月二日東京地方裁判所判決︵下級民集七巻七号一八一四頁︶ ︹事案の概要︺ 原告前田博は、昭和二八年三月一七臼臼興証券大阪支店に委託して日本機械貿易株式会社︵揖機貿と略称︶の株式二 〇〇株8買受け、佐藤武三郎名義の白地裏書ある株券の引渡を受けて.同月三一臓原告名義に名義書換手続を了し た.ところが.右株券は、加賀証券株式会社︵加賀証券と略称︶が昭和二七年一二月二五縫大阪証券取引所を通じて京 都証券株式会社から買受けたもの峯翌二八年三月一二縫に紛失したもので.加賞証.がは.騒機貿にもその旨属出で、 同年四月一八臓束京簡易哉判所孤公示催皆の融立をなし、同年ご一月一六檬除権判決を得た.そして.加賀証券は. 右除権判決に基き疑機貿に株券の再発行を求めたところ.日機貿は佐藤武三郎名義の新株券を発行し.加賀証券名義 に名義書換のうえ、これを加賀証券に交付してしまった。 その後、日機貿は昭和二九年七月三一日正午現在の株主に一対一の割合による額面有償新株発行をなし.更に、昭 和三〇年七月一日第一物産株式会社︵第一物産と略称︶に吸収合併され.加賀証券に対しても翼機貿の株主として一対 一の割合で第一物産の株券が交付された。 そこで.原告は第一物産と加賀証券を被告として.ω原告が第一物産の二〇〇株の株主であることの確認.ω加賀 証券に対し第一物産の株券二〇〇株の引渡、もし引渡ができないときはその時価三一、四〇〇円の支払、⑥第一物産 に対し新株発行に際し新株引受権を喪失きせたことによる損害二一.四〇〇円の支払 を求めたところ、原告の請求 は全面的に認められた。
︹判決の要旨︺ 圖④ 喪失株券に関する除権判決の実体法上の効力は、右判決以降当該株券を無効とし、申立人に株券を所持する と同一の地位を回復きせるに止まるものであって、株券喪失乃至は公示催告申立の時に遡って右株券を無効とするも のではなく、また申立人に対し当該株券による株主権を形成し、若しくはその株主権を確定するものでもない︵昭和 二十九年二月十九日最高裁判所第二小法廷昭和二十六年㈹第四二四号事件判決参照︶。 当該株券は除権判決がなされ るまではいぜん有効であるから、第三者が当該株券による株主権を善意取得し得ることもとより可能であるし、除権 判決の効力は申立人に当該株券の占有に代る形式的資格を回復せしめるに止まるものであるから、当該株券による株 主権の得喪変更について、除権判決は実体上何等の影響を及ぼすものではない。しかして、このことは株主権変動の 原因が承継取得によると善意取得によるとによって異なるものではないと解すべきである。即ち、被告等が主張して いるがごとく、当該株券喪失後、その株主権を善意取得した第三者に限って、除権判決の効力として、第三者からそ の権利を奪い、申立人に再び与える、と解すべき理由もなければ必要もないとするのである。けだし、喪失株券の善 意取得に限って、公示催告期間内に権利の届出をしなかった場合に除権判決によりその権利を奪われるところの、一 種の制限的な権利取得であると解することは、法律上充分の根拠もないし、除権判決制度とは、やはり申立人に喪失 当時の形式的資格を回復せしめるに止まるものであり、株券の流通性の保障のためには、申立人に多少の忍受を強い ることもまた止むを得ないと考えるからである。 圖◎ 前記認定のごとく、被告加賀証券は、右除権判決に基き、日機貿から株式名義を被告加賀証券と書換えた新 東洋法学 六五
記名株券の除権判決と善意取得者 六六 株券の交付を受けた。しかしながら、原告は右除権判決がなされる以前すでに日機貿の右株式二百株について原告名 義書換手続を了していたこと前記認定のごとくである以上、鷺機貿としては被告加賀証券の右新株券発行の請求を拒 否すべきものであった。鷺機貿が株主名簿上の最終名義人でない被告加賀証券に右新株券を交付したことは、除権判 決の効力に関する何等かの誤解によるものであろう。しかし、とま癌.原告が蘇終鼠の右旧株券の株主であったと記 められ砂繋瓠と・削記のぐとく蝶・瓢婦以上.押告加翼証券は翼機貿から交付を受けた膚訴豚、、 ー恭殿告に糞,俘麟べ瀞.繋 錺を有していたの肇、あy。 閾㊥ 右採式二百粧⇔蔚主夕義が右除権判訣瞬すでー厭告名蓼 .触んら“ていた以上、被告加賀証券が右除権判 決に数.いて自己∼二,にゆ㌦妻のうえ訴株、一の交付虹㎝紺求して熱ても績載爽は雛九に応ずべ愚ではなか肇たので翻 る。その際鷺機買としては被告加賀証券が無権利者であると考えるに相当な理由があったというべきであり、且つ. 原告にその名飛銃擾に異議がないかどうかを確めること等によって実実の株主が何入なるかを容易に確知し得る状態 にあったのであるから、何幕かの誤解によって藻機貿が右株式二百株の株主名義を被告加賀証券に書換えても、か㌧ る株主名簿上の記載を信じてなした日機貿の行為はそれによって免責されることはないと解すべきである。 圓 昭和三七年九月一八薦東京地方裁判所判決︵下級民集一三w.え号一八九七頁.判例時褻套二号二顧頁︶ ︹事案の評要︺ 原告野村証券株式会社は、昭和二八年二月初旬横山政雄から特殊製鋼株式会社︵特殊製鋼と略称︶株式三〇〇株 ︵名義入申村轡、次郎︶と薦本製紛株式会社︵欝本製粉と略称︶株式三〇〇株︵名凝人申川挫雄︶を名義入の白聾劉一又は白
