1.はじめに
平成 29 年度の野生獣による農作物被害は 163 億円1) であり,依然として中山間地域を始めとする農業地域の 大きな問題である。農業被害を軽減させるための方法と して,集落や地域主体の獣害対策が重要であることは, 種々のマニュアルや研修資料,研究成果等でも示されて いる。ニホンザルでは集落の組織的な追い払いが有効で あるという実証の結果2)や,イノシシやシカでは集落を 囲う防護柵やそのメンテナンスの重要性3)などが紹介さ れている。そして,これらは地域や集落が主体となり被 害対策を進める取り組みとして,「獣害に強い集落づく り」等と称されており,全国的に様々な自治体で「獣害 に強い集落づくり」の支援に関する事業が展開されてい る注1)。例えば滋賀県では平成 20 年頃から農業改良普及 センターが中心となり獣害に強い集落のモデル育成を進 めており,そのための集落点検のマニュアルなども作成 されている4)。また,農林水産省は集落や地域で主体的 に獣害対策に取り組むことを奨励するため,平成 21 年 度から「鳥獣対策優良活動表彰」を実施し,団体の部で は獣害対策で成果を出している集落や地域が多数表彰さ れている5)。このように,野生動物による農業被害を防 ぐための取り組み方や考え方として,集落や地域が主体 的に獣害対策に取り組むこと,そしてそのための集落育 成や支援の総称として「獣害に強い集落づくり」が重要 であることは一定の理解が得られていると考えられる。 一方,獣害を解決する手法や技術は明らかにされてき ているが,集落や地域の住民にとってこれらは新たに接 する手法や技術であり,それらが適切に普及していない ことが効果的な獣害対策の進展を遅らせている要因の 1■論文
「獣害に強い集落づくり」支援における県の体制比較
5
県の比較による考察
Comparison of Prefectural Administrative Systems about Supporting for
Community-based Countermeasure to Wildlife
Consideration by Comparison of five Prefectures
山端 直人
1*池田 恭介
2飯場 聡子
3 Naoto YAMABATA1* Kyosuke IKEDA2 Satoko IIBA3Abstract:In low upland and other agricultural areas, agricultural damage caused by wildlife continues to be a major problem. Vari-ous manuals, research materials, and research findings indicate the importance of implementing measures at village and community levels to control such damage. However, typical village residents or farming households are unfamiliar with the techniques and methods used as countermeasures against agricultural damage caused by wildlife. Thus, social education and community support have an important role to play in the effective implementation of control measures. In agricultural technology, such education and support has traditionally been carried out by agricultural extension workers and Japan Agricultural Cooperatives consultants ; how-ever, their role in controlling agricultural damage caused by wildlife remains unclear. In this study, we selected prefectures consid-ered to have a strong focus on countermeasures against agricultural damage caused by wildlife and investigated the content, degree of involvement, and evaluations of efforts to create villages resistant to such damage. Progress has been made in creating such vil-lages in prefectures that had designated individuals responsible for community support of countermeasures against agricultural dam-age caused by wildlife within centers such as regional agricultural extension offices. In contrast, in prefectures that did not have such designated individuals, no progress has been made in community support, and the impact of countermeasures against agricultural damage caused by wildlife was unclear. The results of this study indicate the importance of designating individuals responsible for community support of countermeasures against agricultural damage caused by wildlife in prefectural government regional offices.
