著者 上ノ山 賢一
雑誌名 經濟學論叢
巻 61
号 3
ページ 565‑596
発行年 2010‑01‑20
権利 同志社大學經濟學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012509
【研究ノート】
3 国間における企業の価格設定行動と金融政策
*上ノ山 賢 一
1 は じ め に
本稿では,近年,多くの関心が集められている新しい開放マクロ経済モデ ル(Obstfeld and Rogoff, 1995, 1996. 以下,O-Rモデル)の分析枠組みに従い,企業 の価格設定行動が3国間における金融政策の波及効果にどのような影響を与 えるのかを分析する.
O-Rモデルが発表されて以降,これまで金融政策の波及効果に関する研究 が新しい開放マクロ経済学のフレームワークで行われてきた.O-Rモデルは ミクロ的基礎がモデルに取り入れられ,主体の効用を用いた経済厚生分析に よる政策評価を可能としている.しかし,このモデルは一物一価が常に成り 立つという前提に従い,必ずしも一物一価が成立しているわけではない現状 と乖離している.その理由の一つとして,現実では,現地の通貨建てで販売 価格を設定する企業が存在するという点が考えられている.そこでO-Rモデ ルが仮定した,全ての企業が自国での販売価格を外貨換算して,外国での輸 出価格を決定するというPCP(producers currency pricing)での価格設定行動に 基づくのではなく,自国と他国で異なる価格設定をするため,為替レート変
* 本稿の作成に際し,指導教官である篠原総一先生から貴重なコメントを頂きました.さらに 五百旗頭真吾先生(同志社大学)からもアドバイスを頂きました.また日本経済学会の学会報 告において,柴田章久先生(京都大学)から有益なコメントとご指摘を頂きました.ここに感 謝申し上げます.但し,本稿の残りうる一切の誤りは全て筆者の責任に帰するものです.
化が外貨通貨建て販売価格に完全に転嫁されるわけではないPTM(pricing to
market)による価格設定行動をモデルに導入する研究が進められている1).
このPTMをO-Rモデルに導入した研究として,Betts and Devereux (2000) は2国間の企業の中で,自国と外国において同じ割合の企業がPTMによる価 格設定を行うと仮定し,金融政策の波及効果について分析している.このモ デルによりO-Rモデルの主要な結論であった,「為替レートの変化率がマネー サプライの変化率よりも小さい」,「自国と外国のどちらの金融緩和でも自国 と外国がともに同じだけの経済厚生の改善を得られる」とした結論は,この 両国のPTM企業比率が大きいほど,為替レート変化によって必要となる自国 と他国における相対価格の短期的な調整ができないために為替レートの変動 が大きくなること,さらにPTM企業の比率によっては自国の金融政策は自国 の経済厚生を高めるとしても,外国の経済厚生を低下させる可能性があると いう結論に修正されることを明らかにした.
しかしこのBetts and Devereux (2000) において導入されたPTM企業の比率 は,Knetter (1993)らの企業の価格設定行動に関する実証分析により,各国ご とに異なることが示されている.そのため,Betts and Devereux (2000)におけ るPTM企業比率のO-Rモデルへの導入は,2国の比率が同じという特殊ケー スを扱っているということになる.
そこで大谷(2002)は,Betts and Devereux (2000)のモデルにおける対称的 な各国のPTM企業の比率を,自国のPTMによる価格設定行動する企業比率 はs,外国のPTMによる価格設定行動する企業比率をs*として非対称なPTM 企業の比率へと修正し,金融政策の影響とPTM企業比率の関係について分析 している.その結果,自国と外国の金融政策によって生じる為替レートの変 動は,Betts and Devereux (2000) と同様にPTM企業の割合が高いほど大きく なるが,PTM企業の割合が自国と外国で異なる場合,PTM企業比率ととも に各国の経済規模も為替レート変動に影響を与えることを示した.さらに自
1) PTMに関するサーベイは,大谷(2001)が詳しい.
国と外国の金融政策の国際的な波及効果として,自国のPTM企業比率の割合 が高く,外国のPTM企業比率の割合が低い場合には,自国の金融緩和は外国 の経済厚生を悪化させる一方,外国の金融緩和は自国の経済厚生を高めるな どの非対称な効果を持つ可能性があることを明らかにしている.
以上の研究は,企業の価格設定行動をモデルに導入することで,より現実 的なモデルを提示したものといえる.このような価格設定行動に関して修正 された研究の一方で,2国間だけでなく3国間での金融政策の波及効果の研 究もなされている.O-Rモデルを基礎とした金融政策の波及効果分析に3国 モデルを用いた論文として,Corsetti et al. (2000),Shioji (2001, 2004)が先行研 究として挙げられる.Corsetti et al. (2000)2),Shioji (2001) は,O-Rモデルとは 異なり各国の財の間での代替の弾力性が異なるという設定で分析を行ってい る.その結果,為替レート変化による需要シフトを通じて,各国の財の間で の代替の弾力性と第3国の経済規模が,ある国の金融政策の他国への波及効 果に影響を及ぼすことを明らかにしている.しかしながら,これらの3国モ デルでは,大谷 (2002) ので採用された各国で異なるPTMの企業比率を用いた アプローチは取られていない3).
