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海上技術安全研究所報告第 10 巻第 2 号 ( 平成 22 年度 ) 基調論文 19 原 基 * 梅田直哉 Towards New Generation Intact Stability Criteria for Ships by Naoya UMEDA Abstract For developi

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Academic year: 2022

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(1)

����������原�基���������

梅 田 直 哉

Towards New Generation Intact Stability Criteria for Ships by

Naoya UMEDA

Abstract

For developing new generation intact stability criteria at the IMO, this paper reviews physics-based stability assessment techniques proposed by the author and his colleagues so far.

These techniques are methods for calculating annual stability failure probability for ships in the North Atlantic. The major failure modes identified by the IMO are covered by different methods.

For pure loss of stability in following waves, a direct stability calculation method and the Monte Carlo simulation method with a surge-roll coupled model were developed and a good agreement between the two was confirmed. For parametric rolling, a well–validated heave-pitch-roll coupled model is proposed to be used for calculating the expected number of lost containers per voyage.

For broaching, a combination of deterministic dynamics using a coupled surge-sway-yaw-roll model in regular waves and a probabilistic wave theory allows us to calculate failure probability in irregular waves and was well validated with the Monte Carlo simulation in irregular waves.

For stability under dead ship condition, a method for calculating stability failure probability in irregular beam wind and waves was developed with a piece-wise linear approximation and was well validated with the Monte Carlo simulation. These methods could be used as candidates of the third level criteria, i.e. direct stability assessment methods, within the scheme of the IMO new generation intact stability criteria. They, however, require certain time and human resources so that it is essential for developing the first and second level vulnerability criteria, which could exempt the application of the third level criteria, as well. Thus the development of such vulnerability criteria is a high-priority task at the current correspondence group established by the IMO, and the draft third level criteria described here has crucial roles for properly adjusting the safety levels of the first and second level criteria, such as equivalent regular waves.

* 大 阪 大 学 工 学 研 究 科

原 稿 受 付 平 成 22年 7月20日 審 査 済 平 成 22年 8月23日

(2)

目 次

1.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 2.経験則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 3.半経験則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24 4.物理則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 4.1 追波中の復原力喪失現象・・・・・・・・・ 26 4.2 パラメトリック横揺れ・・・・・・・・・・・・ 27 4.3 ブローチング・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 4.4 デッドシップ状態の復原性・・・・・・・・ 33 5.まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37

記 号

a :weather criterionに お け る 、 風 に よ る 傾 斜 エ ネ ル ギ ー に 相 当 す る G Z 曲 線 上 の 面 積

Ai j : j方向の運動によるi方向の付加質量ま たは付加慣性モーメント

b :weather criterionに お け る 、 残 存 す る 復 原 エ ネ ル ギ ー に 相 当 す る G Z 曲 線 上 の 面 積

b :式(11)で定義される制御ベクトル Bi j :j方向の運動による i方向の減衰力係数 c :波の位相速度

Cij :xiとxjの共分散 D :横揺れ減衰モーメント E :直立状態からの動復原力

f(x,y) :ある変数xyに対して定義される関 数

fi :Fi方向成分

F :式(12)で定義される状態ベクトル方 程式の右辺

FiDF+B :i 方向のフルードクリロフ力と浮力の

FiDF :i方向のディフラクション力 Fn :公称フルード数

g :重力加速度 GM :メタセンター高さ GZ :平水中復原てこ GZm :最大復原てこ GZw :波による復原力変動

H :波高

HL :個別波高さ H1/3 :有義波高

Ixx :横揺れ慣性モーメント Izz :船首揺れ慣性モーメント Jxx :横揺れ付加慣性モーメント

Jzz :船首揺れ付加慣性モーメント

kf :区分線形近似における第2領域の復原 力曲線の勾配

KMNL :横揺れ方向の操縦性流体力の非線形成 分

KRNL :横傾斜しての航走による横揺れモーメ ントの非線形成分

Kp :横揺れモーメントの横揺れ角速度に関 する微係数

Kr :横揺れモーメントの旋回角速度に関す る微係数

KrW :横揺れモーメントの旋回角速度に関す る微係数への波浪影響

Kv :横揺れモーメントの左右速度に関する 微係数

KvW :横揺れモーメントの左右速度に関する 微係数への波浪影響

Kw :横揺れ方向の波によるモーメント K :横揺れモーメントの舵角に関する微係

KW :横揺れモーメントの舵角に関する微係 数への波浪影響

K :横揺れモーメントの横揺れ角に関する 微係数

lw1 :weather criterionに お け る 一 定 風 に よ る 横 傾 斜 て こ

lw2 :weather criterionに お け る 突 風 に よ る 横 傾 斜 て こ

L :船長

Lcontainers:1航海あたりの損失コンテナ数

M :コンテナ積載段数の種類の数 Mxb0 :一定風による横傾斜モーメント Mxb :変動風による横揺れモーメント m :船体質量

mi :積載段数ごとのコンテナ個数 mx :前後方向の付加質量

my :左右方向の付加質量 n :プロペラ回転数

NMNL :旋回方向の操縦性流体力の非線形成分 NRNL :横傾斜しての航走による旋回モーメン

トの非線形成分

Nr :旋回モーメントの旋回角速度に関する 微係数

NrW :旋回モーメントの旋回角速度に関する 微係数への波浪影響

Nv :旋回モーメントの左右速度に関する微 係数

NvW :旋回モーメントの左右速度に関する微 係数への波浪影響

Nw :旋回方向の波によるモーメント

(3)

