免責不許可事由にいう「浪費」について (東洋大学
法学部創設50周年記念号 第50巻第1・2合併号)
著者名(日)
櫻本 正樹
雑誌名
東洋法学
巻
50
号
1・2
ページ
157-183
発行年
2007-03-10
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00000612/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja免責不許可事由にいう﹁浪費﹂について
櫻
本
正
樹
はじめに
浪費は、﹁無駄遣い﹂﹁使い過ぎ﹂という言葉で表現されるように、日常用語としても頻繁に用いられ、加え て、この言葉の使用範囲が広いため、新破産法制定のための法制審議会においても指摘がなされているとおり、 ︵−︶ ︵2︶ その概念は多分に抽象的である。そして、特に破産という場面において浪費は、﹁不道徳・非合理な行動﹂といっ たマイナスの印象を与える文言であるということも否定できない。 ︵3︶ ︵4V 免責許否の裁判において、﹁浪費﹂が間題となる事案は少なくないといわれている。免責不許可事由が規定さ れていた旧破産法三六六条ノ九は、一号において過怠破産罪を規定する旧破産法三七五条一号﹁浪費又ハ賭博其 ノ他ノ射倖行為ヲ為シ因テ著ク財産ヲ減少シ又ハ過大ノ債務ヲ負担スルコト﹂を引用する形で免責不許可事由に東洋法学
一五七免責不許可事由にいう﹁浪費﹂について 一五八 浪費が規定されていた︵以下、旧破産法の条文の前には旧をつける︶。免責不許可事由を定める現行破産法二五 ︵5︶ 二条は、一項四号において旧法とほぼ同一の内容で、浪費を免責不許可事由として踏襲している︵以下、条文の みは現行破産法の条文︶。もっとも、両規定とも浪費それ自体が免責不許可事由とされるのではなく、浪費を原 因として著しく財産を減少させる、または過大の債務を負担する、という結果が生ずることによって、はじめて 免責不許可事由に該当することになる。免責許否の裁判に際しては、この浪費がしばしば間題となるにもかかわ らず、日常で頻繁に浪費という文言が用いられるためそれに影響を受けてか、破産者の漫然と行った放恣な消費、 支出等を浪費として認定している裁判例が多く見受けられる。 本稿は、これまでに蓄積された浪費に関する裁判例、学説を整理、分析することによって、今後も間題となる ことが予想される浪費が焦点となる免責許否に関する事案における浪費の内容、要件等を明らかにすることを目 的とする。 ︵1︶ 浪費という文言に関しては、平成九年一二月に公表された倒産法制に関する改正検討事項補足説明においては、 ﹁免責不許可事由のうち、﹃浪費⋮⋮﹄等の行為により著しく財産を減少させること等⋮⋮の要件については、その 判断基準が抽象的で、明確でないことから、﹃浪費﹄⋮⋮という概念は用いるべきではないとの指摘がある。﹂︵法 務省民事局参事官室編﹁倒産法制に関する改正検討課題﹂別冊NBL四六号八四頁︵平成一〇年︶︶と説明されて おり、平成一四年一〇月に公表された破産法等の見直しに関する中間試案補足説明においては、﹁﹃浪費﹄⋮⋮とい う概念はその判断基準が抽象的であるとの指摘がされている﹂︵法務省民事局参事室﹁破産法等の見直しに関する
︵2︶ ︵3︶ 中間試案と解説﹂別冊NBL七四号一〇四頁︵平成一四年︶︶と説明されている。 右改正検討課題以降、中間試案までにおける法制審議会での議論は、平成一一年一月二九日法制審議会倒産法部 会第一分科会第五回会議において、浪費概念が明確かそれとも不明確かという認識自体にそれぞれ争いがあり、こ れを削除するという方向性と、これを何らかの形で限定すべきであるという方向性で見直すべきだという意見があ った。削除するという方向性に関しては、平成二二年一二月一四日法制審議会倒産法部会破産法分科会第七回会議 において、﹁この免責不許可事由に手を加えるのは、非常に難しいと思っております。今、この規定に基づいて運 用を組み立てているわけで、その運用自体、免責をできる限りするという方向で組み立てているわけですが、これ が債権者、債務者の意見だとか様々な微妙なバランスの上に立って組み立てているところが多いものですから、少 し変更すると後に大きく響くという可能性が出てきて、難しいと思っています。﹂との意見が出された。 中間試案以降における法制審議会での議論は、平成一四年一〇月二五日法制審議会倒産法部会第一八回会議にお いて、﹁モラルハザードの招来という意味でお残しいただければというふうに考えております。﹂との意見が出され て削除は見送られた。他方、何らかの形で限定すべきであるという方向性に関しては、平成一五年二月二八日法制 審議会倒産法部会第二四回会議において、浪費をたとえば﹁著しい浪費﹂とするとか、あるいは、﹁常軌を逸し た﹂﹁債権者を害することを知って﹂﹁過大﹂等の文言で限定してはどうかとの意見が出されたが、﹁著しく﹂とか ﹁過大の﹂は既に条文にあり、﹁浪費﹂に代る文言というのがなかなか難しいとの意見が出された。なお、右法制審 議会議事録は、窪6”\\妻≦零含o茜oむ\ω田乞臼\で閲覧できる。 大田勝造﹁判批﹂新倒産判例百選︹別冊ジュリ一〇六号︺一八四頁︵平成二年︶。大田教授はさらに﹁:⋮と ア・プリオリに前提して非難することは必ずしも妥当でない﹂と続けられる。 平成一六年および同一七年の免責事件数は、まず、平成一六年の免責事件新受件数は二一万二八三六件であり、 他方、同年の免責事件既済件数二二万七五六六件のうち免責許可決定件数が二二万三六一五件、不許可決定件数が 五八九件である。次に、平成一七年の免責事件新受件数は一八万五四三七件であり、他方、同年の免責事件既済件 数二〇万六七五件のうち免責許可決定件数が一九万七六五一件、不許可決定件数が四九三件である︵両年とも最高 東 洋 法 学 一五九