そこで本稿では,PTMによる価格設定を行う企業の比率が各国によって 異なった3国モデルにより,ある国の金融緩和の他国への波及効果が第3国 の存在によってどのような影響を受けるのかを分析する.Corsetti et al. (2000) の研究とは異なり,各国財の間の代替の弾力性は一定であるとし,第3国の PTMによって価格設定を行う企業の比率に注目する.
本稿の構成は以下のとおりである.まず2節では,大谷(2002)の2国モデ ルを拡張した3国モデルの説明をする.3節では,価格の硬直性を踏まえた,
2) Corsetti et al. (2000) は3国間で各国財の代替の弾力性が異なるケースを分析しているが,
Tille (1999) は2国間で代替の弾力性が異なり,自国財と外国財の代替の弾力性が自国財の代替
の弾力性よりも大きいケースも扱っている.
3) Corsetti et al. (2000) では,全ての企業がPTM企業であるか,PCP企業であるケースしか扱っ ていない.2国間で全ての企業がPTM企業とするケースを用いて金融緩和の波及効果を分析し ているものとしてDevereux and Engel (1998) が挙げられる.
貨幣の需給均衡条件と財市場均衡条件を導出する.4節では,ある国の金融 政策による波及効果として,各国の為替レートや他国の各マクロ変数の変化 と,さらに第3国のPTM企業比率がそれらの変化に及ぼす影響を分析する.
さらに他国の経済厚生の変化に関しても同様の分析を行う.次に日本,アメ リカ,ユーロ圏の3地域を例とした数値解析を行い,ユーロ圏のPTMによる 価格設定を行う企業の比率が,日本の金融緩和によるアメリカの経済厚生へ の波及効果に影響を及ぼすことを確認する.5節は結論である.Appendix 1,
2では2節で示された消費指数と物価指数の構成について,さらにAppendix 3,4ではそれぞれ,長期における均衡条件と短期における均衡条件の導出に ついて説明をする.
2 モ デ ル
世界は中央国(C国)とその周辺国,2国(A, B国)の3国(以下j=A, B, C) からなり4),各国とも家計,企業,政府の部門で構成される.3国の総家計は 0から1で連続に分布し,各国の企業が生産する差別化された財を消費する と仮定する.家計は完全に差別化された財を生産する企業を一つずつ保有し,
その企業だけに労働を供給し,賃金と生産活動から得られる利潤を受け取る とする.また生産には実物資本が用いられないと仮定する.
さらに第 1 図にあるように,A国の家計は0からγAγPまで,B国はγAγPか らγP,C国はγPから1まで分布しているとする.この比率は各国の政策発動 前の経済規模比率となっている.ここで各国の家計を示すインデックスを χ とする.
また各国の企業の分布の順番が家計の順番と同じものとすると,各国の企 業に関しても家計と同様の分布の範囲を占めることになる.ここで企業のイ ンデックスも家計と同様にχとする.本稿では大谷(2002)の設定に従い,
4) 中央国及び周辺国という言葉は,Corsetti et al. (2000) におけるCenterとPeripheryに従った ものであり,各国の経済規模と関連はない.
各国においてそれぞれsjという一定割合の企業がPTMによる価格設定行動 を行うPTM企業と仮定する.そのため,PCPに基づき価格設定をするPCP 企業の比率は各国で1−sjとなる.以上の仮定により,各国のPTM企業と PCP企業の分布の範囲は,第1図に示されるように,A国では0からγAγPsA まで,B国ではγAγPからγAγP+(1−γA)γPsBまで,C国ではγPからγP+(1−
γP)sCまでの範囲がPTM企業ということになる.
また各国の企業が生産する財に関しても家計の並ぶ順番と同じとし,各国 の財の分布に関しても家計,企業と同様の分布図となる.財を示すインデッ クスもχとする.
本稿の以下のモデルは周辺国間でのA国の経済規模模γAを0か1とするこ とで,2国モデルの大谷(2002)の結果と整合的となる.以下では家計,政府,
企業の行動を定式化する.
2. 1 家 計 2. 1. 1 効用関数
各国の代表的個人の効用関数を以下のように定義する5). Uj(χ, t)=∑
t=0
∞βt logCtj(χ)+XlogMtj(χ) Ptj −κ
2 (ltj(χ))2 (1)
5) 効用関数の形状に関して,Betts and Devereux (2000) では,効用関数の形状により為替レー トの変化がオーバーシュートする可能性が出ると指摘しているが,本稿ではObstfeld and Rogoff
(1995) に従い,(1)の効用関数を用いるとする.
