38 2 金 沢大 学 十全医 学 会雑 誌 第8 5 巻 第4 号 3 8 2 叫3 9 8 (1 97 6)
上 腕 骨遠 位端骨折 後の 札 外 反 肘 形 成 に関 する 臨床 的研究
金沢 大学 医学部整 形外科学講座 (主 任: 高 瀬武平 教授)
福 島
(昭和5 1年5 月7 日′受 付)
′ト 児 肘関 節 部 骨折のう ち,上腕骨顆 上骨 汎 上 腕骨 外頬 骨析, 上腕 骨内 上 頬骨折 が約6 0% を 占 め, 小児 期に於 け るこれ らの骨折で は, 骨片の大部分が軟 骨で あ るので,
レ線学的に骨折線や, 骨 片の転位を正 確に把握す る事は,
し ば し ば 困難で あ る。 骨片の状態を 正確に判 断 し, 適 切 な 治療が な さ れ な け れ ば, 内 反射, 外反射が続発 し, 予 後 不良と な る。 特に外反 肘 を来た すものに は, 遅 発 性 尺 骨 神経麻痺が惹起 す る場 合が あ るので 注意すべき で あ る。
かかる 如 く, これ らの骨折に対す る 治療は内反札 又 は 過度 外反 肘を 釆た さ ない様に努力を払 わ ね ば な ら ない。
これ らの成因につ いて 現在ま で に 種々 の臨床 的 検 札 解 剖学 的観察, 或は 骨端 核の成 長 と骨折部 との関 係 等に立 脚 し て, 種々 の説が 唱 え ら れ て釆たが, いず れも 充分 に 納 得し う る定説 に は 至ってい ない。 従ってこれ らの骨 折
の治療につ いて 画 一的に体 系ず け ら れ た ものは な く, 各 人の好み に応 じ た 治療が行わ れ ているにす ぎ ない。 そこ で著 者は 当村で治 療し た 上腕 骨 遠 位端 骨 折につ いて, 治 壕 開 始後の札 外反 肘 形成の成因を求 め. 今 後の治療 方 針の 一助 と な るべ〈 検 討 L , 次の如 〈, いさ さ かの知見 を得たので報告 す る。
研究対象並び に研究方 法 研究 対象
昭 和2 9年4 月 一 昭和4 9年1 2月 ま でに当 科にて 治 療 し,
表1 生 理 的外反角の年 令 群別 平 均値 年 令 頻 度
4 才 19
8才 21
I2才 17
t6才 1 3
z o才 1 3
4 0才 1 1
4 1才以 上 1 2
】Od
値 均 男 平
.
4 5 3 7 9 3 4 3 8.
8.
8. 8.
8.
臥 8.
8
平均
度 3 4 0 2 3 4 2 8 頒
‑ 1 1
‑
‑
‑
‑ 8
女 平 均 値
10.0 1 0.0 1 1.1 11.0 1 0.A lO.5 1 0.4
且つ, その後の経 過 を 観察し得た 上 腕 骨 顆 上骨折風 上 腕骨 外顆骨 折 例, 上腕 骨内 上 額骨 折例, 上腕骨内顆骨折 例, 並び に内, 外反 肘に対する矯正骨切 り術施行例の内 外反角の推移を経時的に測定し, 且つ, 表1 の如 き各年 令 層にわたっ て 健康人 1 9 4例の肘関 節の生 理朗 外反角を 同様に 測定L て対比検 討し た。 健 康例 を 表1 の如く 区別 し たのは, 各々成 長に従い上腕 骨内 上 顆核出現前の 4 オ 未満, 上腕 骨 内上 顆核 出現 後の 8 オ未軌 上 腕 骨外上 棟核 出現前の 1 2オ 未満, 上腕 骨 外上 顆核 出現 後の 1 6オ未 満, 青年期の 20オ未執 成人 期の 4 0オ 未満, 4 1オ 未満を 含めた そ れ 以 上の年令 を もっ て, 年 令 層を7群に分 類 し た。 研 究の対 象と なった 症例は, 上腕骨 額 上 骨折5 8風 上 腕 骨外頼骨 折4 6例, 上腕 骨 内上顆骨 折1細り, 上晩骨内 軽 骨析川札 内 反 肘矯正骨切 り術症例2 5例, 外反肘矯正 骨切 り 術 症 例9例, 計 1 6 8例 で あ る。 し か し, 上記症例 は各 年令層にわたっているので, レ線 学的 計測 に際して,
治療 年 令に応じ, 次の 3 群に分 類 し検 討し た。 即 ち,上 腕骨 札 外上 顆核出 現前の 4 オ未満 を 第Ⅰ群と し, 上範 骨内,外上 頬核 出現後の 1 6オ未満の症例を 第ⅠⅠ群,満16オ 以 上の症例を第ⅠⅠⅠ群と し た。
研 究方 法
研 究方法と し て は, 各症 例, 及 び対照健康 例を 水平撮 影 台 に仰臥 さ せ, 肘 関節部の前後方向の撮 影 に際し て.
