幾 何 学 序 論
福井 敏純
2010
年1
月6
日i
目次
第
1
章 曲線1
1.1
曲線の定義と例. . . . 1
1.2
弧長変数. . . . 6
1.3
曲率. . . . 11
1.4
伸開線と縮閉線. . . . 18
1.5
包絡線. . . . 21
1.6
閉曲線. . . . 25
1.7
空間曲線. . . . 33
第
2
章 曲面39 2.1
曲面の定義と例. . . . 39
2.2 1
階偏微分と第1
基本形式. . . . 41
2.3 2
階偏微分と第2
基本形式. . . . 44
2.4
曲面上の曲線と曲面の曲率. . . . 48
2.5
回転面の曲率. . . . 53
2.6 3
階偏微分と曲面論の基本定理. . . . 56
2.7
測地的極座標とガウス・ボンネの定理. . . . 59
2.8
曲面のいろいろな座標. . . . 66
2.9
世界地図. . . . 73
2.10
双曲平面. . . . 77
あとがき
83
索引
86
1
第
1
章曲線
日常では、曲線はまっすぐではない曲がった線、つまり直線ではない線を意味する語で ある。しかしながら、数学では、曲線はその特別な場合として直線や線分を含む概念で ある。
1.1
曲線の定義と例■曲線の径数表示
I
を区間として、連続写像γ : I → R 2
を曲線(curve)
という。平面R 2
内の曲線であるから、平面曲線と呼ぶこともある。日常語の語感からいえば、写像γ
の像を曲線と呼ぶのが自然かもしれないが、数学では、写像γ
自身のことを曲線と呼ぶの が慣用である。一般に、連続写像γ : I → R n
を曲線(curve)
という。正確にはR n
内の 曲線である。R 2
内の曲線は平面曲線と呼ぶのに対し、R 3
内の曲線は空間曲線と呼ばれ る。さらに一般にR n (n ≥ 3)
内の曲線を、空間曲線と呼ぶこともある。γ
の時刻t
による微分γ .
を速度、γ
の時刻t
による2
階微分.. γ
を加速度という。■曲線の陰関数表示 原点を中心とする半径
1
の円の方程式は、x 2 + y 2 = 1
である。こ れは方程式x 2 + y 2 − 1 = 0
が定める曲線と言うことができる。このように、方程式を 使って曲線を表すことは、しばしば行われる。{(x, y) ∈ R 2 : f (x, y) = 0}
の形で、曲線を表すやり方を、曲線の陰関数表示という。
■関数のグラフとしての曲線
f(x)
をx
を変数とする関数とし、そのグラフy = f(x)
は曲線をあらわす。この曲線を径数表示するとt 7→ (t, f (t))
となる。陰関数表示をすると次のようになる。
{(x, y) : y − f (x) = 0}
例
1.1.1.
楕円の径数表示と定義方程式は次で与えられる。θ 7→ (a cos θ, b sin θ), x 2 a 2 + y 2
b 2 = 1
楕円
(a = 2, b = 1)
-
6
双曲線(a = 2, b = 1)
- 6
例
1.1.2.
双曲線の径数表示と定義方程式は次で与えられる。θ 7→ (a cosh θ, b sinh θ), x 2 a 2 − y 2
b 2 = 1
例
1.1.3.
レムニスケート(lemniscate)
は次の定義方程式で与えられる曲線である。(x 2 + y 2 ) 2 = a 2 (x 2 − y 2 )
レムニスケート(a = 1)
- 6
シッソイド
(a = 1)
- 6
ストロフォイド
(a = 1)
- 6
例
1.1.4.
シッソイド(cissoid)
は次の定義方程式および径数表示で与えられる曲線である。
x 3 + (x − a)y 2 = 0 x = at 2
1 + t 2 y = at 3 1 + t 2
例
1.1.5.
ストロフォイド(strophoid)
は次の定義方程式および径数表示で与えられる曲 線である。葉形線とも呼ばれる。(x + a)x 2 + (x − a)y 2 = 0, x = a(t 2 − 1)
t 2 + 1 y = at(t 2 − 1)
t 2 + 1
1.1
曲線の定義と例3
■
擺線
とその仲間 転がる円が描く軌跡を紹介しよう。例
1.1.6.
サイクロイド(cycloid,
はいせん擺線)
は次の径数表示で与えられる曲線である。半径r
の円がx
軸上滑ることなく転がるとき、この円上の定点が描く軌跡である。θ 7→ r(−θ − sin θ, 1 − cos θ)
サイクロイドは次の微分方程式の解でもある。dy
dx = sin θ 1 − cos θ
- 6
例
1.1.7.