N :旋回モーメントの舵角に関する微係数 NW :旋回モーメントの舵角に関する微係数

への波浪影響

N :旋回モーメントの横揺れ角に関する微 係数

p :横揺れ角速度

p* :個別波の高さと周期の確率密度関数 pi :限界横揺れ角を越える横揺れの発生す

る短期海象の発生する確率

P :単位時間あるいは波変位の零クロスあ たりの転覆確率

PA :変数Aの確率密度関数 Pan :1年あたりの事故確率 Phour :1時間あたりの事故確率 r :旋回角速度

R :船体抵抗

S :ブローチングの発生する個別波の高さ と周期の領域

t :時間

ttrip :1航海の所要時間

tsimulation:1シミュレーションの再現時間

T :検討対象とする時間

TD :オートパイロット微分制御の時定数 Te :平均出会い周期

TE :操舵機の時定数 TL :個別波の周期 TP :プロペラ推力 T01 :平均波周期 u :前後速度 UT :平均風速 v :左右速度 Vi :xiの分散

x :式(10)で定義される状態ベクトル x1 :区分線形近似における第1領域の横揺

れ角

x2 :区分線形近似における第1領域の横揺 れ角速度

x3 :区分線形近似における第2領域の横揺 れ角

x4 :区分線形近似における第2領域の横揺 れ角速度

XMNL :前後方向の操縦性流体力の非線形成分 XRNL :横傾斜しての航走による前後力の非線

形成分

Xrud :舵による前後力 Xw :前後方向の波力

YMNL :左右方向の操縦性流体力の非線形成分 YRNL :横傾斜しての航走による左右力の非線

形成分

Yr :左右力の旋回角速度に関する微係数

YrW :左右力の旋回角速度に関する微係数へ の波浪影響

Yv :左右力の左右速度に関する微係数 YvW :左右力の左右速度に関する微係数への

波浪影響 Yw :左右方向の波力

Y :左右力の舵角に関する微係数 YW :左右力の舵角に関する微係数への波浪

影響

Y :左右力の横傾斜角に関する微係数 zH :横運動による左右力の着力点の垂直方

向位置

 :式(45)で定義される変数

:区分線形近似における第2領域の線形 横揺れ減衰係数

:波齢

c :波の位相速度

ij :余因子

 :舵角

 :上下揺れ(i=3)

eff :Grimの有効波振幅

 :縦揺れ角(i=5)

 :波長

 :式(44)で定義される変数

 :波の狭帯域パラメーター

G :波の谷からの船体重心前後方向位置

 :水の密度

 :横揺れ角(i=4)

:区分線形近似における一定風による横 傾斜角

:区分線形近似における第1領域と第2 領域の境界

max :最大復原力角

max* :最大横揺れ角の集合平均

m0 :区分線形近似の接続角

:復原力消失角

weather criterion に お け る 一定風 による横傾斜角

:weather criterionに お け る 風 上 へ の 横揺れ角

2 :weather criterionに お け る 限 界 横 揺れ角

c :weather criterion に お け る 不安定 横傾斜角

:波方向からの偏角

(追波を0度とする。)

c :オートパイロットへの指令進路

:区分線形近似における第2領域の固有 横揺れ円周波数

e :船の波との出会い円周波数

(4)

1.はじめに

水面に浮かぶ船舶は、その浮力の作用点がその 横 傾 斜 と と も に 傾 斜 側 に 移 動 す る こ と か ら 横 揺 れに対して自己安定な性質をもつ。しかしながら この性質は大角度傾斜時には損なわれ、直立状態 付近から倒立状態付近へ遷移することがある。倒 立状態でも自己安定な性質があるため、直ちに直 立状態へ復帰することは期待しがたく、倒立状態 が継続する。このような遷移現象を転覆と呼ぶ。

船舶特有の現象とはいえないが、浮力を利用する こ と か ら そ の 可 能 性 が 他 の 乗 り 物 よ り も 大 き い こと、倒立時には乗員乗客が船外に脱出すること が極めて困難となりうることなどから、船舶では このような転覆を防ぐ機能の確保のため、船舶復 原 性 に つ い て 設 計 段 階 で 詳 細 に 検 討 す る 必 要 が ある。

船舶の復原性は、衝突や座礁により船体に破口 が 生 じ て 浸 水 し た 結 果 と し て の 転 覆 を 扱 う 損 傷 時復原性と、無傷の船体に波や風などの大きな外 力 が 作 用 す る こ と に よ る 転 覆 を 扱 う 非 損 傷 時 復 原性の二つに分けられる。船舶の安全を規定する、

「海上人命安全条約」(SOLAS条約)では、この うち、損傷時復原性についての要件が主体で、非 損 傷 時 復 原 性 は 各 国 の 主 管 庁 に よ る 独 自 の 基 準 に任されていた。これは、SOLAS 条約がタイタ ニック号の氷山との衝突・沈没事故に始まったと いう経緯があり、非損傷時復原性についてはそれ 以 前 か ら 主 要 国 で は 独 自 の 経 験 や 基 準 を も っ て い た と い う 事 情 に よ る と 推 察 さ れ る 。 ま た 、

SOLAS 条約が対象とする旅客船や貨物船が外洋

で 運 航 さ れ る 場 合 は そ れ な り の 船 の 規 模 を 経 験 的に与えてきており、非損傷状態での転覆の例は 最近では稀である。一方、漁船やヨットのように、

小 さ な 船 の 規 模 に も か か わ ら ず 外 洋 で 運 用 す る 場合には、非損傷状態での転覆事故は依然多いが、

これらはSOLAS条約の対象ではない。すなわち、

SOLAS 条約が対象とする、客船や貨物船の非損

傷時復原性はこれまで経験的に担保されていて、

国 際 的 に 統 一 さ れ た 強 制 基 準 を 持 つ 必 要 が 少 な かったといえる。

ところが最近になって、客船は定期船からクル ーズへ、貨物船も専用船化が進み、それとともに スケールメリットを追求しての大型化、推進性能 や構造強度を中心とした最適化が進んでいる。こ のような結果として、非損傷時復原性に強い在来 船型と異なる新形式船が増加しつつある。そして 転 覆 に 至 ら な い ま で も 非 損 傷 状 態 で 大 き な 横 揺 れ、横傾斜が生じて、積み荷や乗員に被害が生じ る例が増えつつある。例えば、大型コンテナ船で

