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根室半島ノッカマップ海岸の枕状溶岩に産する沸石類

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(1)Title. 根室半島ノッカマップ海岸の枕状溶岩に産する沸石類. Author(s). 阿部, 可愛; 伊藤, 俊彦; 嶋, 佑香. Citation. 北海道教育大学紀要. 自然科学編, 57(2): 19-27. Issue Date. 2007-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/631. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(自然科学編)第57巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(NaturalSciences)Vol.57,No.2. 平成19年2月 February,2007. 根室半島ノッカマップ海岸の枕状溶岩に産する沸石類. 阿部 可愛・伊藤 俊彦・嶋 佑香 北海道教育大学釧路校地学研究室. ZeolitesinPilowLavaatNokkamappuSea−Shore,NemuroPeninsula ABEKaai,ITOToshihikoandSHIMAYuka DepartmentofGeology,KushiroCampus,HokkaidoUniversityofEducation,KushiroO85−8580. ABSTRACT. ManyspeciesofCa−ZeOliteandtheirproductionvolumeareprominentatNokkamappuincompari− SOntOOtherareasontheNemuropeninsula.Thisisduetothehydrothermalalternationofalcali−dolerite. pillowlavaduringsubmarinevoIcanicactivity.Stellariteanddatoliteaccompaniedwithanalcimearethe firstsuchreportedontheNemuropeninsula.ThepartialcrystallizationsequencesofCa−ZeOlite (Heulandite→Mordenite,Laumontite→Stellerite)incracksanddrusessuggestthatthetrendofminer− alizationofCa−ZeOliteisconsistentwiththedecreasingofCa/(Na+K+Ca)andSi/Alincoolingwater temperatures.. Itbecameclearthatthefactorswhichhaveinfluenceonthesequenceofzeolitemineralizationin doleriteatShiowakkaarethesameasthoseinthehydrothermalalterationzone,diageneticzoneandthe metamorphicfaciesofzeolite.. にのぼる(Yagi,1950;三谷ら,1958;原田・ 1.はじめに 根室半島は海岸段丘が発達した平坦な地形で,. 中尾,1969;秋葉・金,1976;藤原,1976;伊藤, 1976,1979;嶋,2003;阿部,2004,2006).こ. その地質は海岸線に沿って観察される白亜紀層な. のうち菱沸石,束沸石,中沸石,の産出は何れも. らびにそれに伴うアルカリ租粒玄武岩類で特徴づ. 未だ一例のみの報告であり,更に詳細なデータの. けられる.殆どの租粒玄武岩には沸石が産し,特. 集積が望まれる.他方成因については,沸石鉱物. にソーダ沸石,方沸石の産出は古くから知られて. 種の多様さが示す様に(日本で知られている沸石. いた(吉沢,1930;Suzuki,1938).それ以後に. 鉱物は,全沸石種の約半分に当たる41種(松原,. 発見された種類を合わせると,方沸石,ソーダ沸. 2002)),それらの生成は溶液中のイオン濃度や. 石,菱沸石,束沸石,濁沸石,モルデン沸石,輝. ⅠⅠ20分圧,母岩などの影響を受け易く,産Hも. 沸石,トムソン沸石,中沸石,ステラ沸石の10種. 変化に富む鉱物である.従って,沸石鉱物個々の. 19.

(3) 阿部 可愛・伊藤 俊彦・嶋 佑香. 記載に関わる研究は広く行われているが,野外観. 分布している.. 察に基づいて音弗石相互の成因関係を論じたもの. 白亜紀層は最下部層(ノッカマップ層)が半島. は,続成作用・熱水変質作用に伴った累帯配列を. 北側に分布して見られ,南に向かうに従い上位の. 示す沸石類の成因を除くと多くない.. 層が現れる.地質図(図−1)に示したように, アルカリ玄武岩類の含まれる層準は一定せず,地. 根室半島のほぼ全域で,ソーダ沸石と方沸石の Na一沸石がアルカリ租粒玄武岩類に伴い産する.. 質時代の異なる複数の堆積岩に伴って産している (松井・吉元,1987).図から判るように,車石. それ以外の沸石種の産出は希で,その数,量のい ずれもが少ない.それに比べノッカマップ海岸は,. で知られる花咲灯台周辺が本地質国中では最上部. Na一沸石の他に,他種類のCaに富む沸石が特徴. 層(最も若い地質年代)にあたる.. 根室半島の地質図幅(1948∼49年)では,本地. 的に産出する.また,それらは岩体全体に見られ,. 域のアルカリ玄武岩類はA型租面租粒玄武岩・カ. その産出量も多い点で際立っている. ここではノッカマップ海岸における特徴的な多. ンラン石租面玄武岩(分化型,層状分化岩床)と,. B型租面租粒玄武岩・含カンラン石租面玄武岩. 種類の沸石の生成について,野外調査で得られた 産状・共生関係とⅩ線回折による同定分析をもと. (非分化型,枕状溶岩が顕著に見られる)の2タ. に,それらの晶出順序を明らかにし,関わった要. イプに大別されている.岩質に基づく議論は行っ. 因を考察する.. ていないので,本論文中の地質図にはそれらを区 別して表記していない.これら二つのタイプのア ルカリ玄武岩類岩石類は,両タイプともそれが含. 2.根室半島の地質とアルカリ玄武岩類. まれる堆積岩の層準(地質時代)は一定ではなく,. 根室半島全体は5段の海成段丘(岡崎,1979). アルカリ玄武岩類をもたらした火成活動が繰り返. からなる平坦な地形である.その上を覆う未凝固. し起きていたことを示している.また,半島の両. の第四紀層を除けば,海岸線に沿って白亜紀の火. 側,北側のノッカマップ海岸と南側の花咲一桂木. 成活動によるアルカリ玄武岩類が枕状溶岩や買入. 海岸の双方において見事な枕状溶岩が見られる. 岩,溶岩流等として,同時代の堆積岩に伴い広く. が,それらもまた異なったタイプの岩石に属する. 図−1:地質図. 20.

