奈良教育大学学術リポジトリNEAR
ヤマトシジミの底質選択性と流速耐性
著者 棧敷 真梨子
発行年 2009‑03‑25
URL http://hdl.handle.net/10105/1094
平成 20 年度 修士論文
ヤマトシジミの底質選択性と流速耐性
奈良教育大学 大学院 教育学研究科 修士課程 教科教育専攻 理科教育専修
073403 棧敷 真梨子
目 次
1.はじめに ··· 1
2.現地調査および水理・生態実験方法 ··· 3
2-1. 現地調査 ··· 3
2-2.流速耐性 ··· 6
2-3. 底質選択性 ··· 10
3.調査結果及び考察 ··· 15
3-1. 流速耐性 3-1-1. 湖岸底質(砂質)表面における流速耐性 ··· 15
3-1-2. 湖心底質(細粒分まじり砂)表面における流速耐性‥17
3-1-3. 底質の巻き上がりについて ··· 20
3-4. 平常時の宍道湖湖底せん断応力の推定
3-1-4-1.実測流速による宍道湖湖底でのせん断応力の推定 ·· 21
3-1-4-2. 風速による宍道湖湖底せん断応力の推定 ··· 22
3-1-5. 強風時における宍道湖湖底せん断応力の推定 ··· 23
3-2. 底質選択性 ··· 24
3-2-1.パターン 1··· 24
3-2-2. パターン 2 ··· 29
3-2-2. パターン 3 ··· 33
4.まとめ ··· 38
謝辞 引用文献
発表
1.はじめに
宍道湖は、Fig.1に示されるように島根県東部に位置し、大橋川(全長7.5km) によって中海と連結し、さらに境水道(全長 7.5km)によって日本海とつなが る日本最大の連系汽水域を構成している汽水湖である。
宍道湖は、湖水面積79.1km2(日本第7位)、平均水深4.5 m、最大水深6.0 m
(国立天文台,2008)であり、塩分濃度は平均1 ~ 10 psuまで幅広く変化する 汽水湖である(藤井,1998)。また、宍道湖七珍(しっちん)としても知られてい るヤマトシジミは貴重な水産資源であり、低塩分の汽水域を好み、宍道湖の環 境に最も良く適応した二枚貝である。ヤマトシジミの資源量は、宍道湖全体で およそ30, 986 tあると推定されている(中村,1997)。
ヤマトシジミが生息する深度は、宍道湖の水深 4 m 以浅の湖岸部の砂泥域に 資源量の90.6%(28,059 t)が存在している(中村,1997)。通常、ヤマトシジミ は砂泥域の湖底に潜り、水管を湖水中に出し、湖水を吸い込み、エラで濾過す ることにより、呼吸と同時に水中の植物プランクトンなどを餌としている生息 している(中村,2000)。また、宍道湖でのヤマトシジミの稚貝の生息域としては、
ヨシ帯や藻類に付着していることが分かっている(坂本,1992;1993)。
これまでのヤマトシジミの研究においては、例えば、中村(1997)のヤマトシジ ミの水温耐性、塩分耐性、貧酸素耐性などを明らかにした生理・生態学的研究、
や山崎ら (2008)の茨城県涸沼の底質とヤマトシジミ稚貝の分布についての研究
が行われている。また、馬場(2006)による網走湖のヤマトシジミの産卵期におけ る水温・塩分の影響、南部ら(2006)による木曽三川のヤマトシジミ、アサリ、シ オフキガイ、ホトトギスガイなどの浮遊幼生の密度等について研究が行われて いる。
このように、ヤマトシジミが生息する日本各地の湖沼や河川においてさまざま な先行研究が行われているが、ヤマトシジミの稚貝が湖底に着底後、底質を自 ら選択して移動する“底質選択性”や着底時あるいは、何らかの要因で移動さ せられたヤマトシジミの湖流に対する “流速耐性”などの物理学的な特性を明 らかにした研究は行われていないのが現状である。
そこで本論文では、ヤマトシジミの底質選択性と流速耐性に着目し、現地調査 および水理・生態実験を実施することにより、ヤマトシジミの生息環境に重要 な物理環境耐性を明らかにすることを目的とした。
Fig.1. Map showing the location of Lake Shinji, Lake Nakaumi, Ohashi Riverand Sakai Channel.
2.現地調査および水理・生態実験方法 2-1.現地調査
大橋川から宍道湖へ流入する高塩分水の宍道湖内への拡がり状況、および流 向・流速分布を明らかにするために、Fig.2に示すSt.1~St.14およびLine 1
~Line 5において、2007年10月3日に現地調査を実施した。また、宍道湖 内のヤマトシジミの分布および底質状況を把握するために、Fig.3に示すSt.1
~St.8において、2008年7月2日に現地調査を実施した。
Fig.2. Location of study area and sampling points in Lake Shinji.
Pt.A show a measurement onset point for current measurement with ADCP in Line 4.
Fig.3. Location of study area and sampling points in Lake Shinji.