地譲渡証書の添付ある株券の交付をうけて譲り受けた。その後右株式は次々と譲渡され、特殊製鋼株式のうち二〇〇 株は昭和二九年一月二日鈴木清三名義に、一〇〇株は同年三月五日垣内正治名義にそれぞれ名義書換された。日本 製粉株式については、うち二〇〇株は昭和二九年三月一七日山一証券株式会社名義に名義書換され、一〇〇株は株式 会社三菱信託銀行に名義書換されたが、これが五〇株券二枚であったので、これを併合して同社名義の一〇〇株券一 枚が昭和二九年五月二八日同社に交付された。 更に、その後、これらの株式は他に譲渡されたが、譲受入が発行会社に名義書換を請求したところ、これらの株券 について除権判決があったことを理由に何れも名義書換を拒絶きれたため、事故株券として、これらの株券は無事故 の株券と引換に順次譲渡人に返戻され、結局全部原告の手裡に帰するに至った。 これらの株券に対する除権判決は、山田勇から昭和二八年一二月一日公示催告の申立があり、翌二九年七月八日除 権判決が云渡されたものである。 そこで原告は、株券発行会社二社と除権判決申立人である山田勇を共同被告として、原告が各株券に対応する株主 であることの確認と、新たな株券の発行を求めて提訴したところ、裁判所は、原告の主張を全面的に認めたが、日本 製粉の株式︹券︺併合による代り株券には除権判決の効力は及ばないとして、これに対応する株券発行請求のみを棄 却した。 ︹判決の要旨︺ 囹④ 除権判決はたんに判決以後株券を無効とし、公示催告申立人に株券を所持すると同一の地位を回復させるに 東洋 法 学 六七
記名株券の除権判決と善意取得者 六八 止まり、申立の時に遡ってその株券を無効としあるいは申立人が実質上の株主であることを確定するものではない ︵最高裁昭和二九年二月一九日判決民集八巻五二三頁︶から、前示の株券についてもその除権判決のあるにかかわら ず.なお、その実質上の株主が何人であるかは、これと別個に考察されなければならない間題である。 翻⑭ 右一および二のeの株券が除権判決により無効とされたにかかわらず.発行会社たる両被告会社はそれぞれ の対応する株券メ厩告に再発行した事跡がないから、両被告会社に対しそれぞれの対応する株券を原告に再発行すべ き旨の請求も正当であって.これを認容すべきものである、 蘭◎ しかし.別紙縢録二の日の株券は同目録二の⇔の各株券の株式併合による代り株券であって、株券としては ︽の同一性を有するものでないから、右二の⇔の株券につきなされた除権判決の効力は右二のωの株券に及ばず.騨.駄 の株券は依然としてその効力を有する。 園 昭和五三年五月二九日東京地方裁判所判決︵判例時報九二三号二五頁︶ 圏 昭和五四年四月一七田東京高等裁判所判決︵判例時報九一三号二四頁︶ ︹事案の概要︺ 原告武蔵証券株式会社は、新興証券に買付委託をして昭和四八年二月一四鷺池貝鉄工株式会社の株券一〇〇〇株の 交付をうけて株主権を取得したが、その後、同株式を新興証券に売付委託をして同年四月八日同株券は三洋証券に交 付された。その後三洋証券は、右株券により名義書換を請求したところ、右株券については除権判決が確定している ことを理由にこれを拒絶されたので、事故株券として東京証券業協会の統一慣習規則により原告の許に返された。
この株券に対する除権判決は、昭和四八年一一月一五日被告ナミコ・サィトウ・ティラー︵旧名斉藤なみ子︶から盗 難を理由とする公示催告の申立があり、翌四九年九月二一臼除権判決がなされ、池貝鉄工株式会社は右除権判決に基 き被告に新株券を再発行したのであった。 そこで、原告は被告に対し、株主権に基き被告が再発行をうけた株券の引渡しを求めて中野簡易裁判所に提訴した ところこれが認められた。これに対して被告は控訴し、その控訴審判決が四であり、原判決が取消され、原告の請求 は棄却された。それに対して原告は上告し、その上告審判決が圖である。上告審判決においては、更に逆転し、原判 決を破棄して東京地方裁判所に差戻され、現在再審理中である。 ︹判決の要旨︺ 四④ 法は、喪失した証書について、その喪失後に同証書上の権利を取得する者が存在することを予想し、特に慎 重な手続をもってその権利者に対し裁判所へその届出をなす機会を与え、届出がない場合にはその証書を取得した者 は存在しないものとみなして、申立人に右証書上の権利を行使しうる資格を付与するものとしているのである。 四@ 株券等が喪失した場合、これに対し、一方において元来の権利者を保護せんとする除権判決制度が存し、他 方において右除権判決前に右株券等を善意取得した者を保護する制度が存するところ、右の両制度のいずれを優先せ しめるかについては、立法的理念的には種々の考え方がありうるものの、現在のわが国における実定法の定めるとこ ろを前提とする限り、右両制度の調節は、右除権判決制度に内包されている公示催告手続にこれを求めるのが相当で ある。 東洋法学 六九
記名株券の除権判決と善意取得者 七〇 圃㊦ 右制度における公告方法の事実上の効果に若干の聞題があるとはいえ、そのことから右公示催告制皮、ひい ては除権判決制度を結果的に無視する如き結論を導くことは妥当といえず、たとえ善意取得者といえども、公示催告 所定の届出を怠った場合には、最早その権利を主張しえぎるものと解するのが相当である︵右は善意取得制度に内在 する制約でもあるというべく. 又右の限度で除権判決にも一定の結果的な実体上の効果が認められることとなろ うQ︶。 同④ 喪失株券に関する除権判決の効果は、右判決以後その対象ときれた株券を無撞ならしめ、除権判決申立人に い︾のと同様の漁的地位︵いわゆる形式的資騒︶を付与するにとどまウ、それ以上に公示鉱鰍套︸立 の時に遡ゆて右株券を無効とするものではなく、また申立人が実質上株主たることを確定するものでもないことは、 その旨の璽燭裁判所判例︵昭和二九年二月一九鷺第二小法廷判決︶の存するところであり.さらに、もし除権判決申 立人が実質的に無権利者であり.他に実質的株主の存する場合に、除権判決にもとづき申立人が株券の再発行を得た ときにおいても、ナ質的株主は右除権判決申立人に対し再発行にかかる株券の引渡を求めうることについては異論を みないところである。そしてこのことは、公示催告とこれにつづく除権判決の制度が.そのうちに公示催告ないし除 権判決申立入と公示催告期間内ないしは除握判決前に権利の届出をした者との間において、実体上の権利の帰属を決 する手続を定めていないところから当然帰結されるところにすぎない。 圏㊥ それ故当裁判所は前記の説を採ることはできず、株券の除権判決は株券の善意取得者の有する実質的権利 ︵株主権︶になんらの形響を及ぼさないとの見解を採るものであり、かく解したからといって、善意取得者と株券喪
