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雑誌名 同志社政策科学研究

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(1)

著者 永井 真也

雑誌名 同志社政策科学研究

巻 3

ページ 123‑144

発行年 2002‑02‑28

権利 同志社大学大学院総合政策科学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004737

(2)

地域経営とPFIに関する一考察

永 井  真 也

あらまし

 従来の地域経営のあり方として、一部事務組 合、第3セクター、公営企業、広域連合制度をと りあげ、その問題点を解決する方策としてPF Iの考察を行うことを本稿の目的としている。

PFIは英国において先駆的に試みられている 地域経営の手法であり、日本の従来型の地域経 営との違いは公共サービスの実施者として民間 事業者も認めているところである。公共部門と 民間部門が市場原理に基づいた競争を行うこと で、公共サービスのコストダウンを図っている。

 民間事業者によって公共サービスを行うこと で、民間資金による社会資本整備を可能にする とともに民間事業者のノウハウを公共サービス に導入することができるようになる。このよう な観点から、公共サービスの地域住民への最適 な供給を地域経営とし、PFIの導入の可能性 を検証している。

 本稿では、従来型の地域経営の問題点を提示 し、その対応としての民営化のメリット、PFI の特徴を示した上で、広域ゴミ処理の民間委託 を事例として検証し、現状におけるPFIを導 入する上での問題点を提示している。

   1  サービス基準の設定、情報公開、選択と協議、丁寧かつ親切な対応、正確性、および Value for Money という考え方が示された。

1.はじめに

 英国において 1992 年から取り組み始めたPF I( Private Finance Initiative )は、ノーマン・ラモ ント大蔵大臣がPFIの概念を発表したのに端 を発し、その後の6年間で108億9千2百万ポン ドに及び、実に社会資本整備の1割以上をPF Iで取り組むに至っている。しかし、英国がPF Iを取り組むに至った経緯は、むしろ後ろ向き であり、その起こりは保守党のサッチャー政権 下の財政難にともなう行財政改革の一環が始ま りであり、保守党政権下で「小さな政府」を目指 していく中でたどり着いた結果といえる。その 後、1991 年に次の保守党のメイジャー政権下で は、「市民憲章(シチズンズ・チャーター制度)」1 が導入され、その中でVFM( Value for Money ) という考え方が示された。現在の新労働党のブ レア政権にもPFIは引き継がれ、PFTF(

Private Finance Task Force )が大蔵省内に設置され、

それまで以上にPFIが推進されている。

 PFIを導入した結果として公共部門のコス トダウンを達成できたとの報告があり、英国同 様に国家的な財政危機に瀕している日本におい てもPFIの導入は有効ではないかといった議 論があり、PFIを取り入れるための環境整備 を行っている。そのとりかかりとして、1999 年 7月に「民間資金等の活用による公共施設等の 整備等の促進に関する法律(法律第百十七号)」

(以下、「PFI法」とする。)が国会で成立され、

1999 年9月より施行された。しかし、日本にお いては過去においても「民間事業者の能力の活 用による特定施設の整備の促進に関する臨時措

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  2  第3セクターという用語が初めて公式に使用されたのは 1973(昭和 48 年)年の「社会基本計画」で あるとされている。しかし、

その呼称が一般に定着したのは、1984 年の三陸鉄道の開業以降であろう。

  3 『地方公営企業年鑑』(第 46 集)(地方財務協会、2000 年)によると、平成十年度の公営企業の決算規模は 22 兆 2,492 億円であり 普通会計歳出決算額の 22% を占めている。決算額が大きいものは、下水道事業 7 兆 9,192 億円 , 水道事業5兆 2,126 億円 , 病院事 業 4 兆 7,575 億円 , 宅地造成事業1兆 5,070 億円 , 交通事業1兆 4,539 億円などとなっており、これらの5事業で決算額の 93.7% を 占めている。なお、累積欠損金が大きいのは交通事業2兆 1,761 億円と病院事業1兆 1,429 億円であり、これらの2事業で累積欠 損金合計額(4兆 1,890 億円)の 79.2% を占めている。

置法(法律第七十七号)」(以下、「民活法」とす る。)が 1986 年9月に施行されたが、民活法に基 づき設立された第3セクターの多くが経営的に 行き詰まっている。それでは日本においてPF I法を導入したとしても、民活法と同様の道を 歩んでいくのではないかといった指摘があるが、

PFIは民間企業の出資であり、第3セクター は民間企業と自治体の共同出資であり、その取 り扱う事業の範囲も違う。

 日本において新しい試みであるPFIを導入 し機能させるために、どのような環境整備を 行っていかなければならないのかを英国の先例 に倣って論及し、そこに財政再建下の中での地 域経営のあり方を検証してみたい。そして、多様 化する社会の中で、地域社会においてどのよう に公共サービスを提供していけばよいのかの模 索としている。

2.地域経営の流れ

2.1 地域経営の類型と問題点

 従来型の地域経営手法として、第3セクター、

公営企業、一部事務組合、広域連合制度をとりあ げ、共通することは公共部門によって公共サー ビスが実施されていることであり、そこには競 争を排除した非効率な運営が存在するため、時 代の変化への適応能力を欠いている。また、公的 部門の運営が非効率であるということは税金の 無駄使いがあるということであり、住民本位の 地域経営の視点から離れたものであるといえよ う。

2.1.1  第3セクター

 1986 年に民活法が施行され、これに基づき設 立された第3セクター2は、地域開発、リゾート

開発、福祉、教育などの分野に及んでいる。しか し、第3セクターによる大規模開発は、むつ小川 原開発㈱や苫小牧東部開発㈱などのように多額 の借金を残して何もなさなかったことが問題視 され、国会審議でも第3セクターは「ぬえのよう な機関」であって責任を負うところがないとさ れ、その運営の失敗の責任が明確でないことが 指摘された。

 第3セクター運営の失敗の原因の1つと考え られるのがその設立目的であり、民間企業が参 入しない分野で、かつ自治体の業務の及ばない 分野に、各自治体が地域の活性化を目的に新規 事業に着手した結果、当初の見込みほど事業運 営がうまくいかなかった。一度、動き出した第3 セクターは、地域性を主張するがために事業性 を見失ったまま、適切な処理を行われずに今日 まで残っている。

 失敗の第2の原因は、第3セクターの運営が もともと官民の寄り合い所帯であり、支援して いる自治体の体質と民間企業の体質は違ってお り、どちらかといえば官主導の無責任体質の中 では、民間の効率的な運営や民間のマンパワー と資金を利用するといった当初の目的は果たさ れなかった。結果的に、第3セクターは問題の先 送りとその延命が図られ、地元自治体に多額の 債務保証と損失補填としての補助金を残した。

 第3セクターの今後の対策としては、公務員 の身分保障されたもとでの経営と自治体頼みの 経営体質があり、組織全体としてモラルハザー ド(倫理の欠如)に陥っていたことがあげられ る。また、こうした状態をチェックする第3者機 関による運営の適切な監視がなかったことも制 度上の問題点である。

