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Vol.34 , No.2(1986)002竹内 弘道「神会と宗密」

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圭 峰 宗 密 (7 0) は、 華 厳 と 禅 と の 教 禅 一 致 説 を 唱 え た 人 と し て 知 ら れ て お り、 既 に こ の 方 面 に お い て は、 高 峰 了 州 先 生 ・ 鎌 田 茂 雄 先 生 を は じ め、 幾 多 の 先 学 に よ っ て す ぐ れ た 研 究 が な さ れ て き て い る。 ご く 最 近 で は、 駒 沢 大 学 の 吉 津 宜 英 先 生 に よ っ て、 ﹃ 華 厳 禅 の 思 想 史 的 研 究 ﹄ と 題 す る 書 が 著 わ さ れ た。 こ の 書 の 申 で 吉 津 先 生 は、 宗 密 の 思 想 を 華 厳 教 学 の 発 展 の 中 で 詳 し く 論 究 さ れ、 宗 密 は、 華 厳 の 性 起 思 想 と ﹃ 円 覚 経 ﹄ の﹁ 本 来 成 仏﹂ を 接 続 さ せ、 禅 で も 教 で も な い 独 自 の 華 厳 禅 を 成 立 さ せ た と 結 論 さ れ て い る。 華 厳 の 視 点 か ら 宗 密 を 論 ず る こ と は、 も と よ り 筆 者 の 任 と す る と こ ろ で は な い の で、 こ こ で は、 宗 密 が 嗣 承 を 偽 っ て ま で そ の 法 燈 を 主 張 し た 荷 沢 宗 の 思 想 が、 実 際 の 荷 沢 神 会 (6 9 7 -7 5) の 思 想 と ど の よ う に 異 っ て い る か を み て い き た い と 思 う。 両 者 の 思 想 に 本 質 的 相 違 の あ る こ と は、 早 く は 戦 前 に、 釘 宮 武 雄 先 生 や 上 田 大 助 先 生 も 論 及 さ れ て い る が、 知 見 説・ 頓 悟 漸 修 説 等 を め ぐ り、 よ り 具 ハ 体 的 に、 そ の 思 想 の 構 造 的 差 異 を 明 ら か に し て み た い。 宗 密 は 荷 沢 の 法 門 を﹁ 知 の 一 字 衆 妙 の 門﹂ と し て と ら え た わ け で あ る が、 ま ず 宗 密 の 説 く 神 会 の 主 張 を み て い く こ と に す る。 ﹃ 禅 源 諸 詮 集 都 序 ﹄ ( 以 下 ﹃ 都 序 ﹄) の 中 で、 禅 の 各 派 を 分 類 し、 直 顕 心 性 宗 と し て 洪 州 宗 と 荷 沢 宗 の 思 想 を の べ て い る の で あ る が、 荷 沢 宗 に つ い て は 次 の よ う に あ る。 二 云、 諸 法 如 レ夢、 諸 聖 同 説。 故 妄 念 本 寂、 塵 境 本 空。 空 寂 之 心、 霊 知 不 昧。 即 此 空 寂 之 知 是 汝 真 性、 任 レ 迷 任 レ 悟、 心 本 自 知。 不 二 籍 レ 縁 生 納 不 二 因 レ境 起、 知 之 一 字 衆 妙 之 門。 由 二 無 始 迷 7 之 故、 妄 執 二身 心 -為 レ我、 起 二貧 瞑 等 念、 若 得 二 善 友 開 示 画 頓 二 悟 空 寂 之 知 刈 知 具 無 レ 念 無 レ 形、 誰 為 二我 相 人 相 叩 覚 二諸 相 空、 心 自 無 念。 念 起 即 覚。 覚 レ 之 即 無。 修 行 妙 門、 唯 在 レ 此 也。 故 錐 三備 修 二 万 行、 唯 以 二 無 念 一為 レ 宗。 ( T 四 八 ・ 四 〇 二 c-四 〇 三 a) こ こ に﹁ 知 の 一 字 衆 妙 の 門﹂ と い う、 宗 密 が 荷 沢 宗 の 宗 旨 を 総 括 さ せ る 言 葉 が み ら れ、﹁ 無 念 を 以 て 宗 と 為 す﹂ と い う 神 会 の 有 名 な 一 句 が 出 て く る。 ほ か に も﹁ 空 寂 の 知﹂﹁ 頓 悟﹂ 神 会 と 宗 密 ( 竹 内) 一 三