失者との問の公平を失するともいえないし、また公示催告ならびに除権判決制度の実効性が損われるともいえない。 ㈹ 学説 公示催告・除権判決に関する多くの著書・論文のうち、本稿の対象とする問題について比較的詳しく論じられた左 記の諸説に対しては、特に本稿執筆に当り種々ご教示を賜ったことを深く感謝し、本稿では頭書の番号でこれを引用 する。
@⑩⑨⑧⑦⑥⑤④③②①
会社法セミナー・除権判決による株券の無効手続︵その一∀ジュリストニ一号二二頁以下 会社法セミナー・除権判決による株券の無効手続︵その二︶・ジュリストニニ号二一頁以下 鈴木竹雄・株券の除権判決・私法九号三九頁以下 鈴木竹雄・除権判決・民事訴訟法講座第五巻・一四六七頁以下 河本一郎・有価証券の返還請求権と除権判決・神戸法学雑誌五巻一・二号三七頁以下 河本一郎・株券の除権判決・株式会社法講座∬七七七頁以下 河本一郎・有価証券の返還請求権と除権判決・私法一五号一五二頁以下 河本一郎・株券の再発行・総合判例研究叢書商法の三八頁以下 山木戸克己・公示催告手続の性質と除権判決の効力・神戸法学雑誌五巻三号三八三頁以下 小川善吉・株券の除権判決の効力・﹁訴訟と裁判﹂岩松裁判宮還暦記念論文集六〇一頁以下 高橋正蔵・公示催告手続による株券の無効宣言・司法研究報告六輯六号二五三頁以下 東洋法 学 七一記名株券の除権判決と善意取得者 七二 ⑫ 高田源清・公示催告制度の批判・福岡商大論叢四巻三号三九三頁以下 ⑬ 中村武・有価証券の除権判決に伴う諸問題・法律時報二六巻六号五七〇頁以下 ⑭ 大隅健一郎・株券に関する除権判決の効果・法学論叢六〇巻四号二二頁以下 ⑮ 並木俊守・株券喪失をめぐる諸間題・爾本法学二〇巻四号三四四頁以下 ⑯ 高窪利一・有価証券の喪失とその救済e・法学新報六三巻三号七一頁以下 ⑰ 論、圓窪利一・有無証券の喪失とその救済︵一マ完∀法学新報六三巻四号六八頁以下 ⑱ 三戸岡道夫・記名株券の除権判決・財政経済弘報五九二号一頁以下 ⑲ 座談会・記名株券に関する除権判決・財政経済弘報六〇三号八頁以下 ⑳ 高鳥正夫・除権判決前後における株式の名義書換・企業会計九巻二号一〇四頁以下 ⑳ 大森忠夫・株券に関する除権判決の効果・民商法雑誌三一巻一号一〇〇頁以下 ⑳ 霜島甲一・株券に関する除権判決の効力と善意取得者の権利・ジュリスト一八五号五八頁以下 ⑳ 松岡和生・除権判決に対する不服申立の訴からみた除権判決制度の構造・明治学院論叢三六巻一〇号九三頁以 下 ⑳ 共同研究・株券の公示催告手続と除権判決・東京株式懇和会会報四五号四頁以下 ⑳ 小橋一郎・除権判決・会社判例百選︵新版︶九〇頁以下 ⑳ 竹内昭夫・除権判決により善意取得者の実質権利は奪われるか、除権判決の効力は名義書換後の株券にも及ぶ
か・ジュリスト三二六号一〇八頁以下 ⑳ 上柳克郎・株券の除権判決・ジュリスト増刊﹁商法の判例﹂五一頁以下 ⑳ 河本一郎・注釈会社法⑥四一二頁以下 ⑳大塚市助。株券の除権判決・商法演習1八○頁以下 ⑳ 前田庸・株券の除権判決・新商法演習1一八三頁以下 二 除権判決の効力 e 公示催告・除権判決の制度 有価証券による権利者は、証券を喪失しても当然にその証券によって表章される権利を喪失するものではないが、 証券がないのでその権利の行使ができなくなる。もし、債務者が証券なくしてその権利行使に応じたときは、他に証 券の所持人が現われた場合に、二重に債務の履行に応じなければならなくなるからである。かといって、他に証券所 持人の現われる可能性もないのに、永久に権利者の権利行使を許さないものとするときは、債務者に不当に利益を与 えることになって妥当でない。 そこで、法は公示催告および除権判決の制度を設け︵民訴七六四ー七八五条︶、裁判所は、証券喪失者の申立により、証 券の所持人は一定の期日までにその権利を裁判所に届出てその証券を提出するよう、もし届出がないときは証券の無 効を宣言する旨を公告する公示催告手続を行い、期日までに権利の届出をする者がないときは、申立人の申立により宣
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七三記名株券の除権判決と善意取得者 七四 言される除権判決によって喪失証券を無効とした上、申立人は証券なくして証券上の権利を行使し得ることとした。 ところで、記名株券の場合には.株主名簿の制度があるので.株主名簿に記載のある株主は、株券を喪失しても議 決権の行使や配当金の受領等には支障をきたさないが、株券がなくては株式を他に譲渡することができない。また. 株主名韓の名義書換前に株券を喪失した者は.名義書換の請求をすることもできない。 昭和ニニ年の商法改正藩においては.記名株券を喪失した携舞.発行会社は定款で定める一定の手続を暦んだ上、 株券の再患行をしていたが、再工行後蹟株券が出現したときは困難な閥、雌が生ず碁︵判麓は蹟株夢は無藩にならないとす る。⑧三九頁︶ので、昭和一三年の商法改正により.記名株券にも公示催告・除権判決の制嘆を取り入れた︵晦三〇 矛︶欝 ⇔ 公示催告の申立ができる場合 株券の公示催告の申立ができる場合は、株券が盗取せられ、又は紛失もしくは滅失した場合に限られる︵民訴七七 七条︶。 このような場合には、申立人に株券の存否が不明であり、仮りに存在する場合にも、通常その所在が明らか でない。盗取者や拾得者が判明しており株券の所在が明らかな場合は.その返還請求訴訟によるべきであり、公示催 告の申立は許されない︵このことに関しては.⑤に詳細に論じられている。︶。 株券喪失者の株主権は、株券喪失という事実のみでは失われず、喪失株券が第三者に善意取得されたときに始めて 相対的に失うことになる。従って.善意取得者の存否が判明しない限り、依然として株券喪失者は株主権を有する者
