タイにおける住民参加型コミュニティ開発に関する
考察--クロントイ地区における生活・住環境改善活
動について
著者
川澄 厚志, 藤井 敏信
著者別名
KAWASUMI Atsushi, FUJII Toshinobu
雑誌名
国際地域学研究
号
8
ページ
137-150
発行年
2005-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00003803/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja国 際地 域学 研究 第8 号2005 年3 月
タイにおける住 民 参 加 型 コミュニ ティ開 発 に関 する考 察
クロント イ地区 にお け る生活・住環 境改善活動 につ いて
川 澄 厚 志* 藤 井 敏 信** 137 1 。 は じ め に 近 年 、途 上 国 の開発 分 野で は、PRA(ParticipatoryRuralAppraisal) を始 め とす る多 くの 参加 型 開 発 の手 法が 試行 さ れて き た。 タイ の 地 区・ コ ミュニ テ ィレベ ルで の 住環 境整 備 ・改 善 にお け る分 野 で は、 ト ップ ダ ウン型 の都 市貧 困 層 へ の政 策 の限 界が明 ら か にな る一 方 で、 住民 を主体 とし た活 動 やNGO に よ る活動 支援 等 の参 加型 の方 法 が試 み られて い る。それ は、① プ ラン重 視 の政 府主 導 型 開 発 か らプ ロ セ ス重視 の 持続 可能 な 住民 主 導 型 開発 へ、② パ ッ ケ ージ型 事 業 から オ ータ ナテ ィブ な 選択 型 事業 へ 、 ③道路、 下水 道、 住 宅 等 のハ ード 面 の環境 整 備 に加 え て福 祉、 人 材育 成、 地 域振 興 な どの ソフト 面 を組 み込 ん だ改善 型 へ、 ④ 国 や地 方自 治体 等 の公 共 団体 が主 導 する公 共事 業 か ら、 住民 が自 ら のイ ン センテ ィブ を活 かせ る オ ー ナー シップ事 業 へ と変 化 して い る。 具 体的 な 開発プ ロ セ スは、 開発 主 体 の背 景 や コ ミュニ テ ィ構造 に よっ て 異 なっ てい る。 住環 境 改 善 を 目的 とし た 事業 に関 し て は、 従 来 の公 共 住宅 供 給事業 な どの ハ ード 重 視 の スラ ム政策 に加 え、 福 祉、 人 材 育 成 等 の ソ フ ト 面 を 組 み込 ん だ ス ラ ム 改善 政 策 を 試 み て い る。1992年 に 設 立 さ れ たUCDO( ・(UrbanCommunityDevelopmentOffice) は、 貧困 者 へ のマ イ クロ クレ ジ ット 支援 等 を実 施 し て き たが2000年 に は農村 開 発基 金 事務 所 と統合し 、COD()(CommunityOrganizationDevelop-meritInstitute) に改組 さ れ全 国的 な 展 開 を行っ てい る。2003 年 には 、CODI が サ ポート して い る住 環境 改 善事 業、BaanMankongProgram( 以 下:BMP)(3) に お いて、住 民 が主 体 となっ たエ ンパ ワ ー メ ント を視 野 に入 れたプ ロ セ ス重 視型 の改善 事 業 が始 まっ てい る。 本 稿 で はそ のひ とつ とし て 住民 が 主 体 と なっ て生 活 環 境 改 善 を試 み て い る クロ ント イ の ム ーバ ン・ パ ッ タ ナー70ラ イ地 区( 以 下:70 ライ地 区) の住民 組織(4)活 動 に着 目 し、 生活 ・住 環境 改 善 の 展開 を見 てい く。 2 。 研 究 の 目 的 ク ロ ン ト イ の ム ー バ ン・ パ ッ タ ナ ー70 ラ イ 地 区 (以 下:70 ラ イ 地 区 ) を 対 象 とし て 、 同 地 区 に お *東 洋 大 学 大 学 院 国 際 地 域 学 研 究 科 ¨ 東 洋 大 学 国 際 地 域 学 部 教 授138 国 際地域 学研 究 第8 号2005 年3 月 ける 住民 組 織 の自 助的 な 活動 の背 景 と経緯 を調査 し、 ① 参加型 コ ミュニ テ ィ改 善活 動 の現 状 、 ② 自 助 努 力 に よる改 善 活動 の効 果 、③ 住 環境 改善 活動 を 通し た ステ ー ク ホルダ ー間 のパ ート ナ ー シ ップ の構 築 、 を分 析・ 考察し 、今 後 の課 題 を検討 するの が主 な目 的 で ある。
3 。調査方法
70 ラ イ地 区 は、強力 なリ ーダ ーシ ップ を持 っ た リーダ ーが 存 在し 、NGO など の協 力 機 関 か ら の サ ポート も充 実し てい る。2002年9 月 、2003年9 月 に は、70 ラ イ地 区 にお け る住民 組織 活 動 を把 握 す る た め に住民 リー ダー の協力 を 得 て、イ ンタビ ュ ー法や 参与 観 察 に より定 性 デ ータを 収 集し た 。2004 年9 月 には、 同 様 の方法 に よっ て クロ ント イ の現状 を 把握 し た。 また同時 に、 クロ ント イ ス ラ ム を 活動 の拠 点 とし てい る4 つ のNGO 機 関(表I) のス タッフ へ の イン タビ ュ ー、資料 収 集 も実 施 し た。 表1 クロントイ地区で活動展開しているNGOs NGO 設 立 年 主 な活 動 ①MarcyCenter (HumanDevelopmentFoundaiton:HDF) 1972 エイズ 対 策(麻 薬 防 止. 患 者 収 容施 設) 健 康 管 理 、教 育 、貯 蓄組 合( 貸し付け) 、託 児m 、職 業訓 練 、他 ②DuangPrateepFoundaiton(DPF) 1978 教育( 教 育里 親 制 度 、幼 稚 園) 、健 康 管 理 。社 会 福祉( 高齢者・障 害 者プロジェクト)、人 材 育成 、防災 活動 、他 ③GrassrootsDevelopmentinstitute(GDI) 1980 スラム改 善、住 民 ネットワー クの 推 進 、他 ④SikkhaAisaFoundaition (ShantiVolunteerAssociation:SVA) 1999 教育 文 化 支援( 図 書 館 事業 、奨 学金) .人 材 育 成 、地 域開 発事 業(エコ石 鹸 、麻薬 防 止キ ャン ペーン)、アジア 地 域 間 交流 、職 業 訓 練 、他 出 典: 現地 調査 を も とに筆 者 作成 4 。 タ イ に お け る 住 環 境 改 善 政 策 の 流 れ4 −1NHA におけ る 政府主 導 型 開 発の 展開NHA (タ イ国家 住宅 公 社)は、1973年2 月 に内 務省 福 祉 住宅 室 、 政府 住宅 銀 行、 バ ン コ ク都 庁 内 コ ミュ ニ ティ改 善 事務局 が 合併 し 設 立さ れ た。1974年 に は、BMA (バ ンコ ク都 庁 )内 に社会 福 祉 局 が 発 足し 、 都市 貧困 層 や スラ ム住 民 を対 象 として生 活 向上 プロ グラ ム、 イ ンフ ラ スト ラ クチ ャ ー改 善 事業 等が 計画 さ れた。 