向 波 中 の パ ラ メ ト リ ッ ク 横 揺 れ が 生 じ て コ ン テ ナの崩落が生じたり、カーフェリーが追波中で大 きく横傾斜して荷崩れを起こしたり、クルーズ船 が 船 橋 に 波 の 直 撃 を 受 け て 航 行 不 能 状 態 に 長 時 間さらされたりといった事例である。

このような状況を受けて、新形式船については 非 損 修 時 復 原 性 要 件 を 見 直 す べ き で あ る と の 認 識が2001年頃までには国際海事機関(IMO)の 復原性満載喫水線漁船安全性小委員会(SLF)参 加国の間で共有されるようになり、非強制であっ た非損傷時復原性コード(IS Code)の改正と一 部強制化が、2002 年より議題として取り上げら れた。そして、それまでのIS Codeを再構成した 2008 IS Codeが採択され、その中心部分が1974 SOLAS 条 約 と 1988 LL 議 定 書 の 改 正 に よ り 2010年7月1日以降強制化された1-2)。そこでの 基 準 は こ れ ま で 非 強 制 で あ っ た も の を 強 制 と し た だ け で 本 質 的 な 変 更 は ほ と ん ど な い が 、IMO が次の 3 つの動的現象について性能志向基準の 必要を認めると明記したことは重要である。すな わち、

 復原力変動による問題(パラメトリック横揺 れと復原力喪失現象)

 デッドシップ状態の同調横揺れ

 ブローチングや他の操縦性関連問題

である。これを受けて SLF では、これらの現象 に 対 応 し う る 基 準 と し て の 新 世 代 非 損 傷 時 復 原 性基準の策定について、2012 年を目標として、

現在作業中である。これにより新形式船について も 非 損 傷 時 復 原 性 の 問 題 を 解 決 す る こ と が 狙 い である。主対象が新形式船ということで、経験則 というわけにはいかず、従来とは異なる物理則に 即したものとなることも合意されている。すなわ ち、これまでの経験則や半経験則から物理則とい う質的転換が行われる。

本稿は、このような復原性基準の質的変化を海 事 に 関 わ る ス テ ー ク ホ ル ダ ー の 方 々 に 知 っ て い ただくため、これまでの基準から新世代基準まで そ の 基 本 的 な 考 え 方 を 解 説 し よ う と 意 図 し た も のある。筆者はこれまでにも非損傷時復原性基準 についての総説 3-4)を書く機会をいただいてきて いる。本文は、梅田による報告4)をベースに、そ の後の状況の進展を追加しながら、全体的に書き 直したものである。

(5)

2.経験則

船舶の安全基準は、多国間の交通機関として国 際的に整合性のある基準であることが求められ、

国際条約など国際的な合意のもとで決定される。

そしてその条約の締約国はその国際基準を国内法 規に反映させる義務をもつ。国際基準の策定審議 は、国連専門機関のひとつである IMO に各国の 専門家が集まり行われる。非損傷時復原性基準に ついては、非強制の勧告である非損傷時復原性コ ードがあるが、2008年にその改正が行われ、2008 IS Code (2008非損傷時復原性コード)として、

2010年7月1日以降に建造される長さ24m以上 の国際航海を行う船舶(ただし、軍艦、漁船など 特に定める船を除く。)にその主要部が強制適用さ れている 1)。我が国では、この改正を先取りし、

2009年1月 1日よりこの新基準を国内規則であ る、船舶復原性規則に取り込んでいる2)

この新しい2008 IS Codeには、対象となるすべ ての船舶に適用される基準と特定の種類の船舶に のみ適用される基準が含まれる。このうち前者の ひとつはGZ曲線についての基準(Part A, 2.2) である。GZ(復原てこ)とは、横傾斜した船舶に 働く復原モーメントを船の重量で除したものであ り、浮力と重力の着力点が横傾斜により水平方向 にずれることによって発生するもので、静止水面 に対して流体静力学的に推定できる。船は横傾斜 すると通常その傾斜を元に戻す方向にモーメント が生じるため安定である。しかしそのモーメント、

いいかえればGZは、Fig. 1のように、横傾斜角 とともにその大きさが変わり、ある程度以上では 減少し、ついには負となる。すなわち横傾斜を助 ける方向にモーメントが発生する。この GZが正 から負に転じる横傾斜角を復原力消失角vという。

さらに横傾斜角が増して180度すなわち倒立状態 となると再び GZが零となる。ここでは直立状態 同様に、横傾斜角が増すほど GZが増加するので 安定である。すなわち、船舶は通常、直立状態と 倒立状態で安定であり、もし倒立状態に何らかの 原因で陥ると自力では直立状態に戻ることはでき ない。これが転覆である。逆にいえば、直立状態 から倒立状態に移行するためにも何らかの外力が 不可欠である。すなわち GZの大小のみで船舶の 復原性が十分であるかどうかを論じることは不可 能ともいえる。

しかしながら、2008 IS CodeのPart A, 2.2は、

次のように、GZ曲線の大きさ、微分値、積分値、

極大値の位置と、復原モーメントのみの基準とな っている。

Fig. 1 Restoring arm curve of a ship as a function of heel angle

m GM

m GZ

GZ

E E

E E

m

15 . 0

degrees 25

2 . 0 ) (

rad m 03 . 0 ) degrees 30 ( ) degrees 40 (

rad m 09 . 0 ) degrees 40 (

rad m 055 . 0 ) degrees 30 (

max

max

(1)

ただし、E(

)

0GZ(

)d

GZ(0degrees) d

GM d

これは、それぞれの要件の閾値が過去の船舶の 事故統計により決定されているためである3)。例 えば、GZmについていえば、Fig. 2のような117 隻の船の実績から 0.2m という閾値が統計学的観 点から決定された。これより、上記各式の右辺に 波浪の影響が陰に含まれていると解釈すべきであ る。すなわち、過去の実際の波浪中での船舶の転 覆事故によりこの復原性基準は成り立っており、