2.1.2  公営企業

 公営企業3は、公営交通や病院や上下水道事業 や宅地造成など住民の生活に直結した生活に必

(4)

要とされる準公共財的事業を公共サービスの一 環として行ってきた。この中には一部事務組合 で行われているものもある。

 公営企業は自治体から独立した独立会計を 採っているが、実際の運営においては殆どが自 治体の補助金に頼った運営を行っている。なぜ なら、準公共財であるサービスには外部性があ り、民間企業に任せると財・サービスの最適供給 水準を下回るので、補助金の拠出が正当化され るからである。しかし、現在においては病院・交 通・宅地造成においては、民間企業と競合する場 合が多く、民間企業よってサービスが提供でき なかった時代にはその存在意義があったが、民 間企業でも同様のサービスができるようになっ てくると、その存在意義が曖昧になってくる。

 民間企業と競合する公営企業の問題点として、

その職員の待遇が公務員待遇であるために現業 職にも行政職と同じ一律の賃金体系を用いてお り、公営企業の職員の給料が民間企業の職員に 比べて割高になり赤字の原因となっている4。基 本的に民間企業と公営企業が競合的である場合 で、さらに公営企業が赤字である場合には、長期 的には公営企業は、民営化していかなければな らない。

2.1.3 一部事務組合

 一部事務組合は、本来は自治体単位で行政 サービスを行うべきであるが、自治体の規模が 小さいために複数の自治体によって特定の事務 を共同して行う組織体である。主に、消防や非尿 処理といった広域で行うことでメリットがある 事業に対して一部事務組合を形成して執り行っ ている。一部事務組合によって運営が行われて きたのはナショナル・ミニマムとしての公共 サービスが中心であり、現在は介護保健制度の 導入と共に、シビル・ミニマムへの対応として広 域連合制度への移行も考えられている。広域的 に一部事務組合で行政サービスを執り行ってい く際の問題点を地域経営の課題として3点ほど あげておきたい。

① 広域市町村計画の実効性

広域市町村計画については、各市町村にお いて当該計画の重要性が十分認識されてい ないことから市町村計画の張り合わせ的な ものとなり、広域計画の統一性が乏しいこ となどから、事業執行にあたっては市町村 に頼らざるを得ず、当該計画に対して組合 として十分にイニシアティブが発揮できて いない現状にあること。

② 財政基盤

組合の財源は、関係市町村の負担金に依存 していることから事務執行に必要な事務局 体制の充実をはじめ、事業執行のあらゆる 面において関係市町村の意見や利害に左右 されやすく、組合の独自性、自立性が確保で きないこと。

③ 事務局体制

組合の事務局は、特定の市町村からの派遣 職員で構成されており、2〜3年で派遣元 へ戻る例が多いことから、継続性の確保に 問題があり、広域的視点からの総合調整や 企画立案が十分行いうる体制に欠けている こと。

以上が一部事務組合の問題点としてあげられる。

新しく設けられた広域連合制度は、1つの自治 体として存在しており、①と③の問題点は解消 されるようになっている。

2.1.4  広域連合制度

 地方分権推進委員会の第二次勧告において、

「多様化・高度化する住民ニーズに対応したより 高度の行政サービスの提供が求められているこ とから、今まで以上に積極的に広域行政の推進 に取り組む必要がある」と指摘されている。それ を受けたかたちで、平成6年の地方自治法改正 で制度化され、平成7年6月から施行された広 域連合制度の活用を促進していくことが求めら れている。

 広域連合は2つ以上の市町村が一緒に事務を こなすことであり、従来から一部事務組合、広域 行政圏といった制度によってごみ処理や消防な どの事務を行ってきたが、新しい広域連合制度

  4  社団法人日本バス協会編『日本のバス事業・1999 年版』155 頁によると、平成9年度で一人当たり人件費は、民営 7,685 千円、公 営 11,023 千円で、約 43.4% 割高である。

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は、本来の市町村の事務の他に、国・都道府県か ら直接に権限・事務の委託を受けることができ る5。広域連合制度が一部事務組合と違う点は、

それだけで単独の自治体として認められる点で あり、広域連合の長と議員は直接または間接の 選挙によって選ばれ、全く新しい独立した地方 政府が誕生することになる。

 しかしながら、その財政基盤が広域連合制度 に参加している自治体に依存している。広域連 合制度の財源は、3分の1は構成自治体で均等 に負担し、3分の1は町の人口に応じて、また、

残りの3分の1は関係市町村の標準財政規模に 対して負担される。自治権は認められているが 独自の財源も持っておらず、地元自治体の財政 力によって運営が左右される結果になっている。

一部事務組合の問題点であった財源については 改善されていない。

 この広域連合制度の組織・機能は米国の特別 区に類似しているが、米国の特別区は取り扱う 行政サービスごとに行政区が成立しており、そ れぞれの特別区の行政範囲は異なっている。ま た、州によって異なっているが、特別区の財源の 半分はサービスからの収入であり、もう半分は 補助金と固定資産税によって成り立っており、

収益性を追求する傾向があり民間的な運営を 行っている。広域連合制度は、独立性は認められ ているが、独自財源を確保されておらず現実性 に欠けた独立性となっており、米国の特別区の ように自治体には独立性と独自の財源が必要で ある。

2.2 新しい地域経営−PFIへの取り組 み−

 自治体外に別の形態をとって公共サービスを 提供しているが、官僚的で非効率であったり、財 源の束縛を受けていたりしていた。先に見てき たように、第3セクターの場当たり的な経営計 画からくる赤字経営でも倒産しないモラルハ ザードに陥った経営体質や、公営企業のように 全ての職員を公務員として雇用するために仕事

に合った賃金体系が確立されていないために、

賃金高からの赤字体質を招いたりしている。一 部事務組合の問題点を改善した広域連合制度も 財政面からの束縛受けるため、独自の財源が必 要である。それらの問題点への解決策として、P FIを地域経営の取り組みの1つとして紹介し たい。

2.2.1 世界の流れ−世界銀行レポート より−

 世界的に民営化が広がっており、この背景に は2つあり、1つは先進国が財政赤字のために 国営企業を含めた政府部門を民営化してきたこ とと、もう1つは世銀グループやIMFなどの 国際機関が途上国援助のために構造調整政策を 採ってきた経緯がある。ここで参考とした世界 銀行の社会資本整備への民間資金導入のレポー トは、我が国でPFIを取り組む上でも有効な 意見であり、その内容を紹介しておきたい。

