根源的mustについて : 現代アメリカ英語における 用法分析
著者 渡辺 宥泰
出版者 法政大学教養部
雑誌名 法政大学教養部紀要. 外国語学・外国文学編
巻 61
ページ 35‑57
発行年 1987‑01
URL http://doi.org/10.15002/00004565
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根源的mustについて
-現代アメリカ英語における用法分析一
渡辺宥泰
Iはじめに
1.1.法助動詞mustについては,辞書や初学者向けの文法書を別にして もすでに膨大な量の文献がこれを論じている。加えて近年に至っては,変形文 法の様交な枠組象を始め,「様相論理学」や「語用論」といった概念に記述の 基盤を求める新しい視点に立った論文が多数提出されている。これらはいずれ も意味上,統語上の特徴に関して多くの有益な情報を提供してくれるのである が,mustの意味・用法には依然として解明されていない点が残されているよ うに思われる。それが何であるかは,英語を母国語としない我々が,haveto との使い分けを完全に行えるかどうかを考えれば自明であろう。厳密な意味で の同義語が存在しないとするなら,母国語話者には直観的に理解されているは ずの両者の意味の違い,それぞれの持ち味が意識的な説明としては十分に捉え られていないのである。筆者の目的はこの捉え難いmustの意味特徴を検出 し,合わせてその妥当性を論じることにある。なお,今回の考察では対象を主 に根源的用法に絞って論を進めることを予めお断わりしておきたい。
Ⅱ資料
2.1.本稿で用いられる資料は,表〔’〕に示すようにすべてアメリカで発 表された作品である。副題に「アメリカ英語における」という限定句を付した のはその点を踏まえてのことであるが,これはアメリカ英語とイギリス英語と の間で,mustの意味に違いがあることを示唆するものではない。両者間の違 いについては,論証に足りるだけの資料がまだ用意されていない。「アメリカ 人は滅多にmustとは言わず,ほとんど常にhavetoないしhavegotto
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と言う」とのMencken(19364:p443)の言葉は確かに-面の事実を伝えて いる。Bouma(1975:p、324)にも同様な指摘があるし,Fries(1940:p、
177&pl81)の調査もこれを裏付けているように思える。さらに,筆者が
12編の戯曲・映画シナリオについて行った集計結果(渡辺1984:p、34)から も根源的mustの相対的な使用頻度の低さが理解されよう(表〔2〕参照)。ただここで注意すべきは,話し言葉ではあまり用いられないとしても,それは あくまで全体傾向でしかないという点である。総計では,根源的mustの出現 率は現在形のhaveto,havegottoそれぞれの1/3に過ぎないが,個々の作 品に目を向けると,70年代の3作品のように一度も用いられないこともあれば,
逆にToysやWbo〃のようにhavetqhavegottoの出現数を凌ぐものも ある。また,表〔2〕にはあげていないがHemingwayの0J‘jMtz〃では現 在形haveto8例に対して(havegottoの例はない),根源的mustは57 例にも上り,しかもそのほとんどが直接話法や自由間接話法の中に現れる。こ のような事実は一般的な傾向は認めるとしても,作風により,またその作品が 扱う内容いかんではmustの多用も必要になることを物語る。一方イギリス英 語におけるmustの出現率については,十分な統計資料がなく断言はできない が,mustがhaveto,havegottoに比べて特に少ないとの指摘はどの研究 書中にも見当たらないloPalmer(1979:p、94)は,口語でもごく普通に用 いられると述べている。以上の点から,アメリカ英語では特に話し言葉におい てイギリス英語と比べ,mustの使用率が低いらしいということは窺い知るこ とができる。それが,havetoやhavegottoにmust本来の意味領域を侵 されつつあるためなのか2,あるいはそこでは人々がmustの意味を表現する 機会が社会慣習的に少ないためなのか,どちらであるかは分からない。いずれ にしても,そのことが直ちにイギリス英語の意味・用法と相違があることを示 す訳ではない。むしろ,米英を問わずなんらかの意味を表すためにはmust を用いざるを得ないという事実の方が重要であろう。したがって,本稿では一 次資料としてはアメリカ英語を用いるが,イギリス英語についてなされた諸家 の研究も積極的に援用するし,またそうしてよい根拠もあると考える。
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Ⅲ諸家の見解
3.0.本論へ入る前に従来の研究成果をここで整理しておきたい。Mustの 意味については様点な特徴が指摘されているが,その多くはほぼ次の二点に集 約できるのではないかと思われる。
3.1.話者指向性(speakerorientation):Mustを含む文が何らかの義務 を伝える時,その義務はその文の話者が課すものだという。つまり,話し手が 権威者となって聞き手に行為の実行を迫っているのである(Leechl97Lpp、
71-72,QuirketaL1985:p、225)。これは,「発話行為」(speechact)
の視点から言えば,「要請」(request)という発語内行為(illocutionaryact)
を遂行していることになり,概略“Iorderyoutodo...,’という形にパラ フレーズできるとされる。この意味特徴は談話指向的(discourseoriented)と も遂行的(performative)とも呼ばれるが(cfPalmerl9742:p、100&p、
121)3,多くの文法家が指摘するように,少なくとも典型的な例に関する限り,
このような意味合いがあることは間違いないと思われる4.しかし,すべての 用例がこれに当てはまるかどうかは議論の分かれるところであろう。Leech (1971:pp71-72)は入門書という色彩があるせいか,専ら話者指向一本で片 付けているが,例外も認めるなど,より慎重な立場をとっている研究家も多い。