(a)2007 年 10 月調査
Fig.2 に示すSt.1~St.14の各地点においてJFEアレック社製メモリー水温 塩分計STD AST-200(測定精度:水温±0.02℃、電気伝導度±0.1mS/cm)を 用いて水面から湖底まで20cm間隔で水温・塩分の鉛直分布を測定した。また ワイエスアイ・ナノテック株式会社製ハンディ溶存酸素濃度計 550A(測定精 度:±0.3mg/l)を用いて、上層(水面下20cm)と下層(湖底上20cm)で溶 存酸素濃度の測定を行った。
同時に 2007年の調査では、Fig.2 に示すLine 1~Line 5において、TRDI 社製 ADCP Workhorse 1200 kHz(超音波ドップラー流速プロファイラー;
Acoustic Doppler Current Profiler)を取り付けたリバーボート(Photo 1参 照)を調査船で曳航することにより、鉛直方向および宍道湖縦断方向の多層の 流向・流速データを取得した。鉛直方向の測定水深および測定時間間隔はパソ コンにより測定時間間隔約 3.22 sec、水深間隔 0.25 m、最大水深 7.3 mで計 測するように設定した(測定精度:± 1.76 cm/sec)。また、同時にADCPの 超音波の散乱強度により塩水の分布状況のモニタリングも行った。調査に用い たADCPの観測方法の概略図をFig.4に示す。
ADCPは、ドップラー効果を応用した計測機器で,機器本体のトランスデュ ーサーより超音波を発信し、水中に浮遊する自己遊泳力の無い散乱体(植物プ ランクトンや懸濁粒子等)からの散乱音波のドップラー周波数シフトを計測し、
流速を鉛直方向及び横断方向にメッシュ状に瞬時に計測できる流速計である。
散乱強度については、直接的な塩分濃度との対比は出来ないが、塩分躍層よ
り上層では、下層の高塩分層と比較してプランクトン量や懸濁物量が多く、ま た塩分躍層付近には懸濁物等が集まりやすいことから、ある程度の塩水分布状 況の把握が可能である。
(b)2008 年 7 月調査
Fig.3に示す、St.1~St.8 において、エクマン・バージ採泥器を用いてヤマ トシジミと底質を採取した。また、各地点では HydroLabo 社製多項目水質計 Quanta を用いて、表層と底層の水温・塩分・溶存酸素濃度・濁度(測定精度:
水温±0.1℃、塩分±0.2psu、溶存酸素濃度±0.2mg/l、濁度±5%)を測定した。
採取したヤマトシジミおよび湖底泥は次節以降に示すヤマトシジミの底質 選択性および流速耐性実験に用いた。
Photo 1. ADCP and riverboat.
2-2.流速耐性
ヤマトシジミの分布域あるいは生息環境を制限する要因として、宍道湖湖底 に生じる湖流が大きいと考えられる。実際にはヤマトシジミは、稚貝として着 底後に、湖底に潜行して影響を受けないものもあるが、吹送流の発生により湖 底で大きなせん断応力が生じた場合は湖底底質の巻上がりが生じ、ヤマトシジ ミが水中に放たれ、流されると考えられる。
そこで、本研究においては潜行していない状態においてヤマトシジミにどの ような流速耐性があるかについて明らかにするために水理実験を行った。
ここで流速耐性とは、風の吹送などによって湖底付近に生ずる流れにより、
ヤマトシジミがどの程度まで耐えられるかということを示す。
実験には、Fig.5 に示す自作の水理実験装置を用いた。これは透明アクリル 製の長方形断面(高さ 35 cm×幅 15 cm)をした水路上の水槽である。全長 は 190 cmであり、流送区間長は 100 cmである。水槽の上端部から 80 cm のところに、長さ9 cm×幅 13.5 cm×高さ4.5 cm(内径)の底泥設置用の容 器を設置し、Nortek社製超音波ドップラー流速計ADV(精度:±0.1㎝/sec) を用いて、この区間における流速の鉛直分布を測定した。底泥設置用の容器の
20 cm程下流にはアクリル製の流速制御板を設置する斜面がある。また、この
斜面によって観測区間の流れに影響がないことは実験によって確認してある。
同装置で流す流体の流速は、ポンプと連結した変圧器と水位制御板によって 水位を変化させることにより変化させた。
実験方法としては、ヤマトシジミが移動し始める条件下(以下初期移動とす る)の変圧器の電圧と水位を測定し、その時の流速の鉛直分布をFig.5に示す 超音波流速計により測定した。そして、後述する対数分布則を用い、初期移動 時の水底のせん断応力を算出し、このせん断応力値を、ヤマトシジミの流速耐 性を示す値とした。
Fig.5. Schematic diagram of hydraulic experiment.
せん断応力の算出方法は以下の通りである。
ある条件下で流速の鉛直分布が Fig.6(a)のように測定されたとする。この 流速分布を Fig.6(b)のように対数目盛にプロットし、底層の流速分布を次式
(1)(2)の流速分布式に適用させ、その勾配からせん断速度とせん断応力を求め
た。
(a) (b)
Fig.6. Schematic diagram explaining Log-low of current velocity.
(a) The actual flow distribution, (b)The vertical axis was changed to the logarithm scale.