 まず、はじめに経済の発展は社会資本に大き く依存しているとした上で、社会資本の整備は 政府だけの役割ではないとしている。

 その社会資本の効率が悪い場合として3つ指 摘しており、①行政運営にアカウンタビリティ がない場合、②財政難である場合、③市場原理が 欠如している場合としている。また、民間によっ て社会資本整備がなされた場合には、市場原理 により効率的に運営され、ひいては財政的にも 余裕が生まれ、その他の事業に資金が回せるよ うになるとの立場から民間資金による社会資本 整備のメリットを指摘している。その市場原理 を導入し民間企業に参入を促すために必要なこ ととして、①規制の枠組み、②適正な料金体系、

③補助金システムの3つを行政の能力として要 求しており、最終的には民間資金の導入可能な 分野は全体の約7割程度ではないかとしている。

以上が世界銀行の民間資金による社会資本整備 に関するレポートの中からの指摘である。

 表1は 1995 年における4業種のみの比較であ るが、PFI先進国の英国では民営化率が 71%

と高く、日本の民営化率は 14% と低い。日本で

  5  広域連合制度の効率性から考えると、外部効率性は国・都道府県から事務を引き受けることでより住民に近いところで事務を行 うようになり達成され、さらに、内部効率性は複数の市町村が共同で事務を行うことで達成されている。ここでいう外部効率性・

内部効率性については3.4で詳述している。

(6)

は特に水道事業の民営化の遅れが目立つ結果に なっている。

 PFIへの取り組みの積極的な国は、英国、米 国、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア 等の国々であり、共通点としてあげられている のが国内の財政赤字に伴う行政改革を実施して きた国々である。

2.2.2 英国におけるPFI

 英国では財政的側面から民営化、PFIへの 取り組みを行っている。1991 年にメイジャー政 権下で「市民憲章」(シチズンズ・チャーター制 度)が示され、その中のVFM( Value for Money

)という考え方は、「国民の支払う租税に対し、最 も価値の高い公共サービスを提供すべし」とい うものである。その取り組みは、「行政が自ら担 い続けなければならない役割は何か」が改めて 問われ、国民のための最適な公共サービスを提 供するためには、必ずしも政府自らがサービス の実施者になる必要はないとし、民間部門と公 共部門をイーコール・フッティングにおいて競 わせることで、民間の優れた部分を公共サービ スに取り込もうとしている。イーコール・フッ ティング確立のために、関係法令の改変などに も着手しており、さらに市場原理での競争のた め公共部門のサービスコストをはじき出す方法 としてPSC( Public Sector Comparator )といった 基準も設けている。

表 1 世界の民営化率

出所)World Bank Staff Estimates 1997     Private investment in infrastracture, 1995

〔percentage share〕

Telecom OECD-high income countries

France 0 0 10 36 13

Germany 0 67 0 20 9

Japan 35 96 3 0 14

Netherlands 100 23 8 54 46

United Kingdom 100 100 21 100 71

United States 100 81 13 22 47

Middle-and liw income countries

Chile 100 99 7 4 54

Cote d'lvoire 0 30 0 25 10

Hungary 98 100 53 0 76

Philippines 87 49 25 0 42

Tailand 31 30 20 0 17

Average 59 61 15 24 36

Power Tansport Water/sewer private share Weighted

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 ここで、公共部門におけるPFI導入のメ リットとしては、内部的な効率性においては競 争入札によって、人、物、金、情報の最適調達を 行うことでコストダウンが図られることである。

同じく外部的な効率性は、事業性を確保するた めに事前調査(事業評価)を行うことで住民の ニーズを掴むことができること、事後的にも選 定事業者が常に収益性の拡大を求めて行動する ため常に住民のニーズを把握しようと努力する ことである。

 PFIを行政面から見ると事業の管理のため の手段になるが、財政面から見ると資金調達手 段になる。資金調達にはプロジェクト・ファイナ ンスといった手法が用いられ、事業における キャッシュフロー(現金収支)を明確に描くこと で、民間資金の導入を図っている。PFIの前提 条件として契約・事業の透明化が図られなけれ ばならず、情報の非対称性が残っていては後で のトラブルの元であり、詳細な契約によってリ スクを如何にコントロールするかを確定してお かなければならない。

3.PFIの機能

 民営化が世界的な潮流であり、特に英国等で 行われているPFIにはどのようなメリットが あるのか、市場原理の導入のメリットと効率性 を中心に考察してみたい。

3.1 モラルハザードとインセンティブ の関係

 第3セクターのように、民間企業形態をとっ ていたとしても、自治体の補填によって支えら れるならば赤字になっても存続し続けられ(リ スクがなく)、黒字を計上し続けて存続していこ うといった企業努力(インセンティブ)が失わ れ、モラルハザード(倫理の欠如)に陥ってしま う。

 PFIは、公共サービスを民間事業者に行わ せており、民間事業者においては自治体からの 財政補填は期待できず、倒産の危険(リスク)が ありモラルハザードを回避できる。それは、PF Iの選定事業者にはインセンティブが発生し、

そのインセンティブの発生を明確にするために は選定事業者のリスク負担を明確にしておく必

要がある。

 PFIのインセンティブは2つのインセン ティブに分けることができる。従来の社会資本 整備では公的部門が設備(ハード)を所有してい たが、PFIにおいて特徴的なことは民間事業 者がハードを所有していることである。従来の 公共部門は所有権を得ることで利用権を得てい たが、PFIでは公共部門は利用権だけを得よ うとしており、公共部門のあり方としては実施 型から管理型へ移行しているといえる。2つの インセンティブとは、所有権からのインセン ティブと利用権からのインセンティブである。

民間事業者は、自ら所有権を有すること(所有リ スク)で他人のモノより自分のモノを大切にし ようというインセンティブが働く。また、公共 サービスに対して自治体が支払う料金の体系に インセンティブが働くようにしておくこと(営 業リスク)で、PFIの選定事業者に企業努力を 行うインセンティブが発生する。従来の公共 サービスのあり方に対してPFIのあり方は、

インセンティブの創出とモラルハザードの防止 の効果がある。

3.2 市場原理のメリット

 PFIによって、公共部門と民間部門を競争 的にするメリットは、一般的にいわれるように、

独占市場にある公共サービスの市場を民間事業 者の参入によって競争的市場に移行させた場合 に、価格競争によって供給曲線が下方にシフト することで社会余剰が拡大することである。

 図1にあるように独占市場の場合には、限界 収入曲線と限界費用曲線によって供給量 Q が決 定し、需要曲線上の点Aの供給量によって価格P が決定され、社会における公共サービスの価格 が決定される。PFIによって、独占市場から競 争市場へ移行する場合に、価格は限界収入曲線 と限界費用曲線の交点から限界費用曲線と需要 曲線の交点へと移行する。公共部門限界費用曲 線と民間部門限界費用曲線が異なり、民間部門 の方が安くサービスを生産できるのであれば、

限界収入曲線と公共部門限界費用曲線によって 決定される供給量Qから、民間部門限界費用曲線 と需要曲線によって決定される Q* へと増加す る。そして、需要曲線上の供給量に対する価格は

