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及び加害者を知った時」について(石松)

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(1)

民法 724 条の「法定代理人が損害 及び加害者を知った時」について

―― 名古屋高判平成 19 年 9 月 26 日 

(判例時報 2008 号 101 頁)――

石 松   勉

 

*

一 はじめに

 本件は、いわゆる引きこもりの状態にあった原告X(当時未成年)が、そ のような児童等に対する矯正教育・指導を標榜する被告Y1会社の実質的主 宰者である被告Y2及びその補助者らによって、①本人の意思に反して、Y1

会社の設置・運営する施設に拉致され、②同施設内において補助者から暴行 を受け、③その後、別のアパートに軟禁されるなどの人格権侵害を受け、さ らに、④Yらが NHK による取材、撮影等に協力することによってプライバ シーや肖像権を侵害する番組を放映されたなどとして、これら一連の行為が 継続的な不法行為にあたることを理由に、Yらに対し、損害賠償とこれに対 する遅延損害金の支払を求めた、というものである。

 第 1 審判決が、民法 724 条前段の 3 年の時効期間が経過していることを理 由にXの請求を棄却したのに対して、本判決は、原判決を変更し、時効の中 断により 3 年の消滅時効は完成していないとしてXの請求を認容した。この

  *

 

福岡大学法科大学院教授

(2)

ように結論に違いが生じたのは、後に見るように、3 年の時効起算点につい て異なる捉え方をしたことに起因している。

 724 条前段は「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定 代理人が損害及び加害者を知った時から 3 年間行使しないときは、時効に よって消滅する」と規定し、不法行為により損害を受けた被害者が未成年者 や法人である場合には、その法定代理人を基準として 3 年の時効起算点を判 断する定めを置いている。

 しかしこれまで、不法行為の被害者が未成年者や法人である場合に 724 条 前段の 3 年の消滅時効の経過が問題となったケースは非常に少なく、この場 面で時効起算点の判断がどのようになされるのか今一つはっきりしなかった だけに、法定代理人を基準に時効起算点を判断した、名古屋高判平成 19 年 9 月 26 日(以下、「本判決」という。)は、同種の事例につき一定の示唆を 得る格好の素材を提供しているように思われる。

 本判決では、もちろん引きこもり・不登校児童に対する教育・指導をおこ なう施設における指導態様について 709 条の不法行為が成立するかどうかと いう点も判断されており注目されるが、本稿では、とくに 3 年の短期消滅時 効の起算点の問題に絞って本判決の検討を試みることにしたい。

二 事実関係

 原告Xは、歯科医であった父と内科小児科医である母Aとの間の子として 生まれたが、平成 11 年 4 月 15 日に父が死亡したため、平成 13 年当時、A がXの単独の親権者であった。Xには当時、Aのほかに祖母、姉、妹がおり、

5 名で福島県いわき市の自宅で生活をしていた。Xは、父親が死亡した中学 2 年生のころから学校を欠席するようになり、中学校を卒業後は県立高校に 進学したが、入学後数日間は登校したものの、すぐに不登校となり、5 月こ

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及び加害者を知った時」について(石松)

ろからは、食事のためや新聞を取るために部屋を出るほかは、専ら自室に閉 じこもって生活するようになっていた。そして、同年 6 月ころ、Xは、担任 から単位不足を指摘されたことから、高校を退学した。

 一方、被告Y1会社は、学習塾の経営、学習塾に入塾希望の児童を希望に沿っ た学習塾を選定し、紹介、斡旋する業務及び教育資材の販売等を目的とする 有限会社である。Y1会社は、いわゆる不登校・引きこもりの子どもの自立 支援を標榜して、「メンタルケア」と称する子ども及びその親に対する指導 もおこなっていた。その指導方法は、「長田塾」の名称で親などの家族に対 するセミナーを実施したり、また、名古屋市所在の「八事寮」において不登校・

引きこもりの子どもを親から預かり、集団生活をさせながら指導することで 自立支援するというものであった。被告Y2は、Y1会社の実質的な経営者(取 締役)であるとともに、長田塾の主宰者であり、八事寮における事業を含め、

1会社のメンタルケア事業についても中心的立場で活動していた。

 A及びXの祖母は、Xの引きこもりの状態を心配していたところ、テレビ 番組でY2及びY1会社の存在を知り、Aは、5 月中旬ころ、Y2に相談の手 紙を送った。Aの手紙を読んだY2は、6 月 13 日、Aと面接し、Xの状況を 聴いたうえで、Aに対して、Xを八事寮に入寮させるとともに、月 2 回おこ なう長田塾に家族で参加するよう求めた。このような交渉を経て、Aは、X をY2に預けることを決め、6 月 20 日、Y1会社との間で、問題行動の改善 を目的として、Xを八事寮に入寮させ、Y1会社にそのための教育及び訓練 を委託する内容の契約(以下、「本件委託契約」という。)を締結した。

 そこで、Y2は、Aに対し、8 月 12 日に迎えに行くが、その際、NHK の 取材があるので同意すべきこと、Y2及びY2から同行を依頼された人物E 及び NHK の職員 3 人の合計 5 人がXを迎えに行くので、5 人分の列車の往 復切符を購入して送ってもらいたいと連絡した。Aは、この申出を了解し、

