長崎 大 学 水産 学 部 研 究 報 告 第41号21〜24(1976)
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1975年 夏 の 長 崎 湾 の 水 質 調 査
宮 原 昭二郎 ・大 野 秀 範
The Pollution of Sea-Water in Nagasaki Bay in Summer 1975
Shojiro MIYAHARA and Hidenori OHNO
With the advancement of living standards and the development of industry, environmental marine pollution caused by waste water has rapidly been increasing.
The sea is often polluted by organic matters or heavy metals, which are discharged into the sea for some reason or other, and this problem is now of global seriousness. It is not only because marine pollution by these has a bad influence upon marine livings causing severe damage
to various kinds of fisheries, but also because it involves the danger of destroying the very earth as the living environment of human beings.
In the vicinity of Nagasaki Bay, the coastal water has al so been polluted. The authors analyzed the sea-water for 12 items, which was collected in the summer of 1975 from the sur-
face layers of 7 stations in Nagasaki Bay and the vicinity.
It seemed that the sea-water was polluted by petroleum or the like and the pollution was heavier at the entrance of the bay rather than at the inner and outer stations of the bay.
Dichromic ion measuring 0.015ppm was detected only at the innermost area of the bay.
人 間 生 活 の 向上 や産 業 の 発達 に伴っ て,環 境 の 汚染 が急 速 に増 大 しつつ あ る現 状 で は,そ の 汚染 の 実態 を 正確 に把 握 して お く こと が必要 で あ る。
長 崎 湾 お よ び その周 辺 の 水域 で も水 質 の汚 濁 が 問題 となっ て い る が,著 者 らは長崎 湾 の 水 質 汚濁 の状 況 を 知 るた め に,7地 点で 採 取 した海水 につ いて有機物 質 ・ 重金 属 な ど12項 目の測 定 を行 なっ た。 な お,採 水地 点 の設 定,調 査 項 目の決 定 は環 境 庁 ほ か 公共 団 体 の意 見
に従 って 行 なっ た。
実 験 方 法
1試 料 お よび 前処 理
試料 の 海水 は,1975年8月4日 に,長 崎 湾 およ び周 辺 の7地 点 か ら表 層水 を採取 した。採 取 地 点 はFig.1 に示 す 通 りで あ る。
な お,St.1〜St.6は 生活 環 境 保 全 に係 る環 境 基 準
の 海域 基 準 類 型Bで あ り,St,7は 類 型Cで あ る。
前処 珊1)と して,ノ ルマ ルヘ キ サ ン抽 出物 質用 海 水 は2.5N塩 酸 を加 えてpHを4以 下 と した 。 カ ドミウ ム ・鉛 測 定 用 海水 に は濃 塩 酸 を,総 水 銀 測 定 用海 水 に は濃 硝酸 を,約 論(V/V)加 えてpH1以 下 と した 。 シア ン測 定 用海 水 には粒 状 水 酸化 ナ トリ ウム を加 えて pH12以 上 と し冷 暗所 に保 存 した。
2装 置 お よ び試 薬
原 子 吸 光分 析 装 置:日 立 製208型 原 子吸 光 分 析 装 置 お よ び ジ ヤー レル ア ッシ ュAA‑1TH型 原 子 吸 光 分析 装 置 を還 元 気化 式 水銀 分 析専 用 に改 良 した もの を用 い た。