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神 会 と 宗 密 ( 竹 内) 一 四 ﹁ 無 念﹂ な ど、 神 会 の 用 語 が 多 く み う け ら れ る が、 神 会 の 主 張 そ の も の は ど う だ っ た の で あ ろ う か。 ﹃ 南 陽 和 尚 頓 教 解 脱 禅 門 直 了 性 壇 語 ﹄ ( 以 下 ﹃ 壇 語 ﹄) を み る と 和 上 言、 心 既 無 住。 知 二 心 無 住 一 不。 答、 知。 知 不 レ 知。 答、 知。 今 推 到 二 無 住 処 一立 レ 知、 作 没。 無 住 是 寂 静、 寂 静 体 即 名 為 レ 定。 従 二 体 上 一 有 二 自 然 智 画 能 知 二 本 寂 静 体 輔 名 為 レ 慧、 此 是 定 慧 等。 経 云、 寂 上 起 レ 照。 此 義 如 レ 是。 無 住 心 不 レ 離 レ 知、 知 不 レ 離 二 無 住 幻 知 二 心 無 住、 更 無 二 余 知 殉 浬 架 経 云、 定 多 慧 少、 増 二 長 無 明 殉 慧 多 定 少、 増 二 長 邸 見 相 定 慧 等 者、 明 見 二 仏 性 殉 今 推 到 二 無 住 処 一便 立 レ知。 知 二 心 空 寂、 即 是 用 処。 ( ﹃ 神 会 和 尚 遺 集 ﹄ p 二 三 七-二 三 八) こ こ で 神 会 は 無 住 を 寂 静 と い い、 寂 静 の 体 を 定 と 名 づ け、 こ の 体 上 に 自 然 智 が あ っ て 体 そ れ 自 身 を 知 り、 こ の こ と を 慧 と 名 づ け る と し て い る。 つ ま り、 神 会 に お い て は、 知 は 慧 の は た ら き、 作 用 を 示 し て い る の で あ る。 こ の 知 が よ っ て 出 る と こ ろ の 無 住 ・ 寂 静 と は、 ま た 自 本 清 浄 心 と 名 づ け ら れ て い る の で あ る が、 そ れ は 次 の ご と く 説 か れ て い る。 知 識、 各 用 レ 心 諦 聴、 柳 二 簡 自 本 清 浄 心 殉 聞 レ 説 二菩 提、 不 レ 作 レ 意 レ 取 二 菩 提 殉 聞 レ 説 二 浬 盤、 不 レ 作 レ 意 レ 取 二浬 盤 殉 聞 レ 説 レ 浄、 不 レ 作 レ 意 レ 取 レ 浄。 聞 レ 説 レ 空、 不 レ 作 レ 意 レ 取 レ 空。 聞 レ 説 レ 定、 不 レ 作 レ 意 レ 取 レ 定。 如 レ 是 用 レ 心、 即 寂 静 浬 繋。 (﹃ 壇 語 ﹄ 同 p 二 三 五) 自 本 清 浄 心 は、 菩 提 や 浬 葉 を 求 め る 心 を も 捨 て て、 心 を 住 す る 対 象 を 一 切 も た な い 境 界 そ の も の を 示 し て い る の で あ り、 こ こ が﹁ 無 念﹂ と も 名 づ け ら れ て い る の で あ る。 一 方、 宗 密 に と っ て 神 会 の 知 は ど の よ う に 解 さ れ て い る の で あ ろ う か。 ﹃ 円 覚 経 大 疏 ﹄ は 玄 談 八 の﹁ 修 証 階 差﹂ で 禅 宗 の 七 家 を の べ て、 そ の 最 後 に 神 会 の 説 を 次 の よ う に 記 す。 有 二 寂 知 指 レ 体、 無 念 為 ワ 宗。 ( z 一 四 ・ 一 一 九 c) ﹃ 円 覚 経 大 疏 砂 ﹄ で は こ の 箇 所 を 注 釈 し て い る の で、 よ り 詳 し く 宗 密 の 神 会 理 解 を 知 る こ と が で き る。 疏 有 二 寂 知 指 レ 体、 無 念 為 7 宗 者、 即 第 七 家 也。 是 南 宗 第 七 祖 荷 沢 大 師 所 伝。 謂 万 法 既 空、 心 体 本 寂。 寂 即 法 身。 即 レ 寂 而 知。 知 即 真 智、 亦 名 二菩 提 浬 梨 殉 ⋮ ⋮ 中 略 ⋮ ⋮ 此 是 一 切 衆 生 本 源 清 浄 心 也。 