トロコイド(trochoid,
余擺線よはいせん)
は次の径数表示で与えられる曲線である。半径r
の円がx
軸上滑ることなく転がるとき、動円の中心から距離lr
にある定点が描く軌跡 である。θ 7→ r(θ − l sin θ, 1 − l cos θ)) r = 1, l = 1 2
- 6
r = 1, l = 3 2
- 6
例
1.1.8.
半径r
の円が半径kr
の円周上滑ることなく転がるとき、動円上の定点が描く軌跡をエピサイクロイド
(epicycloid,
がいはいせん外擺線)
といい、次の径数表示で与えられる。θ 7→ r(k + 1) µ
cos θ − cos(k + 1)θ
k + 1 , sin θ − sin(k + 1)θ k + 1
¶
k
が有理数なら閉曲線で、これを既約分数p/q
の形に書いたときp
個の尖点がある。k
が 無理数なら閉曲線でない。k = 3, r = 1 k = 5/3, r = 1 k = 3, r = 1, l = 2 k = 5/3, r = 1, l = 3 2
例
1.1.9.
エピトロコイド(epitrochoid,
外余擺線がいよはいせん)
は次の径数表示で与えられる曲線で ある。半径r
の円が半径kr
の円周に外接しながら滑ることなく転がるとき、動円の中心 から距離lr
にある定点が描く軌跡である。θ 7→ r(k + 1) µ
cos θ − l cos(k + 1)θ
k + 1 , sin θ − l sin(k + 1)θ k + 1
¶
例
1.1.10.
半径r
の円が半径kr
の円周に内接しながら滑ることなく転がるとき、動円上の定点が描く軌跡をハイポサイクロイド
(hypocycloid,
ないはいせん内擺線)
といい、次の径数表示で 与えられる。θ 7→ r(k − 1) µ
cos θ + cos(k − 1)θ
k − 1 , sin θ − sin(k − 1)θ k − 1
¶
例
1.1.11 (
星芒形(asteroid)).
ハイポサイクロイドでk = 4
のときはアステロイド(
星 芒形)
と呼ばれ、次のような表示をもつ。θ 7→ a(cos 3 θ, sin 3 θ), x
23+ y
23= a
23k = 4, r = 1 k = 5 2 , r = 1 k = 4, r = 1, l = 3 2 k = 5 2 , r = 1, l = 1 2
例
1.1.12.
ハイポトロコイド(hypotrochoid,
内余擺線ないよはいせん)
は次の径数表示で与えられる曲 線である。半径r
の円が半径kr
の円周に内接しながら滑ることなく転がるとき、動円の 中心から距離lr
にある定点が描く軌跡である。θ 7→ r(k − 1) µ
cos θ + l cos(k − 1)θ
k − 1 , sin θ − l sin(k − 1)θ k − 1
¶
スピログラフという玩具を使うと、ハイポトロコイドの絵を描く事ができる。
1.1
曲線の定義と例5
■グリセット 2つの曲線(または直線
)C, D
を考える.長さ一定の線分を用意し,その 上に描画点を固定、線分の一方の端を曲線C
に,もう一方の端を曲線D
に乗るように線 分を動かした時に,描画点の動く曲線のことをグリセット(Glissette)
という。例
1.1.13 (
ワット曲線).
