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集積候補地域における混雑と空間的集積

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(1)

集積候補地域における混雑と空間的集積

著者 小藤 弘樹

雑誌名 經濟學論叢

巻 56

号 2

ページ 25‑43

発行年 2004‑07‑30

権利 同志社大学経済学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004658

(2)

【論 説】

集積候補地域における混雑と空間的集積

小 藤 弘 樹

1 は じ め に

東・東南アジア諸国の産業集積候補地域(工業団地)では,長期的な成長を目 指して,公共財・公共サービス,たとえば道路・高速道路,水道あるいは教育 などに対するさらなる投資が進められている.金本(1997)が主張するように,

こうした公共政策だけで都市の形成を説明することは難しい.しかし,公共財 が持つ外部性は都市形成にとって重要な一要因であり(たとえば,Fujita,1989,

O'Sullivan,1996 を参照せよ.),都市の長期的な成長を生み出す際には重要な役割

を果たすと考えられる.既存の大都市で顕在化している問題のひとつが公共 財・公共サービス市場の混雑現象であることを踏まえれば,なおさらである.

長期的な都市成長における公共政策の役割を考察する場合,内生的経済成長 理論の貢献を再考察することは有益である.この経済成長論の共通課題のひと つは投資の私的な収益と社会的な収益の乖離を考察することであり,この種の 問題においては公共財の外部性に焦点を当ててきた.しかし,この経済成長モ デルは,公共財の扱い方によって,正反対の結論を導いている.早期的モデル,

たとえばLucas(1988)やBarro(1990)は補償されない知識や政府支出を純粋

公共財として扱い,私的な意思決定過程では,それらが持つ生産・効用に対す るポジティブな効果が反映されないことを前提にする.したがって,分権的な 選択は過小な貯蓄率と経済成長率を実現する.一方,公共財市場の混雑を考慮

†本論文の作成にあたって,平成15 年度私立大学等経常費補助金特別補助高度化推進特別経費大学 院重点特別経費(研究科分)の助成を受けました.

(3)

に入れるモデルの多くは,私的な意思決定過程において,生産・効用に対する 公共財の貢献は混雑によって制約されるという条件だけが反映されないことを 前提にして,分権的な選択が過大な貯蓄率と経済成長率を実現することを説明 する.

大都市の混雑問題を考慮すれば,混雑を導入する経済成長モデルは早期的経 済成長モデルよりもっともらしい.しかし,住民が公共財の正の外部効果すべ てを認識できるとは考えにくい.また,産業集積候補地域を既存の大都市同様 に扱うことにも疑問が残る.そこで本論文では,私的な意思決定過程では,混 雑を伴う公共財・公共サービスの外部効果すべてが反映されないことを考慮し ながら,産業集積候補地域の長期的成長における公共政策の役割について考察 する.この点で,本論文のモデルは,Palivos and Wang(1996)や小藤(2004)

による純粋公共財を想定した動学的一般均衡モデルと異なる.また,都市の空 間構造を明示的に導入する本論文のモデルは,空間的相互作用に関する考察を 可能にしている点でも内生的経済成長モデルと異なる.

本論文の残りは次のように構成されている.第2 章では空間構造を,第3 章 では選好関係と生産技術を定式化する.第4 章と第5 章では,社会的計画均衡 と分権的均衡を求め,それらの特性について調べる.第6 章で両均衡を比較し たうえで,第7 章で結論を述べる.

2 空 間 構 造

いかなる空間も必要としない生産が,原初状態(first nature)において事前に 決められた地点に位置する都心で行われる平面線形都市を想定する1).t >_ 0 時 点における都市規模をb(t)>_ 0 であらわし,単純化のために,0 からb(t) までの 区域に居住する同質的住民集団の連続体N(t) を考える.以下では,一般性を失 うことなく,この住民集団を人口として扱う.

1)本論文のモデルは容易に,円形都市モデルに拡張できる.しかし,この拡張は本論文の議論にと って本質的でないため,ここでは平面線形都市を想定する.