式(1)および(2)の対数分布式(日野,1974)は乱流場における簡単な定常状態の 二次元せん断流を考え、実際の流れの場で無視できない粘性作用を考慮し、プ ラントルの混合距離理論より算出したものである。
u z U
z u ( ) =
*ln( ) + ( )
κ 1
(1)U
*≡ τ
ρ
0 (2)ここで、u(z) : 水底上z cmの流速(cm/s),U* : せん断速度 (cm/sec), κ : カルマン係数 (0.40),τ0: せん断応力(Pa),
u(1) : 水底1cmの流速(cm/sec),ρ : 水の密度 (g/cm3) である。
ただし、水理実験において、対数分布式が適用できない場合があり、その場 合のせん断応力算出方法について以下に示す。
水理実験装置は、前述したように可変式の水位制御板を着脱することで水位、
変圧器により電圧を変化させ、流速を変化させる仕組みであるが、測定できる 最大流速付近の流速分布は、水位が低いため超音波流速計を使用しての水底か らの流速分布を測定することができない。そのため、今回は湖沼や海洋で一般 的に用いられる底面せん断応力に関する次式(宇野木ら,1990)を用いてせ ん断応力を算出した。
τ
b= ρwC u
f 2 (3)
ここで、τb : 底面せん断応力 (Pa),ρw : 水の密度(kg/m3),
Cf : 底面摩擦係数,u : 流速(m/s) である。
上式(3)における底面摩擦係数は、一般に 0.0026(宇野木ら,1990)がしば しば用いられ、測定値はおよそ0.0015 ~ 0.0025(宇野木ら,1990) であり、
6 ~ 7m/sec 以上の強い風に対して 2.4±0.5 ×10-3(堀川,1991) の値を 提案している。
本実験では、水理実験装置によって得られたせん断応力と流速の値を、式(3) に当てはめることで、それぞれの底面摩擦係数を底質が砂の場合 0.0019、細 粒分まじり砂の場合0.0020と算出し、水の密度と水底1cm付近における流速 を用いてせん断応力を求めた。
また、実際の湖底流速・風速との比較のために、2007年10月3日 12:00~
14:00 に ADCP により測定された水面から水底までの流速とその時刻に松江
地方気象台で観測された風速を用いて 2 通りの解析方法で平常時の宍道湖湖 底におけるせん断応力の値を求めた。なお風速は、松江地方気象台で2007年 10月3日 13:00~14:00に観測された値を使用した(気象庁ホームページ)。
2-3.底質選択性
これまでのヤマトシジミの生理・生態学的研究の中で、中村(1997)の飼育 試験から、ヤマトシジミの水温、塩分および溶存酸素濃度耐性については明ら かになっている。しかし、ヤマトシジミ自身が底質の嗜好性を有し、底質によ る生息環境を自ら選択できるかどうかについては未だ明らかにされていない。
そこで本研究では、底質選択性について明らかにするために簡易的な飼育試 験を実施した。
飼育試験については、Fig.7およびFig.8に示すような円形(直径 30.0 cm、 高さ 14.5 cm)または長方形(24.0 × 32.7 × 17.0 cm)の塩化ビニル製の 容器に、2または4種類の粒度組成の異なる底質を作成し、エリアを区分しそ れらを敷き詰めた。
その後、水道水を底質が巻き上がらないように静かに注ぎ、その上に殻長を 測定し、個体番号をマーキングしたヤマトシジミを全体に均等になるように配 置し、その後研究室内で静置した。ここにパターン1のヤマトシジミの配置状 況をPhoto 3に一例として示す。
ヤマトシジミの殻長とはFig.9に示すように定義した。
Fig.7. The circular container used for the experiment.
Fig.8. The rectangular container used for the experiment.
Fig.9. Shell length of Corbicula japonica.
Photo 3. An actual situation of experiment.
この実験を敷き詰めた底質の種類と数により、3 パターンの実験を行った。
静置した期間はパターンによって異なるが12~29日間であり、飼育試験中は どのパターンも餌は与えず、貧酸素状態にならないように酸素ポンプを底質が 巻上がらないように設置した。期間中の光条件については、研究室内の蛍光灯 下で実験を行った。また、温度条件については、生息にもっとも影響を与える と考えられる水温が大きく変化しないように室温を一定にした。
実験に用いた底質について、パターン1では、Fig.3に示すSt.2(沿岸)、お よび St.6(湖心)の湖底泥を使用し、パターン 2 以降はこの 2 種類の底質を 混合したものも使用した。
使用した底質に関しては、ふるい分析を行い、日本統一分類法 JGS0051 を 適用し、分類した。
Fig.10に示されるように、Fm:細粒土、GF:細粒分まじりレキ、SF:細粒分ま じり砂、G:レキ、GS:砂レキ、SG:レキ質砂、S:砂であり、現地にて採取した 底質は、St.2では砂(S)、St.6では細粒分まじり砂(SF)に分類される。
以下、St.2の底質をS、St.6の底質をSFとして記号で表す。
Fig.10. Soils classification of bottom sediments at St.2 and St.6.
実験は、底質条件の異なる3パターン行い、その状況については以下の通り である。
<パターン1>
Fig.11 (A) に示すように円形水槽に2つの領域を区分し、Area 1 の底質が SF(細粒分まじり砂)のみであり、Area 2の底質がS(砂)のみである。ま た、1~40の個体識別番号をマーキングしたヤマトシジミ(殻長範囲 : 16.65
~ 20.45mm)全40個体を2種類の底質の境界付近に10個体、各底質にそれ ぞれ15個体ずつFig.11のように配置した。水槽内の水温は、21 ~ 25 ℃に 保った。
Fig.11. Sediment condition of pattern 1.
SF : fine-grained sand , S : sand
Area 2 S Area 1
SF
<パターン 2>
Fig.12に示すように4つの領域に区分し、細粒分まじり砂を中心とした選択
性を明らかにするために、Area 1の底質は前述したSF(細粒分まじり砂)の み、Area 2の底質は前述したS(砂)のみ、Area 3の底質はSとSFを質量 比1対2、Area 4の底質はSとSFを同質量で混合したものとした。また、1
~30 の個体識別番号をマーキングしたヤマトシジミ(殻長範囲 : 9.55 ~ 12.75mm)を全30 個体、各エリアに3 ~ 4個体ずつ、それぞれの境界付近 に全17個体をFig.12のように配置した。水槽内の水温は20 ~ 22 ℃に保っ た。
Fig.12. Sediment condition of pattern 2.
SF : fine-grained sand, S : sand
<パターン 3>
Fig.13 に示すように 4つの領域に区分し、砂を中心とした選択性を明らか
にするためにArea 1の底質は前述したS(砂)のみであり、Area2の底質は前述 したSF(細粒分まじり砂)のみである。
Area3はSとSFを質量比2対1で、Area4の底質はSとSFを同質量で混 合したものである。また、1~30の個体識別番号をマーキングしたヤマトシジ ミ(殻長範囲 : 9.90 ~ 13.40mm)を全 30個体、各エリアに 3 ~ 4個体 ずつ、それぞれの境界付近に全17個体をFig.13のように配置した。水槽内の 水温は20 ~ 22 ℃に保った。
Area 1 SF
Area 2 S
Area 3
S : SF = 1 : 2 Area 4
S : SF = 1 : 1
Fig.13. Sediment condition of pattern 3.
