(C) 2005 The Japanese Society for AIDS Research The Journal of AIDS Research
原
著
地 方A県
女 子 高校 生 の コ ン ドー ム不 使 用 に関 す る
相 互 作 用 プ ロセ ス の研 究
山 崎 浩 司, 木 原 雅 子, 木 原 正 博 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻国際保健学講座社会疫学分野 目的:若 者 に対 す る エ イ ズ予 防介 入 プ ロ ジェ ク トの一 環 と して,地 方A県 の女 子 高校 生 が,な ぜ 性 交 渉 時 に コ ン ドー ムを 使 わ な い よ う に な って しま うの か を 質 的 研 究 法 を 用 いて 分 析 す る。 対 象 と方 法:A県 の女 子 高 校 生41名 に 対 し,フ ォー カ ス ・グ ル ープ ・イ ン タ ビュ ー を8グ ル ープ 実 施 した。対 象 者 と して,交 際 相 手 を有 す る と思 われ る友 人 同 士6名 前 後 を,ス ノー ボ ー ル ・サ ンプ リン グに よ り リク ル ー トした。 分 析 は修 正 版 グ ラウ ンデ ッ ド ・セ オ リー ・ア プ ロ ー チを 使 った。 結 果:対 象 者 は 「治 る 性 病 よ り直 ら な い妊 娠 」 を よ り心 配 して い る に も係 わ らず,実 際 の コ ン ドー ム 「使 用 は相 手 次 第 」 で あ り,結 果 的 に膣 内 ・膣 外 射 精 を繰 り返 し,そ れ で も簡 単 に は妊 娠 し な い こ と を経 験 的 に学 習 して 「独 自の 避 妊 意 識 」 を 形 成 し,コ ン ドー ム不 使 用 を 定 着 させ て い た。 ま た,交 際 相 手 が 社 会 人 の場 合 は 「妊 娠 して もか まわ な い」 と考 え た り,コ ン ドー ム購 入 を 恥 ず か しさ等 に よ る 「購 入 阻 害 」 要 因 に よ り回 避 した り,不 快 経 験 か ら 「コ ン ドー ム嫌 悪 」 に陥 っ た り し て,不 使 用 に至 って い た。 さ らに,対 象 者 が仮 にSTDに 関心 を抱 い て も,入 手 で き る 「予 防 学 的 情 報 の不 足 」 か ら,コ ン ドー ム を使 わ な い 「独 自の予 防認 識 」 を 形 成 し,や は り不 使 用 に終 って い た。 結 論:コ ン ドー ム不 使 用 にお け る相 互 作 用 プ ロ セ ス を含 む若 者 の多 様 な性 文 化 の把 握 な しで は, 包 括 的 な エ イ ズ予 防 法 を開 発 しが た い可 能 性 が 示 唆 され た。 キ ー ワ ー ド:女 子 高 校 生,コ ン ドー ム 不 使 用,望 ま な い 妊 娠,HIV/STD(性 感 染 症),予 防 日 本 エ イ ズ学 会 誌7: 121-130, 2005 背 景 と 目 的 昨 今 の世 界 に お け るHIV流 行 状 況 に よ れ ば,若 者 と女 性 が この病 い の大 きな影 響 を受 け て お り1,2),日本 の若 者 の HIV感 染 も拡 大 傾 向 に あ る。2003年1月 な らび に4月 の エ イ ズ動 向委 員 会 報 告 に よ れ ば,10代20代 の男 女 が新 規 HIV感 染 者(日 本 国 籍 の み)に 占 め る割 合 は約3-4割 に達 して い る。 と くに若 い女 性 が この流 行 の影 響 を大 き く受 け つ つ あ り,1985年 以 降 の 累 積HIV感 染 ケ ー ス を み る と, 15歳 か ら24歳 人 口 で は女 性 の ほ うが 男性 よ り も感 染 ケ ー ス が多 い3)。 現 在 考 え られ る も っ と も有 効 なHIV感 染 予 防 方 法 の ひ とっ は コ ン ドー ムの常 用 で あ るが,性 経 験 の あ る 日本 の地 方 高 校 生 の コ ン ドー ム 常 用 率 は2-3割 に と ど ま っ て い る4)。従 って,性 経 験 の あ る若 者 のHIV予 防対 策 にお け る ひ とっ の課 題 は,コ ン ドー ムの 入手 と使 用 の 頻 度 を 高 め る こ と にあ る。 そ の た め に は,ま ず 日本 の 若 者 の コ ン ドー ム 使 用 ・不使 用 の 全体 像 と,そ の 文 化 的 要 因 を 探 る必 要 が あ る が,筆 者 の知 る限 り,そ の よ うな研 究 は量 的 に全 体 像 を 把 握 した 若 干 の も の5,6)を除 い て,あ ま り行 わ れ て い な い7)。 そ こで 本 研 究 で は,著 者 らが 所 属 す る厚 生 労 働 省HIV 社 会 疫 学 研 究 班 の若 者 予 防 グル ー プ(代 表:木 原 雅 子)に よ る,地 方 の若 者 に対 す るエ イ ズ予 防介 入 プ ロ ジ ェ ク トの 一 環 と して,地 方A県 の女 子 高 校 生 が,な ぜ性 交 渉 時 に コ ン ドー ム を使 わ な い よ うに な って しま うの か を,質 的研 究 方 法 を活 用 して分 析 す る。 方 法 と対 象 1. 理 論 的枠 組 み 本 研 究 で は,修 正 版 グ ラ ウ ンデ ッ ド ・セ オ リー ・ア プ ロ ーチ(修 正 版M-GTA)8,9)を 方 法 論 と して 採 用 して い る が,そ の 理 論 的 枠 組 み は シ ンボ リ ック相 互 作 用 論10)の伝 統 の うち にあ る。 シ ンボ リ ック相 互 作 用 論 で は,(1)人 間 は物 事 に対 す る 自分 の意 味 づ け に 基 づ い て 行 為 す る,(2)こ の 意 味 づ け は社 会 に お け る他 者 と の 相 互 作 用 の な か で 形 を な す,(3)他 者 と の 相 互 作 用 は常 に この 意 味 づ けを 修 正 し た り再 構 成 した りす る,と い う社 会 観 ・人 間 観 に立 脚 す る (「意 味 づ け」 は 「シ ンボル 」 に置 き換 え られ る)11,12)。 本 研 究 の 文 脈 で いえ ば,女 子 高 校 生 が 男 性 と性 交 渉 や 恋 著者 連 絡 先:山 崎 浩 司(〒606-8501京 都 市 左 京 区吉 田 近 衛 町 先 端 科 学 研 究 棟2階 京 都 大 学 大 学 院 医 学 研 究 科 社 会 健 康 医学 系 専 攻 国 際 保 健 学 講 座 社 会 疫 学 分 野) Fax:075-753-4359 2004年6月24日 受 付;2005年6月3日 受 理H Yamazaki et al: Social Interactions for Non-use of Condoms among High School Girls in Provincial Japan 愛 関 係 と い っ た 相 互 作 用 を 引 き起 こ し,そ の な か で 絶 え ず 「コ ン ド ー ム を 使 わ な い セ ッ ク ス 」 と い う経 験 の 意 味(シ ン ボ ル)を 生 成 ・修 正 ・再 構 成 す る,と み な さ れ る 。 2. デ ー タ 収 集 デ ー タ 収 集 に は,フ ォ ー カ ス ・グ ル ー プ ・イ ン タ ビ ュ ー (FGI)を 用 い た 。 な ぜ な らFGIは,一 般 的 に は 話 し に く い と 考 え ら れ るHIV/AIDSや 性 に 関 す る 研 究 で,デ ー タ 収 集 方 法 と して 高 い 有 効 性 を 持 っ て い る こ と が 証 明 さ れ て い る か らで あ る13,14)。 