Palmerは,当初havetoと相互交換が可能な脈絡があることに軽く触れた だけであるが(19742:p,122),後になると,話者の関与が全くない場合にも mustが用いられると明言している(1979:p、91)。彼は,必要を3種に分類 した上で,強制源が明らかに外部にある場合にはhave(got)toしか用いら れず,また純粋に話者指向的な時にはmustの象であるが,中間的な場合に は両者が重なり合うと述べている(p、93)。これによれば,mustは積極的に 話者指向的なのではなく,むしろ外部指向的ではないというprivativeな特 徴を持つと言える。また,Coates(1983)は「話者指向的」に代えて「主観 的」(subiective)という用語を用いるが,mustは最も主観的な遂行的用法 から客観的(objective)な,つまり話者が全く関与しない用法までの無段階 に延びた広い意味の領域をカバーするという(pp、32-37)。そして頻度は低い ものの客観的義務を表す場合には,havetoとのオーバーラップがあるとす る(p、55)。Havetoとの置換性については他にもKruisinga(19315:Ⅱ
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pp、478-79),Schibsbye(19702:pp82-83),swan(1980:§394)等が指 摘している5.しかし,そのほとんどが「時には」とか「場合によっては」と かのカッコ付きであることに注意されたい。
3.2.共鳴性:mustの使用には話者の共鳴が感じられるという。Larkin (1976:p392)によれば,(1)には話者自身が帰宅という義務に賛成している 響きがあるが,(2)はその点について無色であるという。
(1)AIicemUstbehomebyten.
(2)Alicehastobehomebyten.
したがって,Ithinkit'sidioticという文を付加した場合,(4)は問題な・
いが,(3)は非文となる(Lakoffl972b:p、925)。
(3)*A1icemustbehomebyten-Ithinkit'sidiotic.
(4)Alicehastobehomebyten-Ithmkit,sidiotic.
これは,mustの「共鳴」の含蓄と意味の矛盾を引き起こすためと思われる。
Thomson&Martinet(19803:p、126),中野(1984:p、8)にも同じ趣旨 のことが述べられ,強制源が外部にある場合でも(Cf、3.1.列話者がそれを
「支持している」気持ちを示したい時はmustを使うことができるという。
3.3.これらの二つの特徴について,無論,反論や疑問もないわけではない。
強制源を話者の周囲の状況に求めるEhrman(1966:p67)の態度は「話者 指向的」とは相反するものであるし,Ota(1972:p,44),Perkins(1982:p、
260),Huddleston(1984:pl68)等には話者指向的でない用例も報告されて いる6.また共鳴性に関しても,Bouma(1975:p、325)等は上述とは異なる 説明を与えている。しかし,大筋としてはいずれもほぼ合意の得られた事実と 言ってよいかと思われる。よって,もしmustの意味・用法について何か体系 的な説明が可能とすれば,それは同時にこれらの特徴をも満足し得るものでな
くてはならない。
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Ⅳ「義務・必要」以外の含みについて
4.0.根源的mustが義務・必要の概念を表していることは間違いないが,
実際の用例においては,他にも様盈な意味が含み・ニュアンスとして同時に伝 えられている。そこで本章では,このような付随的な意味の違いにより,must の用例をいくつかの用法に整理してゑたい。これから取り扱う含みには多種多 様なものがある。Mustに本質的意味として内在しているものも,用いられる 脈絡-いわゆる文脈だけでなく話者を取り巻くすべての関連要素を含めて
-に由来すると考えられるものもある。あるいは,狭義の意味論の考察対象 も,語用論で扱われるべきものも視野に入って来るものと思われる。しかし,
ある特定の含みがどれに属する意味要素であるか,I唆別することは決して容易 ではないし,ここで筆者の意図するところでもない。一見,種を雑多に見える 含糸の中に何か共通項が見出されれば,それは少なくともmustの中心を成す 意味一意義素(sememe)と呼んでも意義核(core-meaning)と呼んでも
よいが-と密接な関係があるのであり,それこそ求めるmustの意味特徴の 一部に違いない。なお,本稿では以後mustに伴う含承・ニュアンスを『
』に入れて示すことにする。
4.1.Mustは「~しよう」とか「~するつもりだ」といった話者の能動的 な『意志』の含象を伝えることがある。例えば(5)の発話状況を考えてみよう。
(5)<電話の交換手に向かって>TellMr、WarkinsthatLilyBer‐
niers,LilyPrme,mustspeaktohimimmediatelyanddoesnot wishtobekeptwaiting.(Hellman,Toys,282)
若妻が夫の密通を知る。ところが,その相手の夫は暴力団と交際のある粗暴 な町のボスと分かる。慌てた新妻は,実家が名士であることを利用して,その 誤スに直訴しようとする。このmustにはどうしてもすぐに話がしたいという 積極的な気持ちが感じられる。大切な夫の身を案じる妻の居ても立っても居ら れない思いが背景にある。また,(6).(7)は自殺未遂の息子の扱いに悩む父 親の独白である。
」
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(6)<自由間接話法>Goodmannershavenothingtodowith communication,hemustrememberthat.(Guest,PmPJe,8)
(7)<自由間接話法>StaycalmKeepitlight・Trynottolean、
Abalancemustbestruckbetweenpressureandconcern.(Ibid.,
9)
いずれも,息子の日点の行動を心配し父親として進んで留意しようとの響き
がある。この用法のmustは「意志」のwillとオーバーラップするところが ある。単にある行為の必要を述べるだけではなく,それを現に積極的に実行し ようとしている点である。大江(1983:p,7)のあげる(8)の例を見ると,will とmustの交替が容易に起こり得ることが理解される。(8)“...’'1lcatchHalbeforehegetstotownand’'1ltellhim.”
