学位論文要旨(修士(理学))
論文著者名 下山 裕介
論文題名:光格子における
2
成分ボソン混合系の相転移と励起スペクトル本文
レーザー冷却により原子気体を
nK
程度の極低温まで冷却することで冷却原子気 体ができる。冷却原子気体ではレーザーの定在波を用いた周期ポテンシャルを印 加でき、人工的な結晶構造を作り出すことができる。これは光格子と呼ばれ、固 体中に近い状況を再現する。また、冷却原子系では、巨視的な数の原子気体が基 底状態に落ち込むボースアインシュタイン凝縮を起こすことにより、超流動とな ることが分かっている。近年、光格子中の冷却原子系の性質に注目した実験や理 論の研究が活発に行われている。特にレーザー強度を比較的強くすることにより ハバードモデルで記述できる疑似的な状況を作りだすことができ、超流動-
モット 絶縁体転移などが観測されている。光格子中冷却原子気体の利点は、周期ポテン シャルの深さや粒子数など、系を記述するパラメータを操作できる点である。特 に、理論と実験の比較精度が非常に高く、新奇現象の発見及び背景の解明が行い やすい。本論文では、2 成分ボース・ハバードモデルにグッツヴィラー近似を適 用することで光格子中の2
成分ボソン混合系の基底状態の相図と励起スペクトル を調べた。各成分のホッピングと同成分間相互作用とは等しいとすると、異成分 間相互作用により、超流動やペア超流動、カウンターフロー超流動などいくつか の量子相が現れる。量子相そのものを観測することはとても難しいので、それら の量子相や相転移を特定するのに有用な励起スペクトルを計算した。超流動相の 励起スペクトルはいくつかのギャップフルモードと2
つのギャップレスモードが現 れ、それぞれ秩序変数の振幅の揺らぎと位相に対応することが分かっているが、2
成分の場合でも超流動相において同様の振る舞いが見られた。また転移点では、2
次相転移の時ある振幅モードは消え、1
次相転移の時残ることが分かっているが、2成分の場合でもこの振幅モードを見ることによって転移次数の変化を調べた。励 起スペクトルはブラッグ散乱によって測定できるので、線形応答理論を使うこと で動的構造因子を計算する。今回は
2
種の密度揺らぎの応答を考え、密度揺らぎ は異なる量子相において異なる励起のブランチに対応していることを示した。目 次
1
はじめに2
2
定式化4
2.1 2
成分BHM . . . . 4
2.2
グッツヴィラー近似. . . . 4
2.3
有効ハミルトニアン. . . . 5
2.4
線形安定性解析. . . . 6
2.5
線形応答理論. . . . 8
3
計算結果10 3.1
基底状態と相転移. . . . 10
3.1.1
相図. . . . 10
3.2
励起スペクトル. . . . 12
3.2.1 SF
相. . . . 12
3.2.2
転移点近傍. . . . 12
3.2.3 PSF
相. . . . 13
3.3
動的構造因子. . . . 14
4
まとめ16
1 はじめに
レーザー冷却技術の発展により、原子気体を
nK
程度の極低温まで冷却すること が可能になっている。この冷却原子気体にはレーザーの定在波を印加することが でき、人工的な結晶構造を作り出すことができる。これは光格子と呼ばれ、個体 の構造に近い状況を再現する。また冷却原子系では、巨視的な数の原子気体が基 底状態に落ち込むボースアインシュタイン凝縮を起こすことにより、超流動にな ることが分かっている。この超流動(SF)
からモット絶縁体(MI)
への量子相転移 が観測され、光格子にトラップされた極低温原子は量子多体強相関系の研究に新 たな知見をもたらした[1]
。特に、光格子中の2
つの異なる超微細状態[12]
、原子[13]
、同位体[14]
などの2
成分ボソン混合系の実験[2]
は、新奇な量子相の新たな 発見の可能性を広げた。これまで2
成分ボース・ハバードモデル(BHM)
の分析で は、2
成分ボソン混合系を定量的に調べることで、SF
やMI
、相分離、ペア超流動(PSF)
、カウンターフロー超流動(CSF)
、密度波、超個体などの様々な量子相が予想された。
PSF
は異なる2
成分ボソンにより構成される超流動で、2
成分ボソン間 の引力相互作用により現れる[3, 4]。CSF
は2
成分ボソン間に斥力相互作用が働い ている時にMI
相に現れ、あるボソンと、それとは異なる成分のホールのペアで構 成される超流動として説明できる[3, 4]
