著者
手塚 洋一
著者別名
Hirokazu TEZUKA
雑誌名
東洋大学紀要 自然科学篇
号
61
ページ
135-157
発行年
2017-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00008568/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.jaAbstract
Various approaches have been proposed to explain hadron states consisting of quarks. One approach is to calculate them as quark bound states in potentials. These potentials be-come infinite as the distance increases, and particles are confined in them; thus, they are called confinement potentials. However, these potentials have not been derived directly from the quantum chromodynamics (QCD) Lagrangian. In a relativistic calculation, two types of potentials, the vector potential and scalar potential, are generally used. It is known that vector potentials that becomes infinite with increasing distance cannot confine a parti-cle. Therefore, scalar potentials are necessary to confine quarks in a relativistic approach. The Lagrangian must be invariant under the local gauge transformation. To satisfy conservation, the covariant derivative with a gauge vector field is introduced. Adding the kinematic energy component of the vector field, we obtain the usual QCD Lagrangian. The covariant derivative, however, has a degree of freedom to include a scalar field. We can redefine the covariant derivative with a vector field and a scalar field. Assum-ing that the scalar field is invariant under the local gauge transformation, we obtain a new extended QCD Lagrangian. We add a kinematic term and mass term to the scalar field. Then we get the Dirac equation with a vector and scalar potentials for the quark equation of motion.
We have already solved the Dirac equation with a linear scalar potential. Using the ground state solution, we can approximately solve the equation of motion of scalar field. The solution is nearly like a linear potential. We can show that the extended QCD La-grangian has a self-consistent solution when the scalar potential is linear.
Keywords:QCD Lagrangian, SU(3), local gauge invariance, scalar linear potential
QCDへのスカラーポテンシャルの導入
手塚洋一
*Introduction of Scalar Potential to QCD