第 1 図 家計・企業,財の分布
ここでβは割引率,下付のtは時間,上付のjは各国の代表的家計を示すイ ンデックスとする.Cjは差別化された各国の財の消費に関して合計したCES 型消費指数とする.同様にPjは各国の財の物価に関して合計したCES型物 価指数である6).さらにMtjはt+1期初に保有している名目貨幣残高であり,
Xは正のパラメータである.各国の消費者は,自分が住む国の政府が発行し た貨幣だけを保有する.実質貨幣残高が増加するに伴い取引コストが削減さ れるために効用が上がるとする.またltjは,j国に住む消費者の労働投入量で あり,κは正のパラメータである.労働が投入されると効用が下がるとする.
2. 1. 2 国際資本市場
家計は,3国の間で完全に統合された国際資本市場で,期間が1期間のC 国通貨建て債券を発行できる.A,B国通貨建ての債券は存在しない.Btjを t−1期の経常収支不均衡をファイナンスするためにt−1期末に発行され,t 期末に満期となる,j国の家計が保有する1家計あたり債券の名目保有高とす る.ここで3国内における債券は,経常収支が赤字となる国の家計が発行し,
残りの2国が保有することになるため以下の式が成立する.
γPγABAt +γP(1−γA)BBt +(1−γP)BCt =γPBP+(1−γP)BCt =0 (2)
t期に満期の,発行時,額面が発行国通貨1単位であった債券のC国通貨 建て価格をdtとする.このときこのdtはグロスの名目金利の逆数である.つ まり
dt= 1 1+iCt
となる.ここでitjはt−1期からt期にかけての名目金利.またitjと実質金利 との間にはフィッシャー方程式が成り立つ.
1+itj=(1+rtj)(Ptj/Pt−1j )
また完全に統合された債券市場により各国の名目金利の間ではアンカバー の金利裁定式
1+iAt=(1+iCt) (EAt/Et−1A )=(1+rAt) (PAt/PAt−1)
6) 消費指数Cjと物価指数Pjの構成については,それぞれAppendix 1, 2を参照のこと.
1+iBt=(1+iCt) (EBt/EBt−1)=(1+rBt) (PBt/PBt−1) 1+iAt=(1+iBt) EAt
EBt
EBt−1 EAt−1
が成立する.ただし,各国の為替レートEtjに関しては2. 3. 1節の設定に従う.
2. 1. 3 家計の最適化行動
代表的家計χは,前期から保有していた債券EtjBtj,貨幣残高Mt−1j ,t期 の賃金wtltjと自分の企業の利益πtj,政府からの移転 τtjを受け取り,これら を消費した残りを次の期まで,債券か自国貨幣で保有する.以下では家計は 対称であるとし,家計のインデックスχを省略する.
dt+1EtjBtj+1+Mtj=EtjBtj+Mt−1j +wtltj+πtj−PtjCtj+Ptjτtj (3)
各家計は(1)式の生涯効用を最大にすることを目的として,家計の予算制 約式(3)式のもとで,消費,労働,債券,貨幣保有量を決定する.その結果,
最適化行動の一階条件は各国の代表的家計において以下のようになる.
Ct+1j =β(1+rt+1j )Ct j (4)
Mtj Ptj=XCtj
(1+it+1j )
it+1j (5)
κltj= wt
PtjCtj (6)
dt+1EtjBtj+1+Mtj=EtjBtj+Mt−1j +wtltj+πtj−PtjCtj+Ptjτt j (7)
2. 2 政 府
各国の政府部門は中央銀行と財政当局が統合されているとする.貨幣発行 益(シニョレッジ)は政府支出と自国民に振り分けられる.国民1人当たり表 示での政府の予算制約式は以下のように示される.
Ptjτtj=Mtj−Mt−1 j (8)
2. 3 企 業
2. 3. 1 企業の価格設定行動と為替レート
PCP企業は自国での販売価格を外貨換算した価格を輸出価格として設定す る.またPTM企業は自国での販売価格は自国通貨をもとに,輸出価格は輸出 先国の通貨をもとに設定し,自国消費者と他国消費者に対して差別的な価格 を提示する.
k国におけるPCP企業の家計χにより製造された財のj国における価格を pkpj (χ)とする.またPTM企業の家計χにより製造された財のj国における 価格をpkmj (χ)とする.さらにA国通貨のC国通貨建て名目為替レートをEAt とし,B国通貨のC国通貨建て名目為替レートをEBtとする7).各国のPCP企 業は自国での販売価格を外貨換算するため各国内での販売価格は第 1 表,第 2 表のようにまとめられる.
PCP A国企業 B国企業 C国企業
国内販売価格 A国内 pApA(χ) B国内 pBpB(χ) C国内 pCpC(χ)
輸出価格
B国内
pApB(χ)= EB
EA pApA(χ) A国内
pBpA(χ)= EA
EB pBpB(χ) A国内 pCpA(χ)=EApCpC(χ) C国内
pApC(χ)= 1
EA pApA(χ) C国内
pBpC(χ)= 1
EB pBpB(χ) B国内 pCpB(χ)=EBpCpC(χ) 第 1 表 PCP企業の価格設定
PTM A国企業 B国企業 C国企業
国内販売価格 A国内 pAmA (χ) B国内 pBmB (χ) C国内 pCmC (χ) 輸出価格 B国内 pAmB (χ) A国内 pBmA (χ) A国内 pCmA (χ) C国内 pAmC (χ) C国内 pBmC (χ) B国内 pCmB (χ)
第 2 表 PTM企業の価格設定
7) 為替レートの設定はCorsetti et al. (2000) に従う.