Rayranclumsilyandoncehestumbledandfelldown.“Imust catchHalandtellhim,,,hekeptthinking,...(Anderson,Lje,
204)
『意志』の含糸がさらに強まると『固執』となり,「絶対に~する」とか「断 固として~する」の意味合いが生じる。(9)は夫婦喧嘩をして別居中の妹を姉 が霧める場面である。絶対に謝ったりしない,と言い張るところに不満の鯵積
していた妻の意地が感じられる。
(9)LoTTIECallupRubinandaskhimtocomeback、Beghimto comeback,ifyouhavetogetdowlronyourknees・
coRAImustn'tdothat,Lottie.(Inge,DUzrh,276)
一方,(10)では陸軍病院で働く若い娘が,承だらな誘いをかけられて思い悩 んでいる。男女の交わりについて,話だけでも身をこわばらせてしまう彼女に とって,これは全く衝撃的な事件である。「絶対に忘れてしまおう」と強く自 分に言い聞かせているのである。
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(10)<自由間接話法>Shemustn,tthinkaboutit,shemustn,t
thinkaboutit・ShewouldcaUtheColoneltomorrowandask tobetransferredtoanotherblock.(Shaw,Rjcハハ化,0,31)
『意志』の含承はまた,強い『願望』の含糸に近付く場合がある。(11)にお いては,隣人の部屋がきれいになったと聞き,是非のぞいてぷたいと思う積極 的な気持ちがmustにより効果的に表現されている。「しなければならない」
といっても,社交上の義務だからするとか,やむを得ずするなどという性質の ものではない。
(11)LOLA(A”γeciα""gfhjs)Ifixedupthelivingroomalittle,
too・
MRS・coFFMANImustseeit.(Inge,She6a,45)
以上見てきたように,話者の『意志」を伝えるmustは平叙文では必然的に 一人称の主語を持つ7。無論,自由間接話法の場合〔Cf.(6),(10)〕や,受動 化されている場合〔Cf.(7)〕はその限りではないが,それとて深層的にはやは り主語は話者である「私」である。これは,話者が意志を働かすことのできる 対象は,自分が行う行為以外にはあり得ないという当然すぎる理由による。
4.2.Mustが『命令』を表すことはすでに多く指摘されている。その最も 強いものは“Iorderyoutodo...',に平行する遂行的用法であり(Cf、3.1.),
筆者の資料では(12)~(14)が比較的これに近い例と言える。
(12)<母親が娘に>YoureallymustcometothetableWewon't beseateduntilyoucometothetable1(Williams,GJczss,83)
(13)<夫のひわいな言葉を聞いて妻が>Dear,youmustn,t、.、you mustn't、.、youmustn,t6(Albee,WM(69)
(14)<確執する夫が妻に>Youmustnotcalleverythingalie,Mar‐
tha.(Ibid.,199)
しかし,このような一方的で強い命令を伝える機会は現実にはあまり多くな
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さそうである。現代社会では個人は互いに平等なしのとされており,や糸くし に権威を振りかざして他人に命令することは許されないからである。これが認 められるのは通例,家庭内や学校などごく限られた状況であろう(cfCoates l983:p、38)。しかもそれらの場合でも,自己中心的な命令はまれで,相手を 思いやる気持ちから生まれたものが多い。
(15)<大人が子供に>NC,Sonny・Youmustn,teveractlikethat.
(Inge,DCJ戒,273)
(16)<母親が子供に>Sonny,youmustn,tcomecrawlingintomy bedanymore、Iletyoudoitlastnight,butIshouldn,thave.