Keywords: Agricultural Damage Caused by Wildlife, Community-based Countermeasure to Wildlife, Technologies and Techniques,
Support, Prefectural System
キーワード:獣害,地域主体の獣害対策,技術と手法,支援,県の体制
1兵庫県立大学 2兵庫県森林動物研究センター 3三重県農業研究所
1University of Hyogo 2Wildlife Management Research Center, Hyogo 3Mie Prefecture Agricultural Research Institute Corresponding Author* : [email protected]
つと考えられる。これらを江口6)は農村伝説と表現し, 住民や行政の間違った理解や思い込み,正しい情報の少 なさが被害対策の不備を助長すると警鐘を鳴らしている。 獣害対策は防護柵の設置方法や補修技術,追い払いの行 動様式,加害個体捕獲のための檻の設置場所選択や捕獲 技術7)など,一般的には多くの集落住民が知見を持たな い技術や知識であり,これらを伝える支援や社会教育的 な機能が必要と思われる。 例えば,農業の新技術や集落営農組織の設立手法等に ついては,わが国では農業改良普及指導員や JA の営農 指導員などが技術や手法を集落や地域に伝達し,社会教 育する役割を担ってきたと言える8)。しかし,獣害は近 年になって急激に顕著になってきた問題であるため,一 般の農業技術に比べ技術やその導入手法等を集落や地域 に伝え,社会教育を担う役割や体制が明確になっていな い。既往研究でも,適切な獣害対策の技術や手法を地域 に伝達し社会教育する役割として,県出先機関単位の行 政区に社会教育者的な人材配置が必要であり,具体的に は農業改良普及指導員等が農業技術だけではなく,広く 農村のマネジメントの一環として,獣害対策の社会教育 機能を担うことの有用性が論じられている9)。だが,こ れら人材の必要性を具体的な事例を基に示した研究は存 在しない。適切な技術や手法の普及により,地域が主体 的に獣害対策に取り組める集落を支援・育成するために は,現在の獣害対策に関する行政システムに存在する技 術の普及や地域支援体制の課題を把握し,今後の改善を 図ることが必要である。被害現場の実情や課題を的確に 政策立案に繋げる機能の不備が,誤った野生動物管理の 政策に繋がることは国外でも指摘されており10),我が国 の獣害対策に関する行政機能の課題を把握することは, 適切な獣害対策の政策推進においても重要と考えられる。 そこで,本研究では獣害に強い集落を育成・支援する ことを政策の 1 つに掲げる県を選び,体制や業務の進捗 や成果を比較することで,獣害に強い集落を育成するた めに必要な人材配置等,行政システムの条件や課題を考 察する。
2.研究の方法
2.1 分析視角 獣害対策,なかでも獣害に強い集落づくりやその支援 を政策として重視する複数の県を対象に分析を行い,現 在の県機関が持つ資源の範疇で遂行しうる支援・育成業 務の理想的構造を明らかにする。そして,その理想的構 造に対し,各県における機関や機能の有無,業務内容を 調査し,それらを県間で比較することで,獣害に強い集 落づくりに必要な県の機能を考察する。県機関の業務の 内容は大きく「予算や法令」という獣害対策に関する一 般的な行政事務と,「知見や提案」という地域の支援や 指導というコンサルティング的な業務の 2 種類の機能に 大別した。調査項目とその要点は Table 1 に記す。 2.2 調査対象 農林水産省鳥獣対策コーナーの優良事例表彰団体の部 で表彰対象となっている団体や集落を有する県は,獣害 対策,なかでも獣害に強い集落づくりに前向きな県であ ると判断し,その中から県の獣害対策の方針に関する ホームページに「獣害に強い集落」づくりが政策の項目 として記載されている県を抽出した。 そして,調査対象県が進める獣害対策の実情に精通す る人物として,獣害対策の業務,なかでも「予算や法令」 ではなく,「知見や提案」による被害地域の支援に繋が る業務に 5 年以上関わっている者を選択し,詳細なイン タビューに対応可能な者が存在した 5 つの県を最終的な 分析対象として選定した。 