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中国語の“(是)……VO的”文と“(是)……V的O ”文の形式および意味機能に関する研究

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中国語の (是)……VO的 文と (是)……V的O 文の形式および意味機能に関する研究

著者 金 萍

著者別表示 Jin Ping

雑誌名 博士論文要旨Abstract

学位授与番号 13301甲第4619号

学位名 博士(文学)

学位授与年月日 2017‑09‑26

URL http://hdl.handle.net/2297/00049683

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

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1

様式 7(Form 7)

学 位 論 文 要 旨

Dissertation Abstract

学位請求論文題名

Dissertation Title

中国語の“(是)……VO 的”文と“(是)……V 的

O”文の形式および

意味機能に関する研究

(和訳または英訳)

Japanese or English Translation

Research on the Differences in the Forms and Semantic Functions between the Two Constructions shi (是)⋯⋯VO de(的) and shi(是)⋯⋯V de(的) O

人間社会環境学

専 攻(Division)

氏 名(Name)

金 萍

主 任 指 導 教 員 氏 名(Primary Supervisor)

岩田 礼

(注)学位論文要旨の表紙 Note: This is the cover page of the dissertation abstract.

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2 Summary

In Chinese, there exists a sentence structure shi(是) ⋯de(的). A prevailing opinion states that its function is to emphasize the word or phrase in between shi and de. When an object follows the verb shi(是), this structure differentiates into two substructures:“shi(是) ⋯VO de(的) ” and “shi(是) ⋯V de(的)O”, which can both to stress the completeness or accomplishment of the verb and to emphasize one specific aspect relating to the verb. This thesis attempts to reveal the differences in the use of these two structures in aspects of meaning and function.

This thesis examines the usages of the particular two structures appearing in colloquial materials over the long course of history, ranging from Tang Dynasty to contemporary times. As for contemporary Chinese, it particularly concerns with the usages found in the materials written in Beijing dialect. All serve to expound the historical changes and usage differences of the two structures.

This thesis consists of five chapters.

In Chapter 1, after defining the purpose and focus of this research, it outlines the structure of the thesis.

Chapter 2 deals with colloquial materials appearing in historical literatures from Tang to early 20th century. It is revealed that “shi() ⋯V de()O” made its first appearance in Song Dynasty while“shi(是) ⋯VO de(的) ”in Yuan Dynasty. Next, the research revolves around four aspects: focus of narration, the syllable number of verb, the correlation between syllable number of verb and that of object, and the property of object, i.e. common noun or personal pronoun.

Chapter 3 analyses novels written in Beijing dialect and corpus on Beijing dialect. It elaborates the features in four aspects aforementioned in Chapter 2. It also includes the analysis on some commonly- used expressions having a verb-object construction, such as “biye(毕业) ” “tuixiu(退休)” “jiehun(结 婚)” “canjiagongzuo(参加工作)”.

Chapter 4 focuses on sentences appearing before and after the two constructions respectively. We divide their relation into three categories: same form(同一形式),lexical cohesion(語彙的結束関係),

question-answer type of anaphora(問答形式). Then, we make a thorough analysis about the two constructions.

Chapter 5 summarizes the whole research and concludes the research.

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3 要旨

現代中国語で一般的に強調構文と呼ばれる“是⋯⋯的”構文には二つの形式が存在する。

本論文ではそれぞれ“(是) ⋯⋯VO的”文、“(是) ⋯⋯V的O”文と標記する。本研究はこの 二つの形式について、唐代から当代までの口語作品及び北京語の口語作品と談話資料を対 象に、その形式及び意味機能の違いを明らかにしようとしたものである。

この二形式は過去の一時点を表す時間詞と共起すれば、いずれも過去に起こった個別の 事態に言及する文となり、表す意味も同じである。従来の研究では、“是⋯⋯VO的”文と“是

⋯⋯VO”文の形式的な側面や意味的な側面から研究が行われてきた。例えば、なぜ語順

の異なる二つの文が共存しているのか、或いは“是⋯⋯V的O”文と“是⋯⋯VO的”文はど のような機能的差異があるのかという問題がある。しかし、未だに統一的な見解は得られて いない。本研究では、“是⋯⋯的”構文は文脈依存度が高い構文であるとの予想の下に、大量 の用例から文の構成要素と意味機能の特徴について客観的に検証することを目的とする。