5 枚の切符を購入してY2に送った。Y2は、8 月 12 日、E、NHK 名古屋放

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送センター報道部のディレクターF、カメラマン及び音声係の 4 人をとも なってX宅を訪れた。そして、Y2ら、A、Xの祖母、姉及び妹は、Xの居 室に入り、A及び祖母は、Xに八事寮へ行くよう説得したが、Xはこれに応 じようとしなかった。その際、Y2は、Aに対し、「Xを殴れ。」と発言したが、

AはXを殴らなかった。そのようなやりとりをしている間、Aは、診療所の 看護師夫妻に自宅の出口を見張ってもらっていた。やがて、Y2から、これ からどうするつもりかと問われたXが働くつもりであると言ったため、一同 は、X宅の近所にある新聞配達店及びガソリンスタンドを訪れ、就職の申込 みをしたが、いずれも断られた。

 その後、自宅近くの公園に移動し、八事寮への入寮を求めるY2らとこれ に応じないXとの間で話合いが続けられたが、Xの部屋に入ってから数時間 が経過したころ、業を煮やしたEが「もう新幹線の時間だ。早くしろ。」な どと促し、Aも 1 か月だけでも入寮してもらいたいと述べたことから、Xは 抵抗することをあきらめた。そして、Xは、同日、Y2らとともに新幹線を 利用して福島から名古屋へ行き、八事寮に入寮した。なお、八事寮へ行くこ とが決まるまでの間、NHK のスタッフが、上記の状況を撮影及び取材して いた。

 Xは、8 月 12 日から八事寮において他の寮生らと集団生活を始めたが、

その日課は、午前 5 時 55 分ころに起床し、午前中は学習、午後は様々な作業、

夜間は午前中の学習の間違い直しなどで、就寝は午後 12 時ころになること もあった。そこで、Xは、隙を見て逃走しようと考えていたところ、9 月 7 日、

他の寮生とともに八事寮を抜け出したが、同日、八事寮に連れ戻された。そ の際、Xらは、寮を抜け出した後に自転車を盗んだ旨述べたため、盗みと八 事寮を抜け出した罰として、Y2の指示で頭髪を丸刈りにされた。

 Xは、同月 25 日にも八事寮を抜け出し、歩いて自宅まで帰ろうとしたが、

Xが八事寮を抜け出したことを知ったY2は、Aに対し、ファックスで、自

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及び加害者を知った時」について(石松)

宅をすべて施錠し、自宅内へXを入れてはならないことや、Xが何をするか わからない危険な子どもだという情報を警察に提供して警察官の出動を促す ことなどを指示した。Xは、同月 26 日朝、愛知県豊田市内で通りすがりの 人物に助けを求め、その人物の家で過ごした後、同月 29 日に、この人物に 自宅へ送ってもらった。Xは、その間に、上記人物が暴力団関係者であるこ とを知った。

 Xは、自宅に着いたものの、Aから、Y2らが連れ戻しにくると聞かされ たこと、本件委託契約を解約して自宅に戻れるようにすると言われたことか ら、八事寮に戻ることとし、同日夜、Aとともに八事寮へ戻った。帰寮した Xは、同日午後 10 時ないし 11 時ころから翌 30 日午前 2 時ころまで、Y2 長田塾の指導員M及び八事寮の寮生らに囲まれたミーティングと称する会合 で、批判・非難を受けた。その際、Aは、Y2からXを殴るよう指示されたが、

これにしたがうことができず、Aは、Y2に対して不信感を抱くようになった。

 Xは、同日早朝に八事寮から逃げ出した。そして、名古屋市内のホテルに 宿泊していたAと連絡を取り、一緒に自宅へ戻るべく、名古屋駅で待ち合わ せる約束をした。Xが逃げ出したことを知ったY2は、Aと連絡を取って、

名古屋駅内の喫茶店で会い、自分は当日福井での講演があるから、Fを呼ん で、Xを連れ戻してもらうと話した。Y2から連絡を受けたFは、その要請 を容れて協力することとし、JR 名古屋駅に来てXを見つけ、タクシーに乗 せて八事寮まで連れ戻した。帰寮したXは、Mからこづかれたり、顔面付近 を叩かれたりした。連絡を受けたXの祖母、姉及び妹も、同日、八事寮を訪 れ、Xを自宅へ帰宅させるか八事寮に残して指導を続けるかについて話し 合った。話合いの中で、Xの姉及び妹がXには自宅に戻ってきてほしくない と述べたため、結局、Xの家族は、Xを自宅へ連れて帰ることはせず、その 後もXが八事寮において集団生活を送ることを委ねた。

 なお、NHK は、11 月 23 日、「ホリデーにっぽん・親が直れば、子も直る

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〜ひきこもり・非行を乗り越えて」とのタイトルで、Y2らがXの居室に入っ た場面及び八事寮入寮後に撮影したXの生活について放映した。その際、X の実名を出し、顔を隠すことなく放映した。事前に上記番組の放映について 了承を求められたXは、反対の意思を示すことはしなかったが、複雑な気持 を抱いた。