(Ibid.,289)
(17)<大人が子供に>Youmustnotstayunderthere、1t,svery wet・Comeinside,child,anddryyourselfout.(Hellman,Wmm",
28-29)
いずれも言葉はきついが,心は優しいmustである。(15).(16)は子供を愛 するがためのしつけであり,(17)からも不偶な子を見て放っておけない話者の 優しい心が伝わって来る。以上の例は大人から子供への思いやりのある命令で あるが,これが大人同士の会話になると,『命令』の意味はほとんど消えてし まい,『忠告』または『助言』といったニュアンスに近くなる。
(18)Mother,youmustn'texpecttoomuchofLaura.(Williams,
GJZzss,65)
(19)They,llprobablyreportmemissing,Iftheydo,Iwantyou toknowthatyoumustn'twaitforme.(Miller,so"s,126)
(18)はこの劇の語り手でもある息子が,母親の独りよがりの期待を戒めてい るところである。期待をかけすぎると落胆も大きいから,と母親を思うが故の 忠告である。この劇の悲劇はこの忠告を無視したことから始まると言ってもよ
く,その意味ではこのmustは重要なキー・ワードとなる。(19)は,不帰を覚 悟した兵士が恋人に残した手紙の一部である。自分を待って一生を棒に振るこ Hosei University Repository
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とばないと訴える裏に恋人に対する深い愛情があるのは言うまでもない。この 種の思いやり用法で重要なことは,話者が聞き手のためになると考えて行為を 強制(あるいは禁止)している点である。ここから,Lakoff(1972b)の言う 敬語用法までは僅かな距離である。例えば,パーティーで客に菓子を勧める際 には,Youmusthavesomeofthiscake.というようにmustを用いるのが 股も丁寧とされる(p910)。これについてLakoffは,聞き手に不`決な行為 を求めるということがmustの文字通りの意味であるが,そこには一種の卑下 があり,「お嫌でしょうが~してください」の意に解釈されると説く(pp、911- 14)BoPalmer(1979)はこれに対し,主人が客に食べ物を勧めるのは社会慣 習上の義務であり,mustはこの義務の反映に過ぎず,丁寧な含糸を言語学的 に説明する必要はないとする(p、170)。筆者はいずれの解釈も全面的に否定 するつもりはないが,むしろ,相手に対する思いやりの含承を第一義と考えた い。美味しいケーキであると自負しているから,つまり相手にとってプラスに なると信じているからこそ勧めているのだという点を重視したい。大江(1983:
P8)の言うように,物を勧めるのに元来強い強制の表現であるmustを用い ることには一種の誇張がある。「強く主張するのは,あなたの利益を親身にな って考えているからですよ」との含蓄があり,そこから丁寧な響きが生まれる とは言えないだろうか。類例を二つあげておく。
(20)Youmustcomeandvisitme.(Shaw,RjdM`α",51)
(21)Youmustseethishouse,dear..、thisissuchawonderfulold house.(Albee,WM(42)
さらに,次のような非礼を詫びる用法にも同様な説明が当てはまると思われ る。
(22)<客の前で自分がはしたない格好をしているのに気付き>Oh,my goodness.(Sノbeオ”"szzoucZyα"。〃〃"0秘slyb”′0"s〃〃。”ss)You mustforgiveme-(Hellman,Toys,221)
このmustにもやはり誇張が感じられ,「許してくれるよう要求するのは,
■
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心底申し訳ないと思っているからです」の意を伝えている。これも聞き手を思 う気持ちから生まれる強制には違いない。以上,文字通りの命令用法から思い やりの気持ちに根差した用法まで,意味の持ち味には多少の違いはあるが,聞 き手を強制して何かの行為を果たさせようとする点では同じであり,主語は二 人称を原則とする9。もっとも,(23)のように間接話法では視点の移行により 他の人称に変化することもあるが,これはあくまで表層的な現象であると言え
よう。
(23)Inanycase..、whenlcalledherehetoldmeyou'djoined theForce・AndIsaid-hemustn'tpermityoutodoathing likethat.(Miller,Price,97)
また,(24)では三人称主語の形をとっているが,この掲示が画廊から客一人 一人への呼び掛けであるとすれば,結局「(客である)あなたは……」という のと同じであり,実質上二人称に等しい。
(24)NoTIcE(inanartgallery):Visitorsmustleavebagsand umbrellasinthecloakroom.(Thomson&Martinetl9803:p、
127)
4.3.これまで見てきた用法はいずれも話者が直接義務を課するという話者 指向的(Cf3.1.)な特徴を兼ね備えていると言える。ただし,これは一人称 主語の場合を話者の自分自身に対する強制,つまりLeech(1971:p、72)の 言う「自己強制」と解釈するとしてである。しかしすでに触れたように,少な くとも文字通りの意味では話者指向的とは解することができないmustも確か に存在する。例えば,(25)を例にとって梁よう。
(25)Manysavagetribeshavealawthatpeoplemusteatalone,
insilence、sensible,is、,tit?(Hellman,Toys,219)
、静かに食事をするように強制しているのは,未開部族の徒ないし,その提を Hosei University Repository
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定めた名も知らぬ人々であり,話者はそのような義務の存在を伝えているに過
ぎない。ただここで重要なのは,単に無色に,つまり自分の意見や感情を一切 交えずに伝えているのではない点である。次文に「賢明だ」とあるように話者
