「郷土の伝統音楽jの概念規定に基づく教材分析の視点 一構造化理論を手掛かりに一 教科@領域教育専攻 芸術系コース(音楽) 植田尉嗣
1
.
輔究の目的 近年、音楽科教育における教材として、「わら べ歌Jや「民謡jなどとし1った、いわゆる「郷 土の伝統音楽」が注目されている。理由は第一 に伝統文化教育に資することがある。加えて実 践研究によって児童生徒が音楽文化を理解し 易く、また体験的な学習を効果的に行うことが できるなどのメリットが明らかにされている ことが挙げられる。 一方で、「郷土の伝統音楽jとし寸概念そのも のに焦点を当てた研究は未だ十分になされて いるとはいい難い。理由としては学習指導要領 上の教育用語として多用されるにもかかわら ず、その概念的理解に対する文部科学省からの 解説がなされないまま、様々な立場の研究者に よる解釈が為され、研究が進められていること があると考えられる。 そこで本研究では「郷土の伝統音楽jの概念 規定を行うことを主たる目的とすることとし た。具体的には「生活と音楽との関わりを重視 する立場」と「ミクロな視点とマクロな視点の 両面から社会を理解しようとする立場jから伝 統音楽を捉えることが可能になると考えられ る構造化理論を援用して概念規定を行うこと、 その概念規定に基づいた教材分析の視点を示 すこととする。 指導教員 鉄口真理子2
.
研究の方法と概要 第1章では郷土の伝統音楽の概念規定を行う ための立場を明確にすることを目的とし、「伝 統音楽」に関して述べられた緒論を概観した。 特に、日本伝統音楽の研究の大家である小泉文 夫の音楽観を、ハンス。メノレスマンの音楽美学 との比較から捉えることで、「生活と音楽との 関わりを重視する立場J及び「ミクロな視点と マクロな視点の両面から『生活J
lW文化』とし、っ た概念を理解しようとする立場」を得た。 第2章では、「郷土」としづ概念がどのような 意味で用いられているのかを明らかにするこ と目的とした。辞書的な意味での郷土の意味に 始まり、特に教育学の分野や学習指導要領にお いて、「郷土Jとしづ概念がどのように扱われて いるのかについて明らかにした。そして「郷土J としづ概念に関し、 r~生活者』であるという認 識を持った人々の視点によって、その文化的側 面が一人称的に判断される」ことが明らかとな った。 第3章では、「伝統jの意味と現状を明らかに することを目的とし、社会学的な視点から「伝 統」としづ概念がどのように認識されているの かを明らかにすることを目的とした。 ジャン・ボードリヤーノレの「シミュラークノレj、 大塚英志の「物語消費」、東浩紀の「データベー ス消費Jという概念を援用し、「伝統Jとは「大 きな物語J として、その社会の「中心となる精 -299-神的在り方jであるということが明らかとなり、 ある社会において「中心となる精神的在り方」 ではない形での、転統創出による「伝統」の存 在が明らかとなった。 第