SF : fine-grained sand, S : sand
以上のように、パターン1からパターン3の選択性実験中のヤマトシジミの 移動状況は、目視観察により位置を特定し、同時に写真撮影を行った。
実験終了時に、潜行しているものも含め、水槽の水を抜き、最終的なヤマト シジミの位置を特定した。また、ヤマトシジミの殻にマーキングした個体識別 番号が消えるなどの要因で、識別が困難な場合は、実験を始める前にそれぞれ 計測した殻長により個体を識別した。
ヤマトシジミの移動距離については、目視確認と同時に、写真撮影を行って いるので、写真による画像解析を行い、それぞれ個体別に算出した。
実験中のヤマトシジミの死亡率については、ヤマトシジミが選択した底質に おける全個体数とその底質における死亡個体数を数え、それぞれの底質におけ る死亡率を算出した。死亡率は以下の式で算出した。
死亡率(%)=
(実験終了までに死亡した各底質上の個体数(個)/各底質を選択 した全個体数(個))×100
Area 3 S : SF = 2: 1
Area 2 SF Area 1
S
Area 4 S : SF = 1 : 1
3.調査結果及び考察 3-1.流速耐性
3-1-1. 湖岸底質(砂)表面における流速耐性
殻長 4.00 ~ 11.30 mmまでのヤマトシジミ全119個体を殻長ごとに分け、
砂表面においたヤマトシジミの初期移動時のせん断応力を求めた。
Fig.14の(A)から(E)は実験装置内の水位を一定にし、電圧つまり流速を変化 させた時にそれぞれ得られた流速分布である。また、ヤマトシジミの殻長ごと のせん断応力についてはTable 1に示し、殻長とせん断応力との関係について
はFig.15に示す。ただし、Table 1の括弧内の値は殻長区分ごとの平均値を示
す。
Fig.14. Vertical distribution of current velocity by hydraulic experiment with the bottom sediment of St.2.
Table 1. Shear stress of Corbicula japonica on bottom sediment at St.2.
Shell length (cm) Number of individuals (n) Max shear stress (Pa) Minimum shear stress (Pa) Average shear stress (Pa)
4.00 ~ 5.00 13 0.27 0.06 0.15±0.09
5.00 ~ 6.00 11 0.27 0.04 0.12±0.08
6.00 ~ 7.00 22 0.27 0.06 0.24±0.05
7.00 ~ 8.00 28 0.27 0.06 0.21±0.07
8.00 ~ 9.00 15 0.27 0.06 0.18±0.09
9.00 ~ 10.00 15 0.27 0.06 0.15±0.09
10.00 ~ 15 0.27 0.04 0.18±0.08
Fig.15. Correlation between shell length of Corbicula japonica and shear stress at sediment of St.2.
Fig.14に示されるように、電圧つまり流速の増加と共に速度勾配が大きくな
り、せん断応力の値も増加傾向にあることが分かる。また、Table 1より殻長 ごとのせん断応力の最小値には変化が見られず、今回使用したヤマトシジミの 殻長の中では 6.00 ~ 9.00 mm の個体が最も大きい流速耐性を示し、殻長
6.00 mm 以上のヤマトシジミの個体群の流速耐性が大いことが分かった。
Fig.15に示される殻長とせん断応力の関係については、殻長とせん断応力の
間に相関関係(r=0.0027)はまったく見られなかった。
また、殻長9.70 mm、殻幅4.95 mmの個体を砂表面に置き、流速に対する ヤマトシジミの向きを変化させた所、ヤマトシジミの殻開閉部分を流れに向け た時と右に90度回転して置いた時ではせん断応力に0.13 Paの変化が見られ た。
今回の水理実験においては、殻の向きはほぼ統一して行ったが、実際の宍道 湖では、殻の向きとともに、流向も変化している。したがって、流速耐性は殻 長条件だけでなく、個体ごとの重量や流れに対するヤマトシジミの向きによる
抗力係数なども考慮する必要があると考えられる。また、砂のように粒径の大 きい場合には、ヤマトシジミの配置箇所と大きな粒径のために初期移動が妨げ られるため、Fig.15 のように殻長と流速耐性に相関は見られず(r=0.0027)、 Table 1に示すように殻長6.00 ~ 9.00 mmの個体が大きい流速耐性を示した と考えられる。
底質が砂の場合は、Fig.14より殻長6.00 mm 以上の個体で流速耐性が大き いことから、6.00 mm 以上がある程度の流速耐性を持つと考えられる。
3-1-2. 湖心底質(細粒分まじり砂)表面における流速耐性
殻長4.00 ~ 12.05 mmまでのヤマトシジミ全116個体を殻長ごとに分け、
砂と同様に細粒分まじり砂表面の初期移動時のせん断応力について求めた。
Fig.16の(A)から(D)は実験装置内の水位を一定にし、電圧つまり流速を変化 させた時にそれぞれ得られた流速分布である。また、ヤマトシジミの殻長ごと のせん断応力についてはTable 2に示し、殻長とせん断応力との関係について
はFig.17に示す。ただし、Table 2の括弧内の値は殻長区分ごとの平均値を示
す。
Fig.16. Vertical distribution of current velocity by hydraulic experiment with the bottom sediment of St.6.
(A) 60V, (B) 70V, (C) 80V, (D) 90V, (E) 100V.
Table2. Shear stress of Corbicula japonica on bottom sediment at St.6.
Shell length (cm) Number of individuals (n) Max shear stress (Pa) Minimum shear stress (Pa) Average shear stress (Pa)
4.00 ~ 5.00 7 0.25 0.09 0.16±0.08
5.00 ~ 6.00 20 0.25 0.09 0.13±0.06
6.00 ~ 7.00 29 0.25 0.01 0.18±0.08
7.00 ~ 8.00 28 0.25 0.09 0.19±0.07
8.00 ~ 9.00 17 0.25 0.01 0.16±0.09
9.00 ~ 10.00 9 0.25 0.25 0.25±0.00
10.00 ~ 6 0.25 0.22 0.24±0.02
Fig.17. Correlation between Corbicula japonica and Shear stress on St.6.