2. 3. 2 企業の最適化行動
企業は差別化された財を独占的に供給する.以下では消費指数から各企業 財の需要を導出し,企業の利潤最大化行動を確認する.さらにその結果,企
業がPTM,PCPのどちらの価格設定行動を行う場合でも,価格が伸縮的なら
ば同一通貨で計れば同一価格となり,全ての企業の価格設定がマークアップ 率×限界費用と一致することを確認する.
j国のある家計のk国で生産されたPTM企業財の需要ckmj (χ)とPCP企業 財の需要ckpj (χ)は,消費指数Cjから以下のように導出される8).
ckmj (χ)= pkmj (χ) Pj
−θ
Cj(χ) , ckpj (χ)= pkpj (χ) Pj
−θ
Cj(χ) k, j=A, B, C
各国の企業は労働のみを生産要素として使用し,企業の生産関数は,生 産=労働投入量とする.各国の企業は利潤の最大化を目的として,雇用水準,
販売価格を決定する.
j国のPCP企業の利潤は,
πpj=pjpj ypj−wpjypj
である.ここでypjはPCP企業の総生産水準を表す.wpjはj国のPCP企業の 名目賃金を表す.
j国のPTM企業の利潤は,
πmj=Ej
EA pAjmzAjm+Ej
EB pBjmzBjm+EjpCjmzCjm−wmj(zAjm+zBjm+zCjm)
である.ここでzkmi はk国のPTM企業財のj国向けの生産水準である.wmj は j国のPTM企業の名目賃金を表す.
価格が伸縮的と仮定し,先の需要関数を用いると企業の利潤最大化条件か ら以下の式が導出される.
8) 各財に対する需要関数は,名目消費支出一定のもとでの消費指数Cjの最大化問題として求め
られる.
pjpj= θ
θ−1 wpj, pjmj= θ
θ−1 wmj (9)
これらの式から,国内の価格が伸縮的で生産の限界費用がPCP企業と PTM企業で一致(wpj=wmj)しているとすると,PCP企業が設定する販売価 格は,PTM企業の設定する販売価格に一致する.したがって価格が伸縮的な 場合には,各国の市場が分断され,異なる通貨建てで価格設定が行われてい ても,各財で一物一価が成立する.さらに全ての企業の価格設定はマークアッ プX限界費用となっている.
3 硬直価格のもとでの均衡
本節では前節のモデルに価格の硬直性を導入し,財市場均衡と貨幣の需給 均衡が各国間でどのような関係になるのかを明らかにする.
価格の硬直性の導入はObstfeld and Rogoff (1995),大谷(2002)に従う.今期 の各企業の個別財価格は1期前に設定され,当期中に予期せぬショックが起 こっても変更されないとする.企業はショックの影響を考慮して,来期以降 の価格を設定しなおす.そこでPCP企業の輸出価格はショックが起こったt 期においても,為替レート変動分だけ変化する.しかしPTM企業の輸出価格 は一定のままとする.したがってPTM企業の比率は,予期せぬショックが起 こった期の為替レート変動により,物価変動の幅に影響を与える.
t期中であっても,家計は物価水準の変化に応じて消費スケジュールと債券 保有額を変更する.また独占的競争下にある企業は,価格が変更できなくて も家計の需要に応じて生産量を変更する.t+1期になれば,企業は価格を調 整し,新たな定常状態となる.
ここでショックが起こった期(t期)を新たな均衡に向かう途中の経路とし て短期とする.そして調整が終わるショックの次の期(t+1期)を長期とする.
以下ではショックとして拡張的な金融政策を想定する.
本稿のモデルではマクロ変数を解析的に解くことはできないので,対数線
形化によって期初の定常状態からの変化率を計算することで金融政策の長期 的,短期的影響を分析する.
3. 1 期初の定常状態
本稿のモデルでは,全ての経済主体の行動は代表的個人の行動によって表 すことができ,各経済主体の行動は対称である(Symmetric)と仮定する.さ らに定常状態ではPCP企業とPTM企業の輸出価格が等しく,各企業の財の 需給均衡式も同一となり,個別企業の生産量の区別が必要ではなくなる.ま た期初の定常状態では,経常収支が均衡し,債券保有残高がゼロであると仮 定し,この期を0期とする.
期初の定常状態は,以下のように導出される.定常状態の期に成立する値 を上添えの を用いて表す.
まず消費のオイラー方程式(4)式より,以下のように各国の実質金利は,
主観的割引率と同じものになる.
r=1−β
β ≡δ (10)
定常状態では価格が伸縮的であり,個別財で一物一価が成立し,全ての 価格が対称的になる.その結果,価格指数Pjから,各国の間でPA=EAPC, PB=EBPCさらにPA=(EA/EB)PBが成立し,物価水準においてもPPPが成 立する.
