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Field+ 2010 07 no.41.人口密度の不均衡形成についての疑問 なぜ人は都市部等特定の地域に惹かれ、そう いった特定の地域ではない場所から去ろうとする のだろうか。
もちろん直接的な原因は様々であろう。しか し、原因を含む個別の要因には目をつぶり、人の 分布の変化だけを純粋に取り出した場合、「人口 密度分布」の変化というただひとつの現象とし て、人の移動を単純化して捉えることができる。
この様な「モデル化」を踏まえ、冒頭の疑問をこ う言い直してみたい、「なぜ人口密度分布の大小 は生まれるのだろうか」。
人口密度分布は、単位区画毎の人口密度を算 出しそれを地図上にならべて、人口密度がどの様 に分布しているかを示したものである。人がどの 地域に集まっているかを統計的事実として直感的 に理解する為に重宝する量だが、しかしそれだけ ではない。数値的な処理を行うことで分析を一歩 進め、人口密度分布を直接眺める以上の、より多 くの隠された現象を炙り出せる場合がある。そう いったひと手間によって前述の疑問に関するひと つの分析を行う為に、ここでは「人口密度ポテン シャル」という概念を紹介したい。
2.人口密度ポテンシャル
自然現象の中に見られる様々な分布量を観察す ると、偏りが増大する方向の変化が自発的に起こ ることは稀であることがわかる。良い例が海面で ある。海面は、何も力が加わらなければ平らなま まだが、風が吹いてさざなみが起こったり地殻変 動によって津波が発生したり、外的な力が加わっ た場合に波の凹凸として偏りが形成される。
都市部への集中等をはじめとする人口密度分布 の偏りも、海面を波立たせる風の様な、何かしら
の社会的現象に基づく「力」が働いている結果、
それが形成されたとは考えられないだろうか。そ ういった何らかの力が人口密度に加わった結果 として現在の人口密度分布が生じている、という ことを思考の出発点とし、逆にその力について考 えてみよう。
上述の様な人口密度にかかる力をその勾配と して定義する形で、人口密度ポテンシャルは導入 される。つまりあたかも、斜面を物が転がり落ち る際の様な力が働くことで、人口密度ポテンシャ ルの谷底には人が集まって都市等人口密度の高 い地域が形成され、逆に人口密度ポテンシャルが 山の様な出っ張りになっている地域からは人々 が立ち去って人口密度が低くなるという具合に 考えるのである(図1)。この様に定義された人 口密度ポテンシャルを数値計算で求めれば、人口 密度分布に対して働く力を直接分析できる。
3.人口密度ポテンシャルを見てわかること 馴染み深い例のひとつとして、日本の人口密度 ポテンシャルを図2に示す。座標軸の数値はメッ シュ番号を表す(図3と図4も同様)。メッシュと は、数値計算の為に、地図全体を網羅する様に 細かな四角で分割した、その領域ひとつひとつの ことである。背景のカラーで示された人口密度分 布(赤黄白等が人口密度の高い地域)から計算し た人口密度ポテンシャルの値を、等高線として表 記している。矢印は、人口密度ポテンシャルから 求められる、人口密度に対して働く力を表してい る。等高線で示された凹みの深まる方向へ、矢印
550 500 450 400 350 300 250
200
200 300 400 500
フロンティア
人を動かす見えない力 ──「人口密度ポテンシャル」が語るもの
梅川通久 うめかわ みちひさ / AA研非常勤研究員
図1 人口密度ポテンシャルの考え方。
赤丸が示す人の集団は、ポテンシャルが 低い位置へと落ちる様に移動する。
図 2 日本の人口密度ポテンシャル(日本列島の線画は目 安であり厳密ではない)。
人口を調べることは、地域の実態を知る上で 有効な切り口のひとつである。
直接分析する以外にも、数値的方法によって 隠れた情報を引き出せる場合があるが、
ここで取り上げる人口密度ポテンシャルの計算も、
その手法のひとつである。
地図上の位置
ポテンシャルの高さ
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Field+ 2010 07 no.4 の様に人々を動かす力が働いた、そう考えられる絵である。