 Aは、12 月初旬、Y2から、Xが暴力団に連れ去られたとの連絡を受け、

八事寮へ向かった。実際、Xは、暴力団関係者に自宅へ送ってもらい、自宅 で過ごした後、姉とともに八事寮へ戻った。そこで、Y2は、Aに指示して、

弥生荘の一室を賃借させ、同月 8 日、そこにXを移して独居させた。Y2は、

同室に鍵は掛けなかったものの、単独での外出禁止をXに命じ、また、Aが 暴力団組員に弥生荘の住所を教える可能性があると考え、弥生荘の住所をA に教えなかった。

 Xは、弥生荘で一人で生活し、学習等をするよう指導され、Y1会社のイ ンストラクターと称するNが、Xの指導係として、その監督や食料の調達等 をおこなっていた。弥生荘には電話・テレビがなく、Xは所持金も有してい なかったため、そこから抜け出すことは事実上困難であった。

 T弁護士は、Xの居場所も知らせてくれないY2に不信感を抱いていたA から依頼を受け、平成 14 年 1 月 24 日、Nと連絡を取り、親権者に子どもの 居場所を知らせないことは違法であると伝えた。これを受けたY2は、S弁 護士に処理を依頼した結果、T弁護士は、同月 25 日、S弁護士及びNの立 会の下、弥生荘でXと面会し、そのままXをT弁護士の事務所へ同行した。

T弁護士は、そこでXの意向を確認したところ、八事寮に帰りたくないとの 回答を得たので、同日の夜はとりあえずXを自宅に宿泊させ、翌 26 日、X が関心を示した金沢市内のオープンハウスに連れて行き、同夜はそこに宿泊 させたうえ、同月 27 日、名古屋に戻って、Xを迎えに来たAと事務所で面 接した。そして、Xは、同日、Aとともに自宅へ戻った。

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及び加害者を知った時」について(石松)

 T弁護士は、同月 28 日、Aの代理人として、Nに対し、Xに関するY1 社との本件委託契約を解約し、XをY2の下には戻さず、かつ、弥生荘の賃 貸借契約も解約する旨口頭で通知したうえ、弥生荘からXの所有動産類を搬 出した。なお、T弁護士は、平成 17 年 1 月 24 日付け内容証明郵便により、

Yらに対し、Xに対する不法行為を理由に損害賠償を請求すること、金額は あえて特定せず、Yらが謝罪の意思を誠実に表す金額を提示すべきことを通 知し、同書面は、同月 26 日、Yらに到達している。

 その後、Xが、同月 27 日付け内容証明郵便をもって上記請求には応じら れない旨のYらの回答を得たので、同年 7 月 22 日、訴え提起に及んだのが 本件である。

三 第 1 審判決

 第 1 審判決(名古屋地判平成 18 年 12 月 7 日(1))は、以下のように判示し、

3 年の消滅時効の完成を認めてXの請求を棄却している。

【請求棄却】「……Bから依頼を受けたT弁護士は、平成 14 年 1 月 25 日、弥 生荘でXに面会した後、そのまま同弁護士の事務所に同行し、Xの意向を確 認した上、同夜は同弁護士の自宅に宿泊させたこと、T弁護士は、翌 26 日、

Xを金沢市内のオープンハウスの催しに連れて行き、同夜はそこで宿泊して、

同月 27 日、名古屋に戻って迎えに来たAに面接したこと、その結果、Xは、

一度もYらの監督・支配下にある八事寮や弥生荘に戻ることなく、同日、A と共に自宅に戻ったこと、以上の事実が明らかである。

 ところで、消滅時効は、権利を行使することができる時から進行すると規

(1)判例時報 1973 号 98 頁、判例タイムズ 1248 号 251 頁。

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定されている(民法 166 条 1 項)ところ、ここにいう権利を行使することが できるとは、一般に、権利を行使することについて法律上の障害がなくなっ たというだけでなく、権利の性質上その行使が現実に期待することができる ことを要すると解される(最高裁昭和 45 年 7 月 15 日大法廷判決・民集 24 巻 7 号 771 頁ほか参照)。これを本件についてみるに、Xは、平成 14 年 1 月 25 日にT弁護士に面会し、同弁護士に同行して弥生荘を離れて以来、一度 もYらの管理、支配下に戻ることがなかったというのであるから、同日以降 は、XがYらに対して損害賠償を請求することが現実にも期待できたといわ ざるを得ない(T弁護士が本件委託契約を解約する旨の意思表示をしたの は同月 28 日であるが、Aが締結した同契約が終了しなければ、Xによる不 法行為法上の権利行使が法律上あるいは事実上困難であるとは考えられな い。)。

 そうすると、同請求権の消滅時効は、同月 26 日から進行を開始する(初 日不算入)から、平成 17 年 1 月 25 日の満了をもって完成することが明らか である。しかるところ、XがYらに対して損害賠償を求める前記内容証明郵 便が到達したのは同月 26 日であるから、仮に同書面の内容が民法 153 条所 定の催告としての適格性を満たすとしても、なお、消滅時効の中断事由には なり得ないといわざるを得ない。

 しかして、Yらが、本訴において消滅時効援用の意思表示をしたことは、

本件記録上明らかであるから、結局、Yらの行為が一連の継続的不法行為と 評価できるか否かにかかわらず、不法行為に基づく損害賠償請求権は消滅し ていると判断せざるを得ない。」

四 第 2 審判決(本判決)

 これに対して、本判決は、次のように判示して、Xの請求を一部認容した。

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及び加害者を知った時」について(石松)

【原判決変更】「……民法 724 条にいう『損害及び加害者を知った時』とは、

被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、そ の可能な程度にこれらを知った時を意味するが(最判昭和 48 年 11 月 16 日 民集 27 巻 10 号 1374 頁参照)、被害者が未成年者の場合には、法定代理人が 損害及び加害者を知った時を消滅時効の起算点とすべきである。上記のとお り、平成 14 年 1 月当時Xは未成年であったから、本件不法行為による損害 及び加害者を知ったか否かは親権者であるAによって決すべきこととなる。」

