本稿は,筆者がこれまで研究してきた欧州連合の eIDAS 規則1およびドイツ信頼 役務法(Vertrauensdienstegesetz)2の研究成果3に基づいて,わが国でも同様の相互 認証可能な法制度をめざして試案としてまとめた電子信頼役務法案を公開するもの である。 草案作成にあたっては,彼の地のeIDAS規則や信頼役務法の長所とわが国の電子 署名法の課題及び問題点を視野に入れ,次の各点を改善するような条文について積 極的に取り入れる方針で私案をまとめている。 ① わが国では法制化されていない電子書留業務,電子保存業務,電子署名の検証 業務など新たな信頼役務(その概念も含む。)を積極的に取り入れること。 ② タイムスタンプ(電子日時認証)についてももちろん法制化すること。 ③ 法的責任については,適格信頼役務事業者に証明責任の転換をして,無過失の
1 REGULATION (EU) No 910/2014 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 23 July 2014 on electronic identification and trust services for electronic transactions in the internal market and repealing Directive 1999/93/EC, OJ L 257/73 (CELEX number: 32014R0910). eIDAS規則については,拙訳「指令1999/93/ECの廃止ならびに域内市場における電子取引のた めの電子識別および信頼役務に関する 2014 年7月 23 日欧州議会および理事会規則第 910/2014 号(2014 年8月 28 日 EU 官報 L257/73 頁)」(松本恒雄・多賀谷一照編集代表『情報ネットワー クの法律実務』加除式(2015年))7359頁以下を参照。