Hirokazu T
ezuka* 東洋大学自然科学研究室 112-8606 東京都文京区白山 5-28-20
₁ はじめに
ハドロンの構成粒子であるクォークはフレーバーの自由度のほかにカラー自由度を 3 つ 持つと考えられている。クォークはスピン1/2のフェルミオンであるので、相対論的な Dirac方程式に従うものと考えられる。自由な(相互作用のない)Diracラグランジアンに対 し、SU(3)ローカルゲージ変換に対する不変性を要求することによってゲージベクトル場 が導入され、そのベクトル場はグルーオンと呼ばれ、クォークとの相互作用をつかさどる。 この相互作用を含めて量子色力学(QCD)と呼ばれるクォークのラグランジアンが決めら れる。 クォークは単独では実験的に取り出されたことはなく、この性質はクォークの閉じ込め と呼ばれている。低エネルギー領域でクォークの運動を記述する際に考慮しなければなら ない重要な性質である。クォークの自由度を使ってハドロンを記述する方法はいくつか提 案されているが、その一つが閉じ込めポテンシャルによるクォークの束縛状態としてハド ロンの性質を説明しようとする模型である。 ポテンシャルを使った多くの計算は線形の閉じ込めポテンシャルとクーロン型ポテン シャルを使った非相対論的な計算である(Eichten, E. et al. 1975、Gunion, J.F. and R. S.Willey 1975、Kaushal, R.S. 1975)。閉じ込めポテンシャルとして調和振動子型のポテン シャルを使った計算も存在する(Mitra, A.N. 1975、Isgur, N. and G.Karl 1978)。これらは 非相対論的な計算であるので十分質量の大きなクォークからなるハドロンにしか使うこと はできない。軽いクォークに対しては相対論的な計算が必要であり、相対論的な取り扱い を 試 み た 計 算 も 存 在 す る(Kang, J.S. and H.J.Schnitzer 1975、Gunion, J.F. and L.F.Li 1975)。QCDから導かれたクォークの相対論的な運動方程式であるDirac方程式にはクォークの 自由度とベクトル中間子であるグルーオンの自由度しか存在しない。グルーオンの相互作 用をポテンシャルとみなすと、ベクトルポテンシャルに対応する。距離とともに無限に大 きくなる閉じ込め型のポテンシャルを想定してもベクトルポテンシャルを持つ Dirac方程 式が束縛状態の解を持たないことはすでに知られている(Shibata, Y. and H.Tezuka 1994、Tezuka, H. 1995、手塚洋一 1994)。クォークを閉じ込め、束縛状態の解を持つには スカラーポテンシャルが必要である。すなわち、クォークと相互作用するスカラー中間子 が存在しなくてはならない。 通常のQCDラグランジアンにはスカラー中間子の自由度は存在しない。この論文では ローカルゲージ変換に伴う共変微分の項にベクトル粒子だけではなく、スカラー粒子を含 める余地があることを指摘する。このスカラー自由度をスカラーポテンシャルと読みかえ ると、スカラーポテンシャルを持つクォークの運動方程式が求まる。スカラーポテンシャ ルが線形型の閉じ込めポテンシャルの場合のDirac方程式の解はすでに知られている (Tezuka, H. 2013、Tezuka, H. 2015、手塚洋一 2015)。そのクォークの基底状態の解を使っ てスカラー場の運動方程式を解き、スカラーポテンシャルを求めるとr〜 0 付近の強い斥 力を別にしてほぼ線形と思われる解が求まる。スカラー線形ポテンシャルを持つQCDの 自己無撞着な解が存在することが確かめられたと言えるであろう。
この論文ではまず最初にSU(3)について紹介し、ローカルゲ-ジ変換に対する不変性の 要求から導かれる通常のQCDラグランジアンの導出を行う。次に、スカラー場を導入し、 閉じ込めポテンシャルとしての自己無撞着な解を求める。
₂ SU(₃)
クォークは 3 つのカラー自由度を持ち、カラー空間の 3 次元のベクトルであるとみなせ る。このベクトルψに対する演算子χの無限小変換 (2.1) を考える。ψは 3 成分を持つから、変換U( )は 3 行 3 列の行列であり、Iは 3 行 3 列の単 位行列、χも 3 行 3 列の行列である。 は無限小のスカラー量である。この無限小変換を N回連続的に繰り返すと (2.2) となる。Nを無限大として、N→∞に対し、N =α(有限)と仮定すると (2.3) と書ける。すなわち、有限の連続変換eiαχは無限回の連続した無限小変換で記述すること ができる。 変換 (2.4) に対して観測される物理量の大きさが変化しないという条件を付ければ (2.5) となる。この条件は (2.6) を要求し、これは (2.7) となるので、この変換はユニタリ変換である。 