是 自 然 本 有 之 法。 ( z 一 四 ・ 二 七 九 D) こ こ で 知 は 真 智 で あ り、 一 切 衆 生 の 本 源 で あ り、 自 然 本 有 の 法 と 解 さ れ て い る。 神 会 に お い て は、 自 然 智 か ら 生 ず る、 慧 の 作 用 と し て と ら え ら れ て い た 知 が、 本 源 と し て の 知 へ と 転 換 さ れ て い る こ と が わ か る。 神 会 に お い て は 次 の よ う に 本 体 空 寂。 従 二 空 寂 体 上 一 起 レ 知、 善 分 二 別 世 間 青 黄 赤 白、 是 慧。 (﹃ 壇 語 ﹄ 同 p 二 三 九) と、 知 は 空 寂 の 体 上 か ら 世 間 に は た ら く 妙 用 と し て の 善 分 別 で あ る の に 対 し、 宗 密 に あ っ て は ﹃ 中 華 伝 心 地 禅 門 師 資 承 襲 図 ﹄ ( 以 下 ﹃ 承 襲 図 ﹄) に 知 是 当 体 表 顕 義、 不 レ 同 二 分 別 一也。 唯 此 方 為 二 真 心 本 体 幻 ( z 一 一 〇 ・ 四 三 七 b) と あ る よ う に、 知 は 分 別 で は な く、 真 心 本 体 で あ る と 規 定 し

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て い る の で あ る。 し か し 宗 密 は 真 心 の 本 体 に 二 種 の 用 も 認 め て 次 の よ う に い う、 真 心 本 体 有 三 一種 用 納 一 者 自 性 本 用、 二 者 随 縁 応 用。 ⋮ ⋮ 中 略 ⋮ ⋮ 以 喩 二 心 常 寂 是 自 性 体、 心 常 知 是 自 性 用、 此 能 語 言、 能 分 別 動 作 等 是 随 縁 応 用 鱒 今 洪 州 指 二 示 能 語 言 等、 但 是 随 縁 用 閾 二 自 性 用 一也。 ( ﹃ 承 襲 図 ﹄ z 一 一 〇 ・ 四 三 七 D) 洪 州 禅 を 自 性 の 用、 つ ま り 知 を 欠 い た 随 縁 の 応 用 と 決 め 付 け て い る の で あ る が、 こ こ で も 自 性 の 用 で あ る 知 は、 現 実 に お け る 言 語 分 別 と は 明 確 に 分 け ら れ て い る こ と が わ か る。 神 会 に お い て は、 知 は 寂 静 の 体 上 の 自 然 智 か ら の 作 用 で あ り、 宗 密 ほ ど 絶 対 的 な 位 置 付 け は さ れ て は い な い と い え よ う。 神 会 は む し ろ、 徹 底 し て 見 の 思 想 を 鼓 吹 す る の で あ る。 神 会 は 見 と 知 の 関 係 を の べ て 知 識、 自 身 中 有 二仏 性、 未 二 能 了 了 見 殉 何 以 故。 喩 如 下 此 処 各 各 思 二 量 家 中 住 宅、 衣 服 ・ 臥 具 ハ ・ 及 一 切 等 物、 具 ハ知 レ 有、 更 不 占 生 レ 疑。 此 名 為 レ 知、 不 二 名 為 7 見。 若 行 到 二宅 中 画 見 下 如 二 上 所 7 説 之 物 上 即 名 為 レ 見、 不 二 名 為 7 知 ⋮ ⋮ 申 略 ⋮ ⋮ 畢 寛 見 不 レ 離 レ 知、 知 不 レ 難 レ 見。 ( ﹃ 壇 語 ﹄ 同 P 二 四 九) と い い、 知 と 見 の 不 離 を い い な が ら も、 た だ 自 身 に 仏 性 あ る こ と を 理 と し て 知 っ て い る だ け で は な く、 実 際 に 即 今 見 よ と、 よ り 実 践 的、 具 体 的 な 見 を 主 唱 し て い る。 一 方、 宗 密 に お け る 智 と 知 の 関 係 を み る と、 ﹃ 都 序 ﹄ の 中 で、 宗 密 の 批 判 す る 空 宗 と、 自 ら の よ っ て 立 つ 性 宗 と の 相 違 を 明 す 段 に、 四、 真 智 真 知 異 者、 空 宗 以 二 分 別 一為 レ 知、 無 分 別 為 レ 智。 