都市内緑環境の分析 〜過去との対比〜
前田憲治,吉川 眞,田中一成
Analysis on Urban Green Environment : Contrast with Past
Kenji MAEDA,Shin YOSHIKAWA and Kazunari TANAKA
Abstract: Recently, there have clearly existed such urban problems as the environmental deterioration, the decrease of green environment, and the loss of landscape resources like historical and regional features. The authors are analyzing the urban green environment to create good urban space by using the geo- information technology integratedly in terms of the landscape characteristics as well as an understanding about the present green. It is emphasized in this paper that the past green is reproduced and visualized from the historical documents such as historical maps, pictures, prints and old photographs in comparison of landscape with the present green.
Keywords: 緑 環 境 (green environment) , 空 間 情 報 技 術 (geo-information technology),景観対比(comparison of landscape)
1.はじめに
大阪は,飛鳥時代の難波宮を中心とした都づくり から近世の大坂城築城による都市づくりを経て,
「天下の台所」や「水の都」として発展してきた.
しかし,明治以降になると生産性重視の画一的な都 市整備が行われ,都市環境の悪化や歴史的・地域的 特性といった長い年月のなかで形成されてきた地域 特有の景観資源の喪失を招いた.
このような状況のもと,国土交通省において「美 しい国づくり政策大綱」が取りまとめられ,その具 体的政策の1つである景観に関わる基本法の制定が,
2004 年 12 月に景観法として施行されている.この 結果,国の法律によって裏付けされた法的規制力に もとづく景観計画が可能となった.
一方で,近年の電子地図を利用した IT サービス の急速な普及を背景に,信頼性の高い情報が安定的 に享受できる体制を整備するため,地理空間情報活 用推進基本法が成立した.それに伴い,地理情報シ ステムの積極的な利用が注目されている.
このような流れを汲み,本研究では GIS やリモ ートセンシング(RS:Remote Sensing),CAD/CG といった空間情報技術を統合的に利用して,都市内 に存在する自然的な要素,なかでも環境の改善効果 や都市景観の形成などの機能をもつ緑をテーマとし て,研究を進めていく.
前田:〒535-8585 大阪市旭区大宮 5-16-1
大阪工業大学大学院 工学研究科都市デザイン工学専攻 TEL: 06-6954-4109(内線 3136)
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2.研究目的と方法
植生の変化は,人間活動の目まぐるしさに比べる と,かなり安定的に見えるが,過去から現在に至る 長い歴史のなかで,さまざまな要因により大きく変 化してきたものと考えられる(小椋,1992).現在 では,リモートセンシング技術を用いることで容易 に,ここ 20 年から 30 年の植生変化を捉えることが できる.しかし,それ以前の植生変化については不 明な部分が多いといえる.
そこで本研究では,過去から現代に至るまでの植 生変化を明らかにすることで,歴史や文化,風土な ど地域の特性に根ざした次世代の「緑のデザイン」
を創出することをめざしている.
具体的には,近年における植生の変化については,
RS データ解析を行うことで緑被地を抽出し,各年 代における植生分布を把握した.また,過去の状況 については,文献を通してわかることも多いが,植 生に関しての記述はふつう断片的にしかなく,その 広がりや具体的なイメージは捉えにくい.そこで,
本研究では絵図や古写真などを植生の変化を知るう えで重要な歴史的資料として利用している.さらに,
先行研究において大坂の復元(奥住・吉川,2000)
が行われており,本研究はその成果と収集した資料 により過去の都市モデルの復元を行い,過去と現在 における緑環境を含む景観の分析と対比を行う.な お,研究の対象地域としては,歴史的・文化的魅力 に満ちたまちづくりなどをテーマに都市景観の整備 を推進している大阪市を選定している(図−1).
3.緑環境の地域的特徴 3.1 研究の経緯
大阪市における広域的な植生の把握には,RS デ ータ解析から正規化植生指標(NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)を算出し,緑被地の抽 出を行った.結果としては,緑被地の多くは大阪城 公園などの都市公園や淀川河川敷に多く存在してい る.さらに,街路樹木台帳図を活用することで街路 樹の位置や樹種を把握した.構築した空間データか らカーネル密度法により街路樹密度の高い地域や IDW による空間補間を行うことで,特徴的な地域 として北区梅田1丁目や中央区城見2丁目を抽出し た.ここでは,ネットワークを考慮した空間解析の 必要性を指摘している(前田・吉川・田中,2006).
そこで,ネットワーク型の分析に展開することにし た.
3.2 ネットワークカーネル密度法
カーネル密度法は,ポイント・フィーチャなどが 集中している地点を視覚的にわかりやすい形で認識 できる特徴がある.しかし,この解析手法は平面上 のユークリッド空間を前提としているため,街路樹 のような道路というネットワーク上に存在している 事象について厳密な分析は行うことができない.そ こで,東京大学工学部都市工学科住宅・都市解析研 究室により開発されたネットワーク上で空間分析を 行う包括的ツール SANET(Spatial Analysis on a Network)を用いている.さらに,佐藤俊明氏によ って開発されたネットワークカーネル密度法のプロ グラムを用いることで,ネットワークを考慮した空 間解析を行った(図−2).