。PSF(CSF)
では、同相(
逆相)
な運動量の 自由度のみ許された超流動であり、言い換えればその相では運動は消失しておら ず、逆相(
同相)
の運動は禁じられている。ここでは、2
成分ボソンペアの運動量 を同相な運動量、2
成分ボソンの粒子とホールペア(
アンチペア)
の運動量を逆相 な運動量と表現する。これらの相は広く関心が集まっているにも関わらず、未だ 実験的に観測されていない。これまで、
1
次元格子中のSF,PSF,CSF
相でのダイポール振動の研究[5]
がされ ているが、このような動的な振舞いを理解するためには光格子中の2
成分ボソン 混合系の励起を明らかにすることが重要である。1
成分ボソンの励起[6, 7]
は理論 的にも実験的にもよく理解されている。MI
相では最低励起スペクトルの2
つの ブランチはギャップがありそれぞれ粒子とホール励起のモードに一致する[8]。ま
た、SF
相では励起スペクトルは1
つのギャップレスモードと複数のギャップフル モードを持つ[9]
。ギャップレスモードは超流動秩序変数に一致し、ボゴリューボ フモードとして知られている。一方、サイト当たりの粒子数密度(フィリング)
一定の
SF-MI
相転移近傍における最低のギャップフルモードは振幅モードとみなせる。またよく知られているように振幅モードは、転移点でギャップレスモードにな る。励起スペクトルは、実験的にはブラッグ分光法
[10]
などで調べることができ、2
相の違いや相転移を特徴づけることに上手く使われる。よって、素励起は2
成分 ボソン混合系のSF-MI
相転移を区別するのに利用できることが期待される。本研究では、絶対零度における光格子中の
2
成分ボソン混合系の量子相転移と 励起スペクトルを、グッツヴィラー近似(GA)
により調べる。今回は、各ボソンの ホッピングと化学ポテンシャルと同成分間の相互作用がそれぞれ等しいと仮定する。そして
SF
、MI
相を描くために、2
成分BHM
に直接GA
を適用する。しかし、この手法では
PSF
とCSF
をとらえることができない。なぜならこれらの相は、ペ アとアンチペア粒子のホッピングから生じるからである。これらの相を分析する ために、ペアとアンチペアの自由度を含んだ2
次摂動論の範囲で有効ハミルトニ アンを使う。初めに、この系の基底状態を調べる。次に、1成分BHM
の励起スペ クトルの計算手法[11]
を2
成分混合系に発展させ、その励起スペクトルを調べる。そして、
SF
相とMI
相の励起スペクトルに対する異成分間相互作用が与える影響 を議論する。最後に、格子系に対する線形応答理論を適用することで密度揺らぎ の応答を調べる。今回はブラッグ分光法によってSF
、PSF
が同定できることを示 すために、これらの相における2
種の密度揺らぎに関する動的構造因子を計算す る。ここでの2
種の密度揺らぎとは、1成分のボソンのみが揺らいだ場合と2
成分 ペア(
同相)
のみが揺らいだ場合である。2 定式化
2.1 2 成分 BHM
D
次超立方格子系に2
成分ボソンを入れた系を考える。光格子は化学ポテンシャ ルに比べ十分深いと仮定すると、2成分BHM[7]
は、H = ∑
α=1,2
− t α ∑
⟨ i,j ⟩
(ˆ b † α,i ˆ b α,j + ˆ b † α,j ˆ b α,i ) + U α 2
∑
i
ˆ
n α,i (ˆ n α,i − 1) − µ α ∑
i
ˆ n α,i
+ U 12 ∑
i
ˆ n 1,i n ˆ 2,i
(1)
となりここで、
ˆ b † α,i (ˆ b α,i )
はサイトi
の成分α = 1, 2
の生成(消滅)
演算子、ˆn α,i ≡ ˆ b † α,i ˆ b α,i
は数演算子、⟨ i, j ⟩
は最近接サイトの総和を表している。t α , U α , µ α , U 12
はそ れぞれホッピング強度、オンサイトの同成分間相互作用、化学ポテンシャル、オン サイトの異成分間相互作用である。U 12
の強度は実験で操作できる[15]
。また、SF
、PSF
の秩序変数をそれぞれΦ α,i ≡ ⟨ ˆ b α,i ⟩ , Φ P i ≡ ⟨ ˆ b 1,i ˆ b 2,i ⟩
であり、n t = n 1 + n 2
でn α
はα
成分のサイト当たりの粒子数(
フィリング)
とする。ここでは、U 1 = U 2 = U > 1, t 1 = t 2 = t, µ 1 = µ 2 = µ, | U 12 | < U