本研究は、古代から現代までの豊富な口語作品を素材とする。これは、現代語のみならず 過去の口語資料を調査することで、従来十分に明らかにされていない諸問題を解明するこ とに貢献できると期待されるからである。“(是)……VO的”文と“(是)……V的O文”を含 む文を抜き出し、叙述の焦点、述語動詞の音節数、目的語の種類、述語動詞の音節数と目的 語の音節数の関係から、二つの文の違いを考察した。研究対象としては、第二章では、唐代・

五代・宋代から元代・明代、清代・民国期、当代に至る口語作品を取り上げ、第三章では、

現代北京語で書かれた口語作品と当代北京語の談話資料を扱った。第四章では、現代北京語 の口語作品と当代の口語作品を対象として、“(是)……VO的”文と“(是)……V的O文”に おける先行形式(前文)と照応形式(後文)との繋がりを検討し、両形式の意味機能の違いを考 察した。

本研究は五章によって構成される。第一章は導入部分、第二章、第三章、第四章は中核部 分、第五章は結論である。以下に各章の要約を述べる。

第一章「研究の動機、目的及びアプローチ」では、本研究の動機、問題点、目的を明らか にした上で、論文全体の構成を示した

“是⋯⋯的”構文について、刘月华(2001)は、過去において既に実現或いは完了した動作 について強調する“是⋯⋯的”構文(一)と、話し手の見方、態度などを表すのに用いられる

“是⋯⋯的”構文(二) があると述べているが、“是⋯⋯的”で標識される構文がすべて強調を 表す“是⋯⋯的”構文とは限らない。本研究において、研究対象を判別するための条件とし て、以下の3つを挙げる。それは第一に、両形式は必ず已然義を表すこと。第二に、“是⋯⋯V

O”文の場合、主語と目的語は対等関係ではないこと。第三に、“是⋯⋯VO的”文の場合、

“(是)……V的O文”への変換(目的語Oを“的”の後に移動させること)が可能なこと である。

第二章「“(是)……V的O”文と“(是)……VO的”文の歴史的変遷」では、唐代・五代・

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4

宋代、元代・明代・清代、五四運動から当代における、各時期の口語作品を対象に考察した。

“是”は古典中国語において指示代名詞であったが、唐代・五代頃には判断詞のとしての 用法が定着していた。“的”の起源には諸説があるが、唐代・五代頃は“底”と表記され、

構造助詞として使用されていた。本論文のテーマである“(是)⋯⋯V的O”文と“(是) ⋯⋯VO 的”文については、前者の初出例が早く、南宋期の作品に現れる。“(是) ⋯⋯VO的”文の初 出例が確認できるのは元代である。元代の作品には、疑問詞と共起する“(是) ⋯⋯的”構文 が確認できた。これは“是”の「焦点マーカー」としての機能が強まったことを示すものと 考えられる。明清の“(是) ⋯⋯的”文は、元代とほとんど差異はないが、清代では人称代名 詞が“(是) ⋯⋯V的O”文の目的語となる例が初めて確認できた。しかし、使用頻度が低く、

五四運動以降も、“(是) ⋯⋯V的O”文には人称代名詞があまり現れない。

各時期の叙述の焦点、述語動詞の音節数、述語動詞の音節数と目的語の音節数、目的語の 種類についての検討結果は、以下の4点にまとめられる。

(1)叙述の焦点:叙述の焦点が動作主、時間や状態にある場合は、“(是) ⋯⋯VO的”文が用

いられ、場所や方式に焦点が置かれる場合は、“(是) ⋯⋯V的O”文が用いられる傾向が見ら れる。

(2)述語動詞の音節数:元代の作品及び『元曲選』では、複音節動詞は“(是) ⋯⋯VO 的”