具 体的 には、 リ ーダ ーシ ップ ・ト レ ー ニン グ、 青 少年・ 主 婦 向 け職 業 訓練 を 推 進 す るほか 、 イン フラ整 備 とし て、 道路 、下水 道 、 ご み収 集 システ ム 等の 事業 が 計 画さ れた。NHA は従来 の都市 貧困 層 へ の撤去・移転 策 に対 応し て 、当 初 公共 住宅 建 設 を目的 とし てい たが 、次 第 に 軸足 を 移し て、 住民 のイ ン セン ティブ を生 かし た サ イト・ アンド ・ サ ービ ス方 式、 スラ ム 改善 型 プ ロジ ェ クト を手 が ける よう に なっ て きた。 こ のよ う な政策 転 換 の背 景 に、 移転 政 策 の推 進 は、 膨 大 な予 算 を必 要 とす るの に対し 、 スラ ム住民 は費 用 を負 担 す るこ とが で きず、 権利 を 他人 に譲 り 他所 に不 法居 住 の場 を求 めて移 動 す るこ とに なる と結果 的 に は スラ ムの増 加 につ な が り、 実 質的 な 改善 に は至 らない とい う 現 実が あっ た。 ス ラム 政策 に つい て は、 すべ て が改善 型 事業 に転 換し た わけ で は ない。 都市 計 画上 、 移 転 が必 要川 澄, 藤井 : タイに おけ る住 民参 加型 コ ミュニ ティ開 発 に関 す る考察 − クロ ント イ地 区 におけ る生活 ・ 住環境 改善 活動 に つい て一 139 と さ れ る ス ラ ム も あ る。 あ る い は地 主 が 土 地 の 再 開 発 を 行 う 際 に 移 転 を 迫 ら れ る ス ラ ム も あ る。 こ の よ う に ス ラ ム 住 民 に と っ て 他 律 的 、 強 制 的 な 移 転 は 、 ス ト レ ス を 伴 う 困 難 な 問 題 で あ り 、 現 在 に お い て も状 況 は 変 わ っ て い な い 。 こ の よ う な 状 況 に あ っ て 、貧 困 地 域 の 住 環 境 改 善 の た め 、タ イ 政 府 は タ ク シ ン首 相 の 主 導 の 下 に、NHA に 対 し て 向 こ う5 年 間 で60 万 戸 の 住 宅 を建 設・改 善 を す る 政 策 を 打 ち 出 し た 。こ の 事 業 は バ ー ン ・ ウ ア ・ ト ー ン ・ プ ロ グ ラ ム (BaanEurah-tornprogram:BEP ) と い わ れ る も の で 、BMP と 並 行 し て2003 年12 月 に 計 画 さ れ た 。BEP は、低 所 得 者 層 か ら 中 所 得 者 層( 少 な く と も 月 収15,000 パ ー ツ 以 上 の 世 帯 )まで と 幅 広 い 層 へ の 住 宅 供 給 プ ロ ジ ェ ク ト で あ る 。前 述 し たBMP は 住 民 が 立 案 、計 画 、 建 設 、 評 価 を し 、建 設 後 ロ ー ン 返 済 の た め の 協 同 組 合 を 組 織 化 し 運 営 し て い く の に 対 し 、BEP は こ れ ら の こ と はNHA や 委 託 さ れ た 民 間 会 社 に 任 せ て い る。 こ の た め、BEP は 従 来 の 公 共 住宅 施 策 に 近 く、 ロ ー ン の 返 済 困 難 や 移 転 先 の 基 盤 整 備 が 未 発 達 の た め に 、 権 利 を 他 の 人 に 譲 り 、 再 び 他 の 場 所 ま た は も と の 場 所 で ス ラ ム を 形 成 し て い く 可 能 性 が 指 摘 で き る 。 4 −2CODI に おけ るプ ロ セ ス重 視型 コ ミ ュニ ティ 住環 境 改善 の 活動 展開CODI はこ れ まで に、貧困 層 に対 する 資 金の貸 付 や情 報 の提 供 等 を通じ て 、全 国 の1,273の コ ミュ ニ テ ィで貯 蓄 グ ル ープ の 設立 や ネッ ト ワ ー ク化、 さ らに はパ ート ナー シッ プ の構築 の 支援 等 を実施 し た。そし て2003年 に はタ クシ ン内 閣 が全 国 の 貧困地 域 の住 環境 改 善 を行 う こ とを目 的 に、CODH こ 対 し て2003年度BMP 実施 の た めに1 億4660万 パ ー ツ(約4 億3980万 円)の予 算 を承認 し た。BMP は 貸 付 に対 して、金 利I % と低 金利 を打 ち 出し て い るた め、新 た な スラ ム改 善事 業 とし て 注目 さ れて お り、 既 に向 こう5 年間 に渡 るBMP の第1 段 階 として、10 パ イロ ット プ ロ ジェ クト(表2 )が実 施 さ れ てい る。 表3 は、 その予 算 を示 し た 表で あ る。 表210 パイロットプロジェクトの概要 プロジェクト名 都/ 県 世 帯 数 プロジェクト後 に おけ る土 地 所 有 者 改善 事 業 の 種 類 クロー ク村 ナラティワ ーツト県 310世 帯 鉄 道 局 再 居 住 ガ オセン ソン クラー 県 450 世 帯 財 務 省 オンサ ィト改 善 事 業 チ ヤルンチ ヤイニミツトマイ バンコク都 89世 帯 コミュニティ協 同 組 合 土 地 買 収 ボンカイ・クロントイ バンコク都 202 世 帯 王 室 管 理 局 再 建 築 ブン クック ウタラディット 県 124 世 帯 地 方自 治 体 再 居 住 ブ ロック7−12・クロントイ バンコク都 114 世 帯 港 湾 局 再 移転 ガ オパツタナ ー バンコク都 29世 帯 王 室 管 理 局 再 建 築 ルアム サ マキ バンコク都 90世 帯 王 室 管 理 局 再 建 築 クローンラムヌン バンコク都 49世 帯 コミュニ ティ協 同 組 合 ランド シェアリング レ ー ム ルン ルアン ラヨーン 県 67世 帯 財 務 省 ランド シェアリング 合計 1,525世 帯 出典:CODI 、BMP 資料をもとに筆者作成BMP に お け るCODI の 役 割 は 、 コ ミ ュ ニ テ ィ に 住民 の 組 織 的 な 活 動( 貯 蓄 活 動) が 存 在 し て い る 地 域 に お い て 、 ス ラ ム 改 善 事 業 を 財 政 的 、 技 術 的 に 支 援 し 、 政 府 、 行 政 、 住 民 組 織 、 そ の 他 関 係 機 関 と の 間 を フ ァ シ リ デ ー ト し 、NGO 、住 民 委 員 会 を 通 し た ボ ト ム ア ッ プ 型 の 政 策 を コ ー デ ィ ネ イ ト