と推定される。 株券が完全に滅失したのであれば、株券を再発行しても何ら差支えないわけであるが、通常滅失したといっても、 一〇〇パーセント株券の不存在が証明できるわけではなく、一パーセント程度は株券が存在して善意取得者が現われ る可能性がなくはない。すなわち、火災に遭い家財と共に株券も焼失したといっても、本人の思い違いで他所に在っ て焼失を免れたり、本人不知の間に運び出されていたり、焼け残っていることだってあり得るのである。裁判所に提 出された申立書を見ると、 ﹁不要書類を整理したときに一緒に焼却した。﹂ というのがあるが、この場合など﹁見当 らないので⋮⋮と思われる。﹂ というので、滅失より紛失に近いのであろう。家財と共に海に流失したり、船が沈ん で株券も海に没し滅失したといっても、何処かの海岸に漂着したり、引揚げられたりされることが絶対にないとはい えない。 紛失においては、﹁名義書換のため株券を持って家を出て途申で紛失した。﹂という比較的日時場所の明確なものも あるが、多くは、 ﹁引越の時紛失した。﹂﹁新聞紙など不用品と一緒に処分した。﹂等と申立書に記載されており、見 当らないから紛失したということである。紛失の意味からいって当然であろう。従って、紛失した株券は、誰の目に もとまらない所で存在していることもあり、廃棄滅失していることもあろう。また、拾得物として警察に保管されて いたり、拾得者その他の者が権利を行使することなく所持していることもある。そんなわけで、紛失した株券が第三 者に善意取得されて権利が行使されるのは三パーセントもあろうか。 次は盗難であるが、明らかに株券を盗取されたというのは比較的少なく、盗難に遭い、被害品を調べたところ株券
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記名株券の除権判決と善意取得者 七六 がないので、盗取きれたと思われるというケースが多い。盗取された株券については、盗取者においてその価値がわ からず.あるいは換金ができないでそのまま所持し又は破棄滅失される場合もあろう。特に、非上場株券の場合は、 換金が困難で、善意取得される可能性はほとんどないと思われる。このように考えると、盗取された株券において も、第三者による善意取得の可能性は五パーセント程度であろうか。 以上滅失、紛失、盗難の各場合について.善意取得の可能性を確たる根拠もなく.一パーセント.三パーセント、 五パー乱ントと想定したのであるが.凱のような異体的数宇に特別の惹味があるわけではない.何れの軒合にも善意 取得の可能性があればこそ、公示催告により権利者の屈出を求める一方、除権判決により株券が現存する場合にこれ を無効とする必要があると共に.多くの場合は、善意取得者がなく、株券喪失者が依然として株主であり、この者を 救済する必要があることをいいたかったのである。 口 除権判決の消極的効力 除権判決は.公示催告した株券の無効を宣言する。これが除権判決の消極的効力といわれるものである。この除権 判決により無効とされる株券は、申立人が喪失した株券であり、かつ、判決時において発行会社から有効に発行され ている株券である。何とならば、除権判決により申立人は株券再発行講求権を取得することになるが、それは喪失株 券の表章する株主権に基くものであり、重複発行となる場合に、旧株券を無効とする必要があるからである。従っ て、当該株券が除権判決前に発行会社に提出され、これにづいて無効の処理がなきれているにも拘らず除権判決がな された場合には、除権判決は形式上存在しても、その対象である株券は、除権判決時には既に会社において有効に発
行されていないのであるから、何ら発行会社に対して効力を生じるものではない。すなわち、かかる除権判決をもっ て、発行会社に株券の再発行を求めることはできないのである︵副◎参照︶。 株券が発行会社に提出されて無効の処理がなされる場合とは、汚損、裏面満欄、株券の併合又は分割等︵実際にぱ 名義書換が前提となるが、名義書換については後述する。︶により、旧株券と引換に新株券が発行されたときである。また、 株券不所持の申出により株券が会社に提出きれ、会社において株券不発行の処理をしたときも同様である︵商三六 条ノニ︶。もし、このような場合において、株券喪失者が株主権を有し、旧株券の所持人が権利がないのに新株券の交 付を受けたり、株券不所持の申出をしたのであれば、株券喪失者は、前者の場合には新株券の引渡しを求めればよ く、後者の場合には株主権の確認を得た上で会社に株券の発行を求めることになる。 ㈱ 名義書換後の株券は無効となるか 通説は名義書換後の株券も除権判決により無効となるとする。圃圖の各事案においても、発行会社は名義書換後、 除権判決に基き株券を再発行している。團の事案においては、名義書換後なされた除権判決に基き株券の再発行はし なかったが、当該株券の名義書換後の所持人からの株券発行請求を裁判所は認めた。 しかしながら、除権判決により無効とされる株券は、申立人が喪失した株券であって、公示催告および除権判決に もその株券の特定として最終名義人が表示されている。名義書換により最終名義入が変れば、たとえ物質的に同一用 紙が利用されていても、株券としては法律上別個の株券であり、除権判決の対象物とは異なるものと解せられる。 名義書換の変遷をみると、昭和二二年の商法改正前は、記名株式の移転は取得者の氏名、住所を株主名簿に記載 東洋法学 七七