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P から P* へと低下する。

 PFIを用いて民間部門と公共部門の優れた 方を採用すれば、公共サービスのコストの低下 をもたらし、□ ABPP* で表される消費者余剰の 拡大がもたらされる。

 さらに、市場が競争的であり、参入の機会が確 保されている場合には民間事業者同士の競争が 始まり、図2の需要・供給曲線において述べる と、当初の需要曲線Dと供給曲線Sによって決 定された価格pは、より競争的市場になることで 供給曲線Sが下方にシフトして供給曲線S'にな り、需要曲線Dと供給曲線S ' によって決定され

た価格は p' となり、価格はpからp ' へと低下す る。このとき供給量はqからq ' へと増加してい る。(点Aから点Bにシフトする)

 この価格と供給量の移動を社会余剰で考える と、需要曲線Dと供給曲線Sの領域で示される 社会余剰は、消費者余剰△C A pと生産者余剰△

E A p の合計△ C A E で示される。一方、需要曲 線Dと供給曲線S ' の領域で示される社会余剰 は、消費者余剰△ C B p' と生産者余剰△ O B p' の 合計△ C B O で示される。供給曲線の移動によ り、交点Aから交点Bへと移動すると全体の社会 余剰の面積は△ C A E から△ C B O へと□ A B 図1 独占市場から競争市場への移行

図2 価格と社会余剰の関係 価格

P A

Q Q* 供給量

限界収入曲線 需要曲線

民間部門限界費用曲線 公共部門限界費用曲線

B P*

P C

p

A

p' B

E

O q q'

Q 供給曲線S' 供給曲線S 需要曲線D

(9)

O E分拡大しており、競争的であることは均衡価 格の低下によって社会余剰の拡大をもたらすこ とで、結果としてより社会厚生を拡大させてい る。

3.3 パレート最適

 効率性と公平性はトレードオフの関係にある が、それはパレート曲線上に選好点がある場合 である。すなわち、公共部門に任せておけば最適 価格によって行われているというのであれば、

その選考点はパレート曲線上にあり、効率性を 減らすことなく公平性を増やすことができない パレート最適(逆も同じ)の行政運営がなされて いることを意味している。

 パレート曲線上に選好点がない場合(図3の 点C)では、効率性でも公平性でも達成できるも のを達成することで、住民の効用の拡大ができ、

選好点をパレート曲線上の点Dに移行すること を目指せばよいことになる。

3.4 行政の外部効率性と内部効率性

7  自治体の効率性を2つに分けると、1つは住 民ニーズに合致させていく外部効率性と、もう 1つは公共サービスを如何にして低いコストで 生産していくかという内部効率性がある。外部 効率性とは配分の問題であり、内部効率性とは 生産性の問題である。

 図4の生産可能性曲線FFと社会的無差別曲線 W1, W2,W3において考えてみと、生産可能曲線FF 上にない点Sにおいては非効率な生産が行われ おり、内部効率性と外部効率性の両方に問題が ある。点Sは、同じ社会的無差別曲線 W2上にあ る点Tか点Rのいずれかに移行することで、内 部効率性を達成することができる。同じ生産可 能性曲線上にある点Rと点Pにおいて同様に内 部的に効率的なサービスが生産されているが、

社会的無差別曲線からは、社会的無差別曲線 W1 上の点Pが社会的無差別曲線W2上の点Rより住 民の嗜好に近い生産を行っていることが分かる。

点Pのほうが点Rより外部効率性が高く、同じ 内部効率性ならば住民ニーズに近い方がより効 率的である。

図 3 公平性と効率性のトレードオフ

 ここでは自治体が非効率な運営を行っており、

PFIによって市場原理を導入しコストダウン を図ることで効率性を追求し、パレート曲線上 に選好点を移行させることを目論んでいる。し かし、パレート曲線上に選好点がある場合には、

それ以上に効率性を追求することは返って公平 性を損なう結果となってしまう6。公共性の観点 から、PFI契約にはある程度の公平性を残し た形での運用を要求しなければならない。

  6  効率性とトレードオフにあるものとして安全性も考えられるであろう。この場合も効率性を追求しすぎて安全性を損なう可能性 もある。

  7  内部効率性と外部効率性の定義は〔神野 00〕によるが、〔林 99〕68-72 ページでは生産の効率性と配分の効率性とし、本項では、

その説明に〔林 99〕を参考にしている。

図4 内部効率性と外部効率性

 また、社会的無差別曲線 W1, W2は同一の社会 において比較を行っているが、社会的無差別曲 線W3のように明らかに社会的無差別曲線W1, W2 と住民の嗜好が違っている場合は、生産可能性 公平性

効率性

C D Y

W3 W2 W1

F

S T

P

R F

O X

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曲線と社会的無差別曲線W3が接している点Tが 最も効率的な生産を行っている。本来住民の嗜 好は地域ごとに異なるはずであるが、現在の財 政制度は全国的に一律の補助金政策を行ってお り、必ずしも住民の嗜好を満たすような外部効 率性を追求しているとはいえない。補助金の影 響を受けずに社会資本整備が行われるならば、

生産可能性曲線上の最も住民の嗜好を反映する 点が選択されるだろうし、そのためには住民の ニーズ(社会的無差別曲線)を常に掴むインセン ティブが制度的にビルトインされてなければな らない。PFIは料金制度にインセンティブが 持ち込まれているために、企業の利益拡大のた めに事業の外部効率性を追求するであろう。

 さらに、内部効率性の問題点である生産の効 率性を2つに分けると、1つは与えられた資源 で最大の生産をすることと、もう1つは一定の 生産をするのに必要な費用を最小化することで ある。すなわち、前者は生産ロスを最小限にする ことであり、後者は生産財の投入の割合を最適 にすることである。図5において、点Aは生産を 最大限効率化させることによって点 B へ移行す る。1つ目の条件を満たす。点 B と点C は等産出 曲線 I I 上の2点である。等産出曲線 I I と等費用 曲線P Pの接点である点Cがより安く生産されて おり効率的である。同じモノを生産するならば 点 A より点 B、点 B より点 C が有利である。公共 サービスが点Cを目指していくためには、競争的 な環境でより効率的に生産するインセンティブ を制度的に創出していかなければならない。

3.5 公共サービスの広域化

 PFIの選定事業者がさらに事業の効率性を 追求するならば、範囲の経済と規模の経済を考 えるであろう。

 範囲の経済は、同じ地域の中で1つだけの公 共サービスを提供するだけでなく、2つ、3つの 公共サービスを同時に行うことによって達成さ れる効率性を追求している。例えば、水道事業と 通信事業を同時に行うことによって2度工事が 必要なところを一度にしてしまうことができる。