(4)

各住民は一定規模m > 0 の土地を非弾力的に需要する.この仮定は,複雑な 分析を避けるための1 次近似である.都心からz∈[0, b(t)] 離れた地点における 住居区域の土地密度を1 に正規化すれば,都市住民の分布ζ(z) は

である.したがって,人口制約      から,

b(t)=mN(t) (1)

が必要である.

各住民は都心から離れた地点に居住するため,輸送費用を負担しなければな らない.住民1 人あたりの消費をc(t),1 単位の財に対する単位距離あたり輸送 費用をδとすれば,t 時点でz 地点に居住する住民の輸送費用はT(z, t)=δc(t) である.さらに,いかなる独占力も持たない不在地主がすべての土地を所有す ると仮定する.この仮定は,不在地主は土地を宅地として供給することによっ て,0 に正規化された農業地代のかわりに競争的に決まる地代R(z, t),z < b(t) を受け取ることを意味する.

都市政府は究極的な経済主体である住民から所得税を徴税し,都市の形成の ために支出する.本論文における都市の形成とは通信や交通基盤のように生産 活動を拡大するものである.したがって,第3 章で述べるように,政府が提供 するこれらのサービスは生産関数に入るが,居住地点の選択には影響を与えな い.

これらの想定の下では,立地均衡条件より,地代は都心から離れるにつれて 低下する.

R(z, t)=T(b(t), t)−T(z, t)=δc(t)[b(t)−z], ∀z <_ b(t)

さらに(1)式を用いれば,この都市の総地代TLR と総輸送費用TTC は TLR(t)

0

b(t)

R(z, t)ζ(z)dz=0.5τc(t)N(t)2 (2) TTC(t)=

0b(t)T(z, t)ζ(z)dz=0.5τc(t)N(t)2

である.ここで,τ≡δm である.

ζ(z)= m−1 0

for z < b(t) for z > b(t)

{ 

_ 

N(t)=

∫   

b(t)0 ζ(z)dz

(5)

最後に,この都市の民間部門の資源制約と政府の予算制約はそれぞれ,

N[1−ε]y=Nc+Nk

+TLR+TTC=Nc[1+τN]+Nk・

(3)

G=Nεy (4)

としてあらわせる.ここで,ε,y および・k

≡dk / dt はそれぞれ,所得税率,住

民1 人あたりの生産および住民1 人あたりの純投資をあらわす2)

3 選好関係と生産技術

各住民が同質的な財を生産・消費する動学的一般均衡モデルを考える.各時 点の効用関数は等異時点間代替弾力型(CEIS)であり,消費水準に依存すると 仮定する.

この都市経済で利用可能な生産技術は生産関数y =Ak1−αGαである.生産関 数に入っているG^は利用可能な公共サービスの量であり,政府支出G ではな い.宇沢(1972a, b)やStiglitz(1988)らが述べているように,公共資本が生み 出すサービスの多くは「混雑現象」の制約を受けている.本論文では,Glommn

and Ravikumar(1994)に従って,この混雑現象を次のように表現する3)

(5)

このように混雑を定式化すれば,都市人口の増加は公共サービスの生産に対す る貢献を低下させることになる.また,γ=1 ならば公共サービスは純粋公共

u(c)=     ,σ> 1c1−σ 1−σ 

G=   ,γ∈(0, 1]G N1−γ 

^ 

2)複雑な分析を避けるために,資本ストックは減耗せず,漠然と定義するのみで具体化しないこと にする.このため,(3)式の資本蓄積は人口変化を含まない住民1 人あたりの形であらわしている.

なお,以下では,混乱を招かない限り,時間変数t の表記を省略する.

3)混雑現象を扱うモデルの多くは,公共資本のストック市場で生じる混雑現象が利用可能な公共サ ービスの量を減少させるものとして構築される.公共資本の減耗率が100%であると想定すれば,本 論文のモデルもまた容易にストック市場を明示的に扱うモデルに拡張できる.しかし,不用意に変 数および関数を増やすことを避けるために,本論文では公共サービスの供給量と利用可能な量を区 別するにとどめる.

