日本語母語学習者に対する 視覚的英語リズム指導法の効果
― 母音挿入・添加の排除と弱母音の習得 ―
笠 原 園 子・大 倉 直 子
Effects of Instruction of English Rhythm with Visual Helps to Japanese Learners of English: Preventing Vowel Insertion
and Addition and Learning Weak Vowels KASAHARA, Sonoko・OKURA, Naoko
要旨:英語音声教育において「通じやすさ (intelligibility) 」を高める ためには、英語のリズムの習得が重要である。しかし、臨界期といわ れる年齢を過ぎている大人が、耳から音声教材を聞くだけで自然に英 語らしいリズムを身につけることは難しく、日本語と英語の音韻構造 の違いを明示的に教えた上で練習させることが、音声習得に有効であ ると考えられる。そこで本研究では、英語のリズム習得において日本 語母語学習者の抱える問題を音韻的に明らかにした上で、改善に効果 的な指導法として「音を繋げる linking の指導」と「強弱を視覚化した 文アクセント1)の指導」を用い、実際に社会人向け英語学校で指導を 行って効果的であったことを示す。また、このようなリズム指導を通 して、母音挿入・添加の排除や弱母音の実現など、日本語母語学習者 に広く見られる問題の改善にもつながることを示す。
キーワード:英語リズム指導、母音挿入・添加、弱母音、linking、文 アクセント、stress-timed language、mora-timed language, interstress interval
1. はじめに
1.1 リズムの重要性と日本語母語学習者が抱える問題
英語の習得において文法知識が必要なのは言うまでもないが、言語を実 際にコミュニケーションのために使うときに重要となるのは、音声である。
日本語母語学習者が英語音声について学ぶべきことや克服すべき課題は少 なくないが、時間の制限もある社会人を対象とした音声教育において、あ えて優先順位をつけるとしたら何から取り組むべきであろうか。重要な観 点は、相手への通じやすさ(intelligibility)であろう。1つ1つの子音・母音の 調音を正確に行うことももちろん必要であるが、リズムやイントネーショ ンなどの超分節的特徴が発話の明瞭性や自然性を左右する要因であること は、既に多くの研究によって明らかにされている(竹蓋 1982, 鈴木 1992, 須
藤 2010など)。特に鈴木では、子音・母音などの分節要素と、リズムや強勢
などの超分節的要素の、英語らしさの評価に与える影響を比較した場合、
前者が日本語的であっても後者が英語的である方が、その逆(前者が英語 的で後者が日本語的)の場合よりも、英語母語話者が「英語らしい」と判断 したという実験結果が示されている。
では、日本人が話す英語のリズムを英語らしくするには、どうすればい いのだろうか。
まず、英語と日本語のリズムの違いを考えてみよう。よく知られている ように、英語はstress-timed languageであり、強勢を担う音節間の長さ(inter-
stress interval, ISI)を一定に保とうとする傾向がある。これに対して日本語
は、mora-timed languageに分類され、1つずつのモーラ(拍)の長さを均等に
保とうとする。実際には、英語のISIに完璧な等時性は見られないという議 論もあるが、少なくともISIを一定に保とうとする傾向はみられる。この働 きにより、ISIに強勢のない音節数が多い場合、それらは短く弱く発音され る(compression effect)。
しかしこうしたISIの短縮は、日本人にとっては難しいものとなってい る。母語の干渉があるからである。具体的には、日本語が先に述べたよう
にmora-timed rhythmを持つこと、そして日本語が開音節言語であること、
この2つが相まって大きな影響を与えている。
(1)日本語母語学習者のISI短縮が妨げられる要因
a. 母音挿入・添加により、英語の音節数よりも拍数が増える。
(例:英語の“strike”は1音節として数えられるが、5拍として数え られる日本語の「ストライク」のように英語も発音してしまう)。