記名株券の除権判決と善意取得者 七八 し、かつ、その氏名を株券に記載することが、会社その他の第三者に対する対抗要件となっていたので︵旧商一五〇 条︶.株主名蓄と株券の両者の名窪拙換ということで株式の名義、、、届換といわれたが、昭和二二年の商法改正で、旧来 の方法のほか、新らたに株券の荻書による株式の譲渡が認められることになり︵改正前藤δ五条︶.この場合には株 主名簿の書換が会社に対する対抗要件となった︵商二〇六条一買︶。次いで、昭和二五年の商法改正では.記名株式の 譲渡ーー、.又掃軒識と摩ー疑詣の交付じ・“ることになむ、株主名簿の.4ポは何如なザ隠禽も会社に対する対抗要件に 過ぎなくなった.更に、昭和四一年い爵旗、.止蝶・は、 臣目イ㌧・い、﹃方幹万纏 い 擁の みによ嚇てなされ、株主名簿の欝yが会社に対する対抗要件となって今鷺に至ってい添. 従ひて、 ..馨喉‘3. ,[麟換というのは、正確には株凱ゑいのへごノ鳳とで紛鯵、株式取曾者 が株券を会社に呈示して拝主名驚の.冒換を求めたときは、会社は株主名毒の株主名、髪の書鋲をすると共に.矯夕ぎ人 の株券を禁効とし.新株主が株券不所持の申出をしない限り、記名株式として当然のことながら.新株主には新株主 名義の株券が発行されることになる。その‡合.新株券を糊誕して交付するか.旧株.事ぜ利用してこれに新株主名を 記載して交付するかは.発行会社の自由であ輔が.何れの場合においても、これは新株主に対して発行された新らた な株券である。後者の取扱がなされた野合においても.新株主名義の株券と旧株主名義の株券とは、法律上は別個の 株券であって、これは旧法時における株券の名、、、誌換とはその意義を異にする。この畢合.旧株券に新株主名のほか に年月日を記載して会社が証印するが、これは法律的には、新株主に対する新株券の発行年月βと解せられる。ま た.これらの記載は.通常株券の裏面になされるが、これは債務者たる発行会社の行為であって.手形における裏書
とは根本的に異なるものである。従って、名義書換後に旧名義人の株券に対してなされた除権判決の効力は、新名義 人の株券に対しては及ばないと解せられるのである。 この点について、鈴木教授は、④一四九二頁において﹁旧株券を利用しても、新たな名義人の氏名を株券に記載し て会社がこれを認証すれば、それは取得者名義の新券を発行交付することを省略しただけのことであって、その意味 からいえば、物質的には旧券であるが、法律的には新券と認めるのが当然ではないかと思う。理論的にいっても、記 名株券の同一性の識別については、単に株券番号のみならず、その名義人如何が重要な要素たるべきであり、従って その名義人が変更した場合には、それを異る証券と認めるのが当然ではなかろうか。株券の表面の名義人のみを重ん じて、裏面の名義入を無視するのは誤りのように思われる。そしてこのように解するときは、公示催告申に名義書換 が行われてしまえば、除権判決をえても、すでに名義を書換えられた証券は無効とならず、従って申立人は除権判決 をえても何もならぬわけである。﹂ と、三戸岡教授は、⑱二頁において﹁この場合に、公示催告されて無効と宣言さ れた株券は、名義書換される以前の株券であり、当該株券は名義書換されて実質的には新しい別個の株券となったと 解すべきで、事実上公示催告の対象ときれた当該株券を回収して代り株券を発行した場合と同様に、除権判決の効力 は新株券には及ばないと考えるのが妥当だと思われる﹂、 同三頁において﹁このように名義書換のされた株券は、旧 券を回収して代り株券を発行した場合と同様に解すべきで、除権判決の効力は及ばないと解する問題は残らない。下 級審のこれと異る判決があるが、記名株券における記名は最も重要な記載の一つであり、公告がこれと異っていては 記名株券の同一性の識別を不可能とすると言うべきであり、また代り株券の発行も容易に行なわれることとも考え合 東洋法学 七九
記名株券の除権判決と善意取得者 八○ せるとき、公示催告申に名義書換のされた株券には除権判決の効果は及ばないと解するのが適切だと考える。﹂ と、 竹内教授は、⑳一二頁において﹁公示催告の公告には、株券の番号、その表章する株式数とともにその最終名義人 が記載されるのであり、それが変わってしまえば公示催告で所持人を捜索したことにはならないだろうし.少なくと も裏書禰が満欄になった株券単、より名義書換請求がなきれたため新券を出したときは除権判決の効力が及ばないと認 めざるを得ないことから考えても、一般的に名義書換後の株券に瞳冷権判決の効力が及ばないと解すべきであろうご とそれぞれ述べられている、上柳教授もこれに同調される︵黛、庶五頁︶、 また、記名抹式の場合、株券を会社に呈示して名養.、換を請求するということは、株券による権利を発行会社に対 して行使する嬬とであり.手形でいえば、手形を債岩者に呈示して支払を求めることである。従って、ヂ掛飯が手形 所持入に支払をした後に.当該手形につき除権判決がなされても、申立人は除権判決に基き債務者にその支払を求め 得ないと同様に、名義書換後に、名義書換前の株券につき除権判決がなきれても.申立人は発行会社に株券の再発行 を求めることはできない。この場合、もし名義書換請求者が善意取得者でなければ、申立人は株主権に基き名義書換 請求者に対し名義書換後の株券の引渡請求をすべきである。この点について.小橋教授は、⑳九一頁において﹁私見 は、除権判決により喪失後の善意取得者の権利もその届出をしないかぎり除斥せらるべく.ただ判決前に名義書換を していれば.すでに当該株券による権利行使は終了しており、除権判決の効果は問題にならないと解すべきものと思 う。﹂と述べられている。 このように.名義書換の請求があり、旧株券を利用して新名義人の株券が交付された場合においても、日において