(6)

財であり,本論文のモデルは小藤(2004)のモデルを平面線形都市モデルに縮小 させたものになる.

これらの想定に加えて,次の2 つの仮定をおく.たとえば,三井・竹澤・河 内(1995)および岩本・大内・竹下・別所(1996)が実証的証拠を示しているよ うに,公共サービスが私的生産要素より生産に貢献するとは考えにくい.そこ

で,α∈(0, 0.5) を仮定する.もうひとつの仮定は複雑な分析を避けるためのも

のであり,生産性パラメータA が1 に等しいというものである.

4 社 会 的 最 適

本章では,分権的均衡解と比較するために,2 段階逐次アプローチを用いて 社会的最適解を求める.すなわち,慈悲深い都市開発者は所与の初期資本スト ックk(0) の下で,第1 段階では住民1 人あたりの消費について,第2 段階では 人口規模について代表的住民の生涯効用を最大化する.

第1 段階として,次の問題を考える.

(6)

s.t. ・k=[1−ε]y−c[1+τN] (7)

G=Nεy (4)

k(0)=k0> 0

ここで,ρは時間選好率をあらわす.(4)式と(5)式から,生産関数はy = εβkNβγ,β≡α/[1−α] のように書き直せる.したがって,資本のシャドー価 格λsを用いれば,この問題のハミルトン関数Hs=exp(−ρt)

[

c1−σ/[1−σ]+λs

[

[1−ε]εβkNβγ−[1+τN]c

]]

を定義できるので,この最適化問題は上述の制

約式と次の3 式であらわせる.

(8)

max U=

∞ 0    exp(−ρt)dt c1−σ

1−σ 

c

=0 : c−σ=λs [1+τN]

Hs

c

(7)

(9)

lim

t→∞λsk exp(−ρt)=0 (10)

(8)式は,最適において,消費の限界効用と限界費用が等しいことを((1)

式とτ≡δmを用いれば,c−σ=λs[1+δb] のように書き直せる),(9)式は,最適に おいて,キャピタルゲインと税引き後の資本の限界生産性からなる資本の限界 便益が時間選好率であらわした限界費用と等しいことを求めている.横断条件 として知られる(10)式は,無制限な成長経路を排除するために必要である.

これらの条件の下では,N(t)=N,∀t >_ 0 に対して,

(11)

(12)

を満たす均衡成長経路が存在する4).(11)式によれば,税引き後の資本の収益 率および異時点間代替の弾力性が大きく,時間選好率が小さいほど,成長率θs は高い.予想通り,人口規模の拡大は利用可能な公共サービスの量の拡大を通 じて資本の収益率を高めるため,成長率を高める.

次に,これまでパラメータとして扱ってきた人口の最適規模を決定する.人 口規模の拡大は公共サービスの供給量だけでなく,混雑度を通じても利用可能 な公共サービスの量を変化させることに注意されたい.

移行期間を考慮すれば,社会的計画問題の最適条件には,

(13)

が加わる.したがって,このモデルの動態特性は,時間微分した(8)式に(9)

式を代入して得られる移行経路に沿った消費の成長率

=0 :   +[1−ε] εβNβγ=ρ 

∂Hs

∂k

λs λs

・ 

θs=  =  =  =  =    = y y

・  c c

・  G G

TLR TLR

[1−ε]εβNβγ−ρ σ

・  ・  k

k

・ 

=−σθs

λs

λs

・ 

=0 :βγ [1−ε] εβkNβγ−1=τc

∂Hs

N

4)補論A は,これらの均衡成長経路の性質の導出方法について説明している.

(8)

民間資源制約(7)式に(13)式を適用して得られる移行経路に沿った資本の 成長率

および(13)式を時間微分して得られる移行経路に沿った人口成長率

によって完全にあらわせる.