b. 弱母音を弱く発音できず、どの音節も同じぐらいの強さで発音し てしまう。
c. 子音と母音の連結(linking)や子音結合(cluster)がスムーズにでき ない。(例:英語のtake itはtake
˘it /teIkIt/2)のように子音と母音が linkingする。また、old manの子音/d/と/m/は/dm/のように子音 結合となる。)
d. 文の発音を単語を超えた音の連なりとしてではなく、個々の単語 の連なりとしてとらえ、単語と単語の間にポーズをおいてしまう。
上記の(1a)-(1d)は相互に関連して影響を与え合っている問題であり別 個のものではないが、それぞれについて特に中心となっていると考えられ る要因を挙げてみよう。
まず(1a)についてだが、日本人は英語の子音間に母音を挿入したり、子 音で終わる語末に余計な母音を添加したりする傾向がある。これは、日本 語の音節が促音、撥音、長音以外は母音で終わる開音節であることによる 母語の干渉である。その習慣を英語に持ち込んで余分な母音を挿入・添加 することにより、拍数が増えてしまう。さらに、その1つ1つの音節を、
mora-timed languageであるがゆえに均等な長さで発音するので、結果とし
てISIが延びてしまう。
次に(1b)の弱母音の問題についてだが英語の文ではすべての単語のすべ ての音節を同じ長さで発音するのではなく、原則として名詞、動詞などの
内容語の中の強いアクセントを受ける音節だけが長く発音され、その他の 音節は弱化して短く、弱母音で発音されるようになる。このような文アク セント(注1参照)が実現されることによって英語らしいリズムがうまれる(斎 藤 2008)。しかし日本語母語学習者が英語を話すとき、この文アクセント を実現することが難しい。文アクセントについての明確な知識を持ってい ない人が多いのである。それに加えて、日本語が、1つにはモーラを同等の 長さで発音するmora-timed languageであるために、もう1つには、弱母音を 持たないために、強母音と弱母音の持続時間の違いに加え強弱も区別せず、
弱母音を短く弱く発音できない傾向にある。このためISIが延びてしまう。
須藤(2010: 53)でも、「弱形の生成が母語話者のパターンに近づくことによっ
て、文アクセントのパターンも英語母語話者のそれに近づく」「日本で英語 教育を受けている学習者は、弱形の生成の習得が困難である」と結論づけ ている。
次の(1c)は、音をスムーズに繋げることが難しいという問題である。こ れには、様々な要因が絡んでいる。まず、(1a)でも取り上げた母音挿入や 添加の問題がある。余分な母音が挿入されたり添加されたりすることに よって、本来は子音で終わって次の母音とlinkingしたり、次の子音と結合 したりするのが妨げられてしまうのである。さらに、これは本研究の中で も観察されたことであるが、(1b)の弱母音を強く長く発音してしまうこと
もlinkingに影響する。語末の子音から、次の単語の語頭の弱母音にlinking
がかかる場合、その語頭の弱母音が強く発音されてしまうと、スムーズな
linkingが妨げられてしまう。
最後に(1d)についてだが、日本語母語学習者は、英文の発音を単語を超 えた音の連なりとしてではなく、個々の単語の連なりとしてとらえがちで、
単語と単語の間にポーズをおいてしまう。これは、(1c)で述べたような単 語の境い目を超えたlinkingや子音結合を阻んでしまう。もちろん、ポーズ が置かれる分、ISIも長くなってしまう。
このように、(1a)-(1d)のそれぞれの問題の原因を考えてみると、複数の要
因が関連していることがわかる。(1a)-(1d)の問題は単独で指導・解決を目指 すよりも、総合的な指導で相互に改善していくことが望ましいと思われる。
1. 2 指導法の提案
前節では、英語のリズム習得について、日本語母語学習者は特にISIの短 縮が難しいことを述べ、その要因を(1)にまとめた上で詳述した。その中に は、直接的に、あるいは間接的に、日本人が抱える問題として常に指摘され る母音挿入・添加の問題と弱母音の問題((1a)と(1b))が含まれている。こ の2つの問題を単語レベルで指導することも可能であろう。しかし本研究 ではあえて、単語レベルを超えた文レベルの指導を行うことによって、母 音の挿入や添加を排除し、また、日本語にはない弱母音の習得を目指すこ とを提案する。