文、単音節動詞は“(是) ⋯⋯V的O”文で用いられる傾向が見られる。明代になると、単音節 動詞は“(是) ⋯⋯VO的”文で用いられる比率が高まり、複音節動詞は両形式で用いられ、使 用頻度の差はほとんど見られない。清代では、複音節動詞は“(是) ⋯⋯VO的”文で用いられ る比率が高まるが、単音節動詞は両形式で用いられ、使用頻度の差はほとんど見られない。

五四運動以降は、単音節動詞も複音節動詞も、“(是) ⋯⋯VO的”文で用いられる比率が高い が、単音節動詞は一定数“(是) ⋯⋯V的O”文にも現れる。以上をまとめると、複音節動詞の 場合は、通時代的に“(是) ⋯⋯VO的”文を取ることが多いと言える。

(3)(2)の結果を踏まえ、述語動詞の音節数と目的語の音節数の関係について考察した結果、

元代では、「複音節動詞、単音節目的語」の組み合わせは“(是) ⋯⋯VO的”文、「単音節動 詞、複音節目的語」の組み合わせは“(是) ⋯⋯VO”文を取る傾向が強い。明代では、「単 音節動詞、単音節目的語」の組み合わせは“(是) ⋯⋯VO的”文を取るが、それ以外の「単、

複」、「複、単」、「複、複」の組み合わせは両形式における使用頻度の差がなかった。清代で は、「単音節動詞、単音節目的語」及び「複音節動詞、単音節目的語」の組み合せは“(是)

⋯⋯VO的”文、「単音節動詞、単音節目的語」の組み合わせは“(是) ⋯⋯V的O”文を取る 比率が相対的に高い。五四運動以降になると、「単音節動詞、単音節目的語」及び「複音節 動詞、複音節目的語」の組み合わせは“(是) ⋯⋯VO的”文での使用頻度が高かった。

(4)目的語の種類について:元代から明代までの人称代名詞の目的語は“(是) ⋯⋯VO 的”

文で用いられる傾向があり、一般名詞の目的語は“(是) ⋯⋯V的O”文で用いられる傾向が ある。清代では、人称代名詞の目的語は“(是) ⋯⋯VO的”文で用いられる傾向があるが、

一般名詞の目的語は、“(是) ⋯⋯VO的”文と“(是) ⋯⋯V的O”文での使用頻度はほとんど

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5

差が見られない。五四運動以降は、人称代名詞の目的語も一般名詞の目的語も“(是) ⋯⋯VO 的”文で用いられやすい傾向が見られる。以上をまとめると、目的語が人称代名詞の場合は、

“(是) ⋯⋯VO的”文を取る傾向が強いと言える。

“(是) ⋯⋯V的O”文に人称代名詞が目的語として現れる用例は、清代に初めて確認でき た。しかし、目的語としての人称代名詞は、“(是) ⋯⋯VO的”文に現れるのが一般的であり、

その理由は、“是”の性質にあるではないかと考えられる。元代以降の“是”は、焦点マー カーの機能と判断詞の機能を兼ね備えるに至ったと推定する。“(是) ⋯⋯V的O”文の“是”

が判断詞の“是”だとすれば、「換喩的概念」を通して“是”の前の主語と目的語の“V的

O”は同一関係が成り立つ。そうすると、“VO”は名詞化され、修飾構造の“VN”

だと考えねばならない。一般に“V的N”における“N”は一般名詞であり、Vは人称代名 詞の“N”と共起しにくい。これが“(是) ⋯⋯V的O”文の目的語に人称代名詞が少ない理 由であると考えられる。

第三章「現代北京語における“(是) ⋯⋯VO的”と“(是) ⋯⋯V的O”」では、まず現代北 京語で書かれた口語作品として、老舍と王朔の小説を取り上げ、つぎに北京語談話資料とし て、“北京口语语料查询系统”(BJKY)から用例を収集し、分析をおこなった。分析の方法は、

第二章と同様である。すなわち、叙述の焦点、動詞の音節数、動詞の音節数と目的語の音節 数、目的語の種類に着目する。さらに本章では、“北京口语语料查询系统”(BJKY)の用例に おいて出現率の高かった“毕业”、“退休”、“结婚”、“参加工作”という4つの常用語の叙述 の焦点について、「時間・年齢」、「場所・機構」、「状態」のいずれを取るかを検討した。そ の結果、“毕业”、“退休”では「場所・機構」を強調する例文が多く、“结婚”、“参加工作”