はその義務を肯定しているように見える。また,(26)についても,何があって も興行を続けるという決まりを制定したのは話者本人ではないが,「立派な伝統」と述べているように,話者はその義務に同意し,役者魂に尊敬の念すら抱
いているのである。
(26)There,safineoldtraditionmthetheater:Theshowmust goon、Youknow,evenifyougotpneumomaoryourbaby's dying,youstillputontheshow.(Vonnegut,Te”がafjo",77)
これらのmustには話者の「賛意」が内包されていると考えられ,それは先 に指摘された「共鳴性」(Cf3.2.)と同じことである。この賛意は具体的に は「~しなければならないのは当然である」という『当然』の含糸として現れ ている。次例で,mustがshouldに置き換えられている点に注目されたい。
これにより「当然」のshouldと意味が近接していることがわかる。
(27)Onemust,oneshould,payfametherespectitdemands,or leaveitaloneandfindsomeplaceelsetogo.(Hellman,Wb”α",86)
4.4.ところが,論文などの記述によく見出される次のようなmustには注 意が必要である。
(28)Inordertomeettheirneeds,peoplemustdevisewaysof dealingwiththeirenvironmentsoastogetfood,clothing,and shelter.(Brown,C""”es,5)
この用例には(25).(26)のように話者の賛意を明示する語句が付加されてい
ない。さらに,「衣食住を満たすべく,周りの環境に対処する必要」はまずだ
れが撃ても正しい論である。このため,一見したところ,全く話者の関与がな
エ
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い無色の必要表現であるかの印象を受ける'0゜だが,伝えられる内容の真偽が 客観的にも保証されているというだけであって(そもそも読象手が全く納得し かねるような独善的な主張では論文とは成り得ないであろう),必要に対する 話者の気持ち-『当然』という意識は先に見た例の場合とさほど大きな差が あるとは思えない。ただ,事実関係が客観的に明らかであるため,客観的必要 を示すhavetoと入れ替えても全体の意味が大きく変化したような感じはし
ないであろう'1.
4.5.このように義務を当然視する傾向は,卜謹に見られるmustにも通ず るところがあると思われる。作家は自分の作品における登場人物の言動に対し て責任を負う立場にある。ストーリーの展開上,ひいては自分の世界を創造す るためには特定の人物が特定の行動をとることが要求される。戯曲の場合,役 者が設定された行為を行うことが絶対に必要なのである。その必要は作家自ら が認めたものであるから,疑問や反駁の余地はないはずであり,積極的肯定の
姿勢があると考えられる。(29)RosEMARY(砥''0"eけりoj“”"sノノe〃α机α〃s〃eisj"。"e"CIC"'
〃ルノ”seemstomeyoumighthaveleftyourcoaton.(Inge,
Pic減c,107-08)
(30)O飽妨e/2Jγγ妙/,do2(wsfai病,isメカCO"fsi`Ce"fjTz"Ce,”ノノルα
”〃/hzz"z(ノZZyo"e沈卯sfgDノルァozdgノbbぴり”CO亦如gj"toノルcノガzノガ"g
γ00籾.(Inge,、[z雄,225)例えば,(29).(30)に示される「自立した女であるような口振り」・「居間
に入るにはホールを通ること」は劇を成り立たせる上で当然必要なことである。ここで無色の強制表現であるhavetoを用いると,自ら構築したストーリー
の展開に積極的な思い入れがないような印象を与えかねないであろう。なお,
2.1.にあげた12の戯曲に関する限り,ト書におけるmustの出現率はhave (got)toより高い。すなわち根源的must7例に対してhavetoは4例で あった(havegottoの例はない)。しかし,卜謹には様斉な内容が盛り込ま れており,作家によっては単なる状況説明や配役の演技指示といったものにと どまらず,(31)のように登場人物の立場に立ってその心理を描くこともある。
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49
(31)MEIGHANhes"αjes.Tノbe〃decideshc籾泌stszuaJJozu肱is〃z↓伽jJjα/jo"、
Theだ,s〃Cl〃j孵elseノbrhi”'0.0脚"`erf〃ecjjRc泌加sfa"CCS・碇 e”た.(Williams,az6y,80)
確かに,登場人物の心理中の義務と言えども,それは作家が設定したもので ある以上,『当然』の含糸と無関係ではないが,(29).(30)と全く同列に扱う には疑問が残る。またhavetoでなければ表しょうがない意味もある。例え ば,(32)のように人体の機能や生理的欲求が強制源になっている場合には mustは用いられないとされる(cfLarkinl976:p、393)12。
"αが形st s"'29,α/Zoqys
'ogzzsp九「
(32)I)zher〃"gSPeec〃CSS〃ehasメカe〃0mノfrjdbs dcJj"eγi狐gαノノ如酒jcaノCノba"',オノbe〃"esα”αJ"osf co""""j10gaノノノノルbejノomherb”α'んsosheハas α"0ビル〃.(Williams,Cat,17)
したがって,これだけの資料からト書ではmustが多用されるとの一般論を 導くのは早計であろう。ただし,ト書にmustが現れた時には作者がその義務 を当然視していることが多いとだけは言えそうである。
4.6.『当然』と思う気持ちがさらに進むと,『必然』の意識に近付いて来 る。「必ず~することになる」という含みであり,(33)のmustには,「事実 はどうしても直視せざるを得ないが」ないし「必ず直面するものだが」の意味 が感じられよう。
(33)Dependingupontherealityonemustface,onemaypreferto optforillusion.(Guest,Pb”ノe,86)
『必然』は時に陳述緩和的用法との区別が難しくなる(Cf2.1.表〔2〕備考
*1)。(34)は,「必ず滅亡する」とも「滅亡するに違いない」とも訳すことが できよう(Cf・石橋1960:pplO7-O9)。
(34)Andthewest,encumberedbycripplingalliances,andbur.
