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「新しい楽器」のデザインポリシーと研究事例

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Academic year: 2021

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(1)Vol.2015-MUS-108 No.13 2015/9/1. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 「新しい楽器」のデザインポリシーと研究事例 寺田 努1,2,a). 概要:近年のコンピュータの普及や楽器の電子化に伴って, 「音を出すソフトウェア」を作ることは簡単に なりつつある.また,Arduino 等のラピッドプロトタイピング可能なマイコンシステム構築環境が登場し, センサの値に応じて音を出すシステム等が簡単に作成できるようになりつつある.このような背景から, 我々は簡単に「楽器」的なものを創り出すことができるようになった.しかし,例えばボタンを押したら 曲が流れるようなものは「楽器」だろうか?本稿では情報系の研究者が作るという狭いスコープではある が,筆者らの取り組みを通して情報技術を活用した楽器のデザインについて考えてみたい. キーワード:楽器作成,モバイルコンピューティング,エンタテインメントコンピューティング. 1. はじめに. ルミンのようなものもカオシレーターのようなものも作ら ない.本稿では「あくまで筆者の主観によって」楽器を作. 近年のコンピュータの普及や楽器の電子化に伴って, 「音. 成するプロジェクトにおけるポリシーと,それにのっとっ. を出すソフトウェア」を作ることは簡単になりつつある.. てこれまで作ってきた,情報技術を駆使した楽器を紹介. また,Arduino 等のラピッドプロトタイピング可能なマイ. する.. コンシステム構築環境が登場し,センサの値に応じて音を. ここで先にに筆者のポリシーを明らかにすると,情報技. 出すシステム等が簡単に作成できるようになりつつある.. 術を駆使して研究者が作る楽器とは,「既存の楽器のメタ. このような状況では, 「楽器」とはなんなのかの定義が難し. ファを活用し,新たな表現の付与や既存楽器の問題点を解. い.筆者は楽器演奏を嗜む人間ではあるが楽器を研究の専. 決するもの」であり,その評価軸は, 「基準とした既存楽器. 門領域としているわけではなく,楽器学等の領域にも詳し. の演奏性を落とさないこと」「追加された要素の価値が明. くない.そこで辞典で「楽器」を調べてみると,「音楽音. 確にわかること」「習熟できること,習熟する気になるこ. 響をつくりだすために使われる道具の総称」「音楽を奏で. と」 「習熟度合いが聴衆や演奏仲間に伝わること (上手いひ. るために用いる音の出る器具」といった定義が見られる.. とは上手い,下手なひとは下手と伝わること)」といったと. しかし現在のコンピュータ技術を活用すれば,例えば「ボ. ころである.次章ではその理由の説明を試み,3 章ではこ. タンを押したら数小節分の音楽が流れる」ものの集合があ. れまで筆者らが行ってきたプロジェクトを紹介し,4 章で. り,これをポチポチ押すことで演奏を構成できるものが作. 本稿をまとめる.. れる.これは楽器だろうか?また,YAMAHA 社の EZ-EG は,ギター形状をしているが (モードによっては) 左手を押. 2. 楽器の要件. さえる必要が無く,右手をかき鳴らしているだけでコード. 本章では,(繰り返しになるが,情報系・工学系の研究者. が進行していく.同じく YAMAHA の MIBURI は身体に. として) 楽器を作成するにあたっての用途や特性について,. 装着したセンサの値によって音が出る.これらはすべて,. 楽器を区分するために以下の 3 要素を考える.また,言い. なんらかの人間の入力に対して音を出している点で「楽器」. 訳がましいが,この分類は深く検討が済んだものではなく,. と言えるだろう (テノリオンも楽器なのだろう).. 対立軸になっていない可能性があることを付記しておく.. 一方,情報系・工学系の人間が研究活動の一環として行 う楽器作成として,筆者はこういった楽器を作らない.テ 1. 2. a). 神戸大学大学院工学研究科 Graduate School of Engineering, Kobe University 科学技術振興機構さきがけ PRESTO, Japan Science and Technology Agency [email protected]. c 1959 Information Processing Society of Japan ⃝. また,下記議論のきっかけとして,長嶋による議論 [1] が あることも付記しておく.. ( 1 ) 用途: [I] 自分の心の中にあるけど既存楽器では行えな い表現を実現するため [II] ある楽器の問題点を改善し てよりいいものにするため. 1.

