実店舗購買とオンライン店舗購買における顧客満足度の比較

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『????????』

第1巻(Spring, 2018)

実店舗購買とオンライン店舗購買における顧客満足度の比較

尾矢杏理

第 1 章 はじめに

オンライン通販のサービスの質が向上したことにより、現代の消費者は欲しいものをい つでもどこでも手に入れることが可能である。時間的・場所的制約が取り払われたことは、

買い手・売り手ともに双方にとって大きな利益である。近年では、これらの流通に消費者 自身が参加する例も多くみられ、今後もインターネットによる通信販売は増加の一途をた どるだろう。それに伴い、実店舗の販売に関する興味は薄らいでいくようにも思われる。

しかしながら,消費者は,モノのみを購入するだけでなく、モノを購入したり使用した りする過程を楽しむなどの多様な購買行動、消費行動を行っている。買い物自体を目的と する快楽型の消費者は,買物全体の69%を占めると言われている(Ballenger, 1980)。

本論では、購買行動の動機となる快楽的購買動機に着目し、インターネット通販との比 較によって実店舗の有用性を明らかにするものである。

第 2 章 仮説の提唱

購買動機に関する研究として Tauber (1972)は、買物の動機に個人的と社会的という2種 類の動機を見つけ出した。そしてそれぞれに「楽しさ」が内包されているとしていた。そ

の後Guido (2006)が、購買動機を快楽型購買動機と功利型購買動機に二分した。快楽型購買

動機とは遊び、審美的、享楽的な購買行動のことであり、効用型購買動機は機能的でタス クとして合理的な買い物であるとしている。またBabin (1994)は、買物自体を目的とした消 費者を快楽型消費者、特定物の購買を目的とした消費者を功利的消費者とした。

オンライン通販の一番の利点は、時間的・空間的な制約が少ないことだろう。Forsythe, et al. (2006)はオンライン通販の利点の測定尺度を導き出す際、「いつでもほしいときに買うこ とができる」「店に訪れる必要がない」「多様な店舗から買うことができる」「品揃えが幅広 い」「多くのブランドや店舗のサイトから買うことができる」などその利便性と品揃えの幅 広さを挙げている。よって効用型の消費者は、目的物の購買に重きを置くため、実店舗で

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の購買よりオンラインでの購買のほうが利便性は高いため、顧客満足度が高くなるだろう。

それに比べ、快楽型の消費者は、目的物の購買だけではなく、購入に至るまでの過程を楽 しむため、オンラインでの購買より実店舗での購買のほうが、顧客満足度は高いだろう。

よって以下の仮説を提唱する。

仮説1 快楽追及属性は、実店舗購買における顧客満足度に正の影響を与える。

仮説2 功利追求属性は、実店舗購買における顧客満足度に負の影響を与える。

仮説3 快楽追求属性は、オンライン店舗購買における顧客満足度に負の影響を与える。

仮説4 功利追求属性は、オンライン店舗購買における顧客満足度に正の影響を与える。

第 3 章 データ収集

3-1 予備調査

第 2 章で設定した仮説の経験的妥当性を吟味するために、実証分析を行う。本調査に先 立ち、被験者を快楽型と効用型に分ける必要がある。調査方法として、快楽型については

「主観的かつ感情的な価値を伴う買い物であること、購入は付随的なものであり、購入しな くても想像による消費を楽しむことができ買い物そのものが遊び・楽しみになっているこ と、タスクが仕事やおつかいでないこと。」というBabin (1994)の定義に従った。調査では、

Babin が導き出した以下の「そこでの買い物は本当に楽しい」「そこでの買い物は何かから

の逃避といえる」「そこで新製品・商品を眺めるのが楽しい」「ここに行くとき、特に買い たいものがあるわけではない」「そこへは特に目的もなく思い付きで行くことが多い」「そ こでの買い物は何かを見つけに行く楽しさがある」「そこでの買い物は嫌なことを忘れられ る」「そこでの買い物はワクワクする気分である」「そこでの買い物はいい時間の使い方だ と思う」という9個の質問について、被験者には5段階の度合いで示された「あてはまる」

から「全くあてはまらない」までのうちから1つの段階を選択するように求めた。

効用型についても「タスクとして合理的になされるべき買い物、達成することが目的で 計画的かつ効果的であることが求められること、必ずしも購入が伴わず情報収集に終わる ことも合理的であること」というBabin (1994)の定義に従った。調査では以下の「そこには 買おうとしたものがそろっている」「本当に欲しかったものは買えないことが多い」「そこ では探しているものが見つかる」「買い物をすべて済ますには別の情報収集に行かなくては ならない」という 4 個の質問について、被験者には 5 段階の度合いで示された「あてはま る」から「全くあてはまらない」までのうちから1つの段階を選択するように求めた。