ど
50
denedwithamoralitytoorigidtoaccommodateitselftothe swingofevents,must..、eventuaUy..、fall.(A1bee,WM(174)
しかし,これは日本語の問題であって,要は話者が「滅亡は確実に来る」と 見なしていることである。「必ず~する」とは結局は「違いない」の裏返しで ある'3.筆者は根源的用法と陳述緩和的用法に分類することの価値を否定する つもりは毛頭ないが,両用法の区別は元来便宜的色彩を持つものであり,現実 にはその境界線上に位置する例も多数存在することを忘れてはならないと思う。
VMustの意味特徴
5.0.以上,根源的mustに付随する含設・ニュアンスについて考えてきた
が,無論これでmustの表す含糸のすべてを網羅した訳ではない。この他にも
脈絡によって様々な意味の持ち味が伝えられよう。また,これまでおのおのの含ZAをある程度独立して取り扱ってきたが,実際の用例では複数の含承が同時 に認められることも珍しくはない。これはすでに4.0.で断わったように,含 み同士が厳密に相補的ではないので当然予測されたことである。例をあげれば,
4.3.で扱った『当然』の含象は程度の差こそあれ,おそらく他のすべての含承
に関係するものと思われる。しかし,本章ではこれ以上含承を指摘分類するこ とは避け,すでに見たものを総括し,それを手掛かりにmustの意味特徴を検 討してゑたい。5.1.さて,それぞれの含承を対照してまず注目されるのは,いずれも話者 の心的態度を反映したものであるということである。しかも,意志・固執にし ても,忠告・勧誘の根底にある思いやりの気持ちにしても,それらは極めて主 観的な意識であって,客観的真偽に係わる種類のものではない。Havetoが 話者の心情を交えずに単純に義務を伝えるものであるとすれば,義務・必要以 外にこのような主観的な気持ちを随伴している事実はmustに特徴的なことと 言えそうである。この点を踏まえて,両者の相違は結局次のように説明できる と思われる。Havetoについて言えば,様点な理由により我々はある行為が 必要であると認識する。(35)を例に考えると,10時までに帰らねばならないの
は「夜遅くは危険だから」なのかも知れないし,「女子寮にでも住んでいて門
限が10時」なのかも知れない。
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51
(35)=(2)
(36)=(4)
(37)=(3)
Alicehastobehomebyten,
Alicehastobehomebyten-Ithinkit'sidiotic.
*A1icemustbehomebyten-Ithinkit'sidiotic.