完全な経験則といえる。このことは、基準策定の ベースとなった事故統計データに含まれる船舶か ら、その後船型の変化や運用水域の変更があった 場合には、この基準の適用性に直ちに疑問が生じ うることを意味する。実際この基準は IMO の前 身であるIMCO(政府間海事協議機構)において 1968年に総会決議として採択されており、すでに 40年が経過している。その後の船型の変化は著し く、コンテナ船、カーフェリー、自動車専用運搬 船、大型クルーズ客船などはそれ以降に海運の主 力となった船種である。当然ながら基準の改正が 必要であるが、同様な経験則を作るためにはそれ 以降の船舶の転覆事故を集める必要があるものの、

その数は減少しており統計的に有意な基準を作る ことは難しい。そしてもしでき上がったとしても、

さらにそれ以降に生み出される新形式船について は原理的に何らの保証とならない。

GZm

(6)

Fig. 2 Distribution of the maximum righting arms of ships suffering stability failures (These data were used for the development of the righting arm criterion5 ).)

3. 半 経 験 則

以上 のよ うな 経験 則の 限界 を乗 り越 える ため に 、 波浪や風といった海象を陽に取り入れることを国 際社会に提案した国は我が国である 5)。というの も、1950年代に、その頃国内で頻発していた旅客 船の転覆事故を防ぐため、物理則をベースとして 海象条件に対応できる非損傷時復原性基準をすで に国内で施行していたという実績があったためで ある。この基準により、我が国は、航行区域に応 じた海象条件を設定し、旅客船の転覆事故をなく すことに成功していたのである。海象を反映でき る基準として、特に weather criterion と呼ばれ る。

Fig. 3 Energy balance used in the weather criterion1)

この 基 準の ベ ース と なる 物 理モ デ ルは 、 横波 、 横風中を船舶が漂流するという状況を想定してい る。最悪の状況として、波周期がそれぞれの船の 横揺れ固有周期に等しい同調横揺れを想定し、こ の同調横揺れにより最も風上側に傾斜した瞬間に

突風が吹くことを考えている。このような状況で 転覆に至らない条件としては、突風による傾斜エ ネルギーよりも船に残存している復原エネルギー が上回ることと近似的に考えることができる。な ぜなら、同調横揺れが生じているとき、船に働く 波浪によるエネルギーと船が波や渦を作り出すこ とによる減衰エネルギーは相殺しているため、残 る復原エネルギー(ポテンシャルエネルギー)と 風によるエネルギーのバランスを、Fig. 3のよう に、考えればよいことになる。

すなわち、一定の風による横傾斜レバーlw1によ る0の横傾斜の存在するとき、風上側に1だけ横 揺れした瞬間に、lw2の横傾斜レバーにあたる突風 を受けたとして、風による傾斜エネルギーに相当 する面積aよりも残存する復原エネルギーに相当 する面積bが大きいことをもって転覆しない条件 とできる。なお、2は、船内に海水が連続的に流 入したり、船内の荷物が移動する限界角であり、

横揺れ角がこれを越えると復原モーメントが期待 できない。

Fig. 4 Relationship between wave age and wave steepness5)

ここ で 、波 浪 によ る 横揺 れ 角を 計 算す る ため 、 波岨度、すなわち波高と波長の比が必要となる。

そこで、Fig. 4に示すような、Sverdrup とMunk による波齢(波の位相速度と風速の比)と波岨度 の関係を利用する。これは海洋における観測に基 づくもので、ここでの波高は有義波高を意味する。

同調横揺れという仮定より、個船の横揺れ固有周 期と同じ周期の波の位相速度が求まり、風速を考 慮すると波齢が求まる。この波齢から波岨度が求 まるということになる。ここで、船のサイズによ って波の発達度が決まることには問題が残る。こ の波岨度から、船の非線形の減衰モーメントを考 慮すると、規則波中同調横揺れ角が理論的に計算 できる。ただし、実際の海洋波が不規則であるこ

(7)

とから、規則波中の横揺れ角の70%を波浪による 横揺れ角として用いる。すなわち、ある確率を仮 定して、不規則波を規則波に置き換えていること になる。

風についても、本来不規則な現象であるところ、

突風という考え方で単純化を図っている。海上風 の観測データから2時間内の最大風速と平均風速 の比(突風率)をまとめたFig. 5によると、最大 で1.7、平均で 1.5=1.23程度である。2ないし8 分間の最大風速が転覆に重要という観点からこの 基準では 1.5を代表値として用いている。

Fig. 5 Relationship between mean wind velocity and gustiness5)

以上のように、本来不規則な確率過程として扱 うべき、波浪や風をそれぞれにおいて仮定を設け て決定論的に扱っている。さらに風や波により船 に作用する外力の推定も経験的に扱っているため、

基準の安全レベルには不確かさが残る。これらの 点を踏まえ、基準の安全レベルが現実的なものと なるように、50 隻の船舶について b=a となる風 速を逆算し、事故を起こしたり復原性に問題が生 じた船を不合格にするように風速を決定した。す なわち、この weather criterion でも、物理モデ ルを用いながらも、最終段階では事故統計との比 較でチューニングを行っており、その意味で半経 験則というべきである。また、ここで用いた転覆 事故実績は必ずしも横波、横風に限らない。この 我が国で策定された weather criterion は、先の GZ曲線の基準を補完するものとして、1985年に IMOの非強制基準として決議された5)。ただし、

横揺れ角の計算法は旧ソビエト連邦の国内基準の 方法を取り入れた形に修正されたが、波岨度の計 算法など変わっていない。この IMO の基準も、

最終的に用いた事故統計は我が国の 1950 年代の ものであり、新形式船への対応には難点があるこ とには注意すべきである。また、ここでの物理則 は横風横波中に対するものであり、それ以外の転 覆モードについては GZ曲線基準という完全な経 験則よりも適用性に優れているとはいえない。