︵4︶ ︵5︶ 免責不許可事由にいう﹁浪費﹂について 一六〇 裁判所統計資料による︶。また、旧三六六条ノニとの関係で、ある年の免責事件新受件数がすべてその年の破産事 件新受件数に対応しているものとは限らないため、ある年の免責事件新受件数に、その年以前に申立てられた破産 事件に対応する免責事件数も含まれている。たとえば、平成一七年は、自然人の破産事件新受件数︵一八万四九二 三件︶よりも免責事件新受件数︵一八万五四三七件︶が上回っている。 なお、免責事件新受件数、免責許可・不許可決定件数等は、昭和五四年から同五八年までは、篠原幾馬ほか﹃破 産事件の処理に関する実務上の諸間題﹄二五四頁︵法曹界 昭和六〇年︶、昭和六〇年から平成一五年までは、最 高裁判所事務総局民事局監修による﹃民事執行雑誌﹄二号︵平成五年︶∼八号︵平成一一年︶︵但し、六号を除 く︶および最高裁判所﹃裁判所データブック﹄二〇〇一︵平成一三年︶∼二〇〇四︵平成一六年︶を併用すること によって調べることが可能である。また、免責事件新受件数は、各年の司法統計年報︵昭和三九年までは民事編、 それ以降は民事行政編︶の民事行政雑新受事件数で昭和二八年から平成九年まで調べることが可能である︵但し、 昭和六〇年の司法統計年報を除く︶。 末弘陽一﹁判批﹂判タ一一八四号二二三頁︵平成一七年︶、大阪地方裁判所大阪弁護士会新破産法検討プロジェ クトチーム﹃破産管財手続の運用と書式﹄二九六頁︵新日本法規 平成一七年︶。 平成一五年六月一三日法制審議会倒産法部会第三一回会議において、﹁浪費⋮⋮という用語につきましては、抽 象的に過ぎる等の御意見もございましたが、さりとてほかに適切な代案もすぐには出ない状況でございますので、 現行法の内容を変更することなく、これをより明確化する適切な要件があるか、引き続き検討するものとしまし て、なお現行法の表現を維持するという選択肢も含め﹂てその表現については事務当局に一任されたが、最終的に は浪費という文言に変更は加えられなかった。 二 裁 判 例 浪費に関する決定は、 ︵6︶ これまでに二五件存在しているが、 そのうち免責許可決定は九件、不許可決定は一二
件、一部免責決定が四件となっている。大半の決定は、内容の詳細が不明であるもの、あるいは日常生活に必要 のない消費や支出、飲食遊興費等への出費というように破産者の漫然と行った放恣な消費、支出等︵以下、支出 等︶について、特に解釈することなく浪費と認定している。もっとも、これらの決定のいくらかは、破産者の収 ︵7︶ 入との対比においてその判断がなされている。 ここでは、紙幅の関係もあり浪費を検討するうえで必要と思われる浪費の内容に関して触れている八決定 ︵ω、㈲、⑥、㈲、㈲、ω、⑧、㈲︶、および株式投資を浪費と判断した決定㈲の事実および決定要旨を挙げる。 ︵8V ω 東京高裁昭和六二年九月三〇日決定 ︻事実の概要︼ 破産者は、昭和五一年頃その勤務会社で配置転換を受けたことに落胆して、酒量が増え、クレジットカードを 利用してバー等で飲酒するようになり、昭和五六年頃返済に窮するようになった。昭和五九年に弁護士を代理人 として一部の債権者との間で債務弁済契約を結んだが、自己の収入︵月収手取二五万円︶では履行が難しく、再 び金融業者等から借入れをして、その一部を返済に回し、残りを飲食遊興費にあてていた。破産者はさらに知人 等からも借金をして、債権者数約六〇名、負債総額は約二二五八万円に達し、昭和六〇年四月頃には支払不能の 状態になっていた。同年五月以降も破産者は虚偽の申告をして金融業者等から借入れをし、また、使用する意思 がないにもかかわらずクレジットカードを使用して商品を購入して直ちに換金して消費していた。破産者は昭和
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一六一免責不許可事由にいう﹁浪費﹂について 一六二 六一年四月二二日破産手続開始決定を受け、届出債権者数二一二名、確定破産債権額は約三〇三〇万円︵利息、損 害金含む︶であった。 ︻決定要旨︼ ﹁︹破産者︺は、浪費︵破産者の財産状態に対比して不相応な支出︶をして、過大な債務を負担し、⋮⋮したが って旧破産法三六六条ノ九第一号︵旧三七五条一号︶⋮⋮の免責不許可事由があるといわなければならない。 ︹︺筆者﹂ 本決定では、浪費に加え、旧三六六条ノ九第二号の詐術への該当性も認めて免責不許可とした。 ︵9︶ ω 広島高裁平成三年三月二六日決定 ︻事実の概要︼ ある特定教団への度重なる参拝の費用、親戚間の交際費、子供二人のバトンレッスン用教材、同発表会の費用、 高価な台所用品や中古自動車の購入費用等、収入に比べ過大な支出を続け、その出費を賄うために、そして従前 の債務の支払いのため銀行、消費者金融、信販会社等から次々と借金を重ね負債総額は五〇〇万円を超えた。 ︻決定要旨︼ 破産者の収入、資産に照らすと、必要かつ通常の限度を超えた不相応な出費であり、旧三七五条一号に該当す る。