智 深 知 浅。 性 宗 以 下 能 証 二 聖 理 一之 妙 慧 上 為 レ 智、 以 下 該 二 於 理 智、 通 二 於 凡 聖 一 之 真 性 上 為 レ 知。 知 通 智 局。 ( T 四 八 ・ 四 〇 六 b) と い い、 宗 密 の と る 性 宗 の 知 が 凡 と 聖 に 通 ず る、 よ り 根 源 的 な 位 置 付 け を さ れ て い る こ と が わ か る。 さ ら に 注 目 す べ き こ と は、 こ こ で 宗 密 が、 空 宗 の 見 解 と し て 批 判 し て い る 知 と 智 の 関 係 は、 先 に 神 会 の 説 と し て あ げ た 知 と 智 の 関 係 と 同 じ 構 造 で あ る と い う こ と で あ る。 宗 密 が い う と こ ろ の 凡 聖 に 通 ず る 知 と は、 表 現 を 変 え る な ら ば、 ﹃ 円 覚 経 大 疏 ﹄ の﹁ 第 四 分 斉 幽 深﹂ の 中 で、 ﹃ 円 覚 経 ﹄ の 所 詮 の 義 理 を、 ﹃ 起 信 論 ﹄ の 五 重 の 本 末、 一 心 ・ 二 門・ 二 覚 ・ 三 細 ・ 六 鹿 を 立 て て 示 す 段 に 初 唯 一 心 為 二 本 源 ↓ 是 心 則 摂 二 世 出 世 間 法 等 叩 即 此 円 覚 妙 心 也。 ( z 一 四 ・ 二 六 B-C) と、 説 く と こ ろ の、 世 間 出 世 間 を 摂 す る 唯 一 心 に ほ か な ら ず、 ま さ し く 宗 密 の 説 く 頓 悟 漸 修 は、 こ の 一 心 を 本 源 と し た ( 1) 本 来 成 仏 の 実 現 と し て 解 さ れ る の で あ る。 次 に 頓 悟 漸 修 に 関 す る 神 会 と 宗 密 の 違 い を み て い く こ と に す る。 宗 密 の 説 く 頓 悟 と は、 ﹃ 華 厳 経 ﹄ の 究 極 の 立 場 で あ る、 上 根 の 菩 薩 の た め の﹁ 化 儀 頓﹂ で は な く、 ﹃ 円 覚 経 ﹄ 等 を 中 神 会 と 宗 密 (竹 内) 一 五

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神 会 と 宗 密 (竹 内) 一 六 心 と す る、 凡 夫 の 上 根 利 智 を 対 象 に し た﹁ 逐 機 頓﹂、 つ ま り ( 2) 衆 生 の 機 根 に 即 し た 頓 の 教 え で あ る こ と が 知 ら れ て い る が、 ﹃ 都 序 ﹄ 中 の、 い わ ば 悟 へ 向 う 十 の 段 階 を 説 い た 段 の 最 初 に 一、 謂 有 二 衆 生、 遇 三 善 知 識 開 二 示 上 説 本 覚 真 心、 宿 世 曾 聞、 今 得 二 悟 解 ハ 四 大 非 レ 我、 五 纏 皆 空、 信 二 自 真 如 及 三 宝 徳。 ( T 四 八 ・ 四 〇 九 C) と あ る よ う に、 宗 密 の 頓 悟 は 頓 解 悟、 す な わ ち、 仏 や 善 知 識 に よ っ て 頓 に 了 解 す る こ と に ほ か な ら ず、 こ の 確 信 の も と に 漸 修 が あ り、 や が て 最 後 に 頓 証 悟 に 至 り、 一 切 衆 生 が 本 来 成 ( 3) 仏 し て い た こ と が 徹 見 さ れ る の で あ る。 神 会 は 同 じ く 頓 悟 漸 修 を い う も の の、 ﹃ 菩 提 達 摩 南 宗 定 是 非 論 ﹄ ( 以 下 ﹃ 定 是 非 論 ﹄) 中 に、 我 六 代 大 師 二 皆、 言 二 単 刀 直 入 剛 不 レ 言 二階 漸 幻 夫 学 道 者、 須 下 頓 見 二 仏 性、 漸 二 修 因 縁 輔 不 レ 離 二 是 生、 而 得 中 解 脱 加 響 如 二 母 頓 生 レ 子、 与 レ乳、 漸 漸 養 育、 其 子 智 慧 自 然 増 長 叩 頓 悟 見 仏 性 者、 亦 復 如 レ 是、 智 慧 自 然 漸 漸 増 長。 (﹃ 神 会 和 尚 遺 集 ﹄ P 二 八 七) と あ る よ う に、 漸 修 す る も の は 頓 悟 の 後 の 智 慧 で あ り、 悟 り そ の も の に 階 漸 は 認 め て い な い の で あ る。 一 行 三 昧 を め ぐ っ て も 宗 密 と 神 会 の 思 想 に は 相 違 が み ら れ る 宗 密 は ﹃ 都 序 ﹄ の 中 で 問、 悟 二 此 心 一 已、 如 何 修 レ 之。 ⋮ ⋮ 中 略 ⋮ ⋮ 若 煩 悩 微 薄、 慧 解 明 利、 即 依 二 本 宗 本 教 一 行 三 昧 殉 如 二 起 信 云 ↓ 若 修 レ 止 者、 住 二 於 静 処、 端 身 正 意、 不 レ 依 二 気 息 形 色、 乃 至 唯 心 無 二 外 境 界、 ( T 四 八・ 四 〇 五 b) と い い、 自 ら の 一 行 三 昧 の 根 拠 を ﹃ 起 信 論 ﹄ の﹁ 止 観 門﹂ に 求 め て い る。 そ れ は、 一 切 法 は 本 来 不 生 不 滅 で あ り、 外 の 境 界 も な く、 心 も ま た 無 相 不 可 得 で あ る と い う﹁ 理﹂ に 心 を 止 ( 4) め る と い う こ と で あ り、 神 会 が ﹃ 定 是 非 論 ﹄ の 中 で ﹃ 金 剛 経 ﹄ を 宣 揚 し、 そ の 般 若 の 法 を 修 学 す べ き こ と を 主 唱 し、 是 無 念 者、 即 無 一二 境 界 殉 如 レ 有 二 一 境 界 一者、 即 与 二 無 念 一不 二 相 応 殉 故 諸 知 識、 如 実 見 者、 了 二 達 甚 深 法 界 熟 即 是 一 行 三 昧。 ( 同 p 三 〇 八) と、 無 念 が 般 若 波 羅 密 で あ り、 一 行 三 昧 で あ り、 た と え 空 理 に さ え も 心 を 住 め な い、 一 境 界 も 無 い 世 界 を 提 示 し て い る の ( 6) と 本 質 的 に 異 っ て い る。 ま た 宗 密 は 承 襲 図 の 中 で 洪 州 宗 を 批 判 し て、 又 顕 教 有 二 比 量 顕、 現 量 顕 殉 洪 州 云 下 心 体 不 レ 可 二 指 示、 但 以 二 能 語 言 等 一験 レ 之、 知 レ 有 中 仏 性 ム 是 比 量 顕 也。 荷 沢 直 云 二 心 体 能 知、 知 即 是 心、 約 レ 知 以 顕 レ 心、 是 現 量 顕 也。 洪 州 閾 レ 此。 ( z 一 一 〇・ 四 三 七 D) と い い、 洪 州 宗 は 仏 性 を 推 量 で し か 知 る こ と が で き な い が、 荷 沢 宗 は 知 が 即 ち 心 で あ り、 心 体 を 直 指 す る こ と が で き る 現 量 顕 の 立 場 に あ る と し て い る。 し か し 神 会 は ﹃ 定 是 非 論 ﹄ に 遠 法 師 問、 禅 師 見 二 仏 性 一不。 和 上 答 言、 見。 遠 法 師 問、 為 是 比 量

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見、 為 是 現 量 見。 和 上 答、 比 量 見。 又 責 問、 何 者 是 比、 何 者 是 量。 和 尚 答、 所 レ 言 比 者、 比 二 於 純 陀 殉 所 レ 言 量 者、 等 一一純 陀。 ( 同 p 二 七 七) と、 仏 性 を 見 る こ と は 比 量 見 で あ る と 答 え て お り、 こ の 点 で も 宗 密 は 明 ら か に 神 会 と 反 対 の 立 場 に あ る。 こ の よ う に 宗 密 は、 荷 沢 五 世 を 自 称 し、 神 会 の 用 語 を 随 所 に 用 い な が ら、 そ こ に 表 明 さ れ た 思 想 は、 神 会 に お け る 中 心 的 な 概 念 で さ え、 全 く 異 る も の で あ る こ と が 知 ら れ る の で あ る。 