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近畿圏工業の地域構造論 −その分析のための一方 法−

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(1)

近畿圏工業の地域構造論 −その分析のための一方 法−

著者 菊地 一郎

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

19

1

ページ 89‑109

発行年 1970‑11‑30

その他のタイトル THE REGIONAL STRUCTURE OF INDUSTRIES WITHIN THE KINKI SPHERE −AN APPROACH TO THE

ANALYTICAL METHOD−

URL http://hdl.handle.net/10105/3060

(2)

89

近畿圏工業の地域構造論

−その分析のための一方法−

菊  地  一  郎

(地 理 学 教 室)

は  し  が  き

これまでに筆者は、「阪神工業地帯における生産力地域構造分析の一方法」1)、「奈良県工業の 地域構造」2)、「奈良県メリヤス工業の地理学的研究」3)など近畿圏工業の地域構造解明を目標と

しながら、分析・研究を進めてきた。本年4月、日本地理学会春季大会における研究発表(口 頭)でおこなった「阪奈和地域におけるメリヤス工業分布」4)も近畿圏工業の地域構造の一環と してとらえたもので、メリヤス工業における核心地と周辺地域・縁辺地域の間の関連性、いわゆ る困構造の問題を分析したものである。本論文は直接近畿圏工業の地域構造そのものに分析を加 えたもので、今後の研究を進める上で、足がかりとなりうるものとしたい。

1.近畿圏工業の動向

まず統計処理上また大体の地理学的見地から便宣的に近畿圏を大阪・京都の2府と兵庫・滋賀

・奈良・和歌山の4県とする。三重県を除外したのは、同県の主要工業地域がむしろ中京圏に含 まれるとみなしたからである。第1表にみるごとく、昭和42年の近畿圏の工業は、事業所数12万

第1表 昭和42年近親圏の工業統計表

出所:各府県の昭和42年工業統計調査結果報告書

1,277、従業者数219万1,901人、製品出荷額等9兆2,336億8,841万円となっている。現在まだ昭 和42年の全国工業統計表が入手できないので、41年について対全国比をみると、全国計の製品出

(3)

荷額等ほ、34兆2,018億7,800万円で、府県別に大阪は東京に次ぐ第2位(12.2%)、兵庫第5位

(6.6%)、京都第12位(2.1%)、和歌山第20位(1.3%)、滋賀第26位(0.8%)、奈良第33位(0.

5%)をそれぞれ占め、近畿圏2府4県で23.5%に達する。ふたたび第1表にかえって、府県別 に近畿圏に占めるウエイトをみると、大阪の地位は極めて高く、それに次ぐ兵庫と合せると実に 事業所数で70%、従業者数で75%、出荷額等では80%に達しており、大阪・兵庫の阪神工業地帯

が近親圏の核心であることは明らかである。

第2表 近畿圏の規模別・年次別工業伸長率

出所:通商産業大臣官房調査統計部、昭和35、38、41年工業統計、産業編 注:1)各府県別に昭和35年の事業所数(規模別)・付加価値額の総数をそれ

ぞれ100.0とする。

2)総付加価値額のなかには規模9人以下の事業所の場合の粗付加価値 額を含む。

ここで近畿圏工業の最近の動向を統計面から分析してみよう。第2表は付加価値額・事業所数 から、昭和35年(100とする)を基準に、38年・41年の伸長率を検討したものである。総付加価 値額では各府県とも一様に伸長を示しているものの、その比率の伸びでは大阪・兵庫は奈良・和 歌山にはるかに及ばない。京都・滋賀はやや停滞気味である。さらに規模別にみると、大阪・

兵庫は従業者30 299人の中規模事業所で伸長率が高く、奈良・和歌山では300人以上の大規模 事業所の方が伸長率が高い傾向にある。事業所数では、滋賀・奈良・兵庫・京都・大阪の順で伸 びており、和歌山だけが漸減している。これを規模別にみれば、大阪・兵庫・京都の場合には中 規模・大規模でともに停滞ないし減少を示しているのに対して、奈良・滋賀両県の場合は申・大 規模で共に増加しており、大規模でその増加率が大きい。和歌山は中規模で減少、大規模で停滞 をみせている。以上を要するに、大阪・兵庫・京都の近畿圏核心部で工業の停滞があり、周辺部 の奈良・和歌山・滋賀で増加がみられる。とくに大規模事業所の場合にそれがいちじるしい。核

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近畿圏工業の地域構造論(菊地) 91

心部から周辺部への工業機能の移動がみられる一方、それは大規模事業所の移転・新設という形 でおこなわれていることを物語っている。

つぎに業種別に年次別の比重変化を分析してみた。昭和35・38・41年の年次別に全業種合計を 100とした場合、付加価値額で増加を示したのは、金属製品、鉄鋼、出版、食料品、その他、家 具などの諸工業で、減少をみたのは繊維、電気、非鉄金属、ゴム、機械などの諸工業である。こ

第3表 近畿圏の年次別業種間比重変化

出所:通商産業大臣官房調査統計部、昭和35、38、41年工業統計、産業編

注:1)各年次とも、事業所数(規模別)・付加価値額の全業種総数を100.0とする。

2)増加分・減少分がそれぞれ1.0以上の業種をとりあげた。

れらのうち、1.0以上の増加および減少を示したものをあげると、第3表の金属製品・鉄鋼・出 版(増加)および繊維(減少)の4業種となる。増加した3業種はいずれも中規模よりも大規模 事業所による増加であって、前述の分析結果と符合する。繊維の場合も事業所数は中規模で減