述べた代り株券発行の場合と全く同様に解することができるのである。 これに対して、多くの学説は、除権判決の効力が旧株券を利用した名義書換後の株券にも及ぶことを当然の前提と して論じられているが、特に、⑥八一〇頁、⑧七四頁、⑩六二四頁、⑳一〇六頁等は、これを明言する。また、昭和二 五年の商法改正前の事案であるが、東京簡易裁判所昭和二六年一二月一九日判決︵⑧七二頁掲載︶はこれを明示する。 除権判決の効力が新株主名義の株券にも及ぶとされるこれらの説の根本的な理由は、株券の物質的同一性であり、 名義書換により新株券が発行された場合との結果の不均衡に対しては、株券上の最終名義人は異なっても、公示催告 に示された株券の記号番号が同一であり、権利届出の機会があったのであるから、この点で新株券の交付があった場 合とは区別してよいという。しかし、適法に名義書換がなされて会社から自己名義の株券が交付された場合に、それ が旧株券を利用したものであるときは、将来除権判決がなされるかも知れないから官報公告を常に注意し、権利の届 出をするよう要求し、権利の屈出をしなかった場合に所持する株券が無効となってもしかたがないというような理論 は、名義書換を終えた所持人およびその後の所持人に酷であり、株券の流通を阻害するものである。 なお、このような除権判決の効力が名義書換後の株券にも及んで株券が無効となるとの説においても、除権判決前 の名義書換は有効であるから、株主名簿上の株主を無視して、直ちに除権判決に基き申立人に株券の再発行をすべき ではないとされるが︵⑥八〇六頁、⑩六一七頁、⑳一〇七頁、圖◎⑪等︶、株券の流通が阻害されることには変りがない。 ㈲ 除権判決の積極的効力 商法二三〇条二項により、除権判決があったときは、申立入は会社に対し株券の再発行を求めることができる。し 東洋法学 八一
記名株券の除権判決と善意取得者 八二 かし、記名株式の場合は、株主名簿の記載が会社に対する対抗要件とされるので、株主名簿上の株主が除権判決を得 た場合はそれでよいが、名義書換前に株券を喪失した者は、名義書換が必要である。民訴七八五条には﹁除権判決ア リタルトキハ其申立人ハ証書二因リ義務ヲ負担スル者二対シテ証書二因レル権利ヲ主張スルコトヲ得﹂とあり、記名 株券の場合.申立人は除権判決に基き株券なくして発行会社に対し株主名簿の書換を請求できることになる.満曳し て、名ゴ.ー.3餐れば、愚ザ、講幽嚢人の抹券が罪行交付され・繋篇とになる.これが除権判決の横蔵的効力といわれる ものである鞭 除権判決の后極的効力には遡及櫓はなく、また.申立人に単に喪失株券を所持すると同一の形式的資格を与えるに 過ぎず.実質的に株主蘇 麺認するような効力のないことについては、学説上も争いが\い。 間題は、株券喪失後それが第三者に善意取得され、善意取得者が権利の屈出をしないうちに除権判決があった場合 の株主権の帰属である。これについては項を改めて述べる。 ・∞轟 除権判決の善意取得者に対ずる効力 e名義書換前の善意取得者の地位 株券喪失後除権判決前に喪失株券が善意取得されたときは、その時点で株券喪失者は株主権を失い、善意取得者が 株主権を取得する。従って、株券喪失者が公示催告の申立をしても、善意取得者︵厳密には善意取得者又はその承継取得 者であるが、以下善意取得者という。︶が裁判所に権利の届出をすれば、除権判決はなされない︵民訴七七〇条︶。ところ
が、善意取得者が裁判所に権利の届出をしなかったときは、裁判所には株券の存在が明らかでないので、除権判決が なされてしまう。その場合に善意取得者の地位がどうなるかである。 除権判決の積極的効力は、前述の如くその遡及効はなく、申立人に単に喪失株券を所持すると同一の形式的資格を 与えるに過ぎず、実質的に株主権を与えるものではないのであるから、除権判決があったからといって、善意得取者 は株主権を失うことにはならない︵②矢丞三頁、⑥八〇二頁、⑩六〇八頁、@二六八頁、⑮三四九頁、⑳五八頁、⑳一一〇 頁、⑳八六頁、閻④、團④、圖◎等︶。 しかし、除権判決の消極的効力により、善意取得者の所持する株券は無効とされてしまうので、善意取得者は株主 権を証明して︵株券の所持のみでなく、それを除権判決前に善意取得したことを証明しなければならない。︶、会社に対し名義 書換と株券の発行を求めるほかない。もし、会社が除権判決に基き申立人に既に株券を再発行しているときは、会社 に対して更に株券の発行を求めることはできず、申立入に対し、株主権に基き新株券の引渡しを請求することになる ︵②矢丞三頁、⑥八〇九頁、⑨四〇三頁、@二七〇頁、⑳八七頁等︶。そして、申立人が再発行の新株券を既に第三者に譲 渡し、第三者が善意であれば、第三者は新株券により株主権を善意取得するので、旧株券の善意取得者は、その時点 で株主権を失うことになる︵⑥八〇九頁、⑳一一九頁︶。従って、旧株券による善意取得者は、右第三者に対しては新株 券の引渡しを求めることはできず、申立人に対し株式譲渡代金の引渡しを求め得るに過ぎないことになる︵⑥八〇九 頁︶。 これに対して、株券の善意取得者は除権判決により株主権を失うとする有力な学説がある︵③四一頁、④一四九六頁、
