原 著 〔東女医大誌 第56巻 第12号頁1062∼1081昭和61年12月〕
気腹時の循環動態に関する実験的研究
東京女子医科大学 第二外科学教室 ヤマ ダ ノリ 山 田 則 (主任 ミチ 道 織畑秀夫教授) (受付 昭和61年9月8日)An Experimental Study of Hemodynamics in Pneumoperitoneum
Norimichi YAMADA
The Second Department of Surgery(Director:Prof. Hideo ORIHATA)
Tokyo Women’s Medical College
This reserch examined the changes in hemodynamics which result from pneumoperitoneum during
the perfomance of a peritoneoscope, as well as the changes due to hypovolemic shock.
31adult mongrel dogs each weighing about 10 kg were divided into two groups of 21 normal dogs and 10 hemorrhaged ones. Pneumoperitoneum was perforrned under the pressure ranging from O mmHg
to 50 mmHg, and changes in hemodynamics were studied with the result described below.
1.In the group of normal dogs under the low pneumopertoneal pressure(10−20mmHg), increases
were observed in the fiow of the inferior vena cava, central venous pressure, cardiac out put and arterial
blood pressure. Under the high pneumopertoneal pressure(30−50 mmHg), the且ow of the inferior vena
cava and the cardiac out put decreased and the rise of the central venous pressure stopped. The arterial
blood pressure also decreased. While the pulse rate remained almost unchanged, the femoral vein
pressure increased constantly.
2.In the group of hemorrhaged dogs under the low pneumoperitoneal pressure(10−20mmHg),1ike
the normal dogs, the inferior vena cava且ow and cadiac out put increased. The central venous pressure and the arterial blood pressure also increased. Under the high pneumoperitoneal pressure(30−50 mmHg), increasing effects of those values were kept so that the preceding hypotensive condition was recovered,
3.No difference was observed between the normal dogs and the hernorrhaged dogs in blood gas analysis.
These findings suggest that under the conventional pressure for pneumoperitoneum 20mm bar
(13.5mmHg), hemodynamics is stable and Inoreover it is considered that the pneumoperitonal procedure works so as to prevent the shock in the hemorrhaged dogs。 In clinical practise, it is necessary to keep an intensive care over the general conditions because the problem exists in the general conditions of the
patlent. 目 次 緒言 実験目的 実験方法 1.実験犬および麻酔 1)正常犬 2)脱血犬 2.実験装置およびその装着 1)動脈圧の測定 2)心拍出量の測定 3)下大静脈血流量の測定 4)脈拍数の測定 5) 6) 7) 8) 中心静脈圧の測定 大腿静脈圧の測定 腹圧の測定 血液ガス分析および血液検査
3.三二方法および実験概略図 実験結果およびその分析 1.実験結果のポリグラフ表示 2.正常犬 1)動脈圧の変化 2)心拍出量の変化 3)下大静脈血流量の変化 4)脈拍数の変化 5)中心静脈圧の変化 6)大腿静脈圧の変化 7)小盲 3.脱血犬 1)動脈圧の変化 2)心拍出量の変化 3)下大静脈血流量の変化 4)脈拍数の変化 5)中心静脈圧の変化 6)大腿静脈圧の変化 7)小括 4.正常犬と脱血犬の比較 1)動脈圧 2)心拍出量 3)下大静脈血流量 4)中心静脈圧 5)心拍数 6)大腿静脈圧 7)全血管抵抗 8)血液ガス分析,血液検査 考察 結論 文献 緒 言 腹腔鏡検査は1902年,Ke11ing1)により膀胱鏡を 用いて犬の腹腔内を観察したことに初まる.その 後1910年,Jacobeus2)はこれを人体に応用し,1929 年,Kalk3)が100例の臨床応用例を報告し,臨床検 査法として確立された.我国においては,1923年 沖中が欧州より腹腔鏡を持ち帰り,1929年北山ら によって紹介されている.1949年頃より常岡らに よって消化器疾患の診断に応用された.近年にお いては,内科領域の特に肝疾患の診断,経過観察 に直視下生検を併用することにより,非常に有用 な検査法として発展しつつある4)5).しかし他の領 域では,一部婦人科領域での応用や,急性腹症へ の適応が見られたのみであった.