長さ2c
の線分が、一方の端点が(a, 0)
を中心とする半径b
の 円周上に他方の端点が(−a, 0)
を中心とする半径b
の円周上にあるとき、線分の中点が描 く軌跡のことをワット曲線という。蒸気機関を発明したワットである。この曲線の極座標 による表示は、次で与えられる。r 2 = b 2 − (a sin θ ± p
c 2 − a 2 cos 2 θ) 2
Watt curve
」をキーワードにして検索するとWatt
曲線の図を見つける事 ができる■螺線 螺線
(spiral) *1
の仲間を紹介する。例
1.1.14 (
代数螺線). r = aθ k . k = 1
のときはアルキメデスの螺線、k = 1/2
のときは 放物螺線(
またはFermat
螺線)
、k = −1/2
のときはリチュース(Lituus), k = −1
のと きは双曲螺線という。双曲螺線はy = a
を漸近線にもつ。アルキメデス螺線 放物螺線
リチュース
双曲螺線 対数螺線
y = e
θ(0 ≤ θ ≤ π)
θ
が大きくなると原点から急速に離れる。*1 にし螺 とは巻貝のことで、
らせん
螺旋は巻貝の殻の線のように旋回した筋や、
ねじ
螺子の事を指す。広辞苑によると
らせん
螺線とは渦巻状の空間曲線のことであり、平面曲線は
うずまき
渦 巻 と呼んでいる。しかし、対数渦巻、アルキメ デスの渦巻とは言わず、対数螺線、アルキメデスの螺線というのが慣用である。英語では渦巻状の平面曲 線は
spiral
空間曲線はhelix
という。対数螺線はlogarithmic spiral
である。例
1.1.15 (
対数螺線). r = a bθ
の形にかける螺線。アンモナイトや巻貝の形である。渦 巻銀河はしばしばこの形をしている。原点を通る直線と、接線の角度が一定(φ)
である螺 線でもある。φ
を使った表示式はr = e θ cot φ
となる。1.2
弧長変数1.2.1
弧長の定義連続曲線
γ : [a, b] → R 2
に対し、その弧長(arc length)
を定義しよう。a = t 0 < t 1 < · · · < t n = b
なる数列の集合
{t 0 , t 1 , . . . , t n }
を区間[a, b]
の分割といい∆
で表す。L(γ, ∆) = X n
i=1
d(γ(t i−1 ), γ(t i ))
とおく。∆ 0
が∆
の細分のとき、三角不等式よりL(γ, ∆) ≤ L(γ, ∆ 0 )
である。
S(γ)
を近似和L(γ, ∆)
全体のなす集合とする。S(γ)
が上に有界のとき、γ
は 長さを持つといいL(γ) = sup S(γ)
を、曲線γ
の長さ(弧長)という。曲線
γ(t) (a ≤ t ≤ b)
が長さを持てばγ
を[a, t]
に制限して得られる曲線も長さを持 つ。その長さをs(t)
とする。定理
1.2.1. C 0
曲線γ(t) (a ≤ t ≤ b)
が(a, b)
でC 1
でならばγ
は長さをもち、ds dt =
¯ ¯
¯ dγ dt
¯ ¯
¯
証明
. γ (t) = (γ 1 (t), γ 2 (t))
と書く。区間[t, t + h]
での|γ i 0 |
の最大値をM i (t, h),
最小値 をm i (t, h)
とおく。t = s 0 < s 1 < · · · < s m = t + h
なる分割をとると平均値の定理よりγ i (s j ) − γ i (s j−1 ) = γ i 0 (s j−1 + θ i,j (s j − s j−1 ))(s j − s j−1 ) (0 < θ i,j < 1)
なのでm i (t, h) 2 (s j − s j−1 ) 2 ≤ (γ i (s j ) − γ i (s j−1 )) 2 ≤ M i (t, h) 2 (s j − s j−1 ) 2
1.2
弧長変数7
となり、s
X
2 i=1
m i (t, h) 2 (s j − s j−1 ) ≤ s
X
2 i=1
(γ i (s j ) − γ i (s j−1 )) 2 ≤ s
X
2 i=1
M i (t, h) 2 (s j − s j−1 )
を得る。j = 1, . . . , n
に関する和をとるとs
X
2 i=1
m i (t, h) 2 h ≤ X n
j=1
s
X
2 i=1
(γ i (s j ) − γ i (s j−1 )) 2 ≤ s
X
2 i=1
M i (t, h) 2 h
となり、
[t, t + h]
の細分をどんどん細かくした極限を取ると、次を得る。p m 1 (t, h) 2 + m 2 (t, h) 2 ≤ s(t + h) − s(t)
h ≤ p
M 1 (t, ε) 2 + M 2 (t, ε) 2
γ
は(a, b)
でC 1
なのでh → 0
のときM i (t, h), m i (t, h) → γ i 0 (t)
となり、主張を得 る。よって、
C 1
曲線γ : [a, b] → R 2
の弧長l
は、次で与えられる。l = L(γ) = Z b
a
| γ(t)|dt . = Z b
a
q .
x 2 + y . 2 dt
ds = p
dx 2 + dy 2 = q .
x 2 + y . 2 dt
を曲線の線素という。例
1.2.2.
サイクロイドx = a(θ − sin θ), y = a(1 − cos θ) (0 ≤ θ ≤ 2π)
の弧長を求め よ。x . = a(1 − cos θ), y . = a sin θ
より、³ ds dθ
´ 2
=
³ dx dθ
´ 2 +
³ dy dθ
´ 2
= a 2 (1 − cos θ) 2 + a 2 sin 2 θ = 2a 2 (1 − cos θ) = 4a 2 sin 2 θ 2
なので、求める弧長はZ 2π
0
ds
dθ dθ = 2a Z 2π
0
sin θ
2 dθ = 2a h
−2 cos θ 2
i 2π
0 = 8a
例
1.2.3.