ユニタリ変換U(X)を 3 行 3 列の行列Xを使って(2.8) と展開すれば (2.9) となるので (2.10) を満たすには (2.11) となり、生成子Xはエルミート行列となる。 ユニタリ変換U(X)=eiX は 3 行 3 列の行列であるから結合則 (2.12) を満たし、単位元(単位行列)Iが存在し、逆元(逆行列)U-1(X)が存在するから群をなす。 ユニタリ群と呼ばれる。 この変換には単にすべての成分の位相を同じ量φ≠ 0 だけ変換する (2.13) が含まれる。この変換はφ≠ 0 であるから (2.14) である。この自明な変換を除くために (2.15) という条件を付けたユニタリ変換の群を 3 次元の特殊ユニタリ群SU(3)と呼ぶ。 3 行 3 列の複素数行列は複素数で 9 つ(実数では18)の自由度を持つが、ユニタリ条件で 9 つ、行列式が 1 となるという条件で 1 つの条件がついて、残る自由度は 8 つである。す なわち、 8 つの独立な変換行列が存在する。 独立な 8 つの 3 行 3 列の変換行列を求めるには、SU(2)のPauli行列を見習って、初め の 3 つをPauli行列と同じ行列とし (2.16) と取る。 2 行 2 列のPauli行列は
(2.17) である。残り 4 つはλ1、λ2を(1,2)成分ではなく(2,3)、(3,1)成分を変換する行列に書き 換えることによって作られる。λ3に対応する対角成分を計算してλ8 を決めると、Gell-Mann行列 (2.18) が求まる。この行列は 8 つの独立な変換行列の基底ともなるものである。この行列は交換 関係 (2.19) を満たし、反対称構造定数fabcは (2.19) となる。
₃ SU(₃)ゲージ変換
カラー 3 次元空間のベクトルであるクォーク ψ(x)の運動は、 3 つの自由度を ψ1、 ψ2、ψ3とすると、相互作用のない場合には、自由なラグランジアンの和 (3.1) で表される。γµは Diracのγ行列である。 3 成分ベクトルを(3.2) とし、質量行列 (3.3) を導入すれば、自由粒子のラグランジアンは (3.4) と書ける。xは 4 次元の時空間座標である。 SU(3)のローカルゲージ変換をGell-Mann行列λaを使って (3.5) とおく。生成子λaは 8 成分のベクトルとして振る舞う。これをSU(3)ベクトルと呼ぶ。 実数α(x)も 8 成分のベクトルであるが、これは 4 次元の時空間座標xに依存する。a この変換に対してラグランジアン(3.4)は (3.6) と変換し、第 1 項の∂µU(x)≠ 0 の項が残るため不変とはならない。 ローカルゲージ変換に対してラグランジアン(3.4)が不変となるようにするため、ベク トル場を含めた共変微分 (3.7) を導入する。ゲージ場と呼ばれる 8 つの成分を持つベクトル場 (x)は、ローカルゲージµ 変換に対して (3.8) と変換すると仮定し、ラグランジアンが不変となるように µ(x)を決める。SU(3)ラグラ ンジアンは (3.9)
と書き変えられる。gはゲージ場とクォークの相互作用の結合定数である。ゲージ場 (x)µ はSU(3)ベクトルであり、さらにサフィックスµを持つ 4 次元の時空間ベクトルでもあ る。共変微分Dµの変換はゲージ場 µ(x)の変換で書けるから (3.10) となる。ラグランジアンのローカルゲージ変換は (3.11) となる。 ₃.₁ 無限小変換 ゲージ変換を連続した無限小変換と考え、α= | | ≪ 1 としてU(x)を展開し、αの 1 次 の項まで考慮すると (3.12) (3.13) (3.14) となる。(3.11)の第 1 項は
(3.15) と変換されるが、この第 2 項はαの 2 乗の項なので無視する。(3.11)の第 4 項の変換は (3.16) となる。この第 3 項はαの 2 乗の項なので落とし、第 2 項に、付録にあるSU(3)ベクトル の公式 4 を適用すると となる。(3.11)の第 5 項の変換も µ(x)を µ(x)に取りかえれば同様に求まる。最終的に 変換されたラグランジアンは (3.17) となる。これが(3.9)と等しくなるためには (3.18) となればよい。この式を代入すると(3.17)の最後の項はαの 2 乗の項となり、省略される。 すなわち導入されたベクトル場はローカルゲージ変換に対して (3.19) と変換されるとすれば、ラグランジアン(3.9)は不変となる。ラグランジアン(3.9)の第 2 項がゲージ場とフェルミオンの相互作用を表す項である。 (3.20) ラグランジアンがローカルゲージ変換に対して不変となるようにフェルミオンと相互作用 するベクトル場が導入され、その変換が決められた。