本決定では、詳細は不明であるが、裁量により免責を許可した。 ︵−o︶ ⑥ 東京地裁平成五年七月六日決定 ︻事実の概要︼ 破産者は、昭和四九年一一月に寝装用品の販売等を目的とする株式会社A︵以下A社︶に入社し、平成三年に 同社が破産するまで勤務したが、平成元年頃からは同社の取締役の地位にあり、主として仕入部門を担当してい た。破産者は、昭和五四年頃から平成三年頃に至るまでA社の接待交際費として、料理屋、スナック等で一カ月 約一〇万円をクレジットカードで支出したこと︵昭和五四年から昭和五八年頃について平均すると、破産者の月 収が手取約二五万円であったのに対し、破産者が支出した接待交際費は一五万円前後であり、このうちA社が負 担したのは五万円前後であった。なお、破産者は当時賃料月額二二万五〇〇〇円のマンションに居住していた が、昭和六〇年頃まではその半額をA社が負担していた。︶、破産者はこのほかクレジットカードによる洋服等の 購入で一〇〇万円前後の債務を負担したこと、昭和五八年頃からはA社の業績が悪化し、給与の一部カット等が なされて破産者は債務支払いのためにキャッシングもするようになり、負債が一層増大し、その結果、破産者 は、債権者約一一名に対し、総額約一一六一万円の債務を負担し、支払不能の状態にあるとして、自己破産の申 立てを行い、平成四年一二月一八日破産手続開始決定︵同時廃止︶を受けた。 東 洋 法 学 一六三
免責不許可事由にいう﹁浪費﹂について 一六四 ︻決定要旨︼ ﹁破産者は自らの財産状態に対し、必要で通常の程度を越えた支出︵月収約二五万円しかないのに、その五分 の二以上の金額を飲食費等に費消することは、いかに会社の接待交際費として支出したものとしても自らの財産 状態に対して必要で通常の程度を越えた支出というほかない。︶をし、よって過大の債務を負担したものという べきであり、破産者には⋮⋮免責不許可事由︵浪費︶があると認められる。﹂ 本決定では、免責不許可事由として浪費への該当性だけが間題となった事案であるが、裁量によりいわゆる割 合的一部免責とした。 ︵11︶ ㈲ 東京地裁平成六年一月︸七日決定︵⑥の原審︶ ︻事実の概要︼ 破産者は、知人の保証債務を約六〇〇万円負担したほか、不動産会社に勤務していた昭和五九年頃から、破産 者の年収は多いときで、約二〇〇万円しかなかったにもかかわらず、接待交際費として、月平均二〇万円以上の 支出を三年間続け、その結果、破産者は、債権者約一六名に対し、合計約一二〇四万円の債務を負担し、破産者 は接待交際費を原因とする浪費により過大な債務負担をして支払不能であるとして、平成五年三月一八日破産手 続開始決定︵同時廃止︶を受けた。
︻決定要旨︼ ﹁接待交際費の支出は、収入を超える支出を三年間も続けたというもので、自己の収入及び財産状態に比して 必要で通常の程度を超えた支出をし、もって過大な債務を負担したというべきであるから、⋮⋮免責不許可事由 ︵浪費︶も存するものと認められる。﹂ 本決定では、浪費に加え、旧三六六条ノ九第三号後段の財産状態についての虚偽陳述への該当性も認めて免責 不許可とした。 ︵12︶ ⑥ 東京高裁平成七年二月三日決定 ︻事実の概要︼ 右㈲東京地裁平成六年一月一七日決定と同じ。 ︻決定要旨︼ ﹁破産者の地位、職業、財産等諸般の事情に照らし、破産者の収入及び財産状態に比して通常の程度を超えた 支出をし、もって過大な債務を負担した場合には、旧破産法三六六条ノ九第一号、旧三七五条一号の免責不許可 事由︵浪費︶が存在するものと解すべきであるところ、︹破産者︺は、昭和五九年ころから、勤務先の不動産会社 からの収入が多いときで年収約二〇〇万円程度しかなかったにもかかわらず、接待交際費として月額平均二〇万 円以上の支出を三年間も続け、負債を増大させたものであり、破産に至る当時の︹破産者︺の地位、職業、財産
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免責不許可事由にいう﹁浪費﹂について 一六六 等諸般の事情を考慮すると、自己の収入及び財産状態に比して通常の程度を超えた支出をし、もって、過大な債 務を負担したというべきであるから、免責不許可事由︵浪費︶があるものといわざるをえない。︹︺筆者﹂ 本決定では、浪費に加え、旧三六六条ノ九第三号後段の財産状態についての虚偽陳述への該当性も認めて免責 不許可とした。 ︵13︶ ⑥ 東京高裁平成八年二月七日決定 ︻事実の概要︼ 破産者は、昭和五六年に株式投資を始め、それなりに利益を得ていたが、投資運用を任せていた株式会社の倒 産に伴い、右株式投資による利益金等七〇〇〇万円以上を失った。その時点で、約三〇〇〇万円の借金︵住宅ロ ーン約二〇〇〇万円、株式投資に伴い親戚から借りた一〇〇〇万円︶があった。親戚の右借入金の返済のため、 日本信販株式会社等三社から計七二〇万円を借入れた。そして、破産者は、再度株式投資をすることにより右債 務を弁済しようと考え、昭和六二年一月から同年三月までの間、ファーストクレジット株式会社等四社から計三 六五〇万円を借入れ︵三〇〇〇万円は、自宅を担保にした︶、そのうちの大部分の借入金をもとに株式投資を行 ったが、平成二年の株式暴落により大きな損失を被ることとなった。そして、勤務先の銀行を退職し、結局のと ころ平成四年に自宅を売却せざるを得ないこととなり、右売却代金五七三〇万円を日本信販株式会社に対する債 務の返済等にあてたが、債権者約≡二名に対する計約二一五一万円の債務を残して平成六年九月二七日破産手続
開始決定︵同時廃止︶を受けた。 ︻決定要旨︼ ﹁︹破産者︺は、投資顧間会社が倒産したことにより株式投資により得た利益を失い、債務を弁済するために再 度株式投資を始めた昭和六二年には、約三〇〇〇万円の借財をしていたのであるから、銀行員としての収入等に 照らして堅実な返済方法をとるべきであったにもかかわらず、再度株式投資を計画し、当時の︹破産者︺の財産 状態に照らして不相応な計三六五〇万円もの多額な借入れを行って、その大部分をもとに株式投資を再開し、そ の結果過大な債務を負担したものであって、その行為は、旧破産法三七五条一号所定の浪費行為に該当するとい うべきである。︹︺筆者﹂ 本決定では、免責不許可事由として株式投資による浪費への該当性だけが間題となった事案であるが、裁量に より免責を許可した。 ︵14︶ ① 福岡高裁平成九年二月二五日決定 ︻事実の概要︼ 昭和六三年五月に購入代金三五〇〇万円全額を借入れて自宅を購入した行為が、免責不許可事由たる旧三六六 条ノ九第一号、旧三七五条一号所定の浪費に該当するか否かについて争われた事案で、自宅購入当時の破産者家 族の収入は、破産者の置薬の販売による月額の営業収益が、売上約七〇万円から経費約二〇数万円を控除した五