2.3 調査方法 調査は対象者に対する対面,または Web や電話を用 いてのインタビューにより実施した。調査時期は平成 31年 4 月から令和 2 年 5 月までの期間で,それぞれの 対象者に 1~3 回,合計 1 時間~4 時間程度の長時間の インタビューを実施した。 2.4 分析方法 Table 1 に示す調査の結果を基に,獣害に強い集落づ くりに関する県の体制や業務・機能のあるべき構造の模 式図(Fig.1)と,それに対する自県の評価の各県の比 較(Table 2)を作成した。そして,2 つを併せ,調査対 象県間の獣害に強い集落づくりに対する機能やその評価 を比較した。3.結果
Fig.1 に各県の対象者への聞き取りを基に作成した, 獣害に強い集落づくりに関する県の体制や業務・機能の 理想的構造の模式図を示す。県により機関や機能の有無 に差はあるものの,対象者が自身の県の機能を基に考え る,獣害に強い集落づくりに関する県の体制の理想的構 造は共通であった。Fig.1 の模式図に示した機関のなか で,県と市町村の機関には①~⑦の番号を記した。獣害 に強い集落づくりに関係する機関は,県では本庁①,地 域事務所⑥(④,⑤),研究・指導機関(②,③)であり,加えて市町村⑦が対象となる地域に対応するという構造 であった。また,Fig.1 には各機関の業務や機能として, 「予算や法令」に関する一般行政事務と,「知見や提案」 を与えることで対象を支援するコンサルティング的な業 務を点線と実線の矢印で示した。Fig.1 では,地域のモ デル的集落や地域組織を育成・支援する「モデル支援」 の機能があり,その成果や事例を示すことで,周辺の被 害に遭う集落に獣害に強い集落への発展を期待するのが 「モデル波及」の機能である。このなかで,②,③は「地 域対応」「地域支援」と連携し,モデル的集落を育成・ 支援する「モデル支援」の機能を有する。⑦はモデル的 集落への支援を経て,「地域対応」で「モデル波及」の 効果を促すための地域全域への働きかけを担う。⑥はモ デル的集落の支援を経て「モデル波及」を「地域支援」 で直接的に促すだけでなく,⑦を「市町村支援」で支え ることで「地域対応」を促す役割も有し,結果として地 Table 1 調査項目 Survey items 調査項目 調査内容と視点 農業被害対策に関する政策の 主務課の所属部局 ・農業被害対策に関する政策の所属部局を農業,林業,環境で分類 試験研究機関の有無 ・県組織内に被害対策に関する研究を担い,政策と連携可能な体制があるか否か 指導機関(農業革新支援専門 員等)の有無 ・ 獣害対策に対し集落支援の手法や技術支援を担える役割の有無。ポストとしての革新支援専門員のみではなく,地域の普及指導員などを指導・支援可能な体制の有無を把握 地域事務所の機能(行政) ・ 農業被害対策に関係する鳥獣被害防止特措法(以降「特措法」)と,それに伴う鳥獣被害防止総合対策交付金(以降「交 付金」)の有無 ・ 野生動物の個体数管理や捕獲を取り扱う「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(以降「鳥獣保護法」)」 による特定鳥獣管理計画(以降「管理計画」)や狩猟登録等の業務の担当の有無 ・各担当の所属部局を農政,林政,環境行政で分類 地域事務所の機能(地域指導) ・獣害対策と獣害に強い集落を育成・支援するための支援機能の有無 ・地域農業改良普及センターの担当者の有無とその選・兼任,担当者数 普及員の行動目標である普及指導計画への獣害対策や獣害に強い集落づくり業務の記載 ・普及センターだけでなく職委託職員などでこの任に当たることができる人員の有無 市町村の機能 ・獣害に強い集落づくりの支援業務における,市町村担当者の取り組み状況・県との連携状況や県の支援体制 外部研究機関等との連携 ・ 大学や独立研究開発法人など外部の研究機関から科学的な知見や支援を得ることができる体制の有無。(企業等への委託による調査などはその対象外) 集落支援に関する業務の有無 ・獣害に強い集落を育成・支援する業務の有無とその実施機関 獣害に強い集落づくりの進捗 ・ 県内市町村の集落から新規に集落での獣害対策への支援要請があった場合に対応が可能な体制の有無を確認し,ここまでに示す種々の要因も考慮し,政策として掲げる獣害に強い集落づくりが進展していると評価できるか Fig.1 獣害に強い集落づくりに関する県の体制や業務・機能の理想的構造の模式図 Diagram of Prefectural ideal organization about supporting community-based countermeasure to Wildlife