Table 2より殻長ごとのせん断応力の最小値は、殻長7.00 ~ 9.00 mmの個 体群であったが、顕著な差異は見られず、せん断応力の値は、殻長が大きくな るにつれて、徐々に上昇する傾向が見られた。また、砂の場合と同様に6.00 mm 以上の殻長のヤマトシジミの個体群から流速に対する耐性が大きくなってい ることが分かった。
Fig.17 に示される殻長とせん断応力との関係において、相関係数が 0.36 と
低いが、正の相関関係が見られた。
したがって、細粒分まじり砂の場合においても流速耐性は殻長条件だけでな く、個体ごとの重量や湖流に対するヤマトシジミの向きによる抗力係数などに より変化したとが考えられる。しかし、砂の場合と違い、底質の粒径が小さい ことから、せん断応力には粒径の影響を受けないと考えられる。
今回行った水理実験における砂と細粒分まじり砂上のヤマトシジミの流速 耐性について考えると、せん断応力の大きさについては顕著な差異はなく、ど ちらの底質においても殻長との関係は顕著ではなかった。
流に対するヤマトシジミの向きによる抗力係数などを考慮する必要があると 考えられる。しかしながら、細粒分まじり砂表面においては殻長とせん断応力 には若干の相関関係が見られ、また、どちらの底質表面においても殻長 6.00 mm 以上の個体で流速耐性が大きいことから、ヤマトシジミは殻長6.00 mm 以上がある程度の流速耐性を持つ条件であると考えられる。
3-1-3. 底質の巻き上がりについて
大橋川・宍道湖における底泥の再移動についての三村(1994)の実験によれば、
今回の調査地点と異なるが、宍道湖西端、東端および湖心における各季節の底 質の初期移動時の水底せん断応力の値が実験により求められている。それによ れば、初期移動時の水底せん断応力は、宍道湖湖心では 0.034 ~ 0.15 Pa、 斐伊川河口付近の宍道湖西端では0.028 ~ 0.092 Pa、大橋川入り口付近の宍 道湖東端では 0.050 ~ 0.098 Pa であった。また、国土交通省出雲河川事務 所・日本ミクニヤ株式会社(2004)によれば宍道湖の湖心の底泥のみの初期移動 時の水底せん断応力は0.13Paであった。
これらの値と今回求めたヤマトシジミの初期移動時のせん断応力の値を比 較すると、宍道湖湖岸の底質の場合はヤマトシジミの初期移動時のせん断応力 の値がやや大きい値を示し、宍道湖湖心の底質の場合は、水底せん断応力の値 の方がやや大きい値を示している。したがって、宍道湖においては、普段ヤマ トシジミが湖底に潜行している状態であっても、ある程度の湖流が生じた場合 には、底質が砂の場合、周りの砂が移動し始め、それをきっかけにしてヤマト シジミも移動し始めると予想される。
一方、細粒分まじり砂の場合には、砂に比べて潜行時の移動により大きなせ ん断応力が必要であることが分かる。また、過去の実験によると底質がまとま って移動し始める値が0.15 Paであるとされており、湖底に0.15Pa以上のせ ん断応力が生じると、底泥が巻き上がり、浸食されることにより、湖底面へと ヤマトシジミが露出する可能性が高いことが分かる。したがって、湖底表面に ヤマトシジミが露出した状態で、底面に強い湖流が生じることにより湖底表面 に大きなせん断応力が働けば、ヤマトシジミは違う場所へと運ばれることが予 想される。
3-1-4. 平常時の宍道湖湖底せん断応力の推定
3-1-4-1. 実測流速による宍道湖湖底でのせん断応力の推定
Fig.18に示すように、Fig.2のLine 4上でADCPにより得られた流速分布 において、Pt.Aから100m、600m、1090mの地点における宍道湖東西方向 の湖底流速の値を用い、式(3)によりせん断応力を求めた結果をTable 3に示 す。なおここでは、底面摩擦係数Cfは湖岸より105mと1090 mでは底質を
砂として 0.0020 を、湖岸より 595 m では底質を細粒分まじり砂として、
0.0019を用いて計算した。また、水の密度ρはFig.2に示すPt.Aから105 m の地点ではSt.10、Pt.Aから595 mの地点ではSt.9、Pt.Aから1090 m の 地点ではSt.7の底層の密度を使用した。3地点の塩分分布はFig.19 (a)~ (c) に示す。なお、Fig.18 の横軸は Fig.2 に示す Pt.Aからの距離を示し、東向 きの流れを正値(+値)、西向きの流れを負値(-値)として表している。
Fig.18. Eastwast component velocity distribution in Line 4 on 3 October, 2007.
Table 3 Shear stress calculated using the density and the current velocity which were observed at Line4 in Lake Shinji on 3 October, 2007.
Distance from Point A (m) Current velocity (cm/sec) Water Density (kg/m3) Shear Stress (Pa)
105 2.49 1000.4 0.0012
595 8.07 1000.7 0.013
Fig.19. Vertical profile of salinity at St.10 (A), St.9 (B) and St.7 (C).