東洋法学
一六七免責不許可事由にいう﹁浪費﹂について 一六八 ○万円弱であり、妻のパート収入が月額約八万円であったから、多めに見て月額約六〇万円であった。他方、住 居に関する返済額は、住宅ローン分月額一七万円、妻の兄への返済分月額二万円ないし一二万円の合計二八万 円ないし二九万円であったから、収入の約半分を自宅取得に関する借金返済にあてていた。さらに、夫婦と子供 一人︵昭和六三年五月当時五二歳、四九歳、一九歳︶の生活費、教育費や多額の生命保険料の支払等も重なり、 自己の収入によって自宅取得に関する借金返済を続けていくことが困難となって、消費者金融等から借入れをし てこれを右返済にあてるようになり、平成五年七月に破産者が交通事故で入院して営業収入を得られなくなる直 前頃には、その返済額は、収入額にほぽ匹敵する月額六〇万円に達しており、破産債権額が約三四〇〇万円であ った。 ︻決定要旨︼ ﹁旧破産法三七五条一号所定の﹁浪費﹂とは、破産者の収入、資産に対比して必要かつ通常の程度を超えた不 相応な支出をいうものと解されるところ、︹破産者︺の自宅購入行為は、その時点では対価として不動産を取得し ているのであるから、︹破産者︺の財産状態を著しく悪化させたものではないこと、︹破産者︺が購入した建売住 宅は、⋮⋮一般人から見て賛沢な住居とまではいえないこと、及び、住宅購入当時はいわゆるバブル経済のころ で、︹破産者︺が住宅ローン等の返済につき安易に考えていたこともある程度無理からぬ点があることを考慮して も、前記認定の︹破産者︺の収入、資産、返済能力等に対比すれば、三五〇〇万円という自宅購入代金は極めて 多額であり、しかも、右代金全額を借入金によって準備して、当初から、収入の半分をその返済に充てるという
ような返済困難となることが明らかな返済方法を予定していたのであるから、必要かつ通常の程度を超えた不相 応な過大な支出であったというほかはなく、右﹁浪費﹂に当たるといわざるをえない。︹︺筆者﹂ 本決定では、免責不許可事由として浪費への該当性だけが間題となった事案であるが、裁量により免責を許可 した。 ︵15︶ ㈹ 福岡高裁平成九年八月二二日決定 ︻事実の概要︼ 破産者は、平成元年四月から平成六年一〇月までプロ野球の選手をしていたが、それ以降は自由契約となっ た。破産者の父親には、同人が電気店を経営していたころに発生した多額の債務が残っていたため、破産者の契 約金︵手取約一八○○万円︶および年俸︵税込四四〇万円ないし四五〇万円︶のほとんどは右返済にあてられて いた。破産者は平成八年九月一八日破産手続開始決定︵同時廃止︶を受け、同年一〇月一七日本件免責の申立て をした。本件免責申立時における債権者は一四名、残存債務額は合計約一四三七万円であったところ、そのう ち、約一〇六九万円は、破産者が平成四年八月から平成六年四月までの問に買替えた自動車四台および自動車修 理代の立替金債務であり、約二〇二万円は退団後に借入れた生活費で、その余は退団前に借入れた生活費や飲食 代等であった。 東 洋 法 学 一六九
免責不許可事由にいう﹁浪費﹂について 一七〇 ︻決定要旨︼ ﹁事実によると、︹破産者︺が四台の自動車を買い替えたことは、必要かつ通常の消費を超えたもので、︹破産 者︺の収入等の財産状態に対し不相応な支出をしたということができ、旧破産法三六六条ノ九第一号、旧三七五 条一号にいう﹁浪費﹂にあたるというべきである。︹︺筆者﹂ 本決定では、免責不許可事由として浪費への該当性だけが間題となった事案であるが、裁量により免責を許可 した。 ︵16V ⑲ 東京高裁平成一六年二月九日決定 ︻事実の概要︼ 破産者は、株式会社A︵以下A社︶に勤務し営業次長をしていたが、平成六年頃、有限会社B︵以下B社︶の 専務の甲と遊び仲間として付合うようになり、甲からB社の代表者である乙の一四〇〇万円くらいの債務の保証 を依頼され、その保証人となった。また、B社が土木部開設の際、その責任者丙が三〇〇万円を借入れるについ ても破産者は保証人となった。平成八年に入って、B社が行き詰まり、代表者の乙は自己破産したが、破産者 は、右債務保証の他にも、友人の名前を借りて、クレジット︵空売り︶を組む等して、乙に資金を融通してい た。甲は、これらの債務につき、乙やその両親から弁済させると言っていたが、結局、その返済は全くなされな かった。その後甲は、有限会社C︵以下C社︶を設立し、平成一〇年にパブを開店した。破産者は、甲から資金
の工面を要求され、自己の名義で借金して、甲に渡したほか、甲が右パブの営業費用として、商工ローンから一 億七〇〇〇万円を借入れるについて、その保証人となり、さらに平成二年以降、その兄や母、親戚等から計二 四〇〇万円を借りて甲に渡した。 破産者は、甲から右の他にも、借金の返済のためA社の誰でもいいから、金を借りるよう言われ、平成一〇年 から平成一二年まで、右パブの経営やC社の借金返済のため、A社の同僚や知人、友人のカードを借り、そのカ ードを甲が使用して借金をした他、平成]二年頃からは、カードでの借用が限界になり、銀行やA社の同僚や友 人、知人から現金を借り、それをすべて甲に渡していた。右のような経緯で、破産者が負担した債務は約一億一 二〇〇万円に達したが、これに対して破産者の資産は、自宅の土地、建物しかなく、しかも多額の抵当権が付い ており、実質的な価値はなかった。 ︻決定要旨︼ ﹁︹破産者︺は、甲に対する資金援助という形で、その回収の見通しがほとんどなかったにもかかわらず、その 地位、職業、収入及び財産状態に比して通常の程度を越えた支出をしたものであ︹り︺、⋮⋮前後の思慮なく財 産を蕩尽したものであり、旧破産法三七五条一号の﹁浪費﹂に該当し、⋮⋮Yが、それによって、過大な債務を 負担したことは︹右︺のとおりである。なお、︹右︺法条の﹁浪費﹂に当たるためには、必ずしもそれが消費的支 出であることを必要とするものではない⋮⋮そうすると、本件では、旧破産法三七五条一号の﹁浪費ヲ為シ因テ 過大ノ債務ヲ負担スルコト﹂に該当する事実があり、⋮⋮免責不許可事由が存在するものといわなければならな