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記名株券の除権判決と善意取得者 八四 ⑭一二〇頁.⑳一〇九頁.⑳九一頁、國◎等︶。その理由とするところは区々であり、これに対する反論も、既にそれぞ れなされている︵⑫五三頁以下.⑳四四三頁以下参照︶。 これらの説においても、除橡判決の効力が遡及せず、除権判決 が実質的に申立人に株主権を与えるものではないことは認めながら、欝意取得者に対してのみこのような解釈が試み られるのは、申立入が時間と費用をかけて除権判決私螂得ても、善意取得者が現われると無意味になうてまう。権利の 届出をしなかった論、、怠取得者に不利益を与え、申立人を救済したいということにあるようである、 しかしながら、公示催告・除権判決の制度は.前述のとおり、権利がありながら証渉がないため菰、その権利の行 ががで詠ないとい△不、曝ゆ穀済ヂ麟ために設けられ九ものマあ吾、喪癖拝努につき夢ね取儲があれば、その時点 で、株券喪失轡い、株主権凌失い、公示鋼毒又は除権判決を申土てる実質上の資格をも失っていた筈である︵鈴木ぐ授 も④一濁八○頁において﹁もしその者が実質的権利を有しないことが明らかであれば.公示催管の申立もできず.また.除権判決 を受けることもできない。﹂と述べられている。︶。従って.善意取得者が権利の届出をしなかったために.形式上存在する 申立権に基き除権判決がなされても、除権判決の効力が前述の如きものである以上.これにより語、意取得者の株主権 を失わしら、申立人にこれを与えるが如き結果にはなり得ない。 また、善意取得者は.権利の届出をしないから不利益をうけてもやむをえないという議論があるが、善意取得者は すべて、自分では株券を承継取得したと思っているのであり、当該株券につき公示催告の有無を調査する筈がない。 承継取得したと思っていた株券について、たまたま前者が無権利者であったため、承継取得とならない場合に、客観 的に善意取得と判断されるに過ぎないのである。従って、善意取得者が権利の届出をしなかったからといって、有効
に取得した株主権を失わせるほどの責めを負わせるべき筋合のものではない。 口 名義書換後の善意取得者の地位 喪失株券の善意取得者が名義書換の請求をしたときは、会社は当該株券につき公示催告の申立があったからといっ て名義書換を拒否することはできない︵田④︶。従って、名義書換により、旧名義人の株券が回収されて、善意取得者 名義の新株券が発行されたときは、後に旧株券に対する除権判決がなされても、その効力は新株券には及ばないの で、除権判決申立人は会社に対し株券再発行を求めることはできず、善意取得者の株主権には何の影響も及ぼさな い。 ところが、名義書換に際し、会社が旧株券を利用し、これに新株主名を記載して証印した上、これを善意取得者に 交付したときは問題が生ずる。この場合も、前述︵七七頁以下︶のとおり、旧名義人当時の株券と新名義人になった株 券とは、物質上は同一でも、法律上は別個のものであると解すべきものと考えるが、そう解する限りは、その後旧名 義人の株券について除権判決がなされても、新名義入となった株券にはその効力が及ばず、善意取得者の株主権には 何の影響もない。 しかし、旧名義人の株券に会社が新株主名を記載して証印しても、株券として同一のものであるから、旧名義人の 株券に対して除権判決がなされれば、新名義人となった株券にもその効力が及ぶという説に従えば、除権判決により 善意取得者の所持する株券は無効になってしまう。従って、除権判決申立人は会社に対する株券再発行請求権を取得 することになるが、この場合にも、更に二つの考え方に分れる。
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記名株券の除権判決と善意取得者 八六 一つは、除権判決があれば、善意取得者はその権利をも失うという考え方である。この説によれば、申立入は会社 に対し株券の再発行を求め得ることになる。もう一つは、除権判決によって善意取得者は権利を失わないという考え 方で、この説によれば、申立人は除権判決により形式上株券再発行請求権を取得するが、発行会社としては.除権判 決前に適法な名義書換がなされている以上、株主名簿上の株主を無視して.申立人の株券再発行講求に応じるわけに はいかなくなる融 蕪麟 除権判決後株券再発行前の名義書換 最翻に、除権判決は董,渡により効力が発生するすなわち株券は無効とな搭が.除権判決のあ3し島とは発行翁社に 通知されず.官報に公告されるのも相当の聞数を経た後である。そこで、除権判決後.申立人から株券再発行の請求 がある前に.旧株券による名義書換の請求があり.会社がこれに応じて株主名簿の書換をなし.新株主名義の株券 ︵醸株券贋紙を利用した場合は.前述のとおり学説上争いがあるので.新株券を調製したものとする。︶が交付されたときはどう なるであろうか。 この問題について、河本教授は、除権判決は言渡と同時に確定し、旧株券は失効するので、会社に免責力はないと きれるが︵⑥八二頁︶.鈴木教授は、除権判決の効力が判決の時に生ずる以上、その以後には、債務者がすでに失効 した証券の所持人の権利行使を許しても免責を受けえないとするのは、債務者に対して酷である。解釈論としても、 債務者は公告以前には除権判決があったことにつき悪意または重大な過失がない限り免責を受けるが、公告後は善意 であっても免責を受けえないと解することができるのではなかろうかとされ︵④一四九八頁︶.三戸岡教授もこれに同