第4表 近畿圏の業種別年次別工業増加率

、\ !金属製品

事業所数

30〜 300人 299人 以上

付 加 価値額

鉄    鋼

事業所数i付加

寓語酎価欄

U 4 7 U 6 9

U

 

l

1 1 1 1

出    版

事業所数

・㌫・、言川一㌦

U 8 0 U 8 5 0 1 2 i   l 1 0 3 6 0 2 3 0 1 1 l 1 0 4 1 0 7 3

U 2 2

1

2

付 加 価値額

繊    維

事業所数 3㌫人l30‰

100.0100.0

付 加 価値額

100・0[100・0(

∴∴・

出所:通商産業大臣官房調査統計部、昭和35、38、41年工業統計、産業編 注:掲げた業種は第3蓑と同じである。

少、大塊杖でやや増加傾向を示している。第4表はさらにそれら4業種の昭和35年を100とした 年次別の増加率を求めたものである。付加価値額における金属製品の増加率は著しく、事業所数 はここでも中規枝よりも大規模なものに増加率が大きい。鉄鋼の場合をみても、中規模ではむし ろ減少している。繊維の場合も、付加価値額で増加し、事業所数でも大規模で増加しているが、

中規模事業所については減少を示している。

第5表は第4表の4業種のうち出版を除く3業種について、近畿圏における年次別付加値額・

事業所数の全業種合計100に対する比重変化をあらわすものである。まず金属製品の場合に、付 加価値額では兵庫・奈良・滋賀が増加しており、大阪・京都・和歌山が減少している。とくに奈

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第5表 近畿圏の府県別年次別業種間比重変化 金   属   製 事   業   所   数 30〜299人 [ 300人以上

35138!41 35[38141

滋  賀 京  都 大  阪 兵  庫 奈  良

和歌山

l﹁淵−4−諾−耳﹂﹁

3 6 4 9

.﹁司説−期−﹁l﹁

2 6 3

1﹁耳﹂月末﹁﹁lr

1 5 4 9 4 9 2 3 1 3 4 2 9 3 4

1

0 6 9 4 0 6 5 4 2 00 3 4

1

出所:通商産業大臣官房調査統計部、昭和35、38、41年工業統計、産業編

注:各府県について事業所数(規模別)・付加価値額の全業種総数を100.0とする。

良の増加率は大きい。事業所数では、大阪・兵庫が中・大規模の両方で増加、京都が中規模でや や減少、大規模で増加をあらわしている。その他中規模で滋賀・奈良が伸びて、和歌山が漸減し ている。つぎにこれを鉄鋼についてみると、和歌山の付加価値額のいちじるしい躍進が注目さ れ、兵庫が増勢を示す以外に大阪・奈良・滋賀・京都が全部退勢をみせている。事業所数では、

和歌山が中規模で停滞、大規模で大阪・兵庫が増加しているものの、その他は規模にかかわらず 全府県とも退潮している。和歌山の場合は、−事業所あたりの生産の伸びが大きかったことを物 語っている。最後に繊維についてみると、付加価値額が全府県で減少し、とくに奈良・和歌山で 大きい。事業所数は奈良が中規模で、京都が大規模で増加しているほか、全面で退潮傾向をもっ ている。第6表は前記3業種について、近畿圏内で年次別に各府県の比重変化をみたものであ る。まず金属製品の付加価値についてみると、大阪・京都・和歌山の減少と兵庫・奈良・滋賀の 増加が対照的である。事業所数でも大阪は規模のいかんにかかわらず退潮を示し、中規模で京都 の減少、兵庫の増加、大規模で京都の増加、兵庫の減少がそれぞれ対応している。奈良の場合に

、第5・第6表で昭和35、38年には大規模事業所がなく、41年に比率が出てきているが、新設が あったことがうかがえる。鉄鋼では、和歌山の付加価値額の伸長がいちじるしく、これは第5表 の場合と符合している。その他兵庫に増加があるはか、4府県とも減少している。事業所数で は、中規模で滋賀・兵庫の増加、奈良・和歌山の停滞、京都・大阪の減少がみられるが、とくに 大阪の減少が大きい。しかし大規模では、大阪だけが増加をみせ、他の府只はともに減少してい

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近畿圏工業の地域構造論(菊地) 93

る。最後の繊維については、付加価値額で大阪・和歌山の退潮、奈艮の停滞に対して、滋賀・京 都・兵庫で伸びているのが注目される。事業所数では、中規模で大阪・兵庫の減少、滋賀・奈良

・和歌山・京都の増加があり、.大規模で京都・兵庫での増加、その他の府県で減少がみられる。

第6表 近畿圏の年次別業種別府県間比重変化

金   属   製 事   業   所   数 30〜299人 300人以上

滋  賀 京  都 大  阪 兵  庫 奈  良

和歌山

1 計

昭35I 38I 41!35 j 38I 41

0・5ll・Oi 5.2;4.9j

l

7抽

2.1!2.0..

6 7 0 1 0 6

1 4 1 0 1 1

7 2

巨00車00車00里00車

30〜299人 35〕38.41I昭35〕38 j 41

0.2 4.1 77.1 17.3

24霊

9 7 5 7 3 9

0 3 4 9 0 0

7 1 4 2 80 4 9

7

9 0 3

0 3 0

7

19.7!13.5 l

:川1呂:雲】

0.9,1.5,1.4!

1

00

1

0

00

10

0

0

1

0

0

0

1ュ0

0

01

0

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1

0

00

っJO

OO

料‥1 ̄▼‥ ̄ ̄ ̄‥

出所:通商産業大臣官房調査統計部、昭和35、38、41年工業統計、産業編

以上第3表から第6表までの分析結果を総合すると、昭和35年以降工業伸長率の高かった業種 に金属製品・鉄鋼・出版があり、低かったものに繊維がある。とくに近畿圏において、かつて基 幹的工業であった繊維工業の相対的比重低下がいちじるしいことは象徴的である。なお府県別堕 検討してみると、大阪・京都・滋賀・奈良・和歌山など紡績・織物・メリヤスを中心としていず れも盛んな繊維工業県であったが、とりわけ奈良・和歌山など新興の繊維工業県で退潮現象がは げしい。しかも大規模より中規模事業所の場合により多く減少しており、むしろ京都の場合のよ うに大規模事業所数の増加傾向(第5表)さえみられる。これらのことは、近畿圏の工業構造が 重化学工業を主軸とする構造に変化している、すなわち工業高度化が進行していることを物語っ ている。その過程で繊維工業の退潮、規模の拡大がおこなわれているのだとみてよい。なお大阪