注目すべきは、東京・大阪・名古屋の3都市が 作るポテンシャルの谷であろう。人口が集中して いる地域は、やはり人口密度ポテンシャルも深く 凹んでいるのである。細かく見てみると、3都市 による凹部と凹部の間が、相対的に高い尾根の 様な形状になっている。また人口密度に働く力の 分布が、人口集中の中心部に向かい尾根を境とし て、あたかも分水嶺の両側の様に見えている(図 3)。こうしたことから、人口密度ポテンシャル の尾根の近辺が、人口密度によって定義づけされ る大まかな3都市の言わば勢力の境界と見ること ができる。人文地理学等の見地から引ける境界線 と、比較できれば面白いかもしれない。
この様に人口密度ポテンシャルを図示すると、
閉じた等高線の範囲や力を示す矢印の分布を頼り にして、人々が生活の中でどこに視線を向けて居 住しているか推定したり、都市の勢力圏とでも言 うべき範囲を規定したりできる。
もうひとつ、東南アジア大陸部の国ミャンマー の例を見る(図4)。第1の都市ヤンゴンによる深 いポテンシャルの谷が南部に見られる他、その北 方に第2の都市マンダレーとその南側地域に広が るポテンシャルの谷がやや浅く見られる。両都市 の中間部では、ちょうど日本の3都市圏の関係の 様に、ポテンシャルが尾根状になった領域が存在 する。この様なポテンシャルの尾根では、人が両 都市に引かれて去る傾向がある筈である。しかし 同時に分布形状が平坦に近いことから、両都市の
能性を持っている。ここまで見た様な、国単位の スケールで住民の居住を分析する事例の他にも、
例えば算出した力の向きと現実の交通網の向きを 比較することで理想的交通網と現実との差異を分 析したり、都市計画立案や流通事業の採算性見積 もりに利用したりすることが考えられる。
また、この概念自体を人口密度分布以外の分布 量に適用することも可能だと考えている。例えば 方言の分布を、話者人口の密度や比率として数値 化することができれば、方言ポテンシャルとでも 言うべき量を求めることができる。それは現在の 方言・言語分布がどういった言語学的「力」によ り成立しているのか、考える上でのひとつの素材 となるかもしれない。
いずれにせよ、この分析の手法や内容をさらに 高度化させるには、数値計算結果の意味付けを変 えることが重要になってくるであろう。現段階で の人口密度ポテンシャルは、地図上の各メッシュ 相互に相対的な意味を持ち、メッシュ間の比や 差のみが分析の対象となっている。これにフィー ルドから得られる情報を加味することで、各メッ シュの値自体に単独で意味を持たせることができ れば、地域を記述する尺度として計算結果をその まま用いることが可能となる。そうしたことを実 現し将来的には、定量的分析とフィールドでの調 査結果とをあたかも車の両輪の様に協調させて、
地域の知識を高め、様々な理解を深めることがで きればと考えている。
影響がちょうど釣り合って、作用する力が弱くな る場所であるとも考えられる。つまり、両都市固 有の様々な社会・文化的影響が、距離的な近さの 割に低く抑えられた地域である可能性が推定で きる。
ミャンマーの現軍事政権によって建設された 新首都ネピドーがこの領域の近辺にあるのだと は、この地域に関係する研究者からうかがった話 である。ピンマナ市近郊のこの場所には元々軍用 地が存在し、そこを利用しての新首都建設であっ たと言われているが、なぜここなのかその真意は 明らかではない。批判的世論と常に対峙してきた 軍事政権はおそらく、国民的な民主化運動の基盤 となっているヤンゴン等の大都市圏から、地理的 になるべく離れた場所を新たな政治的拠点とした かったであろうことがひとつ推測できる。その一 方で、それら大都市圏が国家の中枢的地域である こともまた厳然たる事実であり、そういった重要 地域から拠点を著しく遠ざけてしまうことも得策 とは言いがたい。こういった視点を交えると、人 口密度ポテンシャルの分析から推定される「ミャ ンマー第1・第2の都市の近傍でありながら、均 衡の作用によってそれらの影響が比較的小さくな る」地域と実際の新首都建設地が近接しているこ とが、何やら興味深いものに見えてくるのだが、
いかがであろうか。
4.ポテンシャルの概念の発展
以上の様に、議論の余地を残しながらも、人口 密度ポテンシャルという概念は種々の興味深い可
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280
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図3 図2の東京、名古屋、大阪付近を拡大したもの。
図4 ミャンマーの人口密度ポテ ンシャルと力の分布。