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一七一い。︹ 免責不許可事由にいう ︺筆者﹂ ﹁浪費﹂について 一七二 本決定では、浪費は消費的支出に限らないとする判断が初めて示されている。また、浪費に加え、旧三六六条 ノ九第三号後段の財産状態についての虚偽陳述への該当性も認めて免責不許可とした。 ︵6︶ パ パ パ
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) ) ) ︵10︶ 各決定に関する免責許否の結果、掲載誌等詳しいことは、拙稿﹁判批﹂金商二一三七号五六頁の注︵4︶参照。 ここでは決定が下された裁判所および日付のみ記す。①神戸地裁明石支部昭和五八年六月一四日決定、②高知地裁 昭和六二年三月四日決定、③東京高裁昭和六二年九月三〇日決定、④東京高裁昭和六三年一月二〇日決定、⑤東京 高裁昭和六三年九月一日決定、⑥東京地裁平成二年九月七日決定、⑦広島高裁平成三年三月二六日決定、⑧山形地 裁米沢支部平成四年三月三一日決定︵⑨の原審︶、⑨仙台高裁平成四年五月七日決定、⑩仙台高裁平成四年七月八 日決定、⑪仙台高裁平成五年二月九日決定、⑫仙台高裁平成五年三月一九日決定、⑬東京地裁平成五年七月六日決 定、⑭東京地裁平成五年一〇月一五日決定、⑮東京地裁平成六年一月一七日決定︵⑲の原審︶、⑯東京地裁平成六 年一月一七日決定、⑰東京地裁平成六年二月一〇日決定、⑱盛岡地裁宮古支部平成六年三月二四日決定、⑲東京高 裁平成七年二月三日決定、⑳東京高裁平成八年二月七日決定、⑳福岡高裁平成九年二月二五日決定、⑳福岡高裁平 成九年八月二二日決定、⑳東京地裁平成二二年一一月二二日決定、⑳東京高裁平成一六年二月九日決定、⑳横浜地 裁相模原支部平成一七年一月一四日決定。 前掲注︵6︶②、④、⑤、⑪、⑫決定等。 前掲注︵6︶③決定、東高民時報三八巻七日九号八五頁。 前掲注︵6︶⑦決定、判例集等には未登載であるが、山内八郎﹁破産免責に関する判例法理︵中︶﹂︵判タ八〇二 号二八頁 平成五年︶で引用されている。 前掲注︵6︶⑬決定、判タ八二二号一五八頁。パ パ ハ ハ パ パ 16 15 14 13 12 11 ) ) ) ) ) ) 前掲注 前掲注 前掲注 前掲注 前掲注 前掲注 ︵6︶⑮決定、 ︵6︶⑲決定、 ︵6︶⑳決定、 ︵6︶⑳決定、 ︵6︶⑳決定、 ︵6︶⑳決定、 判タ八七九号二七七頁。 判タ八七九号二七四頁、判時一五三七号二一七頁。 判時一五六三号一一四頁。 判時一六〇四号七六頁、金判一〇三二号四四頁。 判時一六一九号八三頁。 判タ一一六〇号二九六頁。 三 学 説 免責不許可事由の浪費に関する学説について述べる前にまず、平成一一年改正前の民法一一条に規定されてい ︵17︶ た﹁浪費者﹂について触れておきたい。周知の通り当該規定は準禁治産者に関する規定であり、準禁治産者の実 質的要件として心神耗弱者と並んで浪費者がそれに該当するものとして規定されていた。もっとも、取引におけ る本人の保護を目的とする無能力者制度と破産者の経済的更生を目的とする免責制度はその目的を異にし、また 浪費者という人の属性としての浪費と免責許否の判断のための浪費を同一に論ずることは難しいが、しかし浪費 は浪費者の実質的な内容をなしており、示唆を受けることができよう。 ︵18︶ 浪費者に関して、判例は、まずその性癖に関しては、大審院明治四〇年一二月二一日判決において、﹁準禁治 産ノ宣告ヲ為サントセハ必スヤ浪費ノ事実存スルコトヲ要スルハ勿論ナレトモ唯其当時本人力浪費ノ習癖ヲ持続 ︵19︶ スル事実アレハ足ル﹂と示され、またその程度に関しては、大審院明治三七年一二月三日判決において、コ定
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免責不許可事由にいう﹁浪費﹂について 一七四 ノ事項力必スシモ一定不動二何人二対シテモ浪費者ナリト認ムヘキ理由トナラサルト同時二甲二対シテ些末ノ事 ナリト錐モ乙二対シテハ浪費者ト認ムヘキ重要ノ理由トナルコトアルヘキハ当然ニシテ要ハ其人位地境遇等万般 ノ関係﹂に依り浪費者であるかどうか判断すると示されている。他方、学説は右判例を踏まえた上で、浪費者と ︵20︶ は﹁前後の思慮なく財産を蕩尽する性癖のある者である﹂と解している。そして浪費︵財産の蕩尽︶の程度に関 ︵21︶ しては、本人の地位、境遇、財産等諸般の事情を考慮して決定すべきで、一律の標準を立てえないとか、より詳 しく本人の資産状態、収入の程度、職業、地位、境遇、年齢等の諸般の事情を総合的に考慮して判定すべきであ ︵22︶ るとする。なお、浪費の目的や財産の使途を特に限定することなく、不道徳な目的でなくとも、たとえば、慈善 ︵23︶ 事業や宗教的目的のために処分することも浪費となり得るとされる。 次に、免責不許可事由の浪費に関する学説であるが、浪費について客観的基準を定めて絶対的に捉える説と破 産者のおかれた状態等の諸要素と支出等を比べることで相対的に捉える説とに大きく分けることが可能である。 さらに後者は、支出等を消費的支出に限定する説と支出等についてなんら特別な限定を加えない説とに分かれ る。 まず、浪費について絶対的に捉える説は、﹁どの程度の消費が浪費となるとするかは難しいところである。一般 の人の意識からすれば、破産状態に陥るような消費は、身分不相応であり、浪費ということになろう。⋮⋮免責 不許可事由でいう浪費は、不要不急の支出で、一ヶ月の生計費の三分の一以上の支出を指すと解したい。家族の ︵鍛︶ 数にもよるが、通常五万円以上ということになろう。﹂と主張する。次に、浪費を相対的に捉えて支出等を消費