楕円x a
22+ y b
22= 1 (a > b > 0)
の弧長は、径数表示x = a cos θ, y = b sin θ
を 用いるとs =4 Z π/2
0
q .
x 2 + y . 2 dθ
=4 Z π/2
0
p
a 2 cos 2 θ + b 2 sin 2 θdθ
=4 Z π/2
0
p a 2 − (a 2 − b 2 ) cos 2 θdθ
=4a Z π/2
0
p 1 − e 2 cos 2 θdθ e =
√ a 2 − b 2 a
この積分は楕円積分と呼ばれ初等関数で表せないことが知られている。弧長を曲線の径数に取ることができる。以下それを説明する。
s(t) = Z t
a
| γ(u)|du .
とおくと、ds
dt = | γ(t)| . > 0
となる。よって、逆写像定理より、
t
をs
の関数と見ることができる。t = t(s)
と書くと、曲線
γ (t)
をs
を径数としてγ(t(s))
のように表すことができる。このように表したとき、s
を弧長変数という。弧長変数s
による微分を0
で表す習慣がある。時間t
に関する微分 を.
で表す。|γ 0 | = 1
となるのは明らかであろう。径数づけをかえても、弧長を表す積分は変わらない。実際、曲線
γ(t) (a ≤ t ≤ b)
を径 数の変換t = t(u) (a = t(α), b = t(β))
で移すととする。dt/du > 0
である。dγ du = dγ dt du dt
なので、Z b
a
¯ ¯ dγ dt
¯ ¯ dt = Z β
α
¯ ¯ dγ dt
¯ ¯ dt du du =
Z β
α
¯ ¯ dγ du
¯ ¯ du
が成り立つ。
定理
1.2.4.
曲線が極座標を用いてC 1
関数r = f (θ) (α ≤ θ ≤ β )
で与えられていると き、その弧の長さは次で与えられる。Z β
α
p r 2 + f 0 (θ) 2 dθ
証明
.
曲線を次のように径数表示する。x = r cos θ = f (θ) cos θ, y = r sin θ = f (θ) sin θ
このときdx = dr cos θ − r sin θdθ dy = dr sin θ + r cos θdθ
なのでds = p
dx 2 + dy 2 = p
(dr cos θ − r sin θdθ) 2 + (dr sin θ + r cos θdθ) 2
= p
dr 2 + r 2 dθ 2 = r
r 2 +
³ dr dθ
´ 2
dθ
となり、結果を得る。1.2
弧長変数9
例1.2.5.
対数螺線r = a θ (θ 1 ≤ θ ≤ θ 2 )
の弧長s
を求めてみよう。ds 2 = r 2 + r 0 2 = a 2θ + a 2θ (log a) 2 = a 2θ (1 + (log a) 2 )
よりs =
Z θ
2θ
1a θ p
1 + (log a) 2 dθ =
p 1 + (log a) 2 log a [a θ ] θ θ
21=
p 1 + (log a) 2
log a [a θ
2− a θ
1] =
p 1 + (log a) 2
log a (r 2 − r 1 )
よって、弧の長さは端点の動径の長さの差に比例することがわかる。演習
1.2.6.
次の曲線の弧長を求めよ。r = a(1 + cos θ), r = aθ (0 ≤ θ ≤ 1)
解8a, a 2 ( √
2 + log(1 + √ 2))
1.2.2
弧長の性質曲線の端点間の距離は弧長を超えることはない。以下それを証明してみよう。
定理
1.2.7.
曲線γ(t) (a ≤ t ≤ b)
に対し、次が成り立つ。|γ(b) − γ(a)| ≤ Z b
a
| γ . (t)|dt
証明
. u = γ (b) − γ (a)
|γ (b) − γ (a)|
と置く。|γ(b) − γ(a)| = hγ(b) − γ (a), ui = Z b
a
h γ . (t), uidt ≤ Z b
a
| γ(t)|dt .
曲線の弧長を知るには、曲線のすべての方向への射影の長さを知ればよい。
CT
スキャ ンの原理の最も簡単な場合である。定理
1.2.8 (
コーシーの積分公式).
長さ有限な曲線γ : [a, b] → R 2
に対しγ θ (t) = hγ(t), uiu, u = (cos θ, sin θ)
とおくと、次が成り立つ。
Z 2π
0
L(γ θ )dθ = 4L(γ)
証明
.
