論文内容要旨
Occupational Exposure to Gaseous and Aerosolized Volatile Organic Compounds in Flight Line Crews Using Different Types of Jet Fuel
(異なるジェット燃料を使用している列線整備員のガス状およびエアロ ゾル状揮発性有機化合物の作業中ばく露について)
THE SHOWA UNIVERSITY JOURNAL of MEDICALSCIENCES (2017 年掲載予定)
社会医学系衛生学公衆衛生学(衛生学分野) 大塚康民
空港の駐機地区で航空機の整備を担当する列線整備員は、給油時のみな らず航空機排気ガスからもジェット燃料蒸気等を吸入する機会が多く、健 康へのリスクを把握することは重要な課題である。列線整備作業で吸入す る化学物質は、使用する燃料成分に依存すると予測されるが、異なる種類 の燃料を使用した作業環境での化学物質ばく露を比較した調査研究はほ とんどない。現在米空軍(USAF)は主に灯油からなるジェット燃料 JP-8 を 使用しているのに対し、航空自衛隊(JASDF)はナフサと灯油の混合燃料 JP-4 とそれぞれ異なる燃料を使用している。米空軍では 1990 年代後半に かけて、安全性の面から易揮発性で引火点の低い JP-4 からより揮発性の 低い JP-8 へ燃種を移行した。燃種変更後、整備員からは臭気、めまい、
皮膚刺激等の不快感の報告が増えたため、調査が実施されたが、明確な原 因物質の特定はできなかった。JP-8 は民間航空でも広く使われている JetA-1 と同等の燃料でもあることから、USAF と JASDF は燃種差による作 業中の化学物質ばく露の特徴を調べた。本研究は、航空自衛隊及び日本国 内の米空軍基地から志願した被験者 90 名を対象に行った。具体的には C- 130 航空機(輸送機)の列線整備員及び非燃料ばく露群(横田病院勤務者)
の各被験者について、48 種類の揮発性有機化合物(VOCs)の個人ばく露を 測定した。個人ばく露空気の採取は、ガス状及びエアロゾル状 VOCs(粒径 6.6μm)に対して、活性炭付きとカスケードインパクター付きの小型バッ テリー駆動空気採取装置をそれぞれ用いて行った。その結果、JP-4 ばく露 群はガス状 VOCs のばく露濃度が JP-8 群よりも高く、その中には発がん性 のあるベンゼンと神経毒性のあるヘキサンがそれぞれ平均で 3.2ppb、
23.4ppb 検出された。これに対して JP-8 群ではこれらガス状 VOCs は検出 されないか非常に低濃度であった。しかしエアロゾル試料の分析結果から、
JP-4 群とは異なりトリデカンのようなより炭素数が長いアルカンにばく
露されることがわかった。JP-8 群のうち、エンジンの整備作業や燃料タン クから の燃 料抜 き 取りを 実施 した 作 業者で は比 較的 高 いトリ デカン
(34.2ppb~164.2ppb)がエアロゾル試料から検出された。なお許容濃度
(日本産業衛生学会許容濃度の勧告値)を超える VOCs はいずれの被験者 からも検出されなかった。以上の結果から、米空軍及び民間航空で使用さ れている灯油からなるジェット燃料については、JP-4 のような発がん及 び神経毒性リスクが低いもののエアロゾル状トリデカンあるいはエアロ ゾルに含まれるトリデカンによる免疫系への影響等について注意が必要 なことが示唆された。