140 国際 地域 学研 究 第8 号2005 年3 月 表310 パイロットプ ロジェ クトの予 算 ( 単 位 : パ ー ツ) No プロジェクト名 世 帯 の 数123 社 会基 盤 予算 住 宅 建 設 ローン 政 府 助成 金 総 合 政 府 助 成 金( ロー ンを含 む) 1 クロー ク村 310 31.000,000 62,775,000 52,638,000 115,413,000 2 ガ オ セン 450 9,000,000 20,250,000 15,930,000 36,180.000 3 チ ヤルンチヤイニミツトマイ 89 1,780,000 4,005,000 3,150,600 7,155.600 4 ボンカイ・クロントイ 202 * 29,997,000 9,599,040 39,596,040 5 ブ ンクック 124 * 24,105,600 7.713,792 31,819,392 6 ブ ロック7−12・クロントイ 115 11,500,000 22,356,000 19,228,920 41,584.920 7 ガ オパ ツタナー 295 80,000 3,915,000 1,861,800 5,776.800 8 ルア ム サマキ 90 1,800,000 14,580,000 6,555,600 21,135,600 9 クロ ーンラムヌン 49 4.900,000 7,594,020 7,575,086 15,169.106 10 レ ー ム ルン ルアン 67 1.340,000 3,015,000 2,371.800 5,386.800 合 計 606 321 598 61,400,000 192.592.620 126,624.638 319,217,258
「裕司:/
\
図1BMP にお けるス テー クホルダ ー間 の関係図 出典:COD1,BMP 資料 出典:CODI 、BMP 資料 す る こ と に あ る 。 ま た 、 従 来 の プ ロ ジ ェ ク ト に お け る7 % の 貸 付 利 子 率 と比 較 し て も 今 回 のBMP の 貸 付 利 子 率 は 、1% と 画 期 的 で あ る 。2003 年 に 従 来 の 利 子 率 で パ イ ロ ッ ト プ ロ ジ ェ ク ト が 完 了 し た ア ユ タ ヤ の ア ー カ ン ソ ー ク ロ ッ 地 区 で は 、 高 額 の ロ ー ン 返 済 が 住 民 に とっ て 負 担 と な っ て い る 。BMP の 目 的 は 、現 存 す る 都 市 貧 困 地 域 に 対 し て 土 地 問 題 を 解 決 し 、 基 本 的 な イ ン フ ラ を 備 え た 住 環 境 を 改 善 す る こ と で あ る 。 こ う し た 物 理 的 な 側 面 の ほ か 、 福 祉 ・ 経 済 状 況 ・ 社 会 開 発 に わ た る 包 括 的 な 問 題 を 改 善 し て い く プ ロ セ ス を 確 保 し 、 コ ミ ュ ニ テ ィ の 絆 を 強 化 す る こ と も一 つ の 狙 い で あ る。 最 終的 に は、 開 発プ ロ セ スにお い て地 域 住民 を中心 に、 様 々 な関 係者 の パ ート ナー シッ プ を構 築 し て問 題解 決 を図 り、 持 続可 能 な新 し い都市 開発 の モデ ルを つ く る こ とを目 的 とし て い る。 図1 は、BMP にお け る各 関係 者、 関 係機 関 との関 係図 で あ る。BMP の事 業 形 態に は主 に 次の5 つ が挙 げら れる。① ス ラ ム地 区の イン フ ラ スト ラ クチ ャ ー等 を段 階 的 に改 善し て い く地 区改 善(Slumupgrading) 、② 複 雑 に入 り組 ん だ地 区 の区 画 を整 え、 道 路、 上 下 水 道、電 気等 の イ ンフ ラを整 備 す る再 区画 整備 方式(Re-blocking)、③ 土地 所 有者 に 所有 地 の一 部 の占 有利 用 を認 め、 そ れ以 外 の部 分 を スラ ム住民 のた め に開 発 す る土 地 分有 方 式(Landsharing) 、 ④ 自 然 発 生 的 に 形 成 さ れ た 住 宅 群 を 撤 去 し、 そ こ に 新 た な 住 宅 地 を 作 る 再 開 発 方 式(Re-construction) 、 ⑤ 他 の土 地 へ移転 さ せ る再撤 去 ・移転 方式(Re-location) があ る。 これ ら の事 業 の 中 から、CODI 、関係団 体 と住民 組 織 との連 携 の下、どの よ うな事 業 形態 が そ のコ ミ ュニ テ ィ に対 し川澄, 藤井 :タ イに おけ る 住民 参加型 コミ ュニ ティ 開発 に関 す る考察 −クロ ント イ地 区 にお ける生活 ・ 住環境 改善 活 動 につ いて 一 l ∠H て 望 まし いの かが 話し 合 わ れ、 結 果 的 に コ ミュニ ティ に適 し た事 業 を住 民 が選 ぶ。 以 上 より、BMP の特 性 は次 の よう に ま と めら れる。① 参加 型 ス ラ ム改善 が 目的 であ り、住民 の エ ン パ ワ ーメン ト を重 視 し た事業 で あ る。②CODI がBMP を 通し て 、NGO 、各事 業 関係 者 、住 民 組 織 等 をサ ポ ートし 、意 見調 整し なが ら総 合 的 なパ ート ナ ーシ ップ の構 築 を 図っ てい る。 ③ 住宅 ロ ー ン の 貸付 金利 が安 く、貧 困者 層向 け の 住 環境 改善 事業 であ る。④ 住宅 の所 有 や借 地 権が 取 得で きる。 し かし 、その 一方 で、BMP は、建設 完 成 まで時 間・費 用 がBEP よ り もかか っ てし まう た めに、参 加 で き る住民 の数 には 限り があ るこ とが課 題 とい えよう。 5 。 ク ロ ン ト イ 地 区 の コ ミ ュ ニ テ ィ 概 要 クロ ント イス ラ ム(写 真1) は、バ ン コ ク市 内の南 、 チ ャオプ ラ ヤ川 が シャ ム湾 に注 ぐ 河 口 か ら28km ほ ど上 流 に位置 す る面積842 ライ(1 ラ イ =l,600rrf)、19,552 世 帯、約10万人 が居 住し て お り、東 南 ア ジ アで 最 大 級 のス ラム であ る。同 地 区 は、42 の地 区 か ら形 成 さ れて お り、 その ほと ん どが ス ク ウオッ タ ー(5)住 民 で 港 湾 局 の 土 地 に居 住 し て い る。1980 年 代 か ら1997 年 のパ ーツ危 機 に至 る まで、経 済発 展 に 伴っ て、 全 国 か らバ ンコ クお よび そ の周辺 地 域 に出 稼 ぎ に来 たこ とよ り、 スラ ムは急 速 に増加 す るこ とに な った が、 同様 に クロ ント イで も雇用 を求 める人 々 が 集 ま り、 湿地 帯や 路 線沿 い、 運 河沿い とい っ た比 較的 利 用価値 が低 い土 地に ス ラ ムが形成 さ れた。 表4 は、 クロ ント イ地 区 に関 す る基本 情報 で あ る。 ク ロ ン ト イ 地 区 は、①5 つ のNGO が コ ミュニ テ ィへ 介入し て い る、 ② 小学 校、 託 児 所、 保 育 園な ど の公的 施設 が 立地し て い る、 ③安 定し た住 民 ネ ッ ト ワー クが あ る、 など全 体 とし て の ま とま りが 見 ら れ る地 区で あ る。 