侵襲的検査法で ありながらも短時間に,簡単な器具で腹腔内臓器 表面を直接肉眼視でき,しかも操作が簡単に出来 る利点は捨てがたいものがある.この点を利用し た緊急腹腔鏡検査法がある.急性腹症の患者に緊 急に腹腔鏡検査を施行したという報告は,1956年 1.Lamy6)に初まる.その後1970年代になり, Fahrander7), R. Llanioら8)の報告につづいて次第 に増加して来た.国内においては,1977年より小 松9)∼11)は内科的立場より積極的に緊急腹腔鏡検査 を施行し成績を発表している.緊急腹腔鏡検査 法12}∼16)は緊急時に施行される検査法であるため, 時として患者の状態を充分把握できないまま施行 される可能性がある.したがってこの検査法施行 によっておこる合併症の問題について充分理解を しておかなけれぽならない.腹腔鏡検査法の偶発 症17)∼24)について,竹本25)によるアンケートが発表 されている.これによると第一位は皮下気腫,第 二位は循環不全となっている.この循環不全は直 接死亡事故につながる恐れがあるため充分に解明 されねばならない.腹腔鏡施行時の循環動態の変 化については,上田26),小島ら27)のエコーを使用し て得た報告,国外では,M. Motew28),1。 Smith ら29)30)の報告があるが,各氏の報告は必ずしも見 解の一致を見ていない.そこで著者は犬を使用し, 気腹した時の循環動態の変化を,なんらの操作を 加えていない正常犬と,循環不全を来たし易いと 考えられる脱血による出血性ショック犬を作製し て,正常犬と同様の気腹操作を加え,循環動態の 変化を観察し,また両者の比較を行ない若干の知 見を得たので報告する. 実験目的 体重約10kgの雑種成犬31頭を,正常犬群(21 頭),脱血犬群(10頭)の2群に分け,動脈圧,心 拍出量,下大静脈血流量,脈拍数,中心静脈圧, 大腿静脈圧を測定し,各群におけるRoom Airに よる気腹時の腹圧の上昇に対する循環動態の変化 を観察した.このことより正常犬では正常人の, また脱物干では,腹腔内出血等のHypovolemic state時の腹腔鏡検査施行を想定し,気腹圧の変
化によって正常犬群と二三二三にいかなる変化が 見られるかを観察し,比較検討した. 実験方法 1.実験犬および麻酔 1)正常犬 体重約10kgの雑種成犬を使用した.実験犬はす べて犬舎にて約1週間の観察を行ない,病的状態, あるいは栄養状態の悪いと思われる犬は除外し た.麻酔はPentobarbital Sodium 20mg/kgを静 脈内に投与し,#25∼#28のカブ付き気管内カ ニューレを気管内に挿管し,Room Airにて人工 呼吸器(ACOMA, AR−300)に接続し,分時呼吸 数,毎分20回,1回換気量:20∼30ml/kgの旧歓的 陽圧呼吸で維持した.適宜Pentobarbital Sodium を少量追加し,麻酔を維持した.各種カテーテル を脈管に入れる前にヘパリン50単位/kgを静脈内 に投与し,気心前30分に硫酸アトロピン0.02mg/ kgを筋注した.気腹後血液検査を行ない,ヘマト クリット40%以上の犬を解析に使用した, 2)二二犬 正常犬と同じ処置を加えた犬に,50ml/kgの血 液を脱回し,約1時間循環動態が安定するまで待 ち,実験を開始した.実験後血液検査を行ないヘ マトクリット値が40%未満の犬を使用した. 2.実験装置およびその装着 1)動脈圧の測定 動脈圧の測定には,左頚動脈を露出し,レーマ ン7Fカテーテルを約10cm挿入し,圧トランス デューサー(Statham P231D)に接続しこれを Polygraph(Multiple Polygraph 140,三栄測器 K.K.)に接続し記録した.これより収縮期圧,拡 張期圧を求め,平均動脈圧は,(収縮圧一拡張期 圧)/3+拡張期圧としたものを値とした. 2)心拍出量の測定 胸骨正中切開にて縦隔を開き,上行大動脈を露 出し,これに体内型電磁血流計プローベ(日本光 電FR−080∼200T)を装着し,電磁血流計(日本光 電MFV−1200)に接続し,心拍出:量を測定し,こ れをPolygraphに接続し記録した. 3)下大静脈血流量の測定 開胸した創より右胸腔に達し,右房と横隔膜と の間で下大静脈を切断し,その間に体外型電磁血 流計プローベ(日本光電FF10∼14)を直接挿入 し,電磁血流計(日本光電MFV・1100)に接続し, 下大静脈血流量を測定した.これを前記のPoly− graphに接続し記録した. 4)脈拍数の測定 1)で求めた動脈圧のグラフより読み取った. 5)中心静脈圧の測定 :右内頚静脈を露出し,レーマン7Fカテーテルを 約5cm挿入し,圧トランスデューサー(Statham P231D)に接続し,これをPolygraphに接続し記 録した. 6)大腿静脈圧の測定 右嵐径部に切開を入れ,レーマン7Fカテーテル を右大腿静脈に約3cm挿入し,これに圧トランス デューサー(Statham P231D)に接続し,前出の Polygraphに接続し記録した. 7)腹圧の測定 犬の腹壁左側の下部と左腸骨稜を結ぶ中点に18 ゲージエラスターを挿入し,エクステンション チューブを使用して水銀血圧計に接続し腹圧を測 定した. 8)血液ガス分析および血液検査 濫淫腹操作終了後,動脈血を採取し,自動ガス 分析装置(Corning−168)を使用して,酸素分圧, 炭酸ガス分圧,重炭酸塩濃度,Base Excessを測 定した.加えて血色素,ヘマトクリット値も測定 した. 3.気腹方法および実験概略図 前述の如く作製し,各種測定器具を装着した実 験犬において,Room Airにて気腹を行ない,気 腹圧を0,10,20,30,40,501nmHgと変化させ た場合の,動脈圧,心拍出量,下大静脈血流量, 脈拍数,中心静脈圧,大腿静脈圧を各々測定した. 測定にあたっては気腹終了後,約3分間待ち,安 定した各測定値を読み取った.実験概略図(図A) と状況(写真1)を示した. 実験結果およびその分析 1.実験結果のポリグラフ(図B) 1.正常犬 1)動脈圧の変化
o 心拍出量計 人ロ呼吸器 。、 総顕動脈一一一
ヅ