4. 物 理 則

最初に述べたように、現在の経験則や半経験則 では新形式船に対応できないという問題を克服す るため、また横風横波以外の転覆モードにも対応 するため、物理則に基づく新しい復原性基準を策 定 す る 作 業 が 始 ま っ た 。 こ こ で 対 象 と す る の は 、

(ⅰ)追波中復原力喪失現象、(ii)パラメトリッ ク横揺れ、(iii)ブローチングなど操縦性関連問 題、(iv)デッドシップ中の同調横揺れの 4 種類 と合意されている 6)。そして、そのそれぞれにつ いて、第1段階基準(vulnerability criteria)と 第2段階基準(direct stability assessment)を策 定し、長さ24m以上の客船・貨物船はそのいずれ かに合格することが要求される予定である 6)。こ の2種類の基準はいずれも物理則に基づくものと し、さらにそれぞれの船について同様に物理則に 基づく操船基準により補完される 6)。これは、設 計のみで転覆の危険を排除しようとすることは、

適切な操船のもとで安全に現在運航されている船 舶を除外することになりうるという理解によって いる。すなわち、今ただちにどのような運用下で

も安全(fool-proof)な船舶を要求することは、現

在の国際的な経済活動を妨げかねないという現実 的判断である。

この目的のためSLFは、2008年7月に、コレ スポンデンス・グループを設置した。21カ国(米 国、英国、中国、フランス、ドイツ、韓国など)、

3 機関(国際船主協会連合、王立造船学会、国際 試験水槽会議)がこれに参加し、コーディネータ ーには著者である梅田(日本)が選出された。こ のグループは、第1段階と第2段階の基準の複数 の 案 と そ の 試 計 算 結 果 を 各 国 よ り 収 集 し 、2010 年1月SLFに報告した7,8)

SLFでは、これを受けて、第1段階基準をさら に2つの階層に分離すること、合計3つの階層の 基準は要求安全レベルと計算量が整合性を持つべ きことが合意された。また、追波中復原力喪失と パラメトリック横揺れの第1階層基準案がそこに 含まれていなかったため、2010 年 6 月までに最 優先でこれらの案を収集することとなった 9)。こ のような付加すべき基準案の収集と各種基準案の 検証と改良のため、SLFは2010年1月にコレス ポンデンス・グループを再設置した。23カ国(米 国、英国、中国、フランス、ドイツ、韓国など)、

1地域(香港)、6機関(国際船級協会連合、国際 船主協会連合、王立造船学会、国際試験水槽会議 など)がこれに参加し、コーディネーターには再 度梅田(日本)が選出された。そして、IMOでは、

2012 年 には この策 定作 業 を完了 させ る 予定で あ

(8)

る。

4.1 追波中復原力喪失現象

船の長さに近い長さの波の中では、船の横復原 力は、平水中のそれに比べて変化しうることがよ く知られている。Fig. 6のように、船の中央部に 波の山があって、船首、船尾が波の谷にあると、

船に働く横復原力は平水中よりもかなり低下する。

なぜなら、船体中央部は船側がほぼ垂直で、水位 が上がっても幅は変わらないのに対して、船首尾 では水位が下がると幅は狭くなるからである。こ の船首尾の下細りの形状は、船のスピードや耐航 性のためであって、これを変更することは難しい。

このようにしてある場合には、波の山で横復原力 が全く失われることもある。

Fig. 6 Schematic view of reduction of water plane area on a wave crest amidship

もし GZ が正になる領域が全くなければ外力な しに転覆することが考えられる。あるいは、風や 滞留水などの外力が存在すればGZ がいくらか正 であっても転覆しうる。このようにモーメントの 釣 合 が 存 在 せ ず 静 的 に 転 覆 す る モ ー ド を Paulling は 復 原 力 喪 失 現 象 (pure loss of stability)と呼んだ10)。その定義によれば、船がほ とんど横揺れ運動をしていない状態から一つかそ れ以上の数の大変険しい波に出会い、船体重心が その波の山にあるときGZ 正の領域を失って転覆 することとされる。このようなモードによる事故 例としては、2009年11月に熊野灘沖でカーフェ リーが斜め追波中で約 40 度の横傾斜を起こし、

その後航行困難となって全損に至った例が記憶に 新しい11)

縦波中の復原力変動は、船首尾のフレアー形状 に依存するもので微小振幅波理論では高次となり、

波に対して非線形に変化する。このため不規則波 中の現象を線形重ね合わせの方法により取り扱う

ことができず、Grim12)は有効波という概念を提案 した。すなわち、船長に等しい長さの波の山が船 体中央にあるとする有効波で不規則波を統計的に 近似しようとするもので、有効波の振幅が一つの 線形確率過程となる。そしてこの有効波の振幅と 復原力変動の振幅の関係をノンメモリーな非線形 要素で表現しようとする考え方である。

この有効波の概念を用いて、旧東ドイツとポー

ランド 13,14)は追波中の復原性基準案を IMCO に

提案した。そこでは、不規則波のスペクトルを、

転覆に要する復原力低下継続時間として横揺れ固 有周期の60%と仮定したうえ、有効波のスペクト ルに変換し、3%の超過確率に対応する有効波の高 さをまず求める。そしてこの有効波に対して復原 力計算を行い、GM、GZの最大値、復原力消失角、

ウエザークライテリアの b/a係数の基準値を上回 ることを要求している。この基準案では技術的裏 付けが十分でないとして、梅田ら15)は模型実験を 行いこの基準案の検証を試みた。Grim の有効波 の概念から復原力が負となる継続時間を確率理論 的に求める式を導く一方、不規則真追波中を横傾 斜した模型を曳航し、復原力が負となる時間を計 測した。これらの比較により、実験と計算はある 程度一致することが示された。しかしながら、旧 東ドイツ・ポーランド案の転覆に要する時間が船 固有のものとして与えられるとする考え方には疑 問があり、初期横揺れ角度や角速度、波の山との 相対的位置の関数とすべきであろう。