 「Aは、Y2が、Xの居場所も知らせてくれないことに不信感を抱き、T弁 護士に依頼したところ、Aの依頼を受けたT弁護士が、平成 14 年 1 月 25 日、

弥生荘でXに面会し、その後、Xを同弁護士事務所に同行して以降、Xは、

同弁護士と行動を共にし、同月 27 日、名古屋に戻って、迎えに来たAと共 に自宅に戻ったこと」、「XがYらの管理下を離れた後、Aは、平成 14 年 1 月 27 日、Xと面会しているが、Xは、Aとほとんど口をきかない状態であっ たこと」、「平成 14 年 1 月 28 日、Aは、T弁護士に依頼し、本件委託契約を 解約したものの、その後も、Xの態度をものぐさにしか映らないなどと憂慮 し、『Xに問題がある』という観念が強く、XがYらのもとにいた際の暴力 的な行為について違法性を理解していなかったこと」、「Aは、以前に、Xが Mから殴られた事実を目撃しており、また、Xが丸刈りにされたことを後日 知ったこと、しかし、Xが八事寮に入寮して以来、AはXとの接触は稀であっ たから、それらの事実の経緯や詳細を知る立場にはないこと」

 「以上によれば、Aから相談を受けたT弁護士が、平成 14 年 1 月 25 日X に面会するとともにXを同弁護士事務所に同行していたことから、以後X は、Yらの管理下を離れたと認められるが、Aは引きこもりのXの立ち直り を願ってYらにXの教育・指導を委託したものであり、Yらに不信を抱くよ うになってはいても、それは主としてYらがXの所在を教えないことに由来 するもので、在寮中YらがXに加えた制裁の違法性にまで考えが及ばなかっ

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たとしても、無理からぬことといわざるを得ない。

 また、Yらが NHK の取材、放送について便宜を与えたことについても、

Aの認識は、ひきこもりが、Y1会社で 2 から 3 か月で立ち直るということ を全国の同じ悩みをもつ親にも知ってもらえるといいと思っていたというも ので、NHK の取材、放送が、Xのプライバシーの侵害であって不法行為を 構成するとの認識はなかったといわざるを得ない。

 したがって、平成 14 年 1 月 25 日までに、Aが損害の発生を現実に認識し、

損害賠償請求権を行使することが現実に期待できたということはできない。

Aによる損害賠償請求権の行使を現実に期待し得る状態になったのは、早く ともAが本件委託契約を解除した同月 28 日以降とみるべきである。」

「Xは、平成 17 年 1 月 26 日にYらに到達した内容証明郵便により催告の上、

同年 7 月 22 日、本件訴えを提起している。上記内容証明郵便は、損害賠償 の金額を特定していないものの、時効中断の予備的措置である催告としては、

その効力に欠けるところはない。

 したがって、不法行為に基づく損害賠償請求権について、同年 1 月 26 日、

時効が中断しており、Yらの消滅時効の主張は認めることができない。」

五 研究

1 本判決の意義

 第 1 審判決は、平成 14 年 1 月 25 日にXがT弁護士に面会し、T弁護士に 同行して弥生荘を離れて以来、一度もYらの管理支配下に戻ることはなかっ た点を捉えて、同日以降はXがYらに対して損害賠償を請求することが現実 にも期待できたものとして、同日の翌日(26 日)を 3 年の消滅時効の起算 点と解し、その日から 3 年の時の経過によりXの損害賠償請求権は時効消滅 していると判断している。

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及び加害者を知った時」について(石松)

 これに対して、本判決は、同じく、平成 14 年 1 月 25 日にT弁護士がXに 面会するとともに、XをT弁護士事務所に同行したことから、以後XはYら の管理下から離れたと認められるものの、Xが八事寮に在寮中にYらから加 えられた制裁の違法性にまでAには考えが及ばなかったとしても無理からぬ 事情があること、また、Yらが NHK の取材・放送について便宜を与えたこ とについても、Aの認識は、ひきこもりがY1会社で 2、3 か月で立ち直る ということを全国の同じ悩みをもつ親にも知ってもらえたらいいと思ってい たというものであって、NHK の取材・放送がXのプライバシー侵害にあた り不法行為を構成するとの認識はなかったことから、同年 1 月 25 日までに、

Aが損害の発生を現実に認識し、損害賠償請求権を行使することが現実に期 待できたとはいえず、Aによる損害賠償請求権の行使を現実に期待し得る状 態になったのは、早くともAが本件委託契約を解除した同月 28 日以降とみ るべきであるとし、そして、3 年の時効期間経過直前の平成 17 年 1 月 26 日 にYらに到達した内容証明郵便が催告にあたるものとして、時効の中断を認 め、結果的にXの請求を認容している。

 こうして、被害者が未成年の場合には被害者本人の認識が時効起算点の判 断基準にはならず、その法定代理人の認識が問題となるため、法定代理人が いつから加害者に対する損害賠償請求権の行使を現実に期待し得る状態に なったかが問題となるわけであるが、本判決は、本件における諸般の事情を 考慮して、損害賠償請求権の行使を現実に期待し得る状態になったのは早く とも本件委託契約を解除した日以降であると解して、時効の完成を否定して いる。本判決の実質的意義はこの点にあるといってよい。