・京都では金属製品・鉄鋼などでも停滞ないし退潮傾向を示しているが、その点兵庫では両業種 に増勢をみせている。奈良の場合、繊維工業衰退の落差が大きく、反面金属製品で増加率がいち じるしいことは注目に価する。近年阪神工業地帯からのオーバーフローをまともに受けているの だということが知らされる。また磁宜も同様であるが、35年以降奈良では大規模事業所の進出が

(7)

みられるのに、滋賀では中規模事業所の増加が大きいのも特徴的である。和歌山の場合に、付加 価値額で金属製品は退勢を示し、それに反して鉄鋼の伸びが非常に大きい。それも鉄鋼では事業 所数が中規模で停滞、大規模で減少をみており、一事業所当たりの生産性の増大がおこなわれて いることがわかる。いずれの場合でも、核心部から周辺部、縁辺部への工業機能の移動、軽工業 から重化学工業への工業構成の変化、小規模から大規模への生産規模の拡大など一連の工業の高 度化が同時的に進展している過程が表現されている。

2.近畿圏工業の展開

従来の工業地理学研究では、多くの場合に立地論にせよ、分布論さらには地域構造論にせよ、

工業を中分類(分類番号で2桁数字)で統計処理をし、分析を加えてきた。これに対して板倉・

井出・竹内の3氏は、とくに京浜工業地帯の特質を論じる際に、これまでの重化学工業型という 中分類に基礎をおいた通説を批判し、組立型と雑貨型に再分類して都市型工業である雑貨型工業 の重要性を強調したのは、方法論上でも特記されるべき新機軸であった5)6)。その場合に小分類か

らさらに細分類にまでさかのぼり、個々の工場分布を刻明に追跡して分析している。その努力は まさに敬服に価する。しかしやや視点を変えて、首都圏とか中部圏など日本全体と京浜または阪 神工業地帯の中間的規模、すなわちメソ的立場からみた場合、前記諸氏の分析ではその労力があ まりに大変なものとなるのではないか。しかも変容の激しい現状において動態的に把握すること は時間的にもかなり困難なものとなろう。そこで官庁統計を主軸とする分析方法として、最小地 域単位を市町村とし、工業分類(3桁)とすることをここに試みた。実際に工業地域を調査して みると、工業はよく同種類のものが集積していわゆる産地を形成しており、それらは中分類より 小分類の基準(この場合、官庁統計の利用上製品主義を前提にしている)から分析した方がより 実情に適合することがわかる。たとえば繊維工業の場合に、紡績・織物・メリヤスなど、とくに 染色整理の産地または工業地区を同じ織維工業の範疇でとらえたのでは、その特性が表現されえ

ない。

第7表および第8表は、近畿圏における金属製品および繊維工業の小分類による製品出荷額等 の表である。これは各府県が出す工業統計調査結果報告書からえられるが、兵庫県では中分類で しか発表しておらず、また奈良県は昭、和42年については細分類で発表している(ただし繊維工業 の42年分は、県調査課の厚意により台帳から筆者が小分類別に集計させてもらった。)など、近 畿圏において統一的に入手することが困難な実状である。まず第7表についてみると、建設用・

建築用金属製品は奈艮を除く各府県で卓越し、奈良では暖房装置配管工業用付属品が圧倒的地位 を占めている。兵庫の統計を欠いていることは誠に残念であるが、大阪では建設用建築用金属製 品(30%)、金属打抜・被覆・彫刻・熱処理(17%)、洋食器・刃物・手道具・一般金物(13%)の 順で多く、独占的地位をもつものは見当らない。また京都も同じ状態で、建設用・建築用金属製 品(26%)、金属打抜・被覆・彫刻・熱処理(23%)、ボルト・ナット・リベット・小ねじ・木ねじ

(21%)の順である。これに対して奈良では暖房装置・配管工業用付属品が81%を占める。和歌山

・滋賀では建設用・建築用金属製品が52%、46%を占めてかなり卓越の度合が高い。一般に核心 地域では、小分類でみても多業種が並存し、周辺部では単一ないし複数業種による卓越が目立っ

てくる。第8表から繊維工業についてみると、金属製品の場合とほぼ同じ様な傾向をもっている

(8)

近畿圏工業の地域構造論(菊地) 95

ことがわかる。滋賀では織物と紡績が卓越するが、奈良・和歌山ではメリヤスがそれぞれ69%と 46%を占め、独占的地位をもっている。大阪は総合工業都市に似つかわしく、紡績を中心に織物

第7表 昭和42年近畿圏の金属製品工業小分類出荷額等

】兵   庫1大   阪l京  都 33金属製品工業

331ブリキかん、その他

l   ガ円

のめっき板等製品]二業l12・酬39 332洋食器、刃物、手道具、一般金物工業

333暖房装置配管工業用付属品工業 334建設用、建築用金属製品工業1)

335金属打抜、被覆、彫刻、熱処理工業2)

336金属線製品工業3)

337ボルト、ナット、リベット、小ねじ等工業 339その他の金属製品工業

24,017,936 1,374,462 3,160,989 2.706.764

、.1

2,793.150 1,461,381

出所:各府県の昭和42年工業統計調査報告書

注:1)334建設用、建築用金属製品工業に製かん板金業が含まれる。

2)335金属打抜、被覆、彫刻熟処理業にはほうろう鉄器業は除かれる。

3)336金属線製品工業にはねじ類二仁美は除かれる。

4)奈良県の統計は昭和41年のものである。

第8表 昭和42年近畿圏の繊維工業小分類別出荷額等

ノテ円 2,183,427 45,198 131,189 202,844 562,949 494,295 170.751

‡:3霊し23:冨)