梅田ら16)は、上記の旧東ドイツ・ポーランド案 の問題点をふまえて、追波、斜め追波中の復原力 喪失による転覆の確率を計算する方法を新たに展 開した。まず波の山(Grim の有効波の極小値)

に船体重心が出会ったときの横揺れ角、横揺れ角 速度の結合確率密度を線形理論により計算する。

一方、そのときの転覆に至る横揺れ角、横揺れ角 速度の領域を非線形モデルの位相面解析から求め る。その転覆領域について先の結合確率密度を積 分することで、1 波ごとの転覆確率を計算しよう とする方法である。この方法による計算例を、Fig.

7 に示す。長波頂の不規則横波中で転覆確率が極 めて小さい船でも斜め追波中では 105よりも大 きな転覆確率となること、短波頂になるとその傾 向が出会い角について平均化されることなどが示 されている。

in calm water

in waves (wave crest amidship)

(9)

Fig. 7 Theoretically calculated capsizing probability per zero wave crossing for a small trawler with the average wind velocity of 10 m/s and the Froude number of 0.3 (Here S.C. and L.C.

mean short-crested and long-crested irregular waves, respectively16).)

Fig. 8 Theoretically calculated capsizing probability per zero wave crossing for the small trawler with the heading angle of 30 degrees and the Froude number of 0.3 together with the results of Monte Carlo simulation16)

梅田ら17)は、この計算法の検証のため、不規則 な波、風中の前後揺れと横揺れの2自由度の時間 領域シミュレーションを行った。

) , ( ) ( ) , ( )

(mmx uTp u nRuX

G t (2)

) ( )

( I

xx

J

xx

     B

44

   WGZ

) , ( } ), , (

{ t K t

WGZweffG   wG

) ( ) (

Mxb0tMxbt (3)

この時間領域シミュレーションで、不規則外乱を 与える乱数を変えて多数回の試行を反復し、その うち転覆した回数と全試行数の比が転覆確率の推 定値となる。その結果は、Fig. 8 のように、先述 の理論計算と概略一致した。ただし、先の理論で は、波の山に船が十分長くとどまると仮定したた め、いくらか安全側の推定となっている。

この時間領域シミュレーションを、北大西洋な どの波浪出現頻度表に含まれるあらゆる有義波高 と平均波周期の組み合わせについて実行し、それ ぞれの組み合わせに対するT秒間の最大横揺れ角 の集合平均max*を求めておくと以下の式で、北大 西洋などの海域内で荷崩れなどの事故の年間発生 確率を計算することができる18)

i T

an p

P 1(1 )365243600 (4)

ただし、

01 3 / 1 01 3 / 0 1

   0H ( max *(H1/3,T01) )f(H ,T )dH dT pi

 

  ev c

x

0では Hev(x)=1、x<0 では Hev(x)=0、cを限 界許容横揺れ角度とする。

4.2 パ ラ メ ト リ ッ ク 横 揺 れ

より低速の船では、復原力喪失は一瞬ではある が、周期的に復原力が変動することから危険に至 ることもある。Fig. 9は、復原力の強さと横揺れ の角度の関係を表わしているが、次のような事実 がわかる。船が直立から左舷側に傾き始めるとき、

波によって横復原力が弱くなるとすると、横揺れ はさらに勢いづく。次に船が左舷側から直立へ戻 ろうとするとき、今度は横復原力が強くなってい ると、この横揺れは助けられる。そして直立点を 過ぎて、今度は右舷に傾くと、横復原力はまた弱 まっているので、横揺れはしやすくなる。このよ うに、波による横復原力が船の横揺れを絶えず助 けるように働くと、横揺れは次第に大きくなり、

ついには転覆してしまう。このようなことが起こ るのは、横揺れの周期が横復原力変化の周期の 2 倍のときである。横復原力の周期は波と出会う周 期に等しい。ふつう船は波と出会う周期で揺れて いるので、この現象は周期が通常より長いところ に特徴がある。この現象を「パラメトリック横揺 れ(parametric rolling)」と呼ぶ。

(10)

横揺れ

復原力の強さ

波の谷 波の山

Fig. 9 Parametric rolling and restoring variation

このようなパラメトリック横揺れが実務上注目 されたのは、1998年10月に北太平洋上で、C11 級ポストパナマックス・コンテナ船のコンテナ損 傷事故である19)。このとき、船首を波に向けて最 小限の保針可能速力とするヒーブツー状態におい て、35から40度の横揺れが発生し、400個のコ ンテナが流出、400個のコンテナが損傷した。パ ラメトリック横揺れ自体は 1930 年代から知られ ていたが、現実の不規則波面では起こりがたく、

実験水槽や理論上の問題としてとらえられていた。

ところがこの事故が報道されると、同様な事例が コンテナ船や自動車専用運搬船で続々報告される ようになった。すなわち、現象そのものは古くか らあったが、操船者にはそれが何であるか判断す る術がなかった可能性もあろう。

このパラメトリック横揺れは、力学的にはパラ メトリック励振現象として知られ、変位に依存す る 項 、 す な わ ち 復 原 項 が 線 形 で あ る と す れ ば

Mathieu方程式の安定判別に帰着する。規則波中

の船舶のパラメトリック横揺れについても、同様 な方法で基本的に対応できるが、この場合特有の 問題として、復原力の横揺れ角についての非線形 性、波による復原力変動の流体力学的推定、波浪 による船体前後揺れとの連成などがある。

