Title
極端にゆるみにくいねじ締結体の開発 (ねじのゆるみ機構と
その防止策の提案)( 内容の要旨(Summary) )
Author(s)
佐瀬, 直樹
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(工学) 乙第002号
Issue Date
1997-03-25
Type
博士論文
Version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/1674
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極端にゆるみにくい
ねじ締結体の開発
ねじのゆるみ機構とその防止策の提案
氏 名(本 籍) 学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与年月日 専 攻 学位論文題 目
佐
瀬
直
樹(愛知県)
博
士(工学)
乙第
2号
平成 9 年 3月
25 日生産開発システム工学専攻
極端にゆるみにくいねじ締結体の開発
(ねじのゆるみ機構とその防止策の提案)
学位論文審査委員 (主査)教 授藤
井 洋 (副査)教 授後藤
準
教 授丸井悦男
論文内容の要旨
ねじ締結体は,締結作業が容易であり・大きな締結力を得ることができ,その ぅぇ安価であるなど多くの長所を有する・そのため・ねじ締結体は,古くからあ らゆる機械や装置に使用されてきた・しかし,ねじ締結体には大きな欠点がある・ それは,外力が繰り返し加わった場合などに「ゆるみ」を生じる危険性をもつこ とである.ねじのゆるみに起因するトラブルは後を絶たない・そのためゆるみの 発生を防止する方法の開発が強く望まれている・そこで本研究では】まずねじ締 結体のゆるみの発生原因,発生機構を明らかにする・そしてその結果に基づき従 来のねじ締結体の長所を損なうことなく,ゆるみの発生を防止できるねじ締結体 の開発を目指した. 第1章では,序論としてねじの歴史的背景,ねじの長所と短所,これまでのゆ るみに関する研究を概観し,本研究の目的を述べた・ 第2章ではねじ締結体のゆるみの発生原因を明らかにするために,種々の外力 をねじ締結体に与え,ゆるみを惹き起こす外力の特定を行った・ゆるみの特軋 ゆるみが進行中の各部の挙動についても詳しく調べ,ゆるみの機構の解析を行っ た.さらにゆるみ機構の解析結果に基づいて,ゆるみ防止性能の評価が簡単にで きるゆるみ試験方法についても検討した・ その結果,ねじ締結体に回転ゆるみを生じさせる外力は,軸方向の衝撃と軸直 角方向の振動であることを明らかにした・特に軸直角方向の振動では,ゆるみが 確実に発生し,その再現性も高いことがわかった・そして軸直角方向振動による ねじ締結体のゆるみは,「ボルトのねじれ」と「座面のすべり」によって惹き起 こされることがわかった.また,本研究で開発した変位型揺動ゆるみ試験ならび -59∬に慣性力型揺動ゆるみ試験は,どちらも機構が単純であり,ゆるみの発生を防止 する性能,ゆるみの進行を防止する性能の評価が容易にできる.したがって,こ れらの試験方法を一般的なゆるみ試験法として提案している. 第3章では,第2章で提案した二つのゆるみ試験法により,市販のゆるみ止め 部品のゆるみ防止性能を調べた.さらに作業性なども含め,総合的な評価を行っ た. その結果,座面型のゆるみ止め部品であるスプリングワッシヤ付きナット,歯 付きフランジナットおよびねじ面拘束型のカバーリング,板ばね付きナット,ナ イロン付きナットは,いずれもゆるみ防止効果がほとんど認められなかった.自 立型であるダブルナッ ト 偏心ダブルナットは,ゆるみの進行速度を低下させる 効果を示した.しかしこれらの自立型の部品は作業性が非常に悪く,ダブルナッ トはその性能が不安定であり,信頼性に欠け,偏心ダブルナットの価格は従来の ナットの10倍以上であるなど多くの問題がある.したがってゆるみを完全に防 止できるゆるみ止め部品は現在のところ見あたらない.ゆるみ速度が遅いことを 重要視し,作業性や締結力が軽視できる場合に限り,偏心ダブルナットが唯一有 効な方法であることを明らかにした. 第4章では,ねじ締結体のゆるみの発生原因,発生機構に基づき,ゆるみ防止 方法を検討した.そしてゆるみ防止を目的とした特殊なねじ形状を考案した.こ のねじ形状の製造方法を検討し,実際に製作した.さらに製作した特殊ボルトの 締結時のねじ山の状態,耐久性などについて詳しく調べた. ねじ締結体のゆるみの発生を防止するためには,ボルトのねじれおよび座面の すべりのどちらか一方を防止すればよい.そこでボルトのねじれを防止するため, つるまき線が階段状になっており,リード角が 00 となる部分を一周に数カ所も
つステップロックボルト(SLB)を考案した.このねじ形状であれぼ,フランク
角にそったすべりが生じてもボルトにねじれが生じず,ねじ締結体のゆるみを根 本的に排除できると考えられる.また,SLBは,従来のねじと同様に転造で製 造でき生産性が高い.SLBは,従来のナットと組合わせて使用し,締結力によ ってステップ形状をナットねじ山に転写する.硬さ 270Hvのナットに対し,硬さ 360HvのSLBを使用した場合,締結力 ukN以上であれば転写が可能であった. 保証荷重,最大締結力,締結トルクはほとんど従来のねじと同程度である.ただ しSLBを同じナットと組み合わせて繰り返し使用した場合には,強度の低下が 見られた.SLB自身には耐久性があるので,組立,分解を繰り返す場合には, ー▼-6(トーナットだけを早めに新しいものと交換する必要がある・SLBは,生産性,強乱 作業性などのいずれをも犠牲にしておらず,かつ従来のねじ締結体とそのまま互 換できるねじ締結体である・以上のように,考案したステップロックボルトは・ ねじ締結体に要求される機能を有していることが明らかとなった・ 第5章では,考案したステップロックボルトのゆるみ防止性能および防止機構 について詳しく調べた.その結果,SLBは,ナット座面ですべりを起こしても, ボルトとナットは全く相対回転をしないことがわかった・つまりSLBは,ボル トのねじれを完全に防止できる.そして,最大締結力の約砧%である1馳N以上 に締結すれば,初期ゆるみ後ゆるみが進行せず,ゆるみの発生を確実に防止でき る.再利用を繰り返しても,ゆるみ試験を継続してもゆるみは発生せず,ボルト が破断するまで締結力を維持できる.したがってステップロックボルトは,ねじ 締結体の長所を何ら損なうことなく,ゆるみの発生原因を根本的に排除した理想 的なねじ締結体であるという結論に達した.