いずれにしても第三者には必ずしも明確に特定できない場合もあるが,少な くとも話者当人はなんらかの客観的理由(と考えているもの)を認識した上で,
それを根拠としてある行為を行わないと不都合なことが起きると考え,「必要」
との判断を下しているわけである。必要との判断は他ならぬ話者が認めるもの であるから,厳密に言えば,そこにもすでに広い意味での法性(modality)
が混入していることも否定はできないが,むしろ理由から帰結された「結 論」と見なすこともできよう。そしてhavetoの特徴は,必要を論理的判断 として述べている点にあると言える。つまり,話者は自分なりとはいえ,必 要を論理的に導き出されたものとして伝えているのである。その意味では,
Lakoff(1972b:p925)が示唆するように,havetoがmustと同じ程度に 法的であるとは言い難い。(36)は,論理としては必要であるが,話者の個人的 な気持ちとしては賛成しかねる,という極めて人間臭い感情を表している。
Leech(1971:p72)は陳述緩和的havetoを論理的必然性を表すとしてい るが,この「論理的」という修飾部は根源的havetoにもそのまま通用する ものと思われる。これには,havetoが統語上助動詞化していないことl4,さ らには,haveは元来「持っている」というある程度客観的に検証可能な状態 を示す動詞であることも関係があろう。これに対しmustの場合には,その必 要性を支えているのは,「規則」とか「仕事」といった話者の外部にある客観 的な基準ではなく(Cf・注11),話者の個人的で主観的な感情である15。そして,
本稿で論じた数との含染はこれが具現化したものに他ならない。一人称主語の 場合で言えば,話者が「~しよう」と決意し,また「~したい」と切望するか らこそ強く必要が意識されるのである(Cf4.1.)。一方,必要の判断が他人の 行為に向けられる時には,「~するべきだ」とか「~したほうがよい」という 気持ちが背後に存在している(Cf4.2.)。そして少なからぬ場合,後者の主観 的な感情に重心がかかってしまい,必要との判断に至るまでの論理的筋道がぼ やけてしまっていることがある'6。「理屈などどうでもよい,この私が必要と 感じているのだから,とにかくするのだ」といったように感情の高ぶりを伝え
□
52
るのにはhavetoよりmustが適切であろう17。(37)が非文になるのは,
mustを用いた根底にあるはずの『当然』の気持ちが,すぐさま他ならぬ自分 自身によって否定されるという矛盾が起きているためである(Cf3.2.)。
5.2.ここで3章で掲げた二つの特徴との関連をもう一度確認しておきたい。
まず,共鳴性は,すでに4.3.で触れたように『当然』の含承と表裏の関係に あり,『当然』が他のすべての含糸に通じると思われるので共鳴性も保証され たことになる。具体的に言えば,一人称で『意志』・『固執』等を表す用法では,
「~しよう」という積極的な気持ちがあれば,当然その行為の必要を肯定・支 持する結果となろう。『思いやり』を含む二人称の各種の用法についても,聞 き手の利益を考えて,あるいは一方的な命令であれば自己の満足のために義務 を課すのであるから,そこには強い共鳴があるはずである。他方,話者指向性
に関しては,“Iorderyoutodo...”にパラフレーズ可能なmustはこの 特徴を有しているが,すでに見たように遂行的でない,つまり直接の強制源が 話者には求められないmustも明らかに存在している(Cf3.1.&4.3.)。し たがって,「話者指向」を遂行性という意味に解釈する限り,それをmustの 基盤を成す意義特徴と見ることはできない。しかし,mustの伝える義務・必 要の背景には必ず話者の感情的な含承があるので,それを話者の心的な関与と 考えることもできよう。そして「話者指向」の意味を拡張し,このような関与をも含めるとすれば,すべての用例にあてはまる特徴となろう。ただその場合,
話者の関与とは結局は必要性の共鳴につながるのであるから,その意味では話 者指向性と前述の共鳴性は本質的には同じ特徴を視点を変えて見ているとも言
える。
5.3.このように,論理的haveto対感情的mustという図式はすでに知 られた意味特徴と矛盾しないというだけではなく,いくつかの統語的特徴にも 解明の手掛かりを与えてくれる。例えば,mustにはhadtoにあたる過去時 制形が欠けているが,単に慣用上認められないというだけでなく,これには意
味的な裏付けもあると考えられる。現在から過去を振り返りhadtoを用いて,
「しなければならなかった」と発する時,一定の期間を隔てたことにより客観 的な見方が生まれているとは言えないであろうか。ある行為について〆行われ
た時の状況や事情を冷静に考え合わせてび論理的帰結として「必然であった」
と判断しているのである。一方,mustには「どうしても~する」とか「是非 Hosei University Repository
53
~しなさい」といった気持ちが随伴していることはすでに述べたが,これらは 眼前の行為に向けられるものであり,すでに完了してしまった行為に対して,
そのような感情を抱くことはない。このことは遂行的用法を念頭におけば自 明であろう。過去に対して「要請」を行うことはあり得ないからである(Cf Palmerl979:p、67)。また,過去時制が要求される脈絡ではmustは用いら れないが,例外的に被伝達文においてはそのまま過去形として使用できるとさ れる。この現象についても,意味の上からその妥当性を論じることができよう。
だれかの語った内容を最も忠実に伝えるには直接話法がふさわしいが,間接話 法においても元の言葉に極力忠実であることが求められることもある。その場 合には,時制の一致の要請があるからといって機械的にhadtoに置換する訳 にはいかない。Hadtoでは元の発話者が抱いていた賛意は消えてしまうから である。結局,mustの意味はmustでしか表せないのである。なお,この問
題については,別の機会に他の視点も交えて詳しく論じることにしたい。〔注〕
1Coates(1983:p、48)には,形式ばつた脈絡ほど根源的mustの陳述緩和的must