しかし、実際には選定事業者が2つの事業を同 時に受注することが必要であり、範囲の経済の 達成には、自治体が発注する際に計画的に発注 することが必要と考えられる。

 規模の経済については、選定事業者が自ら所 有している社会資本をより効率よく運営するこ とを考えるならば、一度により多くの仕事をこ なした方が効率的に運営できるので、契約をし た自治体の周辺自治体に対して同様の契約をし ようと働きかける。ここにおいて従来の公共 サービスとの違いがあり、自治体ごとの公共 サービスの提供といった行政運営の枠組みを越 えて、公共サービスが行われていくであろう。

4.PFIの経営

 民営化によって民間資金が公共部門へ導入さ れると、従来の税金と違って返済義務があり、そ れは民間資金には貸し倒れリスクが発生するこ とも考慮しなければならない。デフォルト・リス クがある限り、資金の提供者に対するアカウン タビリティが必要になり、事業性が明確でなけ ればならない。

4.1 ストック経営からキャッシュフロー 経営への転換

8

 従来の社会資本整備のあり方では、自治体に よって施設(ハード)が建設され、維持管理(ソ フト)も行われてきた。自治体自らが実施者とし 図5 生産の効率性

  8  年々の支出がフローであり、その蓄積がストックであるが、ここでは、公共部門から民間部門への根本的な転換の意味合いを込 めて、民間資金による社会資本をキャッシュフローによるものとしている。

A I B

P

O 労働

資本 P I

C

(11)

ての社会資本整備のあり方は、ハードによって 公共サービスが行われているといった考え方で あり、この考え方は国からの補助金のあり方に 影響を受けている9。従来の様にハードの建設だ けで公共サービスが行えるのであれば、自治体 がその信用力を背景に起債して最も安い金利で 資金調達を行い、自らハードを建設すれば最も 効率が良かった。しかしながら、ナショナル・ミ ニマムの時代を経て、住民ニーズが多様化する 時代へと移ってきた今日において、多様な住民 ニーズに応えていくためには画一的なハードの 提供が公共サービスであるという考え方は通用 しなくなってきており、自治体は多様性のある ソフト面を重視した公共サービスへと変化させ なければならない。時代の変化を背景に、多様な 公共サービスを提供することが要求される中で の社会資本整備のあり方として、自治体自らが 実施者として画一的なサービスを行うよりも、

自治体は民間事業者から必要なサービスを適時 購入してくることで、住民への最適な公共サー ビスを提供していくことが可能になるだろう。

その過程において、自治体は公共サービスにお ける役割を実施者から管理者へと立場を変えて いかなければならない。

 英国において始まったPFIは、民間企業に 企画、資金調達、建設、維持管理、運営すること を要求しており、自治体はそのサービスの購入 体となっている。民間企業は 20 〜 30 年に及ぶ長 期の契約を結び、その間、常に住民ニーズを満た し続けなければならないので、創意工夫を行わ なければならず、そこには民間企業の最適なノ ウハウが公共サービスへと吸収される仕組みが ビルトインされている。民間事業者が最も注意 を払うのは、どのようにして長期間維持管理し ていくかであり、そのためにはどのようなハー ドを建設すればよいかを設計段階から考えるよ うになるであろう。

 PFIを導入すれば、自治体はサービスの購

入者として毎年受けたサービスに応じた一定の 金額を支払っていけばよいのであり、それ以外 のリスクは民間事業者に任せてしまえるように なる。自治体は、サービスを受け取るのみで代金 を支払えばよく、社会資本の建設・維持管理が自 治体から切り離されている。社会資本整備の維 持管理を引き受けた選定事業者はその自治体か らの収入、もしくはそのサービスの受益者から の収入に頼って、企業運営がなされている。

 民間事業者にしてみれば、ライフサイクル・コ スティングを図って最も効率的で安いものを考 え、決められた料金体系の中で如何に利益を上 げるかが、経営上の問題点である。さらに設立資 金への借入金の返済も毎年行っていかなければ ならないので、年々の元本支払い前のキャッ シュフローがどの程度あるのかを事業計画とし て作成しなければならない。

  ラ イ フ サ イ ク ル ・ コ ス テ ィ ン グ の 発 想 と キャッシュフローの発想は、社会資本整備のあ り方においてモノの面からと資金の面からの裏 表の関係にあり、PFIを実行していく上で2 つの軸になる発想である。これらの考え方に基 づく社会資本整備のあり方は、ハード重視から ソフト重視へと移行しており、自治体によるス ト ッ ク 経 営 の 時 代 か ら 、 選 定 事 業 者 に よ る キャッシュフロー経営へと転換していくことを 意味している。

4.2 ストラクチャード・ファイナンスと してのPFI

 PFIの資金調達の方法としては、ストラク チャード・ファイナンス10に依存することにな る。ストラクチャード・ファイナンスとは、大き く分けて銀行からの借入で行うプロジェクト・

ファイナンス11と証券化によって資金調達するセ キュリタイゼーションの2つがある。銀行が間

  9  現状での国から地方への補助金は、社会資本整備の建設に対してなされており、その運営における費用・人件費に対してはなさ れていない。

10  ストラクチャード・ファイナンスとプロジェクト・ファイナンスの違いに関しては〔大垣 97〕52 ページに紹介されており、「プ ロジェクトから生じるキャッシュフローを引き当てとする広義のプロジェクト・ファイナンス」を広義でのストラクチャード・

ファイナンスに加えている。本稿ではプロジェクト・ファイナンスとセキュリタイゼーションが選択的に同じ事業に用いられる ことからプロジェクト・ファイナンスをストラクチャード・ファイナンスの一種として扱っている。

11  一般的なプロジェクト・ファイナンスの定義として、「特定のプロジェクトに対するファイナンスであり、そのファイナンスの元 利金の返済原資を原則として当該プロジェクトから生み出されるキャッシュフローに限定し、またそのファイナンスの担保を当 該プロジェクトの関連資産、権利に依存して行う金融手法。」と〔第一勧業銀行国際金融部編 99〕67 ページに示されている。

(12)

接金融で行った場合はプロジェクト・ファイナ ンス、証券会社が直接金融で行った場合はセ キュリタイゼーションである。

 プロジェクト・ファイナンスと従来のコーポ レート・ファイナンスの違いは、プロジェクト・

ファイナンスは銀行が個々の事業ごとに審査を 行い事業に対して貸付を行うことであり、コー ポレート・ファイナンスは銀行が個々の企業ご とに審査を行い企業に対して貸付を行うことで ある。本来的にプロジェクト・ファイナンスは、

油田開発など鉱物資源開発のために行われる融 資形態で、担保を取ることはできないが、毎年確 実に一定のキャッシュフローがある事業に使わ れる。審査の違う点としては、プロジェクト・

ファイナンスが事業のキャッシュフロー(現金 収支)12を返済原資として貸付が発生するのに対 して、コーポレート・ファイナンスは企業の信用 力に対して貸付が発生している。前者はキャッ シュフローに対して貸付し、後者は担保に対し て 貸 付 が 行 わ れ て い る 。 P F I に お い て は キャッシュフローの確保が生命線であり、プロ ジェクト自体の価値に対しての評価に基づいて 資金調達が行われている。