的支出に限定する説は、﹁債務者の社会的地位、職業、営業状態、生活水準、収支状況、資産状態等を総合勘案す ︵茄︶ ︵%︶ ることを要する。﹂としつつ﹁﹃浪費﹄とは債務者の財産状態に照らし、身の程に過ぎた消費的支出をいう。﹂と主 張する。さらに、支出等になんら特別の限定を加えない説は、﹁債務者の財産状態に対して不相応な支出を意味す ︵27︶ ︵28︶ る﹂とか、﹁破産者の財産状態に対し、通常必要な程度を超えた支出﹂とか、﹁破産者の全財産状態に対し必要で ︵29︶ 通常の程度を越えた支出﹂とか、﹁単に不要不急の支出を意味するものではなく、支出の程度が社会的に許され ︵30︶ うる範囲を逸脱することを意味﹂するとか、あるいは﹁必要かつ通常の程度をこえた、債務者の全財産状態に対 ︵3 1︶ して不相応な支出をすることである﹂と主張する。表現は異なるものの、この支出等になんら特別の限定を加え ない説が現在の通説的見解である。そして、右判断は破産者の︵全︶財産状態との対比において浪費となるか評 価されており、﹁間題となる行為の内容、程度、期問を破産者の財産状態や生活環境と対比して社会通念によっ ︵3 2︶ て判断されるべきものである﹂とか、﹁破産者の社会的地位、職業等から破産者と同じ生活水準と考えられる一 ︵33︶ 般人の支出を基準として決定される﹂としているが、この点に関しては支出等を消費的支出に限定する説も同様 である。 ︵17︶ ︵18︶ 民法の一部を改正する法律 て削除された。 民録二二輯一二二〇頁。 ︵平成一一年法律第一四九号︶により、新たに成年後見制度が創設されることに伴っ 東 洋 法 学 一七五
パ パ
2019
) ) ハ パ パ 23 2221 ) ) ) パ パ パ パ パ パ 29 28 27 26 25 24 ) ) ) ) ) ) 道下徹ほか編﹃破産訴訟法︵裁判実務体系6︶﹄四七三頁︹伊藤博︺︵青林書院 昭和六〇年︶、法曹界編﹃例題 山田知司﹁判批﹂判タ七〇六号三二一頁︵平成元年︶。 山内八郎﹁破産免責の実務的研究︵中︶1消費者破産を中心としてi﹂判タ四九八号二六頁︵昭和五八年︶。 井上・前掲注、同﹃破産免責の限界﹄五七頁︵法学書院 平成九年︶。 井上薫﹃破産免責概説﹄二五四頁︵ぎょうせい 平成三年︶。 道下徹﹁サラ金債務者の自己破産の現状と間題点﹂自正三四巻一〇号三六⊥二七頁︵昭和五八年︶。 和六三年︶、内田・前掲注︵20︶、我妻“有泉︵清水︶・前掲注︵20︶。 三〇五−三〇六頁︹鈴木ハツヨ︺、同﹁浪費を理由とする準禁治産宣告﹂東北学院三一H三二号八六ー八七頁︵昭 我妻・前掲注︵20︶八二頁、五十嵐ほか編・前掲注︵20︶六三頁、米倉・前掲注︵20︶、谷口ほか編・前掲注︵20︶ 辻・前掲注︵20︶、四宮11能海・前掲注︵20︶。 我妻・前掲注︵20︶八一−八二頁、五十嵐ほか編・前掲注︵20︶六三頁、幾代・前掲注︵20︶、米倉・前掲注︵20︶、 小脇一海﹁準禁治産者︵浪費︶制度の利用状況﹂民商五一巻三号四八八頁︵昭和三九年︶。 八頁︵成文堂 平成一一年︶、四宮和夫阿能海善久﹃民法総則︵第五版増補版︶﹄四六頁︵弘文堂 平成二一年︶。 泉亨︵清水誠補訂︶﹃コンメンタール民法総則︵新版︶﹄六四頁︵日本評論社 平成八年︶、辻正美﹃民法総則﹄七 六年︶、水本浩編﹃民法1︹総則ω︺︵注解法律学全集︶﹄九二頁︹林田清明︺︵青林書院 平成七年︶、我妻榮目有 穣﹃民法総則﹄一二一頁︵悠々社平成四年︶、内田貴﹃民法−総則・物権総論﹄九九頁︵東京大学出版会平成 昭和六二年︶、谷口知平ほか編﹃注釈民法 総則ω︵新版︶﹄三〇四頁︹鈴木ハツヨ︺︵有斐閣 昭和六三年︶、石田 ︵有斐閣 昭和五九年︶、遠藤浩編﹃基本法コンメンタール民法総則︵第三版︶﹄二八頁︹平井一雄︺︵日本評論社 ﹃民法総則︵第二版︶﹄七〇頁︵青林書院 昭和五九年︶、米倉明﹃民法講義総則① 私権・自然人・物﹄二一〇頁 二−六三頁︹泉久雄︺︵有斐閣 昭和五六年︶、鈴木禄弥﹃民法総則講義﹄三六頁︵創文社 昭和五六年︶、幾代通 我妻榮﹃新訂民法総則﹄八一頁︵岩波書店 昭和四〇年︶、五十嵐清ほか編﹃民法講義1総則︵改訂版︶﹄六 民録一〇輯一五四六頁。 免責不許可事由にいう﹁浪費﹂について 一七六パ パ
3130
) )3332
) ) 山田・前掲注︵28︶、清水・前掲注︵3 成一八年︶。 頁︵民事法研究会 平成一五年︶、加藤哲夫﹁判批﹂倒産判例百選︵第4版︶︹別冊ジュリ一八四号︺一五一頁︵平 水信雄﹁判批﹂判タ八八二号二九〇頁︵平成七年︶、芝豊“古橋清二﹃詳解消費者破産の実務︵全訂2版︶﹄三三三 二号二六七頁︵平成六年︶、伊藤眞﹁判批﹂消費者取引判例百選︹別冊ジュリニニ五号︺一九三頁︵平成七年︶、清 斎藤秀夫ほか編﹃注解破産法︵下︶﹄八七一頁︹阿部純二︺︵青林書院 平成一一年︶、酒井一﹁判批﹂判タ八五 伊藤眞﹃破産法︵第4版補訂版︶﹄五二五−五二六頁︵有斐閣 平成一八年︶。 解説破産法︵補訂版︶﹄三一九頁︵法曹界 平成一二年︶。 1︶。 山内・前掲注︵9︶二九頁、伊藤・前掲注︵3 1︶。 四 検 討 既述のとおり、二五二条一項四号の免責不許可事由は﹁浪費⋮⋮をしたことによって著しく財産を減少させ、 又は過大な債務を負担したこと﹂と規定され、浪費それ自体は不許可事由とされず、浪費を原因として、その結 果、著しく財産を減少させる場合、または過大な債務を負担した場合︵以下、過大な債務の負担等︶に、はじめ て四号の免責不許可事由に該当することになる。すなわち、破産者が、浪費をなし︵行為︶、よって︵因果関係︶、 ︵34︶ 過大な債務の負担等をした︵結果︶場合に、免責不許可事由に該当することになる。したがって、浪費を判断す るにあたって、免責不許可事由にいう﹁浪費﹂と免責不許可事由としての浪費による﹁過大な債務の負担等﹂を 区別して考える必要がある。なぜならば、免責不許可事由で間題となる浪費は、特に免責不許可事由として浪費東洋法学 一七七