では「時間・年齢」を強調する例文が多い。また、“毕业”、“退休”、“参加工作”は“(是)

⋯⋯VO的”文に現れやすい傾向があるのに対して、“结婚”は “(是) ⋯⋯V的O”文に現れや すい傾向があるとわかった。

老舍・王朔の作品を中心とした北京語の口語作品と北京語の談話資料“北京口语语料查询 系统”(BJKY)による考察結果を比較してみると、主に4つの特徴が見られる。

(1)北京語の口語作品において、“(是) ⋯⋯VO的”文では、動作主が叙述の焦点になりやす

く、“(是) ⋯⋯V的O”文では、場所・方式が叙述の焦点になりやすい。一方、北京語の談話 資料の場合、“(是) ⋯⋯VO的”文では、場所・機構が叙述の焦点になりやすく、“(是) ⋯⋯V

O”文では、状態・方式が叙述の焦点になりやすい。

(2)北京語の口語作品において、単音節動詞は、“(是) ⋯⋯VO”文に用いられやすく、

複音節動詞は、“(是) ⋯⋯VO的”文に用いられやすい。一方、北京語の談話資料においては、

複音節動詞は“(是) ⋯⋯VO的”文に用いられやすく、単音節動詞の場合は、両形式の使用 には差がほとんど見られない。

(3)(2)の結果をふまえ、さらに分析すると、北京語の口語作品において、「複音節動詞、単

音節目的語」の組み合わせは“(是) ⋯⋯VO的”文、「単音節動詞、単音節目的語」の組み合 わせは“(是) ⋯⋯VO”文を取る傾向が強い。北京語の談話資料では、「単音節動詞、単音

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節目的語」と「複音節動詞、複音節目的語」の組み合わせは“(是) ⋯⋯VO的”文を取り、

「単音節動詞、複音節目的語」及び「複音節動詞、単音節目的語」の組合せは“(是) ⋯⋯V

O”文を取る比率が相対的に高い。

(4) 北京語の口語作品において、人称代名詞は“(是) ⋯⋯VO的”文、一般名詞は“(是) ⋯⋯V

O”文に現れる傾向が強い。これに対して、北京語の談話資料では、人称代名詞が目的語

となる用例が少なかった。一般名詞の目的語は“(是) ⋯⋯VO的”文、“(是) ⋯⋯V的O”文 のいずれにも現れる。

第四章「“(是) ⋯⋯VO的”と“(是) ⋯⋯V的O”の構文的機能をめぐって」では、第二章 で挙げた五四運動以降当代までの口語作品と第三章で挙げた老舍・王朔の文学作品を対象 に、“(是) ⋯⋯VO的”文、“(是) ⋯⋯V的O”文における先行形式(前文)と照応形式(後文)の 繋がりを考察した。考察に当たっては、杉村博文(1982b)で提唱された“先lede”理論 と杉村(1995)で指摘された先行形式、照応形式の観点を参考にした。具体的には、“(是)

⋯⋯VO的”文、“(是) ⋯⋯V的O”文が照応形式(後文)である場合、先行文脈及び発話 環境によって提供された情報は、それに反映されるかどうか、“(是) ⋯⋯VO的”文、“(是)

⋯⋯VO”文が先行形式(前文)である場合、それによって提供された情報は、後続文

脈で反映されるかどうかという文章を組み立ての関係を検証した。また、分析に当たっ て、同一形式、語彙的な結束関係、問答形式3つのパターンに分けて、両形式がそれぞれ に含む“V O”は、先行形式(前文)と照応形式(後文)で提示された事件や事態に関する情 報と同一形式、語彙的な結束形式、問答形式のどれかの一つの形式と一致した場合、先行 形式の事件や事態から情報を与えられている例文だと判定した。