デ ー タ 収 集 期 間 は2000年12月 か ら2003年2月 で あ り, 収 集 場 所 は 西 南 日本 に 位 置 す るA県A市 とB市 で あ る 。 男 女 高 校 生 合 わ せ て15グ ル ー プ に 対 して 実 施 さ れ た 。 本 研 究 で は,女 子 高 校 生10グ ル ー プ の う ち8グ ル ー プ 計41 名(表1)を 分 析 した 結 果 を 報 告 す る 。 2グ ル ー プ を 除 外 し た の は,グ ル ー プ の 特 性 が 残 り の8 グ ル ー プ と 異 な っ て い る た め で あ る 。 こ の2グ ル ー プ は 最 初 に 実 施 さ れ た2つ で,FGIは 他 人 同 士 を 集 め る の が よ い と い う 説 に 基 づ き15),そ れ ぞ れ が 異 な る4つ の 高 等 学 校 か ら 来 た 参 加 者 に よ っ て 構 成 さ れ て い た 。 しか し,見 知 らぬ 者 同 士 の た め か,性 の よ う な 私 的 な 話 が 活 発 に さ れ ず, FGIの 利 点 で あ る グ ル ー プ ・ ダ イ ナ ミ ク ス16)が 生 か せ な か っ た 。 そ こ で リ ク ル ー ト方 針 を 変 え,同 じ高 等 学 校 か ら の 仲 の よ い 友 人 同 士 と い う構 成 に した と こ ろ,状 況 が 大 き く改 善 さ れ た た め,以 後8グ ル ー プ は そ の 設 定 を 維 持 す る こ と に な っ た 。 3. リ ク ル ー トと倫 理 的 配 慮 研 究 参 加 者 の リ ク ル ー ト は,合 目 的 的 サ ン プ リ ン グ (purposive sampling)で あ る ス ノ ー ボ ー ル ・サ ン プ リ ン グ に よ っ て 行 っ た 。 具 体 的 に は,各 高 等 学 校 の 養 護 教 諭 の 協 力 に よ り,交 際 相 手 を 有 す る(有 し た)と 思 わ れ,か っ 仲 の よ い 友 人 同 士 で あ る生 徒 を6名 前 後 集 め て も ら っ た 。 ま た,FGIの 参 加 者 や 市 の 職 員 の 紹 介 に よ る リ ク ル ー ト も 行 っ た 。 そ の 際,保 護 者 に 調 査 参 加 へ の 書 面 も し く は 口 頭 に よ る 承 諾 を と っ た 。 保 護 者 に よ る 承 諾 に 加 え,研 究 参 加 者 に 対 す る倫 理 的 配 慮 と し て,FGIが 録 音 と速 記 さ れ る こ と,彼 ら の 本 名 や 個 人 を 特 定 で き る よ う な 情 報 の 提 示 の 仕 方 を し な い こ と,答 え た く な い 質 問 が あ っ た ら答 え な く て よ い こ と,FGIの 途 中 で 参 加 を 辞 退 し て 構 わ な い こ と,録 音 さ れ た テ ー プ と逐 語 録 や 筆 記 録 な ど は 調 査 者 以 外 に 譲 渡 ま た は 貸 与 さ れ な い こ と,な ど を は じ め に 口 頭 で 参 加 者 に 伝 え,さ ら にFGIで 話 し た り聞 い た り し た 個 人 情 報 な ど を,参 加 者 が 他 者 に 他 言 し な い こ と を 口 頭 で 確 認 し,承 諾 の う え で 調 査 を 続 行 し た 。 表1分 析 対 象 グル ー プ 4. FGIの 実 施 1つ のFGIは2時 間 で,司 会 は参 加 者 と同性 で あ り,全 プ ロ ジェ ク トの企 画 ・立 案 ・実 施 の責 任 者 で あ る木 原 雅 子 が 行 っ た。 質 問 項 目 は,研 究 参 加 者 の性 意 識 と性 行 動 の現 実 を,HIV/STD(性 感 染 症)感 染,妊 娠,コ ン ドー ム使 用 に焦 点 を絞 って 解 明 す る こ と を 目的 に,半 構 成 的 に設 定 し た(主 な質 問 項 目 は表2を 参 照)。 参 加 者 の会 話 は テ ー プ も し くは ミニ デ ィス ク(MD)に 録 音 され た うえ,速 記 者 に よ る記 録 もな され た。 録 音 デ ー タ は速 記 者 に よ り逐 語 化 され,そ の後 録 音 デ ー タ に基 づ い て,著 者 に よ り繰 り返 し逐 語 録 の確 認 と修 正 を行 った(1 イ ンタ ビュ ー記 録 の 長 さ はA4紙 で 平 均39頁)。 各FGIの 直 前 と直 後 に簡 単 な ア ンケ ー トが 実 施 さ れ, 前 者 で は参 加 者 の 基 本 的 な属 性(学 年,年 齢,性 経 験 の有 無,こ れ まで の 性 交 渉 の 相 手 の 数,関 心 事,性 の 情 報 源 な ど)を,後 者 で は参 加 したFGIに 対 す る評 価(話 しや す さ,部 屋 の 設 定,司 会 者 の 進 行 な ど)と 感 想 を 記 入 して も ら った。 5. デ ー タ 分析 イ ン タ ビ ュ ー記 録 の分 析 方 法 は グ ラ ウ ン デ ッ ド ・セ オ リー ・ア プ ロー チ(GTA)を 採 用 し,デ ー タの 継 続 的 比 較 分 析 を主 軸 と して理 論 的飽 和 を 目指 した17)。た だ し,次 の 点 を理 由 に ヒ ュー マ ンサ ー ビス 領域 にお け る知 見 の 実 践 的 活 用 に重 点 を 置 い た,修 正 版M-GTA8,9)を 採 用 した 。 つ ま り,GTAの 開 発 者 で あ る グ レ イ ザ ー とス トラ ウス が 目指 した よ うな,高 度 に抽 象 的 な社 会 的行 為 の 説 明 ・予 測 モ デ ル(フ ォ ー マル 理 論)の 構 築 よ り も,HIV/STD/望 ま な い妊 娠 の予 防 の実 践 に お け る知 見(領 域 密 着 理 論)の 実 用 性 を重 視 す る とい うス タ ンス を と って い る点 で あ る。 な お,具 体 的 な分 析 手 順 は次 の とお りで あ る。 (1)1つ 目の逐 語 録 を 吟 味 し,解 釈 的 な分 析 に よ って概 念 を 生 成 した 。そ の 際 に概 念 名,概 念 の 定 義,概 念 を 支持 す
The Journal of AIDS Research Vol. 7 No. 2 2005 表2 主 な質 問 項 目 ● 彼 氏 は い ます か?ど ん な人 です か?(年 齢 ,同 じ高校生 か社会人 か?) ● 彼 氏 の た め に ど ん な こ と して あ げ ます か?彼 氏 は ど ん な こ とを あ な た に して くれ ます か? ● 彼 氏 ま た は セ ック ス の相 手 に な ん で も自分 の要 求 を伝 え られ ます か?(コ ン ドー ムを 使 って ほ しい な ど) ● あ な た の コ ン ドー ム の イ メ ー ジは ど ん な もの です か? ● コ ン ドー ム を持 って い ます か?ど うや って入 手 しま す か?入 手 しや す い です か? ● セ ック ス の時 に コ ン ドー ム を使 って い ま す か?使 わ な い の な らな ぜ で す か? ● 性 病 や エ イ ズ につ い て知 って い る こ と を教 え て くだ さ い。 学 校 で は性 病 や エ イ ズ につ い て習 い ま した か?ど うや って 性 病 や エ イ ズ に関 す る情 報 を 得 ま したか? ● 自分 が 性 病 や エ イ ズ に罹 っ た らど う しま す か?知 って い る人 で性 病 に罹 っ た人 は い ま す か? どん な 話 を そ の 人 か ら聞 き ま したか? ● 実 践 して い る ま た は効 果 が あ る と思 う避 妊 法 を 教 え て くだ さ い。 