免責不許可事由にいう﹁浪費﹂について 一七八 への該当性だけが間題となる場合においては、その結果として必ず支払不能を伴い、よって破産手続開始決定を 受けているため、その結果に鑑みれば当該浪費は、これを原因として過大な債務の負担等を生ぜしめたというこ とになり、両者が結びつきやすいからである。 以下、裁判例を整理し、学説を分析したのちに、自己の見解を述べることとしたい。 まず、二で触れた裁判例のうち、当該事案において問題となった支出等の態様についてどのような支出等を浪 費と考えているかという点で分類するならば、不相応な支出等であるとする決定︵1︶、通常の程度を超えた支 出等であるとする決定︵︵5︶︵9︶︶、必要かつ通常の程度を超えた支出等であるとする決定︵︵3︶︵4︶︶、必要 かつ通常の程度を超えた不相応な支出等であるとする決定︵︵2︶︵7︶︵8︶︶に分けることができる。これらの 決定から導かれる要件として﹁必要性﹂﹁通常性﹂﹁相応性﹂ということになるが、その表現は必ずしも同一では なく、これらの要件の一部あるいは全部が示されている。さらに、︵9︶決定において、初めて浪費の該当性の 認定に当っては、必ずしもそれが消費的支出であることを必要とするものではないと示された。 また、右支出等は破産者の収入、財産状態等と比べて浪費となるかが判断されていることに関しては、すべて の決定において共通になされている。そして、財産状態を計る個々的な要素として、破産者の地位、職業、財産、 収入、返済能力等を考慮しているということになる。もっとも個々の決定では、たとえば、ω決定のように、破 産者の﹁収入、資産に照らすと﹂とか、あるいはの決定のように破産者の﹁収入、資産に対比して﹂というよう に個々的な要素だけを述べるものや、㈲決定のように破産者の﹁収入及び財産状態に比して﹂とか、あるいは⑨
決定のように﹁その地位、職業、収入及び財産状態に比して﹂というように財産状態とそれを考慮する個々的な 要素である収入︵地位、職業︶を並列して述べているが、前者は財産状態に対する別の表現であると捉えられる し、後者は収入︵地位、職業︶を別にして狭義に財産状態を捉えており、これは収入︵地位、職業︶を含めて広 義に財産状態を捉えるか否かの遠いであり特に矛盾しているわけではない。このように個々的な要素を総合的に 考慮して破産者の財産状態を判断するということは、浪費者の判断の場合と同様であり、事案に応じて破産者の 状況を個別的に判断することになり、このことはすべてに共通の客観的基準を定立することの難しさの現われと もいえよう。もっともこれらの諸要素に関しては、民法の浪費者においては、浪費﹁者﹂の観点から、浪費の程 度を計る基準として挙げられているが、免責不許可事由にいう浪費と両者に大きな隔たりがあるわけではない。 次に、学説であるが、まず浪費について絶対的に捉える説は、確かに客観的な基準としては明確であり画一的 な判断ができ、裁判官による恣意性を回避することが可能であるが、基準として示されている五万円︵以上︶と いう金額は、いわゆるバブル経済が始まる前の昭和五八年に書かれた論文で提示されているものであり、今日に おいてもそれが妥当するか疑問であり、また、この金額の点を別としても、﹁不要不急の支出で、一ヶ月の生計費 の三分の一以上の支出﹂とする根拠が明らかではない。要するに、この説によると変化する経済状況に対応しづ らいという点において妥当ではなく、さらに、画一的な基準を用いることにより破産者の個別的な状況を考慮し ないため、破産者のおかれた実態とかけ離れる恐れがあるといえよう。次に相対的に捉える説で支出等を消費的 支出に限定する説によれば、たとえば慈善事業や宗教目的における多額の寄付をしたことによる支出等は、たと
東洋法学 一七九
免責不許可事由にいう﹁浪費﹂について 一八O えそれが通常の程度を超えた不相応な支出等であったとしても浪費から排除される結果となって、社会的合理性 を欠くことになる。浪費者に関する学説においても不道徳な目的でなくとも、右のような慈善事業等のために処 分することも浪費となり得ると解されているように、浪費に関してもその支出等の性質や目的に関しては必ずし も反社会性、反道徳性が必要とされているわけではない。浪費による過大な債務の負担等の判断は、破産者の財 産状態を個別具体的にその状況に応じて判断するものであるから、右のような場合を浪費から排除してしまうこ とには疑間が残る。そうすると、学説に関しては、浪費を相対的に捉えて支出等になんら特別の限定を加えない 説が残るが、この説の論者は浪費を解する際には裁判例と同様に﹁必要性﹂﹁通常性﹂﹁相応性﹂の一部あるいは 全部を示している。既に検討を加えた裁判例においても、諸要素を総合的に考慮した破産者の財産状態と支出等 を比べることで浪費を相対的に捉え、支出等についてなんら特別な限定を加えていない点、および、これまでの 事例の解決において﹁必要性﹂﹁通常性﹂﹁相応性﹂という要件で浪費を分析することで充分であったことからも 実証されているように、この通説的見解が妥当であると考えられる。すなわち、裁判例およびこの学説からは、 ﹁必要性﹂﹁通常性﹂﹁相応性﹂という要件を用いるという点ではおおよそ一致していると考えられる。しかし、 裁判例や学説が承認してきた﹁必要性﹂﹁通常性﹂﹁相応性﹂の要件に関して、これらの内容、その要否、および 相互関係をどのように考えるべきかが、さらに明らかにされなければならない。 思うに、まず、必要性の要件であるが、たとえば子供の病気のための手術費用を必要とする場合や食費等であ り、必要性が満たされれば浪費への該当性は否定されると考える。すなわち、必要であるか否かはその支出の性