まず、線分についてこの式を示す。長さL
の線分の線分から角度θ
をなす方向への 射影の長さはL| cos θ|
なのでZ 2π
0
L| cos θ|dθ = 4L
となる。後は弧長の定義に戻れば、一般の曲線についても成立することがわかる。実際、
Z 2π
0
L(γ θ , ∆)dθ = 4L(γ, ∆)
であり、γ
が長さ有限なのでγ θ
も長さ有限であるから、sup
½Z 2π
0
L(γ θ , ∆)dθ : ∆
¾
= 4 sup{L(γ, ∆) : ∆}
なので、与式を得る。
γ
は閉曲線のときL(γ θ )
はγ θ
の像の線分としての長さの2
倍である。このとき次のよ うに置く。w min = 1
2 min{L(γ θ )}, w max = 1
2 max{L(γ θ )}.
定理
1.2.9.
閉曲線γ(t)
に対して、πw min ≤ L(γ) ≤ πw max
証明. w min ≤ 1 2 L(γ θ ) ≤ w max
を区間[0, 2π]
で積分して2πw min ≤ 1 2
Z 2π
0
L(γ θ )dθ ≤ 2πw max
定理
1.2.8
より、主張を得る。この定理の不等式で等号がひとつでも成り立てば
L(γ θ )
は定数である。このような閉 曲線を定幅曲線という。各辺の長さが1
の正3
角形の各頂点を中心とする円の円弧の1
部(
角度π/3)
をつかって残り2
頂点間に曲線を引く。こうして得られる図形をルーロー(Reuleaux)
の三角形という。これは定幅曲線である。ルーローの三角形は、幅を固定したとき、定幅曲線で最も小さい面積を持つものとして特徴付けられる。ルーローの三角形 の平行曲線を考えれば滑らかな定幅曲線の例が得られる。正多角形からも同様の構成がで きるが省略する。
1.3
曲率11
1.3
曲率1.3.1
曲率の定義と基本事項γ(t) . 6= 0
のときγ(t)
の単位接ベクトル(unit tangent vector) e
を次で定める.e = dγ ds = dt
ds dγ
dt = dγ/dt
ds/dt = 1
| γ(t)| . dγ
dt he, ei = 1
なので,この式をs
で微分すると2 D de
ds , e E
= 0
を得る.これは
de ds
は0
でなければe
と直交している事を表している.n
をγ(t)
でのγ
の単位法ベクトル(unit normal vector)
とするとn =
³
− dy ds , dx
ds
´
と書ける.
(
注意: n
の選び方はn, −n
の2
通りある.ここでは¯ ¯
¯ ¯ e n
¯ ¯
¯ ¯ =
¯ ¯
¯ ¯
dx ds
dy
− dy ds ds dx ds
¯ ¯
¯ ¯ =
³ dx ds
´ 2 +
³ dy ds
´ 2
> 0
なるようにn
を選んでいる.) de ds
はe
に直交するので,de ds = κn
を満たす実数
κ
が存在する.このκ
を,曲線γ
の,点γ(t)
での 曲率(curvature)
と いう.ベクトル
e, n
の組を枠(frame)
という。例
1.3.1.
サイクロイドγ(t) = (t − sin t, 1 − cos t) (0 ≤ t ≤ 2π)
の単位接ベクトルe
、 単位法ベクトルn
、曲率κ
を求めてみよう.γ 0 (t) = (1 − cos t, − sin t) = 2 sin 2 t ¡
sin 2 t , cos 2 t ¢
より、
s
を弧長変数とするとds dt = 2 sin 2 t
であり、e =
³ sin t
2 , cos t 2
´
, n =
³
− cos t 2 , sin t
2
´
がわかる。
de ds = κn
をde
ds = 1 ds/dt
de
dt = 1 2 sin t 2
³ cos t
2 , − sin t 2
´
= − 1 2 sin 2 t n
と比較すると、κ = − 2 sin 1
t2 がわかる。
例
1.3.2.
エピサイクロイドt 7→ r(k + 1)
µ
cos t − cos(k + 1)t
k + 1 , sin t − sin(k + 1)t k + 1
¶
についても、
γ 0 (t) = 2kr sin (k−1)t 2 ¡
sin (k+1)t 2 , cos (k+1)t 2 ¢
なので、弧長変数
s
はds dt = 2kr sin (k−1)t 2
を満たしe = ³
sin (k + 1)t
2 , cos (k + 1)t 2
´
, n = ³
− cos (k + 1)t
2 , sin (k + 1)t 2
´
となる。
κ =
¯ ¯
¯ de ds
¯ ¯
¯ =
¯ ¯
¯ de dt
¯ ¯
¯ .¯ ¯
¯ ds dt
¯ ¯
¯ =
¯ ¯
¯ k + 1 4kr sin (k−1)t 2
¯ ¯
¯
定理
1.3.3 (
曲率の幾何学的意味).
