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農村生活様式をめぐる諸問題
成 瀬 龍 夫 工 農村生活様式の「消滅」論 現代の農村生活様式(rural way of life)に関するもっとも支配的な見解は, 農村生活様式自体の「消滅」論である。 たとえば,「過去の農業の特質は,生業あるいは家業ということぼに代表さ れるとおり,生産と同時に生活様式であることにあった。しかし,この特質は すでに失われつつある。農業の工業化・商業化と同時に都市化による都市湿生 1) 活様式の農村浸透は,生活様式における都市,農村の区別をなくする」といわ れ,また,わが国の都市計画中央審議会はその答申r長期的視点に立った都市 整備の基本的方向』 (1979年12月)のなかで,「生活様式の面で都市と農村を 峻別することが無意味になる」との見解を打ち出している。これらに見られる ように,農業の工業化・商業化や都市化を背景に農村生活様式の独自な存立基 盤や特徴が失われ,いまや生活様式面で農村を都市から区別することは意味を なさなくなったとする見解が支配的である。 以上のような農村生活様式の「消滅」論には,おおむね次のような論拠が見 いだされる。 一つは,農村地域にはすでに都市的な消費生活様式が全面的に普及するに至 っている,とするものである。そのメルクマールとして指摘されるのは,農家 の家計消費構造における兼業化=農外所得の割合の圧倒的増大と自給割合の大 幅な低下,家計現金化率の顕著な上昇,既製品や耐久消費材等の工業的商品消 1)川本彰「農村の都市化」余田博通・松原治郎編著『農村社会学』川島書店,1968 年,178ページ。14 彦根論叢 第238号 費の増大,かつての農家らしい「経営」的家計から「賃労働者」的家計への家 計態様の変化,都市勤労者とのあいだでの消費の内容・水準の類似性の圧倒的 な増大,などである。要するに,これらの諸点は,農村全域において,農家の 兼業化二二労働者化とその家計消費の貨幣・商品経済への編入がいかに広範囲 にいきわたったかという事実を示すものである。 もう一つは,「情報化」の進展によって,都市と農村の生活文化面での情報 格差が解消され,この面からも,農村生活様式の都市的生活様式への同質化が すすんできているとの見解である。交通通信手段の発達,とくに通信手段の発 達は,従来から都市と農村の時間的空間的距離を短縮し,両老の文化的同質化 を促進するものとみなされてきた。すでに,1920年代にアメリカ合衆国でラジ オが登場したとき,それによって都市と農村の生活文化情報の同質化,農村住 民の消費生活欲望の都市化の傾向が急速にすすみはじめたことが指摘されたこ とがあるが,以来,マスメディアの普及やニューメディアの登場は,情報文化 面での農村の都市への近接性,同質性を増大させるものとして評価される傾向 がある。 さて,こうした農村生活様式の「消滅」論は,理論的には多かれ少なかれ都 市と農村の対立関係を否定するアメリカ社会学の「都市・農村連続」(rural− urban continuum)説や,メトロポリタニゼーショソ(metropolitanization)ある いはメガロポリタニゼーション(megalopolitanization)による「全面的都市化」 の 論,を下敷にするものといってよいが,ここでは,「消滅」論に対してさしあた り次のような点が指摘される。 2) 川本彰,同上,および同「都鄙連関の社会学的考察」 (篠原泰三編『地域経済と農 業』東大出版会,1966年),参照。 川本は,メbロポリタニゼーションやメガロポリタニゼーションによる「全面的都 市化」の見地から農村生活様式の「消滅」論を主張している。しかし,わが国の昭 30・40年代の「高度経済成長」期の東京,名古屋,大阪を中心とする東海道メガロポ リスの形成過程では,深刻な「過疎過密」問題が引き起こされてきた。こうした点に 照せば,農村の都市への同化や都市と農村の新しい「結合」関係を論じる以前に,メ ガロポリタニゼーションがいかにわが国の都市と農村の対立を激化させたかがまず考
農村生活様式をめぐる諸問題 15 第1に,農村の都市化は,わが国をはじめ「先進」資本主義国においてすで にいちぢるしくすすんでいるとはいえ,果たして農村特有の生活様式が「消 滅」し,農村生活様式と都市生活様式との区別が「無意味」になったとまでい えるであろうか。それがいえるには,単に農家の家計消費構造の変貌だけでな く,農村における家族と生活手段の態様やその結合関係の全面的な非農村化と いうことが示されなければならない。また,農村の都市化過程自体のとらえ方 として,そこには,一方で伝統的な農村生活様式が駆逐され,農村の非農村化 がすすむ過程があると同時に,他方でe2 ,伝統的生活様式が近代化され新しい 農村生活様式が創出される過程もあると考えるべきであろう。