域全体への「モデル波及」への働きかけが可能であると いう認識であった。 Table 2 では Fig.1 に示す県の機関である①~⑥の機関 の有無や人員の配置状況を比較した。さらに,その業務 や機能で,獣害に強い集落づくりに関する「知見や提案」 のなかでも,地域や市町村に直接作用し影響を与え得る と考えられる「事務所支援」,「知見付与」,「モデル支援」, 「市町村支援」,「地域支援」,「地域対応」の各業務と獣 害に強い集落づくり支援の進捗に関する評価等について 各県を比較した。 A~E 県の間で「モデル支援」,「地域対応」,「地域支援」 等の業務の有無や程度は大きく異なった。A,C 県では 地域事務所⑥の農業改良普及センター⑤に獣害対策の担 当者が在籍し,「市町村支援」や「地域支援」の業務を担っ ていた。それを指導・支援する指導機関③に獣害担当の 農業革新支援専門員が在席することで「事務所支援」の 業務を担っていた。例えば,⑤が行う集落や地域での研 修会等の普及啓発活動としての「地域支援」や市町村に 技術指導を行う「市町村支援」の業務の重要な場面では, 状況に応じて③の担当者も同席する等の支援を行うこと で⑤の経験の浅い担当者の負担軽減や,担当者の孤立防 止を図っていた。また,E 県には県出先機関に⑤の担当 者は存在しない。しかし,各県事務所に嘱託職員として 獣害対策担当の専門員を配置し,⑤と同様の機能を担っ ていた。一方,B と D 県には⑤の機能が存在せず,し たがって「市町村支援」や「地域支援」の業務も存在し なかった。B 県では指導機関としての③は存在し担当者 も配置されており,④や⑦への研修などは行われていた が,地域事務所に⑤の機能がないため「事務所支援」の 業務も存在しなかった。そのため A,C 県のように県事 務所や市の担当者を支援しながら「地域対応」,「市町村 支援」,「地域支援」の業務を進め「モデル波及」を促す 役割は存在せず,「モデル支援」の範疇にとどまっていた。 獣害に強い集落づくりの進展状況については,どの県 の対象者も一様にその重要性を認識していた。A,C,E 県では被害が減少している集落もある旨を把握しており, いくつかの集落の名前を聞くことができた。特に,新た な集落から要請があった場合の「モデル波及」を促す, あるいは支援する役割について,A,C 県では市町村と 連携して「地域農業改良普及センターの担当が担う」, E県では「専門員が担う」と明快な回答があり,集落を 支援する業務が組織的に認知されている様子だった。一 方で,B,D県では獣害に強い集落づくりや支援を重要 と認識しており,モデル的集落も存在するものの,新た な集落から要請があった場合の対応では双方とも「市町 村が対応する」とし,県の地域事務所にその支援機能が ないことを認識していた。そして,県全体での獣害に強 い集落の育成については,市町村任せになってしまい育 成や支援の業務が不十分であること,「モデル波及」の 機能を支えるための「地域対応」,「市町村支援」,「地域 支援」の業務が不足していることが課題であると認識し ている様子がみて取れた。 なお,インタビュー対象者は A 県は②,B 県は③,C 県は②,③,⑤,D 県は③,E 県は②,③に所属した経 歴があり,全員が研究・指導機関を中心に,獣害対策の 技術開発や現場の指導・支援に関し豊富な経験を有して いた。
4.考察
5県の獣害に強い集落づくりにおける,集落を支援・ 育成する業務に関する県機関の理想的構造の模式図では, どの県も本庁,試験研究機関,指導機関,地域事務所, 市町村に期待する役割や業務に大きな差はなく,理想と する自治体の業務体系と構造に県間の大きな差はないこ とが確認できた。しかしながら,獣害に強い集落づくり の業務に関し,調査対象の 5 県は大きく 2 つのタイプに 大別された。1 つは A,C,E 県のグループであり,こ れは地域事務所に集落の支援や指導などの業務ができる 担当者を配置している。