定常状態では,各国の変数の設定が全て対称となる.さらに各国の財が同 じ通貨で表示されれば同一価格となり,限界費用wに利潤をマークアップ率 で上乗せしたものとなる.その結果,労働投入,消費に関して以下の式が導 出される.
Y0j=l0j=C0j=θ−1 θκ
12
さらに定常状態では貨幣の需給均衡式は以下のように示すことができる.
M0j
P0j=X(1+δ) δ C0j
3. 2 長期における均衡
前節での初期の定常状態に対して,永続的なマネーサプライの拡張(Mtj= Mt+1j )が各国で行われたとする.長期(t+1期)における均衡は,消費に関 するオイラー方程式,実質貨幣需要関数,労働供給式,経常収支決定式,各 国財の需給均衡式,PPP(一物一価)によって導出される9).
これらの条件からt+1期の内生変数である為替レート変動,消費,経常収 支の変化と外生変数であるマネーサプライの変化の関係式を周辺国(A国とB 国)間:Intra-Periphery,と周辺国(A国とB国の各変数の加重平均値)と中央国(C 国)間:Center-Peripheryにおいて導出する.
以下∧が付くものは,期初の状態(0期)からの変化率である10).さらにA,
Bの2国をまとめた周辺国としての変数を定義するために,上付文字がPと なっている,ある変数NPをNP≡γANA+(1−γA)NBと定義しておく.
長期の貨幣需給均衡式 Center-Periphery
(Mt+1P −Mt+1C )−(Ct+1P −Ct+1C )=Et+1P (11)
Intra -Periphery
(Mt+1A −Mt+1B )−(Ct+1A −Ct+1B )=Et+1A −Et+1B (12)
長期の財市場均衡式 Center-Periphery (Ct+1P −Ct+1C )=1+θ
2θ δ
1+δ(Bt+1P −Bt+1C ) (13)
9) 長期の均衡の導出についてはAppendix 3を参照のこと.
10) 期初の状態では,経常収支が均衡し,債券の保有残高は0と仮定されているため,Obstfeld
and Rogoff (1996)に従い,債券保有残高の期初の定常状態からの変化に当たっては,期初の名
目消費水準を基準として考える.(Bt+1j =(Bt+1j −B0j) /P0jC0j=Bt+1j /P0jC0j)
Intra -Periphery (Ct+1A −Ct+1B )=1+θ
2θ δ
1+δ(Bt+1A −Bt+1B ) (14)
(11),(12)式は長期での貨幣の需給均衡条件を表す.この2式はマネーサプ ライの変化率の差が消費の変化率の差を上回ると自国物価の上昇が他国より も上回り,為替レートの変化がもたらされることを示している.さらに(13),
(14)式は長期での財市場の均衡条件を表し,経常黒字(または赤字)に伴う債 券保有高の増加(減少)によって,利子収入の変化から消費の増加(減少)が もたらされることを示している.
3. 3 短期における均衡 3. 3. 1 価格硬直性と一物一価
短期においては価格が硬直的であると仮定する.3国間における一物一価 はPTM企業の存在(PTM企業は輸出価格を現地通貨建てで決定するため,硬直的 な価格設定では為替レートの変動分を設定価格が反映しない)のために成立しない.
ここで各国がt期において拡張的金融政策によるショックに直面したとす る.この時,企業は財価格を変更できず,金融緩和による為替レート変動に 対して受動的に生産量を変更し,家計もショックによる為替レート変動に伴 う財の価格変化や貨幣保有量の増加に応じてt期の消費を変化させる.ここ で短期の均衡の条件11)は,消費に関するオイラー方程式,実質貨幣需要関数,
経常収支決定式,PCP企業の生産財の需給均衡式,PTM企業の生産財の需給 均衡式,アンカバーの金利裁定式となる.
3. 3. 2 短期の均衡条件式
短期の均衡条件から長期の均衡に対応する均衡式を導出する.
物価指数Pjを対数線形化して,個別財の価格はt期には変更されないとし た仮定を用いると,各国の物価水準の変化は次のように示される.
11) 短期の均衡の導出についてはAppendix 4を参照のこと.
P At =(1−sB) (1−γA)γP(EtA−EtB)+(1−sC) (1−γP)EtA (15)
P Bt =−(1−sA)γAγP(EtA−EtB)+(1−sC) (1−γP)EtB (16)
P Ct =−(1−sA)γAγPEtA−(1−sB) (1−γA)γPEtB (17)
ここで各国の物価指数の変化は,自国以外の国のPTM比率が高いほど為替 レートの変動の影響を受けないことがわかる.また各国の物価水準の変化は,
その国以外の2国のPTM企業比率が1であるとき,短期的には全く変化しな い.
さらにアンカバー金利裁定式を変形し,対数線形化することで各国間の内 外実質金利差を以下のように示すことができる12).
