九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
核子および3,4He弾性散乱への微視的アプローチ
豊川, 将一
https://doi.org/10.15017/1806809
出版情報:Kyushu University, 2016, 博士(理学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
(様式6-2)
氏 名 豊 川 将 一
論 文 名 Microscopic approach to nucleon and 3,4He elastic scattering (核子および3,4He弾性散乱への微視的アプローチ)
論文調査委員 主 査 九州大学 教 授 八尋 正信 副 査 九州大学 准教授 寺西 高 副 査 九州大学 准教授 清水 良文 副 査 九州大学 助 教 松本 琢磨
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
現在、自然界には約6000種類の不安定核と約300種類の安定核が存在すると考えられている。
これらの原子核の性質を解明することは、宇宙進化における物質の起源を明らかにする上で必 須である。原子核の性質は、原子核に原子核を衝突させて、そこで起こる核反応を理論的に解 析することによって、明らかにされる。この核反応の中で、最も基本的反応が弾性散乱である。
原子核は核子多体系のため、核子多体散乱問題を理論的に解くことによって始めて、弾性散乱 を記述する光学ポテンシャルが種々の原子核+原子核散乱に対して系統的に求められる。この
「光学ポテンシャルの微視的導出」は、現在、原子核物理の重要な課題となっている。実際、
弾性散乱の実験値を微視的光学ポテンシャルで解析することによって、標的核や入射核の核密 度分布が明らかにされてきている。また、微視的光学ポテンシャルはより複雑な核反応を解析 するために必須であり、この反応解析を通して、標的核や入射核の励起状態や近隣の核の性質 が解明されてきている。更には、核反応によって、新元素が生成されてきている。
本研究者は、核子+原子核弾性散乱と3,4He+原子核弾性散乱に注目し、これらの弾性散乱に 対して微視的光学ポテンシャルを導出する方法を考案し、これらの弾性散乱を系統的に分析し た。その成果を以下にまとめる。
(1)求められた微視的光学ポテンシャルは、調整パラメータ無しに、核子+安定核弾性散
乱と3,4He+安定核弾性散乱の実験データを再現する。このことから、提案された方法は信頼
性の高い微視的光学ポテンシャル導出法と言える。
(2)核子+原子核弾性散乱に対しては、信頼性の高い微視的光学ポテンシャルがすでに求 められていたが、非局所型をしていたため、より複雑な反応には適用できなかった。本論文 で求められた微視的光学ポテンシャルは局所型をしているため、より複雑な反応を解析する 上で、非常に有益である。
(3)上記の信頼性の高い微視的光学ポテンシャル導出法を核子+不安定核反応に適用する ことによって、今後、不安定核やその近隣の非束縛核の性質を引き出すことができる。
以上の成果は、原子核物理学の分野において価値ある業績と認められる。よって、本研究者は博 士(理学)の学位を受ける資格があるものと認める。