「消滅」論は, 農村が今日もなお根強く保有している生活上の諸特質を過小評価しがちである と同時に,農村の都市化過程におけるこの後者の側面の認識が完全に欠落して いるといわなけ』ればならな:い。 第2に,たとえ農村の生活様式が家計消費の面で都市との全面的類似性をも つに至っているとしても,なおかつ両者のあいだには,日常生活での個人的消 慮されるべきである。 「都市農村連続」説に対しては,近年パールによる疑問の提示(R.E. Pahl,“The Rura1−Urban Continuum,”Readings in Urban Sociology, ed. R. E. Pahl,1968,参 照)の他に,「農村の村落構造の変動を都市的社会構造,あるいは生活様式への接近 度による変動と解釈」 (星永俊「農村社会学におけ’る村落構造論の検討」土井康生編 『農業理論と村落社会』有信堂,1976年,290ページ)する一面性や,農村のもってい る経済的社会的構造の多様性一たとえば,農業地域と鉱業地域の違いなど一を軽 証する欠点(C.S. Perry.“A Rura1−Urban Discontinuum∼,”The American Journal of Economics and Sociology, Vo1.43 No.1,1984.1)が指摘されているが,より 根本的には,資本主義における都市と農村の関係認識において,資本による土地所有 の支配と生産諸資源の収奪それらによる農村の地域的貧困化の視点のないことが指 摘される。また,しばしば「都市農村連続」説を補完するかたちで主張されてきたラ ーバ上郷ーション(rurbanization lアーバニゼーションとルーバ円心ーションの統 合)論も,「田園都市」などと同様言葉としてラーバニゼーションは魅力的であるが, その場合のルーバニゼーション(=「農村化」)の内容があいまいであり,社会科学的 概念としては麦持しえない。(川本彰『農村投資の社会的効果』龍異書舎,1973年, 第3章,および星,同上論文を参照)。
16 彦根論叢第238号 費手段の獲得機会や地域的な共同消費手段の確保などについて無視しえない種 々の格差がある。単純な農村生活様式の「消滅」論は,こうした格差をはじめ とする現代の「農村貧困」の諸状況を不当に等閑視することになる。さらにま た,農村の内部自体にも,都市化過程や都市的生活様式の普及度合あるいは伝 統的農村生活様式の残存度合に,地域差がありうる。平場村と山村・へき地と は,こうした点で同一には扱えない。 したがって,本論においては,まず農村生活様式とはなにか,その本来的な 性格・特徴を再確認し,それをふまえて農村の都市化と農村生活様式の変貌の 諸過程,また農村の都市化の意義と限界を考察していくことにしよう。 皿 古典的農村一村落共同体一一の生活様式の特徴 農村生活様式を論じる場合,農村社会の構造が国と時代によって相違し変化 してきたこと,農村生活様式の古典的なそれと現代的なそれとの区別が必要 なこと,などを念頭におかなけれぽならない。アメリカ合衆国では資本主義的 な農場(farm)を単位とする農村社会構造が展開されてきたのに対して,ヨ ー一 Pッパや日本では中世以来の歴史的伝統をもつ小農的村落共同体(village community, Dorfgemeinde)が農村社会構造の特質をなし,村落共同体特有の 生産様式とそれに規定された生活様式が存続してきた。ここで,農村生活様式 という場合には,もっぱらこうしたヨーロッパや日本のそれ一ヨーロッパは 畑作農業,日本は水田稲作農業であり,両者にはこうした農業生産様式の違い による農村の社会構造と生活様式の違いがある。また,日本の村落共同体は, 社会学者鈴木栄太郎によって「自然村」といわれたほど村落内の農家相互の結 合が強かったこと,第2次世界一戦前まで前近代的半封建的な土地所有(地 ヨラ 主・小作)関係に支配されてきたことなどの日本的特殊性をもっているがそれ 3)鈴木栄太郎『日本農村社会学原理』時潮社,1940年。 わが国の伝統的な農村社会学は,村落共同体の日本的持殊性に全面的な関心を寄 せ,「家」「むら」論とそれらを土台にした農村生活様式論を展開してきた。しかし, 戦後の「家」「むら」の解体と都市化の過程で,農村生活様式論への関心は次第に後
農村生活様式をめぐる諸問題 17 らのことはいまここでは問わない一を指すことにする。 しかし,こうした農村社会の村落共同体的構造は,!9世紀末以降の資本主義 の独占段階になると,農工間の不均等発展の激化,農村の急速な都市化の進展 によって解体の過程をたどり,とくに第2次大戦後においては解体が全面化し てきた。したがって,かつての村落共同体的生活様式は,さまざまな変貌を遂 げており,今日においてはもぱや典型的な姿では存在していない。その意味に おいて,かつての村落共同体の生活様式は,今日では農村生活様式の古典的形 態として扱うことが適当である。農村の都市化の過程は,こうした古典的な村 落共同体の解体と都市的生活様式の侵透,および現代的な農村生活様式への再 編の過程としてとらえられる。 