Center-Periphery δ
1+δ( rt+1P −rt+1C )=−K EtP (18)
Intra -Periphery δ
1+δ( rt+1A −rt+1B )=−K(EtA−EtB) (19)
K=γPγAsA+γP(1−γA)sB+(1−γP)sC
ただしKは上記のように3国における全企業の中でのPTM企業の比率とする.
(18),(19)式から,周辺国間,周辺国と中央国間を問わず実質金利差は各国 のPTM企業比率が高かれば高いほど乖離することがわかる.
以上の関係式から短期の場合での為替レート変化と消費変化,各国のマネー サプライ変化の関係式を導出する.
短期の均衡を示す関係式に,物価水準の変化式と実質金利格差式(15)〜(19)
式を代入することで,短期における貨幣の需給均衡式と財市場均衡式は以下 のようになる.
短期の貨幣の需給均衡式
12) ここではCenter-Peripheryの均衡において,A,C国間では(rr+1A−rr+1C )δ/ (1+δ)=−KEtA
が成立し,B, C国間では(rt+1B−rt+1C )δ/ (1+δ)=−KEtBが成立することを利用している.
Center-Periphery
(MtP−MtC)−(CtP−CtC)=(1−K)EtP (20)
Intra -Periphery
(MtA−MtB)−(CtA−CtB)=(1−K)(EtA−EtB) (21)
短期の財市場均衡式 Center-Periphery δ
1+δ 1
1−γP Bt+1P =(θ−1)ξγAEtA+(θ−1)ψ(1−γA)EtB
+K EtP−(CtP−CtC) (22)
Intra -Periphery δ
1+δ(Bt+1A −Bt+1B )=(θ−1)μEtA−(θ−1)υEtB
+K(EtA−EtB)−(CtA−CtB) (23)
ただし
ξ≡1+K−sA−sC ψ≡1+K−sB−sC μ≡1+K−sA−sC−γP(sB−sC) υ≡1+K−sB−sC−γP(sA−sC) と定義しておく.
財市場均衡式(22),(23)式に注目すると,Center-Periphery,Intra –Periph- eryともに前3項が周辺国の為替レート変動による所得変化の合計となってい る.為替レートの変化は各国間で需要シフトと交易条件の変化を引き起こし,
輸出による所得を変化させる.為替レート変化による所得変化が消費変化よ りも大きい場合,他国への経常収支黒字として名目債券保有高が増加する.
4 金融政策による波及効果
この節では前節までに導出された長期,短期における各均衡条件に基づき,
周辺国Aがマネーサプライを変化させたときに,波及効果として各国為替レー ト,周辺国Bの短期の消費,生産,経常収支,経済厚生がどの様に変化する かを示す.そして第3国の中央国CのPTM企業比率が各変数の変化に与え る影響を確認する.さらに,その影響を具体的に観察するために,日本,ア メリカ,ユーロ圏のデータを例として数値解析を行う.
4. 1 為替レートの変化
以下では短期と長期の貨幣の需給均衡式,財市場均衡式から周辺国Aの予 期せぬ永続的な金融緩和による名目為替レートの変化を明示する13).本稿で は,ある国の永続的な金融緩和の他の周辺国への影響に注目するため,周辺 国Aの予期せぬ永続的な金融緩和に対して,中央国C,周辺国Bは対抗的に マネーサプライを変動しないものと仮定する14).(自国のマネーサプライの安定 を重視し,周辺国Aの金融緩和に対して無反応の対応をとるとする.)消費のオイラー 方程式(4)式を対数線形化させ,短期と長期の貨幣の需給均衡(11),(12),(20),
(21)式と財市場均衡式(13),(14),(22),(23)式,さらに各国間での内外実質金 利差(18),(19)式を用いるとA国マネーサプライの変化による各為替レート変 化は以下のように示される.
13) 短期の貨幣需給均衡式と消費のオイラー方程式を線形対数化したもの,さらに物価水準変 化率,内外実質金利差の諸式を用いると本稿のモデルにおいてもある国の金融政策による為替 レート変動がオーバー・シュートしないという結論が得られる.
14) 各国が同時にマネーサプライを変化させたとすれば,各国の為替レートの変化は,短期と長 期の財と貨幣に関する需給均衡と内外実質金利差式より,以下のように導出される.
EtA=Π(υ) (MtA−MtC)−(Π(υ)−Π(ψ)) ( 1−γA) (MtA−MtB) Π(ξ)Π(υ)γA+( 1−γA)Π(ψ)Π(μ) EtB= Π(μ) (MtB−MtC)+(Π(μ)−Π(ξ))γA(MtA−MtB)
Π(ξ)Π(υ)γA+( 1−γA)Π(ψ)Π(μ)
これらの式から各国の金融緩和が為替レート変化に与える影響は二つに分けることが出来 る.まず両辺の分子の一項目が周辺国と中央国の間でのマネーサプライの変化率の差による 各国間の為替レート変化であり,二項目は周辺国間でのマネーサプライの変化率の差によって 生じた為替レート変化である.ただしこの二項目は周辺国A, BのPTM企業比率と中央国の PTM企業比率の差から生じたものである.EtAに関してはA国とC国でPTM企業比率が等 しければ二項目は0となる.またEtBに関してはB国とC国のPTM企業比率が等しければ同 じく二項目は0となる.