これら3 つの成長率を用いれば,移行経路に沿った人口成長率は

(14)

のように書き直せる.ここで,σ> 1 かつβ< [σ−1] / [σγ] ならば

である5).したがって,人口の動態をあらわす1 階非線形微分方程式(14)の 一意な臨界点は,都市経済を均衡成長経路にのせる初期値だけであり,移行経 路は存在しない.この結果は,生産関数が資本について1 次同次であることか

5)この想定の下では,Δ1(N)=0 が一意な正の根をもつことに注意されたい.また,後述するよう

に,この想定は社会的最適な都市人口が内点に存在するための必要十分条件である.

υ(t)=       −     Nτ

σ[1+τN]

[1−ε]εβNβγ−ρ  σ 

・ 

η(t)=[1−ε]εβNβγ  1−βγ1+τN τN

[  ] 

=η(t)−υ(t) 1−βγ N

N

・ 

=Δ1(N)[Δ2(N)]−1 N

N

・ 

Δ1(N)≡[1−ε]εβNβγ   −βγ    +σ−1 σ

1+τN τN

ρ 

[  ] 

σ 

Δ2(N)≡1−βγ− τN

σ[1+τN]

lim Δ1(N)=−∞, lim Δ1(N)=∞, Δ´ 1(N)> 0

N→0 N→∞ 

lim Δ2(N)=1−βγ> 0, lim Δ2(N)=   −βγσ−1  >0, Δ2(N)< 0

σ  ´ 

N→0 N→∞ 

(9)

ら導かれる.

移行経路が存在しないため,均衡成長経路に注意を集中できる.生涯効用が 有限であるための必要条件[1−σ]θs<ρを(6)式に適用すれば,社会的計画 下の生涯効用は

(15)

である.(7)式から得られる

(16)

(11)式および初期資本ストックk0を用いれば,この生涯効用は

(17)

のように書き直せる.ここで,Λ≡k0

1−σσσ/ [1−σ] である.したがって,人口

規模の変化は実効割引率と初期消費を通じて生涯効用に影響を与える6). ここで,

を定義すれば,(17)式を最大にする社会的に最適な人口NsUs′(Ns)=0,す なわち

Φs(Ns

)=Ω(Ns

) (18)

を満たす必要がある.この式は,追加的な住民による社会的限界便益と社会的 限界費用が最適において等しいことを求めると同時に,βであらわされる公共 サービスの外部性がとても強ければ,人口は無限に増加し,生涯効用は最大値

Usc(0)1−σ [1−σ][ρ−[1−σ]θs]

c(0)=k(0) [1−ε]εβNβγ−θs 1+τN

Us= Λ

ρ+[σ−1][1−ε]εβNβγ 

ρ+[σ−1][1−ε]εβNβγ 1+τN

[  ] 

1−σ 

Φs(N)≡ σβγ[1−ε]εβNβγ ρ+[σ−1][1−ε]εβNβγ 

Ω(N)≡ τN 1+τN

6)一般に,実効割引率はρ+[σ−1]θで定義される.ここで,θは消費の成長率をあらわす.

(10)

を持たないことをあらわしている.より厳密に述べれば,γ∈(0, 1] において社 会的最適人口が内点に存在するための必要十分条件がσ> 1 かつβ< [σ−1] /

[σγ] であることを示している7)

議論を内点解に限定すれば(18)式を微分できる.ここで,τ≡δmである ことを思い起こせば,輸送技術の進歩や各住民の占有土地区画規模の縮小に起 因するτの減少は,追加的な住民による社会的限界費用の低下を通じて,都市

(人口)規模の増加や経済成長率の上昇を招くと考えられる.

5 分 権 的 均 衡

分権的経済の各住民は,利用可能な公共サービスの量と都市開発者が決める 人口規模を所与として,消費と貯蓄の最適経路を決定する.