まず、“(是) ⋯⋯VO的”文と“(是) ⋯⋯V的O”文が照応形式(後文)である場合、両形 式とも先行形式の事件や事態から情報を与えられていることがわかった。つまり、“(是)

⋯⋯VO的”文も“(是) ⋯⋯V的O”文も先行形式の事件や事態から已然義を受けているとい うことになる。ここまでは、杉村博文(1982b)で提唱された“先 lede”理論を検証でき た。

次に、“(是) ⋯⋯VO的”文と“(是) ⋯⋯V的O”文が先行形式(前文)である場合、それ ぞれに含む“V O”は、照応形式にどういう時にどちらが出やすい、情報の差はないかにつ いて調べた。その結果、“(是) ⋯⋯VO的”文と“(是) ⋯⋯V的O”文は同じように照応形式 に事件や事態の情報を与えているとわかった。

以上の考察に基ついて、“(是) ⋯⋯VO的”文、“(是) ⋯⋯V的O”文における先行形式と照 応形式の繋がりを調べたが、顕著な差異は見られなかった。

第五章「結章」では、第二章から第四章における考察をまとめ、各章の結論について言及 した。

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学位論文審査報告書

平成29年 7 月 11 日

論文提出者

金沢大学大学院人間社会環境研究科 専 攻 人間社会環境学 氏 名 金 萍

学位論文題目(外国語の場合は,和訳を付記すること。

中国語の“(是)……VO的”文と“(是)……VO”文の形式及び意味機能に関する研究

審査結果

定(いずれかに○印) 合 格 ・ 不合格

授与学位(いずれかに○印) 博士( 社会環境学・文学・法学・経済学・学術 )

学位論文審査委員

委員長 岩田 礼 員 新田 哲夫 員 竹内 義晴 員 入江 浩司 員 上田 望

(学位論文審査委員全員の審査により判定した。)

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論文審査の結果の要旨

現代中国語には、強調構文と呼ばれる“是……的”文がある。“是”は古代中国語において指示代 名詞として用いられたことが知られているが、中古中国語を経て指示機能が弱まり、copula 的機能 を有するに至った。中国語文法では判断詞と呼ばれている。例えば、“我是金沢大学的学生”(私は 金沢大学の学生です)、“我是中文”(私は中国語だ)。ある文が動詞を伴う場合、例えば“我是学中 文”と言えば、話者の「(英語その他ではなく)中国語を勉強する」という判断が強調され、現代中国 語では文末に“的”を置くことが多い。つまり“我是学中文的”と言う。この場合、“的”は“是”に呼応し て付加されるものとも考えられるが、実際には“是”が省略されることもある。この“是……的”構文に おいて強調される成分は、時間、場所、方法、方式及び動作主などである。例えば、相手が“你什么 时候学中文了?”(いつ中国語を勉強したのか)と尋ねた場合、“去年”、“去年学的”、“我是去年学 的”のようにさまざまな答えが可能であるが、丁寧に答えるとすれば、“我是去年学中文的”(私は去 年中国語を勉強した)のような言い方ができる。この場合、叙述の焦点は「去年」にある。さて、この ように動詞が目的語を伴う場合、“的”は文末から目的語の前に移動させることが可能である。つま り“我是去年学的中文”のように言うことができる。本研究は、“的”の位置を異にする二つの文形式 を“(是)……VO的”文、“(是)……V的O”文と呼び、両形式の差異を明らかにすることを目的とした。

筆者の関心は当初、二つの文形式の意味的、語用的差異の解明に向いていた。すでに先行研 究で指摘されているように、“是……的”構文は先行形式を受けた照応形式として使われるこ とが多い。上の例なら“学中文”は前後いずれの文にも含まれ、照応関係にある。筆者はこの点 について、“的”の位置を異にする二つの文形式の間でなんらかの意味的差異がないかどうか 検討した。さらに“(是)……VO的”文と“(是)……V的O”文が先行形式になる場合に、後続 形式に情報面で差異を与えるかどうか、与えるとすればどのような差異を与えるのかを検討し た。この問題に関しては、日本中国語学会全国大会(2015 年)での報告で検討され、さらに本 学位論文の第四章でも検討結果が示された。しかし、照応関係に関する両文形式の明確な違い を見出すことはできなかった。

そこで研究の再構築を図り、例文の調査対象範囲を現代から中世・近世にまで広げること、

現代については、作家によって書かれた口語作品だけでなく、会話を文字化した談話資料も対 象とすること、口語作品については北京語で書かれた作品とそれ以外を区別すること等の調査 原則を定めた上で、次の二点に着目して調査・検討を進めることとした。

(1)“(是)……VO的”文”と“(是)……V的O”文における叙述の焦点(時間、場所、方法、

方式及び動作主など)について差異はないかどうか?