EtA=ΛMtA (24)
Λ≡ Π(ψ)−(Π(υ)−Π(ψ))γA
Π(ξ)Π(υ)γA+(1−γA)Π(ψ)Π(υ) (25)
EtB=ΩMtA
Ω≡ (Π(μ)−Π(ξ))γA Π(ξ)Π(υ)γA+(1−γA)Π(ψ)Π(μ) Π(i)≡2θ+(1+θ)δ{(θ−1)i+1}
2θ+(1+θ)δ i=ξ,ψ,μ, υ
ここで(24),(25)式に注目すると,A国のマネーサプライの変化による各 国為替レートの変化は,各国のPTM企業比率に影響を受けることが分かる.
しかし,初期の定常状態における均衡利子率δが0に近い場合15),Π(i)で 定義された変数が1に近づくことで,A国のマネーサプライ変化とA国為替 レート変化が同率に近づき(Λ→1, EtA≈MtA),B国為替レート変化が0に近づ
く(Ω→0, EtB≈ 0 )ことが確認できる.さらにその場合,各国のPTM企業比率
がA国の金融緩和による各国為替レートの変化に与える影響は,小さくなる こと(∂Λ/∂sC≈ 0 )(∂Ω/∂sC≈ 0 )がわかる.
期初の定常状態における均衡利子率が0に近いほど,各国のPTM企業の比 率が為替レートの変化に対して影響を及ぼさない理由として以下のように考 察される.名目債券保有による利子収入が0に近づくことにより,長期での 財市場均衡条件(13),(14)式から,債券保有の変化による利子収入増加を通じ た長期での消費変化も0に近づく.つまり各国のPTM企業比率は,為替レー ト変化によって引き起こされる短期での各国の財の需要シフト幅に影響を与 え,それに伴う輸出による所得変化に影響を与えるが,その結果増加した経 常収支による長期での消費の変化は小さいものでしかない.さらに,長期に
15) 4. 6節における数値解析では,初期の定常状態における実質利子率として4%に設定してお
り0に近い.
おける貨幣需給均衡条件(11),(12)式から,マネーサプライの変化に対して,
消費の変化幅が0に近いことから物価水準が上昇し,相対的な為替レートの 上昇が引き起こされる.本稿のモデルでは,マネーサプライによる為替レー ト変化は,オーバーシュートすることなく短期において長期水準の変化が達 成されることから,A国のマネーサプライの変化は短期において同率のA国 為替レート変化の上昇を引き起こす.同様に,均衡利子率 δ が0に近いとす ると,為替レート変化を通じたB国とC国の経常収支変化の差による長期で の消費の変化の差も小さくなる.さらにB国とC国はそれぞれマネーサプラ イを変化させないことから,B国とC国間での長期の貨幣需給均衡式より,
B国為替レート変化も小さいものとなる.したがって,均衡利子率 δ が0に 近い場合,各国の経常収支の変化幅に影響を与える各国のPTM企業比率が,
A国の金融緩和による各国の為替レート変化に与える影響は極めて小さい.
以下では均衡利子率δは0に近く,C国のPTM企業比率が為替レート変化 に与える影響は十分に小さいものとして,C国のPTM企業比率が各変数の変 化に与える影響を分析する.
4. 2 消費への影響
まず,各国の金融政策の波及効果として,A国の金融緩和による周辺国B 国の消費の変化を分析する.
短期での貨幣の需給均衡(20)(21)式,さらに CtB=CtW+(1−γP)(CtP−CtC)−γA(CtA−CtB)
であることと16),為替レート変化(24)(25)式を用いると,A国のマネーサプ
16) 世界全体でのマクロ変数の変化を上付き文字のWによって定義すると,世界全体での消費
の変化CtWは,消費のオイラー方程式(4)式,実質の貨幣需給均衡式(5)式を対数線形化し,
物価水準の変化(15)〜(17)式を代入すれば以下のように求められる.
CtW=MtW−(sA−K)γAγPEtA−(sB−K) ( 1−γA)γPEtB
この式は周辺国AのPTM企業比率が高ければ高いほど,需要創出効果は低下することを示 している.これは周辺国AのPTM企業率が高い場合,A国通貨の減価による周辺国Bや中央 国Cでの周辺国Aからの輸入財物価の低下幅が縮小するためである.
ライの変化率で示されるB国の消費の変化率は,以下のように導出される.
CtB=γAγP(1−sA)ΛMtA+[(1−γA)γP(1−sB)−(1−K)]ΩMtA(26)
A国の金融緩和によるB国消費の変化を示す(26)式から,B国の消費の変 化が,各国の為替レート変化による需要シフトによって引き起こされている ことがわかる.