それ ゆ え地 域 の環 境整 備 につ いて は住 民 の関 心 も高 く、 タイ国 内 で初 めて サイ ト ・ ア ンド ・ サ ービ ス方式 で住 環境 が整備 さ れた地 区 で あ 表4 ク ロ ント イ42 地 区 の概 要 NO j謳 名 面(l^i 〉 世帯 数 人│コ 委貝数 1 ワットクqントイナイ1 6 300 2135 9 2 ワJトクCDトイナイ2 6 382 Z5n 15 3 ワットク1二1ントイナイo 2 1固 1.200 7 4 タラッピナン 4 S 576 7 5 タラッピナンパッタナー 1 124 3咬 7 6 リムタンロットフ?イサイタルァ 11 518 ai64 S 7 パッタナーアジ ア 2 85 S7S 7 8 タラッタ・-ルアクロントイ 釦 1.1DO s.{ao 5 9 バツタナーマイ 11 5sa ZSBB 25 10 リムクロンサマン 10 1B5 825 7 11 フラット1−10 44 2J}9S 8.390 S 12 フラットi −18 32 1.140 7.000 3 13 フラット9 −22 18 530 aS84 24 u ロッ■in−2−3 41 IJBOO 7.126 S 15 □krク'4−5−6 21 i 皿 a{o} 3 16 ムーiyン パッタナー70ライ TO 1.113 吸M> S 17 ブアコーン 10 463 aaso S 18 ノーンマイ 10 四 I.2SD 13 19 ロムクラオー 14 341 ZTsa 17 S ローンヌー ー 499 209S 2 21 フラット23−24 5 275 1.200 21 2 リンク・aンワット*rnン 4 677 2.16S 3 23 づ□フク7−12(BUP 予定 堀E ) 5 114 IS 24 パンクJレアイ 2 152 728 10 S ルアムチャイサマキー 13 1&B 四 8 26 チャJレンスゥrクゥ Z 421 7.00} S 27 アーカンサップシンュトク26−7 3 380 1.514 19 28 リンクaンプうイシントオ 1 5 171 7 29 ナパーサッブヤァック 5 103 671 7 ー センサバイーセンスック i(x〕 566 2.179 S 31 サップマノータイ 120 4t2 zm S 32 テープラタム 17 1200 11.073 3 コ>う−ン 3 田 356 7 34 サワッディー 6 Z 119 7 ー ヌーハンプレ ームルタイ 12 肪 432 7 36 スワンタイ 20 67 304 7 37 スワンオイ B 207 1.117 21 38 江A ニト ロ ーワツトサパン 8 72 390 7 S リムクロンブラカノン 6 280 四 9 40 プムチ-jト ー sot〕 1714 18 41 ピヤワット 3 78 430 7 ≪ レムチャレン 12 制 615 7 合計 342 19J5S2 91.671 624 出 典: 現地 調査 を も とに 筆者 作成 り、現 在 もBMP のパ イロ ット プ ロ ジェ クト が実施 さ れて い る、また、昨年 の国政投 票 日直 前 の7 月 中 旬 に は、同 地 区 に各政 党 の政 治家 が 招 待 さ れ、政 治討 論会 が 開 か れてい るこ とか ら地 区 とし て の 一 定 の政 治力 もう かが える。
142 国 際地 域学 研究 第8 号2005 年3 月 図2 クロ ント イ 地 区 の 発 展 過 程 図2 は、 クロ ント イ地 区 全体 を示 し た もの で あ る。 地 図 の なか の①∼ ④ の番 号 は、 それぞ れ ① 電 気・水 道の整 備 、②NHA から の25,000パ ー ツに よっ て、水道 パ イプ 設置 、道路 舗装 、電 気・ 水道 の メ ータ ー の取 り付 け等 を 実施(1982 年)、 ③1985年(70 ライ 地区)、1992年 にイ ンフ ラ整 備、 スペ ース 確保 のた めに住民 が一時 撤 去 し、 再開 発 方式・区画 整備 方式(Re-blocking) 等 を実施、 ④500世 帯 の 住民 を対 象 とし た45ラ イ の土 地 へ の再撤 去 ・ 移転事 業(Re-location) 、 を表 す。 住民 やNGO 機関 関係 者 へ の イ ン タビ ュ ーか ら、 クロ ント イ地 区にお け る 次 の よう な問題 点(2003 年9 月) が明 らか にな っ た。 ① バ ン コ クの スラ ムの ほ と んど は低 湿 地帯 や 軟 弱 で 開発 さ れに くい運 河 や 鉄道 沿 い( 写真2) 、 橋 の下 に形 成 さ れる。 クロ ント イ におい て も、 川 が隣接 し てい る た め排水 が 困難 とな り、 洪 水 がし ばし ば起 きる。 またベ ニ ヤやト タ ン の 古 材 で 造 ら れた 狭 い 家 が多 い な ど の 「 生活・住環境 問 題」。 出典:CODI 資 料 を も とに筆 者 作成 写真1 クロ ント イ(70ライ地区 )の様 子 写 真2 鉄 道 沿 い 住宅 環 境 ② 非 合法 に スラ ムを形 成し た人 々 の住 民登 録 は困難 で、 タイ人 で あ るID カ ード( 身 分 証明 書) が 手 に入 れる こ とがで き ず、そ れ ゆえ十 分 な 教育 を受 けら れず 、正 規 の職業 に もつ けな い な ど の「 法 的 問題 」。
川澄, 藤井 : タイ にお け る住民 参加 型 コミュニ テ ィ開 発に 関す る考 察 − クロ ント イ地 区にお け る生 活・ 住環 境 改善活 動 につ い て一 143 ③ 交通・通 信省 、港 湾局 管轄 の 公有 地 の た め、 強制立 ち退 き な どの移転 問 題 を常 に 抱 えてい る「立 ち 退 き問 題 」。 ④ 親 の麻 薬 中毒 や犯 罪 に よっ て家 庭が 崩 壊し 、 行 き場 を失っ た子供 たち が犯 罪や 麻薬 に染 まる な ど の「 社会 的 な問題 」。 ⑤ スラ ム住民 の職業 は、 港湾 労 働 者、 工場 の日 雇い労 働 者、 タ クシ ー・ バ イク タ クシ ー運 転 手、 廃 品 回収 業、 売 春等 の イン フ ォー マル な 職場 な ため に低 賃金 や 不利 な 労働 条 件下 で働 い てい る。 従 っ て、 満足 な生 活 水準 を確 保 す る こ とが困 難 といっ た 「経 済的 問 題 」。 ⑥ 貧困 ゆえ の教育 機会 の欠如 、 また家 庭 内事 情 によ る中退 者 や 学校 に 通 えない 子 どもが存 在 す る な どの「 教育 問題 」。 ⑦ 住民 票 を取 得で きない 住民 は、 高 額 な医 療費 を自己 負担 し な け れば な らず、 薬 局 などで の薬 で 済 ます場 合 も多 い が、 薬 の用 途 や副 作 用 の誤 解 など を生じ て い る とい った 「健 康問 題 」。 こ の よう に、多 くの問 題 がコ ミ ュニ テ ィ内 に存在 す るが、 一 方で 、 住民 は自ら そ れら の問 題 に対 応 する た めに、NGO など と共同 で 活動 を実施 し て きた。そし て 各 コ ミュ ニテ ィ の住民 委 員会 や 住民 組 織 の活 動 に よって 、 教育 、 生 活環 境 な ど の改 善が なさ れつ つ あ る。 