 しかし、先にも指摘したように、この場面での裁判例は非常に少なく、ど のような事実認定ないし理論構造をもって法定代理人の起算点判断がおこな われるかは今一つはっきりしない。そこで、本稿では、この点を検討してい くことにしたい。

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2 裁判例の概観

 関連する裁判例は、次の 2 件しか存在しない。しかも、誰が 724 条にいう「法 定代理人」にあたるかという点が中心問題となっている事案であって、本判 決のように、その法定代理人がどの程度の認識があれば加害者に対する損害 賠償請求権の行使を現実に期待し得る状態になったといえるかが問題となっ ているわけではない。この意味からも、本判決の登場は非常に意義深いもの といってよかろう。

 【1】判決は、国所属の船舶が衝突事故により破損した事件において、北海 道港湾事務所長と北海道庁長官のいずれが損害及び加害者を知った時に 3 年 の消滅時効が進行を開始するかが問題となったケースである。それに対して、

【2】判決は、不法行為の被害者が未成年である場合にその親権者である父及 び母の双方が 724 条にいう「損害及び加害者を知った時」でなければ時効は 進行を開始しないのか、それとも両親の一方が損害及び加害者を知っていれ ば足りるのかが問題となったケースである。

 以下で、もう少し関連裁判例を詳しく見ていこう。

 【1】大判昭和 13 年 9 月 10 日(2)(法人の場合)

〔事実関係〕昭和 4 年 9 月 5 日、X(国)の所有にかかる内務省所属汽船稚 内丸が艀舟 3 艘に石材を満載して曳船し、北海道利尻郡鴛泊港から北海道宗 谷郡稚内港に向けて進行中、北海道小樽港から樺太久春内に向けて木材積取 のために出港したY所有の汽船朝洋丸が利尻水道を北進中に、右艀舟のうち の 1 艘と衝突し、同艀舟を破損させたとして、Xが、右艀舟の破損による損 害は朝洋丸の船長並びに運転手の故意または過失によるものであるとして、

Yに対し、損害賠償を求めて訴えを提起したというのが本件である。

 Yは、これに対してさまざまな抗弁を提出したが、消滅時効に関しては、

Yは船舶による運送業を営む者であるから、本件船舶の衝突により生じた賠

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及び加害者を知った時」について(石松)

償義務については商法 651 条の規定の適用により事故発生の時から 1 年が経 過した昭和 5 年 9 月 5 日に時効によって消滅している。かりに右規定の適用 がなく民法 724 条の規定によるべきであるとしても、Xが本件衝突による損 害並びに加害者を知ったのは稚内築港事務所長がこれを知った時というべき だから、同所長がこれを知った昭和 4 年 9 月 9 日から 3 年が経過した昭和 7 年 9 月 8 日をもって時効が完成していると主張した。

 Xは、Yのこのような抗弁に対して、稚内丸は国の所有に属するものであ るから、その衝突による損害賠償請求権については船舶法 35 条但書により 商法 651 条の適用はなく、民法の規定が適用されるべきであり、その時効の 起算点は北海道庁長官が損害並びに加害者を知った時から起算すべきものと 反論した。

 控訴院は、損傷を被った船舶は艀舟であり、商法 538 条 2 項にいういわゆ る端舟にあたるので商法第 5 編の規定の適用はなく、したがって、本件損害 賠償債務の時効については民法の規定を適用すべきである。そして、その時 効は稚内築港事務所長が損害及び加害者を知った時から起算すべきものであ ると判示して、Yの抗弁を採用し、Xの請求を棄却した。

 大審院は、控訴院が本件艀舟を独立した端舟と認めた点は不法であるが、

海商法上の船舶ではないとしてYの時効の抗弁を採用した点は、結局相当で あるとして上告を棄却している。消滅時効に関する部分は次のとおりである。

 〔判旨〕「然れども、原審は所論摘録の如く判示して、稚内築港事務所長は 本件船舶事故に付き之が調査報告を為す職務権限を有する国家の吏員なるを 以て、同所長に於て本件船舶の損害並に加害者を知りたるときは、即ちXに 於て之を知りたるものなる旨認定したるものにして、大正 6 年勅令第 221 号 拓殖及森林事務に従事せしむる為北海道庁に臨時職員増置の件第 5 条第 3 項

(2)民集 17 巻 1731 頁。

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及び大正 11 年 4 月 30 日北海道庁訓令第 34 号土木事業執行規程第 116 条第 10 号に依れば、右稚内築港事務所長は、北海道庁長官の認可を受け、其の 所管に属する船舶に対する損害賠償請求の訴訟又は和解を為す権限を有する ものなること明かなるが故に、同所長に於て右船舶に対する不法行為に因る

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

損害事項並に加害者を知るときは

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

、被害者たる国が民法第 724 条に所謂損害

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

及び加害者を知りたるときに該当するものと解するを相当とす

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

べく、原判決 の趣旨又茲に存すること右判示に依り之を窺知するに難からざるを以て、原

0

審の右認定は固より正当

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

なりとす。縷述の所論は、畢竟、右と異る独自の見 解に基き、原判決に法律の解釈を誤り又は理由不備其の他の違法あるものの 如く論ずるものにして、採用するを得ず。」(ひらがな表記・傍点−筆者)