(2)単語レベルを超えた文レベルの指導 a. 音を繋げるlinkingの指導
b. 強弱を視覚化した文アクセントの指導
子音と母音を繋げる(2a)のlinkingと、(2b)の強弱の文アクセントの指導は、
英語のリズム習得に重要な役割を果たすものである。linkingや文アクセン トの指導を通して学習者に英語らしいリズムを身につけさせる中で、母音 挿入や添加をしないようにさせ、文アクセントのないところを弱母音で実 現させる、というストラテジーで指導を行うのである。単語を超えた文レ ベルの指導であるから、(1c)と(1d)の問題についてももちろん効果がある と考えられる。第2節では、具体的な指導法と指導文について述べ、その効 果を調べていく。
以上、日本語母語学習者のリズム習得における問題について考えてきた。
最後に、リズム習得について、発音教育ではどのような基準が提案されて きたかを概観しておく。
学習者がどこまで音声を習得すべきかを詳細に検討したものには、清水
(2011)「国際語としての英語と発音教育」があり、連続音声についての習得 の基準について先行研究の比較がされている(pp. 54-55, 表3)。ここに挙げ られている各研究のリズムについての基準を見ると、見解は分かれている。
例えば、Gimson(1980)は「NS(Native Speaker)に最低限通じる」ためには「弱 音節の弱化を伴う強弱のリズムが必須」としている。また、Gimson (2008) は「NSに容易に通じる」には「正しい強勢配置と弱音節の弱化が必須」とす るが、一方で「NNS(Non-Native Speakers)同士で最低限通じる」ためには/ə/
を他の母音に置き換えることも容認して「音節拍となるのも許容」とし、や や重要度が下がる。またJenkins (2000)は「NNS同士で最低限通じる」ため には、強勢拍をcoreとはしていない3)。このように、リズム習得の基準につ いては諸説あるが、筆者は、日本の大学や社会人向け英語学校において音 声教育を行う中で、日本語母語学習者にはやはり先の(1)に挙げた日本語 の特質によって引き起こされる問題が重大であり、このために英語らしい リズムを実現できないことが結果として通じやすさに支障をきたしている という観察をしている。そこで本研究においては、先に述べた日本語母語 学習者が抱える問題(1)を改善するために指導法(2)を提案し、以下でその 効果を調べていく。
2. 指導研究の概要
2.1 授業参加者と研究の制限
今回の指導研究は、筆者(笠原)が教える日本国内の社会人向け英語学校 の発音の講座において行った。講座は2週間にわたり、1回2時間の授業を5 回、合計10時間実施した。参加者は、男性5名、女性5名の合計10名で、20代 から50代の社会人である。英語をはじめて学んだ時期は8名が中学校1年時、
2名が小学校6年時である。全員が高校以降で英語圏に1年間以上滞在した 経験を持つ。英検1級またはTOEIC900点以上のスコアを持つ上級学習者で ある。この中で音声学を勉強したことがある人はいない。男性参加者5名を
JM1からJM5とし、女性参加者5名をJF1からJF5とする。
今回の指導研究は、あくまで英語学校の授業の中で行うものであり、本 来の指導内容を変えたり、データ収集という目的で参加者に繰り返し録音 をさせるというようなことはできない。授業内容も、今回の研究と直接関 係のある内容に限定して行うことはできない(補遺参照)。従って、どの指 導が効果を上げたのかを完全に特定することは難しい。そのような制限の ある中で、少しでも指導とその効果を結び付ける分析ができるように記述 的研究を試みた。
2. 2 手順と課題文
講座の前と後の参加者の発音を比較するために、1回目の授業開始前と5 回目の授業終了後に以下の課題文の音読を録音した。課題文は3回目の授 業での指導にも使用した。
(3) 課題文
There was an old man called Greg who tried to break open an egg.
He kicked it around, but fell on the ground and found that he’d broken a leg.