(2) Vol.2015-MUS-108 No.13 2015/9/1. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. ( 2 ) メタファ: [A] 新しい概念の楽器をデザインする [B] 既存の楽器のメタファを活用する. ( 3 ) パフォーマンス性: [あ] 人前で使わない [い] 人前で 使う. になっているため,出る音だけから習熟性を判断するのは 難しい.. [II-A-あ] と [II-A-い] はともに内容が矛盾しているため に存在しないカテゴリである.. [I]-[II] の軸に関しては,[I] は何か既存の楽器では根本的に. したがって,筆者がターゲットとしたい楽器は [B] のタ. 出せない音や表現を創り出すために楽器を作るものであ. イプの楽器である.ただし,[B-あ] のパターンの場合,解. り,[II] は既存楽器を踏襲するものの,その楽器がもつ問. 決したい問題点を打ち込みなどの技術を用いて回避する. 題点 (音域や可搬性など) を解消した楽器を作るものであ. ことがストレートな解決であり,楽器の能力として考えた. る.[A]-[B] の軸は,[A] は演奏方法や音の出方が新しいも. 場合には [I-B-い] や [II-B-い] のパターンが取り組むべき楽. の,[B] は演奏方法や見た目などが既存の楽器を踏襲して. 器であると考える.このとき,習熟性は既存の楽器をベー. いるものである.[あ]-[い] の軸はシンプルで,それが人前. スにしているため聴衆に伝わりやすく,また,演奏性に関. で使うことを想定しているかどうか,である.この軸は,. しても高くなり,既存の楽器で培った技術を転用できるた. 見た目にカッコイイかや,演奏していることがわかりやす. め敷居が低くなる.既存の楽器をベースにすることで,情. いかといった聴衆の存在をイメージした特性も表すが,そ. 報技術の果たした役割が差分として明確になり,重要性も. もそも人前に出ないのであれば打ち込みで作り出せるよう. クリアに示せる.ただし,もちろんこのタイプの楽器にお. なものは必要ないという視点でもある.. いても上記評価軸の特性を満たさないものも多い.例えば. 上記 3 区分の組合せは 8 通り存在する.例えば [I-A-あ]. YAMAHA 社の EZ-EG では,ギターがベースとなってい. は,自己追求のための作品であるといえる.客観的な評価. るが (モードによっては) 左手を押さえる必要が無く,右手. 軸はもはや存在せず,その楽器の必要性自体が他者からは. をかき鳴らしているだけでコードが進行していく.このと. 判断できない.したがって,このタイプの楽器を作ること. き,敷居は低くなっているが,習熟性も同時に低くなって. は我々にとって研究活動とはなり得ない.また,それの人. しまっている (ただしこの楽器はさまざまなモードを用意. 前での演奏をイメージしたものが [I-A-い] である.これも. するなど工夫がされている).. いわゆるメディアアート,作品,メディアパフォーマンス. まとめると,筆者のような研究者がターゲットとする楽. であり,客観的な評価は難しい.みんなが納得するような. 器は,[I-B-い] や [II-B-い] のタイプのものであり,習熟性,. 価値を生み出すようなものではなく,客観的には評価不能. 演奏性,拡張部分の重要性を満たすことが望まれる.また,. である.MIBURI やカオシレーターなどもこの領域に入る. [I-B-い] と [II-B-い] を比べた場合,習熟性の高さなどから. と考えられるが,例えば MIBURI の演奏パフォーマンスで. [II] の方がわかりやすく望ましいといえる.. 出力される音は,演奏者が求める表現力をもつだろうか? また,それは聴衆に伝わっているだろうか?また,演奏者. 3. 事例. が習熟しているかどうか (上手いかどうか) は聴衆に伝わ. これまでの議論に基づき,筆者らが設計・実装してきた. り,聴衆が自分も習熟したいと思えるものだろうか?この. 楽器を紹介する.これらはジャーナル論文化されているも. ような視点で考えると,これらの楽器は評価不能であり,. のが多く,すなわち客観的な評価や有効性の主張ができて. 情報系の研究として行うのは難しい.. いるものが多いといえる.. 