論文審査の結果の要旨
上記の申請論文は、ねじ締結体が常に「ゆるみ」を生じる危険性をもつことに注目し、 ゆるみの発生を防止できるねじ締結体の開発を行なったものである0論文の内容について慎重に審査した結果、本論文は以下の点で顕著な独創性をもつことを確認した0
第2草「ねじのゆるみの発生機構とゆるみ試験法」では、ねじ締結体に回転ゆるみを生 じさせる外力は軸直角方向の振動であり、これ以外の外力ではねじはほとんどゆるまない ことを明らかにしている。また独自の観察方法を用いてゆるみの機構の解析を行い、ねじ 締結体のゆるみは「ボルトのねじれ」と「座面のすべり」によって惹き起こされることを 示している。これは、従来明確に認識されていなかったゆるみの要因を始めて明らかにし たもので、高く評価できる。 さらに上記のねじのゆるみの機構の解析結果に基づいて、変位型揺動ゆるみ試験ならび に慣性力型揺動ゆるみ試験を一般的なゆるみ試験法として提案しているQこれらは,いず れも機構がきわめて単純であり,ゆるみの発生を防止する性能・ゆるみの進行を防止する 性能の評価が容易にできるという優れた特徴をもつものと認められる。 第3章「市販ゆるみ止め部品の評価」では、市販のゆるみ止め部品のゆるみ防止性能を 評価した結果が詳細に報告されている○その結果、従来ゆるみ止め効果があると信じられ てきたスプリングワッシヤ付きナット、歯付きフランジナット、カバー・リング、板ばね 付きナット,ナイロン付きナット等はいずれもゆるみ防止効果がほとんど無く、「現在の一61-ところゆるみを完全に防止できるゆるみ止め部品は見あたらない」として、工業界に対す る重要な警鐘を与えている。 第4章「非常に高いゆるみ防止性能を有するねじ締結体の開発」では、ゆるみ防止を目 的とした特殊なねじ形状を考奏し、発表している。著者は、ねじ締結体のゆるみの発生を 防止するために、ボルトのねじれを防止する意図をもつ新しいねじ形状を提案している。 これはねじのつるまき線が階段状になっており、リード角が00 となる部分を一周に数 カ所もつねじである。これをステップロックボルト(SLB)と命名し、このねじ形状であれ ば、フランク角にそったすべりが生じてもボルトにねじれが生じず、ねじ締結休のゆるみ を根本的に排除できる筈であると主張している。 第5章「ステップロックボルトのゆるみ防止性能の評価」では、考案したステップロッ クボルトのゆるみ防止性能および防止機構についての詳細な検討結果がまとめられてい る。その結果、(i)SLBは,ナット座面ですべりを起こしても,ボルトとナットは全く相 対回転をしない、(ii)最大締結力の約65%以上で締結すれば,初期ゆるみ後ゆるみが進行 せず、ゆるみの発生を確実に防止できる、(iii)再利用を繰り返しても,ゆるみ試験を継続 してもゆるみは発生せず、ボルトが破断するまで締結力を維持できる等の優れた特性があ ることが明らかにされている。このことから、「開発したステップロックボルトは、ねじ 締結体の長所を何ら規なうことなく、ゆるみの発生原因を根本的に排除したという意味で 理想的なねじ締結体である」という結論は妥当であると考えられる。 以上、本論文はねじ締結体のゆるみに新しい知見を与え、独創的なねじ形状を考案し、 それがねじ締結体のゆるみを根本的に排除できることを示すことに成功しており、学位論 文として十分な内容をもつと判断された。