曲線の接ベクトルe
がx
軸となす角をθ
とすると,κ = dθ ds
証明. e = (cos θ, sin θ), n = (− sin θ, cos θ)
なので,de ds = dθ
ds de dθ = dθ
ds d
dθ (cos θ, sin θ) = dθ
ds (− sin θ, cos θ) = dθ ds n
κ = 0
となる点をその曲線の変曲点(inflexion)
、κ 0 = 0
となる点をその曲線の頂 点(vertex)
という。定理
1.3.4 (
フレネの公式).
e 0 = κn, n 0 = −κe.
証明
. e 0 = κn
は既出。n · n = 1
より、n 0 · n = 0 n 0 = ae
と書くとe · n = 0
よりe 0 · n + e · n 0 = 0
書き換えてκ + a = 0
よってa = −κ.
曲率の意味を理解するために、
s
を弧長変数としてs = 0
でのγ(s)
のテイラー展開を 見てみよう。γ(s) = γ(0) + γ 0 (0)s + 1
2 γ 00 (0)s 2 + · · · γ 0 = e, γ 00 = κn
よりγ (s) = γ(0) + e(0)s + 1
2 κ(0)n(0)s 2 + · · ·
簡単のためγ (0) = 0, e(0) = (1, 0), n(0) = (0, 1)
とするとγ(s) = (s + o(s 2 ), 1
2 κ(0)s 2 + o(s 2 ))
1.3
曲率13 γ (s)
の第一成分をt
とすると、グラフy = f(x)
として表されることが出来、f (x)
には 1次の項はない。特にy = 1
2 κ 0 x 2 + 3
次以上の項(1.3.1)
弧長変数は簡単に求められないことが多いので、曲率を計算するには一般の径数による 表示が必要になる。定理
1.3.5 (
曲率の径数表示).
κ =
x . .. y − x .. y .
( x . 2 + y . 2 )
32= 1
( x . 2 + y . 2 )
32det( γ . γ) ..
証明
. γ(t) = . ds dt γ 0 = ds dt e = | γ(t)|e .
よりγ(t) = ..
³ d dt |γ (t)|
´
e + | γ(t)| . e . =
³ d dt |γ(t)|
´
e + | γ(t)| . ds dt e 0
=
³ d dt |γ (t)|
´
e + | γ(t)| . 2 κn
なのでκ = h γ(t), .. ni
| γ . (t)| 2 = h( x, .. .. y), (− y, . x)i .
| γ(t)| .
32=
x . y .. − x .. y . ( x . 2 + y . 2 )
32例
1.3.6.
楕円γ (t) = (a cos t, b sin t)
の曲率を求めてみよう。γ . (t) = (−a sin t, b cos t), γ .. (t) = (−a cos t, −b sin t)
より、κ =
x . .. y − x .. y .
( x . 2 + y . 2 )
32= ab
(a 2 sin 2 t + b 2 cos 2 t)
32例
1.3.7 (
平行曲線).
弧長s
を 変数とする平面曲線γ(s)
を考える.d
を定数として,δ(s) = γ(s) + dN
で表される曲線を,元の曲線γ (s)
の平行曲線(parallel curve)
という。δ 0 (s) = γ 0 (s) + dN 0 = γ 0 (s) − dκT = (1 − dκ)T
なので,平行曲線
δ(t)
はdκ = 1
のとき特異点をもつ.平行曲線δ(s)
の単位接ベクトル はT ,
単位法ベクトルはN
であることもわかる.よってδ(s)
の曲率κ δ
はκ δ = hδ 00 (s), N i
|δ 0 (s)| 2 = h((1 − dκ)T ) 0 , N i
(1 − dκ) 2 = h(1 − dκ)T 0 , N i
(1 − dκ) 2 = κ
1 − dκ
となる.定理
1.3.8 (
曲率の極座標表示).
極座標x = r cos θ, y = r sin θ
を用いて曲線が,r = f (θ)
で与えられたとき,その曲率κ
は次で与えられる.κ = f 2 + 2f 02 − f f 00 (f 2 + f 02 ) 3/2
証明
.
極座標x = r cos θ, y = r sin θ
を用いて曲線が,r = f (θ)
で与えられたとき,次の ような曲線の径数表示が得られる。x = f (θ) cos θ y = f(θ) sin θ
したがってx 0 = − f (θ) sin θ + f 0 (θ) cos θ y 0 =f (θ) cos θ + f 0 (θ) sin θ
x 00 = − f (θ) cos θ − 2f 0 (θ) sin θ + f 00 (θ) cos θ y 00 = − f (θ) sin θ + 2f 0 (θ) cos θ + f 00 (θ) sin θ
を得る.
x 0 2 + y 0 2 = f(θ) 2 + f 0 (θ) 2
なので曲率の径数表示の公式に代入すれば結果を得 る。定理
1.3.9 (
陰関数による曲率の表示).