₃.₂ ゲージボソンの運動エネルギー ローカルゲージ変換に対して不変になるように拡張されたラグランジアン(3.9)には ゲージボソンの運動エネルギーが抜けているのでProcaラグランジアンを追加する。 (3.21) 第 1 項がベクトル場の運動エネルギー項で、ゲージボソンテンソルは (3.22) で定義されているものとする。第 2 項はベクトル場の質量項である。 ベクトル場のゲージ変換(3.19) (3.23) に対してゲージテンソルの変換を計算すると (3.24) となり となるが、α2以上の項を無視しても となり、ゲージ不変にならない。 ゲージ不変にならない第 2 項以下の項を消すためにゲージボソンテンソルに
(3.25) とボソンーボソン相互作用項を加えて、再定義する。fはゲージ不変になるように決める 定数とする。このテンソルはゲージ変換(3.19)に対して となる。 2 行目の項が消えるためには f=g ととればよいことがわかる。f=g とおいて、 SU(3)ベクトルの公式 を使って整理すると となる。さらに、 、∂µ は小さいとして、 2 乗以上の項を無視すると となる。この段階ではゲージ不変に見えないがゲージボソンテンソルの積を取ると
となり、 µν· µνはゲージ不変になることが証明できる。 ゲージボソンの質量項 1 2m µ(x)· µ(x)は となり、 、∂µ は小さいとして、 2 乗以上の項を無視しても となり、ゲージ不変とならない第 2 項が残ってしまう。ゲージボソンの質量項はゲージ不 変とならないので、ゲージボソンの質量は 0 と取られる。 最終的にSU(3)のラグランジアンは (3.26) となり、ゲージボソンテンソルは (3.27) と拡張され、共変微分 (3.28) を導入することによって、質量 0 の 8 つのゲージ場 µ(x)が導入された。このゲージベク トルはローカルゲージ変換
(3.29) に対して (3.30) と変換すると仮定すると、SU(3)のラグランジアン(3.26)はローカルゲージ変換に対して 不変となる。
₄ スカラー場
ローカルゲージ変換に対する不変性を要求することによって求められたSU(3)のラグラ ンジアン(3.26)はフェルミオン(クォーク)とベクトルボソン(グルーオン)と、それらの相 互作用からなり、QCDのラグランジアンとしてクォークの運動の記述に一定の成功を収 めている。低エネルギー領域でのクォークからなるハドロンの状態を現象論的に記述する 方法として閉じ込め型のポテンシャルを使った計算がある。非相対論的な問題に対しては かなりの成功を収めている。しかしながら質量の小さな u 、d クォークなどは相対論的な 取り扱いが必要であると思われる。 相対論的な計算ではポテンシャルとしてベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャル が考えられている。中心からの距離rのn(> 0 )乗の次数を持つ閉じ込めポテンシャルを 考えると、ベクトルポテンシャルでは粒子を閉じ込め束縛状態を作るという解が存在しな い こ と は わ か っ て い る(Shibata, Y. and H. Tezuka 1994, Tezuka, H. 1995, 手 塚 洋 一 1994)。相対論的には閉じ込めポテンシャルとしてスカラーポテンシャルが必要である。 QCDのラグランジアンとして(3.26)を使うと、ベクトル場をベクトルポテンシャルと読み かえてもベクトルポテンシャルしか存在せず、スカラーポテンシャルは存在しない。 この章ではSU(3)のラグランジアン(3.26)の導出にはスカラー場を含む余地があり、実 際スカラー場を含むローカルゲージ変換不変なSU(3)ラグランジアンが導けることを示 す。 ₄.₁ スカラー場の導入 ローカルゲージ変換に対して不変となるように導入された共変微分(3.7) (4.1) は、ローカルゲージ変換に対して (4.2) と変換するゲージベクトル場 µ(x)だけを含むと仮定されたが、このベクトル場の導入に は(4.3) のように、スカラー場 (x)を加える余地が存在する。このスカラー場は時空間座標では スカラーであるが、カラーSU(3)空間では 8 成分を持つベクトルである。fSはスカラー粒 子の相互作用の強さを表す結合定数である。 あらためて、共変微分を (4.4) とし、ゲージベクトル場 (x)はローカルゲージ変換に対してµ (4.5) と変換し、スカラー場 (x)は (4.6) と不変であると仮定すれば、拡張されたSU(3)ラグランジアン (4.7) はローカルゲージ変換に対して不変となる。ここで結合定数をgfS= gSと書き直した。 ラグランジアン(4.7)の第 2 項がゲージベクトル場とクォークの相互作用を表す項で、第 3 項がスカラー場とクォークの相互作用項である。 ₄.₂ ベクトル場、スカラー場の運動エネルギー ベクトル場に関してはすでに議論したようにゲージベクトルボソンの運動エネルギー項 (4.8) を追加し、ゲージボソンテンソルを (4.9) と拡張すれば、ゲージ変換(3.19) (4.10) に対して不変となる。 スカラー場を導入したので、さらにスカラー場の運動エネルギーとしてKlein-Gordon ラグランジアンを追加する。