心臓 下大静脈血流計 下大静脈一一」 一一纃s大動脈 動脈圧モニター ( 中心静脈圧モニター 大腿静脈圧 モニター 図A 実験概略図 気腹力7 気腹圧マ!メーター 気腹圧を変化させた時の収縮期圧,拡張期圧の 平均を示したものが図1aである.これによると 気腹圧を上昇させると,収縮期圧,拡張期圧とも にやや上昇するが,その最高値は20mmHg気腹圧 時であり,収縮期圧123mmHg,拡張期圧85mmHg 灘灘・…「 写真1 実験状況 で,おのおのの初期値の12%,16%の増加であっ た.30,40,50mmHg気腹圧の時でも若干である が,初期より増加した.脈圧はほぼ変化が見られ なかった.図1bは固体差をなくする目的で初期 値に対する気腹による各動脈圧の変化率を平均化 したものである.これによると,気腹圧を上昇さ せると平均血圧変化率は上昇し,20mmHg気腹圧 の六二高値となり,初期値の19%上昇した.その 後も上昇率は低下するも初期値以下に下ることは なかった.しかし気腹圧40,50mmHg時には初期 値に比較して有意な差はなかった(p<0.05). 血 圧 20δmH9 .=}...,・=.=5一セ一.塁≡望=≒「 100一」・董聾燃
昭_ 一一鰯一群ヨ§一鷹ミr一三=≡一 輩≡慧==置 0 一 ・・Hρ1 .1一層M一一”一二 一一■===一聯y. i一 是_三ヨ雍一 コー___き 中 静 摩 20一≒…≡≡…葺…轟垂≡≡蓑_量壽≒「皇1=」i弓, 「4一一1一一一一一 一一 一一『一O請一 ㌃ 一一 一「≒一肝苗一 10一._葺≒+.セ 1_工 「}一 二 奪壽琴一駐 、一?書[一 一 〇一. し一『=ヨー犀一葺ト雪量一=ゴ 一 一−E言 cmH20一 一一 大 静 脈 圧 心 拍 出 量 一i 一一一 50r・・≡量……i謬≒妻帯壽・一ヒ叢葦垂壷L一葦i…i垂 25一. 0幽1. 2ε/分 1_. 0一器曇、齢、、撫崇。_験、一叢蕪…華
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腹圧繭mH9 一一睡㌦τ→一一一一□旨一 需←・一 r詣聾二媛肩蝦橘一一婁 L鵜罧一=瓢一一7障〒一;儲監卜楯≒虐一一一一s=腓F一_≡ 一一・_一 1一一一燭一一諄一巴璃−一一 4聯竃一三繭一理・一=嬬一曹幽 藻毫._ 0 10 20 30 図B 正常犬のポリグラフ表示 40 50動脈圧 (・mH9) 100 50 Sp
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(N=21) Sp:平均収縮期血圧 Dp:平均拡張期血圧 。一心ス均脈圧×\
×一×一×
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、℃ド’ 「Q 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図1a 正常犬における動脈圧脈圧の変化 心拍出量 (m〃min/k亀) 150 100 50 Mean±SD (N=21) *<0.05 Mean±SD 平均血圧 (%) 200 180 160 140 120 100 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図1b 正常犬における平均血圧の変化率 2)心拍出量の変化 心拍出量 (%) 200 100 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmHg) 図2a 正常犬における心拍出量の変化 * Mean±SD (Nニ21) *P<0.05 正常犬における心拍出量の変化は図2aに示さ れる.気腹圧OmmHgの時の心拍出量は121±:41 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mH9) 図2b 正常犬における心拍出量の変化率 ml/min/kgであった.固体差をなくするため初期 値に対する変化率で表わしたものを平均したもの が図2bに示される.これによると,気腹圧を上昇させ10mmHgになった時心拍出量はもっとも上
昇し,初期値の111.8%まで上昇した.20mmHg気腹圧では,増加率は低下するものの初期値の
108.3%と初期値より上昇していた.気腹圧を30mlnHgに上昇させると心拍出量は初期値の
96.2%と初期値を割り,以降腹圧を上昇させるに つれて心拍出量は低下して行った.しかし初期値 に対してp〈0.05で有意差のある変化は,気腹圧 10mmHgの時のみであった. 3)下大静脈血流量の変化 正常犬における下大静脈血流量の変化は,図3a に示される.気腹圧OmmHgの時の下大静脈血流 量は30.4ml/min/kgであった.各初期値に対する 気腹圧の変化による変化率で示したものが図3b である.これによると,10mmHg気腹圧の時,下 大静脈血流量は最大値となり初期値の138.6%と なった.それ以上の気腹によって下大静脈血流量 はしだいに低下するが,30mmHg気腹圧時でも 108.9%と初期値より上昇している.しかし40 mmHg気腹圧時には初期値より低下し,初期値の 77.5%となり,50mmHg気腹圧時では初期値の 53,3%まで低下した.初期値に対する変化は,気 腹圧10,20,40,50mmHgで有意差があった(p< 0.05). 下大静脈血流量 (m2師n/kg) 70 60 50 40 30 20 10 下大静脈血流量 (%) 200 100 * * Mean±SD (N=12) P〈0.05 * * Mean±SD 0 10 20 30 4G 50 気腹圧(mmH9) 図3a 正常犬における下大静脈血流量の変化 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図3b 正常犬における下大静脈血流量の変化率 4)脈拍数の変化 正常犬における脈拍数の変化は図4aに示され る.これによると,気腹圧OlnmHgの時の脈拍数は 89.7回/lninであった.各初期値に対する気腹によ る変化率は図4bで示される。これによると,10 mmHg気腹圧時は,初期値の98.2%まで低下する ものの,30mmHg気腹圧時には,初期値の100.2% まで上昇,その後気腹圧の上昇につれて上昇し, 気腹圧50mmHgの時105.5%まで上昇した.しか し初期値に対する各気腹時の脈拍数の変化は,気 腹圧10mmHgの時のみ有意差があり,他の時はな かった(p〈0.05). 5)中心静脈圧の変化 正常犬における中心静脈圧の変化は図5aに示 される.気腹圧OmmHgの時の中心静脈圧は3.9 cmH20であった.各初期値に対する気腹による 変化率は図5bに示される.これによると中心静 脈圧は気腹圧の上昇につれて上昇し,50mmHg気 腹圧時には初期値に対して2.6cmH20上昇した. p〈0.05で全ての気腹圧で有意差を認めた. 6)大腿静脈圧の変化 正常犬における大腿静脈圧の変化は図6aに示 される.気腹圧OmmHgの時の大腿静脈圧は6.1 ClnH20であった.初期値に対する相対的変化率脈拍 (数/min) 100 50 脈拍数の比 (%) 100 50 Mean±SD (N=21) 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図4a 正常犬における脈拍数の変化 Mean±SD (N=21) *P〈0,05 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図4b 正常犬における脈拍数の変化率 を示したものが図6bである.これによると,大腿 静脈圧は,気腹圧が上昇するにつれて上昇し,気