古典的な村落共同体の構造については,以下のような点が指摘される。 村落共同体ぱ,生産=生活単位たる「家」の集落を場とした地縁的結合関係 を内容としている。家は土地耕作を営む経営労働体としての機能と,労働力の 生産・再生産をはかる消費生活体としての機能を有する。家は,人的構成員と 家産(田畑,山林,家畜,農機具,家屋,家財など)とから成り立っている。 家は,村落共同体のなかで,一方では土地,水,林野,農用施設等の共有と共 同管理にもとつく相互共同性,他方では薪地や生産用具の私有にもとつく相対 的独立性,という二重の性格を有している。農村社会の村落共同体的構造にお いては,こうした矛盾しあった2つの性質,「生産手段の占有の共同態的性質 と生産の各農家単位の私的性質とが,また社会生活の団的組織における共同態 4) 性と家族生活における家の私的性質とが共存」していることが基本的特色をな 退し,アメリカ社会学の方法視点を導入した都市化論や都市的生活様式論に関心が移 ってきたといってよい。しかし,「家」「むら」論は,農民層分解がまだ社会的に主 要な動きとなっていない段階での理論であって,今目では,「家」「むら」が解体さ れ農民層が分解しつつあるかもしくは分解した段階での農村生活様式論が必要とされ ている。その際には,経済学における労働力再生産論や社会的共同消費論などの農村 生活分析への適用が必要である。 4)余EB博通「村落共同体」余田博通・松原治郎編著,前掲,38ページ。
18 彦根論叢 第238号 している。 以上のような村落共同体のもとで形成される住民の生活様式は,次のような 性格と二二をもつ。 (1)家族の大家族主義と家父長主義 (2)生活手段の自給,個人消費と共同消費の未分化 (3)土地自然による生活空間構造の直接的規定性 (4)生活共同業務の処理の非分業的非専門的性格 (5>非「情報化社会」と没個性的人間関係 村落共同体における住民の生活様式はその生産様式と一体不可分な関係にあ り,家族形態,家族の生活機能,生活手段,生活時間,生活空間等はいずれも 生産様式から切り離して論ずることはできない。 まず家族形態においては,一般に経営労働体として一定の生産力水準を維持 するための労働力の量的確保,家産の管理と世代的継承,生産計画と生産およ び消費への資金・労働力の割当などの必要から,大家族主義,直系家族主義, 家父長主義などの特色を有する。家長は,家のなかで,家産管理権と経営指揮 権を一手に掌握する権威者となる。村落共同体においては,病人の看護や老人 の扶養は,大家族のなかや近隣の親族でもっぱら負担されるために,都市にお ける小家族のような社会制度的な救貧や扶養の問題は発生しにくい。 次に,村落共同体の生活手段調達の山雲は,土地自然が,水や米,野菜,穀 物,畜産物,木材など,必要な食糧や燃料,住宅資材の大半を供給してくれる ことである。また,農家は,農業生産のかたわら農産物や林産物資源を加工し て生活用具を製作する家内工業的機能をもっていた。農家の家計消費では, これらを反映して生活手段の自給が主要な位置を占める。さらに,村落共同体 での生活手段の調達や消費においては,個人消費と共同消費とが未分化であ る。土地自然の提供してくれる生活手段の消費は, 「ムラの資源,ムラの生産 らう 物」の消費となる。こうした自給への依存や個人消費と共同消費の未分化な構 5)高橋明善「農村生活と農村の社会問題」蓮見音彦編『農村社会学〈社会学講座4>』 東京大学出版会,1973年,177ページ。
農村生活様式をめぐる諸問題 !9 造のもとでの生活手段の調達は,村落共同体の生活様式の基本的特徴の一つで ある。資本主義の農村都市化の過程では,こうした村落共同体の生活手段の調 達方式が資本主義的な貨幣・商品関係の浸透に対する農村社会の閉鎖性を示す ものとなる。 農村では,土地自然が生産空間をかたちづくると同時に生活空間をも形成す る。都市では,密集する住宅施設や道路交通施設,水道,学校などの共同消費 手段が,土地自然にあまり制約されずに生活空間を立体的に規定する。それに 対して農村では,土地自然自体が生活空間構造の主要な規定要素であり,入工 的な生産施設や共同消費施設はせいぜい点と線で空間構造を規定するにすぎな い。村落共同体では, 「集村」 「散村」 「小村」など集落形態によって多少の 差はあるものの,住民の住宅施設は分散的に配置され,都市的な集住形態をと ることは一般的でない。 農村と都市のあいだには,共同業務の処理形態において, 「農村は協業,都 市は分業」といってもよい違いがある。村落共同体は,農道や用水の普請,共 有林の間伐,集会所等の公共施設の維持管理,祭り事や治安など, 「村仕事」 や「書役」といった言葉であらわされる多種多様な生産・生活面での共同業務 を有する。こうした共同業務への参加は,村落共同体での住民の労働・生活過 程できわめて大きな位置と比重を占めているが,共同業務が住民全体の平等か つ直接的な参加にもとつく協業の体制によって処理されるのが村落共同体の特 徴である。都市では,住民と共同業務との関係は,住民の直接的参加や協業よ りも,共同業務を処理することを目的とした特殊な社会内分業の体制(専門的 な機関や施設,労働)が発達し,住民はこうした共同業務の専門的施設から金 銭的代償を払ってサービスを受けるかたちを普通とする。それに対して村落共 同体では,共同業務を遂行するために必要な労働力や資材,資金の提供は共同 ラ 体構成員全員に平等に義務づけられる。 6)倉沢進「都狂的生活様式論序説」磯村英一編「現代都市の社会学』鹿島出版,1977 年,参照。倉沢は,農村的生活様式の基本的特微を生活手段の自給と共同業務の非専