その結果,梅田や城見周辺の街路が同様に高い値 を示した.さらに,御堂筋やなにわ筋,堺筋など南 北方向に延びる筋について街路樹密度が高くなって いることが明らかとなった.これらの街路は,大阪 市の景観形成基本計画に定められている「みち・み どり軸」にあたり,南北軸をメインに緑のネットワ ークが形成されている.
図−1 大阪市の位置図
4.景観分析 4.1 対象地区
現在と過去における景観の対比および分析を行う ため,緑環境の特徴的な地域を含む大阪城周辺(6 km×6km)を選定し,都市モデルを構築した.大 阪城周辺は,市内で数少ない広域的な緑被地や街路 樹密度の高い街路など,特徴的な緑環境が多く存在 する地域といえる.また,歴史的資料が多く残って いることから,景観対比を行いやすい地域といえる.
4.1 都市モデルの構築
広域の都市モデル構築に関しては,航空機搭載型 レーザ測量データ(LIDAR データ)を活用するこ とで,効率的にモデリングを行った(Yamano and Yoshikawa, 2003).また,先行研究において,す でに対象地域の建物や地形を含めた都市モデルは研 究成果として構築されている(前田・吉川・田中,
2006).
本研究では,植生景観の分析に必要な樹木モデル を付加し,より詳細な都市モデルを構築している
(図−3). LIDARデータのポイントデータから 不 定 形 三 角 網 ( TIN :Triangulated Irregular Network)を生成し,樹冠のみを抽出した.抽出方 法としては,TINの標高データから等高線を作成す ることで,勾配が急激に変化するエリア,つまり等 高線の間隔が近接している箇所を樹冠として定義し た(図−4).
4.2 現代都市における緑の見え方
都市景観における緑の視覚的影響を定量的に分析 するため,対象範囲において数値表層モデル
(DSM:Digital Surface Model)をグリッドサイズ 1mで構築した.さらに,大阪城公園に植栽されて いる樹木を視点に設定し,緑の見え方を把握するた め可視・不可視分析を行った.
結果として,広域的な緑被地を有する大阪城公園 であっても,緑の見え方は半径1km 以内の限られ た街路からでしか捉えることはできない(図−5).
図−2 ネットワークカーネル密度
図−4 樹冠の抽出方法(左:TIN,右:等高線)
図−3 現代の都市モデル
図−5 可視領域(街路のみ抽出)
4.3 植生景観の変遷
過去の植生把握には,江戸時代末期の安政年間
(1854〜1860)頃に大阪市中および近郊の代表的名 所 100 景を描いた錦絵「浪花百景」,初代長谷川貞信 が幕末から明治初期を描いた同名のシリーズ作品
「浪花百景」などの絵図や古写真,明治初期の仮製地 形図(2万分の1)を利用した.
景観の対比にあたり,絵図が描かれた場所の特定 が必要となる.過去の都市モデルについては,本研 究室で継続的にモデルの精度向上や復元範囲の拡充 が行われている.本研究では,その成果と地形図な どを用いて,GIS側から視点の特定を行っている.
以上の段階を踏まえ,絵図に描かれている内容から 現在と過去との景観対比を図る(図−6).
結果として,現代との比較から植生の変化が起こ り,歴史的な景観が喪失し,実は新しい景観であっ た場所を抽出することができた.また,昔と比べ現 在が,圧倒的に緑豊かであるような場所も存在して いる.
5.おわりに
空間情報技術を統合的に用いて,大阪市における 緑環境の地域的な特徴と,過去と現在における緑環 境を含む景観の分析と対比を行った.街路樹に関す る分析では,ネットワークを考慮した空間解析を行 うことで,御堂筋やなにわ筋などが街路樹密度の高 い地域として抽出した.また,景観分析では現代の 都市モデルに植生を付加することで,従来モデルの 精度向上を図った.さらに,可視・不可視分析や過 去との景観対比を図ることで,植生変化に伴う都市
景観の変遷の一端を垣間見ることができた.一例と して,大阪城ではスギなどの針葉樹から広葉樹へと 樹種が変化しており,緑の量自体も大幅に増加して いるといえる.
今後の課題としては,植生分布を知るうえで重要 な資料となる絵図や古写真などを活用することで,
今後も継続的に植生の変化を捉えていく必要がある.
さらに,現代の都市空間と対比することで景観の変 遷を捉えていく.また,本研究で得られた知見や分 析結果を活用し,大阪らしい緑の創出とはなにか,
具体的な提案を行うことが挙げられる.
謝辞
本研究を遂行するにあたり,東京大学工学部都市 工学科教授の岡部篤行先生にはSANETを提供して いただいた.また,株式会社パスコの佐藤俊明氏に は,ネットワークカーネル密度の解析ツールを提供 していただいた.ここに記して感謝の意を表します.
参考文献
小椋純一(1992)「人と景観の歴史」,3-4,雄山 閣.
奥住洋介・吉川眞(2000)元禄空間の復元,「地理 情報システム学会講演論文集」,9,113-118 前田憲治・吉川眞・田中一成(2006)空間情報技術 を活用した都市内緑環境の分析,「地理情報システ ム学会講演論文集」,15,217-220.
Yamano, T.,Yoshikawa, S.,(2003) Three-dimensional Urban Modeling for Cityscape Simulation, in Proceedings of the 8th International Conference on Computers in Urban Planning and Urban Management
(CUPUM2003), 9B3.PDF (CD-ROM)
図−6 過去の都市モデル