とする。U 12
がこれを満たさないとき、斥力では相分離を起こし、引力では系の崩壊を起こしてしまう
[16]
。2.2 グッツヴィラー近似
絶対零度における式
(1)
の基底状態と励起スペクトルを調べるためにGA
を用い た。グッツヴィラー変分関数は| Ψ ⟩ = ∏
i
∑ ∞ n
1,n
2=0
f n (i)
1,n
2(τ ) | n 1 , n 2 ⟩ i (2)
とし、| n 1 , n 2 ⟩ i
はサイトi
の成分α = 1, 2
の粒子数n 1 , n 2
のフォック状態であり、変分 因子f n (i)
1,n
2は規格化条件∑
n
1,n
2| f n (i)
1,n
2| 2 = 1
を満たす。安定条件∫
dτ ⟨ Ψ | i¯ h dτ d − H ˆ | Ψ ⟩
からf n (i)
1,n
2 の運動方程式i¯ h df n (i)
1,n
2dτ = { ∑
α
[ U
2 n α (n α − 1) − µn α
]
+ U 12 n 1 n 2
} f n (i)
1,n
2− t ∑
⟨ j ⟩
i(Φ 1,j √
n 1 f n (i)
1− 1,n
2+ Φ ∗ 1,j √
n 1 + 1f n (i)
1+1,n
2)
− t ∑
⟨ j ⟩
i(Φ 2,j √
n 2 f n (i)
1,n
2− 1 + Φ ∗ 2,j √
n 2 + 1f n
1,n
2+1 )
(3)
を導く。この時、各成分の超流動秩序変数は
Φ 1,j = ∑
n
1,n
2f n (j)
1−1,n ∗
2√
n 1 f n (j)
1,n
2, Φ 2,j =
∑
n
1,n
2f n (j)
1,n ∗
2− 1 √
n 2 f n (j)
1,n
2である。ここで∑
⟨ j ⟩
iはサイトi
の最近接サイト数を表す。基底状態では波動関数は定常的なので、変分因子は
f n (i)
1,n
2(τ ) = ˜ f n (i)
1,n
2e − i˜ ω
iτ (4)
と書くことができる。f ˜ n (i)
1,n
2は定常状態の係数であり時間に依存しない。位相因 子ω ˜ i
は式(4)
を式(3)
に代入することで¯ h˜ ω i =
∑ ∞ n
1,n
2[ U
2 n 1 (n 1 − 1) − µn 1 + U
2 n 2 (n 2 − 1) − µn 2 + U 12 n 1 n 2
] f ˜ n (i)
1,n
22
− t ∑
α
∑
⟨ j ⟩
i( ˜ Φ ∗ α,j Φ ˜ α,i + ˜ Φ α,j Φ ˜ ∗ α,i )
(5)
となることが分かる。ここで定常状態の超流動秩序変数は
Φ ˜ 1,j = ∑
n
1,n
2f ˜ n (j) ∗
1
− 1,n
2√ n 1 f ˜ n (j)
1,n
2, Φ ˜ 2,j = ∑
n
1,n
2f ˜ n (j) ∗
1
,n
2− 1
√ n 2 f ˜ n (j)
1,n
2である。今回は、虚時間発展法[18]
により式(3)
を 解くことで基底状態の係数を計算する。計算手順は、(i)
虚時間τ ′ = iτ
と適切な係 数の初期値を用意し、(ii)
その値から秩序変数Φ i
を計算し、(iii)Φ i
を式(3)
に代入 して、(iv)手順(ii),(iii)
を係数とエネルギーが収束するまで繰り返す。ここで、行 列ハミルトニアンのフィリングをカッティングする。最大数はn c1 = n c2 = n c = 6
とする。2.3 有効ハミルトニアン
式
(3)
ではホッピング項を1
次摂動として扱っているので、PSF
相を描くことは できない。なぜならPSF
に不可欠なペアのホッピングは2
次過程だからである。もし式
(3)
を用いてPSF
相を描こうとしても相図にはその相は現れない。なのでPSF
相を描くために、ペアとアンチペアの低エネルギー部分空間内での有効ハミ ルトニアンを使い、2
次摂動論の範囲でペアやアンチペアのトンネリングを表現 する。t/U << 1
で、式(1)
のハミルトニアンはホッピング項を摂動としてH = H 0 + tV
として扱える。非摂動項H 0
と摂動項V
はそれぞれH 0 = ∑
α,i
[ U
2 n ˆ α,i (ˆ n α,i − 1) − µˆ n α,i ]
+ U 12 n ˆ 1,i n ˆ 2,i (6)
V = − ∑
α, ⟨ i,j ⟩
[ ˆ b † α,i ˆ b α,j + h.c.