学 校 で は避 妊 や 中 絶 につ い て 習 い ま したか?ど うや って 避 妊 や 中 絶 に関 す る情 報 を 得 ま したか? ● 自分 が 望 ま な い妊 娠 を した らど う しま す か?知 って い る人 で望 ま な い妊 娠 を して しま った人 は い ます か?ど ん な 話 を その 人 か ら聞 き ま したか? ● 家 族 や先 生 と性 に 関 す る話 を しま す か? ● 性 に 関 す る情 報 源 は何 で す か? ● 性 に 関 す る心 配 事 や知 りた い こ とな どあ りま す か? る 生 の 語 り,理 論 的 メ モ な ど を 書 き 込 む 分 析 ワ ー ク シ ー トを 使 用 し た 。 (2)(1)に よ って 生 成 さ れ た10数 個 の 概 念 を 参 照 し な が ら2 つ 目 以 降 の 逐 語 録 を 吟 味 し,各 デ ー タ セ ッ トを 分 析 す る度 に,既 に 生 成 し た 概 念 の 補 足 修 正 ま た は 削 除 と 新 た な 概 念 の 生 成 を,引 き 続 き ワ ー ク シ ー トを 使 用 し な が ら行 っ た 。 (3)(2)を 進 行 す る 過 程 で 概 念 問 の 相 互 関 係 を 検 討 し,最 終 的 に コ ア と な る 概 念 を 中 心 に 体 系 化 し,カ テ ゴ リ ー を 特 定 し た 。 (4)(3)に 基 づ い て 概 念 関 係 図 と ス ト ー リ ー ラ イ ン を 作 成 し,本 論 の 骨 子 を 完 成 さ せ た 。 6. 厳 密 性
質 的 研 究 で あ る 本 研 究 で は,Rice & Ezzy12)に 倣 い,量 的 研 究 に お け る 妥 当 性 や 信 頼 性 に 相 当 す る 厳 密 性(rigour) と い う概 念 を も と に,研 究 の 質 の 維 持 に 努 め た 。 厳 密 性 を 確 保 す る 数 あ る 方 法 の う ち,本 研 究 で は,共 同 研 究 者 間 及 び 外 部 の 質 的 研 究 者 数 名 と の 間 で,分 析=解 釈 の 飽 和 を チ ェ ッ ク す る分 析 者 トラ イ ア ン ギ ュ レ ー シ ョ ン22) を,繰 り返 し行 っ た 。そ の 上 で 必 要 な 概 念 名 や 定 義 の 修 正, 削 除,再 生 成 な ど を,分 析 過 程 に お い て 随 時 行 い 続 け,最 終 的 な 概 念 ・カ テ ゴ リー 生 成 に 至 っ た 。 7. 対 象 研 究 参 加 者 合 計41名(3年 生29名,2年 生7名,1年 生 5名)の 平 均 年 齢 は17.2歳 で,性 経 験 者 は35名(85.4%) だ っ た 。35名 の う ち21名(3年 生17名,2年 生4名)に つ いて は,こ れ まで性 交 渉 を も った相 手 の数 が平 均4.7人(1 人 ≦n≦20人,中 央値4人)で あ る ことが,直 前 ア ンケ ー ト やFGI実 施 中 の語 りか ら判 明 した。 ただ し,本 研 究 で 研 究 参 加 者 た ちが 語 っ た 「性 経 験 」 と は,基 本 的 に特 定 の交 際 相 手 と の性 交 渉 を 意 味 して お り, 不 特 定 と の性 交 渉 は含 まれ な い。 参 加 者 に は若 干 名,特 定 の相 手 以 外 と の性 交 渉 が あ っ た者 もい たが,そ れ で もFGI に お け る語 りの大 方 は,特 定 の相 手 と の性 交 渉 に関 す る も のが 自然 と中 心 に な った。 ま た,以 下 の分 析 で は,性 経 験 の な い者 の語 りは含 まれ て い な い。 参 加 者 の 通 う高 等 学 校 の 特 性 は,地 理 的 に はす べ てA 県A市 とB市 市 内 に 位 置 し,私 立 ・公 立 ・国 立 の3種 類 が あ り,一 般 的 な普 通 科 の あ る高 等 学 校,商 業 高 等 学 校, 工 業 高 等 専 門 学 校 が 含 まれ て い る。 結 果 と 考 察 1. 結 果 提 示 の説 明 修 正 版M-GTAで は,結 果 が カ テ ゴ リー と概 念 に よ って 提 示 さ れ る。 カ テ ゴ リー に は,中 心 とな る コア カ テ ゴ リー が あ る場 合 もあ る。本 論 で は,カ テ ゴ リーを< >で 囲 み, 概 念 を下 線 で表 して い る。 コア カ テ ゴ リー の み< >に 加 え て□ で囲 って あ る。 そ れ ぞ れ の カ テ ゴ リーや 概 念 に は, そ れ らを指 示 す る生 の語 りが提 示 さ れ て い る。 研 究 対 象 者 は方 言 で話 して お り,標 準 語 に改 変 して い な い。 発 言 者 は 〔 〕内 に示 され て お り,例 え ば 〔G3A〕 な らば,グ ル ー プ 3の 人 物Aを 意 味 す る。
H Yamazaki et al: Social Interactions for Non-use of Condoms among High School Girls in Provincial Japan 図1 概 念 図 各 項 で 数 例 しか 語 りを 提 示 しな いの は,そ れ しか 各 概 念 を 支 持 す る語 りが な いか らで は な く,紙 面 の制 約 上 す べ て の 語 りを 提 示 で き な いの と,あ ま りに語 りが 多 い と煩 雑 に な り,か え って 論 点 を 不 明 瞭 に しか ね な い た めで あ る。 また,本 論 で は多 くの 修 正 版M-GTAを 使 っ た研 究 の様 式 に則 り,結 果 と考 察 を ま と めて 提 示 す る。 2. 全 体 像 女 子 高 校 生 た ちの コ ン ドー ム不 使 用 に関 す る相 互 作 用 プ ロセ ス は,妊 娠 を 気 に しな が らも不 使 用 の 定 着 に至 って し ま う大 多 数 の コ アプ ロセ ス と,少 数 派 が た ど る不 使 用(定 着 を含 む)の プ ロ セ ス で あ る サ ブ プ ロ セ ス と に分 け られ る。 サ ブプ ロセ ス は さ らに,妊 娠 に 関 す るサ ブプ ロセ スA と,STD関 連 の サ ブ プ ロ セ スBと に分 け られ る。(図1) (1) コア プ ロ セ ス 女 子 高 校 生 た ち は,性 交 渉 にお い て<治 る性 病 よ り直 ら な い妊 娠>を よ り心 配 して い る。 しか し,実 際 の 性 交 渉 で は コ ン ドー ム<使 用 は相 手 次 第>に な って しまい,結 果 的 に使 用 され な い こ とが 多 い。 彼 女 た ち は,膣 外 射 精 や 膣 内 射 精 に よ って も,自 分 が妊 娠 しな か った こ と に基 づ い て, コ ン ドー ム を 使 用 しな い<独 自 の 避 妊 意 識>を 形 成 し て,コ ン ドー ム不 使 用 を定 着 させ る。 (1) <治 る 性 病 よ り 直 ら な い 妊 娠> 性 経 験 の あ る 女 子 高 校 生 は,な に よ り も切 実 な 問 題 な の は 望 ま な い 妊 娠 で あ り,STDは 基 本 的 に 治 療 で き る の で, 後 戻 りで き な い 妊 娠 の ほ う が 恐 ろ し い,と 考 え て い た 。 G2M:… … 私 的 に は 性 病 っ て 怖 い っ て 感 じ な い け ん ね 。 