(9)

j 滋    賀

7,87。ぷ上。。.竃

102,530 2,733,224 304,378 3.259.203

1.3 34.7

調 0 9 9 6 5 6 5 6 2 6 2 1

4

良]和 歌 山

%.O

OOl

3.9I 129,92剰  3.1

6,653,㌶1m竃

663,433 191,337

41・4j 511・851;12・1il・213・415 267,0061 3.4

369,312l 4.7

0 7 9

っ⊥ 2 6 3 0 09 7 48 5 08 7 12 29 32

霊慧

6昔霊霊

0 4 4

0 0 3

86,229 7,194 150,538

0 9 2 9 3 3 1 3

0 2 8 5 9 1 0 2

1     1 4 1

出所:各府県の昭和42年工業統計調査報告書

・メリヤス・染色整理がその場に発達しており、並存している。京都では西陣と友禅に代表され る様に織物と染色整理が卓越し、繊維工業に関する限り大阪の様な総合工業的色彩はみられな い。

第1図〜第4図は近畿圏工業の地域的展開をあらわすもので、第1図一第3図は前掲の第3表 において年次別業種間の比重変化がもっとも大きかった金属製品、鉄鋼および繊維工業につい て、また第4図は各業種の組合せから、総合工業地域、複合工業地域および単一工業地域の分布 を図示したものである。地図の作製に先だって、近畿圏の各府県で発表している工業統計訝査結 果報告書から、製品出荷額等(製品出荷額・加工賃収入額・修理料収入額)を市町村別に求め、

統計の記載された市町村について、出荷額等の高いものからその数の5%以内とそれ以外で平均 値以上の市町村を抽出した。それらを金属製品、鉄鋼、繊維について図化したものが第1図〜第 3図である。ここで出荷額等は異種の業種間の比較には不適当な場合もあるが、同一業種間にお ける工業活動の比重を総合的に表示し、ある工業の地域的展開を知るのには適当な指標であると 恩われる。

まず第1図の金属製品工業についてみると、その地域的展開の範囲はほぼ阪神工業地帯にかぎ られており、北・南・東区などの都心部を除く大阪市内の周辺部を中心に比較的まとまりよく展 開している。それは金属製品工業が元来都市内在型の工業であることと、鉄鋼業の中心地、堺・

尼崎・東大阪に集中していることからもわかる様に、金属加工型の工業で鉄鋼業・機械工業など と関連をもっているためである。第2図の鉄鋼業についてみると、その中心地は臨海部のいくつ かの特定地域に分布している。すなわち大阪市の西淀川・大正両区、堺市、尼崎市、神戸市葺合

区、姫路市、和歌山市などである。例外的に内陸の東大阪市にも分布している。それらは姫路の 富士製鉄(昭和43年現在)、堺の八幡製鉄などの巨大製鉄所や川崎製鉄・中山製鋼・住友金属工 業・久保田鉄工などの大製鉄所が立地し、それぞれ核を形成している。金属製品や繊維工業の地 域的展開と比較していちじるしい特徴は、鉄鋼製品の出荷額等が非常に大きなものであるにもか かわらず、地域的展開がきわめて限られているということである。たとえば鉄鋼の場合、最大の 姫路が1,912億6,430万円、第2位の和歌山が1,873億5,847万円であるのに対して、金属製品では 最大の東大阪が559億9,163万円、第2位の尼崎が548億5,144万円、また繊維工業では最大の泉大 津が460億9,686万円、第2位の京都市上京区が459億7,982万円と大体1桁少なくなっている。第 3図の繊維工業にって考察してみよう。繊維工業の地域的展開の場合は、第1図の金属製品工

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近畿圏工業の地域構造論(菊地) 101

業、第2図の鉄鋼業と比較してはるかに広範囲におよぶ地域的展開をみせている。堺から岸和 田、泉南、和歌山におよぶ地域と京都市上京区の西陣を中心に展開する織物業地域を二大中心と

して、その他大阪市内淀川流域の東淀川・都島両区を中心とする地域、加古川を中心とする地 域、丹後地方の絹織物業地域などが中心地城を形成している。かつて阪神工業の基幹的業種は鉄 鋼業と繊維工業であった。このうち繊維工業は、その中心的部分の紡績業を中心に織物業・メリ ヤス業のいずれもが、広汎な近畿圏農村の余剰労働力と下請工業としての農村工業に依存しつつ 発屈してきた。経済の高度成長下に、都市内在型・金属加工型の金属製品工業や素材生産型の鉄 鋼業が非常な伸展をみせる反面で、工業構造の高度化と農村の構造改善の進行などさまざまな要 因によって繊維工業が衰退の道をたどっているということは、近畿圏工業の地域構造を動態的に 把握する上できわめて重要な現象といわなければならない。

第4図は、市町村別製品出荷額の高い方から、統計の記載のあった市町数の5%以内に入る市 町村を業種別に集め、5業種以上をもつ市町村を総合工業地区、2〜4業種をもつ市町村を複合 工業地区、1業種のみをもつ市町村を単一工業地区として、それらの分布を図化したものであ る。この図によれば、大阪市の周辺部に総合工業地区が集まり、それらと近接した形で複合およ び単一工業地区が分布する。また大阪湾を取り囲む臨海地域には、単一工業地区が展開してい

る。他方近畿圏の周辺部および縁辺部には遠心的に単一工業地区が散在する。なお姫路市は総合 工業地区を形成しており、それを取りまく様に近接して単一工業地区が展開している。統計が記 載された市町村の5%以内の市町村の数は総計83で、このうち多くは業種が重復するので、単一 工業地区(市町村)は36を数えるが、業種別に5市町村以上に分布する業種は、木材・木製品