]
(7)
である。
2
次摂動論を用いることで有効ハミルトニアン[3]
を引き出すことがで きる。引力相互作用
U 12 < 0
のとき、ペアの低エネルギー部分空間は2
成分が等しい占 有数である単一サイトフォック状態で表せる。0 < (U + U 12 )/U << 1
で、有効ハ ミルトニアンはH eff = H 0 − 2t 2 U
∑
⟨ i,j ⟩
[ ˆ
n i (ˆ n j + 1) + ˆ n j (ˆ n i + 1) + ˆ b † 1i ˆ b † 2i ˆ b 1j ˆ b 2j + ˆ b † 1j ˆ b † 2j ˆ b 1i ˆ b 2i ]
(8)
となる[3]
。式(8)
に対する適切なグッツヴィラー波動関数は| Ψ P ⟩ = ∏
i
∑
n
f n P(i) | n, n ⟩ i (9)
と与えられる。この波動関数
(9)
を式(8)
に適用するとi¯ h d
dτ f n P(i) = [
U n(n − 1) − 2µn + U 12 n 2 ] f n P(i)
− 2t 2 U
∑
⟨ j ⟩
i[n(¯ n j + 1) + ¯ n j (n + 1)] f n P(i)
− 2t 2 U
∑
⟨ j ⟩
i[
Φ P j nf n P(i) − 1 + Φ P j ∗ (n + 1)f n+1 P(i) ]
(10)
という運動方程式が導かれる。ここで
PSF
の超流動秩序変数をΦ P i = ∑
n
i(f n P(i) ∗
i
− 1 n i f n P(i)
i)、
ペア粒子の平均密度を
n ¯ j ≡ ⟨ n ˆ 1,j ⟩
で表せる。基底状態では、係数はf n P(i)
1,n
2(τ ) = f ˜ n P(i) e − i˜ ω
Piτ
となり、ここで位相因子ω ˜ i P
は、¯
h˜ ω i P ≡ ∑
n
U n(n − 1) − 2µn + U 12 n 2 − 2t 2 U
∑
⟨ j ⟩
i[n(¯ n j + 1) + ¯ n j (n + 1)]
f ˜ n P(i) 2
− 2t 2 U
∑
⟨ j ⟩
i( ˜ Φ P j Φ ˜ P i ∗ + ˜ Φ P j ∗ Φ ˜ P i )
(11)
であり、定常状態のPSF
の超流動秩序変数はΦ ˜ P i = ∑
n
i( ˜ f n P(i)
i− 1 ∗ n i f ˜ n P(i)
i)
となる。2.4 線形安定性解析
この節では線形化された運動方程式を引き出し、エネルギーと素励起の波動関 数を計算できるようにする。この運動方程式から
SF,PSF
相で励起スペクトルを 導き出す。定常状態から小さく揺らいでると仮定して、
f n (i)
1,n
2(τ ) =
[ f ˜ n (i)
1,n
2+ δf n (i)
1,n
2(τ ) ]
e − i˜ ω
iτ (12)
と与えられる。定常状態は均一であると仮定し、揺らぎを平面波とするとδf n (i)
1
,n
2(τ ) = ∑
k
( u n
1,n
2,k e i(k · r
i− ω
kτ) − v ∗ n
1
,n
2,k e − i(k · r
i− ω
kτ) )
(13)
と置ける。ri
はサイトi
の位置ベクトルである。式(12,13)
を式(3)
に代入し、小 さな揺らぎを持った方程式を線形化すると(
A k B k
− B k ∗ − A ∗ k ) (
u k v k
)
= ¯ hω k
( u k v k
)
(14)
という線形化された運動方程式を得られる。u k
とv k
はそれぞれu n
1,n
2,k
とv n
1,n
2,k
を成分に持つ(n c + 1) 2
次のベクトルである。行列成分A k
とB k
はA (n k
1,n
2),(n
′1,n
′2) ≡
[ ∑
α
( U
2 n α (n α − 1) − µn α )
+ U 12 n 1 n 2 − ¯ h˜ ω i ]
δ n
1,n
′ 1δ n
2,n
′2
− zt ( Φ ˜ 1 √
n 1 δ n
1− 1,n
′1
+ ˜ Φ ∗ 1 √
n 1 + 1δ n
1+1,n
′ 1)
− zt ( Φ ˜ 2
√ n 2 δ n
2− 1,n
′2+ ˜ Φ ∗ 2 √
n 2 + 1δ n
2+1,n
′2)
− ϵ(k) [
C 1,1 1 + C − 1 1, − 1 + C 1,1 2 + C − 2 1, − 1 ]
(15) B k (n
1,n
2),(n
′1,n
′2) ≡ ϵ(k) [
D 1 1, − 1 + D 1 − 1,1 + D 1, 2 − 1 + D − 2 1,1 ]
(16) C l,m 1 ≡ √
n ′ 1 + (1 + l)/2 √
n 1 + (1 + m)/2 ˜ f n ∗