〔若干のコメント(3)〕本件判決は、内務省所属艀舟の衝突事故により発生し た損害賠償請求権の時効起算点に関して言えば、北海道庁長官の認識を要す るか、それとも稚内港湾事務所長の認識で足りるかという点につき、港湾事 務所長がその所管船舶に対する不法行為による損害事故及び加害者を知った 時に国はこれを知ったものと解したうえで、結果的にXの請求を退けている。

そのように解する理由としては、北海道庁訓令第 34 号土木事業執行規程第 116 条第 10 号により、北海道庁長官の認可を受ければ港湾事務所長にはそ の所管する船舶に対する損害賠償の訴訟または和解をなす権限があるという ことが挙げられているが、これは、そのような権限を有する港湾事務所長の 認識であれば国の損害賠償請求権について時効の進行を認めても不合理とは いえないということを意味しているものと思われ(4)、そのような権限を有 しなければ時効の進行を認めることはできないと厳格に解したものと理解す る必要はないであろう(5)

 【2】東京高判昭和 57 年 1 月 27 日(6)(親権者の場合)

〔事実関係〕自作農創設特別措置法 3 条に基づき農地を強制買収された「藤

(15)

及び加害者を知った時」について(石松)

井良太郎(A)」の長男「藤井洋一(a)」は、改名して「藤井良太郎」となっ ていた。a(昭和 35 年 12 月 28 日生)が、農林大臣に対して、本件買収農 地について農地法 80 条 2 項に基づく売払いの買受申出をしたところ、農林 大臣は、aを旧所有者であるAと誤認してaに対して本件買収農地を昭和 48 年 5 月 10 日に売り払った。Aは、aとその妻bとの間の子であるXに全 財産を包括遺贈し、昭和 49 年 9 月に死亡している。

 そこで、Xが、Y(国)に対して、aに対する農林大臣の本件買収農地の 売払いは農地法 80 条 2 項に違反して無効であると主張して、売払いの無効 確認を求めるとともに、aが売払いを受けた後、本件買収農地に抵当権等を 設定した者に対しその抹消登記手続を求めたのが本件である。

 第 1 審では、Xの請求は不適法却下、請求棄却となったので、Xは控訴し、

昭和 55 年 12 月に、Yはaと旧所有者Aとの生年月日の照会を怠った過失に より、旧所有者でないaに本件買収農地を売払い所有権移転登記手続をした 結果、Aが農地法 80 条 2 項により有していた本件農地の買受けの権利を喪 失させ損害を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償の請求もあらためて おこなった。

(3)

(4)

(5)

(6)

大審院の時効起算点に関する判断については、学説上、まったく異論をみない。美 濃部達吉「判例評釈」国家学会雑誌 53 巻 3 号(1939 年)131 頁以下、石井照久「判 例評釈」民事法判例研究会編『判例民事法(18)昭和 13 年度[復刻版]』(有斐閣・

1954 年)417 頁以下(初出は法学協会雑誌 57 巻 3 号(1939 年)160 頁以下)、西島 彌太郎「判例批評」民商法雑誌 9 巻 3 号(1939 年)143 頁以下、大橋光雄「判例研究」

法学論叢(京都大学)40 巻 4 号(1939 年)699 頁以下を参照。

石井博士は、時効起算点に関してこのように解することによる国の不利益は、国が 北海道庁長官を中心とする複雑な事務分掌関係(分業機構)を採用していることか ら当然に予定されたものというべきであるとされる。石井「前掲判例評釈」420 〜 421 頁参照。

石井「前掲判例評釈」421 頁参照。

下民集 33 巻 5 〜 8 号 1145 頁、判例時報 1037 号 110 頁、判例タイムズ 469 号 193 頁、

金融・商事判例 649 号 24 頁、訟務月報 28 巻 5 号 941 頁。

(16)

 これに対して、Yは、かりにYが不法行為責任を負うとしても、Xの親権 者の一人aが加害者及び損害を知った昭和 52 年 11 月の時から 3 年が経過し ているとして損害賠償請求権は時効により消滅していると反論した。本件判 決は、消滅時効に関して次のとおり判示している。

〔判旨(7)〕「…被害者が未成年者で父母の共同親権に服している場合、民法 724 条にいう被害者の『法定代理人』とは、親権者たる父又は母のいずれか

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

一方であればよく

0 0 0 0 0 0 0 0

、必ずしも父母両名であることを要しない

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

と解するのが相 当である。けだし、民法 724 条は

0 0 0 0 0 0 0

、時効の起算点につき

0 0 0 0 0 0 0 0 0

、加害者に対する賠

0 0 0 0 0 0 0 0

償請求が事実上可能な状況となったときに消滅時効の進行開始を認める趣旨

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

と解すべきところ、父母の一方が不法行為の損害及び加害者を知れば

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

、共同

0 0

親権の行使が可能な場合には他の親権者と協力して

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

、また他の親権者が親権

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

を行うことができない場合には自己単独で

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

、いずれにしても親権を行使して

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

(民法 818 条 3 項

0 0 0 0 0 0 0 0

)、子たる被害者のために賠償請求することが可能となる

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

らである(父母の意見が一致しない場合、共同親権の行使が不能になるとし ても、その場合は、双方の親権者が悪意なのであるから、民法 724 条の時効 の起算点については問題がない。)。」(傍点−筆者)