(6市町村)、繊維(5)、食料品(5)、窯業(5)となっている。そのいずれの業種も地方型 工業に属し、地方に偏在する原材料あるいは労働力指向によって成立した工業である。こうして 近畿圏工業の地域構造は、中心部の臨海地域には単一業種の基幹資源型および雑貨型工業地区が 展開し、大阪市の周辺部に総合業種の工業地区があっまっていて、さらにそれらを取り囲んで単 一あるいは複合業種の地方型工業地区が分布している。そして近畿圏の周辺部および縁辺部に単 一業種の地方型資源工業地区が配列するといった立地構造から成り立っている。各工業地区間 は、相互に有機的関係によって結ばれていて、それがまた立地的基盤となっている。とくに既述 の通り近畿圏といった場合に、核心部と周辺部および縁辺部が、生産構造、流通構造、資本構造 などさまざまな経済構造の中で有機的に結ばれ、近畿圏工業の地域構造が成立していると考えら れる。以下核心部(大阪)と周辺部および縁辺部との関連性について分析を加えてみよう。

3.近故圏工業の地域構造

現在は業種間に占める相対的ウェイトがいちじるしく減退する傾向を示しているが、かつては 阪神工業地帯、さらには日本工業を代表する花形産業であった繊維工業の場合を取りあげてみよ う。第8表の分析結果から、近畿圏の繊維工業は、主として紡績業・織物業・メリヤス業・染色 整理業から構成されていることを知った。そこでこれらのうち、紡績業・織物業・メリヤス業の

3業種についてそれぞれの分布を図化したのが第5図である。繊維工業の府県別小分類は兵庫県 を除いて入手できたものの、市町村別には滋賀・奈良両県の分しかえられない。そこで1970年版 全国工場通覧を利用した。20人以上規模工場に限られるが、市町村別に工場数を集計し工業活動

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(16)

103

の度合を計る指概とした。なお工場規模については、便宣的にウェイトを設け、A(1,000人以 上)を100、B〜G(30〜500人)を15、H(10−30人)を1とした。さらに図化する上の技術上 の問題と、3業種の地域的展開の一般的傾向を知るという目的にそって簡便法を採用した。すな わち、3業種別市町村別にウェイトの指数を集計し、2段階に分けて図化した。これは市町村を 同一面積と仮定しているので、粗雑にすぎるという批判もあると思われるが、大体工業の一般的 特性として市町村内でも地域的に凝集する傾向をもつので、地域的展開の傾向性を知るのには支

障ないものと考えた。3業種のうち、まず紡績についてみると、臨海地域、琵琶湖沿岸部および 淀川流域に発達し、とくに顔から泉大津、岸和圧し泉佐野および泉南に集中している。内陸部で は奈良・大和高田・京都などに散在する。つぎに織物については、京都の西陣(上京区)、丹後 地方、長浜などの絹織物中心地域と加古川・西脇や堺・泉大津・岸和田・泉佐野・泉南など綿・

合繊織物およびタオル・毛皮の生産地がそれぞれ産地を形成している。最後にメリヤスについて みると、大阪市内の淀川流域、大淀・福島・東淀川区を中心とする地域に集中して産地を形成し ている。さらに奈良県に入って、大和高田・橿原・香芝・広陵・大和郡山の地区でそれぞれ産地 を形成する一方、和歌山県では和歌山市に大部分が集積し、それも市内の紀三井寺・三葛の名草 地区に非常に密度の高い産地を形成している。こうしてメリヤスに関しては、大阪・奈良・和歌 山の3府県が近畿圏で卓越した地位をもつ。

本論文では、繊維工業を近畿圏工業の一環としてとらえ、以下縮織物業とメリヤス業を織維工 業を構成する主要部分として構造論的視点から分析しようとしている。しかし他方では、それら 絹織物業およびメリヤス業を産地産業または地場産業として把担する立場もある。ここにいう地 場産業とは伝統産業として、地元資本が低廉豊富な地元労働力に依存しつつ産地を形成し、特産 品を生産している産業であるとされている。大体明治以前からあったものには、高級織物・陶磁 器・漆器・刃物などがあり、明治以後に興ったものとしては、マッチ・メリヤス・靴下・手袋・

洋傘・自転車・洋家具などの外来産業がある。これらは原初的な生産形態を維持しつつも、手工 業、家内工業の形態から、わが国資本主義経済の発展のなかで変容し、近代的かつ独立的中小企 巣へと変質していった。地場産業の特性の一つは、現在なお問屋制の生産体制を残していること であり、問屋資本(製造問屋を含めて)が主導的地位をもち、生産工程の社会的分業による細分 化によ?て産地の生産者は商業資本によって市場からしゃ断されていることが多い。また地場産 巣の生産品には、食料加工品やメリヤス・靴下・肌着など一般の生活必需品、ヤスリ・工具など の生産財もあるが、その多くは消費財で趣味や趣向の対象となる特産品である。それには西陣織 など高級絹織物・スフ織物・レース・手袋・敷物・人造真珠などが含まれる。これら地場産業 は、昭和30年以降のわが国経済の高度成長の下で、相対的に衰退傾向を示してきており、近畿圏 の場合にそれが繊維工業の比重低下の一つの要因となっていることは既述した通りである。それ は消費革命、流通革命といわれる需要構造や生産・流通構造の変化による製品の高級化・量産化 または系列化の動きの中で、新しい原材料の進出、生産技術の進歩、設備の近代化それに加えて 労働力不足とそれに伴う賃金の高騰などによって零細・小企業の没落が進行し、生産者の階層分 化が促進されているからである。

近畿圏において、いわゆる地場産業は単に産地を形成し、地方産業としてとどまるにすぎない という認識は正当とは思われない。それらはやはり近畿圏工業の一環として、地域構造の中に組 み込まれており、重要な構成部分をなしていることを認めなければならない。その意味で、地場 産業でありながら、近代工業の部分として近畿圏全体の視野から分析がなされねばならない。