(Hancock 2003: 85) 課題文を引用したテキストのHancock(2003)Pronunciation in Useは、音声 教育に広く使われており、筆者が教えている文教大学でも、英文科1年生の 共通必修科目である「英語音声学」(2016年度までは「発音演習」)で参考書 に指定されている。このように広く使用されているテキストからエクササ イズを引用して課題文として指導研究を行うことで、授業実践の一例の報 告としても貢献できると考えた。
3. 指導と分析 3.1 指導法
以下では、指導法について詳しく述べる。前出(3)の課題文を再掲する。
There was an old man called Greg, who tried to break open an egg.
He kicked it around, but fell on the ground, and found that he’d broken a leg.
(Hancock 2003: 85)
課題文はlimerick(滑稽な内容の5行詩。aabbaと押韻する)であり、Han-
cockにおいてもlinkingの練習のために掲載されている。今回の指導では、
文中において子音で終わる語に母音を添加しないよう、linkingできるとこ ろはすることと、文アクセントを習得することを目標とした。子音で終わ る単語のあとに母音で始まる単語が続くとき、その語間にポーズを入れず につなげて読むというlinkingを説明した後、この5行詩で該当する箇所に スラーマーク(‿ )をつけて確認した。さらに、linking箇所の文アクセント もマルを使って表した。機能語で弱く発音する音節の上には小さな○をつ け、強い文アクセントがくる内容語のアクセントを担う音節の上には大き な●をつけた。スラーマークをつけることはHancockの中でも指示されて いるが、そこにさらに、文アクセントを表す大小のマルをつける指導を加 えたものである。
(4) 課題文:linkingと文アクセントを視覚化した指導
〇 〇 〇 ● ● ● ● There was‿an‿old man called Greg,
/wəzənoʊld/
〇 ● 〇 ● ● 〇 〇 ● who tried to break‿open‿an‿egg.
/breɪkoʊpənəneg/
〇 ● ○ ○ ● 〇 ● ○ ○ ● ○ ● He kicked‿it‿around, but fell‿on the ground‿and found
/kɪktɪtəraʊnd/ /felɑn/ /graʊndənd/
〇 〇 ● 〇 〇 ● that he’d broken‿a leg.
/broʊkənə/
英文の音声は語の連なりではなく音の連なりであること、つまり語の切 れ目と音の切れ目は必ずしも一致しないことを徹底させるために、たとえ ば“kicked it around” の下に/kɪktɪtəraʊnd/ と発音記号を板書し発音練習さ せた。
3. 2 課題文の指導効果分析と結果
次に指導後の最終録音を音声分析ソフト、Praatを用いて分析し、指導の 効果を考察する。
3. 2. 1 音を繋げる linking の指導効果
授業参加者10名のうち7名 (JM1, JM5, JF1, JF2, JF3, JF4, JF5) は指導前の 録音で単語と単語の間でポーズをおく傾向があり、それが日本語のリズム で英語を発音している印象を与えていた。linkingの練習をすることによっ て、以下2つの点で英語リズムの問題に良い変化がみられた。
1つは語末閉鎖音の破裂を強くし過ぎていたのが弱くなったという効果 である。英語母語話者の発音では語末閉鎖子音の破裂は弱いか、開放をせ ず無音になる。破裂を強くするとその単語で区切りがつき、流れのある英 語らしいリズムを実現できない。授業参加者の中には“kicked”の語末/t/の 破裂が強く、その影響で、後続する“it”の弱母音も強く発音してしまう人が いた(JM1)。JM1は指導前の録音で“kicked it ... ”の“it”と“fell on the ground
and ... ”の“ground” の語末子音も強く破裂していた。これが指導後の録音で
は“it”の語末破裂は弱くなり、“ground”は指導前にできなかったlinkingも 果たしている(“ground‿and”)。
2つ目は語頭の弱母音を強く発音していたのを弱く、短く発音できるよ