これにより、消費者を快楽型および効用型に分けた。

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3-2 本調査

実験調査に際して、オンライン店舗における購買および実店舗における購買を想定しな がら顧客満足度について回答を求めた。顧客満足については、Arora(1985)と Crosby and

Stephens(1987)の尺度を用いた。尺度法は7点リカート尺度法およびセマンティック・デ

ィフェレンシャル尺度法を採用した。Arora(1985)による、「自分のした買い物に対し満足 している」、「自分の選んだ商品に対し満足している」、および「自分のとった行動は正しか ったと思う」という3つの質問に対し、被験者は5段階の度合いで示された「あてはまる」

から「全くあてはまらない」までのうちから1つの段階を選択するように求められた。

実験調査における被験者は近畿圏に住む 20 代男女のべ 123 人(100%)であり、そのう ち有効回答者は123人(100%)であった。

第 4 章 分析結果

4-1 仮説1および2の分析結果

実店舗購買における顧客満足度を従属変数として、回帰分析 1 を行った。分析結果は、

以下の表1に示される。モデルの全体的評価について、F値は2.204であり5%水準で有意 であった。モデルの部分的評価について、「X13:そこで新製品・商品を眺めるのが楽しい」

は実店舗購買における顧客満足度に正の有意な影響を及ぼしていた(b13 = 0.236, p < 0.05)。

「X22:本当に欲しかったものは買えないことが多い」は実店舗購買における顧客満足度に負 の有意な影響を及ぼしていた(b22 = -0.355, p < 0.01)。以上の結果より、仮説1「快楽追及属 性は、実店舗購買における顧客満足度に正の影響を与える」、仮説 2「功利追求属性は、実 店舗購買における顧客満足度に負の影響を与える」は部分的に支持された。

表1 回帰分析1の分析結果

Y1:実店舗購買における顧客満足度(F = 2.204(p < 0.05),R2 = 0.114)

X1:快楽追求属性

独立変数 回帰係数(t値)

X11:そこでの買い物はほかのことを するよりも楽しい。

b11 = 0.078 (t =0.512 )

X12:そこでの買い物は何かからの逃 避といえる。

b12 = 0.036 (t =0.253 )

X13:そこで新製品・商品を眺めるの が楽しい。

b13 = 0.236 (t =2.116 )**

X14:ここに行くとき、特に買いたい ものがあるわけではない。

b14 = -0.17 (t =-0.125)

X15:そこへは特に目的もなく思い付 b15 = -0.024 (t =-0.169 )

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きで行くことが多い。

X16:買い物にはなにかを見つけに行 く楽しさがある。

b16 = -0.037 (t =-0.305 )

X17:そこでの買い物は嫌なことを忘 れられる。

b17 = 0.025 (t =0.165 )

X18:そこでの買い物はワクワクする 気分である。

b18 = -0.021 (t =-0.141 )

X19:そこでの買い物はいい時間の使 い方だと思う。

b19 = -0.015 (t =-0.142 )

X2:功利追求属性

X21:そこには買おうとしたものがそ ろっている。

b21 = -0.036 (t =-0.372 )

X22:本当に欲しかったものは買えな いことが多い。

b22 = -0.355 (t =-3.004)***

X23:そこでは探しているものが見つ かる。

b23 = -0.165 (t =-1.562 )

X24:買い物をすべて済ますには別の 情報収集に行かなくてはならない。

b24 = 0.188 (t =1.963 )

***は1%水準で有意、**は5%水準で有意、無印は非有意。

4-2 仮説3および4の分析結果

オンライン店舗購買における顧客満足度を従属変数として、回帰分析 2 を行った。分析 結果は、以下の表2に示される。モデルの全体的評価について、F値は1.807であり10%水 準で有意であった。モデルの部分的評価について、「X13:そこで新製品・商品を眺めるのが 楽しい」はオンライン店舗購買における顧客満足度に正の有意な影響を及ぼしていた(b13 =

0.219, p < 0.10)。「X21:そこには買おうとしたものがそろっている」はオンライン店舗購買

における顧客満足度に負の有意な影響を及ぼしていた(b21 = -0.216, p < 0.05)。「X22:本当に 欲しかったものは買えないことが多い」はオンライン店舗購買における顧客満足度に負の 有意な影響を及ぼしていた(b21 = -0.200, p < 0.10)。以上の結果より、仮説3「快楽追求属性 は、オンライン店舗購買における顧客満足度に負の影響を与える」、仮説 4「功利追求属性 は、オンライン店舗購買における顧客満足度に正の影響を与える」について、仮説とは真 逆の結果が得られた。