肘関 節 部で は H 翫e r 線が, 手関節 部で は境骨茎状突 起と 尺骨 茎状突 起を 結ぶ直線が 水平位 と な る様に撮影台 に密 着固定し て掘影を行った。 かくの如 く して得ら れた 前後 方 向撮影の肘関 節レ線写真につ いて, 上 院骨長軸と 尺骨長 軸のな す角を 内 反角につ いて は 図1 の如 く, 外反 角につ いて は 図2 の如 く に 測定し, 各症例につ いて治療 後の札 外反角を 経時的に測定しプロ ット し た。 正常群 に於 て は 表Ⅰ の如 き年 令群に応 じ て 測定値の平 均 を計算 し, プロ ッ ト し, 又, その各年 令 群の外反角の最大胤 最小値を 示 し, こ の範囲内の角 度 を生 理 的外皮角と した。
研 究 結 果
平 均 1 0.41 Ⅰ. 正常肘関 軌こ於け る 肘外反角の年 令によ る変化
C linic al studie s o n the F o r m atio n of Defo r mitie s
くt
C ubitu s Va r u s, Cubitu s V algu s" afte r
fr a ctu r e s a nd o ste oto mie s of distal pa rt of h um e ruS・ A k ir a Fuk u shim a
, Depa rtm e nt of Orthopedic Su rge ry (D ir e cto r; Pr of.B uhei Tak a s e),S cho ol of M edicin e,K a n a z a w a U ni・
V e r Sit y.
上腕 骨 遠 位 端骨 折 後の内, 外反肘形 成に関す る 臨床 研究
正常人に於 け る 肘関 節は 外 反角 を示 す もの であ るが,
本研 究 で得た数 値を上記正常 晩 年 令別分 類 により平均 値を 求 め て見る と, 表1 の如 き結果を得た。 男女共に,
各年令群に於 て外反角が 認 め ら れ, 女 性 に 於 て は(図3) 各年令群を通じ て その外反角の程度は 男性のそ れ よ り も 強い傾 向 を 示 し(図4),成人 に 於 ても女 性の外反角は 男 性よI)も強 く, 従って 男性1 0 6例の平均 値が 8.4度の外 皮角を示 し たのに対し て, 女性8 8例のそ れ は10.4皮と高
い値を 示 し ていた。 これ ら外反角の程度 を経時 的に観察
図1 肉反角の測定
図2 外反角の測定
38 3
す る と,4 オ未満群.8 オ未満 群に於て は男 性 で は各々 8.5凰
8.3度,女性に於 て は1 0.0度,1 0.0度であった が, 1 2オ 未 満 群,1 6オ 未満群の男 性 で は8.7度, 8.9度の外反角を, 女 性 で は1 1.1度, 1 1.0度の外反角を 示 し た。 即 ち, 男 女 共 に 8オ未満暗か ら1 6オ未満時にか け て,その外反角のピー ク を 示 し,
2 0才未満群に於ては, 男性8.3度,女性 軋4度と な り, 外反 角の減 少が認 め ら れ, 以後こ の外反角は 男 女 共 に, ほ ぼ P late a u を 示 し ていた。即 ち1 6オ未満群 以降では 男女と も,
ほ ぼ 一定し た 生 理的外反角が保た れ て お り, 生 理的に女 性 で は常に男 性 よ り, や や 強い外反 位 を 示 し ていた。
ⅠⅠ. 上腕骨 遠 位端 骨折 例の治療後の取 外反角の経時 的変化
1 . 上腕骨頼 上 骨折 (以 下 顆 上骨折 と 略 す) 症例の検 討
上腕 骨 内, 外上 顆核の出現 に よ る 上記分 軌二従い (図 5) ま ず第Ⅰ群1 2例につ いて 観察す るに( 図6) 手 術 例 5 軋 非手術例7 例のう ち, 骨癒 合 完了時後1年 ‑1 1年 後ま で 観察し た手術例5 例中, 4 例は 肘外反の角 度は手 術後変 化を 示 さず, 従っ て, 内 反 肘への移 行 し た ものは 1例の みで あっ た。 こ の例・を 見 るに, 手術後2 度の外反 位 (図7) が見ら れ た が, 骨癒 合 完了時 (図8) では す で に9度の内 反 肘 形成が見 ら れ, 1 1年 彼の現私 依 然 と し て9 度の内反 肘 が 認 め ら れ た(図9)。 これに反 し て非 手術例で は, 骨癒 合完了時 後1 年〜 5年で観察す る と,