し かし、 多 くの住民 は、 ①住 民 組 織 によ る コミ ュニ ティ活 動 へ は忙し い、 ②興 味 が ない、 とい う理 由 から 日常 的 な コミ ュニ テ ィ 活 動 へ の参加 をし てい ない こ と も明 ら か に なっ た。 こ れに対 し 、 次に 紹 介 する よう に、 強力 な り ー ダ ーシ ップ が存 在し てい る地 区 で は、 生 活環 境改 善 等 のプロ ジ ェ クト の 住民 の自 助 努力 に よ る推 進 が 見 ら れる。 6 。 住 民 プ ロ セ ス 重 視 の 住 環 境 改 善 活 動 の 事 例6 −170 ラ イ地 区の特 性 当 地 区 は人 口8,340人、世 帯1,113世 帯 、クロ ント イ のほぽ中 心 に位 置 す る。1960年 代頃 か ら多 くの出 稼 ぎ労 働者 が 港湾 で の 雇 用 を求 め、 低 湿地 帯で 利 用価 値 が ない と思わ れ た上地 に 不 法 占拠し 、 ス ク ウオッ タ ーを形 成 して きた。 当時 のコ ミュ ニ テ ィ内 は劣 悪 な居 住環境 で、 不 規則 に住 宅 は並 び、 ス ラ ム 住民 は生 活防 衛 のた めに 葬式 のた めの互 助 や 小規 模 な講 な ど に よ っ て近 隣、 親戚、 友人 など クィ の伝 統 的 な互 助 関係 を形 成 し てお り、 互 酬性 に基 づ く擬似 的 兄弟 関 係 (パトロ ン ・ ク ライ ア ント関 係 )が 住民 の生 活 を支 え て きた。 クロ ント イ住 民 の 生活 改善 全 般 にNGO (表1 参 照)が 介入 す る1970年 代後 半 に は、 住民 に よ り選出 さ れ たり ー ダ ーた ち とNGO の協 力 の 下 、同 地 区に 住民 組織 が設 立 さ れ た。1983 年 に は、生 活環 境 改 善 を目的 に 、い くつ かの住民 ボ ラン テ ィア グ ル ープ を組 図3 区 画 整 備 さ れ た70 ラ イ 地 区 Q^cns;ひtり刺&Hk, ㎝UN)UUJ4& \9D3
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s k 淫 点jj 靉  ̄ … … `l? χ ・: り ― 回inniiHy;. ■?c 出 荷 出 典 :CODI 資 料( シ ユ ロ モ ・ エ ン ジ ェ ル 作 成 図)144 国際地 域学 研 究 第8 号2005 年3 月 織し 、 協 力 団体 や 機関 と一緒 に なっ て、 コ ミュニ テ ィの改 善活 動 を行 っ てい くこ とに な る。1985 年 に はNHA によっ て ランド シェ ア リン グが 実施 さ れ不規 則 に並 んで い た住宅 は区 画整 備 さ れた (図3 )。 6 −2 プ ロ セ ス重視 型 に よる 生活 ・ 住環 境改 善の活 動 展 開70 ラ イ 地区 にお け る住民 委員 会 は、 地方 行政( クロ ント イ 区) に所 属し 、2 年 に1 回 の 住民 の直 接 選挙 によ って 、 リ ーダ ー となる25名 の委 員 を選 出 する(2004 年9 月、70 ライ 住民委 員 会:24 名 の 委 員で 構 成)。人 口や世 帯 数 な どあ る一定 の条件 を満 た す形 で住 民委 員 会 が機能 し てい れば、行 政 か ら 正式 な コ ミュニ テ ィ とし て認 めら れる。 あ る一定 条 件 と は、① 人 口比 な どを加 味し て選 挙 な どで 住 民 の代 表 を 選ぶ こ と、② 委 員会 の 役割 分担 な どが明 確 にし てい るこ と、の2 点 であ る。に れ ら の条 件 は、 バ ン コ ク都庁 の地 域 開発 局 に よる と地 方自 治体 に よっ て異 な るo) こ の よ う な 住民 組 織 と地 元NGO との 連 携 に は 様々 な形 態 が あ るが 、NGO は地 区 内 に生 じ る 様々 な問 題 のアド バ イ スや行 政 との会 合 に中 立的 な立場 とし て立 ち会 い、 住 民 と一 緒 と なっ て問 題 改 善 の た めに活 動し てい る。70 ラ イ地 区 の住民 組 織活 動 は、 表5 に示 す よう に、 環境 改 善 の た め の い くつか の 住民 組織 が 結成 さ れ、 そ れ ぞ れに活動 を展 開し てい る。 そし て、 そ れら の 住民 組 織 は、 外 部 との ネット ワ ー クを通じ て情報 交 換 を行 い、 コ ミュニ ティ の改善 を進 めてい る。 表570 ライ地区住民組織の活動内容 住 民 組 織 グ ル ー プ 名 設 立 年 活 動 目 的 活 動 内 容 ① 住 民 委 員 会 1985 コ ミユ ー テ イ環 境 改 善 コミュ ニ テ ィの 運 営 ・ 管 理 の 全 般 ② セ キ ュ リ テ ィ 2003.5 麻 薬 撲 滅 夜 の 見 回 り( 地 元 警 察 と) ③ 環 境 1997 コ ミユ ー テ イ環 境 改 善 卵 と ご み の 交 換 プ ロ ジ ェ クト 消 臭 剤 の 製 造 、ご み バ ン ク 下 フkl貧() 帚 昭(2i 周 習Iこ^ 匝]) ④ 健 康 管 理 2003.5 老 人 のため の 健 康 診 断 健 康 管 理 施 設 建 設 計 画 路 地 の 清 掃 ⑤ 青 年 2003.9 人 材 育 成 大 人 の サ ポ ート年 に1 回 の ワ ー ク シ ョッ プ ⑥ 老 人 会 2003.9 芸 能 活 動 月 に1 回 の お 祈 り 、エ ア ロ ビ 、ヨ ガ 子 供 だ ち と の コミュ ー ケ ー シ ヨン( 踊 り や 道 枝 を 教 ぇ る 垠) ⑦ 婦 人 会 2003.9 子 供 へ の コミユ ー テ イ教 育 5S プ ロ ジ ェ クト =1洛 地 のmm 出典:現地調査をもとに筆者作成6 −3 卵 と ゴ ミ の 交 換 プ ロ ジ ェ ク ト に お け る 生 活 環 境 改 善 活 動 の 展 開 卵 と ご み の 交 換 プ ロ ジ ェ ク ト( 写 真3) は 、1997 年8 月 に 始 ま り 、70 ラ イ 地 区 住 民 ボ ラ ン テ ィ ア 環 境 グ ル ー プ が 活 動 を 担 っ て い る。 同 プ ロ ジ ェ ク ト は 、 コ ミ ュ ニ テ ィ リ ー ダ ー を 中 心 に 、 自 助 努 力 に よ っ て 実 施 さ れ 、 活 動 範 囲 は 同 地 区 を 中 心 に ク ロ ン ト イ34 地 区 、22 ヶ 所 の バ ン コ ク 都 ス ラ ム コ ミ ュ ニ テ ィ 、バ ン コ ク 周 辺 の ① ラ チ ャ ッ ブ リ ー(Rathchaburi) 、② ヤ ン ヨ ン(Rayong) 、③ ヤ ッ ラ ー(Yala) 、 ④ チ ョ ン ブ リ ー(Chouburi) 、 ⑤ サ ム・パ カ ン(Samutpalearm) 、 ⑥ ノ ン タ ブ リ ー(Nontaburi) の6 県 に お よ び 、 環 境 グ ル ープ と 他 の 地 域 と の 間 に ネ ッ ト ワ ー ク を 形 成 し て い る。 下 記 に 示 し た も の は 、 活 動 当 初 に お け る プ ロ ジ ェ クト の 資 金 提 供 や 支 援 し た 団 体 やNGO 機 関 で あ る 。