うになった効果である。指導前にlinkingができなかった7名のうち、“kicked it around”の“it”の母音を日本語の「イ」のように発音していた4名(JM1, JF1,
JF2, JF3)が、“kicked”とつなげることで英語の弱母音/i/として弱く短く発
音できるようになった((5)に網掛けで表示)。
(5)/i/の持続時間 *秒
参加者 (a) 指導前 (b) 指導後 (c)時間差
(b)-(a) (d)(a)に対する
(b)の比率
JM1 0.065* 0.053 -0.012 82%
JM5 0.052 0.058 +0.006 112%
JF1 0.073 0.048 -0.025 66%
JF2 0.067 0.033 -0.034 49%
JF3 0.075 0.062 -0.013 83%
JF4 0.113 0.149 +0.036 132%
JF5 0.060 0.066 +0.006 110%
7名の(c)の平均値=-0.005
一方、語中にある弱母音は、linkingの直接的な影響はない。そこで、語中 の弱母音も弱く発音する練習が必要となる。
3. 2. 2 強弱を視覚化した文アクセント(リズム)の指導効果
この課題文はlimerickという韻文であり、英語らしいリズムにのって読 ませるように書かれている。ここでは、この英語らしいリズムの実現をISI の等時性の点から分析する。HancockのCDに録音されている英語母語話 者の音声モデルでは、/(gr)aʊndəndf (aʊnd)/と/(f)aʊndðəthidbr (oʊ)/
の下線部の長さがほぼ等しく、ここに強アクセントの等時性がみられる。
ここで“ground”の/aʊ/という強母音から、次の強母音、つまり“found”の
/aʊ/の直前まで(/aʊndəndf /)をISI-1とする。そして、続く強母音/aʊ/か ら、次の強母音、つまり“broken”の/oʊ/の直前まで(/aʊndðəthidbr /)を ISI-2とする。ISI-1は2音節、ISI-2は3音節なので、等時性実現のためには1音 節多いISI-2を速く発音できることが鍵になる。
(6) ISI-1 ISI-2
(2音節) (3音節)
..., but fell on the gr ound and f ound that he’d br oken a leg.
/aʊndəndf / / aʊndðəthidbr /
指導前は参加者の全員がISI-2の /aʊndðɘthidbr/ の長さの方がISI-1の
/aʊndɘndf/よりも長かった。モーラに等時性を持つ日本語が転移すれば、
そのような結果になるであろう。
しかし、小さな○で弱音節は弱く、短くと指導した結果、5名 (JM2, JF1, JF2, JF3, JF4)はISI-1とISI-2の長さの差が縮まり、以下の(7)に示すように
ISI-2に対するISI-1の比率が大きくなった。結果としておのずと等時性が得
られた印象を感じとることができる。
(7) ISI-1とISI-2の持続時間比の指導前と指導後の差 *秒 参
加 者
指導前 指導後 差
(a)ISI-1の長さ(b)ISI-2の長さ(c)ISI-1の長さ(d)ISI-2の長さ
(f)–(e)
(e)ISI-2に対するISI-1の比率 (f)ISI-2に対するISI-1の比率
JM1 0.847* 1.558 0.582 1.676
54% 35% -19
JM2 0.675 1.197 0.710 1.060
56% 67% +11
JM3 0.633 0.785 0.604 0.797
81% 76% -5
JM4 0.500 0.829 0.600 2.274
60% 26% -34
JM5 0.712 0.949 0.990 1.651
75% 60% -15
JF1 0.657 1.268 1.074 0.842
52% 128% +76
JF2 0.710 0.988 0.628 0.843
72% 74% +2
JF3 1.014 1.643 0.815 1.054
62% 77% +15
JF4 0.936 2.705 0.789 1.112
35% 71% +36
JF5 1.035 1.301 0.953 1.234
80% 77% -3
CDの音声モデルでここに等時性が実現されていることは明示的に説明 しなかったにも関わらず、5名においては等時性に近づけたことは、母音添 加・挿入をしたり、弱母音を強母音で発音したりするなど本来の英語には ない余分な音の付加や引き延ばしをせず、compression effectで英語らしい リズムを実現できた結果だと考えられる。