20 彦根論叢 第238号 さて,村落共同体の生活様式は,住民の人間関係,パーソナリティの面でい かなる特徴をもつであろうか。 村落共同体においては,家を維持するための共同的な生活規律や慣習が家族 構成員を絶対的に拘束し,家族員個人の人格的自由や個性の多様性などは抑制 される。人々の結びつきは,個人対個人よりも家対家,いわゆる「家結合」の 原理によって支配される。また,村落共同体は,その外部に対しては閉鎖的な 自己完結型社会である。外部との経済的接触や文化的交流の必要の少ないこと は外部情報の必要の少なさにつながり,共同体内部における非分業的非専門的 な住民の生活関係は内部情報の必要度合いを少なくする。このように,共同体 間分業や共同体内分業が未発達であるかあるいはきわめて狭い範囲に限られる ことによって,村落共同体は,都市と正反対に非「情報化社会」としての性質 を有する。共同体の構成員は,共同体内での出来事や互いの生活状況に関する 情報を完全に共有しあっており,したがって都市的人間関係に特徴的に見られ る個人プライバシー,匿名性(anonymity)や異質性(heterogeneity)などは, 村落共同体住民のパーソナリティの一般的特質とはなりえない。 皿 農村の都市化と農村生活様式の変貌 1. 「都市化==兼業化」過程と伝統的農村生活様式の解体 資本主義の発達は,大きくいって次のような作用を農村社会におよぼし,村 落共同体の諸関係に根本的な変化を引き起こす。 一つは,農村の基本的生産手段たる土地や水が資本によって収奪されるこ と,また農村の人口も基幹労働力や若年労働力が収奪され都市に流出してしま うことである。とりわけ基幹労働力や若年労働力の流出によって,農村の人口 構成は,農業生産力を維持する面からも農村社会自体の世代的再生産の面から も合理性を失ってしまう。 もう一つは,農村生活や農家経済が資本主義的な貨幣商品経済に組込まれ, 門的相互扶助的非金銭的処理にもとめ,それとの対比で都市的生活様式の特徴を共同 業務の専門的分業的金銭的処理にもとめている。
農村生活様式をめぐる諸問題 21 ついには農民が自らの労働力までをも商品化しなければならなくなることであ る。資本主義的な貨幣商品経済の農村への浸透がまだ微弱な段階では,生活手 段の自給への高い依存のもとで,農家の所得と消費は低位に均衡しえていた。 しかし,資本主義的な貨幣経品経済が浸透しはじめると,農家の消費欲望水準 は高まり,農家生活では生活手段商品を購入するための貨幣需要が増大し,貨 幣収入の確保や拡大をはかるために農業生産の全面的な商業化と農外収入の稼 得=兼業化がすすむことになる。いまや所得と消費の低位均衡は崩れさり,金 銭レベルでの所得と消費の拡大均衡が追求されるようになる。資本主義的な貨 幣商品関係の農村への浸透の結果は,かくして兼業化というかたちでの農民自 り身の労働力の商品化であり,農民自身の階層分解である。 農村の都市化過程とは,以上のような意味において,農村生活が資本主義的 な貨幣商品関係に組込まれ,生活手段の商品化と農民自身の労働力の商品化が おう 循環的に進行していく「都市化篇兼業化」循環の過程として,さらにまたそれ のにともなう「兼業的生活様式」の形成と拡大の過程として把握できる。 では,こうした農村の都市化過程で,かつての村落共同体の生活様式はどの ような変容をこうむるであろうか。 まず,家族形態においては,子弟やあとつぎの都市への流出,兼業化や家族 構成員の農外就労のひろがりなどによって,従来の大家族主義や家父長主義は 衰退していかざるをえない。農業の商業化や兼業化のひろがりのもとで,農業 生産を土台として家産管理権や経営指揮権を掌握してきた家長の基盤は根本的 にゆるがされる。家産を,先祖伝来の家の財産と考えるよりも,むしろ職業的 7) 山崎春成「都市化と農村」大阪市立大学経済研究所『経済発展と都市化』日本評論 社,!974年,参照。 8) 「農村へのアーバニズムの浸透は農家を兼業化の方向に追いたて,兼業化の急速な 進行は農村のアーバニズムをさらに強化した。ここには一つの循環的過程がある。こ の循環的過程こそが広義での農村の都市化過程にほかならない。」(山崎,同上,110 ページ。) 9) ジャンーベルナール・シャリェ,有本・田辺共訳『都市と農村』 (文庫クセジュ) 白水社,!966年,ユ23ページe