に対する使用率が高まることが示唆されているが,havetoとの対比については不明
2Havegottoは,主観的なニュアンスを持つという点でmustと意味の一部を共である。有していると考えられる(cfCoatesl983:p、53,渡辺1984:p、44)。
3Palmerは,疑問文では話し手ではなく聞き手の方が権威者になるので,「談話指 向的」がより正確であるとする(plOO)。しかし,本稿ではその事実を認めた上で,
より一般的な名称である「話者指向的」を用いることにする。
4この特徴を有する用法が,「英語の母国語話者にとって根源的mustの“stereo‐
type,'を成している」との指摘(Coatesl983:p、33)を重視したい。Huddleston も“prototype,,という言葉でこれを呼んでいる(1984:p、168)。
5無論,ここで言う腫換性とはあくまで部分的な用法の重なり合いを意味し,初学者 向きのmust=havetoという単純公式とは議論の場を異にする。
6Ota,Perkinsは主語指向的(subjectoriented)なmustをあげている。例えば Perkinsの例では,話し手ではなく主語である“you,,が強制源とされる。
Youmustgopokingyournoseintoeverything1
もっともⅢLeech(1971:p、72)の言うように,このような「皮肉」用法では疑問文 の場合と同様(Cf・注3),聞き手への権威移行が起きているとも考えられ,その視点 からは談話指向のmustということになる。Otaの例は主語が三人称であるが,本
質的には同じ解釈が可能であろう。
垣
54
7疑問文では,話者ではなく聞き手の意志を伝えることになる(cfLeechl971:p、
72,Swanl980:§285)。次例で,自発的に憎むふりをしているのは聞き手であり,
話者はその意固地な態度を皮肉っているのである。
Whymustyoumakebelieveyouhateus?Isthatanotherprinciple?-
thatyouhavetohateus?(Miller,so"3,108)
8Lakoffによれば,mustは三つの意味の混合体であるという。すなわち,i)話し 手が聞き手よりも上の階級に属していること,ii)求められている行為が聞き手にとり 不快なものであること,つまり聞き手は自らの意志に反してそれを行わなければなら ないこと,iii)もし,聞き手が指示を実行しないと,自分にとって何か不都合なことが 生じるであろうということ,の三つである。したがって,上記の文は理論上三重に多 義的であるが,現実には非言語的脈絡を参照することにより,どの意味であるかが判 断される。ここではパーティーの場面ということを考慮して,ii)の意味が選択される。
9疑問文の場合には権威の移行が生じ,主語は一人称となる(Cf・注3)。
Mustlansweralltheselettersmyself?(Leechl971:p、72)
この例でば,聞き手が、62Jを強制することになる。
l0Coates(1983:p,36)はこのような場合には話者の関与は全くないか,極めて少 ないと説明する。Quirketal.(1985:p,225)では,これを「根源的必然性」(root necessity)と考え,義務・必要を表す普通の根源的用法とは別扱いにしている。
11筆者はhavetoの意味特徴の一つとして「意志を越えた基準」を認めている(渡辺 1983:p37)。これは,話者は自分の気持ちを越えたもの,例えば仕事・規則・慣習 といった社会規範や生理・習性といった自然の法則を拠り所として「必要」と判断し ているということである。
12生理的欲求が強制源になっている類例を一つあげておく。
I,mjustsohappy,BigDaddy,Ihavetocryorsomething.(Williams,
CczJ,71)
13『必然』を表す用例を追加しておく。
Toeachofus,deathmustcome.(AHD)
14法助動詞と他の一般的な動詞(いわゆる本動詞)とを区別する形式的基準として は,次の七つの特性がよく知られている(Palmerl979:p、9)。
DP",#形による否定(Negation)
e、9.1can,tgQ
ii)主語との位置の入れ替え(Inversion)
e、9.Mustlcome?
iii)略語(Code)的用法
e・gHecanswimandsocanshe.
iv)強調的肯定(Emphaticaflirmation)
e9.Hewillbethere.
v)三人称単数現在形における‐s語尾の欠如 Hosei University Repository
55
C
eog6*mays vi)非定形の欠如
e9.*tocanj*musting vii)共起の欠如
e9.*willcan
この内最初の四つは,Huddleston(1976:p333)がそれぞれの頭文字をとり,
“NICE”性と呼んだものである。Havetoはこの七つの基準のどれにも適合しない と考えて差し支えなかろう(cfCoatesl983:pp、54-55)。Thomson&Martinet
(19803:Pl25)には,否定形・疑問形としてhaven,tto,havelto?があげら れているが,少なくとも現在において有用性は疑わしい。Coatesはdoによる支持 形式しか認めておらず,Quirketal.(1985:pp、145-46)も,アメリカ英語では 100%イギリス英語でも85%以上の割合でdo支持形が用いられるとしている。
15小西(1976:p、272)にも,mustには話者の主観的感情が含意されるとの指摘が ある。
16wood(1958:p、155)は,“Imust...''は義務・必要をその原因を示さずに述 べる形式であるとする。
17実際,論理的思考ができないような興奮時や情動がむきだしになるような際には,
mustの方が好まれるようである。先に見た(8).(9)。(13).(14)などがその例と 言える。
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