なかでも A,C 県は地域事務所 に配置される地域農業改良普及センターに獣害対策の担 当者が配置されており,集落の支援要請への対応を市町 村と連携して行うことで,地域の核となるモデル的集落 だけでなく,それらに追随し地域主体で被害対策に取り 組める集落も育成している。結果的に広域での被害軽減 に貢献するとともに,市町村担当者や JA 担当者など地 域の人材育成にも繋がっている様子が確認できた。E 県 では農業改良普及センターには担当者が配置されていな いが,地域事務所単位に嘱託の専門員が配置され,異動 サイクルも長く地域の専門家的な位置を占め「市町村支 援」,「地域支援」の業務を担っていた。また,地域事務 所の県職員や市町村職員を結び付け,現場での対応方法 なども指導する立場になっている模様だった。そして, これらの県では総じて獣害に強い集落づくりという取り 組みに関しては,概ねうまく進展していると評価してお り,C県に至っては被害が多い集落への支援は一通り終 了したため,対策を持続できる集落への自立支援の段階 にあるという回答だった。 一方,B,D県では県の地域事務所に地域の指導や支 援が可能な担当者を配置していない。そのため,「地域 支援」の集落に直接支援する業務や,「地域対応」を行 う市町村を支え,あるいは協働する「市町村支援」の業Table 2 各県の体制と評価の比較 Comparison of prefecture system and evaluation
A県 B県 C県 D県 E県 ①県庁主務課の所属 農業 環境 農業 農業 林業 ②研究機関 有り 有り H28年から廃止 なし 有り ③指導機関 有り 有り 有り 有り 有り 革新支援専門員 有り なし 有り なし なし ⑥県地域事務所 ④ 農政や林政等行政機 関 環境担当(鳥獣法:注 2)農政担当(特措法:注 3)林政担当( 鳥獣法,特措法) 林政担当(鳥獣法)農政担当(特措法) 農政担当(特措法)環境担当(鳥獣法) 林政担当( 鳥獣法,特措法) ⑤ 普及センター等指導 機関(獣害対策の担 当者数) 有り なし 有り なし なし 1~ 2(兼務) 0 1~2(兼務) 0 0 普及計画への獣害対策 の記載 産地育成などを基本有り なし 有り なし 一部で記載あり 地域支援のための普及 組織以外の人員 なし なし なし なし 嘱託の専門員を配置 獣害に強い集落づくりに関する業務や機能の状況 「事 務 所 支 援」:研 究・ 指導機関による県事務 所への手法や技術等の 指導・支援 「モデル支援」,「知見付 与」の業務とも連動。普 及計画の指導も行う。 ⑤の担当や機能がない た め,「事 務 所 支 援」 の役割も存在しない。 「モデル支援」,「知見付 与」の 業 務 と も 連 動。 普及計画の指導も行う。 ⑤の担当や機能がない ため,「事務所支援」の 役割も存在しない。 嘱託の専門員を③が研 修し育成する。 「知 見 付 与」:研 究・指 導機関による技術や手 法等の知見を与えるこ とによる市町村の支援 研究・指導機関が普及 セ ン タ ー(⑤)が 実 施 す る「市 町 村 支 援」業 務と連携して実施。 研究・指導機関がほぼ 単独で実施するが,全 てには対応できていな い。 指 導 機 関 が 普 及 セ ン ター(⑤)が実施する 「市町村支援」業務と連 携して実施。 指導機関が④と連携し ようとするが,事業説 明などが中心になりが ちである。 嘱託の専門員をサポー トする形で実施。 「モ デ ル 支 援」:研 究・ 指導機関によるモデル 集落の直接支援 研究員,革新支援専門 員が市町村担当者や普 及員の OJT の場として 「地域対応」,「地域支援」 と連携して実施。 県のモデル的な集落組 織に対し,「地域対応」 と連携して実施。 革新支援専門員が県の モデル的な集落に対し 市町村担当者や普及員 の OJT の場として「地 域 対 応」,「地 域 支 援」 と連携して実施。 ③の機能もあまり活発 でないため「モデル支 援」も 十 分 で は な い。 一部のモデル的な集落 にのみ実施。 嘱託の専門員をサポー トする形で実施。 「市町村支援」:県出先 機関による市町村への 技術や知見の支援 主に普及センター担当 者が実施。 地域事務所には補助金 事務の機能のみで「知 見付与」に期待される。 主に普及センター担当 者が実施。 地域事務所には補助金 事務の機能のみで「知 見付与」もあまり機能 がないため,市町村に 技術や知見を伝える機 能が少ない。 