展示にあたって 今回の展示は、2つのテーマを同時にご覧いただくことができる企画です。 1つ目のテーマ「明治浮世絵の世界―ボン浮世絵コレクション」では、米国から派遣され、 1954~55 年にかけて本学文学部図書館学科で教鞭をとったボン教授が収集した幕末・明治 期のおびただしい数の浮世絵から、今年度「三色旗」の表紙を飾る 6 点を紹介します。江戸 の風情を残しつつも、文明開化の香り漂う明治期浮世絵の一味違った魅力と出会うチャン スです。 2つ目のテーマ「貴重書展示会ダイジェスト」では、昨年開催した貴重書展示会「鏡花の 書斎―「幻想」の生まれる場所」に出品した資料の一部を展示します。耽美性に満ちた幻想 的な作風で、近代文学ファンは勿論、演劇ファンからも常に高い人気を誇る泉鏡花。推敲の 跡も生々しい原稿や、うさぎのコレクションをはじめとする遺品類、装丁も美しい鏡花本の 数々は、慶應義塾図書館の大きな宝物の一つです。 今回とりあげるテーマは、浮世絵と近代文学という一見かけはなれた内容に見えるかも しれません。でも、元号が変わって文明開化を叫んでも、一般の社会生活がすぐに大きく変 貌を遂げたわけではなかったようです。否応なく押し寄せる近代化の波と、だんだん薄れゆ く江戸時代への当時の人々の憧憬がないまぜとなった、仄暗く妖しい世界の魅力をこの展 示でご堪能いただければ幸いです 慶應義塾大学三田メディアセンター展示委員会
会期: 8 月 21 日(月)~9 月 9 日(土)
会場: 慶應義塾図書館 1 階展示室
第336 回展示企画【同時開催】 慶應義塾図書館貴重書展示会ダイジェスト
歌川国輝(二代) 「東京築地馬車繁栄 ホテル館勝景ノ図」 明治 3 年(1870)10 月改印 山本平吉 大判錦絵三枚続 3 枚 [201X@21] 築地ホテル館は、慶應 4 年(1868)8 月、東京・築地鉄砲洲の外国人居留地に建てら れた外国人向けのホテルです。日本初の本格的洋風ホテルで、アメリカ人技術者 R. P. ブリジェンスが設計、2 代目清水喜助が施工し、建物外壁の海鼠な ま こ壁や、中央にそびえる 4 階建ての塔屋などに、日本の伝統技術が生かされました。別名「エドホテル」と称さ れ、優雅な姿から東京の新名所となった築地ホテル館は、新しい時代を象徴する和洋折 衷の建築として、数多くの錦絵に描かれました。しかし、完成後わずか 4 年、明治 5 年 (1872)2 月の大火で焼失してしまいます。その鮮明な写真は残存しておらず、錦絵は 築地ホテル館の壮麗な全景を伝える貴重な資料となっています。 (「三色旗」4 月号表紙掲載)
明治浮世絵の世界 -ボン浮世絵コレクションより-
(「三色旗」表紙シリーズ企画)
豊原国周「見立十二時之内 巳 弁天小僧 尾上菊五郎」 土橋政田屋板 竪大判錦絵 [201X@376] 左)「未 阿こや 岩井半四郎」 中央)「巳 弁天小僧 尾上菊五郎」 右)「寅 浦里 澤村田之助」 ※「三色旗」表紙と下記解説:「巳 弁天小僧 尾上菊五郎」 「知らざぁ言って聞かせやしょう」と弁天小僧菊之助が可憐な娘姿から不良少年の盗賊 に戻る瞬間を描いた錦絵です。幕末・明治期に活躍した「最後の浮世絵師」国周は古き江 戸の画題に文明開化の事物を盛り込んだ作品を描きました。古来の十二支による刻限にモ チーフを得た「見立十二時」は、大胆な赤に歌舞伎の登場人物と西洋時計を合わせた全 12 点のシリーズ。弁天小僧(弁財天)から連想される蛇=巳の他、当館では「浦里/寅(澤 村田之助)」「阿こや/未(岩井半四郎)」を所蔵しています。弁天小僧に扮する五代目尾 上菊五郎は市川團十郎・左團次と共に「團菊左時代」を築いた名優です。流行に敏感な菊 五郎が、当時話題をさらった西洋の風船乗りを演じようと福澤諭吉に英語台詞の執筆を依 頼したのは義塾との縁と言えるでしょう。 (「三色旗」6 月号表紙掲載)
歌川国貞(三代) 「東京各社撰抜新聞 グランド氏之伝前号の続き(日光)」 明治 12 年(1879)5 月 22 日 山本平吉 堅大判錦絵 [201X@516] 明治初期、ニュースを伝える文章と色鮮やかな 錦絵が一体となった錦絵新聞が盛んに作られまし た。題材には、犯罪や情痴、奇談・怪談、異国人 など、読者の関心を引く出来事が選ばれていたよ うです。当時の読者が、ニュースと一緒に錦絵も 楽しんでいたことが想像できるのではないでしょ うか。表紙は、米国大統領経験者であるユリシー ズ・グラント(グランド)の訪日を伝えたもので す。グラントの経歴を記した文章と、日光の裏見 瀑布(裏見滝)を訪れた際の様子が描かれていま す。グラントは歓待されたようで、多くの随行者 も描かれています。錦絵の作者は三代歌川国貞 で、右下に当時称していた「梅堂国政図」の署名 が見られます。 (「三色旗」8 月号表紙掲載) 幾蔵亭「新版勧業商社繁栄之図」 明治 15 年(1882)3 月 森本順三郎 竪大判錦絵 [201X@229] 明治 20 年代の都市部に次々と開場した「勧工場 (かんこうば)」の様子を描いた一枚です。勧工場 とは、ひとつの建物にいくつもの商店が入り、多種 多様な商品を一堂に並べて販売した施設です。明 治 10 年(1877)に勧業政策の一環として開催され た第一回内国勧業博覧会、その売れ残り品を販売 したことが勧工場の始まりとなりました。入口に は「従覧勝手次第」と書かれた看板がかけられてい ます。江戸時代までは、「座売り」と呼ばれる交渉 による売買が一般的で店頭に品物は置かれません でしたが、勧工場では外国式の陳列販売が採用さ れ、その娯楽性が大きな人気を呼びました。赤子を 背負う女性や小さな子どもの姿から、庶民で賑わ う活気ある様子が伝わってきます。 (「三色旗」10 月号表紙掲載予定)
昇斎一景「東京名所四十八景 神田明神社内年乃市」 明治 4 年(1871)改印 蔦屋吉蔵 竪大判錦絵 画帖 1 冊(ボン浮世絵コレクションより) [201X@510-1~3] 明治初期に活躍し、当時の風俗・風景画を数多く残 した昇斎一景の代表作『東京名所四十八景』の揃物の 一枚、師走の風物詩「歳の市」の様子です。明治の新 時代を迎え断髪し帽子をかぶった紳士も、丁髷姿の江 戸っ子たちも、大凧、しめ縄、若水桶、しゃもじ、海 老や裏白など、新年を迎えるための正月用品や縁起物 を我先にと買い求めました。江戸初期に浅草寺で始ま った歳の市は、江戸中頃になると深川八幡を皮切りに、 浅草寺、神田明神、芝神明、芝愛宕神社、麹町平河天 神など東京各地の寺社で次々に開かれ、境内は多くの 人で賑わっていました。その後、店鋪商業の発達に伴 い、伝統的な露店の歳の市は次第に姿を消しましたが、 今でも浅草寺の羽子板市や薬研堀歳の市などが人々に 親しまれています。 (「三色旗」12 月号表紙掲載予定)
歌川芳虎「[英語図解(ローマ字イロハ入り)] Early Illustrated English Study Sheets 万屋孫兵衛 竪大判 3 枚 [201X@560] 文部省は家庭教育の補助教材として錦絵を明治 6 年(1873)以降多数刊行しました。一般 的に、教育錦絵と言われるものです。西洋の発明者の紹介、理科的教材や教訓的・道徳的教 材など、数十種にのぼります。また、英語学習熱の高まりをうけて、英単語を絵で説明した 錦絵なども現れました。 (『いま鮮やかに甦る明治~ボン浮世絵コレクション~』慶應義塾図書館、2008 年刊 より) (「三色旗」2018 年 2 月号表紙掲載予定)
※個々の資料についている番号は、第 27 回慶應義塾図書館貴重書展示会(会期:2016 年 10 月 5 日~11 日、会場:丸善・丸の内本店 4 階ギャラリー)において展示した時の展示番 号です。また、出品リストの書誌も展示図録『鏡花の書斎―「幻想」の生まれる場所―』(慶 應義塾図書館、2016 年)より抜粋したものです。 <展示ケース「鏡花の書斎」1> (「コトバとモノの出会い」「1. 物語の源」より) 1. 遺品 毛筆 2. 遺品 眼鏡 3. 遺品 御神酒徳利 5. 遺品 紫壇の文机 7. 遺品 毛筆 8. 遺品 墨「宝薫」 7. 遺品 珊瑚筆置き 9. 遺品 端渓硯 11. 遺品 水晶の兎一対 12. 遺品 きのこの紙押さえ 21. 遺品 貼り交ぜ屏風 22. 遺品 木製小箪笥 24. 遺品 大兎(手あぶり) 39. 自筆原稿「夜叉ヶ池」 遺品 波兎 草双紙『児雷也豪傑譚』 <展示ケース「鏡花の書斎」2> (「5. 「信」の領域」より) 63. 遺品 銅製の小観音像
【同時開催】
「鏡花の書斎 ―「幻想」の生まれる場所―」
第 28 回 慶應義塾図書館貴重書展示会ダイジェスト 出品リスト
66. 遺品 兎の置物(三つぞろえ) 72. 遺品 兎のブックエンド 73. 遺品 銅製兎 74. 遺品 兎のコレクション <展示ケース「鏡花の書斎」3> (「4. 由縁の人々Ⅰ―父母への想い」より) 49. 自筆原稿 「由縁の女」 50. 遺品 金唐革花模様の手箱 52. 遺品 指ぬき 53. 遺品 簪 54. 遺品 簪の玉 55. 遺品 薬籠 56. 遺品 古手紙束 59. 遺品 刀の縁金 (「7. 鏡花本の世界」より) 99. 単行書 『乗合船』 春陽堂 大正 2 年 10 月 100. 単行書 『日本橋』 千章館 大正 3 年 9 月 105. 単行書 『鏡花選集』 春陽堂 大正 4 年 106. 原画 [小村雪岱画稿] 小村雪岱筆 2 枚 --- ※貴重書展示会出品資料の詳細については、下記の図録をご参照ください。 『鏡花の書斎―「幻想」の生まれる場所―』 (図書館 1 階メインカウンターにて 1 部 1,000 円で販売中です。展示室設置の見本も ご覧いただけます。 )