これらを解決した理論モデルによる向波中のパ ラメトリック横揺れの振幅を模型実験と比較した 例20)をFig. 10に示す。対象船は前述の事故を起 こしたコンテナ船をわずかに変更したものであり、

理論が実験とよく一致していることと最大振幅が 40度に及んでいることがわかる。理論モデルでは、

次の上下揺れ、縦揺れ、横揺れの3自由度連成運 動方程式を時間領域で解いている。

33 33 34

34 35 35

3 3

( ) ( ) ( )

( ) ( ) ( )

( )

( )

( / , , , )

FK B DF

G

m A B A

B A B

F F

  

  

  

  

    

  

  

 

  

  

(5)

) ( )

, , , / (

) ( )

( )

(

) ( ) ( )) ( (

4 4

45 45

43

43 44

DF G

B FK xx

F F

B A

B

A D A

I

(6)

55 55 53

53 54 54

5 5

( ) ( ) ( )

( ) ( ) ( )

( )

( )

( / , , , )

yy

FK B DF

G

I A B A

B A B

F F

  

  

  

  

    

  

  

 

  

  

(7)

0 10 20 30 40

0 0.05 0.1 0.15

roll amplitude of parametric roll (deg.)

Froude number

roll decay test

H/λ=0.01 (exp.) H/λ=0.02 (exp.) H/λ=0.03 (exp.)

H/λ=0.01 (cal.) H/λ=0.02 (cal.) H/λ=0.03 (cal.)

Fig. 10 Parametric roll for the C11 containership in regular head waves with λ /L=1.020)

ここで、浮力とフルードクリロフ成分は合わせて 入射波の圧力を波面まで積分することで求め、ラ ディエーション力とディフラクション力は、STF 法21)として知られるストリップ法で求めた。その 2 次元流体力は境界積分方程式を解くことで計算 した。ここで縦運動の周波数は出会い周波数、横 揺れの周波数は出会い周波数の1/2倍とした。さ らに横揺れ減衰力は模型による自由横揺れ試験か ら推定した。この結果、波浪による復原力変動は、

横傾斜角に対して非線形であるのみならず、上下 揺れ、縦揺れからの連成や造波の影響をも考慮し たこととなる。これらの要素をひとつでも省略す ると実験との一致は困難となる。

不規則波中のパラメトリック横揺れについては、

理論予測はより難しくなる。すなわち、規則波中 で良い一致を示すモデルでも実験での最大横揺れ 角を過大に評価することが多い。その理由として、

(11)

ⅰ)波浪による抵抗増加が不規則波中では長周期 で変動するため周波数変調がより顕著となる 22)

ⅱ ) 不 規 則 波 中 で は パ ラ メ ト リ ッ ク 横 揺 れ の 発 生・消滅の繰り返しとなるためそこでの非線形復 原 力 に よ る ヒ ス テ リ シ ス に よ り 非 エ ル ゴ ー ド 性

(横揺れ角1試行の時間平均と多試行間の集合平

均が不一致)が生じる23)、ⅲ)同じ理由で発生に 関与する横揺れ減衰力の推定精度の影響が大きい ことなどが挙げられる。このため、なるべく多く の試行での集合平均を取るなどの工夫が必要とな る。

そのうえで、北太平洋などと対象海域を決める。

Fig. 11のような、有義波高と平均波周期の出現頻

度分布f (H1/3, T01)を何らかの方法(船舶での目視 観測、人工衛星からの観測、波浪推算など)で入 手する。そして、実現可能な有義波高と平均波周 期のすべての組み合わせについて、一定海象の持 続時間について不規則波中の横揺れの時間領域シ ミュレーションを実施する。ここで、前述のよう に、波スペクトルを構成する成分波の位相を変え て、多数回の試行を反復し、その集合平均を取る。

このようにして、あるポストパナマックス・コン テナ船の北太平洋におけるパラメトリック横揺れ の 最 大 角 度max(H1/3, T01)を 計 算 し た 例 24)

Table 1 に示す。ここでは、安全側の推定とする

ため、船速は最もパラメトリック横揺れが生じや すい場合とした。ポストパナマックス・コンテナ 船では、北太平洋での荒天状態で35度から40度 の横揺れがパラメトリック横揺れにより生じるこ と、同じ波周期でも必ずしも波高が大きいほどパ ラメトリック横揺れ角度が大きくなるわけではな いことが確認できる。先のC11級ポストパナマッ ク ス 船 に 類 似 し た 船 に つ い て の 計 算 例 も 小 川 25)

により報告されている。

さらにこの最大角度が、コンテナ崩落の限界角 度cを上回る事象の出現する確率piを次式で計算 する24)

01 3 / 1 01 3 / 1  

0  

  0

  Hev( max(H1/3,T01) )f(H ,T )dH dT pi

 

c

(8)

そして、これを次式で1航海あたりに変換する と、1航海あたりの損失コンテナ数Lcontainersが計 算できる。

 

1

1 1

simulationttrip

M

containers i i t

i

L m p

 

    

 

(9)

た だ し 、M は コ ン テ ナ 積 載 段 数 の 種 類 の 数 、mi

は そ れ ぞ れ 積 載 段 数 ご と の コ ン テ ナ 個 数 、ttrip

tsimulationは1航海の所要時間、1シミュレーショ

ンでの再現時間である。

Table 1 Maximum angle of parametric rolling for a post Panamax containership in the North Pacific in degrees (Here the cross indicates the case no probability for the relevant wave condition24).)

