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高校数学における公式・性質の指導面から見た意義の考察
新ヰ・領域教育専攻 自然系コース(数学) 長 尾 俊 輝第
1章 は じ め に
高等学校の数学の教科書では,多くの公式・ 性質が扱われ,まとめられている。公式や性質 を知っていれば毎回複雑な計算や証明をする ことなく,形式的に処理し,効率的に正解を得 ることができる。 ここで注目したいのは,それぞれの公式や性 質がなぜ成り立つのかを理解したうえで扱って いるかどうかという点である。つまり,公式や 性質を用いて形式的に処理するとし、っても,そ の公式や性質の証明や導き方を理解したうえで 用いている場合と,証明や導き方を理塀せずに 用いている場合がある。スケンプ(R.R.Skemp) の考え方から見れば,前者を関係的理解,後者 を道具的瑚卒と捉えることができる。数学を考 える際にはどちらの理解も非常に有意義である が,どちらか一方の理解に偏りが起きてしまう と弊害が生じる。そこで,公式や性質を扱う際 には,道具的理解と関係的理解とを併せ持ち, 状況に応じて使い分ける,具体的に言えば,す べての公式・性質がなぜ成り立つのかを瑚干し たうえで,時間に制限が設けられている場合や 敢えて証明する必要がない場合には形式的に扱 い,効率よく問題を解決するべきであると考え た。すべての公式・性質がなぜ成り立つのかを 理解するためにはその公式・性質の証明を知る 必要があるため,公式・性質の指導において必 ず証明を行う。そ こ で 証 明 の 要 素J,r発想の 指導教員 松 岡 隆 有無J,r
証 明 の 分 量 の三つの観点から,教科 書に示されているそれぞれの公式・性質の証明 の特性を調べた。第
2章公式・性質の証明の特性表
それぞれの公式・性質の証明の特性をまとめ るにあたり,そのまとめ方について説明してお く。まず,それぞれの公式・性質の証明を下の 四段階で分類し,耕糟に証明が示されている かどうかを調べた。 1 ID正明がある 2 具体例はあるが,証明はない 3 証明せよという問いのみが与えられている 4 具体例,問い,証明のいすすももない 次に,教科書で証明が示されている公式・性 質の証明を,r
証明の要素J,r指官、の有無J,r
証 明の分量lの三観点で特性を調べた。 『証明の要素』 この観点では,新ヰ書に示されている公式・ 性質の証明に他の公式や性質が用いられている かどうかを調べた。それぞれの公式や性質が他 の公式や性質を用いて証明されている場合は, 用いられている公式・性質が一目でわかるよう にするために,この観点を設定した。 『発想、の有無』 この観点では,それぞれの公式や性質の証明 に何らかの発想が用いられているかどうかを調 べ,用いられている発想を以下の表に簡単に示 した。それぞれの公式や性質を扱う際に,用い− 258 − られている発想を理弊させることが非常に効果 的であると考えたので,この観点を設定した。 なお,本論文における「発想Jとは,言明首鼠呉 では思し、付かないような工夫を意味する。 『証明の分副 この観京では,新ヰ書で示されているそれぞ れの公式・性質の証明の分量の多さについて調 べ,