曲線C
がf(x, y) = 0
で与えられたとき,その 曲率κ
は次で与えられる。κ = − f y 2 f xx − 2f x f y f xy + f x 2 f yy
(f x 2 + f y 2 )
32= 1 (f x 2 + f y 2 )
32¯ ¯
¯ ¯
¯ ¯
f xx f xy f x f yx f yy f y
f x f y 0
¯ ¯
¯ ¯
¯ ¯
証明
.
単位法ベクトルN
と 単位接ベクトルT
は次で与えられる.N = (f x , f y )
(f x 2 + f y 2 ) 1/2 , T = (f y , −f x ) (f x 2 + f y 2 ) 1/2
よって,弧長変数
s
によるf (x, y) = 0
の径数表示γ(s) = (x(s), y(s))
をとれば,(x 0 (s), y 0 (s)) = γ 0 (s) = T = (f (f
2y,−f
x)
x
+f
y2)
1/2 である.∂T
∂x = (f xy , −f xx )
(f x 2 + f y 2 )
12− (f y , −f x ) (f x f xx + f y f xy )(f x 2 + f y 2 ) −
12f x 2 + f y 2
∂T
∂y = (f yy , −f xy )
(f x 2 + f y 2 )
12− (f y , −f x ) (f x f xy + f y f yy )(f x 2 + f y 2 ) −
12f x 2 + f y 2
より
D ∂T
∂x , N E
= f x f xy − f y f xx
f x 2 + f y 2
D ∂T
∂y , N E
= f x f yy − f y f xy
f x 2 + f y 2
1.3
曲率15
を得る.よって曲率κ
は次のように表される.κ = D dT ds , N E
= D dx ds
∂T
∂x + dy ds
∂T
∂y , N E
=x 0 (s) D ∂T
∂x , N E
+ y 0 (s) D ∂T
∂y , N E
= f y (f x 2 + f y 2 )
12f x f xy − f y f xx
f x 2 + f y 2 − f x (f x 2 + f y 2 )
12f x f yy − f y f xy f x 2 + f y 2
= − f y 2 f xx − 2f x f y f xy + f x 2 f yy
(f x 2 + f y 2 )
321.3.2
接触径数表示された曲線
γ(t)
と陰関数で定義された曲線f (x, y) = 0
に対し合成関数f ◦ γ (t)
を考える。これは2
つの曲線の接触を測っていると考えられるので接触関数と 呼ぶ。f ◦ γ(t) = c k (t − t 0 ) k + c k+1 (t − t 0 ) k+1 + c k+2 (t − t 0 ) k+2 + · · ·
のとき
f (x, y) = 0
で定まる曲線と、曲線γ(t)
はt = t 0
で、少なくともk − 1
位の接 触をするという。特にc k 6= 0
のときはk − 1
位の接触*2
をする(またはk
点接触*3
をす る)という。ここでは説明しないが、k
位の接触するという概念は、径数表示や座標に依 存しない概念である。■直線との接触
f (x, y) = hu, (x, y)i − c = ux + vy − c
とおく。|u| = 1
とする。f (x, y) = 0
は単位ベクトルu = (u, v)
に直交する直線の方程式である。弧長変数で径数 表示された曲線γ (s)
に対しf ◦ γ(s) = hu, γ i − c
を順次微分していって、
γ(s)
にk
位の接触をする直線の条件を調べてみよう。(f ◦ γ) 0 =hu, γ 0 i = hu, ei (f ◦ γ) 00 =hu, γ 00 i = hu, κni
(f ◦ γ ) 000 =hu, γ 000 i = hu, (κn) 0 i = hu, κ 0 n + κn 0 i = hu, κ 0 n − κ 2 ei
なので、次を得る。*2
1
位の接触が普通の接触である。2
つの曲線を(1.3.1)
の形に表したときk
次までの係数が同じならば、少なくとも
k
位の接触をする。*3
2
つの曲線のk
個の共有点が1
点に集まった接触という意味であろう。• (f ◦ γ) 0 (t 0 ) = 0 ⇐⇒ u = n
• (f ◦ γ) 0 (t 0 ) = (f ◦ γ) 00 (t 0 ) = 0 ⇐⇒ u = n, κ = 0
• (f ◦ γ) 0 (t 0 ) = (f ◦ γ) 00 (t 0 ) = (f ◦ γ) 000 (t 0 ) = 0 ⇐⇒ u = n, κ = 0, κ 0 = 0
よって、次がわかった。•
少なくとも1
位の接触をする直線は常に存在し、その法方向はn.