22 彦根論叢 第238号 経営手段としてみなす傾向が強まってくる。家父長制的な「家」の制度に代わ って,家産の管理や相続では,父子契約や親子契約の形式が導入されざるをえ なくなる。他方,若年層が流出していくために,老人がとり残され,高齢者世 帯が増えてくる。その結果農村社会は,次第に一大「養老院」と化し,資本主 義社会における人口高齢化の最先進地帯になってくる。家族の小規模化や高齢 化は,従来のような家族内での病人や老人の看護や扶養を不可能とし,新たな 要扶養の社会的組織として公的な社会保障の制度がもとめられるようになる。 家計消費の面では,自給割合が後退し,商品消費が中心になってくる。自給 割合が低下する原因の一つは,農家の生産が商品作物に特化するためである。 かつて農家が多様な種類の作物を栽培し,家畜を肥育し,さまざまな生活用具 を自家生産する家内工業を営んでいたときには,それだけ自給の範囲や程度も 大きかった。しかし,生産物の特化とそれにともなう家内工業の衰退により, 自給の範囲と比重は縮小し低下することになる。また逆に,農家の家計消費の なかで商品消費が増えていく原因は,都市的生活様式の普及が農民の消費欲望 を刺激し,食生活様式や服装,住宅様式,教育,娯楽,保健医療などほとんど あらゆる面で都市住民の消費生活様式や消費水準に均衡した生活手段の獲得, 導入が追求されるためである。とはいえ,農家にとって,自家米の確保を中心 とした一定の自給部分の存在は,生計費を低廉化ならしめる大きな要素であ り,貨幣現金収入の不足を補うかくれた家計補助的収入となる。そのために農 家の兼業化がいかにすすんでも,なおこの点は,都市労働者の生活様式と相違 する農村生活様式の重要な特微の一つをあらわすものとなる。 共同業務の処理形態についても, 「村落的共同から機能別共同や公私二分裂 の の方向」へと変化が生じる。一方では,かつての共同体全構成員の直接的な参 加と協業による処理体制は,住民人口の流出や高齢化によってそのまま維持し ていくことが困難になる。あとつぎが他出して高齢者しかいないような家に は,村仕事を金銭的代償で免ずる方式などを認めざるをえなくなってくる。他 方,かつては家族内や村落共同体のなかで共同業務として処理されていたもの 10) 高橋明善,前掲,178ページ。
農村生活様式をめぐる諸問題 23 が,行政組織による公的専門サービスの発達によって次々と代替されるように なる。これらの事情から農村社会にも,社会内分業体制による共同業務の処理 形態が発達し,各種の公的な共同消費施設が建設されるようになる。しかし, 地域社会における住民の水や林野の共有,共同管理の関係は,資本主義の高度 な発達段階においても依然として存続するので,そうした部面での住民の結び つきは,農村生活様式の特徴として根強く残存する。 資本主義のもとで,地域空回の変化を規定するもっとも重要な要素となるの は交通運輸手段の発達であるが,農村の社会的自然的空間もまた19世紀には鉄 道,20世紀には自動車の発達と普及の影響を強く受けながら変化してきた。と りわけ20世紀後半のモータリゼーションによって,農村は都市の外延的膨張過 程に巻き込まれ,農村に住むだけのためにやってきた都市住民と在来の農村住 民との混住化がすすむようになった。それとともに農村空間は,かつてのよう な土地自然に規定された生産=生活空間から,生産空間が減少し生産空間と住 宅空間や商業施設空間などの混在した空問へと変貌を遂げてきた。 当然,以上のような諸変化は,農村社会の住民の人間関係やパーソナリティ にも根本的な変化を引き起こさざるをえない。 村落共同体のかつての共同体的な秩序規律と生活慣習は弱まり,家のなかで も家父長的な支配服従の関係に代わって,生活意識や生活行動の面で家族員ひ とりひとりの個性や自律性が強くなる。農村社会内部における分業化や専門 化,外部との社会的経済的文化的交流の増大は,農村社会をかつての非「情報 化社会」から「情報化社会」へと皆々に移行させていく。住民のあいtttこは, 個人プライバシーの観念なども発達するようになる。しかし,この面でもま た,お互いの生活が:丸みえである集落の生活環境や,住民のあいだでの生活情 報の共通性,情報の共有度合の強さなどから,農村生活様式は都市とはまだか なり違った多くの特色を保持していく。 2.山村・へき地の生活様式 農村の都市化過程は,すべての農村地域で必ずしも均等,均質的にすすんで