分 光 光 度計:日 立製101型 分 光 光度 計 および ベ ック マ ン東 芝DSB‑70型 分 光 光 度計 を用 い た。
試 薬 類 は原 子 吸 光分 析 用,精 密 分析 用 な ど市販 され て い る最純 の もの を使 用 した 。 た だ し ジチ ゾ ン は試薬 特級 を更 に精 製 して 用 い た。水 は 再 蒸溜 水 を使 用 した。
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宮原・大野:長崎湾の水質,1975s
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Fig.1. Location of sampling stations
3 定量操作
pH:ガラス電極法(2)によった。
塩素量:モールの銀滴定法(3)によった。
塩分:塩素量からクヌーツセンの式(4)によって算
出した。
化学的酸素要求量(COD):100℃における過マン
ガン酸カリウムによる酸素消費量(5)の値をとった。
懸濁物質(SS):ガラスろ過器法(6)によった。
ノルマルヘキサン抽出物質:JIS法(7)によった。
カドミウムおよび鉛:抽出分離一原子吸光法(8
〜10)によった。同じ抽出液をカドミウムと鉛の定量
に用いた。
6価クロム:鉄共沈分離一ジフェニルカルパジド
吸光光度法(11,12)によった。
総水銀:ジチゾン抽出(13)一L4元気化原子吸光法(14 によった。
ひ素:ジエチルジチオカルバミン酸銀法㈲によった。
シアン:ピリジンーピラゾロン法(1⑤によった。
各項目の測定は3回行ないその算術平均値をとった。
ただしその3個の値のうち甚だしく値のずれているも のがあるときは,さらにあらためて3回の測定を行な
った。
結果および考察
結果をTable 1に示す。
pHはSt.7が8.61で通常の海水のpHよりもやや高 い値を示したが,これは大気中からのフォールアウトに よる物質や排水中の物質に起因するものと思われる。
その他の地点では,8.11から8.16の間で通常の海水の pHと変わりなかった。
塩素量および塩分は,それぞれ17.37〜18.01%,
31.42〜32.58%であまり変化は見られなかったが,
湾の奥部がやや低い値を示しているのは河川水あるい は排水による希釈のためと思われる。
CODは2.23〜3.91 ppmであり,全St.が2ppm以 上であり,その中でSt.7が最も高い値を示した。
SSはSt.2では検出されなかったが,他のSt.では 0.005〜0.015ppmが検出された。この場合もSt.7が最
も高い値を示した。
ノルマルヘキサン抽出物質は0.23〜0.65ppmで湾奥 部よりも湾口部付近のSt.3やSt.4の方が高かった。
ここでいうノルマルヘキサン抽出物質とは,主として 海水中に含まれる比較的揮発しにくい炭化水素,炭化 水素誘導体,グリース類,油状物質などであり,油状 物質以外のフェノール類化合物やコロイド状イオウな
ども定量値に含まれることがある(7)。この調査につい
長 崎 大学 水 産 学部 研 究 報告 第41号(1976)
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Table 1. The qualities of Water of Nagasaki Bay in Summer, 1975
Station S t. 1 S t. 2 S t. 3 S t. 4 S t. 5 S t. 6 S t. 7
pH 8.18 8.16 8.11 8.13 8.12 8.13 8.61
Chlorinity (%o) 17.43 17.89 18.01 17.96 17.94 17.92 17.37
Salinity (%o) 31.49 32.32 32.54 32.45 32.41 32.38 31.38
COD (ppm) 2.79 2.79 2.79 2.79 2.51 2.23 3.91
S S (ppm) 0.012 - 0.005 0.008 0.009 0.009 0.015
n-Hexane (ppm) 0 .37 0.34 0.57 0.65 0.37 0.37 0.23 extracts
Cd 2 + (ppm) -
-
Pb 2 + (ppm) -
-
Cr 6 + (ppm) - - 0.015
T- H g (ppm) 0.026 0.026 0.014 0.029
-
A s 3 + (ppm) 0.0013 0.0008 0.0133 0.0090 0.0107 0.0074 0.0149
CN- (ppm) - - -
- :not detected
S S • • • below 0.001ppm, Cd 2 + • • • below 0.001ppm, Pb 2 +• • • below O. 1ppm, Cr 6+ • • • below O. 005ppm, T-Hg • • • below O. 001ppm, and CN- • • • below O. Olppm.