上記の議論に関連して,筆者は「楽器」の評価軸は下記 であると考えている.. ( 1 ) 習熟性: 習熟 (上達) できること.習熟する気になるこ と.さらには習熟度合いが聴衆に伝わること.. ( 2 ) 演奏性: もととなった楽器に対して,演奏性を (大き く) 落とさないこと.. ( 3 ) 拡張部分の重要性: 情報技術を導入した価値が演奏者. 3.1 DoublePad/Bass これは,2 つの PDA を用いてそれぞれ右手,左手に割 り当て,エレキベースを再現したものである [2].その概要 と演奏している様子を図 1 に示す.この楽器のコンセプト は,一般に持ち歩く機材を楽器に転用することで可搬性の 問題に対処するものである.つまり,演奏のために常に楽. にわかること.さらにはそれが聴衆に伝わること.. 器を持ち歩くのは大変なので,汎用機器 (ここでは PDA). この視点で考えると,そもそも [A] のタイプの楽器は演. をいつでも楽器に転用できるようにすることで,いきずり. 奏性については議論できない.また,習熟性に関しても,. セッションや宴会の盛り上げができるのではないかとい. [A] のタイプの楽器は評価がとても難しいものになるとい. うコンセプトである.[II-B-い] タイプの楽器であり,ベー. える.まったく未知の楽器を見た際に,聴衆はその楽器が. スの演奏方法をそのまま 2 台の PDA に割り当てているた. 習熟可能かを判断できるだろうか?また,演者がどの程度. め,演奏者の演奏が視覚的に理解でき,既存のベース演奏. 上手いのかを判別できるだろうか? 1 章で述べたように,. 技術が転用可能である.具体的には,奏法として 2 フィン. ボタンを押せばメロディが流れるようなものも作れるよう. ガー,1 フィンガー,スラッピングが可能であり,左手の. c 1959 Information Processing Society of Japan ⃝. 2.

(3) Vol.2015-MUS-108 No.13 2015/9/1. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report N U L L. C# D# C. D. E. N U L L. F# G# A# F. G. A. H. C. 音域変更+2 N U L L. D# D. 図 3. 図 1. E. N U L L. F# G# A# F. G. A. H. C# C. D. モバイルクラヴィーア II の音域変更. DoublePad/Bass の概要と演奏の様子. C# D# C. D. F# G# A# E. F. G. A. H. C. H C#. D. 図 4. モバイルクラヴィーア II のプロトタイプ. 音域変更+2. D# D. 図 2. F. G# A#. E F# G. A. C. 音域変更による音配置の変化. 技術としてはハンマリングオン,プリングオフ,チョーキ. 図 5. ング,スライドといった装飾がタッチパネル上で再現され. 利用している様子. ている.そのため,習熟性,演奏性,拡張部分の重要性 (今 回は可搬性の拡張) どれもが高い状態にあると言える.. モバイルクラヴィーア II で音域変更機能を用いる場合,. NULL 鍵 (NULL 音が割り当てられている黒鍵) を移動さ 3.2 Mobile Clavier II. せることで音域を変更させる.例えば,図 3 上の状態から. 持ち歩き可能な小型鍵盤楽器を用いて音域の広い楽曲を. 音域変更+2 の操作を行ったときの鍵と音配置の関係を図. 演奏する場合,鍵盤数が足りないため楽曲中に弾けない音. 3 下に示す.図 2 に示す通常の鍵盤で音域変更機能を用い. が現れる.従来の鍵盤では,鍵盤全体の音高を指定した分. た場合,打鍵する鍵と出力音の違いによる違和感がある.. だけずらす音域変更機能を用いることでこの問題を解決し. しかし,モバイルクラヴィーア II は,NULL 鍵を存在しな. てきた.例えば,図 2 に,音域変更+2(各鍵の音高を半音. い鍵であるとみなすことであたかも最左端が D 音から始ま. × 2 高くする) の操作をした場合の鍵とその出力音との関. る通常の鍵盤のように見えるため,打鍵している鍵とその. 係を示す.このとき,「打鍵した鍵とその出力音の違和感. 