〔若干のコメント〕本件判決は、親権者の一方が加害者に対する賠償請求が 事実上可能な状況にあれば、たとえ他方が損害賠償の請求に協力しなかった としても、そのことは、724 条前段の時効起算点を判断する際には何ら影響 がないと解している。Xの親権者の一人aが昭和 52 年 11 月の段階で損害及 び加害者を知っていたことにより、加害者に対する損害賠償請求権の行使を 現実に期待し得る状態になっていると考えられることから、3 年の消滅時効 は進行を開始するとみている点で従来の起算点論に沿うものであり、極めて 妥当な判断といえよう。

(7)この判断は、最判昭和 60 年 11 月 29 日でも維持されているようである(訟務月報 32 巻 7 号 1557 頁参照)。

(17)

及び加害者を知った時」について(石松)

3 理論状況

 724 条の 3 年の消滅時効の起算点は、一般的な時効起算点を定める 166 条 1 項とは異なり、被害者が損害の発生と加害者を知らなければ現実に損害賠 償請求権の行使を期待することができず、もしこれらの事実を知らず賠償請 求が事実上不可能であるにもかかわらず、損害賠償請求権の消滅時効が進行 を開始するとすれば被害者にとって酷であるため、この点を考慮して定めら れたものと解されている。それでは、この 724 条前段の 3 年の時効起算点に 関する理論状況はどのようになっているのだろうか、簡単に眺めておくこと にしよう。

 判例は、被害者が「損害」や「加害者」を知った時に関しては、周知のと おり、次のように判示している。まず、最判昭和 48 年 11 月 16 日民集 27 巻 10 号 1374 頁は、「加害者を知った時」に関して、「民法 724 条にいう『加害 者ヲ知リタル時』とは、同条で時効の起算点に関する特則を設けた趣旨に鑑 みれば、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

、その可能な

0 0 0 0 0

程度にこれを知った時を意味する

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

ものと解するのが相当であり、被害者が不 法行為の当時加害者の住所氏名を的確に知らず、しかも当時の状況において これに対する賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、

その状況が止み、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき、初めて『加害 者ヲ知リタル時』にあたるものというべきである」(傍点−筆者)と判示し ている。

 また、最判平成 14 年 1 月 29 日民集 56 巻 1 号 218 頁は、「損害を知った時」

に関して、「民法 724 条は、不法行為に基づく法律関係が、未知の当事者間 に、予期しない事情に基づいて発生することがあることにかんがみ、被害者 による損害賠償請求権の行使を念頭に置いて、消滅時効の起算点に関して特 則を設けたのであるから、同条にいう『損害及ヒ加害者ヲ知リタル時』とは、

被害者において

0 0 0 0 0 0 0

、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

、その

0 0

(18)

可能な程度にこれらを知った時を意味する

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

ものと解するのが相当である(最 高裁昭和 45 年(オ)第 628 号同 48 年 11 月 16 日第二小法廷判決・民集 27 巻 10 号 1374 頁参照)。そして、次に述べるところに照らすと、同条にいう 被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をい

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

0

と解すべきである」と判示したうえで、「不法行為の被害者は、損害の発 生を現実に認識していない場合がある。特に、本件のような報道による名誉 毀損については、被害者がその報道に接することなく、損害の発生をその発 生時において現実に認識していないことはしばしば起こり得ることであると いえる。被害者が

0 0 0 0

、損害の発生を現実に認識していない場合には

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

、被害者が

0 0 0 0

加害者に対して損害賠償請求に及ぶことを期待することができないが

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

、この

0 0

ような場合にまで

0 0 0 0 0 0 0 0

、被害者が損害の発生を容易に認識し得ることを理由に消

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

滅時効の進行を認めることにすると

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

、被害者は

0 0 0 0

、自己に対する不法行為が存

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

在する可能性のあることを知った時点において

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

、自己の権利を消滅させない

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

ために

0 0 0

、損害の発生の有無を調査せざるを得なくなるが

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

、不法行為によって

0 0 0 0 0 0 0 0

損害を被った者に対し

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

、このような負担を課することは不当である

0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

。他方、

損害の発生や加害者を現実に認識していれば、消滅時効の進行を認めても、

被害者の権利を不当に侵害することにはならない。」「民法 724 条の短期消滅 時効の趣旨は、損害賠償の請求を受けるかどうか、いかなる範囲まで賠償義 務を負うか等が不明である結果、極めて不安定な立場に置かれる加害者の法 的地位を安定させ、加害者を保護することにあるが(最高裁昭和 49 年(オ)

第 768 号同年 12 月 17 日第三小法廷判決・民集 28 巻 10 号 2059 頁参照)、そ れも、飽くまで被害者が不法行為による損害の発生及び加害者を現実に認識 しながら 3 年間も放置していた場合に加害者の法的地位の安定を図ろうとし ているものにすぎず、それ以上に加害者を保護しようという趣旨ではないと いうべきである」(傍点−筆者)としている。

 判例(8)は、被害者が実際に損害賠償請求権を行使できるようになったこと、

(19)

及び加害者を知った時」について(石松)

つまり権利行使に対する現実的な期待可能性の点を重視しているという意味 において、先に確認した趣旨に沿った解釈を堅持しているということができ よう。そして、学説も基本的にはこのような考え方にほとんど異論はないも のと思われる(9)