て は試 料 が 表層 水 で ある た め に湾 奥 部 の もの が流 され, 比 較的 水 の流 れ が少 ない これ らの地 点 に集 まっ た か,
あ るい は船 舶 の航 行 が 他 の地 点 よ りも 多い た め に,こ れ らの値 を示 した もの で あ ろ う。
カ ドミウ ム およ び鉛 は 全 て の地 点 で定 量 限 界値 以 下 で あっ た 。
6価 ク ロム はSt.7の みで0.015ppmが 検 出 され た。
工場 や 研 究施 設 な どの排 水 に起 因 す るもの と思 わ れ, 環 境 基 準 値 以下 で は あ る が注 目す べ き ことで あ る。 他
の地 点で は 定量 限 界値 以 下 で あっ た。
総水 銀 はSt.1,St.3お よ びSt.7で は 検 出 限 界以 下 で あ った が その 他 の地 点 で は0.Ol4〜0.029ppmで あ っ た。 この値 も水 銀 の天 然 量(1のよ りもは るか に大 き く, 長崎 湾 周 辺 も汚染 が相 当 に進 行 して い る こ とが わか る。
ひ素 は最低0.0008ppm,最 高0.0149ppmで あっ た。海 水 中 の ひ素 量 につ いて の種 々の報 告(18〜24)の うち, 新 しい 分析 法 に よっ て 測 定 し た ひ 素 量 は1.12〜1.71 μgAs/lで あ る(24)とされ て い る。筆 者 らの 測定 値 は こ
の値 以下 の もの もあ り,ま た この値 の8倍 程度 の もの もあ るので,測 定法 に よ る誤 差 は考 え られ ない。 天 然 存 在 量 よ りも高 い値 を得 た地 点 の 海水 は漁網 の 防腐剤, 船 底 塗料,各 種農 薬 その他 に よ って 汚染 され て い る も の と考 え られ る。
シア ンは どの地 点 に おい て も検 出 され な かっ た。
要 約
1975年 夏,長 崎湾 お よび周 辺 の7地 点 か ら採 取 した 海 水 の 水 質調 査 を行 なっ た 。
カ ドミウム,鉛,シ ア ンは 見 出 され なか っ た。
総 水 銀,6価 ク ロ ム,ひ 素 が 見 出 され た が,総 水銀 は かな り多量 に検 出 され,6価 クロ ムは湾 奥 部 の み か ら検 出 された 。 ひ 素 は湾 口部 で も湾 奥 部 で も天 然 量 の 8倍 の値 を示 す もの が あっ た。
pHに つ いて は湾 奥 部 の み 「生活 環 境 保 全 に係 る環 境 基 準」 値 を わず か に越 えた。
CODに つ いて も全 て環 境 基 準値 以下 で あっ た。
ノル マ ルヘ キサ ン抽 出物 質 は全地 点で 見 出 され油 に よ る汚 染 が相 当 に進 んで い るこ とが わ かっ た 。
参 考 文 献
1)日 本 規 格 協 会(1976).JISKO102‑1974,項 目 番 号3.1.4.
2)日 本 規 格 協 会(1976).JISKO102‑1974,項 目 番 号8.1.
3)三 宅 泰 雄,北 野 康(1972).水 質 化 学 分 析 法,地 人 書 館,東 京,87.
4)気 象 庁 編(1970).海 洋 観 測 指 針,日 本 海 洋 学 会 、 東 京,156.
5)日 本 規 格 協 会(1976) .JISKO102‑1974,項 目 番 号13,
6)日 本 規 格 協 会(1976).JISKO102‑1974,項 目 番 号10.2.1.1.
7)日 本 規 格 協 会(1976).JISKO102‑1974,項 目 番 号18.1お よ び18.2B法.
8)平 野 四 蔵 編(1973).無 機 応 用 比 色 分 析 第1巻,
共 立 出 版,東 京,495.
24
9)平野四蔵編(1975).無機応用比色分析第4巻,
共立出版,東京,269.
10)長谷川敬彦,保田和雄(1972).原子吸光分析,
講談社,東京,170.
11)平野四蔵編(1974).無機応用比色分析第2巻,
共立出版,東京,140.
12)日本規格協会(1976).JISKO102−1974,
項目番号51.2.1.
13)平野四蔵編(1974).無機応用比色分析第3巻,
共立出版,東京,26.
14)日本規格協会(1976).JIS K O102−1974,
項目番号44.1.2B法.
15)日本規格協会(1976).JIS K O102−1974,
項目番号48.2.
16)日本規格協会(1976).JIS K O102−1974,
項目番号29,29.1および29.2.
!7) D.H.Klein, and ED.Goldberg(1970).
宮原・大野:長崎湾の水質,1975