′1
+l,n
′2f ˜ n
1+m,n
2C l,m 2 ≡ √
n ′ 2 + (1 + l)/2 √
n 2 + (1 + m)/2 ˜ f n ∗
′1
,n
′2+l f ˜ n
1,n
2+m D l,m 1 ≡ √
n ′ 1 + (1 + l)/2 √
n 1 + (1 + m)/2 ˜ f n
′1
+l,n
′2f ˜ n
1+m,n
2D l,m 2 ≡ √
n ′ 2 + (1 + l)/2 √
n 2 + (1 + m)/2 ˜ f n
′1
,n
′2+l f ˜ n
1,n
2+m (17)
であり、ϵ(k) ≡ 2t ∑ D
l=1 cos(k l a)
でa
は格子間距離でありD
は空間の次元である。式
(14)
を対角化することで、与えられた定常状態の励起スペクトルを計算できる。式
(14)
ではPSF
の低位励起を正しく計算できないので、有効ハミルトニアン(8)
とそこから得られた運動方程式(10)
から、新たに線形化した運動方程式を得る必 要がある。それは行列成分こそ異なるが式(14)
と同じ形をとる。ここでu k
とv k
はそれぞれu n,k
とv n,k
を成分に持つ(n c + 1)
次のベクトルである。行列成分はA n,n k
′≡ {
U n(n − 1) − 2µn + U 12 n 2 − 2zt 2
U [n(˜ n + 1) + ˜ n(n + 1)] − ¯ h˜ ω i P }
δ n,n
′− 2zt 2 U
[ Φ ˜ P ∗ (n + 1)δ n+1,n
′+ ˜ Φ P nδ n − 1,n
′]
− ϵ P (k) [
(n ′ + 1)(n + 1) ˜ f n P
′∗ +1 f ˜ n+1 P + n ′ n f ˜ n P
′∗ − 1 f ˜ n P − 1 ]
(18) B k n,n
′≡ ϵ P (k)
[
n ′ (n + 1) ˜ f n P
′− 1 f ˜ n+1 P + (n ′ + 1)n f ˜ n P
′− 1 f ˜ n+1 P ]
(19)
ここでϵ P (k) ≡ 4t U
2∑ D
l=1 cos(k l a)
である。2.5 線形応答理論
ここでは光格子中の
2
成分ボソン混合系を描写する、運動方程式(3,10)
に適用 した線形応答理論を導入する。そして、3種の密度揺らぎに対する動的構造因子を 計算するために、線形応答理論を用いる。外場により応答する時間依存摂動ハミルトニアンを
H ˆ pert (τ ) = − ∑
i
(
λ i G ˆ i e − iωτ e ητ + λ ∗ i G ˆ † i e iωτ e ητ )
(20)
として、λ i
は外場の強度、η
は系にゆっくり外場を作用させることを表す因子であ る。G ˆ
は局所演算子でありG ˆ i = ∑
n
1,n
2,m
1,m
2G m
1,m
2,n
1,n
2| m 1 , m 2 ⟩ i ⟨ n 1 , n 2 | i (21)
である。さらに外場をλ i = ∑
k λ k,ω e ik · r
i と平面波で展開する。局所物理量F ˆ i ≡
∑
n
1,n
2,m
1,m
2F m
1,m
2,n
1,n
2| m 1 , m 2 ⟩ i ⟨ n 1 , n 2 | i
の平均値の揺らぎはδ ⟨ F ˆ i ⟩ = ∑
k
[
χ F , ˆ G ˆ (k, ω)e − iωτ e ητ + χ F , ˆ G ˆ
†(k, − ω)e iωτ e ητ ]
e ik · r
iλ k,ω (22)
となる。GA
では応答関数χ F , ˆ G ˆ (k, ω)
はχ F , ˆ G ˆ (k, ω) = − 1
¯ h
∑
ν
[ ⟨ 0 | F ˆ | ν ⟩⟨ ν | G ˆ | 0 ⟩
ω + iη − ω k,ν − ⟨ 0 | G ˆ | ν ⟩⟨ ν | F ˆ | 0 ⟩ ω + iη + ω k,ν
]
(23)
となる。| 0 ⟩
は基底状態、| ν ⟩
はν
番目の励起状態である。応答関数(23)
の行列要 素は⟨ 0 | O ˆ | ν ⟩ ≡ ∑
n
1,n
2( f ˜ n ∗
1
,n
2O n
1,n
2,n
1,n
2u (ν) n
1
,n
2,k − v (ν) n
1
,n
2,k O n
1,n
2,n
1,n
2f ˜ n
1,n
2)
(24)
⟨ ν | O ˆ | 0 ⟩ ≡ ∑
n
1,n
2( u (ν) n ∗
1
,n
2,k O n
1,n
2,n
1,n
2f ˜ n
1,n
2− f ˜ n ∗
1,n
2O n
1,n
2,n
1,n
2v n (ν) ∗
1
,n
2,k
)
(25)
と定義する。ここで
u (ν) n
1
,n
2,k
とv n (ν)