腹圧50mmHgでは初期値よりも35.4cmH20ま
中心静脈圧 (cmH、0) 10 Mean±SD (N=21) 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図5a 正常犬における中心静脈圧の変化 中心静脈圧 (・mHρ) 5 0 Mean±SD (N=21) *P<0.05 * * * * * 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図5b 正常犬における相対的中心静脈圧の変化率 で上昇した.p<0.05においてすべての気腹圧に おいて,初期値に対して有意差があった. 7)小括 気腹圧をしだいに増加させると動脈圧はしだい に増加し,20mmHg気腹圧時を最高値としてその後の増加率は低下する.しかし50mmHg気腹圧時 でも初期値以上の動脈血圧を保っている.心拍出 量の変化は気腹圧の上昇とともに,10,20mmHg 気腹圧までは上昇し,30,40,50mmHgと気腹圧 大腿静脈圧 (cmH,O) 50 0 Mean±SD (N;21) 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図6a 正常犬における大腿静脈圧の変化 大腿静脈圧 (cmH、O) 50 0 Mean±SD (N=21) *P<0,05 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図6b 正常犬における相対的大腿静脈圧の変化率 を上昇させて行くと,しだいに低下して行き,初 期値より低下した.下大静脈血流量は,気腹圧を 上昇させると,10,20mmHgで急増,30mmHg気 腹圧にて増加率は減少して行き,40,50mmHg気 腹圧時にはさらに低下し初期値以下となった.脈 拍数の変化も気腹圧10mmHgでは初期値以下で あるが,20mmHg気腹圧以上の時は,初期値以上 となった.以上の事より,気腹圧10∼20mmHgの 時は,心臓に血液還流量が増加していると言える. また30mmHg気腹圧以上では,心臓への血液還流 量はしだいに減少して行なっている.これは気腹 により多量に存在する腹腔内血管床よりプーリン グされていた血液が下大静脈に圧排されて出てき たと推測された.事実この時点においても腹部下 大静脈はある程度圧排されているのであろう.こ のことは大腿静脈圧が気腹圧と平行して増大して いる事より推察される.下肢よりの下大静脈を 通って還流される血液は,ある程度減少している のであろうが,それ以上に大量の血液が腹腔内よ り胸部下大静脈へ流出しているのであろう.一方, 30mmHg気腹圧以上での下大静脈血流量の減少 は,腹腔内よりの胸部下大静脈への1血流量が減少 した事を意味する.気腹による腹腔の拡張により 腹部下大静脈が圧排されたか,横隔膜の拡張によ り下大静脈が横隔膜を通過するあたりで圧排され ているのであろう.腹腔が気腹で拡張され,腹腔 内臓器の血管抵抗は著しく増大するにもかかわら ず,下大静脈よりの還流血液量が減少することと, 心の調節機能によって,心拍出量を押え,血圧を ある一定の値近くに維持している.中心静脈圧の 増大は,下半身の血管抵抗が増大することにより, 頭部へ循環する血液量が増大したと考えられる. このことは,気腹圧の増大につれて一方的に増加 していることより推察される. 2.脱山犬 1)動脈圧の変化 脱血犬において気腹圧を変化させた場合の平均 収縮期圧,平均拡張期圧,平均脈圧の変化は図7a に示される.気腹圧OmmHgの時の平均収縮期血 圧80mmHg,平均拡張期圧は37mmHg,平均血圧 は51.3mmHgであった.各初期値に対する気腹圧
の変化率を平均したものが図7bに示される.こ れによると,気腹圧を10,20mmHgと上昇させる と,血圧は著しい増加を示し,各々初期値の138%, 168%と上昇する.その後気腹圧,30,40,50mmHg と増加させると,血圧の増加率は低下して行くが 減少して行くことはなく,50mmHg気腹圧時の時 最高値を取り初期値の193%まで増加していた.各 変化率は,初期値に比して有意に差があった(p〈 mmH9 200一一一・一 ・一一一一一L.. .・;.齊O≒.重言トー.謡... 一翻 仁」」= J_」 動 脈 圧 中 rじ 静 脈 圧 100一≡蒙萎4華 一纈護1・瀟而藩=濡而蕎論≡蒲、・粛誌瀟黒議諦
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ズ。/艶!!Dp
/一{一一一一一….。脈圧
0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図7a 脱血犬における動脈圧の変化及び脈圧の変化 平均血圧の比 (%) 200 100 Mean±SD (N=10) *P<0.05 * * 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図7b 脱血犬における平均血圧の変化率0.05). 2)心拍出量の変化 脱臼犬における心拍出量の変化は図8aに示さ 心拍出量 (m2/min/kg) 150 100 50 Mean (N=10) 心拍出量 (%) 200 100 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図8a 脱血犬における心拍出量の変化 * Mean±SD (N=10) *P<0.05 0 10 20 30 40 5〔〕 気腹圧(mmH9) 図8b 脱血犬における心拍出量の変化率 れる.気腹圧OmmHgの時の心拍出量は55.2ml/ min/kgであった.各初期値に対する気腹圧によ る変化率を示したものが図8bである.これによ ると,気腹圧を10,20mmHgと増加させると,心 拍出量はつれて上昇し,最高値は気腹圧20mmHg の時で初期値の216%まで上昇した.それ以降の腹 圧の上昇につれて,心拍出量は減少して行き,50 mmHg気腹圧時は初期値の158%であった. p< 0.05において気腹圧OmmHgに対して,気腹圧10, 20,30,40,50mmHg下腹時の心拍出量に有意な 差が認められた. 