(4.11) この項はスカラー場がゲージ不変と仮定されているので、不変である。スカラー場は質量 項も存在可能である。 最終的に拡張されたSU(3)のラグランジアンは (4.12) となり、ゲージボソンテンソルを (4.13) 共変微分を (4.14) とする。ローカルゲージ変換 (4.15) に対して (4.16) (4.17) とすると、SU(3)ラグランジアン(4.12)はローカルゲージ変換に対して不変となる。
₅ 運動方程式
スカラー場も含む拡張されたQCDラグランジアンである(4.12)に対する運動方程式を求 めておく。 クォークに対するDirac方程式は (5.1) となる。質量Mのクォークがベクトル場 µ(x)、スカラー場 (x)と相互作用する。 ベクトル場に対するProca方程式は (5.2)となる。右辺第 1 項はベクトル場の源となるクォークのカレントであり、第 2 項はベクト ル場同士の相互作用項である。スカラー場に対する Klein-Gordon方程式は (5.3) となる。質量mSを持ち、右辺はクォークによるスカラーカレントである。 次に (5.4) と書き換えると、Dirac方程式(5.1)は (5.5) となる。ここでさらに (5.6) と書き変え、それぞれをポテンシャルと読みかえると (5.7) となり、この式は質量MのクォークがベクトルポテンシャルVµ(x)とスカラーポテンシャ ルS(x)の中で運動する状態を表すことになる。 ベクトル場に対するProca方程式をベクトル場のみで書き表し、左から2·を演算すると (5.8) となるが、付録のSU(3)ベクトルの公式 4 を逆に使うと (5.9) が求まり、また (5.10) となるからProca方程式は
(5.11) となる。ただし †= 、 2·2=43Iを使った。 同様にKlein-Gordon方程式(5.3)の左から2をかけた式 (5.12) は (5.13) となる。ρS(x)= ψ はスカラー密度と呼ばれる量である。 この 3 つの方程式(5.7)、(5.11)、(5.13)を連立方程式として解くことによりクォーク、 ベクトル場、スカラー場の状態が決まる。
₆ 基底状態の解
前章で求めた連立運動方程式の解について検討しよう。簡単にするため、閉じ込めポテ ンシャルとしては働かないベクトル場の寄与は小さいとして無視し、スカラーポテンシャ ルを持つDirac方程式(5.7)とスカラー場のKlein-Gordon方程式(5.13)の自己無撞着な解を 求める。ベクトル場のない Dirac方程式は (6.1) となる。スカラー場s(x)に時間依存性がないと仮定すると(5.13)は (6.2) と書ける。これは電磁気学で習うPoisson方程式に質量項が加わったものとなっている。 ここでは簡単のため質量項はないものとする。すなわち質量 0 のスカラー粒子を考えるこ ととする。Poisson方程式の解はLaplace方程式の一般解にPoisson方程式の特解を加えた もので記述される。右辺のρ(r)の項を除いたLaplace方程式は球座標表示するとS (6.3) となるが、s(r)=σ(r)Θ(θ)Ψ(φ)とおいて変数分離すると (6.4) (6.5) (6.6) と書ける。角度部分は球面調和関数となることが知られている。(6.7) 動径方向成分(6.4)の一般解は (6.8) と解ける。故に、Laplace方程式の一般解s(r)は0 (6.9) である。ここでℓ、mはスカラー場の軌道角運動量とその第 3 成分である。Poisson方程 式(6.2)の解は、Poisson方程式の特解をsPとして (6.10) となる。次に、Poisson方程式の特解を求める。 ρ(r)は球対称で角度依存性はないものと仮定して、その特解 sS Pにも角度依存性はない ものと仮定する。sP=sP(r)と書いて、運動方程式(6.2)に代入すると (6.11) となるが、s(r)はLaplace方程式を満足しており、s0 P(r)の角度に関する微分項はすべて なくなるから、結局 (6.12) となり、これが解くべき方程式である。 スカラー場が線形であると仮定すると、線形のスカラーポテンシャル S(r)=arを持つ Dirac方程式(6.1)の基底状態の解は (6.13) (6.14) (6.15) で与えられることはすでに証明されている(Tezuka,H. 2013,手塚洋一 2015)。Eはエネ ルギーであり、クォークの波動関数である 4 元スピノールの上成分がG(r)であり、下成 分がF(r)である。定数c1は規格化条件 (6.16) で決められる。実際にこの積分を数値計算してみると