地域事務所に配属の嘱 託 専 門 員 が 中 心 で 実 施。 「地域支援」:県地域事 務所による地域や集落 への支援 普及センター担当者が 市町村や場合によって は JA 職員と連携して実 施。普及計画にも明記。 地域事務所には補助金 事務の機能のみで「モ デル支援」に期待され る。 普及センター担当者が 市町村と連携して実施。 普及計画にも明記。 地域事務所には補助金 事務の機能のみで「モ デル支援」もあまり機 能がないため,集落に 技術や知見を伝える機 能が少ない。 地域事務所に配属の嘱 託 専 門 員 が 中 心 で 実 施。 「地域対応」:市町村が 集落の代表者等の要請 により行う獣害対策の 支援や指導 県事務所の「地域支援」 業務と連携する。その ため,市町村職員の OJT の場ともなっている。普 及員が新任の場合には 市町村職員から地域支 援手法を教わる場面も ある。 市町村のみで対応。県 事務所に「市町村支援」 や「地域支援」業務が ないこともあり,市町 村職員も十分な対応が できてない傾向。 県事務所の「地域支援」 業務と連携する。「市町 村支援」の効果もあり, 市町村職員にも技量の 高い職員が散見される。 市町村のみで対応。県 事務所に「市町村支援」 や「地域支援」業務が ないこともあり,動き が把握できてない。 県事務所の嘱託専門員 が担う「地域支援」「市 町村支援」と連携する ことで,市町村職員が 単独で実施しなくても 良い。サポートの体制 はできていると考えら れる。 獣害に強い集落づくりの進捗 新たな集落の支援要請 への対応 地域普及センターが市町村と連携して対応。 市町村で対応。県の対 応方針は不明確。県の 業 務 は 補 助 事 業 の 対 応。 地域普及センターが市 町村と連携して対応。 市町村で対応。県の業務は補助事業の対応。 専門員が市町と連携して対応 獣害に強い集落づくり の進捗 ・ 被害集落への対応は 出来てきている。 ・ 普及員だけでなく JA の担当者も地域の指 導や支援業務が可能 になってきた。 ・ 普及センターは産地 支援の一環で獣害対 策の業務を担う。 ・ 農業者から必要とさ れる分野であり普及 員の成功体験にもつ ながっている。 ・ 果樹担当などの作目 の担当と地域担当が 複数で連携する場合 もある。普及員の OJT の場にもなっている。 ・ モデル的な集落はあ る。 ・ 集落の支援はうまく 行っていない。成果 も不明確であいまい である。 ・ 集落の状況を県が把 握できていない。 ・ 本庁主務課が環境部 局にあり普及組織へ の指揮権がない。 ・ 地域事務所に集落の コンサルティング的 な業務ができる機能 がないことが課題。 ・ 統計的には被害金額 は減少しているが, 被害発生集落からの 要望は減っていない と感じ,被害軽減の 実感はない。 ・ 被害集落への対応は 出来てきている。 ・ 被害が軽減している 集落はかなりある。 ・ 普及センターが地域 を支援するための実 証費もある。 ・ 関係機関との調整も 普及センターの担当 者が担う。市町村職 員の支援や OJT にも なっている。 ・ 一通り獣害につよい 集落づくりの取り組 みは終了し,それを 持続やステップアッ プさせるステージに 来ている。 ・ 集落の被害対策相談 は大部分が市町村の みで対応。 ・ 市町村の中には専従 職員を配置し「地域 対応」の業務を担う ところもある。 ・ 被害軽減できている 集落はあると思うが, 十分な情報はない。 ・ 集落自体が疲弊して いる事例が多く,獣 害に強い集落づくり も進みにくい。 ・ モデル集落育成もあ まり進んでないと感 じる。 ・ 被害集落への対応は 出来てきている。 ・ 専門員が事務所の普 及 員 や 鳥 獣 担 当 職 員,市町村職員を支 援する立場にある。 ・ 取り組みを継続して いけない集落も出て くることが課題。 ・ 今年度から専門員に 加え地域事務所の普 及員にも獣害対策の 担当を配置する。鳥 獣職の職員と専門員 と連携することで, 一層,地域への対応 が進展すると考えて いる。