3)下大静脈血流量 丁丁犬における下大静脈血流量の変化は図9a に示される.気腹圧OmmHgの時の下大静脈血流 量は21.8ml/min/kgであった.各初期値に対す る,気腹による変化率を示したのが図9bであっ た.これによると,気腹圧を上昇させると,気腹 圧10,20mmHgまでは下大静脈血流量は急上昇 し,20mmHg気腹圧時に最高値をとり初期値の 191.3%まで上昇した.その後腹圧の上昇につれて しだいに下大静脈血流量は減少し,50mmHg気腹 圧時には,初期値の134%であった.初期値に対し て気腹圧10,20,30,40mmHgの時p<0.05にて 有意差が見られた. 4)脈拍数の変化 脱血犬における気腹に対する脈拍数の変化は図 10aに示される.気腹圧OmmHgの時の脈拍数は 100.0回/minであった.この値を初期値として, 気腹圧を増加させた時の変化率を示したものが図 10bに示される.これによると,気腹圧を上昇させ ると,脈拍数はやや低下して行き,気腹圧30 mmHgの時,最低値を取り,95.8%であった.そ れ以上の気腹圧の上昇でやや上昇して行き気腹圧 50mmHgでは,98.9%であった.気腹圧20,30, 40mmHgの時, p<0.05で初期値に対して有意差 が認められた. 5)中心静脈圧の変化 町回犬における気腹に対する中心静脈圧の変化 は図11aに示される.気腹圧OmmHgの時の中心 静脈圧は2.5cmH20であった.各初期値に対する 気腹による増加量を示したのが図11bである.こ
Mean±SD (N=10) Mean±SD (N=10> 下大静脈血流量 (m2/min/kg) 50 40 30 20 10 50 脈拍 (数/rnin), 100 50 0 10 20 30 40 気腹圧(mmH9) 図9a 脱血犬における下大静脈血流量の変化 * Mean±SD (N=10) *P〈0,05 下大静脈血流量 (%) 200 100 * 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図9b 脱血犬における下大静脈血流量の変化の比 れによると,中心静脈圧は,気腹の上昇につれて 一方的に増加し,気腹圧50mmHgでは2,65cm増 加した.すべての気腹圧時において,初期値に対 して有意な差が認められた(p<0.05). 6)大腿静脈圧の変化 脈拍 % 100 50 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図10a 脱血犬における脈拍数の変化 Mean±SD (N=10) *Pく0.05 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmHg) 図10b 脱血犬における脈拍数の変化率 脱血犬における気腹に対する大腿静脈圧の変化
は図12aに示される.気腹圧OmmHgの時の大腿
静脈圧は7.5cmH20であった.各初期値に対する 気腹による変化量を示したものが図12bであ喬.これによると,大腿静脈圧は,気腹圧が上昇する
につれて一方的に上昇し,50mmHg気腹圧時に
は,初期値よりも37.7cmH20まで上昇した.すべ ての気腹圧において初期値に対して有意な差が認 められた(p<0.05). 中心静脈圧 (cmH20) Mean±SD (N=10) 7)小括 脱血犬において気腹圧OmmHgの時の平均血圧 は51.3mmHgとかなり低いが,気腹圧を上昇させ るにつれて平均血圧も上昇し,50mmHg気腹圧時 には,95.9mmHgまで上昇し,ほぼ正常犬の血圧 に等しくなっている.心拍出量も初期値は55.2 Mean±SD (N=10) 5 0 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図11a 脱血犬における中心静脈圧の変化 大腿静脈圧 (cmH、0) 50 Mean±SD (N=10) *Pく0.05 0 中心静脈圧 (cmH20) 5 0 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図11b 脱血目における中心静脈圧の変化率 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmHg) 図12a 脱血犬における大腿静脈圧の変化 大腿静脈圧 (cmH20) 50 0 Mean±SD (N=10) *P<0.05 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図12b 脱血における大腿静脈圧の変化率ml/min/kgとやや低いものの,気腹圧を上昇させ ると,初期値よりも上昇する傾向があった.下大 静脈血流量も初期値21.8ml/min/kgと低値であ るも,気腹圧の上昇と供に増加傾向にある.脈拍 数も初期値は100回/minであるが,気腹圧を上昇 させるとやや低下傾向がある.中心静脈圧,大腿 静脈圧は肝内と共に上昇一方であるのは正常犬の 場合と同じであった.このことより正常犬の場合 と同様に,気腹圧の上昇にともなって,心臓に還 流する血流量が初期値より上昇していると考えら れる.気腹圧20mmHgの時下大静脈血流量が最:も 増大し,又心拍出量もこの時最大となり,脈拍数 は30mmHg気腹圧の時最少となる所より,20∼30 mmHg気腹圧あたりの時,心臓への最大還流量が 得られるのであろう.気腹圧40mmHg以上では, 下大静脈一血流量,心拍出量,ともに増量が低下し てきているのに血圧は上昇している.これは気腹 により全血管抵抗が著しく増大したために上昇し ていっていると思われる.抵抗が増大し血圧が上 昇したため,心拍出量は低下傾向になったのだろ う.下大静脈血流量の気腹圧10,20mmHgでの増 大は正常犬の場合と同じく,気腹により腹腔内の 多量プーリング血液が押し出されたと考える.気 腹圧30mmHg以上の時の下大静脈血流量の増加 低減は,腹腔拡張による下大静脈還流障害であろ う.中心静脈圧の上昇も正常犬と同様に腹腔内圧 上昇による下半身末梢抵抗の増大のため心臓より 拍出された血液のより多くの量が頭側上半身へ流 れ込むからであろう.大腿静脈圧の変化も単に気 門による下大静脈圧排による還流障害を表わして いると考えられる. 4.正常犬と脱伊野の比較 1)動脈圧 動脈圧について両者間の相違は図13に示され る.これによると初期値は両者間に著しい相違が 見られ,側側犬は著しい低血圧を示しているが, 気腹圧をしだいに上昇させると,正常犬の血圧上 昇の割合以上に上昇し,正常犬の値に近づいて行 き,気腹圧30mmHg以上では両者間に有意差はな くなってきた(pく0.05). 2)心拍出量 心拍出量の相違については図14に示される.