① 社 会 投 資 基 金(SocialInvestmentFund:SIF)(6) ∼47,000 パ ー ツ の 寄 付 ② マ ー ジ ー セ ン タ ー(HDF) ∼ ボ ラ ン テ ィ ア ス タ ッ フ へ の 贈 呈 品( 写 真4)
川澄, 藤井 : タイ にお け る住民 参加 型 コミュニ テ ィ開 発に関 す る考察 ・− クロ ント イ地 区にお け る生活 ・住 環境改 善活 動 に ついてー 145 ③ ド ゥア ン・プ ラ ティ ープ財 団(DPF) ∼24,000パ ーツ の寄 付 ④ シ ーガ ー・アジ ア財団 (SAF ) ⑤ クロ ント イ 港警 察署 (KlongToeyPortPoliceStation )∼ ボラ ンテ ィ アス タッ フ 派遣 ⑥DANCED (DanishCooperationforEnvironmentandDevelopment )∼20,000パ ー ツの寄 付 ⑦ クロ ント イ職業 訓練 セン ター (KlongToeyVocationalTrainingCenter ) ⑧ クロ ント イ区立 小学 校 (PrimarySchoolsinKlongToeyDistrict ) 写真3 ゴ ミ の 分別 の 様 子( 卵 と ゴ ミ の 交 換 プ ロ ジ ェ ク ト) 写 真4HDF か ら の 贈 呈 品 こ のプロ ジ ェ クト は、クロ ント イ地 区 にお い て ゴ ミ問題 の深刻 化 する中 で、コ ミ ュニ ティ リ ーダ ー が 地 区内 に貯 まっ てい る ゴ ミが下 水 溝 に流 れ込 んでい る のが 原因 で毎 年 洪水 を 引 き起 こし てい る こ とに着 目 した こ とに始 まる。 そし て 、 ゴ ミを 分別 収集 す る方 法 とし て、 卵 と交換 する アイ デ ィアが 生 まれ、実施 す るよう に なっ た。なぜ 卵 か とい う理 由 は、ゴ ミ とお 金・クー ポン券 の交 換 で は、得 た お 金 に よっ て働 かな くな る可 能性 や 飲酒・麻 薬 に換 わる恐 れ もあ る のに対 し 、卵 は安 く栄 養が あ り、 住 民 が毎 日食 す る こ とか ら卵 を代 替 物 とし て 扱 うよう に なっ た。 そし て 、 下水 溝 のゴ ミ を取 り除 き 環 境改 善 が なさ れ るにし たが っ て集 める ゴ ミの質 は、 リ サイ クル 可 能で お 金 に変換 する こ とが で き るビ ン、 新 聞紙 、空 き缶 、ペ ット ボト ル、 雑 誌 な どに移行 し てい っ た。 同 プロ ジ ェ クト は、1999年7 月か ら2000年5 月 まで の間 の統計 で 、20以 上 の コ ミュニ テ ィへ の急 速 な活 動 の広 が りを みせ 、クロ ント イ 行政 区やNGO 団 体 から 次第 に 支援 さ れる ように なっ て き た。1999年7 月 から2000年5 月 ま で の間 で、 こ のプロ ジェ クト へ の住 民 参加 総 数12,326人 、集 めたご みの量201,875kg、 ボラ ンテ ィア 数2,308人 、 交換し た 卵 の数92,503個 に及 ぶ。 こ のプロ ジェ クト が 周辺 地域 に拡 大 する に従 い、政 府 の要人 、王 家 の家族 、他 の地 区 のリ ーダ ー、 外国 か ら の スタデ ィ ツア ー等 から 注目 を集 める よ うに なり、 整 備 さ れた70ラ イ地 区で バ ン コ ク都や クロ ント イ区 役所 な どの特 別 な行事 等が 開 催さ れるよ う になっ た。 住 民 の間 で活 動 を根 づか せ るた め に は、 活動 内 容の シ ンプ ル さ とゴ ミが卵 に換 わる よう な経 済効 果 、 そし て日常 生 活 にお ける 実用 性 が求 めら れる。 こ の卵 とゴ ミの交 換 プロ ジ ェ クト で は、 住 民 が こ の事業 を理解 し 、栄 養価 が あ る卵 に 注目し た こ とで活 動 の持 続 的 な定 着 に つなが っ た。 同 時 に、
146 国 際地 域学 研究 第8 号2005 年3 月 子 ど もへ環 境 に対 す る関心 を 持 た せる 社会 教育 とし て も効果 があ っ た。 この よ うな活 動 は、 他 の地 域 へ も徐々 に波 及し 、「 ゴ ミ銀 行」や「 ゴ ミの リ サイ クル 運動 」 とし て 政 府 か ら奨 励 さ れ、NGO 団 体、 他の地 域 住民 との ネット ワ ーク を形 成 するこ とがで き た。 7 ま と め 7 −1 自 助 努 力 に よ る プ ロ セ ス 重 視 型 の コ ミ ュ ニ テ ィ開 発 の 有 効 性 クロ ン ト イ の ス ラ ム改 善 事 業 の 経 緯 で 図470 ラ イ地 区 住民 組織 活動 にお け るパ ート ナー シップ 構 明 ら か な ように 、70ラ イ地 区で は、1985 年 に実 施 さ れた 区画 整備 事業 から 住民 組 織 が本 格的 に組 織化 さ れ、 住民 主体 の活 動 を行 っ て きた 先駆 的な 地域 と位置 づ け る こ とが で き る。 そし て現 在 (2004年9 月)、70ラ イ地 区で は、住 環境 改 善活 動 を 通し て 各 関係 機関 とのパ ート ナー シップ を確 立 し つつ あ る (図4 )。 こ の よう に活発 な 住民 組織活 動が 展 開 さ れ る よう になっ た 要因 は以 下 の通 りで あ る。 ① 先 駆的 に改善 さ れた地 域 とし て の認 識。 築 図 出 典: 筆 者作 成 ②NGOs が70ラ イ地 区内 に 立地 し てい た こ と。 ③ 強力 なり ーダ ー の存在 。70 ラ イ地 区 の ように 早 く から住 民 プロ セ ス重視 の コ ミュニ テ ィ開 発 が行 わ れて きた 地 区が 、 クロ ント イ にあ るこ とに よっ て、 波及 的 に他 の近 接地 区 にお いて も環 境 改善 パ イロ ット プロ ジェ クト が 実施 さ れ る ように なっ た。例 えば 、BMP10 パ イロッ トプ ロ ジェ クト のう ち、2つ の プロ ジェ ク ト(ボ ンカ イ 地区、7−12 地 区)が クロ ン ト イで 実施 さ れてい る。 また、7−12 地区 で は、 他 の事 業(off-site に よる撤 去 ・移 転策 ) も実施 さ れ てい る。 7 −2 住 民 ネッ トワ ー ク構築 の 重要 性2005 年 に は、70ラ イ地 区 と港 湾 局 との間 で、1985年 に交 渉し た 借地 権 の期 限が 来 るた め地 域全 体 で 強制 撤 去 の可 能性 が指 摘 さ れて い る。対応 し て クロ ント イ地 区で は、42地区 の内4o地 区 の リ ーダ ー が 団 結し、 住民 ネ ット ワ ークを 組織 化 し て、 住み続 け ら れる よう に再 び港 湾局 との借 地権 延 期 の交 渉 を 試 みてい る。 住民 ネット ワ ークで は、2004年10月 にア ン ケ ート 調 査 を実施 す る予 定 であ る。40 地 区 の住民 ボラ ンテ ィア が、 クロ ント イ約10万人 の住民 に対 し 、 ①家族 構成、 ②世 帯 主 の 職業 ・ 収