(6)

s.t. k・

=[1−ε] k1−αGα−c [1+τN] (7 )

G=Nεy (4)

(5)

k(0)=k0> 0

分権的経済における資本のシャドー価格をλdであらわせば,この問題のハミル トン関数Hd=exp(−ρt)

[

c1−σ/ [1−σ]+λd

[

[1−ε] k1−αGα−[1+τN] c

]]

を定 義できるので,最適化のための必要条件は(7 )式および

(8 )

(9 )

7)補論B は,この証明を与えている.

max U=

   exp(−ρc1−σ t)dt 1−σ

c 0

G=   ,γ∈(0, 1]G N1−γ 

^ 

=0 : c−σ=λd[1+τN]

Hd

∂c

=0 :   +[1−ε][1−α]k−αGα=ρ 

Hd

k

λd 

λd ^ 

・ 

(11)

lim

t→∞λdk exp(−ρt)=0 (10

である.(8 )式と(10 )式はそれぞれ,(8)式と(10)式のλsをλdで置き 換えたものである.なお,モデルの最後では,政府の予算制約(4)式を用いて 表記される利用可能な公共サービスの量(5)式を考慮する必要がある.

これらの条件の下では,N(t)=N,∀t >_ 0 に対して,

(11 )

を満たす均衡成長経路が存在する8).特に,(11 )式は,社会的最適と同様に,

分権的経済の均衡成長率が資本の(私的)収益率と時間選好率の差と異時点間 代替の弾力性の積で与えられることを示している.

次に,最適な人口成長を決めるために,都市開発者の問題を考える.都市開 発者は,修正された均衡消費経路(8 )式を考慮して,代表的住民の生涯効用 を最大化する.生涯効用が有限であるための必要条件[1−σ]θd<ρを(6)式 に適用すれば,代表的住民の生涯効用は(15)式のθsをθd で置き換えたもの になる.さらに,(4)式と(5)式を代入した生産関数がy =εβkNβγであるこ とに注意しながら,(7 )式から得られる

(16 )

(11 )式および初期資本ストックk0を用いれば,代表的住民の生涯効用は

(17 )

である9).したがって,分権的経済においても,人口規模の変化は実効割引率と θd=  =  =  =  =    = y

y

・  c c

・  G G

TLR TLR

[1−α][1−ε]εβNβγ−ρ σ

・  ・  k

k

・ 

=−σθd

λd  λd

・ 

c(0)=k(0)[1−ε]εβNβγ−θd 1+τN

Ud= Λ

ρ+[1−α][σ−1][1−ε]εβNβγ 

ρ+[σ−1+α][1−ε]εβNβγ 1+τN

[  ] 

1−σ 

8)政府の予算制約(4)式を適用した利用可能な公共サービスの量(5)式がG^=ε1/[1−α]kNγ/ [1−α]

あることに注意すれば,補論A同様にして,これらの均衡成長経路の性質を導出できる.

9)社会的計画経済で示したのと同様にして,分権的経済において,最適な空間集積が即座に発生し,

このとき得られる均衡成長経路が一意に決まることを示せる.

(12)

初期消費の2 経路を通じて生涯効用に影響を与える.

ここで,

を定義すれば,(17 )式を最大にする人口Nd

Ud′(Nd

)=0,すなわち

Φd(Nd

)=Ω(Nd

) (18 )

を満たす必要がある.この式は(18)式同様に,追加的な住民による限界便益 と限界費用が最適において等しいことを求めると同時に,βであらわされる公 共サービスの外部性がとても強ければ,人口は無限に増加し,生涯効用は最大 値を持たないことをあらわしている.

(18 )式はまた,外部効果の上限が社会的最適の場合と等しいことも示し ている.このことは次のようにして確認できる.α∈(0, 0.5) およびγ∈(0, 1]

より,Φd(N) の特性は

Φd′(N) > 0,Φd″(N) < 0 for ∀N∈(0, ∞)

であり,Φs(N) の特性と一致する.最大値が存在するための十分条件はΦd′(N)

<Ω′(N) であり,外部効果の上限は,内点で最大値が存在するための必要条件

に上で導いた関係を代入した

から得られる.この条件は社会的最適のそれと等しい.

6 社会的最適と分権的均衡の比較

本章では,各経済で達成される人口規模,都市規模,成長率,貯蓄率および 厚生水準を比較する.