こ れによると,気腹圧OmmHgの時は,両者間に著し い相違があるも,白腹開始によって,両者とも同 様に心拍出量は増加して行くが,気腹圧30mmHg 以上では,正常犬は心拍出量が急激に低下して行 くが,脱血犬の場合はPlateauをつくり,あまり 変化しな:いため,気腹圧50mlnHgでは,2者間に p<0.05において有意差がなくなってしまった. 3)下大静脈血流量 下大静脈血流量についての相違は図15に示され る.これによると,全気腹圧において,p<0.05に て有意差は見られなかった.しかし傾向としては, 一腹初期(10,20,30mmHg気腹時)は脱血犬の 下大静脈血流量は,正常犬のそれに比して少ない が,40,501nmHg気腹圧時では逆に,正常犬の下 大静脈血流量の方が少なくなってきた. 4)中心静脈圧 中心静脈圧の相違については図16に示される. これによると両者とも気腹圧が上昇すると中心静 脈圧も上昇して行った.高気腹圧になれぽ両者と も中心静脈圧の増加の率は低下しPlateauをつ 血圧(mmH9> 100 50 * * ・一一・正常犬 Mean±SD Xr一一x脱血犬 *P<0.05 * ’
汁
’’ 0 10 20 30 図13 正常犬一脱目貼の動脈圧 40 50 気腹圧(mmHg)・心拍出量 (mゑ/min/kg) * 150 100 50 * *
/H一
・一一.正常犬 x一一一x脱血犬Mean±SD *P〈0.05 * * o 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図14 正常犬一脱血犬の心拍出量 くって行った.正常犬,脱血三間にpく0.05にて有 意差はなかった. 5)心拍数 心拍数の相違は図17に示される.これによると, 正常犬群では気腹圧が高くなると,一時低下して いた脈拍数は増加して行く,一方,脱血群は,気 腹圧を高くすると脈拍数はやや低下傾向であまり 変化しない.この事より脱血犬では,気腹圧O mmHgの時より,気腹圧501nmHgの時は,心臓へ より多くの血液が還流すると推測される.一方正 常犬では,一時心臓への還流血液は増加するが,気腹圧50mmHgの時は,気腹圧OmmHgの時より
少ない血液量が還流していると推測される.しか し両老の変化は小さく,また両者間の有意差は気 腹圧0,10mmHgの時のみであった(p〈0.05). 6)大腿静脈圧 大腿静脈圧の相違は図18に示される.これによ ると,両者とも気腹圧が上昇するにつれて,大腿 静脈圧は一方的に上昇し,また両者間にp〈0.05 において有意差はなかった. 7)全血管抵抗 全血管抵抗は,平均血圧/心拍出量で求めた.両 下大静脈血流量 (m2/min/kg) 50 40 30 20 10 ! ! ! ! ! ! 一正常犬Mean±SD 一一一 E出犬 心拍数 (回/min) 100 50 * * ←一・正常犬 x噂一味脱血犬 、 Mean±SD *P<0.05一十一一一一一一1
0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図15 正常犬一脱血犬における下大静脈血流量 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図16 正常犬一脱一犬における心拍数中心静脈圧 (cmH、0) 5 ,ノ P/ , ’
o/
’ {一一一一 哺 辱 一 一 { ←一・正常犬 x一一“脱出犬 Mean±SD 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図17 正常犬一脱血犬における中心静脈圧 全血管抵抗 (unlt) 200 100 * 、 、 * ノ’ ’! 1 _正常犬 Mean±SD 一一一 E血犬 *P〈0.05* * * ! ! ! ノ ! * ! 〆 ! ! ! ノ 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図19 正常犬一二血犬の全血管抵抗 大腿静脈圧 (cmH、O) 50 0 ’ ’ ’ ・一一・正常犬Mean±SD x一一一x脱血犬 ’ ’ノ ’ ’’ ’’ { 表1 正常犬群一脱血犬群間における血液ガス, 血液検査値の比較 正常犬群 脱.血犬群 (N=21) (N=10) PH 7.500±0.101 7.422±0,027 PCO2 15.9 ±3.3 15.5 ±3.5 PaO2 119.3 ±44.0 138.3 ±69.9 HCO3 13.0 ±5.4 10.0 ±1.8 BE 一6.0 ±6.7 一10,4 ±1.0 *Hb 46,2 ±8.0 34.6 ±2.9 *Ht 15.7 ±1.4 10.9 ±/.0 (寧pく0.05) 0 10 20 30 40 50 気腹圧(mmH9) 図18 正常犬一脱血犬における大腿静脈圧 者間の相違は図19に示される.これによると,両 老間に絶対量的には有意差があったが,両者の傾 向は,脱血犬の気腹圧10mmHgの時を除いてほぼ 一致し,ともに気腹圧の上昇と共に,全血管抵抗 は増大した. 8)血液ガス分析,血液検査 各実験後血液を採取してガス分析,血液検査を 施行した結果は,表1に示される.Respiratorを 使用し強制換気をしているため,高酸素分圧,低 炭酸ガス分圧,Respiratory Alkalosis孕こなる事は 理解出来る.しかしBase Excessは著しい負に なっている.おそらく気腹圧の上昇により,腹腔 内微小循環に障害をきたし,末梢組織にAnoxiaをおこし,Base Excessが著しく上昇したのであ ろう.血液ガス分析において,正常犬,脱脂犬野 間に有意差はなかった(p<0.05). 考 察 腹腔鏡検査法は緒言に述べたごとく,古くから ある検査法であるが,この検査法の合併症,その 内特に循環系に及ぼす影響について言及している 発表は多くはなかった.しかし1963年になりGuy tonら31)が,犬を用いて炭酸ガス気腹を行なった 場合,中心静脈圧が上昇し,心拍出量が増大した と発表したのを初めとして,1967年Pyrs−Roberts ら32),1967年Alexanderら33)によって,この現象 は,馬腹に使用された炭酸ガスが腹腔より吸収さ れ,高炭酸ガス血症になり,心刺激作用が働いた ためであろうと発表している.1970年Arthure ら34)によって腹腔鏡施行時の突然死の報告によ り,気宇時の循環動態におよぼす影響について盛 んに研究発表されるようになった.1970年Des− mond−Gordonら3‘)によって,気腹圧を高くする と,1960年Holmes36)が発表したSupine hypoten− sive Syndromeのごとく,下大静脈が圧迫され, 心臓への静脈血の還流が障害され,心拍出量:が低 下すると発表した.ところがHodgson37)は同じ 年,色素希釈法にて三二時の心拍出量を測定した ところ,約20%の増加が見られたと報告している. また1971年1.Smithらは炭酸ガス気腹により,気