調される︵⑱三頁︶。高鳥教授も同説であり、その根拠を債権の準占有者に対する善意弁済が有効とされる規定︵民四 七八条︶に求められる︵⑳一〇八頁︶。 確かに、本例の如き場合、会社を免責させないのは不都合であり、かといって、除権判決に一般的効力を認めなが ら悪意又は重過失がない限り免責させるというのも何かすっきりしない。 ところで、喪失株券による名義書換請求がなされるということは、株券が存在している事実とこれにより株主権を 主張する者があるということであり、発行会社にとって、当該株券を除権判決により無効とされるいわれもなく、株 券を再発行する必要もないわけである。株券の存在が明らかになったのであるから、申立人と所持人の間で株主権を 確定すればよいのである。 除権判決の制度は、前述のとおり株券を喪失した者がある場合に、株券の再発行を絶対に認めないとするのも不都 合であり、かといって旧株券を回収することなく再発行すれば、同一の株主権を表章する株券が二枚発行されること になって混乱が生ずるので、再発行の前提として旧株券を無効とすることにしたのである。すなわち、除権判決に基 き新株券が発行され、新旧両株券が別々に流通することになっても、新株券のみが正当に株主権を表章する有効なも のであり、旧株券は株主権を表章せず、これを所持しても株主たる推定力は働かず、会社はこの者を株主として取扱 っても免責力はなく、これにより善意取得の効力も生じないということにしたのである。 従来の株券に対するこのような効果は、株券を再発行したときにその必要があるのであって、株券を再発行しなけ れば、必ずしも必要としないのである。例えば、申立人が除権判決を得た後株券再発行請求前に、紛失した株券が自
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記名株券の除権判決と善意取得者 八八 己の手申にあることが分った場合は、申立入側としても、何もこれを無効として再発行を受ける必要はないであろ yりQ そこで.除権判決の消極的効力は、その積極的効力に基き株券が再発行されたとき ︵申立人が株券不所持の申立序、し て不発行の処理をした場合はそのとき。︶ に生ずるものとし、その効力発生の時期は、除権判決言渡のときに遡⇔という ようには考えられないもの略・あろうか.∼.叡わち、申璽人が除権判映に基き株券の再し行を請求する以前に、、. ㌦ から名義冨換の講求があ与、除権判決の対耀語瓢る株券が回収尋離、新株主名義の株券が発行されたと蓉は.それが除 権判決言渡後であっても、除権判決に基く株券再発行前であるか£除権判決の消極的効力は発生しておらず、また、 その後申立人かり除権判決に基き株券再臓行の講求があ鴨、ても.既に暇株券は回即びれ新株券が発行審れている以 上.再発行はできない.結局、除権判決の消極的効力の発生の余地はなく.会社の、、頁任も発生しないと解するのであ る。 除権判決の消極的効力の発生について.このような考え方をとっても.除権判決に基き株券が再発行された場合に は.名義書換をしなかった除権判決前の旧株券による善意取得者の地位は前述8によって処理され.また.除権判決 後株券再発行までの間における旧株券の善意取得は成立しないことになり.何ら不都合は生じない。 もっとも、会社が除権判決のあったことを知っている場合は、申立人にも形式上株券再発行講求権あるいは名義書 換請求権があるのであるから、会社は.名義書換請求者が単に株券を所持するだけでなく、実質上その株主権を有す ることを確認した上でなければ、名義書換に応じてはならないことはいうまでもない。
四結 語
以上公示催告・除権判決の制度の趣旨と、相対立する株券喪失者と善意取得者の利害ならびに発行会社の立場を綜 合して、記名株券に対する除権判決があった場合の申立人と善意取得者の地位の優劣、更にはかかる場合の発行会社 のあり方について考察したのであるが、相反する学説・判例の対立する現在、何れの立場からもいえることは、まず 第一に、かかる状態の発生を未然に防止することである。それには発行会社の役割は大きく、公示催告中に名義書換 の請求があったときは、申立人に申立を取下げるよう勧告すると共に、裁判所にも通知して除権判決のなされないよ うにすることである。次に、名義書換後に除権判決がなされても、発行会社は株券を再発行しないことである。除権 判決の効力が新名義人の株券︵旧株券を利用した場合︶に及ばないという考え方を取れば当然であるが、新名義人とな った株券も無効となるとの考え方を取った場合も、株主名簿上の株主の同意なくして、除権判決のみに基いて株券を 再発行しないことである︵事実上は旧株券と引換に再発行することにすればよい。︶。 記名株券について除権判決があった場合に、その善意取得者の地位は、名義書換前と名義書換後では大きな差があ る。前者については、その所持する株券は無効となるので、除権判決は善意取得者の株主権までも失わせるという説 によれば、善意取得者を救済する方法はないが、所持する株券のみが無効となり、善意取得者の地位そのものには効 力は及ばないという説によれば、善意取得者は、その所持する株券が無効になった以上、自己の善意取得による株主 権を立証しなければ、申立人に対し再発行株券の引渡を講求できないことになる。私は後説を妥当と考える。なお、 東洋法学 八九記名株券の除権判決と善意取得者 ・ 九〇 除権判決後株券再発行請求前に善意取得者から名義書換の請求があり、善意取得者名義の株券が発行きれたときは、 申立人は、もはや株券の再発行請求はできず、会社に責任はないと解する。 次に.名義書換後に除権判決がなされたときの除権判決の効力であるが、名義書換により新券が発行された場合 に.新券にはその効力が及ばないことについては、学説上ほぼ一致をみているが.旧券に新株主名を記載して交付し た場㌣.短、説が分れる.私は.この場禽も法律上は新株券であると解して.除権判決の麹力はこれに及ばないと解し ねい.陰権判蟻の効力が旧株券を利用したず義乳推後の株券にも及ぶと解する説においても.善意取得者は.それに よ与橡霞権を失うという説と失わないという説に分れるが.前説には賛成できない.