 それでは、本判決は、従来の解釈論から見てどうなのだろうか、次の章で は、その位置づけも含めて若干の考察を加えてみることにしよう。

4 若干の考察

 先に見たように、本判決も前掲最判昭和 48 年を引用しながら、従来から の起算点論に依拠した検討、判断をおこなっている。すなわち、「民法 724 条にいう『損害及び加害者を知った時』とは、被害者において、加害者に対 する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれらを知っ た時を意味する…(最判昭和 48 年 11 月 16 日民集 27 巻 10 号 1374 頁参照)」

とまず判示したうえで、「被害者が未成年者の場合には、法定代理人が損害 及び加害者を知った時を消滅時効の起算点とすべきである。…、平成 14 年 1 月当時Xは未成年であったから、本件不法行為による損害及び加害者を 知ったか否かは親権者であるAによって決すべきこととなる」とし、その具 体的な検討に入っている。

 したがって、ここでは、724 条前段の 3 年の時効起算点が本件においては どのように具体的に捉えられて判断されているかが重要となる。

(8)

(9)

その他に、養父による養女に対する性的虐待のケースに関する、福岡高判平成 17 年 2 月 17 日判例タイムズ 1188 号 268 頁も参照。

前田達明『民法Ⅵ2 不法行為法』(青林書院・1980 年)390 頁、幾代通・徳本伸一補訂『不 法行為法』(有斐閣・1993 年)348 頁、潮見佳男『不法行為法』(信山社・1999 年)

287 頁、澤井裕『テキストブック  事務管理・不当利得・不法行為〔第 3 版〕』(有斐 閣・2001 年)260 頁、吉村良一『不法行為法〔第 3 版〕』(有斐閣・2005 年)171 頁、

内田貴『民法Ⅱ債権各論[第 2 版]』(東京大学出版会・2007 年)446 頁、窪田充見『不 法行為法』(有斐閣・2007 年)444 頁など参照。

(20)

 本件でも、損害賠償請求権の行使に対する現実的な期待可能性が重視され ていることは、先述のとおりであるが、その際に、XがYらからの管理下を 離れただけでは不充分であり、八事寮に在寮中YらがXに加えた制裁の違法 性までに考えが及ばなかったとしても無理からぬ事情があり、また、NHK の取材、放送がプライバシーの侵害にあたり不法行為を構成するとの認識が なかったという事情を考慮して、起算点をAが本件委託契約を解除した平成 14 年 1 月 28 日以降と解している。

 そこで、本件では一見、Aが損害賠償請求権の行使の前提としての権利侵 害が不法行為を構成することを認識していることまで要求されているように も見える(10)。しかし、この点は、一般人であれば加害行為の違法性を認識 しえたであろう程度の事情があれば足りるとの見解(11)から、本件の場合に はその程度にまで至っていなかったという趣旨のことを指摘したものととれ なくもなく、そうだとすれば、妥当な判断であったということができよう。

 本判決では、起算点を平成 14 年 1 月 28 日以降にとることによって、内容 証明郵便によるAの本件委託契約の解除を催告と捉え、それから 6 ヶ月内で ある同年 7 月 22 日になされた訴え提起により時効が中断しているとして、

Yらによる消滅時効の主張を退けているわけである。極めて稀なケースでの 判断だったという意味では事例的な意義しか有しないようにも思われるが、

しかし法定代理人の認識に関連する起算点論の問題として、今後の議論の参 考になるものと評しておきたい。

(10)

(11)

平井宜雄『債権各論Ⅱ 不法行為』(弘文堂・1992 年)168 頁、平野裕之『民法総合 6 不法行為法』(信山社・2007 年)431 頁参照。

四宮和夫『事務管理・不当利得・不法行為 下巻』(青林書院・1981 年)647 頁以下、

森島昭夫『不法行為法講義』(有斐閣・1987 年)438 頁、441 頁、幾代・徳本補訂

『前掲書』348 頁、潮見『前掲書』291 頁、澤井裕『前掲書』271 頁など参照。なお、

715 条の使用者責任に関するものではあるが、最判昭和 44 年 11 月 27 日民集 23 巻 11 号 2265 頁も参照。

(21)

及び加害者を知った時」について(石松)

5 結びにかえて

 本判決は、結果的に、起算点をずらして被害者側の請求を認めているが、

損害賠償請求権の行使に対する現実的な期待可能性という視点が法定代理人 の認識に関する起算点論においても維持されたという点で、意義のある裁判 例であったといえよう。しかも、関連裁判例の少ない分野で一つの判断が示 されたという点でも意義深いものであったと思われる。

〔追記〕最後に指摘させていただきたい点が一つある。それは、本判決を掲載する判例時報 2008 号 102 頁のコメントのなかに、本件で問題となっている民法 724 条前段の 3 年の期間を 除斥期間と称したり、後段の 20 年の除斥期間に関連する裁判例を紹介して前段の 3 年の消滅 時効に関する本判決を解説したりする部分がみられるということである。これが何か特別の 意図から出たものか、執筆者の単純ミスによるものかははっきりしないが、公式判例集では ないとしても、主に法律専門家を念頭に置いて公刊されている判例雑誌である以上、その果 たすべき使命の点から、裁判例の正確な掲載はもちろんのこと、そのコメントについてもで きうる限りの適切さを期待したい。もっともこれは、雑誌発行者や編集者にではなく、執筆 者個人に向けられるべき指摘かもしれない。

       (2009 年(平成 21 年)3 月 19 日稿)

(22)

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