ISI-2の中でも、(f)/aʊnd/の母音は二重母音で、強く長さをもって発音 する音であり、/ndðəthidbr/の部分が短くすべきところである。では実際に、
/ndðəthidbr/をどれぐらい短く読めるようになったのだろうか。
/ndðəthidbr/の長さだけを指導前と指導後で単純に比較すると、指導後に
短くなった人が7名いた(JM2, JM3, JF1, JF2, JF3, JF4, JF5)。以下の(8)に示す。
(8)/ndðəthidbr/の持続時間4) *秒
参加者 (a)指導前 (b)指導後 (c)時間差(b)-(a) (d)比率 JM1 1.420* 1.554 +0.134 109%
JM2 0.922 0.800 -0.122 87%
JM3 0.609 0.592 -0.017 97%
JM4 0.706 2.075 +1.369 294%
JM5 0.816 1.451 +0.635 178%
JF1 1.134 0.794 -0.340 70%
JF2 0.908 0.615 -0.293 68%
JF3 1.386 0.883 -0.503 64%
JF4 2.487 0.935 -1.552 38%
JF5 1.040 0.925 -0.115 89%
10名の(c)の平均値=-0.080
子音より母音の長さの方がISIの長さに影響を及ぼすが、JF1、JF2は指導
前はISI-2の“that” を弱母音として発音できないことでISI-2全体が長くなっ てしまっていた。しかし、指導後に弱母音を実現できるようになって全体 を短くすることができた。
●強母音発音への効果
一方で、英語らしいリズムを作ってそれにのっていくには、強母音を強 く正確に発音することも必要である。ISI-1の “ground” とISI-2の“found”の 二重母音が、指導前は[grand] [fand] のような発音であったのが、指導後に 正確な二重母音で実現できるようになった人が5名いた (JM3, JM4, JM5,
JF2, JF5)。弱母音を弱く短く発音するためだけでなく、強母音を強母音と
して実現するためにも、強弱の違いをマルで表しながらの指導方法が有効 だったと考えられる。
●母音挿入排除への効果
母音挿入については指導前の録音では、“kicked” の“kick”を「キック」と 発音していた参加者が3名いたのであるが (JM1, JF1, JF5)、3名とも指導後 の録音では挿入をやめ、/kɪkt/と正しく発音している。視覚的指導でこの 単語の上には大きな●がひとつだけつくことを示したことが、母音は/ɪ/
ひとつだけなのだと認識しやすくさせたのではないかと考える。
3. 3 授業参加者の意識変化
以上、参加者の発音にどのような指導効果を確認することができたかに ついて述べてきたが、参加者の意識にも前向きな変化があったようである。
講座の開始に先立ちアンケートをとり、「英語発音のどんな点を改善した いか?」と質問したところ、リズムに関して言及した人はひとりもいなかっ た。多くが「/r/と/l/の区別ができるようになりたい」、「/θ/と/ð/の発音 を上手にしたい」、「イントネーションがおかしいと言われるので直したい」
と答えていた。分節音とイントネーションを矯正することに関心があった
のである。ところが、講座終了時に実施したアンケートで「受講前と後を比 べて、向上したと思われる点は何か?」と質問したところ、「強弱のメリハリ を意識するようになった」、「実際、発音にメリハリがついてきた」、「リズム」、
「内容語と機能語を意識できるようになった」というように、リズムに関し て答えた参加者が半数にのぼった。これまでになくリズムの重要性を認識 し、意識を向けることができるようになったのであれば大きな前進と言え よう。
4. むすび
本稿では最初に、日本語母語学習者が英語を話すときに抱えるリズム面 の具体的な弱点を挙げた。それらを克服するために、「音を繋げるlinkingの 指導」と「強弱を視覚化した文アクセントの指導」を提案した。そして実際 にそうした指導を取り入れた発音講座の参加者に、指導前と後でどのよう な改善がみられたかについて、/i/の持続時間、ISI-1とISI-2の持続時間比の 指導前と指導後の差、/ndðəthidbr/の持続時間について音声分析ソフトを 用いてデータを詳細に検証し、補助的に聴覚印象で確認し、指導が効果的 であったことを確認した。