表2 回帰分析2の分析結果

Y2:オンライン店舗購買における顧客満足度(F = 1.807(p < 0.10),R2 = 0.079)

X1:快楽追求属性 独立変数 回帰係数(t値)

X11:そこでの買い物はほかのことを b11 = -0.005 (t = -0.035 )

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するよりも楽しい。

X12:そこでの買い物は何かからの逃 避といえる。

b12 = -0.037 (t = -0.254 )

X13:そこで新製品・商品を眺めるの が楽しい。

b13 = 0.219 (t = 1.930)*

X14:ここに行くとき、特に買いたい ものがあるわけではない。

b14 = 0.018 (t = 0.130)

X15:そこへは特に目的もなく思い付 きで行くことが多い。

b15 = -0.046 (t = -0.322)

X16:買い物にはなにかを見つけに行 く楽しさがある。

b16 = 0.035 (t = 0.284)

X17:そこでの買い物は嫌なことを忘 れられる。

b17 = 0.051 (t = 0.329)

X18:そこでの買い物はワクワクする 気分である。

b18 = 0.102 (t = 0.687)

X19:そこでの買い物はいい時間の使 い方だと思う。

b19 = -0.087 (t = 0.810)

X2:功利追求属性

X21:そこには買おうとしたものがそ ろっている。

b21 = -0.216 (t = -2.181)**

X22:本当に欲しかったものは買えな いことが多い。

b22 = -0.200 (t = -1.663)*

X23:そこでは探しているものが見つ かる。

b23 = 0.001 (t = -0.009 )

X24:買い物をすべて済ますには別の 情報収集に行かなくてはならない。

b24 = 0.149 (t =1.522 )

***は1%水準で有意、**は5%水準で有意、*は10%水準で有意、無印は非有意。

第 5 章 おわりに

5-1 要約と成果

本論では、買い物行動における快楽追求属性および功利追求属性が顧客満足度に与える 影響を、実店舗購買とオンライン店舗購買の 2 ケースに分けて探究してきた。まず仮説 1

「快楽追求属性は、実店舗購買における顧客満足度に正の影響を与える」、仮説2「功利追求 属性は、実店舗購買における顧客満足度に負の影響を与える」は部分的に支持された。こ のことから買い物の過程を楽しむ快楽追求属性の消費者にとって実店舗購買は、様々な商

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品を実際に見たり触ったりできることが顧客満足度の向上につながっていると考えられる。

反対に功利追求属性の消費者にとってはそういった行為が煩わしく感じられ、顧客満足度 に負の影響を与えていると考えられる。

そして仮説3「快楽追求属性は、オンライン店舗購買における顧客満足度に負の影響を与 える」、仮説 4「功利追求属性は、オンライン店舗購買における顧客満足度に正の影響を与 える」については、興味深いことに、真逆の結果が得られた。これは快楽追求属性を有す る消費者が、オンライン通販を楽しんでいるということを示す。これに関して、本論では、

時間と場所の都合上、被験者を近畿圏在住の大学生に絞った。この世代は、デジタルネイ ティブといわれるほど、幼いころから情報機器に慣れ親しんでいるため、オンライン店舗 における買い物を、便利なだけでなく楽しいと感じることができるのかもしれない。この 点について、調査対象を幅広い年代に広げることで、異なる仮説や分析結果が導けるだろ う。また、功利追求属性を有する消費者においても、オンライン店舗購買の利便性を享受 できていないという結果が得られた。オンライン店舗購買では、しばしば、消費者が想定 していた製品の仕様と実際に購買した製品の仕様が異なることがある。このことが、目的 物購買に重きを置く功利追求型の消費者にとって、重要であると捉えられたと考えられる。

5-2 課題と展望

調査方法について、以下のような課題が挙げられるだろう。まず、消費者調査について、

本論の被験者は、時間および予算の制約上、大学生に限定されていた。今後は年齢や職業 について多様な被験者を採用することによって、分析の信頼性を高める必要があると考え られる。また、本論は顧客満足に影響を及ぼす購買行動について、特定の製品を被験者に 想定させずに実験調査を行った。功利追求型の消費者といえども、その場で飲む飲料を買 う場合はわざわざオンラインで買おうとは考えないだろう。今後は、商品の種類という変 数を加えることで、消費者の購買行動に対する新たな知見が得られると考えられる。

参考文献リスト少し待ってください。。。

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