24 彦根論叢 第238軽 いくわけではない。農村の都市化過程においては,いち早く「都市化=兼業 化」循環に組み込まれ都市的生活様式が普及していく地域と,そうした「都市 化=兼業化」循環から排除され,とり残され,所得と消費の低位均衡を中心と する伝統的な生活様式を根強く温存する地域もでてくる。 資本主義のもとでは,こうした都市化と都市的生活様式の普及の地域的不均 等性に応じて,資本と国家によって都市的な生活水準と生活様式を標準もしく は基準とする賃金・生計費等の地域格差の把握と,「級地」指定などのかたち による地域の種別化が行なわれる。こうした地域格差の把握と種別化の過程 で,農村は都市の平均的な消費水準や生活様式からより低位な位置づけを与え られ,さらに農村内部においても平場村と山村・へき地のあいだでは,その格 差が強く意識されるようになる。山村やへき地,とくにへき地は,「現代のわ れわれの生活様式にふさわしい質と量の衣,食,住,教育文化,娯楽慰安,保 健衛生等の諸行為が現代生活の感覚にマッチする速度において享受できないよ うな地域もしくは場所」とみなされる。 山村・へき地も,その生活は貨幣商品経済や都市的生活様式に巻込まれてい くが,住民の兼業化の機会がきわめて乏しいために,所得と消費の拡大均衡を 通じて都市的生活様式受け入れていくための条件が圧倒的に不足する。地域所 得の低位性とあいまって,住民の住居の孤立分散性や空間的集積の低位性は, 商業的施設の立地や都市的なサービス,消費手段の供給を一層制約するものと なる。その結果,山村・へき地においては,都市的生活様式の普及は平場村よ 11)労働法令協会編『賃金制度における諸手当の理論と実際』1954年,235ページ。こ のようなへき地の概念は,都市住民の平均的な生活様式,いいかえれば都市労働者の 平均的な労働力価値の内容や水準を基準として把握しようとするものである。こうし た概念は,資本主義的な企業や官庁が従業員や職員をへき地に派遣する際に給付する 賃金手当の理論的基準を整備する必要から形成されてくる。 12) 山田良治は,山村在来の自給的な生活様式が商品貨幣経済的な都市的生活様式に転 化するにともない,山村住民の所得の低位性と人口密度の低さ=支払い能力の需要集 積の低位性によって「消費手段およびサービス獲得可能性からの疎外」が出現し拡大 していくことを,現代の山村の中心的問題の一つとして指摘している。 (山田良治 「階級構成の推i移と現代の山村問題」『経済』No.263.1986年3月号,参照。)
農村生活様式をめぐる諸問題 25 りも緩慢化し,自給への強い依存や集落生活での相互扶助など伝統的な生活関 係や生活様式への依存をさまざまなかたちで温存させることになる。こうした 面からすれば,山村・へき地の生活様式とは,「都市化=兼業化」循環から排 除されて,所得・消費の低位均衡と伝統的生活様式の温存を基本的特色とする 生活様式とみなすことができる。 IV 農村都市化の意義と限界 1.生産と消費の分離および共同体と家族の分離 農村の都市化過程では,以上のごとく,古典的な村落共同体の生活様式が解 体され,変貌を遂げることになる。その場合,われわれは,その解体過程が, かつての家父長話家族形態や生活手段の自給,生活の共同体的規制などの衰 退,消滅をともないながら,同時に,古典的な生活様式のなかで未分化,禾分 離であったものの分化,分離が展開されていく側面を含むことに注目すべきで あろう。 農村の都市化については,まずそうした視点から次のようなその積極的意義 が指摘される。 まず第1に,都市的生活様式の普及は,農民の生活欲望水準の上昇を引き起 こす。生活手段の商品化と農家家計における貨幣金銭関係の比重の増大は,農 家の労働力再生産費の大きさやなかみが貨幣単位で計算される可能性を発展さ せる。このことは,農民層が自己の労働力再生産費(η)と家計消費水準を都 市勤労者のそれ(V)らと比較することを容易ならしめ,農民層のあいだに都 市勤労者にくらべての自己の消費水準の立遅れの自覚と,都市勤労者との家計 消費水準の均衡化(w→V)についての欲求の発達を促進することになる。 第2に,農村生活の都市化や農業の工業化は,農村の生産環境と生活環境に いわゆる大工業の「原理」をもち込み,生活環境を農業生産から分離させ,住 宅や利排水などの生活環境が生産環境とは相対的に独自に合理的に改善される ヱつ 諸契機を発展させる。農村生活のなかでかつては生産諸条件と未分離,未分化 13)神田嘉延「農村住民の貧困化と社会教育の課題」柏野晴夫編著『現代の農村社会』
26 彦根論叢第238号 であった家族の消費機能や生活手段,生活空間,生活時間などの分離,分化が 進展してくるとそれらの社会的な客観化や合理的科学的な改善が可能となる。 農村生活のインテリジェント化がすすむといってよい。それらが生産諸条件と 未分化で,生活手段がもっぱら自給に依存しているうちは,営農と生活環境の 矛盾は営農条件の優先のもとで解決がはかられてきた。しかし,生活手段が, 農村と農家の内部の生産諸条件の制約から切り離されれば,農家の消費生活機 能やこの機能を充足する生活手段は科学的な生活知識や生活実践の客観的対象 とされ,農家組織のあいだでの集団的改善や行政サービスと結びついた専門的 改善の追求などが可能となる。分離と分化のもたらすこうした合理化は,生産 の部面についても同様である。