川 澄,藤 井: タ イに おけ る住 民 参加型 コミ ュニ ティ 開発 に関 す る考察 一 クロ ント イ地 区 にお ける生活 ・ 住環境 改善 活動 につい て一 147 人 、 ③ どの くらい 居住 し てい る か、 に つい て 各世 帯 に聞 き取 り を行 い、 この 結果 を港 湾局 に提 出 す る予定 であ る。 こ の よう に住 民が 住 み続 けら れ るた めの交 渉能 力 やそ の方 策 や試 みがさ れ る よう になっ た背 景 に は、プ ロ セス重 視型 の 住民 参加型 コ ミ ュニ テ ィ開発 があ る。 7 −3 住民 参加問 題 住民 参加 型 のコ ミュ ニ テ ィ開発 に は 次の よ うない くつ か の問 題 点 があ る。 第1 に、 住環境 改 善事 業・ 活 動 に参加 し た住民 と参加 し な かっ た 住民 の 間に は経 済的 ・ 社会 的 格差 が生 じ る。 第2 に 、 住 民 が主 体 とな って 住環 境改 善 をし て い くBMP な ど のプ ロ セ ス重 視型 の コ ミュニ テ ィ開 発 は、時 間・ 費 用が か かっ てし まうこ とか ら、 参 加 で きる 住民 の数 に は限 りが あ る。 第3 に、 住民 参加型 コ ミュ ニ テ ィ開 発 の過程 におい て強力 なり ー ダ ー と住民 との間で 時 に意 識 格差 、情 報 格差 が生 じ てし まう。 こ れら は クロ ント イ に限 ら ず、い ず れ も参加型 開発 の大 き な課 題 とい え る。 8 。 今 後 の 課 題 参 加型 コ ミュニ テ ィ改 善 の効 果が あ る一 方 で 、70ラ イ地 区住民 参 加型 コ ミュニ テ ィ開 発 の事 例 か ら今 後 の課 題 とし て次 の4 点が あげ ら れる。 第 目こ、70 ライ 地区 で見 ら れた環 境 グル ープ は、 コ ミュ ニテ ィ 内 の意 欲の あ るグル ープ で あ り、 こ の よう な活動 へ 経済的 な 理由 か ら、 参 加 で きない 最貧 困 層へ の対 応 とコ ミュニ テ ィ内 で の格差 を 生 じ さ せ ない こ とが必 要で あ ろう。 第2 に、BMP の よう な住 民 参加型 コ ミュ ニ ティ改 善事 業 に参 加 す るこ とが で き なかっ た住 民 は、BEP や フ ラ ット(安 アパ ート )の よ う な集合 住 宅 に移転 す る こ とが予 測 さ れる。 この住 民 は、 政府 やNHA が 用意し た住宅 や場 所 に住 む こ と にな り、地 域 へ対 す る関 心 を高 め る こ とは難し い。 第3 に、今後 住 み続 け るこ とを可 能 にし てい く た めに は、コ ミュ ニ テ ィ教育 を 通し て次 世代 グル ー プ を育 成し 、 コ ミュニ テ ィへ の関 心 や愛 着 心 の向上 を 図っ てい くこ とが重 要で あ る。 最後 に、住 環境 改善 事業 を 通し た 住民 主 体 の持 続可能 な 開発 にお け るパ ート ナ ーシ ップ の構 築 に つ い て は、政府 機関、NGO 、学 識 関 係者 、住民 組 織、住民 ネ ット ワ ー ク組織 の 意見 調整 とと もに、 コ ミュニ テ ィ単位 の 住民組 織 を、 さ ら に小 規模 組 織単 位 を重 視し た ボト ム アップ 的 な組 織形 態 に変 えてい くこ と も必 要 と思 わ れる。 〈謝 辞〉 本 稿 の 作成 にあ た りご協 力 頂い た東 洋 大 学国 際 地域 学部 の安 相 景 教授 、 高橋一 男 教授 、東 洋 大 学 大 学 院国 際地 域学 研究 科博 士 後期 課 程 秋谷 公博 氏 、東 洋大 学 国際 地 域学 部 卒業 生 のバ ン ナソ フ ア・ カ ム サア ット氏 、並 び に現地 調 査 に際 し て は、関 係住民 や 各NGO 機 関 ス タッ フの協 力 に よる もの で あ る。 こ の場 をお 借 りし て、 心 よ り厚 くお 礼 申し 上げ ます。
148 国際地 域 学研 究 第8 号2005 年3 月 〈 参 考 ・ 引 用文 献 〉 (1) 秦 辰 也 「 タ イ の 都 市 スラ ム に お け る コ ミ ュニ テ ィ 形 成 の た め の 居 住 環 境 改 善 活 動 へ の 青 少 年 と 大 人 の 参 加 及 び 帰 属 意 識 の 比 較 研 究 」 日 本 都 市 計 画 学 会 、 計 画 行 政27(3 )、pp51 ∼61 (2004 ) (2) 秦 辰 也 「 タ イ の 都 市 スラ ム に お け る 居 住 環 境 改 善 策 の 変 遷 と住 民 参 加 の 促 進 に 伴 う 住 民 組 織 (CBO ) の ネ ッ ト ワ ー ク形 成 に 関 す る 考 察 」 日 本 都 市 計 画学 会論 文 集No.38-3 、pp3l3 ∼318 (2003 )(3 ) 秦 辰 也 「 開 発 途 上 国 地 方 都 市 の ス ラ ム に お け る 住民 参 加 と 住 民 組 織 の ネ ット ワ ー ク 化 、及 び 行 政 と の パ ー ト ナ ー シ ッ プ に つ い て 一 タ イ ・ ナ コ ー ン サ ワ ー ン 市 にお け る 住 民 参 加 型 移 転 計 画 に 関 す る 事 例 分 析 − 」 日 本 都 市 計 画 学 会 一 般 研 究 論 文 、pp63 ∼75 (2001 )(4) ロ バ ー ト チ ェ ン バ ー ズ、 野 田 直 人 ・ 白 鳥 清 志 監 訳 『 参 加 型 開 発 と国 際 協力 』 明 石 書店 (2000 )(5)CODITBaanMankong 一Anationalprogramofcity-widecommunity-drivenupgrading − 」(2003 ) (6)CODIrCODlupdate-BaanMankong 」(2004 ) (7) 中 村 真 珠 訳 「CODl ソ ン ス ク氏 講 演 会 ―於 : 東 洋 大 学 白 山 キ ャ ン パ ス 」 配 布 資 料 (2003. 川.27 )(8) 藤 井 敏 信 他 「 ネ ッ ト ワ ー ク 型 組 織 化 と イ ン フ ォ ー マ ル コ ミュ ニ テ ィに お け る 環 境 改 善 の 展 開 − タ イ・ア ユ タ ヤ の 事 例 よ り 」 日 本 都 市 計 画 学 会 分 科 会 、 ア ジ ア の まち づ く り に 関 す る 計 画 論 的 研 究(2003 )(9)NHATBAANEURAH-TORNPROJECT 」2004 年9 月 現 地 調 査 収 集 資 料 (2003 ) ㈲ 新 津 晃 一r 田 坂 敏 雄( 編 )ア ジ ア の 大 都 市 圃 バ ン コ クー 第9 章 ス ラ ム形 成 過 程 と政 策 的対 応PP.257-278 』 日 本 評 論 社 (1998 )(11 ) 川 澄 厚志 「 タ イ・クロ ン ト イ に お け る 住民 参 加 型 コ ミュ ニ テ ィ 開 発 一 住民 参 加 型 プ ロ ジ ェ クト 活 動 の 実 態 と そ の 効 果 分 析 に つ い て ー 」 国 際 開 発 学 会 第15 回 全 国 大 会 報 告 要 旨pp.348 ∼351 (2004 ) 〈 補 注 〉 (1)UCDO: 都 市 コ ミ ュ ニ テ ィ開 発 事 務 局 (UCDO )は 、1992 年 に 都 市 貧 困 者 を 対 象 と す る新 た な 組 織 と し て 、 第2 次 ア ナ ン 政 権 の も と で 発 足 し た。 こ の組 織 は12 億5,000万 パ ー ツ の 都 市 貧 困 層 開 発 基 金 を 設 け 、主 に 貯 蓄 組 合 や グ ル ー プ に 住 宅 や 生 活 改 善 の た め の 小 口 ロ ー ン を 貸 し 付 け る こ と を 狙 い とし て お り、 グ ラ ミ ン 銀 行 の タ イ 国 都 市 版 を 目 指 し て い る。