(6.17) となり、c1=4.53M3/2である。核子のスカラー密度は (6.18) となるから、方程式(6.12)は (6.19) となる。ただしここでA=2 3πgSc1 2とおいた。この特解を (6.20) と仮定すると (6.21) であるから、方程式(6.19)は (6.22) となる。 この式をrの恒等式と考え、両辺の最大次数の項を取り出すと (6.23) が求まる。k=- 1 とすると、r-3、r-2の項はなくなり、(6.19)は
(6.24) となる。r0の次数の項は (6.25) となり、自動的に成り立つ。残る項はr-1の項のみで、 となる が、これはスカラーポテンシャルが正確にはr1の項のみではないのにS(r)=arの解を 使ったための誤差と考え、無視する。 以上より、Poisson方程式(6.2)の解は、クォークの基底状態(κ=- 1 ,ℓ= 0 )に対し ては (6.26) (6.27) となる。ℓはスカラー場の軌道角運動量に相当する。 線形のスカラーポテンシャル (6.28) となるように、ℓ= 1 、β1= 0 とし、角度成分に関しては適当な平均操作、例えば を施せば (6.29) (6.30) となる。 a= 4 M2、パラメータg S〜 1 とすると (6.31) となる。 =Mrの関数としてこのポテンシャルを図示するとFig. 1 のようになる。 = M rの小さな領域では第 3 項の1の項が効いて斥力的になっているが、 の大きな領域で は線形の閉じ込めポテンシャルとみなせる。 の小さな領域での斥力は省略したb0 rを考慮 することによって小さくすることができる。
₇ まとめ
QCDラグランジアンにローカルゲージ変換に対する不変性を保ったままクォークと相 互作用するスカラー場を導入する一般的な方法を提案した。共変微分を (7.1) と再定義することによりローカルゲージ不変のスカラー (x)を導入した。このスカラー 場はゲージ不変なので、質量を持つことが可能である。求められたクォークに対する Dirac方程式は (7.2) となる。質量Mのクォークがベクトル場 µ(x)、スカラー場 (x)と相互作用する運動方 程式が求まる。 この方法はこの論文ではクォークのカラー相互作用を記述するSU(3)ラグランジアンに 対して適用したが、この方法は一般的で、SU(2)やSU(6)に対しても同様に適用できるこ とは明らかであろう。 このスカラー場をスカラーポテンシャルとみなし、解を検討した。ベクトル場が存在せ ず、スカラーポテンシャルが線形S(r)=arの場合にはすでにDirac方程式の解は求められ ている。その解のうち基底状態の解を用いて、スカラー場の運動方程式 (7.3) Fig. 1:スカラーポテンシャルS( )/M 横軸は =M r 実線: 点線:4 破線:の時間に依存しない質量 0 の球対称な解を求めた。解としてはFig. 1 に示されるように線 形に非常に近いものが得られる。これはQCDに従うクォークが線形のスカラーポテンシャ ル内に閉じ込められ、そのなかで束縛状態を作り、そのクォークの束縛状態がスカラー場 を線形の形になるように影響しているということを示している。 非常に高エネルギー領域では、すなわちポテンシャル描像では rの非常に小さな領域で は多くの実験が漸近的自由(相互作用が非常に小さくなること)を示唆している。この論文 ではrの非常に小さな領域で非常に強い斥力となっている。この斥力はクォークの運動方 程式を解く際の漸近解を反映している。それ故、クォークが線形ポテンシャルで束縛状態 を作るならば、必ずr〜 0 で強い斥力が存在する。これは線形ポテンシャルでなくとも、 指数関数の肩のrの次数が異なるだけで強い斥力は必ず存在する。クォークの運動から解 かれたポテンシャルが漸近的自由を実現するためにはこの論文では無視されたベクトルポ テンシャルが逆に非常に強い引力となり、この斥力を打ち消すようになっていなければな らない。すなわちベクトルポテンシャルは (7.4) の形をしているものと想定される。 この論文ではクォークの運動方程式と、スカラー場の運動方程式を連立して解くのに、 S(r)=arの場合の解析解を使って検討したが、この連立方程式を数値的に自己無撞着に 解いても結果はあまり変わらないと考えられる。
付録 SU(₃)ベクトル代数
SU(3)空間のベクトル 、 に対し、ベクトル積を スカラー積を と定義する。 以下の公式が成り立つ。 ・公式 1 証明・公式 2 証明 ・公式 3 証明 ・公式 4 証明 ・公式 5 証明 同様に計算し この係数を実際に計算すればすべての場合に 0 となる
参考文献
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