 セキュリタイゼーションとプロジェクト・

ファイナンスにおける違いは、証券化によって 機関投資家から資金を調達するか銀行から調達 するかであり、その他の仕組みは基本的には変 わらず、セキュリタイゼーションは不動産の証 券化などで頻繁に利用されている手法であり、

証券のマーケット自体は広がりつつあり、PF Iの実績ができてくれば大型案件への利用が期 待される。

4.3 PFIの資金の流れ

 PFIを1つのプロジェクトとして独立させ ることで、明確に事業全体が見渡せる。独立した 企業体とすることで、自治体側からも選定事業 者からも会計的にはオフバランスの関係になり、

自治体の財政状況から独立し、選定事業者の会

計からも独立することができ、両者の影響を受 けることはない。この独立した企業をSPC13( Special Purpose Company )(「特定目的会社」とい う)と呼び、SPCに社会資本を財産として譲渡 する。オフバランスにあるということは、万が一 にも選定事業者が倒産などによって管理ができ なくなったとしてもそのSPCは、その債権者

(ここでは銀行や機関投資家)によって維持管理 されるようになり、具体的には債権者によって 別の管理能力のある会社を探し管理を委託する ものと考えられる。

 まず、PFIにおいてSPCの設立をおこな うが、SPCは特別法上の営利社団法人(商人)

であり、最低資本金 300 万円以上、出資単位1口 5万円以上、「発起人」による定款(資産流動化 計画を含む)の作成等、募集設立不可となってお り、SPCは選定事業者が設立するものと考え られる。よってSPCの運営権は、選定事業者

(運営会社)にあるが、選定事業者は初期投資の 建設資金などを補うために借入金を発生させて いるので、その株式は銀行の担保になっている。

証券化の場合も同様である。SPCのキャッ シュフローの一部は銀行への返済原資であり、

証券化の場合は資金調達のために発行した社債 の償還原資となる。実際に、回収原資である キャッシュフローを保全するためにエスクロー 信託設定を行い、これは委託料の請求権を信託 銀行に委託し一定条件を満たす支払いにしか出 金を認めないようにしている。

 SPCの資産は資本金が最低 300 万円の過小 資本であるので、銀行からの借入金や機関投資 家に対して発行した社債が殆どであり、バラン スシートで考えれば非常に不安定な存在である が、返済原資であるキャッシュフローが安定し ているので、SPCの実現が可能である。すなわ ち、PFIの運営において、民間事業者は営利目 的であり活動に見合った収益がなければ運営し ていけないし、資産があっても収入がなければ 企業活動が維持できないが、常に手元に現金が あり資金繰りがついていれば潰れることはない のである。経営的に述べれば、貸借対照表より

12  キャッシュフローは、営業キャッシュフローを指しており、銀行への元本支払い前のキャッシュフローである。営業キャッシュ フローは、キャッシュフロー = 税率 × 現金収支 +(1−税率)× 非現金収支で求められ、非現金収支には減価償却費が含ま れる。その他のキャッシュフローには、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローがある。借入金の返済、社債の償還は、財 務キャッシュフローで示される。

13  SPCとは、「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」(SPC 法)において定められた特定目的会社である。

(13)

は、損益計算書を重視し、そのためにはキャッ シュフロー計算書を最も重要視する。

 もう一つの手法であるセキュリタイゼーショ ンの場合はSPCの構造は同じであるが、社債 を発行するために発行の条件を整えなければな らない点がプロジェクト・ファイナンスと違っ てくる。社債の発行は債権者を保護する必要が あるためにより多くの手段を用いなければなら ない。(図6参照)

 まず、債券市場に社債を発行するためには BBB以上の格付け14を必要とし、そのためには格 付け会社から格付けを取得しなければならない。

BBB 以上の格付けが取得できない場合には、信 託銀行によって信用補完を受けなければならな い。このときに、信託銀行は、自らSPCの内容 を審査しその社債が信用力を有すると判断した ときに、自らの信用力を社債に与えることで社 債の発行を可能にする。この場合、信託銀行の格 付けが社債の格付けとなり、信託銀行の格付け がAAであれば、SPCの発行する社債の格付け は AA になる。もちろん、これを応用して、BBB 以上の格付けを取得しているSPCの社債で あっても格付けを上げ、調達資金のコストを下 げるために信託銀行に信用補完を依頼する場合 もある。

 また、セキュリタイゼーションの資金調達を 社債として一括に扱ってきたが、詳しく分けれ ば、社債の他に劣後債、優先株といったものがあ る。劣後債はSPCが倒産した場合に残った資 産を配分する場合に社債債権者の後に分配を受 ける位置づけであり、社債よりもリスクが高い が利回りがいいといった特徴があり、実際的に は劣後債を設けることで社債債権者に安心感を 与えて引き受けを促進させる効果がある。

 もう一方の優先株は、株主総会での議決権を 持たないが、株主に優先して配当金を受け取る ことができる。優先株を設けた場合には資本金 が多くなり、借入金の割合を抑えることでより 経営を安定させる効果があり、また社債の危険 度が下がるために社債の引き受けを促進する効 果がある。

4.4 PFIの破綻したケース

 PFIが破綻したケースにおいて自治体側が 受ける被害は最初の出資金のみであり、ストラ クチャード・ファイナンスの性格から自治体側 が債務保証をすることはなく、被害は民間資金 の提供者にのみに及ぶ。その時に、銀行や機関投

14  BBB 以上の格付けとしたのは、機関投資家のファンドマネージャーの資金運用規定において BBB 以上の格付けの債券投資に対 して免責とされており、機関投資家からの資金調達を考慮したためである。

図6 証券化の流れ セキュリタイゼーションの場合

SPC

資産 負債

社債

劣後債 優先株 資本金

信託銀行等が 信用補完

格付け会社 による格付

投資家が 証券購入

300万円

(14)

資家が次善の策を取ることができた場合は問題 ではないが、次善の策もなくPFIを解体する に及んだ場合は、PFIによる公共サービスの 提供が止まってしまい、住民に影響が出るので、

この時、PFIを自治体の手によって残すのか 残さないのか議論をしなくてはならない。そこ で、必要と判断されれば、自治体による運営とな り、税金の投入が妥当なものとなる。

 公共サービスを提供するPFI企業の倒産を 認めているのは、倒産のリスクがなければモラ ルハザードに陥ってしまいPFI企業による効 率性の追求が損なわれてしまう。効率性を追求 させるためのインセンティブのために倒産のリ スクを受け入れることになる。モラルハザード の防止により発生する倒産リスクとその見返り に得られる効率性がトレードオフの関係にある。

4.5 民間資金調達による監視機能

 PFIは民間資金によって社会資本を整備し ようという試みであり、当然のことながら銀行 は預金者から預かった資金を安全に運用する義 務があり、機関投資家においても運用委託した 顧客の利益のために運用する義務があるため、