質から社会通念に従って判断する要件であると考える。ただし、必要性はその性質から判断した必要の範囲内で あるか否かも考慮することになり、それを超えた場合は必要性の要件を満たしていないことになり後述の通常性 の要件を満たさない場合は浪費となる可能性がある。よって、手術費用はそれが多額であったとしても、その性 質から必要の範囲内であると判断でき必要性を満たすといえようが、食費は、社会通念上必要とされる回数や範 囲を超える場合はその性質から必要の範囲内ではないということになり必要性は満たされないことになる。次 に、通常性の要件であるが、たとえば旅行のために支出等をすることは一般的に必要性のない支出等であるが、 その額が少額でかつ何度も繰り返してではない場合や、家族の葬儀を一般的なそれと同等の規模で行い葬儀費用 を支払った場合は、右の必要性の要件が満たされなかったとしても、通常の範囲内であれば、通常性が肯定され て浪費への該当性は否定されると考える。すなわち、この要件は破産者の個別的財産状態とは関係なく、支出等 をした回数や金額を一般的、客観的に考慮することによってその通常性を判断するものであると考える。さらに、 相応性の要件は、右に述べた観点からは必要性も、通常性も満たさない支出等であっても、個別的な収入、財産 状態という観点からみればそうではないというような場合である。そのためこの要件は破産者の財産状態を資産、 収入等の諸要素を総合的に考慮して個々の状況に応じて個別的、具体的に判断することになる。特に、この相応 性の要件に関しては、破産者がその財産状態に対して支払不能になったという点で一応は不相応であるといい得 るが、浪費に加えて、たとえば詐術による借入等により支払不能に陥る場合、すなわち浪費以外の免責不許可事 由が存在する場合もあり得るため、かかるような場合においては浪費が直接過大な債務の負担等を招来したこと
東洋法学 一八一
免責不許可事由にいう﹁浪費﹂について 一八二 にならず、個別の相応性の判断が必要となってくる。すなわち、不相応であると判断された場合に過大な債務の 負担等がなされたということになる。この要件は、破産者の財産状態が特にすぐれているわけではない場合は右 通常性の要件を満たしていなければ、そのまま不相応であると認められる場合が多い︵⑥、㈲、㈲、ゆ決定︶。ま た、不相応であるか否かが争いの焦点になっている場合には、前提として必要性、通常性の要件を満たしていな いため、この点には特に言及されなかったにすぎない︵ω決定︶。 このように考えると免責不許可事由にいう浪費とは、社会通念に従って判断される﹁必要性の要件﹂と、一般 的、客観的に判断される﹁通常性の要件﹂から成り立ち、少なくとも両要件のどちらかを満たしていれば浪費へ の該当性が否定されることになる。そして、この両要件が満たされない場合に浪費ということになり、次に過大 な債務の負担等の該当性を判断するために、その事案に応じて個別的、具体的に﹁相応性の要件﹂が判断される ことになる。したがって、免責不許可事由としての﹁浪費による過大な債務の負担等﹂に関しては、﹁浪費﹂と ﹁過大な債務の負担等﹂は区別して判断されるべきであり、必要性の要件、通常性の要件が満たされるか否かが 浪費への該当性の判断基準、相応性の要件が満たされるか否かが過大な債務の負担等への該当性の判断基準とい うことになる。 さらに敷術して間題になりそうな決定に関して、右要件を当てはめてみれば、㈲決定において、株式投資は浪 費であるとされたが、その結論を導く根拠を決定理由からは直接窺い知ることはできないが、株式投資に関して は、その必要性は肯定できず、加えて、借入金三六五〇万円の大部分で株式投資を行ったということから通常性
の要件も満たしていないため︵破産者が通常の給与所得者であるということからその負債総額の不相当性も肯定 できる︶、浪費に該当することになる。また、⑨決定における友人への資金援助に関しても、具体的な事案から はその必要性は肯定できず、加えて、負債総額約一億一二〇〇万円の大部分が援助のために支出されたというこ とから通常性の要件も満たしていないため︵破産者が通常の給与所得者であるということからその負債総額の不 相応性も肯定できる︶、この事案も浪費に該当することになり、両決定は妥当であったと思われる。しかし、の ︵35︶ 決定における三五〇〇万円の住宅購入に関しては、人間生活の基本三要素である衣食住という本能的欲求である ということはさておいて必要性の要件は満たしていないと考えても、住宅︵決定ではコ般人から見て贅沢な住 居とまではいえない﹂とされた︶の価格としての三五〇〇万円という金額およびその支出の対価として不動産と いう資産を手に入れたということを客観的に判断すれば、通常の範囲内であるとして、浪費には該当しないとす ることも十分可能であったのではなかろうか。 ︵34︶ ︵35︶ 納谷廣美 成六年V。 佐藤鉄男 ﹁免責不許可事由としての浪費・賭博その他の射倖行為︵破三七五条一号︶﹂判タ八三〇号三三一頁︵平 ﹁住宅購入は浪費か?!ある破産免責事例をめぐってー﹂金商一〇二九号二頁︵平成九年︶。