(2)CODI: サ ター バ ン・パ タ ナ ー・オ ン コ ー ン・チ ュ ム チ ョ ン (CODI )の 広 報 資 料 に よ る と、UCDO と 農 村 開 発 基 金 事 務 所 との 合 併 につ い て は、1995 年 から1996 年 頃 に か け て 最初 の 話 し 合 い が もた れ、 そ の後2000 年 まで 政 府 関 係 機 関 や 学 識 者 、NGO な ど の 代 表 者 ら に よっ て 検 討 さ れ て きた 。 そし て 最 終 的 に は 農 村 と 都 市 コ ミ ュ ニ テ ィ の 連 携 強 化 を図 っ て い く 目 的 で 、2000 年7 月4 日 、正 式 に 法 案 が 成 立 し た。 尚 、新 し い 組 織 の 役員 構 成 は 、 議 長1 名 、 政 府 機 関 代 表4 名 、 住 民 代 表3 名 、 学 識 者2 名 と事 務 局 長 の 計H 名 と な っ て お り 、 基 金 の総 額 は32 億7,435 万 パ ー ツで あ る。(3) バ ー ン・ マ ン コ ン・ プ ロ グ ラ ム : バ ー ン (Baan ) と は、 タ イ 語 で 【家 、 家 屋 、 住 宅 、 家 庭 、 村 、 郷 、 部 落 】 を 意 味 し 、 単 な る 住 居 の み な ら ず 、「 人 々 が お 互 い に 助 け合 う コ ミ ュ ニ テ ィ」とい っ た 意 味 合 い を 含 む 。 マ ン コ ン (Mankong ) と は 、【し っ か りし た 、 安 定 し た 、 穏健 な 】 とい う 意 味 で あ る (中 村 、2003) 。(4) 住 民 組 織 : タ イの ス ラ ム に お い て は、 同 じ 地 域 の 住 民 が 、 地 域 生 活 向 上 を 目 的 に設 立 す る 住 民 組 織 をCBO (CommunityBasedOrganization ) と い う が、 住民 自 身 が 自 発 的 また は自 然 発 生 的 に組 織 化 す る 場 合 と 行 政 指 導 に よ っ て組 織 化 さ れ る場 合 が あ る。 こ れ ら の 住民 組 織 の 設 立 は 、 行 政 か ら の 正 規 の コ ミ ュ ニ テ ィ と し て 認 め ら れ る 場 合 の必 要 条 件 と さ れ て お り 、コ ミ ュ ニ テ ィが 公 的 支援 を受 け る た め に も住 民 組 織 は不 可 欠 で あ る。( 秦 、2001 )(5) ス ク ウ オ ッ タ ー : 第 三 世 界 都 市 の 文 脈 で 使 わ れ る場 合 に は、 近 代 的 土 地 法 の 下 で 認 め ら れ る居 住権 を 有 さ ぬ ま ま公 有 地 ・民 有 地 に 定 住し て い る 「 無 権 利 居住 者」 を 指 す 。 ア ジ ア で は ラ テ ン ア メ リ カ の よ う に人 々 が 一 団 と な っ て一 挙 に 土 地 を占 拠 す る と い う よ うな こ と は少 な く (国 に よ っ て は 選 挙 前 に 特 定 の 選 挙 区 へ の 組 織 的 移 動 が 政 治 的 に 行 わ れ る こ と は あ る が )、 官 民 の遊 休地 、 都 市 計 画 事 業 用 地 、 湿 地 帯 、 河 川 敷 、 鉄 道 敷 、ゴ ミ 捨 て 場 、 あ る い は 「 無 主 地 」 等 に じ わ じ わ と家 を建 て た も の が 多 い 。 ス ラ ム に つ い て は、 物 的 環 境 の劣 悪 な密 集 住
川澄 , 藤井: タ イに おけ る住 民 参加型 コミ ュニ ティ開 発 に関 す る考察 − クロ ント イ地 区 にお け る生活 ・ 住環境 改善 活動 につい て一 149 宅 地 、 主 とし て 低 所 得 層 か ら な る 居 住 地 の 総 称 で あ る。 そ の 意 味 で は 、 ス ク ウ オ ッ タ ー地 区 も スラ ム の 一 種 で あ る 。(6 ) 社 会 投 資 基 金 (SocialInvestmentFund:SIF ):1997 年 の経 済 危 機 の 後 で 政 府 は 世 界 銀 行 か ら3 億 ド ル、OECF か ら 約1 億 ド ル を 借 り 、 こ れ ら を補 助 金 等 と 合 わせ て 、 社 会 投 資 事業 (SocialInvestmentProject ) を立 ち 上 げ た 。事 業 は2 つ の 分 野 を カ バ ー し て い る が 、そ の 内 の1 つ の な か にSIF 事 業 が あ る。政 府 はGBS に60 億 パ ー ツ の 運 営 管 理 を委 託 し た 。 そ の 基 金 は 地 域 都 市 開 発 基 金 (RUDF:RegionalUrbanDevelopmentFund) と社 会投 資 基 金 (SIF:SocialInvestmentFund ) に 分 か れ て い る。SIF 事 業 は コ ミ ュ ニ テ ィ の 向 上 や 貧 困 者 、 恵 ま れ な い 者 、 職 業 復 帰 者 等 の生 活 改 善 事 業 を 補助 す るた め、 所 得 向 上 、 環 境 保 全 、 地 域 経 済 開 発 、 コ ミ ュ ニ テ ィ福 祉 な ど に対 し て の 財 政 援 助 を 行 う。 具 体 的 に は環 境 整 備 、 福 祉・教 育・医 療 面 で の セ ー フ テ ィ ネ ット の 開 発 生 産 資 源 の確 保 、 機 会 や 装 置 の 購 入 、 回 転 資 金 の取 得 な ど の事 業 で あ る。GBS はS!F 事 業 の 認 可 に 際 し て 特 別 理 事 会 を組 織 し 、 理 事 会 は コ ミ ュ ニ テ ィ の組 織 な ど、 一 定 の 基 準 の も とに 事 業 認 可 を行 う。1999 年6 月 に は324 件 の 申 請 が 合 っ た 。(藤 井 他 、2003 )
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