G2A:な っ た こ と な い け ん? G2M:な ん か べ つ に 治 り そ う や し。 妊 娠 の ほ う が 怖 い,病 気 よ り も 。 病 気 は 治 る け ど,妊 娠 は 直 ら ん た い 。 ま た,STDに 感 染 し た 場 合 の 治 療 費 と人 工 妊 娠 中 絶 の 費 用 の 比 較 を し,後 者 の ほ うが よ り多 く費 用 が か か る の で, そ の 金 銭 的 な 負 担 を 心 配 す る 声 が 聞 か れ た 。例 え ば,「 性 病 だ っ た ら,ど う に か 病 院 へ 行 っ て 治 そ う と思 っ た ら治 る し ね 。 赤 ち ゃ ん が で き た と か だ っ た ら お 金 の ほ う も ね 」 〔G3 M〕 と語 ら れ て い た 。 STD感 染 よ り も妊 娠 に 重 点 を 置 く こ の 傾 向 は,A県 の 女 子 高 校 生 の9割 以 上 が コ ン ドー ム を 避 妊 目 的 に 使 っ て お り,HIV/STD予 防 を 目 的 とす る者 は2-3割 に 過 ぎ な い と い う 量 的 調 査6)や,日 本 性 教 育 協 会 に よ る全 国 調 査18)か ら も 明 ら か に さ れ て い る 。 ま た,オ ー ス ト ラ リ ア の 中 学4年 生(日 本 の 高 校1年 生)男 女 を 対 象 にHillerら が 行 っ た 研
The Journal of AIDS Research Vol. 7 No. 2 2005 究19)で も 同 様 な 結 果 が 報 告 さ れ て い る 。 コ ン ドー ム 使 用 を 左 右 し て い る の はSTD感 染 よ り も望 ま な い 妊 娠 で あ る 傾 向 は,高 校 生 に 広 く共 通 し て い る こ と が 推 測 さ れ る 。 (2) <使 用 は 相 手 次 第> 彼 女 た ち は 妊 娠 を 心 配 し な が ら も,コ ン ドー ム<使 用 は 相 手 次 第>で あ る と い う。 ま ず,彼 女 た ち は 言 い 出 せ な い 雰 囲 気 に 飲 ま れ て,コ ン ドー ム 使 用 の 意 図 が あ っ て も 流 さ れ て し ま う。 例 え ば, 「『っ け よ う ね,つ け よ うね 』 み た い な 感 じ だ け ど,や っ ぱ り そ の ま ま 流 れ る ん で す 」 〔GIZ〕 で あ る と か,「 な ん か,そ が ん(=そ う い う)雰 囲 気 の と き に,自 分 か らっ け て っ て い い き らん 」 〔G5K〕 と い う 。彼 女 た ち の 性 交 渉 で は,い っ た ん 行 為 が 始 ま っ て し ま う と,コ ン ドー ム を 使 お う,ま た は コ ン ドー ム が な い な ら セ ッ ク ス し た く な い と,言 い 出 せ な い よ う な 雰 囲 気 が で き あ が っ て し ま う。 ま た,コ ン ドー ム の 装 着 が も た っ く と 「雰 囲 気 が 崩 れ る 」 〔GIZ〕 の で 彼 女 た ち に 嫌 わ れ て い る こ と か ら,言 い 出 せ な い 雰 囲 気 は,受 動 的 に 飲 ま れ て し ま う と い う だ け で な く, 壊 した くな い 雰 囲 気 と して も捉 え られ て い た 。 も う1つ コ ン ドー ム 使 用 が 相 手 次 第 に な っ て し ま う要 因 と して,交 際 相 手 と の 関 係 上,相 手 が 自 分 を 好 き な 以 上 に 自 分 が 相 手 に 惚 れ 込 ん で い る た め に,心 理 的 に 弱 い 立 場 に 立 っ て し ま っ て 我 を 通 し き れ な い,と い っ た 関 係 性 が み ら れ た(惚 れ 込 み)。 彼 女 た ち は 「バ リ好 き(=と て も好 き)」 〔GIB〕 な 相 手 が 離 れ て し ま い そ う に な っ た 場 合,相 手 の い い な り に な っ て ま で 引 き止 め て し ま う と い う 。 G1B:… … 相 手 の い う こ と は な ん で も き き よ る 。 G1Z:そ う そ う 。 相 手 が 悪 く て も ぜ っ た い 謝 る。 自 分 が 悪 か っ た み た い な 感 じで 。 G1B:そ う そ う。 そ して 相 手 に あ れ して こ れ して っ て い わ れ た ら,自 分 嫌 で も す る し,な ん で も し よ っ た 。 そ し て 性 に つ い て は,相 手 に 性 交 渉 を 断 り き れ な く な る。 例 え ば,「(セ ッ ク ス し た くな い と)い い き らん 。 だ っ て さ,や れ ん 女 は 嫌 い っ て 感 じ じ ゃ な い?」 〔G6C〕 と い う 語 り が 聞 か れ た 。 さ ら に,相 手 に コ ン ドー ム を 使 っ て ほ しい と き も,「 い い に く い け ん,い わ ん 。 つ け て っ て い っ て,嫌 が られ た ら い や だ と思 う け ん 」 〔G4S〕 と 感 じ る だ け で な く,使 わ な い と 「相 手 が 喜 ん で く れ る 」 〔G8M〕 の で,最 終 的 に 不 使 用 に 落 ち 着 い て し ま う 。 自分 の ほ う が 惚 れ て い る 関 係 性 に お い て は,た と え コ ン ドー ム を 使 っ た 性 交 渉 に い た っ て も,そ れ は 「相 手 の 気 分 次 第 」 〔G5K,GIA〕 で あ る こ と が 少 な く な い と語 っ て い た 。 こ の よ う な 関 係 性 を 背 景 に,彼 女 た ち の 間 に は 性 交 渉 相 手 の コ ン ドー ム 嫌 悪 の 受 容 が 見 ら れ た 。 こ の 受 容 行 動 は, 実 際 に 性 交 渉 の 相 手 か ら コ ン ドー ム を 使 い た く な い と い わ れ た り,そ れ に 類 す る非 言 語 的 反 応 を さ れ た り し た 経 験 に 基 づ い て い る こ と が 多 い 。 司 会:実 際 い わ れ た こ と あ る?(コ ン ドー ム)使 わ ん ほ う が い い と か 。 G5A:う ん 。 使 わ ん ほ う が い い っ て い わ れ た 。 G5K:う ん 。 つ け た ら,気 も ち よ さ が ち ょ っ と 減 る み た い 。 あ ま り男 っ て つ け た が ら ん よ ね 。 G5T:つ け ん ほ う が 気 も ち い い っ て い う 。 コ ン ドー ム を 使 っ て ほ し い と相 手 に い え る女 性 で も,恥 ず か し さ,恋 愛 感 情,相 手 を 失 う こ と へ の 恐 れ が 中 心 的 な 問 題 で あ る 場 合,そ の よ う に い わ な い こ と が あ る と い う報 告20)と 軌 を 一 に す る こ の 結 果 は,予 防 の デ ザ イ ン に お い て 重 要 な 意 味 を も っ て い る。 と い う の も,Health Belief Modelや,Theory of Reasoned Actionな ど の 個 人 的 合 理 決 定 モ デ ル(individual rational decision-making models)の 限 界 を 示 唆 す る も の だ か ら で あ る。 個 人 的 合 理 決 定 モ デ ル が 注 目 す る,個 々 人 のHIV/STD の 予 防 学 的 情 報 や コ ン ドー ム 使 用 意 図 な ど の 個 人 的 特 性 (trait-like characteristics)は,対 等 な2者 が 主 体 的 か っ 理 性 的 に 判 断 し て 合 意 で き る状 況 が 前 提 と な っ て い る20)。 し か し,現 実 の 性 的 状 況 や 関 係 性 は,本 研 究 の 結 果 が 示 す よ う に 必 ず し も平 等 か っ 理 性 的 な も の で は な い 。 予 防 の 知 識 を 身 に つ け,コ ン ドー ム の 使 用 意 図 が 高 く な っ て も,行 動 に 移 せ る か ど う か は 状 況 に 強 く左 右 さ れ る。 従 っ て,知 識 や 意 図 と い っ た 個 人 的 特 性 よ り も,各 性 交 渉 や 性 関 係 の 状 況 的 特 性(state-like characteristics)20)ま た は 出 来 事 に 特 有 な 要 因(event specific factors)を 明 ら か に す る ほ う が,コ ン