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(1)絹織物業 近畿圏の縄織物業は第4図で検出した様に、京都の西陣織物業と丹後地方の ちりめん織物業7)に集約される。西陣織物の起源は古く、平安遷都(794年)にともなって磯部司 が設置さ、れ、それが崩芽をなした。その後応仁の乱(1467〜77)の時に難を避けて他国正のがれ ていた絨工達が、戦乱が静まるにつれて復帰し、西陣(上京区。北は鞍馬口通り、南は一条、東 は新町通り、西は千本通りに及ぶ地域)のあたりに住みついて織物業を始めた。やがて秀吉のこ ろから機業地となり、江戸時代には幕府の保護を受け高級絹織物業として発展した。今次大戦中 は戦時統制経済下に絹織物業は事実上壊滅したが、戦後は平和産業として復興し、魂在京都の主 要産業であるばかりでなく、全国的な織物産地として知られている。西陣織物の製織品種は非常

に多く、着尺、帯地の和服物からマフラー1ショールの衣服雑貨に及んでいる。なかでも主力を なすのは、帯地と着尺の2品種で全製織品種の約90%近くを占めている。しかし着尺(和服生 地)といっても、戦前はほとんど正絹着尺であったが、戦後になって合繊着尺やウール着尺のよ

うな大衆品が伸び、最近ではウール着尺と正絹着尺ではウールの割合がやや上廻っているのが現 状である。生産形態をみると、徹底した社会的分業体制をとっており、企画・準備工程から製織 を経て仕上工程に至るまで、それぞれ独立業種として専業化している。そしてこれら各業種は西 陣地区に軒をつらねて密集し産地を形成している。各工程が専門化することによって、技術的に 向上し質的に高いものが生産される反面、西陣機業の零細性が固定される結果になった。つぎに 流通過程を分析してみると、生産者から西陣産地問屋さらに室町問屋を経て地方問屋・都市問屋

(東京・大阪・名古屋など)へ販売される経路と生産者から直接室町問屋さらに小売店・百貨店

・地方問屋・都市問屋へ販売される経路とがある。かつて明治・大正期には産地間屋が西陣織物 全体の90%近くを取扱っていたが1次第に西陣の生産者のなかに大規模なものが現われてきて、

室町問屋へ直売する割合が増加してきた。現在代表的商品である帯地・着尺の場合をみると、年 間出荷額(100%)のうち、西陣産地問屋へ販売する割合が50〜60%で、室町問屋へ直売される 割合は30%前後を占めている。

戦後西陣の企業形態にいちじるしい変化があらわれた。それは出機の出現である。敗戦後の復 興期に、荒廃した国土のなかで西陣機業は立直ってくるのであるが、都市産地の生産条件は極端

に悪かったので、生産者のなかには昭和22年ごろから、外部とくに丹後ちりめんの産地であった 丹後地方など農村地域の余剰労働力を利用する賃加工の出機形態を採用するものがあらわれた。

さらに昭和30年ごろから急に力織機が西陣機業に普及し、ウール・合繊原糸の採用によって大衆 品の製織がおこなわれるようになったので、一層出機形態が普及した。こうして現在西陣着尺の 製織の中心は出機に依存している状態である。西陣生産者の3分の2がなんらかの形で出機形態 を採用しており、製品割合でも西陣全製品の60%、品種別に着尺の80%、帯地の55%が出機形態

によって製織されている。出機の出されている地域は、京都府内はもちろん、滋賀・石川・福井

・岐阜・大阪・兵庫・岡山から遠く山口・愛媛の諸府児に及んでいる。

丹後ちりめんの発祥も古く、天平時代にさかのぼるといわれるが、産業として興ったのは江戸 時代の享保初年に西陣の技法を取り入れ、独特のシボをもつちりめんを創案したことにはじま る。その後藩の保護奨励によって丹後ちりめんとして全国的な発展をとげた。ここに丹後地方と は、宮津市から海岸ぞいに兵庫県境までと、海岸線から大江連峰のふもとまでの地域で1 ̄「首10町 が含まれる。丹後機業は現在その製織品種から、丹後地方在来のちりめんと、戦後導入された西 陣機業の出機として下請生産をおこなう先染織物に2大別される。ちりめ不の生産形態は手張と 賃織に区分され、さらに賃織は歩機と掛機に細分される。手張とは自営業者のことで、全体の11

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近畿圏工業の地域構造論(菊地) 105

%にすぎない。賃織業者は室町問屋や丹後産地問屋または手張業者から注文を受けて製織をおこ なう。この下請生産者である賃織業者が丹後地方では圧倒的に多い。そのうち歩機は支給された 原糸を撚糸加工するなど準備工程を経たのち製織するもので、掛機の方は製織だけをおこなう。

流通経路をみると、製織品全体の90%以上が室町の白地問屋や染潰問屋へ販売され、そのうちの 約60%が直接室町問屋に売られる。残りの40%は丹後産地問屋を経て室町問屋へ流れる。そして 室町問屋から全国の小売店・百貨店・地方問屋・都市問屋へと販売される。西陣機業および丹後 機業のいずれの場合にも、生産構造では出機という賃加工または下請加工形態のなかで西陣の織 元機業が、また流通機構では織物の全国的集散地である室町問屋がそれぞれ主導的地位を占めて いて、正絹・ウール・合繊織物とくに着尺・帯地生産の京都がセンターになっている。こうし て今なお市場支配、意匠指導などを通した問屋制と下請生産形態によって、周辺および縁辺産地 は京都西陣の従属的位置におかれている。

(2)メリヤス業 第8表および第4図から、近畿圏におけるメリヤス業の中心は、大阪・奈 良・和歌山の3府県にあって、淀川流域の福島・大淀・東淀川区を中心とする地域、大和高田・

大和郡山の両市および広陵・香芝両町を中心とする地域、和歌山市内の紀三井寺・三葛の名草地 区などにそれぞれ産地を形成していることは既述の通りである。第9表は、大阪・奈良・和歌山」