ここでC国のPTM企業比率sCがB国の消費の変化に与える影響を見るた めに(26)式をC国のPTM企業比率sCで微分し,均衡実質利子率が十分に小 さいとすると(δ≈ 0 ),(27)式が得られる.
d(∂CtB/∂MtA)
dsC ≈ 0 (27)
均衡実質金利に関する仮定により,C国PTM企業比率がA国のマネーサ プライによる各国の為替レート変化に与える影響は小さく,さらにA国のマ ネーサプライ変化によるB国為替レート変化も小さいことから,C国のPTM 企業比率がB国の消費の変化に与える影響が小さいことがわかる.これはA 国の金融緩和により,A国為替レートが減価し,B国内のA国PCP企業財が 安価になる一方で,B国為替レートは殆ど変化しないことから,C国のPTM 企業の比率が高くても,B国内でのC国企業財価格が上昇せず,B国内のC 国財消費が減少しないためである.
4. 3 生産への影響
次にA国の金融政策の波及効果として,周辺国Bの生産の変化を分析する.
PCP,PTMの各企業の生産財の需給均衡式17)とA国が金融政策を行った場
合の為替レート変化式(24)(25)を用いると以下のように示される.
YtB={θ[(1−γP)γAξ−γAμ]+γAγP(K−sA)}ΛMtA
+{θ[(1−γP)ψ+γAυ]
+(1−γA)γP(K−sB)}ΩMtA+γAγPMtA (28)
17) 短期の生産財の需給均衡式についてはAppendix 4を参照されたい.
A国の金融緩和によるB国の生産の変化を示した(28)式から,B国の生産 は,各国為替レート変化によるB国財への需要シフトと,A国の貨幣増加に よる名目所得の増加を通じたA国内でのB国財需要増加によって変化するこ とがわかる.
ここでC国のPTM企業比率の影響を見るために,sCで(28)式を微分し,
均衡実質利子率が十分に小さい(δ≈ 0)とすれば,以下の(29)式が導出される.
d(∂YtB/∂MtA)
dsC ≈−(θ−1)γAγP(1−γP)< 0 (29)
(29)式から,C国のPTM企業比率が高まるほど,A国の金融緩和に対する B国の生産の伸びが鈍化することがわかる.これはC国のPTM企業の比率 が高い場合,A国の金融緩和による為替レート変化から,A国で販売されて いるC国のPTM企業財価格がB国のPCP企業財価格よりも相対的に安価と なり,B国財からC国財への需要シフトが起こるためである.
4. 4 経常収支への影響
金融緩和後の周辺国Aのt期の経常収支は,t期に債券発行によって調達さ れる総額dt+1BAt+1となる.dt+1BAt+1を線形近似することで導出される経常収 支の変化は,短期の貨幣の需給均衡式(20)(21)式,財市場均衡式(22)(23)式 と,為替レート変化式(24)(25)を用いることで,A国のマネーサプライ変化 率で表すと以下の(30)式のようになる.
1
1+δBt+1B ={(θ−1) [(1−γP)ξ−γAμ]Λ+(θ−1) [(1−γP)ψ+γAυ]Ω −γAγPΛ+(1+γAγP−γP)Ω+γAγP}MtA (30)
さらにA国の金融緩和によるB国の経常収支の変化へのC国のPTM企業 比率の影響を分析するために(30)式をsCで微分し,均衡実質利子率が十分に 小さい(δ≈ 0)とすれば,以下の(31)式が得られる.
≈−(θ−1)γP(1−γP)< 0 dsC
d∂ 1
1+δBt+1B ∂MtA
(31)
(31)式から,C国のPTM企業比率が高ければ高いほどA国の金融緩和に よるB国経常収支の黒字幅は縮小する,もしくは赤字幅が拡大することがわ かる.この結果の直感的意味として以下のように考えられる.前節の分析から,
C国のPTM企業比率が高くなるほど,A国の金融緩和によるB国の生産の伸 びは低下する.その結果,B国の短期における実質所得の上昇幅も低下する.
そこで,異時点間での消費の平準化から将来消費のための債券保有を減らす ことになり,B国の経常収支の黒字幅は縮小,もしくは赤字幅が拡大するこ とになる.
4. 5 経済厚生の変化
続いてA国の金融緩和によるB国の経済厚生の変化がC国の存在によりど のような影響を受けるのかを分析するために,B国の長期と短期の効用水準 の変化を考える.
以下では,経済厚生の変化として,期初の定常状態からの短期と長期の効 用変化の割引現在価値の合計を用いる.算出方法はObstfeld and Rogoff (1995,
1996)に従い,効用関数における貨幣保有から得られる効用は無視できるほど
小さいと仮定する.(X→0) j国の家計の効用水準の変化は,短期と長期の消 費,生産の変化率により,以下のように表すことができる.
dUj=Ctj−θ−1 θ Ytj+1
δ Ct+1j −θ−1
θ Yt+1j (32)
ここで(32)式に,前節までの短期のB国の消費,生産の変化式を代入し,
長期での消費と生産の変化は,経常収支(保有債券)の変化によって表される ことを利用すると,B国の効用水準の変化はA国のマネーサプライ変化率に より以下のように示すことができる.