ドー ム 使 用 の よ り よ い 指 標 と な る と い う指 摘 が あ る21)。 (3) <独 自 の 避 妊 意 識> 相 手 男 性 が コ ン ドー ム を 使 お う と し な け れ ば,女 子 高 校 生 た ち は コ ン ドー ム を 使 用 し な い 性 交 渉 を 重 ね て い く こ と に な る が,そ の 過 程 で<独 自 の 避 妊 意 識>が 確 立 さ れ る 。 そ の1つ が,難 妊 体 質 信 仰 で あ る 。 こ の 信 仰(belief)は, 妊 娠 を 気 に し な が ら も膣 内 射 精 を 一 定 期 間 く り返 し,妊 娠 し な か っ た こ と か ら 自分 は 妊 娠 し に く い 体 質 な の だ と信 じ る よ う に な る こ と で あ る。 例 え ば 相 手 と 「7ヵ 月 間 つ き あ っ た け ど,ぜ ん ぜ ん 中 だ し と か も あ っ た け ど,妊 娠 し な か っ た か ら」 〔G4S〕 と い っ た 理 由 で,コ ン ドー ム を 使 わ な く な っ て い る。 G1Z:1年 っ き あ っ た 彼 氏(と の 間 で は 生 理 が 遅 れ る と か)
H Yamazaki et al: Social Interactions for Non-use of Condoms among High School Girls in Provincial Japan な か った けん,ぜ ん ぜ ん(コ ン ドー ム)つ けな か っ た。 司会:そ れ で ぜ ん ぜ ん 大 丈 夫 だ っ た? GIZ:う ん。 だ けん 安 心 感 が あ るん で す よ,自 分 は(子 供 が)で きに くい体 だ み た い な 。 ま た,以 前 に交 際 して い た 男 性 が,コ ン ドー ム を 使 わ な か った た め に過 去 に女 性 を妊 娠 させ て しま った が,自 分 の 場 合 は妊 娠 しな か った こ とか ら,体 質 的 な違 い を相 手 に指 摘 さ れ るケ ー ス もみ られ る。 例 え ば,「(子 供 が)で きん 体 とか な と思 う。前 の彼 氏,妊 娠 させ た こ とあ った けん,『 多 分 で きに くか と思 うよ』 とい わ れ て,で きに くい か な と, 自分 で(思 った)」 〔G6M〕 とい って い る。 この よ うに,コ ン ドー ム を使 わ な くて も案 外 と妊 娠 しな い こ とを,彼 女 た ち は経 験 的 に学 習 し,自 分 な りの確 信 を深 め て ゆ く。 一 方,女 子 高 校 生 が膣 外 射 精 で も比 較 的妊 娠 しに くい と い う経 験 的 な認 知 に至 るの が,外 だ し避 妊 の認 知 で あ る。 現 に研 究 参 加 者 の多 くが 「ほ とん どふ っ う外 だ し しか 実 行 しよ らん 〔G6M〕」 と い うの が 現 状 で あ り,相 手 が精 子 を 「(膣の)中 に 出 さ ん か っ た らい い か な,っ て 考 え(て い る)」 〔G1A〕 と い う。 た だ し,外 だ し避 妊 の認 知 に は個 人 差 が み られ た。 膣 外 射 精 を して い て も生 理 が遅 れ る と妊 娠 が心 配 に な る者 が い る一 方 で,そ れ を膣 内射 精 に比 べ て ず っ と効 果 の高 い避 妊 法 とみ て い る者 もい た。後 者 は,「男 って バ カ だか ら,や り お った ら理 性 な くな る よ ね 〔G6C〕」と彼 氏 の膣 内射 精 を容 認 して い る友 人 に対 し,彼 女 た ち の交 際相 手 が若 い(高 校 生)た め に近 視 眼 的 で あ り,社 会 人 で あ る 自分 の彼 氏 の よ うに 「ち ゃん と世 の 中 ば見 据 え」 〔G6M〕,将 来 を考 え て膣 外 射 精 に よ る避 妊 を して い な い と主 張 して い る。 これ ら<独 自 の避 妊 意 識>は,コ ン ドー ム を使 わ な い 性 行 為 を継 続 させ,そ れ に よ りさ らに 自分 た ち の意 識 の確 信 を深 め る とい う悪 循 環 を起 こ し,コ ン ドー ム不 使 用 を 定 着 化 させ て しま って い た。 この結 果 は,他 の避 妊 法 が あ る と きは コ ン ドー ム が使 わ れ な い とい うDe Visser & Smith20) やRosenthalら21)の オ ー ス トラ リア に お け る研 究 結 果 と重 な って い る。た だ,本 研 究 が対 象 と して い る地 方A県 の女 子 高 校 生 の場 合,オ ー ス トラ リア の 同年 代 の よ うに,ピ ル や ペ ッサ リー とい った コ ン ドー ム以 外 に入 手 が比 較 的簡 単 な避 妊 法 が 少 な い た め,難 妊 体 質 信 仰 や外 だ し避 妊 の認 知 と い った<独 自 の避 妊 意 識>を 発 達 さ せ た と推 測 さ れ る。 今 ま で以 上 に ピル そ の ほ か の避 妊 具 が オ ー ス トラ リア の よ う に入 手 しや す くな れ ば,そ れ らが<独 自の 避 妊 意 識 >に 基 づ い た実 践 に取 って 代 わ るだ け で,結 局 女 子 高 校 生 た ち は コ ン ドー ム を使 わ な い とい う可 能 性 は十 分 に考 え られ る。 難 妊 体 質 信 仰 と外 だ し避 妊 の認 知 は,こ れ ま で の性 交 渉 の 相 手 が 多 い者 ほ ど コ ン ドー ム を使 わ な い,と い う我 々 の 知 見 に 対 す る ひ とっ の説 明 と な り う る。 地 方A県 の 女 子 高 校 生 で,4人 以 上 と性 経 験 が あ る者 の過 去3ヵ 月 に お け る コ ン ドー ム常 用 率 は わず か2割 で あ る の に対 して,1人 しか な い者 の常 用 率 は5割 で あ り,相 手 の数 と コ ン ドー ム 常 用 率 は逆 相 関 関 係 に あ る6)。この 逆 相 関 関 係 を 導 くの が, 経 験 的 に徐 々 に形 成 され て ゆ く難 妊 体 質 信 仰 と外 だ し避 妊 の 認 知 で あ る可 能 性 が あ る。 予 防教 育 の観 点か らす れ ば,こ れ ら<独 自の避 妊 意 識> が 成 立 して しま う前 に,適 切 な コ ン ドー ム使 用 を習 慣 化 す る以 外 に い ま の と こ ろ高 い確 率 で 望 ま な い妊 娠 やHIV/ STDを 予 防 で き る方 法 は な い,と い った メ ッセ ー ジを女 子 高 校 生 た ち に十 分 伝 えて お く必 要 が あ る。 (2) サ ブプ ロセ スA 卒 業 を 控 え る3年 生 の 中 に は,交 際 相 手 が 社 会 人 で あ り,妊 娠 した ら結 婚 す れ ば よ い の で<妊 娠 して もか ま わ な い>と い う者 が い る。 ま た,コ ン ドー ム を買 うの が恥 ず か しい と感 じさせ る状 況 な ど の<購 入 阻 害>要 因 が働 き,彼 女 た ち 自身 が 買 う こと は稀 で あ る。 さ らに,仮 に コ ン ドー ムが 使 わ れ て も,ゴ ム臭 さ や不 快 感 か ら彼 女 た ち 自身 が <コ ン ドー ム嫌 悪>に 陥 り,使 わ な くな る こ とが あ る。 (1) <妊 娠 して もか ま わ な い> 望 まな い妊 娠 に対 す る不 安 が 聞 か れ る一 方 で,と くに3 年 生(17-8歳)の あ いだ で,<妊 娠 して もか まわ な い>,ま た は妊 娠 した い と い った よ うな発 言 が数 人 か ら聞 か れ た。 そ の ほ とん どが,妊 娠 ・出産 を契 機 に交 際相 手 との結 婚 を 希 望 して い る た め,彼 女 た ち に と って妊 娠 は も う 「望 ま な い こ と な い」〔G7M〕 もの に な って お り,リ ス クで は な く な って い た。 彼 女 た ち の交 際 相 手 の多 くは社 会 人 で あ り, あ る程 度,生 活 面 につ いて 妊 娠 後 の保 障 が あ るケ ー ス が ほ とん どで あ っ た。 例 え ば,「 も しい ま妊 娠 した ら結 婚 す る。 結 婚 して 産 む け ど。 い ま の彼 氏 だ った らね,(社 会 人 だ か ら)生 活 力 もあ る し」 〔G6M〕 と語 って い た。 また,年 上 で あ る社 会 人 を交 際 相 手 に希 望 す る理 由 と し て,彼 らは 「働 いて る し,し っか り して る と ころ が あ りそ うだ か ら,年 上 だ っ た らや っぱ り(コ ン ドー ム)っ けな く て も,で き ち ゃ った と きに安 心 が(あ る)」 〔G4S〕 と い う。 さ らに,た とえ 望 ま な い妊 娠 で あ った と して,人 工 妊 娠 中 絶 を しな い よ うに親 か らい わ れ て い る ケ ー ス も数 例 み ら れ た 。例 え ば,「子 ど もで きた ら,ぜ った い お ろ す な とい わ れ て い る。 お母 さん が 育 て る けん って い う」 〔G3A〕。 これ は,交 際 相 手 が 社 会 人 で あ る と い う もの とは異 な った形 の 妊 娠 後 の 保 障 で あ る。 この よ う な女 子 高 校 生 た ち に コ ン ドー ム使 用 を啓 発 す る 場 合 は,妊 娠 を 心 配 す る大 半 の女 子 高 校 生 とは異 な る戦 略
The Journal of AIDS Research Vol. 7 No. 2 2005 を と らね ば な ら な い 。 (2) <購 入 阻 害> しか し,大 方 の 女 子 高 校 生 に と っ て,や は り望 ま な い 妊 娠 は 切 実 な 問 題 で あ る 。 そ れ な ら ば,そ も そ も コ ン ドー ム を 入 手 して 常 備 す る な ど の 方 策 が 思 い 浮 か ぶ が,彼 女 た ち 自 身 が コ ン ドー ム を 購 入 す る こ と は 少 な い 。 ま ず,コ ン ドー ム 購 入 時 の 恥 ず か し さ が,入 手 を 難 し く して い る と い う。 と く に,店 員 の 性 別 が 男 性 で,店 内 に 人 が 多 い と き は 抵 抗 が 大 き い 。 例 え ば,コ ン ビ ニ で コ ン ドー ム を 購 入 し た1人 の 参 加 者 は,買 っ た と き 「店 員 が 女 で, 人 が お ら ん や っ た け ん,あ ん ま り恥 ず か し く な か っ た け ど,で も男 と か,人 が い っ ぱ い い た ら買 え ん 」 〔GIB〕 と 語 っ た 。 ま た,た と え コ ン ド ー ム の 自 動 販 売 機 で あ っ て も, 「恥 ず か し く て 無 理 ね 。 … … 私,人 を 気 に す る か ら だ め 」 〔GIZ〕 と い う。 こ の 恥 ず か し さ に 加 え て,女 子 高 校 生 た ち の ジ レ ン マ は,コ ン ドー ム の 高 い 定 価 と逆 に 安 売 り し て い る コ ン ド ー ム の 品 質 へ の 疑 い で あ っ た 。 たか G1B:ゴ ム 高 か 。 だ か ら 買 わ ん 。 G1A:12個 で1,000円 っ て 感 じ。 だ け ん 買 う 気 せ ん さ 。 安 売 り で 買 え ば い い た い 。 で も安 売 り で 買 っ た ら(使 用)期 限 切 れ て す ご い 怖 い 。 G1B:100均(100円 均 一 シ ョ ッ プ)の ゴ ム と か ち ょ っ と や ば そ う じ ゃ な い?…… G1A:信 用 な い っ て,ぜ っ た い100均 と か 。 G1Z:で も(定 価 と か で は)高 い け ん ね 。 (3) <コ ン ドー ム嫌 悪> 仮 に コ ン ドー ム を 使 っ た 性 交 渉 に 至 っ て も,使 用 時 に 感 じ た 痛 み や 不 快 感 経 験 か ら,コ ン ドー ム 使 用 を 自 ら回 避 す る行 動 も 見 ら れ た 。 と く に 痛 み に 対 す る 嫌 悪 反 応 は 多 か っ た 。 G6C:(コ ン ドー ム)っ け た ら さ,痛 い こ と な い? G6R:あ あ,す れ る 。 司 会:で も,あ ん ま り使 っ た こ と な い で し ょ う? G6C:何 回 か 使 っ た こ と あ る け ど,痛 か っ た 。 G6G:な ん か 違 う ね 。 G6R:う ん 。 ナ マ の ほ うが い い よ ね 。 痛 み の 原 因 と して は 「2回 目 と か の と き は,す ご い 痛 い 〔G4S〕」 と い う訴 え も あ っ た こ と か ら,性 行 為 を 続 け て 複 数 回 行 う こ と が 一 因 と して 示 唆 さ れ て い る。 そ の 他 に 考 え られ る 要 因 と して,例 え ば 前 戯 不 足 の た め に,膣 分 泌 液 が 不 十 分 とい った こ と もあ り得 るが,こ れ ま で の参 加 者 自身 か らそ の よ うな言 及 はな く,今 後 の調 査課 題 で あ る。 痛 み に加 え て,ペ ニ スが 膣 に 「す ぐ入 らん 」 〔G5K〕 で あ る と か,「 な ん か 感 覚 が あ ま り好 き じ ゃ な い」 〔G4S〕 と い った不 快 感 が語 られ た 。 ま た,痛 み や 不 快 感 以 上 に顕 著 な の が,ゴ ム臭 の 嫌 悪 で あ る。 く さ G1A:(香 り つ き コ ン ド ー ム を 使 っ て い る)今 で も ゴ ム 臭 くさ か こ と が あ る 。 臭 か っ た ら嫌 だ な と 思 う。 し た 後 に くさ も 臭 い た い 。 G1Z:こ も る ね 。 G1Y:鼻 に つ く 。 に お G1A:ゴ ムの 臭 いが す る た い,そ れ が いや や けん 。 この ゴ ム臭 が,材 質 や 精 液 に 由来 す る もの な のか,ま た は心 理 的 な 作 用 に よ る もの な のか も明 らか で な く,こ の点 の 解 明 も<コ ン ドー ム嫌 悪>を 改 善 す る一 端 と な り うる。 