社会的計画経済でのみ内部化される公共サービスのネットの外部性が正であ Φd(N)≡ βγσ[1−ε]εβNβγ[ρ+[1−α][σ−1+α][1−ε]εβNβγ]

[ρ+[1−α][σ−1][1−ε]εβNβγ][ρ+[σ−1+α][1−ε]εβNβγ]

lim Φd(N)=0, lim Φd(N)=   > 0, lim βγσ Φd(N)=∞, lim Φd(N)=0

N→0 N→∞ σ−1 N→0 ´  N→∞ ´ 

0 < lim Φd(N)=   < 1= lim βγσ Ω(N) σ−1

N→∞ _  N→∞

(13)

るため,追加的な住民による社会的限界便益は常にΦs(N) >Φd (N) を満たす.

他方,追加的な住民による社会的限界費用は両経済間で同じであるから,Ns

>

Nd

が成立する.この関係を(1)式に適用すれば,bs

>bd

も成立する.これら の結論は,「混雑を伴う公共サービス(市場)が存在する場合,分権的経済は過 大な都市規模を実現する」という既存研究の多くが導く結論と対照的である.

この対照性は,既存研究の前提―私的な意思決定過程においても,公共サービ スの正の外部効果は反映される―を緩めたことから導かれる10)

さらに,人口規模の関係を(11)式と(11 )式の組み合わせに適用すれば θsd が成立する.これは,消費水準と投資(貯蓄)水準の決定において,分 権的選択が私的便益を反映する一方で,社会的便益を反映しないために生じる.

特に,投資水準が増加してもコミュニティーの集計資本ストック,それゆえの 生産性の上昇を認識しないため,資本の私的収益率は社会的収益率を下回る.

その結果として,分権的経済は社会的計画経済より低い貯蓄率を実現する11). ただし,有限期間内に,社会的計画経済は分権的経済より高い消費水準を実現 することに注意されたい.

分権的経済が社会的計画経済より高い初期消費水準を実現するための必要十 分条件は,(16)式と(16 )式に(11)式と(11 )式を代入することによっ て得られる.

ここで,

[σ−1][1−ε]εβNsβγ+ρ<

1+τNs

[σ−1+α][1−ε]εβNdβγ+ρ 1+τNd

Φd(Nd)> βγσ[1−ε]εβNd βγ

ρ+[σ−1+α][1−ε]εβNd βγ 

10)本論文のモデルでは,公共サービスのネットの外部性が唯一の集積のための求心力であり,その 大きさが正であるという前提は「都市は成長する」という結論に対して本質的である.この前提は,

稼働率が低い産業集積候補地域を想定することによって許容されるものであり,一般性は持たない.

11)数学的には,貯蓄率s i≡ki/ yi=[ki/ ki][ki/ yi]=θiεβNi

βγ,i =s, dNs

>Nd

とθsdを代入す ることによって確認できる.

(14)

であることに注意すれば,(18 )式は

を意味する.他方,(18)式は

のように書き直せる.これら2 式の左辺の比,Ns

>Nd

およびβγ<1 より,上 の必要十分条件は常に満たされる.また,t 時点における消費水準 ci (t)=ci

(0)exp(θi t),i =s, d において,cs(t′)=cd(t′) とすれば,

である.上述したようにcd(0)>cs(0) とθsdであるから,t′∈(0, ∞) である.

以上をまとめると,当初,分権的経済は社会計画経済より高い消費経路を示す が,社会計画経済の消費水準は有限期間内に分権的経済の消費水準を追い越 す.

最後に,両経済が実現する生涯効用を比較する.Λ< 0 であることに注意し ながら(17)式と(17 )式を組み合わせると,Us(N)>Ud(N) が成立するため の必要十分条件は

X(N)>Y(N) for ∀N> 0

である.ここで,X(N) とY(N) は

X(0)=Y(0)=1, X′(N)<0, Y′(N)<0, |X′(N)|<|Y′(N)|

を満たすので,この必要十分条件は常に満たされる.