腹圧を0より25mmHgまで段階的に上昇させた
時の血圧,脈拍数,中心静脈圧,大腿静脈圧,気 道内圧,胸腔内圧を観察している.これによると, 血圧,脈拍数気道内圧,胸腔内圧はやや上昇し, 中心静脈圧,大腿静脈圧は著しく上昇すると述べ, 心拍出量も測定してみたところ,約20%の増加が 見られ,Hodgsonの実験とほぼ同じ結果を得たと 述べている.1972年になり,Motew, Ivankovichi ら38)は,炭酸ガス気腹,ハロセン麻酔にて,気腹圧20mlnHgまで上昇させた群と,30mmHgまで上
昇させた群とで比較している.心拍出量は,色素 希釈法にて測定している.これによると,気腹圧 20mmHgまでは,血圧,中心静脈圧,脈拍数は上 昇し,心拍出量は変らず,気腹圧30mmHgでは収 縮期圧,中心静脈圧,心拍出量は少し減少した. このことより,彼は20mmHg気腹圧時では,腹腔 内血液が心臓に還流するため,30mmHg気性三時 では,下大静脈がやや圧排され静脈の心臓への還 流障害が出はじめ,またこれらに加えて,ハロセ ソ麻酔の心弛制作同,気腹ガスの炭酸ガスの心刺 激作用が働き,上記のような変化を示すのであろ うと述べ,ハロセンを使用しない麻酔,炭酸ガス のかわりに笑気ガスの気腹を行なった実験が必要 としながらも,20mmHg気腹圧以下では問題にな るのは,Vago−Vagal Reflexによる突然の心停止 であると述べている.1976年になり,Richardson ら39>は,犬を使用し下大静脈に血流計をかけて気 下し,循環動態を観察している.それによると, 気腹圧10mmHgでも,心拍出量は低下し,その時 下大静脈血流量も一致して低下した,と述べてい る.1978年Toomasian40)は,正常竹群と,全血の 10%つつの脂血を死ぬまで繰り返し行なった犬群 との20mmHg気腹圧時の循環動態の変化を比較 している.これによると,正常犬では気腹によっ て,血圧は変らぬか,少し低下した.心拍出量は 約20%低下した.脱血犬にて気門をすれぽ,脱血 をすればするほどこれらの変化は強く表われたと 述べている.国内においては,1980年児玉ら41)が, 人における腹腔鏡検査施行時の心電図を解析し, 気腹前と気腹中とで有意な変化はなかったが,中 には徐脈になるものがあり,注意が必要である, と報告している.また1980年上田ら26>は,腹腔鏡施 行時の心エコー図より検討を加え,気腹により心 拍出量は低下,脈拍数は増加したと報告している. 1982年小島ら27)も同じくエコー図によって気腹時 に心拍出量が低下するとの報告をしている. 著者の実験では,気腹に炭酸ガスを使用せず, Room Airを使用したため,高炭酸ガス血症によ る心刺激作用はない.また麻酔はハロセンを使用 していないため,ハロセンの心抑制作用はない. また心拍出量,下大静脈血流量は,電磁血流計を 直接脈管に装着して測定した.しかし開胸し,下 大静脈,上行大動脈に血流計をかけるという大き な侵襲を生体に与えている.一方開胸しているこ とより,胸腔内圧の循環動態への影響ぱ除外し得 ると思われる.呼吸は強制換気を行なっているため,呼吸抑制による換気不全からくる低酸素,高 炭酸ガス血症はあり得ないことは,血液ガス分析 にて明らかである.このような状況下における著 者の実験において,正常犬については,気腹圧20 mmHgまでの変化についてみれぽ,動脈圧は心拍 出量:,全血管抵抗に影響され,心拍出量は循環血 液量,心機能に影響される.著者の実験では,気 腹をすると腹腔内の膨大な血管床に貯えられてい た血液が下大静脈血流量を増大させ,右心房に流 入する.このことは三二により腹腔三下大静脈が 圧迫されることによる下肢よりの血液還流が障害 される事によって減る量をはるかにしのぎ,か えって右心房に下大静脈から流れ込む血液量が増 加している.加えて男腹による腹部以下の血管抵 抗が増大することによって,頭側へ回る血液量が 増大し,中心静脈圧を上げるほど頭側よりの還流 血液量が増大し,右心房へ流入する合計した血流 量は著しく増大し,そのため心拍出量は増大し, 血圧は上昇する.この点では,Motew,1. Smith, Hodgsonらの実験と一致する.だが彼らと異なる 点は,脈拍数が著者の実験においては下っている 事である.当然心への還流血流量が増加すれぽ, Hypervolemic stateとなり,脈拍数は減少しても 良いのではなかろうか,Motewの報告では脈拍数 は82から83へと増加した.1.Smithの報告では 10%位増加したと述べている.1.Smithは実験に て炭酸ガス気腹を行なったが,ハロセン麻酔を使 用せず,Motewは炭酸ガス気腹の上ハロセン麻酔 を使用している.1.smithとMotewの結果がほぼ 同じであったということはハロセンの心抑制の影 響は小さいのであろう.よって著者の実験と前2 者の実験の相違点は,炭酸ガス気腹と,Room Air 気腹にあると考えられる.ここに著者の実験では 脈拍数が減少し,1.Smith, Motewらの実験にお いては脈拍数が上昇した原因がある.おそらく炭 酸ガス気腹によって,高炭酸ガス血症になったた め,心臓が刺激され,脈拍数が多くなったのであ ろう.この点については,著者の実験結果の方が 正しいと思われる.次に脱血の影響については, 脱血状態の人間において三二を行い,循環動態を 観測し報告した例はない.先に述べた如く, Toomasianのみ,脱三三を使って気腹をした時の 循環動態の変化を報告している.彼の実験では, コントロールの次に全循環血液量の10%の予予を 行ない気腹,さらに加えて10%の脱血をし気門を 行なうことを繰り返し行ない,犬が死亡するまで 気腹実験を行ない,その時の循環動態の変化を観 察している.彼の実験によると,正常犬の気腹に て,平均動脈圧は変らぬか,やや低下.肺動脈圧
は14mmHgより9mmHgへと低下.肺動脈懊入圧
は8mmHgより10mmHgへと増加,心拍出量は
15%減少し,脱血犬では血液を30∼50%下血させ ると,平均動脈圧は40∼90mmHgとな:り,さらに 気腹を施行すると,平均動脈圧は20∼50mmHgへ と低下,肺動脈喫入圧は30∼40%増加.大腿静脈 圧は200∼300%増加.心拍出量は40∼60%減少し た.すなわち脱子犬ほど正常犬に比して気腹による変化は著しく表われたと報告している.