Table 3に示されるように、せん断応力の値は底質を砂とする105mおよび
1090m地点では0.0012 ~ 0.042 Paの範囲であり、細粒分まじり砂とする
595m地点で0.013 Paであることから、ヤマトシジミが移動し始めるせん断
応力の値の方が大きい。したがって、ヤマトシジミは宍道湖の平常時の流速 に対し十分な耐性があることが分かる。
3-1-4-2. 風速による宍道湖湖底せん断応力の推定
Fig. 2に示すLine 4における観測は2007年10月3日の13:00頃であっ た。この時刻の松江地方気象台で観測された風速は3.1m/sec、風向は東であ った。また、植田(1996)によると、宍道湖における水底せん断応力τb (Pa)
と風速U(m/s)との関係には、式(4)の関係があることが分かっている。
τ
b= 4 88 10 . ×
−4U cos θ
2 (4)(統計期間 1994 / 9.15 ~ 11.1) ここで、U:風速(m/sec)、θは風向と東西方向とのなす角である。
そこで、松江地方気象台で観測された風速を用いて、式(4)より水底のせ ん断応力を算出した結果、0.0047 Paであった。
この値は 3-1-4 で算出されたせん断応力の範囲内であり、今回実験を行っ た全てのヤマトシジミの耐えうるせん断応力の値より小さい値を示してい た。したがって、ヤマトシジミは宍道湖の平常時の風速に対し十分な耐性が あることが分かる。
3-1-5. 強風時における宍道湖湖底せん断応力の推定
式(4)を用い、強風時における宍道湖湖底のせん断応力の推定を行った。デー タは松江地方気象台における2004年10月20日の風向・風速のうち最も大き い値を示した15:00~16:00の値を使用した。この日は台風23号が接近してお
り、13:00~19:00 まで台風臨時観測が実施されていた時間である。この時の
風速18.5 m/sec、風向は北東であった。
式(4)より、風向を考慮し、θを 45度として計算を行うと、せん断応力の値
は0.08 Pa であった。したがって、この程度の風速が湖面付近に生ずると耐え
きれず、強制的に移動させられる個体も現れると考えられる。また、その日の 瞬間最大風速は、35.8 m/sec、風向は北東であり、同様に式(4)により計算する
と、0.31 Paとなり、瞬間的に湖底に強いせん断応力が生じ、強風時には今回
実験に使用した殻長のヤマトシジミは耐えられず移動することが分かる。
さらに、式(4)を用い、今回使用した殻長のヤマトシジミが移動し始める にはどれほどの風速が必要かを求めた。
殻長ごとのせん断応力の値から条件を風向を東とし、風向の影響はないもの とし計算した。その結果、砂表面上にヤマトシジミが存在する場合には、9.1 ~ 25.3 m/sec、細粒分まじり砂表面上にヤマトシジミが存在する場合には、4.5
~ 22.6 m/sec の風速が必要であった。
このことから、ヤマトシジミの移動には湖表面にある程度の強風が発生しな ければならないことが分かる。
3-2.底質選択性
ヤマトシジミの底質選択性に関する飼育実験を3パターン実施した。その結
果をFig.20からFig.25に示す。最終確認時以外の図における黒円は初期配置
または各観察時に底質上に確認できた個体であり、赤円は死亡個体を示す。ま た円内の番号は個体識別番号である。最終確認時の図における黒円は生存個体、
赤円が死亡個体を示し、青円が初期配置、各番号はそれぞれの個体識別番号を 示す。
3-2-1. パターン 1
Fig.20 の(A)は初期配置、(B)~(E)はそれぞれの観察時の個体の移動の様子 を示す。また、実験開始より 12 日後の最終確認時における全個体の移動結 果をFig.21に、一日の移動速度をTable 4、底質ごとの死亡率をTable 5 に 示す。
(A) (B)
(C) (D)
(E)
Fig.20 The state of Corbicula japonica an experiment in pattern 1.
Figure shows experiment start (A), after 1 day (B), after 3 days (C), after 5 days (D) and after 6 days (E).
Fig.21 State of the twelfth day from an experiment start.
Circles show the individuals of Corbicula japonica in the figure, blue circles show the state of experiment start, red circles show dead individual, and black circles show survival individual.
Table 4. Moving speed of Corbicula japonica per day in a pattern 1.
No. Moving speed per day (mm) No. Moving speed per day (mm)
1 0.8 21 0.8
2 1.3 22 1.2
3 5.7 23 1.3
4 2.2 24 1.0
5 2.9 25 2.3
6 3.3 26 2.5
7 2.8 27 1.3
8 2.5 28 3.0
9 1.2 29 2.5
10 4.0 30 6.5
11 3.0 31 1.7
12 1.5 32 1.3
13 0.4 33 1.7
14 3.4 34 1.2
15 2.1 35 3.7
16 2.4 36 1.3
17 3.9 37 1.0
18 6.7 38 3.7
19 3.2 39 3.7
20 3.8 40 2.1
Table 5. Migration length of Corbicula japonica in a Pattern1.
The death number of individuals The number of individuals in each sediment(n) which chose each sediment (n)
S 4 22 18.2
SF 1 17 5.9
The mixture ratio(%) Mortality rate (%)
Fig20 (B)より、実験開始1日後にはほとんどの個体が潜行していたが、顕
著な移動の様子は見られなかった。また、実験開始3日後(Fig.20(C))では、
潜行がさらに進み、砂の底質上で個体番号(以下番号のみ記す)の 30、36 の2個体が死亡していたのが確認された。また、両底質の境界付近に配置し た番号7 のシジミが砂の底質へと移動し、番号 15の個体はやや同図の下の 方へと移動しているのが分かった。
実験開始 5 日後(Fig.20(D))、シジミの潜行がさらに進み、底質の境界付
近において番号3の個体が死亡していた。しかし、番号7の個体は両底質の 境界付近に移動し、実験開始6日後(Fig.20(E))に死亡が確認された。また、
砂、細粒分まじり砂上でそれぞれ番号 21、39 の個体が死亡していた。それ 以外の個体は表面上に見えるものについては顕著な移動は見られなかった。
Fig.21より境界付近に置いた全10個体のシジミは7個体が砂の底質上、2
個体が細粒分まじり砂の底質上に向かい、1 個体のみ両底質の境界付近で死
じ底質で確認された。さらに、砂の底質上に配置した個体群には特に傾向は 見られなかったが、細粒分まじり砂の底質上に配置した個体群には砂の底質 の方へ移動する傾向が見られた。また、 Table 4より、シジミ全40個体の 一日の移動速度は0.4 ~ 6.7 mm / dayであり、Table 5より、死亡率は砂 の底質の方が高く、全体の死亡個体数は計6個体だった。なお、境界付近で 死亡した個体は死亡率に含めていない。
3-2-2.パターン 2
Fig.21の(A)は初期配置、(B)~(F)はそれぞれの観察時の個体の移動の様子 を示す。また、実験開始より 22 日後の最終確認時における全個体の移動結 果をFig.22に、一日の移動速度をTable 6、底質ごとの死亡率をTable 7 に 示す。
(A) (B)
(C) (D)
(E) (F)
Fig.22. The state of Corbicula japonica an experiment in pattern 2.