1
,n
2,k
は式(14)
の解である。SF
ではη/U = 10 − 2
、PSF
ではη/U = 10 − 4
に設定する。今回は物理量と外場の演算子が等しいF ˆ = ˆ G
とし、応答関数を計算する。動的構造因子S F ˆ (k, ω)
はS F ˆ (k, ω) = Im (
χ F , ˆ F ˆ (k, ω)/Π )
(26)
で表せる。ただしこの関係は絶対零度の時のみ当てはまり、ω <0
でS F ˆ (k, ω) = 0
となる。そして動的構造因子をエネルギー積分した静的構造因子S F ˆ (k) ≡
∫
dωS F ˆ (k, ω) (27)
を使って動的構造因子を規格化する。
S ¯ F ˆ (k, ω) = S F ˆ (k, ω)/S F ˆ (k) (28)
3 計算結果
3.1 基底状態と相転移
ここでは、
GA
を用いて基底状態のSF,PSF
相図(zt/U, µ/U )
を描く。ただし、各成分のホッピングと化学ポテンシャルと同成分間相互作用は等しいとする。ま た
z
は配位数である。励起スペクトルを調べたいので、あらかじめ相図を出して おくことが便利である。3.1.1
相図図
1(a)
と(b)
では異成分間相互作用が斥力の時の相図を描いた。ローブで囲ま れた黒いΦ i = 0
の領域がMI
相である。各MI
のトータルフィリングは整数であり 下からn t = 1, 2
と増えていく。t/U = 0
の時、µ
軸におけるMI
相はn t
が奇数のと きU 12
の大きさに、偶数のときU
の大きさにそれぞれ対応している。U 12 /U = 0
のとき奇数のMI
相は消える。それは各成分が互いに影響を及ぼさずに1
成分ボソ ン系と同じように振舞うからである。また、図1(a)
でn t
が偶数の時、1
次相転移 が確認できた。しかし、図1(b)
でn t
が偶数の時は相転移は連続的であった。図
1(c),(d)
では、U 12 = − 0.7
の時の相図を示した。(c
)は式(1)
にGA
を直接適 用し、(d)
は式(8)
から得られた図である。これらの相図では、n t
が偶数のMI
相 しか現れない。図1(c)
ではt/U > 0
の範囲でも直接別のモットローブに移ること が分かる。だがこれはPSF
相に2
次のホッピング過程を考慮していない式(1)
を 使ってしまったものによる。この領域にはPSF
相が存在している。実際、有効ハ ミルトニアン(8)
を適用した図1(d)
では、PSF
相で各モットローブが離れている ことが分かる。図1(c)
に比べて図1(d)
のMI
領域が随分大きくなっているが、こ れは有効ハミルトニアン(8)
がt
が大きい範囲ではより高次のホッピング項が影響 してしまうため、妥当でないからである。図
1(e),(f)
では、U 12 = − 0.7
の時のPSF
相を示した。この相はペアの運動量の みが許されるので、Φi = 0
かつΦ P i ̸ = 0
の領域に現れる。図からPSF
相は非常に 小さいことが分かる。これにより実験的に実現ができないと考えられる。(a) (b)
(c) (d)
(e) (f)
図
1: (zt/U, µ/U )
平面の相図。(a)U12 /U = 0.9,(b)U 12 /U = 0.5,(c)U 12 /U =
− 0.7,(d)U 12 /U = − 0.7
。(a),(b),(c)
は式(3)
から得られたSF
の秩序変数Φ i
の相図 である。(d)
は式(10)
から得られたPSF
の秩序変数Φ P i
から得られた相図である。(e),(f)
はPSF
相を表している。PSF相はΦ i = 0
かつΦ P i ̸ = 0
のところに現れる。(e),(f)
から分かるようにモットローブ間の小さい範囲にPSF
相は確認できる。化学ポテンシャルの高いモットローブにはノイズが見られるがこれはフィリングを カッティングした影響である。
3.2 励起スペクトル
節
2.4
では、D
次光格子中の2
成分ボソン混合系の素励起の計算法を導入した。節
3
で基底状態の相図が得られたので、この節では励起スペクトルの特徴を明らか にするためにその計算法を用いる。以後、D = 2
とし励起の運動量はk x = k y ≡ k
とする。3.2.1 SF
相式
(14)
を対角化することでSF
相における励起スペクトルを計算する。自発的 対称性破れが起きている相(
ここではSF,PSF
相)
では、ギャップフルモードは秩 序変数の振幅の揺らぎ(ヒッグスモード)、ギャップレスモードは秩序変数の位相 の揺らぎ(
南部・ゴールドストーンモード)
にそれぞれ対応している[20]
。3.2.2
転移点近傍図
2
では、n t = 1, U 12 /U = 0.9