Toomasianの報告と著者の報告の間には,多くの 相違点がある.そもそも正常犬の気腹による変化 が異なるため,その延長上にある脱血犬において の事は比較できない.そこで著者の実験のみから推測するに,まず前提条件として,脱血犬は
Hypovolemic shockに陥っていること,また犬の心機能は充分これらのHypovolemiaや,50
mmHg気腹圧時の血管抵抗増大に耐えうるもの
とする.ここにおいて,当腹を開始した場合,0∼30 mmHgの気腹圧の時は,気腹によって腹腔内プー リング血液が押し出され,下大静脈血液量が初期 値以上に増加し,心臓への還流血液量が増大し, Hypovolemic stateが解消され,心拍出量は増加 し,動脈圧は上昇し正常範囲内の動脈圧を維持し ようとし,また気腹により腹部以下の血管抵抗は 増大し,心臓より拍出された血液のより多くの量 が上半身にまわり,それが還流され,中心静脈圧 を上昇させている.又大腿静脈より腹腔の背側を 通過して心臓へ還流しようとした下肢の血液は気 腹によって還流を障害され,大腿静脈圧を高くす る.では気腹圧30∼50mmHgの時では.動脈圧は あまり大きな変動はなく,正常の動脈圧とほぼ一 致してきている.すなわちこの変動の少ない動脈 圧が,Hypovolemiaによる血液のCentraliza一tion,気腹による血液のSequestration,心機能代 償,血管抵抗の増大などによって保とうとする生 理的好ましい動脈圧なのではないだろうか.この ため正常犬では血管抵抗の増大にもかかわらず, 動脈圧を一定に保とうと心拍出量を著しく減少さ せたのとは異な:り,二野犬では,この血圧を維持 するため,心拍出量をある程度増加させているの であろう.それゆえに脱旧記の心拍出量は正常犬 の時ほど低下して来ないのではないだろうか.ま た下大静脈血流量も,心拍出量の低下を防ぐため, Hypovolemic stateのための腹腔にCentraliza− tionした血液を正常犬の時以上に下大静脈に流 出させることができるのではな:いだろうか.すな おち下大静脈血流量の変化は,単に腹腔内圧の上 昇による腹腔内にプーリングされていた血液が押 し出され,また気腹圧が高くなり下大静脈が圧迫 されて血流が遮断されるという機構のみでは説明 できないと思われる.中心静脈圧,大腿静脈圧の 変化は正常犬の場合と同じであった. 以上のことより二二犬においては一般に推測さ れていたように,脱血状態では組織圧も低く,静 脈圧も低くなり,気山により容易に下大静脈の虚 脱がおこり,下大静脈からの血液還流が停止し, 心停止をおこすのではないか,ということは認め られなかった.逆に脱血状態の方が気霜によって, あたかもAnti Shock:trousersを使用したかの如 く循環動態は安定した. 今回の著者の実験によると,正常犬であろうと 脱血犬であろうと,通常我々が使用している気腹 圧18mmbar(13.5mmHg)(自動気腹器はこの圧 を保つ様に作られている)位の気腹圧では重篤な 循環障害はおこらないと思われる.二三犬ではか えって循環動態は安定した.たしかに正常犬,脱 血犬において18mmbar位の気腹の時は,下大静 脈血流量は増大し,心拍出量も増し,血圧は上昇, 中心静脈圧も上昇,心拍数は減少した.通常呼吸 時の気道内圧の変化が主に横隔膜の変移でおこる とするならば,腹腔内圧は常にこの位の圧変化が あると仮定でき,その時に安定した循環動態を 保っている正常人にとって,自動気上器の保つ18 mmbarという気腹圧は,安全圏内の圧と考えら れる.ではどこまでの気腹圧まで上昇させても安 全であるかという議論になると,気腹をされる対 象によって著しく異なってくる.循環血液量の増 大にも充分代償しているという点では,心拍出量 の低下しない範囲までが色々な状況においても安 全域と考えられる.その考えによれぽ,気腹圧20 mmHg程度と思われる.またこの位の気腹圧で充 分腹腔内に可視空間をつくれる事より,安全に回 暦を行なう気腹圧は20mmHg以下と考えられる. 以上のことによりArthureが報告した腹腔鏡 施行時の突然死は,Motewが推測するように,お そらくVago−Vagal reHexによるものであろう. その意味において,術前に硫酸アトロピンを投与 することによって,このNeurological Renexを 防ぐことは意味のあることと思われる. 結 論 腹腔鏡施行に伴う気腹圧上昇の影響について犬 を用い,正常犬と脱二三について各種循環動態お よび血液ガス分析を検討し,次の結論を得た. 1.正常犬では気腹圧の軽度の上昇(10∼20 mmHg)によって下大静脈血流量の増加,中心静 脈圧の上昇とともに心拍出量の増加,動脈圧の上 昇が見られるが,高度上昇(30∼50mmHg)によっ て下大静脈血流量が低下し,中心静脈圧の上昇も 止まり,心拍出量が低下し,動脈圧もやや下降を 示す.脈拍数はあまり変動はないが,大腿静脈圧 は一方的に上昇している.
2.脱血犬では気腹圧の軽度上昇(10∼20
mmHg)によって,正常犬と同じように下大静脈 血流量の増加,中心静脈圧の上昇とともに,心拍 出量の増加,動脈圧の上昇を示し,高度の上昇 (30∼50mmHg)でもこの傾向が維持され,初期の 脱血による低血圧を補う効果が認められた. 3.正常犬,二二犬二間に血液ガス分析に差はな かった. 以上の成績から,通常腹腔鏡施行時の気腹圧18 mmbar(13.5mmHg)では,循環動態としては安 定しており,下血のある場合はむしろ右利に作用 すると考えられる.ただし臨床の実際では患者の 全身状態に問題があるので,全身状態の二重な管 理を配慮する必要がある.稿を終わるに臨み御指導,御校閲を賜った恩師,織 畑秀夫教授に深甚の謝意を捧げますと砦に,懇切なる 御教示を頂いた倉光秀麿元助教授,大地哲郎講師に心 から感謝の意を表します.また実験に際し,いろいろ と御指導,御協力を戴いた実験動物中央施設の方々, 第2外科医局の田村氏に心から感謝いたします. なお,本論文の要旨は,第26回日本内視鏡学会総会 において発表した. 文 献
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