さ らに,一 般 的 に コ ン ドー ム は,ゴ ム臭 の嫌 悪 の他 に そ の 特 性 自体 に 由来 す る嫌 悪 条 件 を も って い る。 例 え ば,コ ン ドー ム の 「ヌ メ ヌ メ が だ め な ん で す」 〔G4M〕 や 「(ペニ スか ら)取 る と きが い や だ 。始 末 が い や だ」 〔G7H〕 とい っ た感 触 の不 快 感 や扱 い に くさ が語 られ た。 不 快 感 で あれ 痛 み で あ れ,彼 女 た ち の反 応 は相 手 男 性 の コ ン ドー ム使 用 嫌 悪 の言 説 と重 な る と ころ が多 く,そ の影 響 を視 野 に入 れ た さ らな る考 察 が必 要 だ と思 わ れ る。 (3) サ ブプ ロ セ スB 女 子 高 校 生 た ちが 仮 にSTDに 関心 を も った と き で も, ア ク セ ス で きる<予 防学 的情 報 の不 足>か ら,STD予 防 か らす る と正 し くな い,コ ン ドー ムを使 わ な い<独 自の予 防 認 識 〉を形 成 し,や は り不 使 用 に終 わ って しま う。 (1) <予 防学 的情 報 の不 足> <治 る性 病 よ り直 らな い妊 娠>と い う認 識 が主 流 で はあ る が,女 子 高 校 生 た ち がSTDに つ い て 心 配 に な っ た り関 心 を も った りす る こ と もあ る。そ の 際,STDに 関 す る彼女 た ち の情 報 源 は,雑 誌,イ ンタ ー ネ ッ ト,口 コ ミな どの一 般 情 報 と学 校 に お け る性 教 育 な どが 挙 げ られ て いた が,実 際 に予 防 学 的 情 報 が 性 教 育 で と りあ げ られ る こ と は少 な く,一 般 情 報 へ の依 存 が よ り強 い。 司会:学 校 で(STDの こ と)習 った? G7H:習 って な い。 G7M:雑 誌 とか よ ね,ほ とん ど。 人 に聞 いた り とか 。 司 会:雑 誌 って ど ん な雑 誌? G7M:ふ っ うの 女 性 雑 誌 。
H Yamazaki et al: Social Interactions for Non-use of Condoms among High School Girls in Provincial Japan ま た,STDが 性 教 育 で と りあ げ られ る場 合 も,リ ス ク認 知 に つ な が り得 るよ うな具 体 的情 報 の不 足 が み られ る。 例 え ば,STDに つ いて 「具 体 的 に は習 っ と らん け ど,ち ょこ ち ょ こね」 〔G2A〕 で あ る とか,「 こ うい う病 気 にな り ます よ,こ うい う病 気 が あ りま す よ,と い う感 じで しか 習 って い な い」 〔G1Y〕 とい う発 言 が 聞 か れ た。 この よ うに 具 体 的 なSTDの<予 防 学 的 情 報 の 不 足>が み られ,一 般 情 報 に依 存 して い る状 況 で は,特 定 の相 手 と の性 交 渉 で もSTDに 罹 患 す る可 能 性 が あ る,ま た は症状 が 出 な いSTDが あ る,と い った 予 防 学 的 な情 報 が 共 有 さ れ て い なか った。 (2) <独 自 の予 防 認 識> 予 防 学 的 情 報 の不 足 の た め に研 究 参 加 者 の女 子 高 校 生 た ち は,一 般 情 報 と 自分 の体 験 を もと に,STDに 対 す る<独 自 の予 防 認 識>を 形 成 す る に至 って い た。例 え ば,STDは 「不 潔 に して い る人 」〔G2M〕 が 罹 患 して い た り,「清 潔 に し て な い と き」 〔G1Y〕 に感 染 した りす るの で,相 手 や 自分 の 性 器 を 清 潔 に して 予 防 で き る と考 え られ て い た。 ま た,自 分 は性 交 渉 の 相 手 が 彼 氏 だ けで あ り,彼 氏 も自 分 だ けで あ るか ら,相 手 を 特 定 して 予 防 して い る と い う認 識 もみ られ た 。つ ま り,STD感 染 は不 特 定 の 相 手 と の性 交 渉 に よ って 起 こ る と考 え られ て い る た め,「 と りあ え ず 知 らな い や つ と は(セ ック ス)し な い ほ うが い い」 〔G7K〕 と 考 え られ て い た 。 性 交 渉 の相 手 を 特 定 して 予 防 で き る とす る彼 女 た ち に は,自 分 た ち が性 的 ネ ッ トワー クの うち で 性 交 渉 を も って い る とい う認 識 が 希 薄 で あ るの が うか が え る。若年層 にお け る初 交 年 齢 の早 期化,パ ー トナ ー数 の 増 加,交 際 を 開 始 して か ら セ ッ ク ス に い た る ま で の期 間 の短 縮 化 な ど に よ り,性 的 ネ ッ トワ ー ク は拡 大 の一 途 を た ど って い る22)。こ の状 況 を,女 子 高 校 生 た ち が 自分 た ち を と りま く現 状 と し て 認 識 で き る よ うな か た ち で,予 防 情 報 を 提 供 す る こ と は,避 妊 目 的 に 限定 さ れ な い コ ン ドー ム使 用 を推 進 す るた め に欠 か せ な い要 素 の1つ で あ ろ う。 さ らに,外 見 か らSTD罹 患 者 を 識別 で き るの で,彼 ら と の セ ック ス を避 け る こ とで,自 分 がSTDに 罹 るの を避 け る こ とが で き る(識 別 して予 防),と い う認 識 が み られ た。 例 え ば,外 見 が 清 潔 そ うで あ れ ば,性 交 渉 を も って も 「大 丈 夫 そ う じゃ ん,わ り と」 〔G2M〕 と み な さ れ た り,「 病 弱 っ ぽ い人 とか,や りチ ンぽ い人 はい や」 〔G6C〕 と判 断 さ れ た り して い た。 た だ し,こ の よ うな判 断 に懐 疑 的 な参 加 者 もお り,STD の予 防 法 と して 「や ば そ うな や つ と は しな い 」〔G6M〕 とい う友 人 の主 張 に対 して,「 顔 じ ゃわか らん て」 〔G6G〕 と反 論 して い た。 こ の認 識 に対 して 今 後 さ らに検 討 す べ き は,女 子 高 校 生 た ちが 行 う識 別 で は,外 見 と評 判 の ど ち らが よ り実 際 に は 重 要 な基 準 に な っ て い る の か で あ る。 前 述 のHillerら が 行 っ た研 究 で も,識 別 して 予 防 と同 じ現 象 が 見 られ た が, 研 究 参 加 者 は外 見 よ り も評 判 にや や 重 点 を置 いて い た19)。 い ず れ に して も,こ れ らが 相 互 排 他 的 で な く,密 接 に関 連 した2要 素 で あ る可 能 性 も視 野 に入 れ て分 析 を し,結 果 に 基 づ い て 対 処 法 を 考 え て ゆ く必 要 が あ る。 また,最 近 若 者 の 間 で 流 行 して い る性 器 ク ラ ミ ジア感 染 症 の よ う に,症 状 が 出 に くいSTDが あ り,そ れ らが 基 本 的 に コ ン ドー ム使 用 や 非 挿 入 型 の 性 交 渉 の実 践 に よ って 防 げ る(た だ しコ ン ドー ムを 使 わ な い オ ー ラル セ ック スで は感 染 の 可 能 性 が あ る),と い う予 防 情 報 を十 分 に女 子 高 校 生 に提 供 す る こ と も,彼 女 た ち に 自 らの 性 の健 康 を維 持 して も ら う上 で も重 要 で あ ろ う。 