•
少なくとも2
位の接触をする直線が存在するための必要十分条件はその点が変曲点 であること。•
少なくとも3
位の接触をする直線が存在するための必要十分条件はその点が変曲点 かつ頂点であること。■円との接触
f (x, y) = 1 2 (hu − (x, y), u − (x, y)i − r 2 ) = 1 2 ¡
(x − u) 2 + (y − v) 2 − r 2 ¢
とおく。f (x, y) = 0
は点u = (u, v)
を中心とする半径r
の円の方程式である。弧長変数 で径数表示された曲線γ(s)
に対しf ◦ γ(s) = 1 2
¡ hu − γ(s), u − γ(s)i − r 2 ¢
を順次微分していって、
γ(s)
にk
位の接触をする円の条件を調べてみよう。(f ◦ γ) 0 = − hγ 0 , u − γ i = −he, u − γi
(f ◦ γ) 00 = − hγ 00 , u − γi + |γ 0 | 2 = −hκn, u − γi + 1
(f ◦ γ) 000 = − hγ 000 , u − γi + hγ 0 , γ 00 i = −h(κn) 0 , u − γi + he, κni
= − hκ 0 n + κn 0 , u − γ i = −hκ 0 n − κ 2 e, u − γi (f ◦ γ) 0000 = − h(κ 0 n − κ 2 e) 0 , u − γ i − hκ 0 n − κ 2 e, γ 0 i
= − hκ 00 n + κn 0 − 2κκ 0 e − κ 2 e 0 , u − γi − hκ 0 n − κ 2 e, ei
= − hκ 00 n − κ 2 e − 2κκ 0 e − κ 3 n, u − γi + κ 2
= − h(κ 00 − κ 3 )n − (κ 2 − 2κκ 0 )e, u − γ i + κ 2
となるので、次がわかる。• (f ◦ γ) 0 (t 0 ) = 0 ⇐⇒ ∃ρ u − γ = ρn
• (f ◦ γ) 0 (t 0 ) = (f ◦ γ) 00 (t 0 ) = 0 ⇐⇒ u − γ = κ 1 n
• (f ◦ γ) 0 (t 0 ) = (f ◦ γ) 00 (t 0 ) = (f ◦ γ) 000 (t 0 ) = 0 ⇐⇒ u − γ = κ 1 n, κ 0 = 0
• (f ◦ γ) 0 (t 0 ) = (f ◦ γ) 00 (t 0 ) = (f ◦ γ) 000 (t 0 ) = (f ◦ γ ) (4) (t 0 ) = 0 ⇐⇒ u − γ = κ 1 n, κ 0 = 0, κ 00 = 0
よって、次がわかった。
1.3
曲率17
•
円が少なくとも1
位の接触をする必要十分条件は、その円の中心が接点での曲線の 法線上にあること。•
円が少なくとも2
位の接触をする必要十分条件は、その円の中心u
がu = γ + κ 1 n
となること。•
その円が少なくとも3
位の接触をするための必要十分条件は、その点が頂点(κ 0 = 0)
であること。•
その円がさらに少なくとも4
位の接触をするための必要十分条件は、その点がκ 0 = κ 00 = 0
を満たすこと。κ 6= 0
のとき、γ(s 0 )+ κ(s 1
0) n(s 0 )
を中心する半径1/κ(s 0 )
の円は、点γ(s 0 )
で少なくとも2
位の接触をする(唯一つの)円である。この円のことを曲率円(circle of curvature), 1/κ
を曲率半径(centre of curvature)
という。1.3.3
曲線論の基本定理曲率は平面曲線を特徴づける。このことを主張するのが次の平面曲線の基本定理で ある。
定理
1.3.10 (
平面曲線の基本定理).
区間[0, l]
で定義されたC ∞
関数κ(s)(0 ≤ s ≤ l)
に 対し、s
を弧長変数とし、κ(s)
を曲率とする平面曲線γ(s)
が存在する。さらに、このよ うな平面曲線は、回転と平行移動で移りあうものを除いて唯一つである。証明
.
まず存在を示す。θ(t) = R t
0 κ(u)du
として、γ(s) = Z s
0
(cos θ(t), sin θ(t))dt
とおくと、γ 0 (s) = (cos θ(s), sin θ(s))
となる。
|γ 0 | = 1. e = γ 0 , n = (− sin θ(s), cos θ(s))
に注意する。γ 00 (s) = θ 0 (s)(− sin θ(s), cos θ(s)) = κ(s)(− sin θ(s), cos θ(s)) = κn
となり、κ
が曲率であることがわかる。一意性の証明をしよう。