務も存在していない。特にB県は研究や指導機関は配置 されている。しかし,⑤が存在しないため地域事務所に ②,③から知見を伝え提案や支援を行う「事務所支援」 の業務も十分に機能しているとは言えない状態である。 結果的にB,D両県は獣害に強い集落を育成・支援する 業務がうまく進展しているとは評価しておらず,B県で は「被害軽減の実感はない」といった回答も得られてい る。獣害に強い集落を支援・育成する業務は直接集落住 民と接し,またその業務を通じて市町村担当者とも協働 することで,現場と関係機関の実態を把握する効果も期 待できると思われる。両県にはこの機能が無いため,「集 落の状況を県が把握できていない」「モデル的な事例を 波及させることはできていない」などの意見も聞かれ, 「集落の支援はうまくいっていない」という意見や,最 終的には「被害軽減の実感はない」というような被害対 策の政策の成果自体に不明確な印象を持つに至っている と考えられる。 新たな集落からの支援要請への対応の項では,5 県の 調査対象者の回答は 2 つに分かれる。A,C,E 県では 一様に,普及センターまたは専門員が市町村と連携して 対応するとの回答が得られた。そして,それが市町村職 員の OJT にも繋がっているという意見や,普及職員の 成功体験にも繋がるといった意見も共通している。一方, B,D県では研究・指導機関がモデル的集落支援の役割 をある程度担っているものの,一般的な被害発生集落の 支援は市町村のみが対応し,県地域機関の役割は補助金 業務に留まっている様子が見て取れる。そして,これが 集落や地域の被害や対策の実態が把握できていないこと の要因にもなっていると推察できる。 B県では県庁主務課が環境部局にあるため,地域事務 所の農業部局に所属する地域農業改良普及センターへの 指揮命令権がないことを,獣害に強い集落づくり支援に おける課題とする意見も聞かれた。しかし,D 県では県 庁主務課は農業部局であるものの,地域事務所の地域支 援に関する担当者の不在が「モデル波及」,「市町村支 援」,「地域支援」の業務が存在しないことの原因と推察 できる。また,E 県の主務課は林業だが地域事務所には 専門員が在籍し,獣害に強い集落づくりの業務は事務所 内でも連携をとり進められている。つまり,本庁主務課 の所属部局ではなく,地域事務所への担当者の配置の有 無が,獣害に強い集落育成業務の進捗の差を生んだ直接 的な要因であると考えられる。 これらのことから,獣害に強い集落を育成する業務に おいて,県地域事務所における地域指導や支援を担える 機能が重要であることが判る。なかでも,今回の調査対 象では A,C 県では農業改良普及センターに担当職員が 配置されている。両県とも②,③の研究・指導機関から 「事務所支援」機能の一環として,普及員が行動目標と して作成する「普及計画」の指導も行っており,県職員 である農業改良普及員には同じ県機関であるため県庁や 研究・指導機関との連携がはかりやすいことが伺える。 獣害対策に関しても他の農業技術と同様に,地域指導や 支援を担える機能として,農業改良普及センターの役割 が重要と考えられる。 以上のことから,本研究では A,C,E 県の事例が示 すように,県の地域事務所における地域指導や支援を担 える機能と人員の配置が重要であり,その有無によって 獣害に強い集落を育成するという直接的な目的ばかりか, 地域の被害対策への取り組みや被害の実情など,獣害対 策の政策に必要な情報の把握にも差がでること,市町村 や JA 職員との連携やその育成という,地域の人材育成 にも差が生じてくることが示唆された。
5.おわりに
本報告は調査対象の 5 県の範囲内での考察である。し かし,本調査の対象はいずれも農水省の優良事例表彰等 の事例に名前が出ている,言うなれば獣害対策を重要視 していると考えられる県である。そのなかで被害対策の 重要な柱である「獣害に強い集落づくり」という業務に 関する体制や機能にかなりの差があることが示された。 また,A,C,E 県では「被害集落には対応できている」, 「被害が軽減している集落はかなりある」など,自県の 取り組みを肯定的に評する意見が多い。一方,B,D 県 では前述のとおり否定的な意見が多く,関係者の評価に も大きな差が出ている。全国的には更に自治体による取 り組み状況やその評価に差が生じていると推察できる。 その差が生じた要因の 1 つが,県の地域事務所の支援 や指導にあたる職員の存在の有無によるものであるとい うのが本論の考察である。