リズム指導は文レベルでの指導となるため、母音・子音の1つ1つの調音 を習得してから導入されることも多いが、早めの段階で取り入れることで、
単語レベルでも問題となる母音挿入・添加の排除や弱母音の習得につなげ ることができる。segmentalな指導とsuprasegmentalな指導が相まって、英語 発音の上達が促されると言えよう。
なお、本研究の参加者は英語の上級学習者であったため、音声学の理論に 基づく明示的な指導が一定の効果を上げたが、英語力や年齢によっては同様 の結果が出ない可能性もある。初~中級レベルの学習者に対しては、課題文 もよりコミュニカティブで、発話の場や文脈の設定があるものを用いた方が 自然な発話が促され、文アクセントの実現にもより大きな効果が期待できる かもしれない。こうした点は、今後の研究の課題としていきたい5)。
謝辞
本研究を進める上で、また草稿の段階で、秋山朝康氏、芦田川祐子氏、勝 田浩令氏、杉本淳子氏、武田和恵氏から大変有意義なコメントやアドバイ スを頂いた。また、2名の査読者からも貴重なコメントを頂いた。ここに深 く感謝申し上げたい。
注
1)単語が文中で受ける強いアクセントを文アクセントという(竹林(他)2013)。 文レ ベルになると内容語の中で強勢を担う音節が文アクセントとして強く長く発音さ れ、機能語の母音は基本的に弱化する。この文アクセントにより強弱が繰り返され る英語のリズムが形成される。従って、文アクセントの実現と英語らしいリズムの 実現は重要で切り離せない問題である。(なお、本稿では、強調や対比など文脈によっ て生じるアクセントは考慮に入れない。)
2)本稿では竹林(他)(2013)に倣い、英語における音素を示すときは/ /、それ以外の音は
[ ]で表す。
3) Jenkins (2000: 150)では、強勢のある音節を長くすることが英語の通じやすさに決
定的であるとしている。
4)データの扱いについて、査読者から、文全体の発話速度が変われば問題とする部分 の発話時間も変わるので、単純に時間で比べていいのか、という指摘を頂いた。そ れについては当初から筆者も検討したのだが、何を基準に正規化するかという問題 が残った。例えば、文全体(あるいは一部)の発話時間の長さに対する当該箇所の発 話時間の比を出すとしても、文全体(あるいは一部)の発話時間の長さが変わる要因 は、発話の速度だけではない。単語の切れ目にポーズを置く癖が改善されれば、全 体にかかる時間は短くなる。また、文自体が音節の集合であり、強音節と弱音節か ら成り立っている。強音節の発音が上達して強く長く読めるようになれば全体の 時間は延びるし、弱母音を習得して弱音節にかかる時間が短くなれば、全体の時間 も短くなる。このような問題から、今回は、弱母音/i/の長さを測定した(5)のデータ
と、2つのISIの等時性に関する議論の補助的データである(8)については、測定した
時間をそのまま提示することにした。ただし、2つのISIの等時性に関する議論の主 要データである(7)については、ISI-1とISI-2の時間比を第1回と第2回の録音で比較 しており、第1回と第2回で発話速度が変わったとしても比には影響しない。
5)以上は査読者からの指摘を課題とさせて頂いた。貴重なコメントを頂いたことに 感謝申し上げたい。
補遺
講座のスケジュール
Class 母音 子音 超分節音
1 3つの短母音 /ɑ//æ//ʌ/
弱母音 閉鎖音 音節・単語リズム
2 その他の短母音 /l//r/ 強形、弱形 機能語の弱化 文アクセント
3 長母音 摩擦音 linking・リズムの等時性
4 二重母音 /si:/と/ʃi:/の違い イントネーションの 機能と構造・音の脱落
5 母音復習 その他の子音 各音調の用法
参照文献
Gimson, A.C. (1980) An Introduction to the Pronunciation of English (3rd ed). Edward Ar- nord: London.
Gimson, A.C. (2008) Gimson’s Pronunciation of English (7th ed. rev. by A. Cruttenden). Hodder Education: London.
Hancock, M. (2003) English Pronunciation in Use: Intermediate. Cambridge University Press: Cambridge.
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