の3府県の昭和42年メリヤス工業統計(細分類)である。これによると、大阪は丸編と横編9)日)に 第9表 昭和42年近畿3府県のメリヤス工業統計

出所:大阪府・奈良県・和歌山県の昭和42年工業統計調査結果報告書

特色をもち、奈良は靴下10)11)、和歌山は丸編メリヤスの生地生産によって代表される12)。なお経 編とメリヤス手袋は製品出荷額等でみると非常に小さく、それらを考察の対象からはずすことに した。同じ丸編メリヤスでも、大阪では第2次縫製業者が多く:3)、他方和歌山ではほとんどが生 地生産であり、奈良はその中間的性格をもっている。奈良もはじめはそのほとんどが生地生産で あったが、今次大戦中の経済統制のもとで、国有原糸の割当が問屋でなく、工業組合を通じて直 接生産者を対象におこなわれるようになっ亘のを機会に、縫製してから出荷する業者も増加し、

付加価値率を高める結果となった14)。以下まず奈良県の靴下、つぎに大阪の縫製加工、和歌山の 生地生産について考察し、大阪と奈良・和歌山との地域的な関連性を解明してみよう。

a、奈良県の靴下 奈良県では江戸時代から農村副業として大和木綿や大和餅が織られてい た。これらが明治中期以降に靴下に転業していったのであるが、業種は変っても賃織形態は変る

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ことなく大阪の問屋資本の強い支配下におかれていた。しかし昭和13年にぴかれた戦時経済統制 は、前述の原糸の割当制をめぐって、独立的企業形態を整える基礎を与えた。今次大戦後は、幾 多の変遷を経て産地形成が着々となされ、28年頃にナイロンが国産化されると他産地に先んじて 綿糸からウーリーナイロン糸に切り換え、30年代には新柄を編む輸入機を次々に購入し、高度の 成長をとげて今日に至っている。生産構造の面では、社会的分業体制が進んでおり、外注への依 存度が極めて高い。工程別に外注依存度をみると、染色94%、編立25%、かがり88%、きずみ66

%、仕上88%、包装40%となっている。このような工程別タテ割り型の下請・外注形態をとるの は、資本力の不足をカバーし、低廉労働力の確保や経済変動に対する弾力性をますためである。

これまでは社会的分業化された生産体制は、効率を高め、専門化を進め、低コストをささえる条 件をなしてきたが、今後計画生産・品質管理・経営のシステム的合理化を推進する上でネックに なると考えられる。つぎに企業規模をみると、業者の95%が従業者30人以下、機械台数50台以下 の零細小企業であり、従業者100人以上規模の企業はわずかに1%に満たない。企業形態からみ ると、法人が約10%、資本金1,000万円以下がほとんどである。しかし生産高では全国の約30%

余りを占め、年々増加する傾向にある。また製品別にみると、紳士靴下・中児靴下は鈍化傾向を 示し、シームレス靴下やタイツが伸びている。経営形態では自営の製造販売業者が全体の56%、

製販下請が13%、下請が31%を占める状態である。下請業者は一部商社や大阪問屋の下請加工を おこなう業者もいるが、大部分は産地内の製販業者あるいは産地問屋の下請である。また染色整 理などで一部産地外に外注することもあるが、大体生産構造は産地内完結型になっている。流通 経路は、生産者から産地問屋を経て小売・前売卸・都市問屋・ブランドメーカー・大販店に販売 されるものと生産者から総合商社を経て都市問屋・大販店・貿易商社に売られるものが主なもの で、他に生産者から直接前売卸・都市問屋に販売されるものなどがある。産地問屋(卸)は産地 内に49を数え、ソックスについてその40%を中小規模のニッター(生産者)から集荷し、都市問 屋・ブランドメーカー・地方問屋に製品を供給している。戦後の繊維における流通近代化は合繊 メーカーを中心に展開してきたが、最近その役割を代行しつつあるのが総合商社である。これら の総合商社は原料から最終製品まで一貫して取扱い、生産者との結びつきも有機的で、量産・量 販体制が進行してゆく中でその役割は増大している。靴下の市場としては、大阪市場のウェイト が非常に高く、全体として大阪67%、東京13%、その他20%ぐらいと推測され、したがって産地 問屋(卸)を経るにしろ、総合商社を通すにしろ、大阪問屋または大阪市場と密接に結びついて いる。

b 和歌山県の丸繍メリヤス 和歌山県のメリヤス業の特色を一口でいえば、丸編生地の編立

、いわゆる「生地編み、生地売り」である。どうしてこのような生産形態がとられているのであ ろうか。おそらくそれは、メリヤス技術が大阪から導入されたために大阪市場との結びつきが強 く、製品化してその販売面のリスクをおかすより、生地編立専門の方が企業経営としてほ容易で あったからであろう。現在和歌山県には、大量のメリヤス生地を処理しうる染色整理および縫製 の設備はない。わずかに染色整理業者4(うち先染2)、縫製業者43(うち生地編立と兼営5)

を数えるにすぎない。本県のメリヤスは、当初冬向き防寒用の裏毛メリヤス生地が主体であっ た。この裏毛メリヤスの生産に使用されたのが吊機とよばれるメリヤス機であった。しかし、暖 房の普及と人々の好みがうすくて軽い肌着に移行したことから、吊機による裏毛メリヤスは歓迎 されなくなった。それに対応して生産設備も両面機またはフライス機に更新された。こうして和 歌山県のメリヤス業の発展は、吊機から両面機およびフライス橡へ、裏毛メリヤスから合繊メリ

(20)

近畿圏工業の地域構造論(菊地) 107 ヤス(ジャージィ)へという形でなされていった。大部分が生地生産であるが、原糸の購入につ いては、約90%が在阪の商社あるいは問屋から仕入れており、約10%が親工場から直接購入して いる。また販売先では、大阪・東京・名古屋などの商社または問屋に生地売りしているもの68%

(うち50%が大阪、25%ずつが東京・名古屋)、大阪その他の二次加工工場に30%、その他2%

となっている。したがって和歌山県のメリヤス業は原糸の購入をもっぱら在阪の原糸問屋に依存 し、生地生産をおこなって再び大阪を中心とする問屋および二次加工工場に納入するという生地 編立部門を担当している。しかし最近になって、二次加工(ミシン縫製)における経営内容が、