Figure shows experiment start (A), after 9 days (B), after14 days (C), after 17 days (D), after 20 days (E) and after 22 days (F).
Fig.23. State of the 22nd day from an experiment start .
Circles show the individuals of Corbicula japonica in the figure, blue circles show the state of experiment start, red circles show dead individual, and black circles show survival individual.
Table 6. Moving speed of Corbicula japonica per day in a pattern 2.
No. Moving speed per day (mm) No. Moving speed per day (mm)
1 0.3 16 2.3
2 1.8 17 2.3
3 0.1 18 0.3
4 1.3 19 2.9
5 2.7 20 0.1
6 0.3 21 0.9
7 1.7 22 3.4
8 1.3 23 1.5
9 1.9 24 0.5
10 0.4 25 0.7
11 0.9 26 0.9
12 0.4 27 3.3
13 1.5 28 1.9
14 2.0 29 1.4
15 0.8 30 1.6
Table 7. Mortality rate of each sediment in a pattern 2.
The death number of individuals The number of individuals in each sediment(n) which chose each sediment (n)
SF 3 5 60.0
S 4 13 30.8
S:Fm = 1:2 4 6 66.7
S:Fm = 1:1 5 6 83.3
The mixture ratio(%) Mortality rate (%)
Fig.22より、実験開始9日後 (Fig.22(B)) には、潜行している個体がほ とんどであり、エリア4 で番号 27の死亡が確認された。また、境界付近に 設置した番号13、14がそれぞれエリア3、4へと移動しているのが見られ、
それ以外の表面に露出している個体では、死亡個体も含めほとんど移動して いなかった。
実験開始14日後(Fig.22(C))では実験開始9日後(Fig.22(B))の時より 表面に露出している個体が増えたが、それらの個体について大きな移動は見 られなかった。また、このうち境界付近に設置した番号2、7、9の個体がそ れぞれエリア2、3、4へと移動して死亡し、それ以外の番号18、28の個体 は最初の底質上で死亡しているのが確認された。
実験開始後 17 日後(Fig.22(D))では実験開始 14 日後(Fig.22(C))と表 面上ほぼ変わらず、番号8、19の個体がそれぞれエリア4、2を選択して死 亡していた。また、番号 24、26 の死亡も確認されたが、移動はそれほど大 きくはなかった。
実験開始 20 日後(Fig.22(E))では境界付近に設置した番号 3、10、13 の個 体はそれぞれエリア 2、1、4 を選択した後その底質での死亡が確認された。
また、今まで表面上に露出していなかった番号12、16、29の個体がそれぞ れエリア1、2、4において死亡しているのが確認された。残りの表面上に露 出している個体はほぼ実験開始後17日後(Fig.22(D))と比べ、移動してい なかったことが分かった。
実験開始22日後(Fig.22(E))では、表面に見えていた個体はエリア2に集中 していたことが分かった。
Fig.23より、エリア1と2、エリア2と4の境界付近の個体はエリア2へ、
エリア1 と 3 の境界付近の個体はエリア3へ向かう傾向が見られた。また、
エリア3と4の境界付近の個体には特に傾向は見られなかった。このことか ら、底質の変化が大きい境界同士においては砂を選択する傾向が見られたこ とが分かる。また、同図より境界以外の個体は全体的にエリア2の方へと移 動しているように見受けられる。
Table 6より、シジミ全30個体の一日の移動速度は、0.1 ~ 3.4 mm / day であった。さらに、Table 7より、死亡率は砂のみの底質における死亡率が 低く、細粒分まじり砂を同質量混合したものにおいて死亡率が高いことが分 かった。死亡個体数は計16個体であった。
以上のことから、全30個体のうち10個体が砂の割合が多い底質区分へと 移動したといえ、もともと配置したシジミ3個体を除いてもヤマトシジミの 選択性は砂の方が優位と見られることが分かった。
3-2-3.パターン 3
Fig.24 (A)は初期配置、(B)~(F)はそれぞれの観察時の個体の移動の様子を 示す。また、実験開始より 29 日後の最終確認時における全個体の移動結果 をFig.25に、一日の移動速度をTable 8、底質ごとの死亡率をTable 9 に示 す。
(A) (B)
(C) (D)
(E) (F)
Fig.24. The state of Corbicula japonica an experiment in pattern 3.
Figure shows experiment start (A), after 14 days (B), after 20 days (C), after 27 days (D), after 28 days (E) and after 29 days (F).
Fig.25. State of the 29nd day from an experiment start .
Circles show the individuals of Corbicula japonica in the figure, blue circles show the state of experiment start, red circles show dead individual, and black circles show survival individual.
Table 8. Moving speed of Corbicula japonica per day in a pattern 3.
No. Moving speed per day (mm) No. Moving speed per day (mm)
31 0.6 46 2.2
32 0.9 47 0.3
33 0.6 48 1.1
34 2.1 49 0.4
35 0.3 50 0.6
36 1.5 51 0.3
37 0.4 52 0.3
38 0.2 53 0.4
39 0.7 54 0.2
40 - 55 0.4
41 - 56 0.3
42 0.6 57 1.2
43 0.6 58 0.3
44 1.9 59 0.3
45 0.8 60 0.7
Table 9 Migration length of Corbicula japonica in a Pattern 3.