その事業会社の運営が民間によって監視される ことを意味している。

 資金調達の過程において、資金の提供者であ る銀行、投資家からPFI事業へのチェックが 入るようになり、その運営においても監視され る。これらの監視によってPFIの選定事業者 は、従来までの自治体のみの監視から、民間資金 と自治体の双方からの監視の下で事業を請け負 うことになる。

 税金による公共事業の場合、個人が行政全般 の運営を監視することは実質的には不可能であ り、そのために必要とする時間と労力を考える と割が合わず、個人による監視は考えにくい15。 しかし、特定の事業の運営に対して資金を出す 場合は、その特定の事業に対してのみ事業運営 を監視することが可能になってくる。契約を締 結する自治体側はもちろんであるが、その入札 に不備がないか第3者による公平な監視が必要 となる。

 実際にPFI先進国の英国においては、平均 で入札に事業費の1割を当てている。

というのは、PFIにおいてリスクの配分にお ける利害闘争があるので、契約に際して、弁護 士、会計士、コンサルタント、金融機関が、一年 程かけて契約内容を吟味していく。

さらに、PFTF( Private Finance Task Force ) によってPFIの詳細なガイドラインが作成さ れていること、各プロジェクトは会計検査院(

NAO )によって事後評価をうけることになってい るなど第三者機関の介入によって契約の透明性 が維持され、制度的な面でも日本に比べ充実し ている。

5.PFIのモデル分析

5.1 米国での広域ゴミ処理行政

 イリノイ州ロビンス市の産業廃棄物発電プロ ジェクトは、ロビンス市を含む周辺 12 市町村の 廃棄物を処理するもので、事業主体はフォス ター・ウィラー・イリノイ社で 1997 年から稼働 を開始し、1日当たりの処理能力は 1,600 トン、

事業方式はBLO( Build Lease Operate )、総事業 費は約2億ドルといった内容である。ロビンス 市が財政的に窮地にあったため、単独では廃棄 物の焼却処理場を建設することはできなかった ために周辺市町村と広域連合を形成することで プロジェクトの実施にこぎつけ、さらにロビン ス市の財政負担を低減するために自らがゴミの 受け入れ自治体となった。結果的に、市は負担軽 減のための方策として周辺 11 市町村のゴミの受 け入れによるホストタウンフィーの徴収(ただ し、受け入れ単価は毎年交渉して決定)とBLO による民間ノウハウの導入に成功した。

 BLOの具体的な内容を紹介すると、ロビン ス市が建設資金を調達して、事業会社が廃棄物 発電プラントを建設し、事業会社がロビンス市 から土地・プラントを借り受けてプラントを運 営するといったものである。ここで、ロビンス市 が起債に利用したのはレベニューボンドと呼ば れる債権で、米国では社会資本整備のための資 金調達などでよく利用され、債券からの利子所

15  ダウンズの「合理的無知」に基づく。

(15)

得に課税がなされない債権であるため、一般的 な基準よりも安い金利で資金調達できた。設計・

建設・管理運営(事業期間は 20 年間)はフォス ター・ウィラー社が一括して行い、事業会社が得 意な分野は事業会社に任されている。フォス ター・ウィラー・イリノイ社はロビンス市から施 設を借りているが、適切に維持管理しておかな いと 20 年間の契約が履行できなくなるので、自 らが施設を所有しているのと同じような行動を とるであろう。なお、ロビンス市の起債の利息と 元本返済はフォスター・ウィラー・イリノイ社か らのリース料で賄われ、フォスター・ウィラー・

イリノイ社はリース料の支払い分を周辺自治体 のゴミの焼却費から回収する。(ロビンス市のゴ ミ回収費は無料になっている。) ロビンス市はホ ストタウンフィーが新たな収入となり、フォス ター・ウィラー・イリノイ社は売電からの収入が 新たな利益となる仕組みである。

 事業会社のメリットは、契約による最低限の 廃棄物処理費の確保と、売電による収入であり、

米国では廃棄物発電による電力を回避可能原価 で電力会社が買い取る義務がある。また、ロビン ス市のメリットは、周辺11市町村からの収入(ホ

ストタウンフィー)と廃棄物発電施設における 雇用創出効果(100 名)であった。さらに、焼却 処理によって出てきた灰は、エコセメントの原 料としてセメント会社に引き取られるように なっているので、ゴミのリサイクルにも役立っ ている。

5.2 千葉県の広域ゴミ処理行政

 米国の事例のように公共投資の負担を減らし、

環境ビジネスを新しい産業に育てようとする

「環境PFI」が日本においても動き出してお り、企業にとっては事業フロンティアの拡大の 機会である。フランスにおいてもBOT方式に よる事業が一般廃棄物処理市場の3分の2に達 しており、あまりPFIの進んでいないドイツ においても民間企業が公共施設の管理運営を受 託している。一般廃棄物処理事業の場合、ライフ サイクル・コスティングに占める建設費の割合 が 30 〜 40% と言われており、他の事業に比べる と運営費の割合が高いので、民間企業の創意工 夫を持ち込む余地が多く、PFIに向いている

出所)民間主導型インフラ研究会編『PFI入門』

      図7 フォスター・ウィラー・イリノイ社の関係図 起債

環境庁

セメント会社 建設会社

フォスター・ウィラー 本社 フォスター・ウィラー

・イリノイ社

スクラップ 市場 電力会社 シカゴ広域 12市町村連係

(公的部門) (公的部門)

売電

ゴミ供給及び ティピイングフィー 支払契約(20年間)

(事業者)

リース料等

出資等

(スポンサー)

排出基準保証

ロビンス市 20年償還

土地・プラント のリース

(16)

といえる。

 通産省では、廃棄物発電に注目して、環境事業 の拡大や新規参入に関心を持つ企業約80社と60 自治体を後押しして「新エネルギー・リサイクル 等PFI推進協議会」を 1997 年 12 月に発足し、

これまでの補助金依存体質を脱却した新しい官 民分業の仕組み造りに取り組んでいる。環境問 題の高まりの中で、一般廃棄物処理施設に関係 してきた業者が、PFIへの取り組みの中で環 境マネージメント会社へと脱皮を図り、静脈産 業としての成長が期待される。

 ここで、日本における環境PFIの先行事例 としてとりあげるのは、千葉県の「かずさクリー ンシステム」16であるが、第3セクター17によっ てPFI的な運営方法を採って、一般廃棄物処 理施設を民活で建設・運営している。同社は、直 接溶融方式で廃棄処理施設の建設、管理運営を 行い、4市の委託を受けて、一般廃棄物等の中間 処理を行っていく。そもそもの「かずさクリーン システム」を立ち上げる経緯は、ダイオキシン対 策のために焼却炉の大型化・24 時間稼働を検討 しており、そこで規模の利益から広域化・技術的 高度化から民営化へ取り組む結果となり、広域 化に際しては千葉県と国の協力があった。