出力音との違いによる違和感がない.. (C の鍵から C 音以外の音が出る)」「各鍵の出力音が弾い. M-AUDIO JAPAN 社の小型鍵盤である OXYGEN8 を. てみるまで分からない」などの問題が生じる.また,図 2. もとに作成したモバイルクラヴィーア II のプロトタイプを. の音域変更例にあるように,音域変更をすることで,黒鍵. 図 4 に示す.また,実際に利用している様子を図 5 に示す.. に#音とそうでない音が混在するなど問題が大きかった.. 図では黒鍵があるとされる場所を水色に光らせている.こ. モバイルクラヴィーア II[3] では,図 3 上に示すように,. の機構により,既存の小型鍵盤の問題点を解消しつつ,演. 白鍵間において黒鍵がない部分 (鍵 E と鍵 F の間,鍵 H. 奏性や習熟性が維持できている.その後,鍵盤領域を分割. と鍵 C の間) に黒鍵を挿入し,音階には無音を意味する. して個別にトランスポーズが行えるモバイルクラヴィーア. NULL 音を新たに導入することで音域変更の問題点を解決. III[4] など,コンセプトを維持したままさらなる改良を重. している.. ねた.. c 1959 Information Processing Society of Japan ⃝. 3.

(4) Vol.2015-MUS-108 No.13 2015/9/1. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. (a) 基準ユニット 鍵盤. (b). 基準ユニット鍵盤より 1オクターブ高い音域. 基準ユニット鍵盤より 2オクターブ高い音域. 基準ユニット 鍵盤. 基準ユニット鍵盤より 1オクターブ高い音域. 図 8. ステージでの利用例. (c) 異質なユニット鍵盤. 図 6. Unit Keyboard の概要. 図 9 鍵盤の貸し借り. 3.4 Unit Instruments Unit Instruments は,Unit Keyboard の考え方をさらに 推し進め,楽器を発音や音程決定などの機能要素 (Unit) の 図 7. Unit Keyboard のプロトタイプ. 集合であるととらえ,それらのユニットを自由に組み合わ せることで音域や演奏スタイルの変化に柔軟に適応させる. 3.3 Unit Keyboard 鍵盤楽器はピアノのように 1 段で長いものや,エレク. ことを狙ったものである.ここで機能要素とは,図 10 に 示すように,例えばピアノは鍵一つ一つで発音タイミング,. トーンのように多段構成になっているものなど,さまざ. 音高および音量の全てを決定している.一方で弦楽器に属. まな構成をとっている.また,これまで説明した楽器と. するギターは指板部で弦の音高を決定し,ピックアップや. 同様に,ピアノは可搬性の問題を抱えている.そこで,. サウンドホール (音を共鳴させるための穴) 上の弦を弾くこ. UnitKeyboard[5] では,1 オクターブを基本単位とする鍵. とで発音タイミングと音量を決定している.このように機. 盤を組み合わせることでさまざまな鍵盤構造に適応する.. 能要素は鍵や指板など,楽器の部位単位に 1 つまたは複数. 例えば,図 6 –(a)に示すように,ユニット鍵盤 2 個を横. 割り当てられている.. 並びに接続することで,2 オクターブの音域をもつ鍵盤楽. ユニットは単体でも使用できるよう各楽器の部位におい. 器となり,図 6 –(b)に示すように,2 オクターブのユニッ. て最低限必要な大きさに設計する.また,異なる楽器のユ. ト鍵盤を 1 オクターブ分ずらして縦並びに接続すると,エ. ニットを組み合わせることで,今までにない新しい楽器を. レクトーンのような 2 段の鍵盤をもつ構造となるといった. 構築できるよう設計する.例えば図 10 下に示すように,ギ. ように柔軟な楽器が構成できる.また,図 6 –(c)に示す. ターのピックアップ部分を鍵盤に置き換えることでヴィブ. ように,鍵の重さ,鍵の深さ,鍵の幅など特性が異なるユ. ラート奏法 (音を震わせる奏法) ができるキーボードや,鍵. ニット鍵盤を同時に用い,演奏者が望む音楽表現を実現す. 盤に管楽器のマウスピース(息を吹き込む部分)を接続す. ることも可能である.. ることで,打鍵中でも音量や音域を変えられるキーボード. 