で∴三
4 才 き才 一2 才 】6 才 ? 0 才 4 0 才 4 1 才.、上
図3 生 理 的 外 反角 計測値
■り て
d 才 8 才 l 〜才 帽才 〜0 才
図4 生 理 的外反角 計測値
4 0才 小才以 上
3 84
整復 時, 肘 外 反 を 示 し ていて も骨 癒 合 完了時には全例に 肘 外 反が, 内反の方 向に向い, 7 例中3 例は 内 反 肘 形成 と な り, 其の後骨癒 合 完了時の角 度を 以 て 経 過 し, その 経 過に於 て, よI)内反 位, よ1)外反位への移 行 は 認 め ら れ なかっ た。 第ⅠⅠ群2 1例の手 術例を骨癒合完了時後1年
‑ 7 年の観察を 行った 結果 (図1 0),2 1例 中, 1 8例に肘外
反 が保た れ てい たが, これ らの症例の経 過に於 て, 骨癒 合完了時ま で に外反角の減少 が 起っておt), その後は外 反角の変化 は 認 め ら れ な かっ た。 叉手術時よ り骨癒 合 完 了時まで に外反角の増 大 を 認めた 症例は な く, 又骨癒 合 完了時もこ の外反角の増大し た 例 は 認 め ら れ な かった。
他方2 1例中3 例に内 反 肘が認 め ら れ た が, これ ら3例 は 手術 後 で は外反位にあった が その後, 徐々 に内 反 肘へ移 行し ( 図1 1) 骨癒合完了時に内反 肘に変化 しておI) (図 1 2), 其の後こ の内反 肘 は変化 な く 改善さ れ得な かった( 闇1 3)。 次に第ⅠⅠ群の非 手術例2 3例につ いて 観察 する と( 国1 4), 経 過 観察期間は1 年〜ユ7年のものま で あl), これ らの フ ォロ ー アップ時で は, 外反1 6度のものか ら, 内 反 2 2度のものまであIj, 且つ, 外反位を 示 し た もの 12例,
内 反 位 を 示 したもの 1 1例であった。 ニれ ら2 3例のう ち,
骨癒合完了 後の経 過 に 於て, よ り 内 反位に向う 症 例が 7
実 年令 群 女
図5 煩上 骨受傷年 令 分布
健 砺 含 完 了 時 聖 徳 固 定 循 直 後
図 6
】年 5年 1 0年
瀬 上骨折 第Ⅰ辟の経略 時 変化
図7 3 オ1 0 カ月の男 子 手術的 整復 由定 術 時の レ線像 2 度の外反位が 認 め ら れ た
槙 側に於 て骨折面の離開 と Rotatio n が 認 め ら れる
図8
、 図7 の症例 術 後1 カ 月 半の状態や や内反位の状 態が認めら れ る
図9 図7 の症例の 1 1年 後のレ線 像9 度の内反 肘 を 示 し■た
上腕 骨遠位 端 骨 折 後の内, 外反肘 形 成に関す る 臨床 研究
骨 宿 舎 完 了 時 手 榊 直 後
l年 5年 1 0年
図1 0 頼 上骨折第ⅠⅠ群手術例の経時的変化
軽度の内 反 肘が見ら れ, 且つ末梢骨 片の Rotatio n が認めら れ る
凱2 図1 1 の症例 骨 癒合完了時のレ線像2 0度の内 反 肘が認 め ら れ る
3 8 5
図1 3 図1 1 の症 例 術 後7 年の経略の レ線 像2 0度の内 反 肘 を 認 め る
骨 塔 合 完 了 時 璧 穏 画 定 砺 直 後
一年 5年 用キ ほ年
図1 4 顆 上 骨 折 第ⅠⅠ群非手術例
骨 港 合 憲 了 噂 繋 旗 国 定 硝 直 接
1年 5年 川年
図1 5 曙 上 骨 折 第ⅠⅠ王群 非手術例
3 8 6
例 あ る が, これ らの角 度の変化 は平均3 度で あっ た。 し か し ながら, 整復固定術 直後の内, 外皮角は骨 癒合完了 時ま でに変化 を 示 し, 即 ち, 内 反位に 向 う様に,
一 定の
pat te r n を 示 L てい た。 次いで, 第ⅠⅠⅠ群につ いて見る に,