Zerocrossing wave period (seconds)

Significant wave height (m)

(12)

Fig. 11 Probability density of the significant wave height and the mean wave period in the North Pacific

そして最終的に対象船のライフサイクルでの費 用便益解析を行うと、パラメトリック横揺れ防止 のためにアンチローリングタンクを設置しても、

その費用を容易に回収できることなどが判断でき た24)。ここで波浪情報としては、有義波高と平均 波周期の出現頻度分布、一定海象の平均持続時間、

波スペクトル形状などが必要であり、最終的な復 原性評価結果を左右する。

4.3 ブローチング

ブローチング現象(broaching)は、高速で航行す る駆逐艦、カーフェリー、ヨットなどではその発 生がよく知られている26)。Fig. 12は、ブローチ ング現象の模式図である。船尾に波の山を斜めに 受けると、波の力で船尾を横に振られるようにな る。操舵手はこれを防ぐために舵を反対に切る。

ある程度までは舵の作用でこの旋回を防ぐことも できるが、その限界を越えると急激な旋回が始ま り操縦不能となる。この急旋回の結果としての遠 心力から、大傾斜、転覆したり、航路をはずれて 座礁、衝突することもある。この現象の発生のた めには、波の谷に近い下り波面に比較的長いあい だ留まることが必要条件となる。そのような状況 は、サーフィンと同じように起こるので、波乗り 現象として知られる。

1 2

3

4

波の山 波の山

波の谷

Fig. 12 Schematic view of broaching

0 5 10 15

-20 -1010200

t(s) Pitch(degrees)

0 5 10 15

-90-60 -303060900

t(s) Roll(degrees)

0 5 10 15

-60-40 -202040600

t(s) Yaw(degrees)

0 5 10 15

-45-30 -151530450

t(s) Rudder(degrees)

Experiment Calculation

0.00 1.00 2.50 4.00 5.50 7.00 8.50 10.00 1.50 6.50 11.50

0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12

PHT(H1/3,T01)

H1/3 (m) T01 (sec)

Fig. 13 Comparison in time records of broaching for a purse seiner between the experiment and the calculation ( Here the wave steepness is 1/9.3, the wavelength to ship length ratio is 1.413, the autopilot course is -10 degrees from the wave direction and the nominal Froude number is 0.4327).)

(13)

x Ship

y wave trough O

G

G

Z

y

O

G

Fig. 14 Coordinate systems

この現象を記述する理論モデルは、船舶の操縦 制御運動を扱う数学モデルに、波による外力を加 えることで概略説明できる27)。規則波中において、

ある135トン型まき網漁船の模型実験で計測され たブローチングによる転覆を、理論モデルと比較 した例27) をFig. 13に示す。計算は実験よりも約 2 秒ブローチング発生が早いものの、両者の一致 は良好である。この理論モデルでは、前後、左右、

横揺れ、船首揺れの4自由度の運動方程式に、比 例微分制御のオートパイロットによる操舵機の応 答方程式を加えている。ここで、Fig. 14のように、

ある波の谷に固定した波固定座標系O-と直立 した船体に固定した座標系G-xyzを考える。ここ で、状態ベクトルxと制御ベクトルbを以下のよ うに定義すると、

G

T

T uv r p

x x

x, , , )

/

, , ,

, ,

, ,

( 1 2  8

x(10)

n,

c

T

b(11)

状態方程式は、

  

x;b f1(x;b),f2(x;b), ,f8(x;b)

T

F

x   (12)

ただし、

cos

sin

 

/

)

1( u v c

f x;b    (13)

( ; ) ( ) ( / , )

/( ) )

2( T un Ru Xw G m mx

f x;b   

  

(14)

 

) /(

)

; , , / ( )

; ( ) (

)

; ( )

; ( ) ( )

3(

y

G w

r v

x

m m

n u Y

n u Y u Y

r n u Y v n u Y ur m m f

     

b x;

r (15)

f4(x;b) (16)

) /(

)

; , , / ( )

; (

) ( )

; ( )

; ( )

5(

ZZ ZZ G

w r v

J I n u N

n u N

u N r n u N v n u N f

    b x;

p (17)

f6(x;b) (18)

) /(

)]

( )

; , , / (

)

; ( ) ( ) (

)

; ( )

; ( [

)

7(

xx xx G

w P

r v

H x

J I mgGZ n

u K

n u K u K p u K

r n u K v n u K ur z m f

b x;

(19)

KR C KRTDr

TE

f8(x;b)  ( ) / (20)

となる。ここで、波力が波と船の相対位置G/ なっているため、モデルとしては非線形な自律系 となる。また、波による運動や波振幅は微小とし、

それらの相互干渉項は高次の微小量として省略し ている。さらに、波力は線形細長体理論(内部問 題の自由表面は剛壁の条件)により、船体抵抗、

プロペラ推力、操縦性流体力微係数は拘束模型実 験により、横揺れ減衰力は自由横揺れ模型実験に より推定している。

このモデルは先述のように、ブローチング発生 の代表的な航走条件下でブローチングの時系列を 再現できることは確認できている。しかしながら、

ブローチング発生の限界条件を推定できるかとい うとまだ難点がある。そこで橋本らは、出会い周 波数が非常に小さいという仮定は残しつつも、上 記のモデルで省略した高次項を加えた計算を系統 的に行い、最終的に上記のモデルを改善するうえ で不可欠な項のみを加えた改良モデルを以下のよ うに提案した28)

f

T

f

f ( ), ( ), , ( )}

{ )

( x; b

1

x; b

2

x; b

8

x; b

F

x    

(21)

ただし、

 sin ) / cos

( )

1

( u v c

f x; b   

(22)

) /(

)}

, / (

)

; , , , / ( )

; , , (

) , ( )

( )

; ( { )

2

(

x G

w

G NL rud

M

RNL

m m X

n u X

n r v u X

u X u R n u T f

b

x;

(23)

) /(

)}

; , , / ( )

; , , / (

)

; ( ) , ( )

(

)

; , , ( )

; , , / (

)

; ( )

; , , / (

)

; ( ) (

{ )

3

(

y

G w G

W

RNL

MNL G

W r

r G

W v

v x

m m

n u Y

n u Y

n u Y u Y u Y

n r v u Y r n u Y

r n u Y v n u Y

v n u Y ur m m f

b x;

(24)

r

f

4

( x; b ) 

(25)

参照

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