実装したプロトタイプを図 7 に示す.各ユニットは無. など,異なる楽器のユニットを組み合わせることで従来の. 線によりホスト PC と通信し,ホストは発音処理や音域・. 楽器では実現できなかった演奏表現を可能にする楽器を構. 音色の設定を管理する.さまざまな形に変化可能な Unit. 築できる.単純に異なる楽器のユニットを組み合わせた場. Keyboard は,演奏に必要な部分だけで楽器が構成できる. 合,機能要素の割り当て方が複数存在したり,機能要素同. ため,気軽に持ち歩くことが可能となる.また,鍵盤楽器. 士が重なりあってしまう問題が起こる.そこで,この研究. の構造を崩していないため,習熟性,演奏性,拡張部分の. ではユニットの機能要素を自由に設定できるスクリプト言. 重要性を備えていると言える.実際にステージで利用して. 語を提案している.ユーザはスクリプト言語を使用するこ. いる例を図 8 に示す.また,鍵盤の貸し借りを行うような. とで,さまざまなユニット同士の組合せにおいて各機能要. 例を図 9 に示す.. 素を自由に割り当てられる.. c 1959 Information Processing Society of Japan ⃝. 4.

(5) Vol.2015-MUS-108 No.13 2015/9/1. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 鍵盤ユニット 発音タイミング/音高/ 音量 制御. マウスピースユニット 音量/音域/ 発音タイミング 制御. 指板ユニット 音域 / 音高 制御. ピックアップユニット 音量 / 発音タイミング バルブユニット 制御 音高制御 異種楽器のユニットの接続例. ピックアップユニット 音量 / 発音タイミング 制御. 鍵盤ユニット 音量 / 発音タイミング 制御. 図 12. Unit Instruments のステージ利用例. およびピックアップユニットのそれぞれ 1 つずつから構成 されるギターユニットを使用し,BGM に合わせて演奏を 行うパフォーマンスを行った.ステージの序盤から中盤に かけては 2 人のパフォーマーが鍵盤ユニットとギターユ ニットをそれぞれ別々に演奏し,ギターユニットに関して. 鍵盤ユニット バルブユニット 発音タイミング/音高/ 音高制御 音量 制御. 鍵盤ユニット 音高制御. は指板ユニットとピックアップユニットを脱着させ音域や 音色を変化させながら演奏を行った.ステージ終盤ではギ ターユニットのピックアップユニットを鍵盤ユニットに取 り替え,スウィープ奏法やトリル奏法を用いた演奏を行っ. 図 10. Unit Instruments のコンセプト. た.異なる楽器の要素を組み合わせることで難度の高い奏 法を容易に行えることを確認できた. このように,Unit Instruments は新たな表現を確立しつ つ,既存楽器のメタファを踏襲している点で,[I-B-い] お よび [II-B-い] の要素をもつ.ただし,奏法が既存楽器と変. ホスト. 音源モジュール PC. わらないため,習熟性,演奏性,拡張部分の重要性すべて を備えていると考えられる.. 無線モジュール ピックアップユニット. 鍵盤ユニット. 3.5 AirStick Drum ドラマーがライブハウス巡り等を行う際,すべてのドラ. 指板ユニット. ムセットを持ち運ぶのは大変であるため,スネアやペダル 拡張ユニット. 図 11. ハードウェア構成. のみを持ち運び,残りのセットは現場のライブハウスにあ るものを用いる場合が多い.このとき,必要なセットが足 りなかったり,望む配置にできないといったことが起こる.. ユニット楽器のプロトタイプの構成を図 11 に示す.プ. そのような問題の解決策として,センサを用いてエアドラ. ロトタイプはホスト,鍵盤ユニット,ギターユニットであ. ムを実現する (スティックを振ったら音が鳴る) といった方. る指板ユニットとピックアップユニット,および拡張ユ. 法が考えられるが,エアドラムは自分でスティックを空中. ニットで構成される.ギターユニットは YAMAHA 社の. 静止させる必要があるため手への負担が大きく,連打がで. EZ-AG を 4 フレットごとに切断し,ネック部分の押弦ス. きなかったり,求める表現力が得られないなど実用的では. イッチやピックアップ部分の弦および振動センサを制御す. ない.. る回路を独自に製作して使用した.