こ の群ほ骨癒 合 完了時 後2 年 間及 び3 年 間観察し得た2 例の非手 術例の みで, これ ら は 共 に 整復 直後の外反位で 経 過 し, 経時的 な角 度の変化 は 見 ら れ な かっ た(団1 5)。
以 上 額 上骨 折例5 8例に於て, 整復 時の札 内 反位の角 度 を そのま ま維 持したものは第Ⅰ群の手術によ る4 例にす ぎず, 即 ち, 5 4側に放 て 整復固定瀾直後に得ら れ た内,
外反角は骨癒 合 完了時には 整復直後に比 較 し て, よl)内 反の方向に向っ て お りフ ォロ ー アッ プ時には手術 例2 6例 中4 例, 非手術例3 2例中1 4例, 計5 8例 中1帥u が内反 肘を 示 してい た 。 これ ら1 8例中, 隻復 後すで に内反 肘 を 示 L ていたものは第ⅠⅠ群, 非手 術例の 8 例があl) , これ ら は骨折治療時には更に, よ り内反位の角度 増 強 が 認 め ら れ,
他の 王0例は外反位から骨折 治癒 暗まで に内 皮 肘 へ移 行 し た もので, これ らの 1 8例 中には 手術例 は4 例にすぎ ない。
骨癒合完了時まで に内 反位に lこりっていた 症例は, 璧傾時,
骨 折部に 於いて 榛 側に間隙が認 め ら れ る 場合(図7 , 8,
9),横 側骨折部に第3 骨片の介 在があ る 場合(図16,1 7), 末栴側骨片の Rotatio n が認 め ら れ る場合(図1 1,1 2,1 3)
に認 め ら れた。 し か し, 反対に 整復 時に尺側に 間 軋 或は 欠損が見ら れ て も 内 反 肘 形成に至っ た 症 例 は 認 め ら れ なかっ た( 図1 8, 1 9, 2 0) 骨癒 合 完了時から 更に, よ り 内 皮の方向に向って角 度の変 化し た例が5 8例 中7 例に 認めら れ, 前述の如 〈, その変 化した角 度は軽 度で 平均
3 度であっ た。 な お, これ ら 顆 上骨折群に はイ反関 節を 形 成 し た ものは 認 め な かっ た。
2 . 上腕 骨 外顆骨折 (以 下外顆骨 折と 略 す) 症 例の検 討
第Ⅰ群8 例は 全 て 手術 例で, これ ら 症 例 を1 年‑ 3年
図1 6 5オ, 男 子, 碩上 骨 折 非手術 例の整復 時骨折 部の横側に第3 骨 片の介在が見ら れ, すで に5 度の 内反 肘 形成が認め ら れ た
間後に検 討 し て 見 る と(図2 2)D 全 例に外反 位のや や転変
の増 強 が 認 め ら れ た が 過度 外反 肘 は 認 め ら れ な かった。
これ ら8 例 中1 例 凋2 3)に 仮関 節が認 め ら れ たが機骨頭 の変化は 未 だ 認 め ら れ な かった( 図2 4)。次いで第ⅠⅠ群明 手 術例 (図2 5)で は2 2例 中1 9例に 於 て,その外反角は 整復 時に比 し,骨癒合完了時 後1年‑ 2 年 後に,や や外反触こ 向っ て お り, よ り内反の方 向に向っ たものは3例である が, その 1 例に於 て内反 肘 を 示 し た。 即 ちこ の症例をレ
線学 的に検 討 する と, 手 術 後 固定 不 充分のた め, 骨折患
の憧 側に匪開が残り(図2 6) その結晃横 側に於て上耽骨長 軸の方 向に 過成長が 起 り, 内反 肘 と なっ た もので ある∈ 図2 7)。 又 興 味 あ る所 見 を示 し た例と し て, 仮関節形成と
図‡7 図1 6 の症 例の受 傷 後1 0年の レ線 像。 1 1度の内皮 肘 を 認 め る
図1 8 1 5才 女 性, 頼上 骨 折 手術直後の レ線像で. 骨 折 面尺 側 に 於 て骨の欠 損 が 認 め ら れ た
上腕骨 遠 位 瑞 骨 折 後の内, 外反肘 形 成に関す る 臨床 研 究
図1 9 図1 8 の症例 術 後2 カ月後の レ線條
翫0 凱8 の症例 術 後1 年7 カ 月1 度の肘外反を示 し た
3 8 7
十
≡ニ ニ ≡図2 1 外顆 骨 折 受傷 年 令分布
骨 癒 合 完 了 時 手 術 整 復 両 直 後
l 年 5年 J O年
図2 2 外顆骨折 第Ⅰ 群 手術例
図2 3 2 オ7 カ 月の男 子 外顆 骨折例 受傷 時