また,生産と消費,労働と生活の区別の発展は, 同時に農村におけるそれらの新たな,より合理性の高い形態での再結合の可能 性を生み出す。 第3に,都市化の過程で農村住民の村落的結合が弱まるにつれて,共同業務 の処理と地域生活問題の解決のために新しい方式や組織が必要とされてくる。 すなわち,かつての住民の村落的結合のかわりに住民の新しいコミュニティへ の欲求として住民協同や住民自治が形成されてくる。かつての村落共同体は, 身分的ヒエラルキーや財産所有者層が支配する「古典的地方自治」の場であっ た。それに対して,新しいコミュニティは住民の生産・消費面での協同組合的 関係や地方自治といった民主主義的相互関係に支えられねばならないものとな る。いわゆる「古典的地方自治」から「現代的地方自治」への移行が生じてく 14) る。 かつての村落共同体では,生産様式と生活様式は未分化・一体のものであっ たが, 「都市化=兼業化」の過程で,家族の生産的機能と消費的機能の区別, 生産手段と生活手段の分化,生産空問と生活空間の分化,労働時間と生活時間 高文堂出版社,1982年,285ページ。 14) 地域社会のこうした「古典的地方自治」から「現代的地方自治」への移行の問題に ついては,成瀬「家族の発達と地域」光信隆夫編『家族関係の社会科学』垣内出版株 式会社,1978年,参照。
農村生活様式をめぐる諸問題 27 の分化や区別があらわれ,それによって農村社会でも生産様式と生活様式との 分化や客観的区別が明瞭になってくる。また,かつては未分離であった村落共 同体と家および家と家族構成員のあいだにおける共同性と個別性,公共性と私 事性といった関係も,次第に分離が明確になってくる。こうした分化や分離 は,農村における生活の近代的合理化と新たな「社会化」の諸契機が生み出さ れてくる過程として,農村生活様式の現代的再編の基礎をなしているといって よいであろう。われわれは,農村の都市化過程におけるこうした側面を十分に 視野にいれながら,農村生活様式の現代的な性格と意義を考察しなければなら ない。 2. 「農村問題」 「農村貧困」の現代的性格 しかし,農村の都市化過程において以上のような都市化の積極的側面は,農 村自身が内包するさまざまな限界にぶっからざるをえない。生活様式の近代的 合理化の過程に対する農民層自身の主体的対応や適応を困難にする要因とし て,以下のような点があげられる。 (1)農業所得および農外就労所得の低位性 (2)家族の解体と高齢化による生活力の低下 (3)家族と地域の人口構成の合理性の欠如 (4)共同消費手段の不足と充足の困難 (5)生活手段の調達やサービス利用における住民の「超過負担」 都市勤労者との家計消費均衡の欲求は,農業の専業的経営による所得の確保 だけでは不可能であり,より一層の兼業化魑農外陣労働による収入の確保によ ってしか達成しえない。しかも,農村では有利な兼業化の機会がいちじるしく 限られているので,農民の大半は低賃金や不安定な就労の形態を甘受せざるを えない。家族の消費生活の近代的合理化についても,家や集落の解体によって, とくに家族や地域の合理的な人口構成が失われることによってたえず阻害され ることになる。家や集落の機能の衰退を補うための共同消費施設の整備による 生活の「社会化」は,農村の財政力が弱いこと,医師や看護婦等のサービスの
28 彦根論叢第238号 専門家の確保が困難なために思うようにはすすまない。また,農村における共 同消費手段の整備は,しばしば住民の私的共同の責任や負担に転化されたり, 社会資本投資が投資効率の見地から人口密度の低い農村よりも密度の高い都市 に集中されるために,都市に較べてつねに立ち遅れる傾向をもつ。さらにまた, 農村の都市化の過程,とりわけ商品消費の急速な拡張過程は,農民を「消費者 被害」をはじめとする種々の都市的貧困に巻込む可能性を拡大する。また,山 村・へき地にあっては,他地域に比べて消費生活手段の利用・調達条件での不 利の問題や,人口構成の高齢化と子弟・あとつぎの他出による老人の看護・扶 養の問題,医療施設や交通手段の不足による住民のさまざまな生活上の不便, それにともなって生活.ヒの出費が余計にかかる「超過負担」の問題などが,平 場村よりも一段と深刻なかたちで発生する。 これらの諸問題は,農村と農民の自力の対応では解決不可能な社会問題とし て現代的な「農村問題」(rural problems)あるいは「農村貧困」(rural depriv一 ユの ation)をかたちづくる。農村の都市化は,その積極的側面よりも,むしろこう した消極的側面の拡大過程として進行するのである。 現代の「農村問題」 「農村貧困」の本質は,都市化や都市的生活様式の普及 による農村住民の生活欲望水準の上昇と,その欲望を充足しえない農村の諸条 件(家族の解体や崩壊,地域人口構成の合理性の欠如,所得の低位性,消費生 活手段の獲得機会の不足など)との関係として把握できる。