そして現在の農政に関わる自 治体機能のなかで,県地域事務所で農村の指導や支援が 可能である組織は農業改良普及センターが主な機関であ り,そこに獣害対策の担当者が存在することは農業被害 を軽減させる上でも有意義であると考えられる。また, E県のように専門的な嘱託職員の配置や JA の営農指導 員等,農村の指導や支援機能を有する機関にその役割を 期待することも可能であろう。重要なのは予算や法令の みではなく,対策のための技術や手法の知見を伝え,支 援や指導を担える役割の有無であり,これは獣害対策だ けでなく他の農業政策や福祉などの地域の課題に共通の 事象であると思われる。謝辞 本研究は,農林水産省イノベーション創出強化研究推進事業 による「AI や IoT による,人材育成も可能なスマート獣害対 策の技術開発と,多様なモデル地区による地域への適合性実証 研究」及び,JSPS 科研費(JP17H01911,JP18H02289)による 研究成果の一部である。調査にご協力いただいた各県担当者の 皆様に感謝申し上げます。 注釈 注 1 )地域が主体的に被害対策に取り組む集落等を育成する活 動を「獣害に強い集落づくり」と通称する。例えば群馬県, 滋賀県,奈良県,岡山県,鳥取県,山口県,愛媛県の獣害 対策を紹介する HP には,地域主体の獣害対策を推進する 政策としてこの言葉が用いられている。 注 2 )鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律 注 3 )鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別 措置に関する法律 引用文献 1)農林水産省(参照 2020.5.1):鳥獣被害対策コーナー,全 国の野生鳥獣による農作物被害状況について(平成 29 年度), (オンライン),入手先<http://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/ higai/#higai> 2)山端直人(2010):集落ぐるみのサル追い払いによる農作 物被害軽減効果,農村計画学会誌,28,273︲278. 3)農林水産省(参照 2020.5.1):鳥獣被害対策コーナー,行 政担当者が知っておくべき獣害対策の基本 ,(オンライン), 入 手 先<https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/manyuaru/ sogo_taisaku/sogo_taisaku.html#01> 4)滋賀県(参照 2020.5.2):獣害に強い集落環境点検実施の 手引き,(オンライン),入手先<https://www.pref.shiga.lg.jp/ file/attachment/1010254.pdf> 5)農林水産省(参照 2020.5.1):鳥獣被害対策コーナー,優 良表彰・優良事例,(オンライン),入手先<https://www.maff. go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/hyousyou_zirei/hyosyo_jirei.html> 6)江口祐輔(2018):間違った対策を引き起こす農村伝説, 農作物を守る鳥獣害対策,24︲34,誠文堂新光社,東京. 7)農林水産省(参照 2020.5.1):鳥獣被害対策コーナー,野 生鳥獣被害防止マニュアル―総合対策編―,(オンライン), 入 手 先<https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/manyuaru/ sogo_taisaku/sogo_taisaku.html#01> 8)内田由紀子・竹村幸祐(2012):農をつなぐ仕事~普及指 導員とコミュニティへの社会心理学的アプローチ~,創森社. 9)山端直人(2015):獣害と農村のマネジメント,農村計画 学会誌,34 ⑶,357︲360.
10)Taylor & Francis Group (2008) : The Growing Conflict Be-tween Humans and Wildlife-Law and Policy as Contributing and Mitigating Factors-, Journal of International Wildlife Law & Policy, 11 : 189︲206, 2008.