The death number of individuals The number of individuals in each sediment(n) which chose each sediment (n)
S 0 7 0.0
SF 3 8 37.5
S:SF = 2:1 2 6 33.3
S:SF = 1:1 4 7 57.1
The mixture ratio(%) Mortality rate (%)
Fig.24 より、実験開始 14 日後(Fig.24(B))には、ヤマトシジミはほぼ潜行 している状態であり、エリア2で番号46、エリア4で59の個体の死亡が確 認された。表面上に露出した番号 46、53、56 の個体のうち、番号 46 の個 体以外の2 個体はほぼ動いていなかったが、境界付近に設置した番号 46の 個体はエリア2を選択したことが分かる。
実験開始 20 日後(Fig.24(C))ではさらに潜行が進み、表面上に露出して
いる番号44、53の2個体のうち、番号53の個体はほぼ移動せず、エリア2 と4の境界で番号44の個体の死亡が確認された。
実験開始27日後(Fig.24(D))では表面に露出しているのは3個体のみであ り、番号53の個体はほぼ移動せず、番号52の個体もほぼ移動せず、配置時 のエリア 2 において死亡が確認された。また、境界付近に設置した番号 44 の個体はエリア4を選択して死亡していた。
実験開始28日後(Fig.24(E))では、表面に露出している5個体のうち、境 界付近に設置した番号35、43の個体は、それぞれエリア4つの境界付近で ほぼ移動せず、エリア3を選択して死亡していたことが確認された。残りの 3個体は、エリア3での死亡が確認された番号56の個体、番号53、57の個 体いずれも設置時と同じ底質上で確認された。
Fig.25よりエリア1と2の境界付近の個体はエリア1へ、エリア1と3の
境界付近の個体はややエリア3へ向かう傾向が見られた。また、エリア2と 4の境界付近の個体では特に傾向が見られなかった。エリア3と4の境界付 近の個体はエリア4へ向かう傾向が見られた。大きく変化する境界のエリア 1と2においては砂の多い底質へ向かったが、それ以外の境界同士の個体は 細粒土の多い底質へ向かった傾向が少し見られた。また、境界付近以外の個 体は移動において特に傾向は見られなかった。
Table 8に示すように、今回の飼育実験におけるヤマトシジミの移動速度は
0.2 ~ 2.2 mm / dayであった。また、Table 9より、死亡率はパターン2と 同じく砂のみの底質のエリア1における死亡率が低く、細粒分まじり砂を同 質量混合した底質エリア4において死亡率が高かった。全体的な死亡個体数 は計8体であった。
今回行った 3 パターンの実験のうち砂と細粒分まじり砂のみのパターン 1 と細粒分まじり砂中心のパターン2において、全体的にヤマトシジミが砂の 割合が多い底質へと向かう傾向が見られた。また、砂中心の底質であったパ ターン3においても砂と細粒分まじり砂の隣接する境界において砂へと向か う傾向が見られたが、それ以外の境界同士の個体は細粒分まじり砂のより多 い底質へ向かった傾向が見られた。
また、パターン1~3の実験では、底質が急激に変化するエリアの境界付近 のヤマトシジミが砂へと向かう傾向が見られたが、それ以外の境界同士や境 界以外の個体について特に傾向は見られなかったことから、実際の宍道湖に おいては湖底泥の区分は不均一であるために何かしらの影響で移動したヤ マトシジミが砂質-泥質域の境界付近に着底したもののみ底質選択性が見 られると考えられる。
しかしながら、Table 4、6、8より、ヤマトシジミの一日の移動速度は0.1
~ 6.7 mm / day程度であり、また、Table 7、9より、パターン2と3では ヤマトシジミの死亡率は砂で低く、砂と細粒分まじり砂を同程度混合した底 質において高いことから、底質選択性よりも着底環境がヤマトシジミの生息 条件に適している個体のみが生息可能であると考えられる。以上のことから、
強制的に移動させられる可能性等着底条件に関わる流速耐性の方が底質選 択性よりはヤマトシジミの生存に影響力が大きいと考えられる。
4.まとめ
今回の現地調査および実験において以下の知見が得られた。
1. 底質表面上のヤマトシジミの耐えうるせん断応力の値は St.2 の砂表面で 0.04 Pa以上、St.6の細粒分まじり砂で0.01 Pa以上であり、それぞれの 底質上における殻長とせん断応力の関係については、前者の底質上では全 く関係性が見られず、後者の底質上では相関係数が 0.36 と低いが、正の 相関が見られた。
2. 両底質上において殻長 6.00 mm 以上の個体群から耐えうるせん断応力の 値が大きくなる傾向が見られた。
3. 宍道湖湖心・湖岸において、平常時ではヤマトシジミは十分な流速耐性が あるが、強風時や宍道湖湖岸では底質の巻き上がりによって強制的に着底 場所から移動させられる可能性がある。
4. 底質選択性実験で行った全3 パターンの実験のうち、パターン 1、2にお いて、全体的にヤマトシジミが砂の割合が多い底質へと向かう傾向が見ら れた、3 パターン全てで底質が急激に変化するエリアの境界付近に着底し ている個体が砂へと向かう傾向が見られた。
5. ヤマトシジミの移動速度は0.1 ~ 6.7 mm / day程度であり、死亡率は砂 のみの底質において0.0 ~ 30.8 %と最も低く、砂と細粒分まじり砂を同 質量混合した底質において57.1 ~ 83.3 %と最も高かった。
6. 底質選択性は底質の極端に違うもののみで見られ、湖底泥の区分が不均一 であるような環境では、強制的に移動させられる流速耐性の方が生存の条 件としては影響が大きいと考えられる。
発表
本報告の一部は、2008年日本陸水学会第73回札幌大会で口頭発表を行った。
謝辞
本研究を進めるにあたり、奈良教育大学、水圏環境科学研究室の藤井智康先 生には、終始御指導・御助言・御鞭撻を賜りました。そして、日本シジミ研究所 所長 中村幹雄博士には現地調査だけでなく、御指導・御助言・ご鞭撻を賜り、
同研究所 尾島徹哉さんには現地調査時の調査船の運航で大変お世話になりま した。現地調査、底質選択性、流速耐性実験において本研究室修士 1 回生の横 井貴範さん、4回生の山田浩平さん、羽野美沙子さん、3回生の山上奈穂子さん、
大鷲勝さん、山本貴能さんに多大な御協力を得ることが出来ました。皆様に心 より感謝申し上げます。
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