さ ら に 注 目 す べ き こ と は、 宗 密 が 洪 州 宗 や 空 宗 の 説 と し て 批 判 す る 思 想 の 中 に、 神 会 の 思 想 そ の も の も 含 ま れ て い る と い う こ と で あ る。 宗 密 は 神 会 の 正 系 を 標 榜 し な が ら、 自 ら を 直 顕 真 性 宗 と い う 性 宗 の 立 場 に 置 い て、 神 会 と 大 き く 異 っ た 思 想 を の べ、 し か も 神 会 の 思 想 そ の も の も 批 判 し て い る と い う こ と に な ろ う。 宗 密 が 達 磨 禅 宗 の 正 系 で あ る こ と を 権 威 づ け る た め に、 偽 っ て ま で 荷 沢 の 法 系 を 主 張 し た こ と は、 こ の 時 代 ま だ 神 会 の 名 が、 そ れ だ け の 重 さ を も っ て 人 々 の 耳 に 記 憶 さ れ て い た と 考 え ら れ よ う が、 そ れ な ら ば ま た、 神 会 か ら の こ れ ほ ど の 逸 脱 が な ぜ 許 さ れ た の で あ ろ う。 宗 密 が そ の 存 在 を 無 視 で き る ほ ど に、 神 会 の 法 系 を 承 け る 他 の 人 々 の 勢 ( 7) 力 が 衰 え て い た か ら で あ ろ う か。 と も か く、 宗 密 は 禅 の 三 宗 を 立 て、 最 も 優 れ た 宗 旨 と し て の 直 顕 真 性 宗 に 洪 州 宗 と 荷 沢 宗 を 配 当 し な が ら、 洪 州 宗 に 対 し て 一 貫 し て 攻 撃 の 鋒 先 を 向 ( 8) け る の で あ る。 こ の よ う な 宗 密 の 禅 宗 観 を 通 し て、 当 時 の 禅 宗 の 趨 勢 を 考 え る と き、 宗 密 は、 洪 州 宗 の み な ら ず 神 会 の 禅 そ の も の を も 批 判 し 超 克 す べ き も の と し て と ら え て い た の で は な い か と い う 視 点 が、 さ ら に 付 け 加 え ら れ る べ き も の と 思 ( 9) わ れ る。 1 吉 津 宜 英 ﹃ 華 厳 禅 の 思 想 史 的 研 究 ﹄ p 二 九 九-2 同。 ﹃ 都 序 ﹄ ( T 四 八 ・ 四 〇 七 b-c)。 3 釘 宮 武 雄﹁ 禅 教 一 致 の 可 能 性 に つ い て の 疑 義﹂ ( ﹃ 仏 教 研 究 ﹄ 四 ー 二)。 4 平 井 俊 榮 ﹃ 中 国 般 若 思 想 史 研 究 ﹄ p 六 六 一。 5 同、 p 六 六 四。 6 道 信、 弘 忍、 神 秀 ま で の ﹃ 文 殊 説 般 若 経 ﹄ に 基 づ く 二 行 三 昧﹂ も、 ﹃ 起 信 論 ﹄ の 解 釈 を 承 け る も の で あ り、 神 会 に お い て 質 的 転 換 が あ っ た と 考 え ら れ る。 平 井 俊 榮、 同、 p 六 六 五。 小 林 圓 照﹁ 一 行 三 昧 私 考﹂ (﹃ 禅 学 研 究 ﹄ 五 一)。﹁ 禅 に お け る 一 行 三 昧 の 意 義﹂ (﹃ 印 仏 研 ﹄ 九 -一)。 拙 稿﹁ 初 期 禅 宗 と ﹃ 金 剛 般 若 経 ﹄﹂ (﹃ 曹 洞 宗 研 究 紀 要 ﹄ 一 五)。 7 宇 井 伯 寿 ﹃ 禅 宗 史 研 究 ﹄ P 二 三 八-に 詳 し。 8 批 判 の 対 象 は ﹃ 頓 悟 要 門 ﹄ か、 と す る 説 あ り。 柳 田 聖 山﹁ 新 続 灯 史 の 系 譜﹂ ( ﹃ 禅 学 研 究 ﹄ 六 〇)。 9 洪 州 宗 批 判 の 背 景 に は、 宗 密 の 保 唐 宗 に 対 す る 意 識 が 指 摘 さ れ て い る。 柳 田 聖 山、 ( 同、 五 九)。 (曹 洞 宗 宗 学 研 究 所 所 員) 神 会 と 宗 密 ( 竹 内) 一 七

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