励起スペクトルをプロットした。t/U
を変えて転 移点t c /U ≃ 0.0405
からMI
相内の励起スペクトルをプロットした。ここで化学ポ テンシャルµ
を一定にした。転移点からt/U
を小さくするとMI
相で2つのギャッ プレスモードがギャップフルモードになる。これらはそれぞれ粒子とホールの励起 に対応していて、この振る舞いは1
成分BHM
とも一致する[11]。
(a) (b)
図
2: (ka/π, E k /U )
平面の励起スペクトル。パラメータはn t = 1, U 12 /U = 0.9
で ある。ホッピング強度は、(a)t/U = 0.0405 ≃ t c /U,(b)t/U = 0.039
。図
3
では、nt = 2, U 12 /U = 0.5
の励起スペクトルをプロットし、図2
と同様にt/U
を変化させた。SF
相ではギャップフルモードがあるので、そのモードが転移 点でギャップレスとなり、4
つのモードが低エネルギー部分で重なりあっていると考えられる。ギャップレスモードは超流動秩序変数の振幅に対応しているので、こ れは同相と逆相の超流動が同時に消えたことを示している。この同時性はヒステ リシスがないことを意味しており、これが
2
次相転移であることが分かる。そし て、図2
と同様にt/U
を小さくするとそれらが重なりながらギャップフルモードと なる。(a) (b)
図
3: (ka/π, E k /U )
平面の励起スペクトル。パラメータはn t = 2, U 12 /U = 0.5
で ある。ホッピング強度は、(a)t/U = 0.04125 ≃ t c /U ,(b)t/U = 0.04
3.2.3 PSF
相図
4
でn t = 1
のPSF
の励起スペクトルである。パラメータはt/U = 0.03
とU 12 /U = − 0.7
に設定する。ここでは、最低モードとその一つ上のモードに大きな 差があった。これはPSF
相では同相モードしか現れない為であると思われる。(a)
図
4: (ka/π, E k /U )
平面のPSF
相の励起スペクトル。パラメータはt/U = 0.03, U 12 /U = − 0.7
である。3.3 動的構造因子
ブラッグ分光法により実験的に
1
成分の動的構造因子を測定することに成功し ており、ここからSF
相におけるボゴリューボフモードの観測に繋がった[22]。こ
の節では
SF,PSF
相の2
成分ボソン混合系に対する動的構造因子を計算し、これらの相をブラッグ分光法によって区別できることを示す。
ブラッグ分光法では、運動量
k
と振動数ω
の振動する外場をボース気体に当て 気体の密度揺らぎを誘発し、その応答を測定する。今回は2
種の密度揺らぎを考 え、それを式(20)
に適用する。(i)1
成分密度揺らぎG ˆ 1,i = ˆ F 1,i = ˆ n 1,i ,(ii)
同相の密 度揺らぎG ˆ in 1,i = ˆ F 1,i in = ˆ n 1,i + ˆ n 2,i
である。これらを式(23,26)
に代入し動的構造因子
S F ˆ (k, ω)
を計算する。これらの密度揺らぎは実験的には外場として、成分依存レーザー
[23]
により引き出す。PSF
相の動的構造因子を計算する。図5
では(a)1
成分密度揺らぎ,(b)同相密度 揺らぎに対する動的構造因子S ¯ F ˆ (k, ω)
をプロットした。どちらも最低モードであ る同相モードに反応した。PSF
相では常に粒子はペアを組んでいるので同じ結果 になるのは妥当である。ここでは、F ˆ 1,i out
に対する応答はないと考える。なぜならPSF
はペアの運動量しか許さないため、アンチペアの応答をさせようとしても反 応しないであろう。以上から、各相で密度揺らぎによる応答が異なることが分かっ たので、ブラッグ分光法によって動的構造因子を測定することは、これらの相を 同定するのに役立つかもしれない。(a) (b)
図
5: (ka/π, E k /U )
平面のPSF
の動的構造因子S ¯ F ˆ (k, ω)
。n t = 1, t/U =
0.03, U 12 /U = − 0.7
である。(a)1
成分の密度揺らぎの応答F ˆ 1,i ,(b)
同相の密度揺 らぎの応答F ˆ 1,i in
4 まとめ
本研究では、光格子中の
2
成分混合系の基底状態の特徴と励起をGA
を使って調 べた。平面(µ/U, zt/U )
の基底状態の相図を得られ、U 12
による相境界の変化を計 算した。そして、線形化された運動方程式を解き、いくつかの相の励起スペクト ルを計算した。t/U
量子相を減らしたとき、転移点近傍でギャップフルモードが下 がり、ギャップレスモード、つまりボゴリューボフモードに近づき低エネルギー部 分が一致した。またPSF