また,無線モジュール. AirStick Drum[7](図 13) は,叩打動作を加速度センサお. はアローセブン社の UM-100 を使用した.指板ユニットお. よびジャイロセンサを用いて認識するドラムスティックで. よびピックアップユニットの制御には MICROCHIP 社の. ある.空間をスティックで叩いたときには電子音を鳴らし,. PIC16F877A を用いて行った.. 本物のドラムを叩いたときには電子音を鳴らさない (本物. Unit Instruments をステージで使用している様子を図 12. のドラムが鳴る) ため,既存のドラムセットに自由に電子. に示す.ステージでは 1 つの鍵盤ユニット,指板ユニット. 音を組み合わせて演奏できる.一般に叩打動作を用いて認. c 1959 Information Processing Society of Japan ⃝. 5.

(6) Vol.2015-MUS-108 No.13 2015/9/1. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 本研究の一部は,中山隼雄科学技術文化財団研究助成お よび科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業 (さきがけ) によるものである.ここに記して謝意を表す. 参考文献 [1] [2]. [3]. [4] 図 13. AirStick Drum の概要. [5]. 識する場合,打撃時の振動等を認識するのが容易である. しかし,本システムも叩打のタイミングで遅延なしに音を 出す必要があるため,叩打の前に認識処理を終えておく必 要がある.そのため本システムでは,空中を叩く際には無. [6]. 意識にユーザが振り下ろす動作にブレーキをかける一方, 本物のドラムを叩く際にはそのブレーキが起こらないこと を利用し,100 %の識別率で叩打の数 10ms 前に認識を終. [7]. えることに成功した. このシステムは,演奏性を失うことなくドラム要素を拡 張しており,習熟性,演奏性,拡張部分の重要性のすべて. [8]. を備えている.. 4. まとめ. [9]. 本稿では,情報技術を活用した楽器の作成に関し,その 要件や特性によってカテゴライズすることを試みた.そし て,そのカテゴリを用いて筆者が楽器をデザインする際の ポリシーを示し,実際の楽器作成例を挙げて説明した.. [10]. 本稿では,情報技術を実際の演奏に用いる例を示したが, 演奏の表現力向上以外のために情報技術を適用する例も多. [11]. 数存在し,その場合はまたポリシーが変わってくる.例え ば,演奏の詳細な記録をするために,ピアノ [8] やウッド ベース [9] の運指情報や,ギターのミュート情報 [10] を認 識して記録するシステムをこれまでに筆者らは作ってき た.また,ピアノの初学者を対象に,ピアノ演奏の学習支 援を行うシステムを構築した [11], [12].このようなシステ. [12]. 長嶋洋一,“「サイバー楽器」のシステムデザインについ て,” 第 60 回情報処理学会全国大会講演論文集 2 (2000). 寺田 努,塚本昌彦,西尾章治郎,“2 つの PDA を用いた 携帯型エレキベースの設計と実装,” 情報処理学会論文誌, Vol. 44, No. 2, pp. 266–275 (Feb. 2003). 竹川佳成,寺田 努,塚本昌彦,西尾章治郎,“追加黒鍵 をもつ小型鍵盤楽器モバイルクラヴィーア II の設計と実 装,” 情報処理学会論文誌, Vol. 46, No. 12, pp. 3163–3174 (Dec. 2005). Yoshinari TAKEGAWA, Tsutomu TERADA, and Shojiro NISHIO, “Mobile Clavier: A New Music Keyboard for Flexible Key Transpose,” Proc. of The 2007 International Conference on New Instruments for Musical Expression (NIME2007), pp. 82–87 (June 2007). 