いいかえれば,都 市住民の平均的生活水準や生活様式を享受できない農村住民の消費における疎 ユわ 外や欲望不充足の状態をあらわすものといえよう。 15) 高橋明善,前掲,178−182ページ,参照。および山田定市『地域農民教育』日本経 済評論社,1980年,第4章参照。 16) G. J. Lewis, ‘‘Rural Communities,” Progress in Rural Geography, ed, M. Pacione,1983, pp.!58−164.レーヴィスは,現代の「農村問題」と「農村貧困」に関 するイギリスの研究状況を考察している。小農の生産・生活条件の問題が中心となつ ているわが国とイギリスの農村社会状況の違いはあるにしても,現代資本主義におけ る農村貧困の本質を考える上で共通な問題を含んでいる。 17) いわゆる「農村問題」は,経済学的には「都市問題」と同様,労働力価値視点によ る地域住民の労働力再生産条件(必要生活手段の不足)の問題として理解されよう。
農村生活様式をめぐる諸問題 29 都市化がすすむ過程で都市とオーバーラップする貧困問題が農村のなかで増 えてくるが,ただし,農村の貧困は,都市のそれと較べると,いくつかの点で 性格が異なる。たとえば,都市が人口の過密にともなう社会的共同消費手段の 不足の問題をかかえるのに対して,農村は人口の減少にともなう社会的共同消 費手段の不足の問題をかかえることである。農村は,人口の減少→消費サー ビス施設や社会サービス専門者の都市への移転・移住→住民のサービス利用機 会の減少→より一層目人口減少,というかたちで地域内における人口減少とサ ユぬ 一ビス減少の悪循環を内包する。そのために,医療や学校,交通手段の確保の 問題などに代表されるごとく,農村住民のサービス利用の困難性と利用の際の 特別な費用負担の必要性は,農村における生活困難の重要な要素をなすのであ る。また,高齢者の問題では,都市では,高齢者の早すぎる労働からのリタイ アが問題となるのに対して,農村ではむしろ低所得のために高齢化しても労働 からリタイアできない,遅すぎるリタイアが問題となる。 V 新しい農村生活様式の形成とその条件 さて,以上の検討であきらかなように,本論の冒頭にとりあげた農村の「全 面的都市化」論や農村生活様式の「消滅」論は,今日もなお存在する農村特有 の生活条件や都市化のもたらす積極的側面と消極的側面の区別を無視した議論 であることはあきらかである。また,それらは,現代の農村における新しい生 活様式の形成の必要性や可能性についての展望をも閉じるものといわなければ ならない。そこで,最後に,今日の農村が,都市化の積極面を生かしながら同 時に新しい農村的な生活様式を形成していくためには,いかなる条件が必要か について若干触れてみよう。 すでにのべたように,都市化の過程において農村住民の都市との生活の均衡 農村問題や農村の貧困問題のなかみを都市との対比,とりわけ都市の生活水準や生活 様式に較べて農村の立ち遅れや格差にもとめる理解は,すべて基本的には労働力価値 視点に立つものである。 18) G. J, Lewis, op. cit,, p. 163.
30 彦根論叢 第238i号 欲求,農村の生産および生活機能のインテリジェント化,さらに農村社会内部 に新しい住民協同と住民自治が展開されてくることは,農村生活様式の現代的 再編の基礎構築としての意味をもつといってよいであろう。農村の新しい生活 様式の形成は,まさにこれらの基礎の上で推進されなければならないが,しか し,そのためには,農村住民にとって内的主体的条件と外的社会的条件とが必 要とされる。 まず内的主体的条件としては,農民層自身が生産と生活における協同や共同 の関係をいかに保持しあるいは強化して,都市化への地域的集団的適応力や都 市的貧困への抵抗力を強めていくのかが重要となってくる。とくに都市化や都 市的消費生活様式のマイナス面を阻止するためには,農業協同組合組織等によ る生産協同だけでなく,生活協同組合組織等を通じての生活協同の関係を発展 させること,農村地域の資源・空問に立脚した生活様式づくりを主体的に推進 することがもとめられる。外的社会的条件としては,家計所得の面や家族生活 機能の面において農民の能力や条件を補完し,家族と地域の合理的な人口構成 を回復するために,産業経済政策とあいまって,社会保障や地域公共サービス, 生活改良普及事業など農村社会政策の体系的な展開が必要とされる。 農村と都市との格差の解消や農村における合理的な人口構成の回復は,都市 と農村の関係を根本的に調整しない限り達成されないが,農民の生活欲望水準 の上昇,都市との生活の均衡欲求,農村の生産および生活機能のインテリジェ ント化,住民自治や新しい生産と生活の協同関係の形成,公共サービスと社会 保障による生活の社会化の展開などは,一方では,農村の新しい生活様式の形 成を促進するとともに,他方で,都市と農村の対立を止揚する潜在的条件を農 村内部において形成していくことにもなる。