限 界 本 研 究 の 限界 は,4つ あ る。 ま ず,実 施 され たFGIが,本 来 「な ぜ地 方A県 の 女 子 高 校 生 は性 交 渉 に お い て,コ ン ドー ムを 使 わ な い よ う に な っ て しま うの か」 とい うテ ー マ を 明 らか にす る こ とが 主 目的 で は な く,実 施 さ れ た(ま た は実 施 予 定 の)予 防 介 入 教 育 に対 す る評 価 と,そ の デ ザ イ ンに お い て参 考 にな る,彼 女 た ち の性 意 識 ・性 行 動 の 現 状 を 探 る こ とが,主 な 目的 で あ っ た。 従 って,分 析 の深 み と幅 に 限定 が あ る。 ま た,女 子 高 校 生 自身 が性 交 渉 を どの よ うな もの で あ る べ き と考 え て い る の か(性 規 範)-例 え ば,男 性 が イ ニ シア チ ブ を とるべ き もの,な ど-が 十 分 に調 査 され て い な い。 こ の点 が 不 十 分 で あ るた め に,コ ン ドー ムの<使 用 は相 手 次 第>に な って しま う現 状 に 関 す る考 察 が 限定 的 に な って い る。 以 上2点 は,デ ー タ収 集 が 既 に終 了 して し ま った 後 か ら分 析 を開 始 した た め に,追 加 デ ー タの収 集 に よ る理 論 的 サ ンプ リ ングが で き なか った とい う,本 研 究 の 限 界 に基 づ いて い る。 さ らに,コ ン ドー ム の使 用 ・不 使 用 は,2者 の具 体 的 な 関 係 性 に よ る と こ ろが 大 き い ことか ら,FGIだ け で な く, イ ンデ プ ス ・イ ンタ ビュ ー に よ って,性 交 渉 相 手 との具 体 的 な 関 係 の 進 展 につ いて 詳 細 な情 報 を個 別 に収 集 す る必 要 が あ る と考 え られ る。 例 え ば,相 手 と の恋 愛 関 係 が ど の よ うに始 ま り,ど の よ うな 経 緯 を 経 て 初 交 に至 った の か,そ して い っ 頃 か ら どの よ う な き っか けで コ ン ドー ム を使 わ な い よ うに な った の か な ど,初 交 経 験 の イ ンパ ク トや時 間 的 な変 化 を捉 え られ れ ば,よ り詳 し くコ ン ドー ム不 使 用 に関 す るプ ロセ ス を理 解 で き るで あ ろ う。 最 後 に,全 研 究 参 加 者41名 の うち,自 己報 告 に よ って 判 明 した21名(う ち3年 生17名)の 性 交 渉 の相 手 が平 均4 人 以 上 で あ った こ とか ら,本 研 究 の 対 象 と な っ た の は,地
The Journal of AIDS Research Vol. 7 No. 2 2005 方A県 の高 校 生 の 性 交 経 験 者 の 中 で も,比 較 的 経 験 の多 い層 に相 当 す る。 同県 で 同年 に実 施 した一 部 の高 校 の3年 生 女 子 の性 行 動 調 査(n=287)で は,女 子 生 徒 の約37.6% が性 交 経 験 を もち,そ の 中 で25.2%(全 女 子 生 徒 の9.5%) が4人 以 上 の経 験 者 で あ った こ とか ら,本 研 究 の知 見 は と くに この層 に該 当す るで あ ろ う。た だ し,こ の 層 の 中 で も, 本 研 究 で は ス ノ ー ボ ー ル ・サ ンプ リン グに よ って,と くに 養 護 教 諭 とっ な が りを もっ(保 健 室 に相 談 に訪 れ る)生 徒 を 中心 に リク ル ー トして い るた め,そ うで な い生 徒 を調 査 した場 合,大 幅 に異 な る性 意 識 や性 行 動 が語 られ る可 能 性 が あ る。 この こ とは,我 々 が最 近 別 の 自治 体 で行 った女 子 高 校 生 た ち のFGIで は,コ ン ドー ム 使 用 を 相 手 の男 性 に 依 存 しな い,非 常 に 自立 的 な態 度 が 語 られ て い る こ とか ら も想 像 さ れ る。従 って,本 研 究 の結 果 は,地 方A県 女 子 高 校 生 の 中で も,一 部 の性 的 に活 発 な女 子 高 校 生 の状 況 を反 映 す るが,全 国 の女 子 高 校 生 に一 般 化 で きる知 見 で は な い こ とに,十 分 な注 意 が 必 要 で あ る。 結 論 と 展 望 本 論 で は,女 子 高 校 生 の コ ン ドー ム不 使 用 に限 定 した分 析 を行 った。 しか し,そ れ で も彼 女 た ちが コ ン ドー ム不 使 用 に至 って しま うプ ロ セ スが,い か にHIV/STDに まつ わ る知 識 ・意 識 ・行 動 のみ に限 定 され な い,相 互 作 用 的 な複 数 の社 会 ・文 化 的 プ ロ セ スで 構 成 され て い るか が 明 らか に な った。独 自の 避 妊 やSTD予 防 の意 識 や方 法,コ ン ドー ム に対 す る反 応,男 女 間 の 力 関 係,性 交 渉 の統 制 困難 な特 性, そ して 妊 娠 を受 容 す る環 境 な ど,女 子 高 校 生 を取 り巻 く性 文 化 は複 雑 で あ り,こ の性 に まつ わ る複 雑 多 様 な文 化 の解 明 な く して,若 者 に対 す る有 効 な 包 括 的HIV/STD予 防 方 法 や 教 育 を開 発 で き る と は考 え に くい23)。 特 に,日 本 の若 者 の性 交 渉 や 性 関 係 の状 況 的 特 性 を実 証 的 に把 握 す る試 み は十 分 と は いえ ず,今 後 さ らに そ の よ う な試 み に よ る知 見 の 蓄 積 が 必 要 と思 わ れ る。 本 研 究 で 示 さ れ た よ うに,修 正 版M-GTAは 人 と人 と の相 互 作 用 に重 点 をお いて い る た め,性 交 渉 や 性 関 係 にお け る状 況 的 特 性 を 浮 き彫 りにす る の に適 して い る。 今 後 は,地 方A県 女 子 高 校 生 た ち の コ ン ドー ム入 手 プ ロ セ ス な ど につ いて,分 析 を 進 めて ゆ く。 ま た,女 子高校 生 に加 え て 男 子 高 校 生 につ いて も分 析 し,コ ン ドー ム不 使 用 を中 心 と した男 女 高 校 生 の 多 様 な性 文 化 を 包 括 的 に把 握 し,予 防 教 育 の 現 場 に資 す る知 見 の 生 成 を 試 み た い。 謝 辞:本 研 究 のFGIに 際 し,参 加 して くだ さ っ た女 子 高 校 生 の 方 々,実 施 に快 くご協 力 くだ さ っ た高 等 学 校 ・大 学 な らび に地 域 保 健 行 政 関 係 者 各 位 に,深 甚 の 謝 意 を 表 しま す 。 ま た,ス ーパ ーバ イザ ー と して 随 時 ご指 導 くだ さ っ た 立 教 大 学 社 会 学 部 の 木 下 康 仁 先 生,草 稿 に 有 益 な コ メ ン ト を く だ さ っ た コ ロ ン ビ ア 大 学 人 類 学 科 のCarol S. Vance先 生 並 び に ア ム ス テ ル ダ ム市 立 大 学 文 化 人 類 学 科 のHan ten Brummelhuis先 生 に も,厚 く御 礼 申 し上 げ ま す 。 文 献
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