さらに,Ud(N) はN =Nd

で最大値を達成し,Ns

>Nd

であるから,

βγσ[1−ε]εβNd <

βγ

τNd

ρ+[σ−1+α][1−ε]εβNd βγ

1+τNd

βγσ[1−ε]εβNsβγ

τNs = ρ+[σ−1][1−ε]εβNsβγ 1+τNs

t´= lncd(0)−lncs(0) θs−θd

X(N)≡ ρ+[σ−1][1−ε]εβNβγ ρ+[σ−1+α][1−ε]εβNβγ 

[  ] 

σ 

Y(N)≡ρ+[1−α][σ−1][1−ε]εβNβγ ρ+[σ−1+α][1−ε]εβNβγ 

(15)

<0

であることに注意されたい.これら2 段階を組み合わせることで,社会的計画 経済は分権的経済より高い生涯効用を実現することがわかる.

7 結  論

本論文では,産業集積候補地域における公共サービスの役割について考察す るために,空間構造と混雑を伴う公共サービスを明示的に導入した動学的一般 均衡モデルを構築した.そこでは,混雑によって制約される公共サービスの生 産に対する貢献が集積のための求心力であり,輸送費用が遠心力である.この モデルによれば,地域が潜在的に成長力を持つならば,分権的選択は社会的最 適より低い成長率と過小な都市規模を実現し,当初は社会的最適な水準を上回 る消費水準を実現する.大都市の混雑問題を考察する既存研究とは反対のこれ らの結果は,分権的な選択において,混雑現象という制約に加えて,公共財の 生産に対するポジティブな貢献も反映されないことから導かれる.

本論文のモデルにおいて,分析対象は成長する産業集積候補地域である.既 存の大都市の多くが突然に出現したものではないことを踏まえれば,産業集積 候補地域から大都市への発展過程における混雑現象の発生の仕組みとその結果 として生じる社会的計画経済と分権的経済の成長率における逆転を説明するこ とは,本論文の興味深い拡張となるであろう.

本論文では代表的住民を想定した都市モデルを用いて分析したが,空間経済 学によれば,「多様性」は産業集積や都市の成長にとって重要な役割を担う.本 論文の議論を公共政策の選択論に拡張する場合,この空間経済学の主張を考慮 することは大切であろう.これらの拡張については,今後の課題とする.

補論 A:この補論では,社会的計画経済において,N(t)=N,∀t >_ 0 に対して,

Ud(Ns)=        [ΦΛ[1−σ]

[

ρ+[σ−1+α][1−εε]β[Ns]βγ

]

1−σ d(Ns)−Ω(Ns)]

[

ρ+[1−α][σ−1][1−ε]εβ[Ns]βγ

]

[1+τNs]1−σNs* 

′ 

(16)

(11)式と(12)式を満たす均衡成長経路が存在することを説明する.

N(t)=N,∀t >_ 0 とするとき,(8)式を時間微分して得られる

(A. 1)

に(9)式を代入すると,

である.一方,(2)式を時間微分すれば,TL・

R / TLR=c・/ c であることがわか る.

次に,生産関数を代入した(7)式を時間微分した後で(A. 1)式と(7)式 を用いれば,定係数の2 階微分方程式

¨−k

[

[1−ε]εβNβγ+θs

]

k

+θs[1−ε]εβkNβγ=0

を得る.ここで,k¨≡d2k/dt2 である.この方程式は2 つの解k(t) =

{

k0exp(θst),

k0exp

(

[1−ε]εβNβγt

)}

を持つ.しかし,横断条件(10)式を満たさない2 番

目の解は除外できるので,k・/k=θsである.一方,生産関数と(4)式を時間微 分すれば,G・

/ G=y・ / y=k・

/ k であることがわかる.

補論 B:この補論では,γ∈(0, 1] においてσ> 1 かつβ<[σ−1] / [σγ] が,

社会的最適人口が内点に存在するための必要十分条件であることを説明する.