 今回参加した木更津市と周辺3市18に関して は、財政的には比較的余裕があり、財政難からの 安易な民間資金調達ではないようである。実際 に、ゴミ焼却炉が耐用年数から立て替えの必要 に迫られているのは、第1期分から使用する富 津市のみである。

 この広域ゴミ処理事業の形態としては、「かず さクリーンシステム」と4市がそれぞれ個別に 委託契約を結んでおり、特別にゴミ処理体制の 枠組みを形成した上での取り組みではない。し

かし、全体的な集まりとして、運営連絡協議会19 が設置されており、4市と千葉県と「かずさク リーンシステム」から形成されており、設置場所 は「かずさクリーンシステム」内である。

 施設の建設20にあたっては、総事業費 312 億円 で、用地取得30億円と施設費282億円であり、第 1期工事費が110億円であり、厚生省からの補助 金が施設費の半分と千葉県からの補助金は施設 費の1 % 以内あり、残りの資金調達に関しては 銀行からの調達であり、東京三菱銀行と日本政 策投資銀行からそれぞれ50億円づつ15年間で調 達しており21、プロジェクト・ファイナンスを用 いている。プロジェクト・ファイナンスは事業の 採算性だけで融資するので自治体からの債務保 証は取っておらず、代わりに自治体が支払う委 託料や処理施設や委託契約を担保としている。

第2期工事費は 170 億円の見込みで環境省から の補助金がつくかどうかは未定であるが、どち らにしても銀行からの資金調達によって行う予 定である。

 この事業のメリットは、ゴミの処理コストが 明らかになったこと、直接溶融炉を設置するこ とで事業内容の効率化・改善が図られたこと、24 時間稼働が可能になったこと、4つの自治体が 集まることで規模の経済が追求されたこと、環 境に関するノウハウを新たに取り入れることで 埋め立て処理していた灰をエコセメントして再 利用できるようになったことである。

 この事業で民間の経営能力がどの程度反映さ れるのか検討してみると、現状での4市の焼却 能力は 400t であり、かずさクリーンシステムは 第1期工事で 100t 炉を2炉建設し、第2期工事 で 150t 炉を2炉建設し、合計 500t となっている。

これはメンテナンスを行う時に片側を止めて交

16 「かずさクリーンシステム」は、千葉県が厚生省、通産省と連帯して取り組んでいる「千葉県西・中央地域エコタウン事業」の 一環である。このエコタウン事業として、ハード事業はエコセメント製造事業と直接溶融施設設置事業があり、ソフト事業はエ コタウンプラン策定事業とリサイクル商品展示会と地域廃棄物情報整備事業がある。

17  千葉県の木更津市、君津市、富津市、袖ヶ浦市の4市がそれぞれ9 % づつ合計 36%、直接溶融炉をもつ新日本製鐵㈱が 49%、廃 棄物処理ノウハウをもつ㈱エムコが 8.9%、㈱市川環境エンジニアリングが 6.1% となっており、民間が半分以上(自治体出資比率 36%)出資している。役員 12 名の構成は、民間から6名、4市から5名、社外から 1 名になっている。(晨、「民間主導の第3セ クターでPFI手法を活用した広域廃棄物処理施設を建設」2000 年6月、104-106 ページ)

18  もともと上総郡として同じ郡であり、地域的に結びつきがあったために共同で取り組む運びとなった。

19 第3セクターの設立に関しては、4市による協定が結ばれた上で枠組みを決めてから、最終的に新日鐵など民間企業3社との協 同出資による株式会社の設立となった。その後、運営連絡協議会として関係者間の調整機関となっている。

20  当初の計画では、一般廃棄物処理施設は第1期工事と第2期工事に別れて行われており、第1期工事でゴミ200t/日の施設建設、

第2期工事で 300t /日の施設を建設し、総事業費は 312 億円である。第2期工事は、平成 18 年稼働予定である。施設は4市のほ ぼ中央に位置する木更津市南部工業専用地域内に設置され、他の3市から一般廃棄物が搬入されてくる。

21  日本経済新聞・2000 年7月 24 日付より。

(17)

互に行うためであるが、3炉で交代制を採って いる自治体もありメンテナンス方法が運営計画 と大きくかかわっている。しかし、16 時間稼働 から 24 時間稼働になるために稼働時間からの効 率性も図られるので、500t の処理能力は過大で はないのかとも思える。また、料金について固定 費と変動費が別々に見積もられており、施設を 計画する上で変動費分を如何に圧縮した操業で きるかに民間の能力が問われ、民間の技術力だ けでなくマネージメント能力を発揮すべきであ ろう。

 監査機能に関しては、株式会社形式を採って おり4市が出資者に名を連ねているので、株主 として経営報告を受けることができ、住民は自 治体への情報公開によって情報を入手すること ができるので、事業会社の放漫経営を防止する ことは可能である。

 なお、民間にゴミ処理を委託したとしても、ゴ ミ行政には自区内処理の原則というのがあるが、

A市からB市への通知(実質的には協議)があれ ば他地域でのゴミ処分も可能である。ただし、

「かずさクリーンシステム」は中間処理施設であ るため、最終処分に関しては4市が責任を持っ て最終処分業者に委託しなければならないので、

個々の自治体の行政責任には変わりはない。

5.3 事例への考察

 米国と日本のそれぞれの事例への検証を行う と、PFIとしての民間資金の導入、民間の技術 力の導入、といった当初の目論見は達成されて いるが、ゴミ行政としての制度設計が的確であ るのかが問題がある。公共サービスを行うので あれば、事業の社会的な位置づけが大事になっ てくる。

 ロビンス市の事例では、ホストタウンとなっ たロビンス市はゴミ処理料が無料になっており 財政面から考えれば良いが、環境政策の面から 考えれば自治体にゴミを減らすインセンティブ がなくなるのではないかと考える。ロビンス市 自らもゴミ処理の委託料を支払うことでコスト 意識が生まれ、ゴミを減らす政策を検討するよ うになり環境問題に積極的になるであろう。ホ ストフィーが入るのでゴミ処理料と相殺するよ うにし、財政的にはマイナスがない程度でよい のではないだろうか。

 「かずさクリーンシステム」の事例において は、従来の日本における地域経営の問題点をク リアしているかどうかという点である。まず、公

出所)日本経済新聞 2000 年 7 月 24 日付・朝刊

      図8  かずさクリーンシステムの関係図 株主

厚生省 千葉県 事業

会社 銀行団

出資

(長期債務負担契約)

廃棄物処理 委託契約

融資契約

(担保設定契約)

補助金 木更津市

君津市 富津市 袖ヶ浦市 新日本製 鐵など 民間企業

日 本 政 策 投 資 銀 行 東 京 三 菱 銀 行 か

ず さ クリ ーン シス テム

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