(2) 両文形式の動詞(V)と目的語(O)について形式面での差異はないかどうか?

本論文は、五つの章から構成されている。

第一章では、研究の動機、問題点、目的などが述べられている。

第二章では、唐・五代から現代に至る各時代に現れた口語文献資料を扱っている。唐・五代 においては、強調を表す“是……的”文の用例が存在しないが、“是”が判断詞としての機能

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を強めた事実が指摘される。強調を表す“是……的”文が現れるのは南宋期であり、用例は2 例しか見つからなかったものの、いずれも“的”を目的語に前置する“是……V的O”文であ ることが注目される。現代語文法の研究者は、「“的”が文末から目的語の前に移動され」、そ の場合、「目的語は焦点対象から排除される」という説明をしているが、歴史的に見れば、“是

……VO”文の方が早く、“是……VO的”文の初出例は遅れて元代に出現する。これは重要 な事実の指摘である。本章では、さらに叙述の焦点、動詞と目的語の音節数及び両者の関係、

目的語の種類について、時代別に調査結果が提示され、検討が進められた。

第三章では、現代北京語の代表作家として知られる二人の作家の口語作品と北京語談話資料 を扱っている。第二章と同じく、叙述の焦点、動詞と目的語の音節数及び両者の関係、目的語 の種類について検討が加えられた。

第二章、第三章を通じて、叙述の焦点が動作主に置かれる場合は“是……VO 的”文、焦点 が場所に置かれる場合は“是……V的O”文というように、一定の使い分けの傾向があること が明らかとなった。動詞、目的語の音節数については、時代によって変動があり、単純なまと めは難しいが、傾向として“是……V的O”文に現れる動詞は単音節が多いこと、逆に複音節 動詞は“是……VO 的”文に現れることなどが指摘された。また、目的語については、代名詞 は“是……V的O”文のOとなりにくいことが知られていたが、本研究はそれを確認するとと もに、清代以降は代名詞が“是……V的O”文のOとなる例も一定数みられることを指摘して いる。さらに、“卒業”、“退休”、“結婚”など“離合詞”と呼ばれる表現を取り上げ、特 定の常用語が“是……V的O”文を取りやすいことを指摘している。

第四章は上述の通りであり、第五章は各章のまとめと全体の結論になっている。

このように、是……VO的”文”と“是……V的O”は、上記の(1)、(2)について一定の使い 分けの傾向があることが明らかとなった。これは本論文の功績であると言える。

審査委員からは、データのまとめ方に改善の余地があること、事実に関する解釈が不足して いること等が指摘された。例えば、代名詞が“是……V的O”文のOとなりにくいこと、また 清代以降は例外的用例もみられるようになることについて、筆者は先行研究で示された見解を 引用しながら一定の解釈を述べているが、もっと体系的な議論が求められる。さらに清朝以前 の文献の扱いについては、資料の成立年代に関する考慮が欠ける点なども指摘された。

しかしながら、本論文の準備、執筆過程を通じて筆者が参照した口語資料、談話資料は膨大 な量に上り、それらの読解によって“(是)……VO的”文と“(是)……V的O”文の用例約600 を整理したことは、それ自体関連研究に対する貢献である(巻末に[付録]として全用例が挙げ られている)。また、分析によって明らかとなった二つの文形式の差異については、文法化、

韻律(リズム)論等、関連領域の研究のためのreferenceとなりうるものである。これらの点 を評価して、審査員全員一致により、この論文が本研究科の博士学位論文としてふさわしいも のと判断した。

参照

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