はじめに,必要性について考察する.βγ< 1 であるから,Φs(N) とその導 関数の特性は

Φs′(N) > 0, Φs″(N) < 0 for N ∈(0, ∞) である.他方,Ω(N) の特性は

lim Ω(N)=0, lim Ω(N)=1, lim Ω´(N)=τ, lim Ω´(N)=0 Ω´(N) > 0, Ω″(N) < 0 for N ∈(0, ∞)

=−     =θs c

c

・  λs  λs 1 ・  σ 

θs =[1−ε]εβNβγ−ρ σ

lim Φs(N)=0, lim Φs(N)=   > 0, lim Φβγσ s(N)=∞, lim Φd(N)=0 σ−1

N→0 N→∞ N→0 ´  N→∞ ´ 

N→0 N→∞ N→0 N→∞

(17)

である.内点で最大値が存在するための必要条件

において,最初の不等号はσ> 1 を,もう一方の不等号はβ<_ [σ−1] / [σγ]

を求めている.したがって,この必要条件はσ> 1 かつβ<_ [σ−1] / [σγ] と 等価である.

次に,十分性について考察する.所与の特性Φs(N) とΩ(N) に対して,最大 値が存在するための十分条件はΦ´s(N) <Ω´(N) である.(18)式を用いること によって,この十分条件は

βγρ+βγρτN<ρ+[σ−1][1−ε]εβNβγ

のように書き直せる.γ∈(0, 1] の下で,σ> 1 かつβ<_ [σ−1] / [σγ] ならば βγρ<ρであり,この十分条件は

という強い条件になる.これは,人口規模の上限Nuを課すとともに,十分条 件が満たされるかどうかを調べる便利な方法を提供する.

このことを見るために,

を定義すれば,(18)式は

のように書き直せる.この解のひとつNs=0 は明らかに退化した解であり,他

の解はΔ1(N)=0 の根である.

γ∈(0, 1] の下で,σ> 1 かつβ<_ [σ−1] / [σγ] ならばΔ1(N) は lim Δ1(N)=−∞, lim Δ1(N)=∞, Δ´1(N) > 0

という特性を持つので,Δ1(N)=0 は唯一の正の根を持つ.

0 < lim Φs(N)=   < 1= lim Ωβγσ (N) σ−1

N→∞ _  N→∞

Ns1−βγ< Nu1−βγ=[σ−1][1−ε]εβ βγρτ 

[  ] 

Δ1(N)≡[1−ε]εβNβγ  1−βγ     −   +1+τN τN

1 σ 

ρ  σ 

Δ1(N)=0 στN

[1+τN][ρ+[σ−1][1−ε]εβNβγ]

N→0 N→∞

(18)

この退化しない解が都市人口の上限Nuより小さいことは,次のようにして確 認できる.βγ< 1 であるから,γ∈(0, 1] の下で,σ> 1 かつβ<_ [σ−1] / [σγ] ならばΔ1(Nu) > 0 である.Δ´1(N) > 0 より,Δ1(N)=0 の根は都市人口 の上限Nuより小さい.したがって,γ∈(0, 1] の下で,σ> 1 かつβ<_ [σ−1]

/ [σγ] ならば,(18)式の退化しないいかなる解に対しても十分条件Φ´s(N) <

Ω´(N) は常に満たされる.

(19)

【参考文献】

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宇沢弘文,(1972a)「社会的共通資本の理論的分析(1)」『経済学論集』(東京大学),第 38巻第1号,pp. 2-16.

宇沢弘文,(1972b)「社会的共通資本の理論的分析(2・完)」『経済学論集』(東京大 学),第38巻第3号,pp. 14-27.

(20)

The Doshisha University Economic Review Vol.56 No.2 Abstract

Hiroki KOFUJI, Congestion and Spatial Agglomeration in an Emerging Area In this paper, I examine the socially optimal and decentralized urban growth when public service enters as an external input into private production functions.

In my dynamic general equilibrium model, a public service externality, which is subject to congestion, is the centripetal force towards agglomeration, and the transportation cost is the main centrifugal force. When a city is at a stage of expansion, decentralized choices make a city under-populated and lower than socially optimal in growth rates. This result is due to the failure of decentralized choices to reflect not only constraint of congestion but contribution of public serv- ice to production.

参照

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