相の励起スペクトルも計算し、ほぼギャップレスなモー ドが見れた。さらに線形応答理論による動的構造因子を導き出した。PSF
相に対 して2
種類の密度揺らぎに対する応答を調べた。このことから量子相は密度揺ら ぎに対する応答を測定することで同定できるかもしれない。つまり、未だ実験的 に見つかっていないPSF
相やCSF
相などの発見は、ブラッグ分光法による動的構 造因子の測定が非常に大きく役立つかもしれない。今回の研究では、
2
成分BHM
で現れるCSF
相は調べていない。また数値計算 の問題から、SF
相に現れるはずのギャップレスモードが確認できなかった。さら に、逆相揺らぎの応答を調べることもできなかった。今後はこれらを調べてさら に2
成分ボース混合系の新奇相の発見に貢献したい。謝辞
本論文は筆者が首都大学東京理学研究科物理学専攻博士前期課程に在籍中の研 究結果をまとめたものである。同専攻准教授荒畑先生には指導教官として本研究 の実施の機会を与えて戴き、終始ご指導を戴いた。ここに深謝の意を表する。同 専攻教授森先生、並びに同専攻教授堀田先生には副査としてご助言戴くとともに 本論文の細部にわたりご指導を戴いた。ここに深謝の意を表する。
参考文献
[1] Bloch, Immanuel, Jean Dalibard, and Wilhelm Zwerger. Reviews of modern physics 80 885 (2008).
[2] Greiner, Markus, et al. nature 415 39 (2002).
[3] Kuklov, Anatoly, Nikolay Prokof ev, and Boris Svistunov. Physical review letters 92 050402 (2004).
[4] Mathey, L. Physical Review B 75 144510 (2007).
[5] Hu, Anzi, et al. Physical Review A 84 041609 (2011).
[6] Fisher, Matthew PA, et al. Physical Review B 40 546 (1989).
[7] Jaksch, Dieter, et al. Physical Review Letters 81 3108 (1998).
[8] Elstner, N., and H. Monien. Physical Review B 59 12184 (1999).
[9] Altman, Ehud, and Assa Auerbach. Physical review letters 89 250404 (2002).
[10] Steinhauer, J., et al. Physical review letters 88 120407 (2002).
[11] Krutitsky, Konstantin V., and Patrick Navez. Physical Review A 84 033602 (2011).
[12] Weld, David M., et al. Physical review letters 103 245301 (2009).
[13] Catani, J., De Sarlo, L., et al. Physical Review A 77 011603 (2008).
[14] Sugawa, S., Taie, S., Yamazaki, R., et al. Physical Review A 84 011610 (2011).
[15] Widera, A., Trotzky, S., et al. Physical review letters 100 140401 (2008).
[16] Ozaki, Takeshi, and Tetsuro Nikuni. Journal of the Physical Society of Japan 81 024001 (2012).
[17] Ao, P., and S. T. Chui. Physical Review A 58 4836 (1998).
[18] Yamashita, Makoto, and Michael W. Jack. Physical Review A 76 023606 (2007).
[19] Chen, Guang-Hong, and Yong-Shi Wu. Physical Review A 67 013606 (2003).
[20] Ruostekoski, J., and Zachary Dutton. Physical Review A 76 063607 (2007).