竹川佳成,寺田 努,西尾章治郎,“さまざまな演奏スタイ ルに適応可能な電子鍵盤楽器 UnitKeyboard の設計と実 装,” コンピュータソフトウェア (日本ソフトウェア科学 会論文誌) インタラクティブソフトウェア特集, Vol. 26, No. 1, pp. 38–50 (Jan. 2009). 丸山裕太郎,竹川佳成,寺田 努,塚本昌彦,“UnitInstruments: 楽器の機能要素を再構築可能なユニット型電子楽 器の設計と実装,” コンピュータソフトウェア (日本ソフ トウェア科学会論文誌) インタラクティブソフトウェア特 集, Vol. 28, No. 2, pp. 193–201 (May 2011). 菅家浩之,竹川佳成,寺田 努,塚本昌彦,“Airstic Drum: 実 ドラムと仮想ドラムを統合するためのドラムスティックの 構築,” 情報処理学会論文誌,Vol. 54, No. 4, pp. 1391–1401 (Apr. 2013). 竹川佳成,寺田 努,西尾章治郎,“鍵盤楽器のための実時 間運指取得システムの構築,” コンピュータソフトウェア (日本ソフトウェア科学会論文誌) インタラクティブソフ トウェア特集, Vol. 23, No. 4, pp. 51–59 (Oct. 2006). 澤 光映,竹川佳成,寺田 努,塚本昌彦,“演奏ルールを用 いたウッドベースのための実時間運指取得システムの設 計と実装,” コンピュータソフトウェア (日本ソフトウェア 科学会論文誌) インタラクティブソフトウェア特集, Vol. 27, No. 1, pp. 56–66 (Jan. 2010). 飛世速光,竹川佳成,寺田 努,塚本昌彦,“ギターのた めの触弦認識システムの構築,” コンピュータソフトウェ ア (日本ソフトウェア科学会論文誌), Vol. 31, No. 2, pp. 57–66 (May 2014). 竹川佳成,寺田 努,塚本昌彦,“リズム学習を考慮したピ アノ演奏学習支援システムの設計と実装,” 情報処理学会 論文誌,Vol. 54, No. 4, pp. 1383–1392 (Apr. 2013). 竹川佳成,寺田 努,塚本昌彦,“システム補助からの離脱 を考慮した学習システムの設計と実装,” コンピュータソ フトウェア (日本ソフトウェア科学会論文誌) インタラク ティブソフトウェア特集, Vol. 30, No. 4, pp. 51–60 (Nov. 2013).. ムでは,聴衆に演奏を聴かせることが目的ではないため,. [あ] タイプの楽器となる.また,計測系のシステムはその 機能によって演奏が妨げられてはいけないので演奏性の確 保は重要である.今後はこのような機能性をもつシステム も含めて,体系化を行っていければと考えている.. 謝辞 c 1959 Information Processing Society of Japan ⃝. 6.

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図 1 DoublePad/Bass の概要と演奏の様子 C# D# D E F F# GC G# A#A H C D# F E F# G G# AD A# CH C# D音域変更+2 図 2 音域変更による音配置の変化 技術としてはハンマリングオン,プリングオフ,チョーキ ング,スライドといった装飾がタッチパネル上で再現され ている.そのため,習熟性,演奏性,拡張部分の重要性 ( 今 回は可搬性の拡張 ) どれもが高い状態にあると言える. 3.2 Mobile Clavier II 持ち歩き可能な小型鍵盤
図 13 AirStick Drum の概要 識する場合,打撃時の振動等を認識するのが容易である. しかし,本システムも叩打のタイミングで遅延なしに音を 出す必要があるため,叩打の前に認識処理を終えておく必 要がある.そのため本システムでは,空中を叩く際には無 意識にユーザが振り下ろす動作にブレーキをかける一方, 本物のドラムを叩く際にはそのブレーキが起こらないこと を利用し, 100 %の識別率で叩打の数 10ms 前に認識を終 えることに成功した. このシステムは,演奏性を失うことなくドラム要素を拡 張

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