丸編メリヤスの生地生産に比較して相対的に高い資本回転と高い収益性を実現しているところか ら、県内加工度の向上がさけばれるようになった。

C 大阪府のメリヤス二次製品工業 大阪府のメリヤス業は、既述の通り、福島・大淀・東淀 川区を中心に淀川流域の北大阪に集中し、綿または合繊の丸編メリヤス下着、毛または合繊の外 衣の主要産地を形成している。そこでは編立から縫製までの一貫生産をおこなう大メーカーもあ るが、大部分が縫製二次加工のみの中小企業である。さらに縫製工程のみを担当する企業でも、

商業資本的に広範囲に下請を利用して資本的支配をしているものもあれば、下請専業で生きてい るものもある。なお縫製工程のみをもつ純縫製業者も、必要に応じて他の縫製業者に外注してお り、賃加工下請は製造問屋からのみおこなわれるものとは限らない。またメリヤス縫製の二次加 工部門でも社会的分業が非常に進んでいる。ところで最終製品流通市場に近接した位置にありな がら、縫製メーカーはその生産の大半を注文生産に依存しているために、流通市場から隔離され ている。したがって販売先は当然のことながら圧倒的部分が市内所在の商社・問屋に占められ、

地方問屋からの注文受注はきわめて少ない。一部原糸を商社・問屋から購入して編立をおこなう 場合もあるが、大部分は奈良・和歌山などの生地業者から生地を購入し、縫製二次加工して市内 所在の商社・問屋に販売するというのが大阪の大部分のメリヤス業者である。以上メリヤス業の 社会的・地域的分業体制のもとに、とくにその流通構造面において大阪・奈良・和歌山の各メリ

ヤス業産地が、大阪を中心に密接な有機的関連性をもっていることが解明できたと思う。

まとめ(1)筆者はこれまでに、近畿圏工業の地域構造の解明を目標にしながら、圏内工業の 地域構造の解明を目標にしながら、圏内工業のいくつかについて実証的研究を重ねてきた。本研 究では直接目標そのものを対象に、新しい方法論的試みをもって分析をおこない、将来の研究上 の布石にしたいと考えた。(2)まず大阪・京瓢の2府=と兵庫・滋賀・奈良・和歌山の4県の範囲 を近畿圏と設定した。そして昭35、38、41年の工業統計から動態的な分析をおこなった。分析の 結果、大阪・京都・兵庫、とくに大阪の停滞ないし退潮は大きく、奈良・滋賀・和歌山、とくに 奈良の伸長がいちじるしいことが明らかにされた。また業種別では繊維工業の後退、金属製品工 業および鉄鋼業の増勢がいちじるしく、それも大規模事業所の増加を伴って、奈良・滋賀・和歌 山の3県でそれがおこなわれていることが認められた。こうして近畿圏では工業構造の高度化、

すなわち軽工業から重化学工業へ、生産規模の拡大、核心部から周辺部・縁辺部への工業機能の 展銅などが統計的に明らかにされた。β)近畿圏工業の地域構造の分析にあたって、地域的単位 は市町村が、工業分類は小分類が適当であるが、統一的な統計を入手することが困難なので、い ろいろな便宣的方法が導入され、分析がおこなわれた。(4)業種間の相対的比重において、近畿 圏でもっとも伸長・減退率の大きかった金属製品・鉄鋼・繊維の3業種をとりあげ、地域的展開 を図化した。いずれも核心から周辺への地域的配置を示すが、鉄鋼・金属製品・繊維の順で展開 周囲が拡大されている。(5)工業地区(市町村単位)を総合・複合・単一の3種類に分け、その

(21)

地域的配置を求めたところ、核心から周辺に向かって、総合から単一への展開が認められた。

(6)繊維工業については、昭和42年の各府県工業統計および1970年版全国工場通覧を基礎に産地 を検出した。とくに織物業(西陣と丹後)およびメリヤ子葉(大阪・奈良・和歌山)について生 産・流通構造の分析を通して、核心部と周辺串よび縁辺部の相互の有機的関連性、いわゆる圏構 造を究明した。

注およ び参考文献

1)菊地一郎:阪神工業地帯における生産力地域構造分析の一方法1967年度人文地理学会大会、京都大 学における口頭発表

2)菊地一郎:奈良県工業の地域構造、奈良教育大学紀要、人文・社会科学 第16巻第1号p.p.53〜70

1968

3)菊地一郎:奈良県メリヤス工業の地理学的研究、奈良教育大学紀要、人文・社会科学 第18巻第1号

p.p.69〜85

4)菊地一郎:阪奈和地域におけるメリヤス工業の分布1970年日本地理学会春季大会、岸記念体育館に おける口頭発表

5)板倉・井出・竹内・北村:京浜工業地帯の地域構造 地理学評論、第37巻第8号1964

6)板倉・井出・竹内・高橋:阪神の工業−京浜との対比において−人文地理 第20巻第1号1968 7)地方調査機関全国協議会:地域と産業 p.p.416〜438新評論1968

8)竹内淳彦:大都市の桟編メリヤス工業 新地理 第16巻第2号1968

9)大阪府・大阪市・大阪科学技術センター:大阪府下中小企業技術実態調査報告書 p.p.55〜851967 10)奈良県中小企業総合指導所:産地診断報告書、42年度対象靴下業1967

11)奈良県中小企業総合指導所:奈良県靴下製造業近代化への指針(現状・問題・対策)1969

12)和歌山県中小企業相談所:和歌山県メリヤス工業の現況とその問題点(和歌山県メリヤス工業産地診 断)1965

13)大阪市経済局:大阪メリヤス製造業界総合診断報告書(メリヤス二次製品)1967 14)奈良県中小企業総合指導所:郡山メリヤス工業産地診断報告書1969

参照

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