(4) 叔室半島ノッカマップ海岸の枕状溶岩に産する沸石類. ものである.地質年代(白亜紀)においても,ノッ. 3.根室半島のアルカリ租粒玄武岩類に含ま. カマップ海岸側の北部は同地域における最も古い. れる沸石類. 地層(根室層群の下位層)に当たり,花咲港側の. 沸石類は,先述の分化型(層状分化岩床)と非. 南部は最も新しい地層(上位層)に当たる.. 両地域のアルカリ租粒玄武岩の分析値を表−1. 分化型租粒玄武岩類(枕状溶岩を伴う)の双方に. に示した.ノッカマップの枕状溶岩は化学組成. 産することが知られている.両岩体の違いに対応. (Na20+K20/SiO2=0.12)からも,車石で有名 な花咲岬の枕状溶岩と同じく,アルカリ玄武岩に. した系統だった沸石種の遠いは認められていな い.. 分類されるが,花咲岬産の枕状溶岩と比べて明ら. これまでの報告された沸石類と今回知られた沸. かにKに乏しい点で異なっている.また,ノッカ. 石を合わせて図示した(図−2).. マップ枕状溶岩とその上に4m以上の厚さで乗. Na沸石(ソーダ沸石と方沸石の組合せ)は半. る柱状節理の発達した溶岩とは,化学組成の点で. 島全域に広く産する.ノッカマップ海岸の枕状溶. 大きな違いは認められず,産状を考慮すると両者. 岩ではそれらに加えて,特にCaに富む沸石が多. は殆ど時間的間隔を置かない火山活動によるもの. 種類,しかも多量に産する点で他とは異なって見. と考えられる.. られる.他所でのCaに富む沸石種の産出は同地 に近いトーサムポロ海岸でもモンゾニ岩中に,サ. 表−1.租粒玄武岩の全岩分析値. ンコタン海岸では集塊岩質租粒玄武岩から,それ. SampleName. NK. NP. HP. ぞれトムソン沸石の産出が報告されている(伊藤,. SiO2(Wt.%). 50.2. 54.7. 52.1. 1969).分化型岩体(モンゾニ岩,閃長岩等)か. TiO2. 1.07. 1.07. 0.66. A1203. 16.90. 16.85. 17.50. Fe203*. 12.40. 10.10. 9.46. の産出箇所もまた半島北側の海岸から(藤原私信,. Cr203. 0.01. 0.01. 0.01. 1977)ということ以外は判らない.近年,花咲港. MnO. 0.21. 0.22. 0.22. 側の採石場ではダト一石→方沸石の関係で,ダ. MgO. 4.40. 3.23. 3.24. ト一石の産出は本地域では初産である(嶋,2003).. CaO. 6.63. 5.51. 5.62. 方解石→ダト一石の晶出順での産出も見られ,溶. BaO. 0.05. 0.05. 0.15. 液中のCaが減少する方向に沿った生成になって. SrO. 0.04. 0.03. 0.07. Na20. 4.45. 6.04. 4.10. K20. 0.99. 0.78. 4.17. P203. 0.36. 0.39. 0.68. LOI. 2.86. 1.49. 2.24. Total. 100.6. 100.5. 分析方法:ICP発光分光分析. 分析者:ALSChemex,Canada *:Fe203とした時の全鉄、 LOI:灼熱減量 NK:ノッカマップ柱状節理を示す岩体(最下部急冷). NP:ノッカマップ枕状溶岩、 HP:花咲岬枕状溶岩. 100.2. らは菱沸石が報告されているが(三谷ら,1958) 産出箇所は明記されていない.束沸石(藤原,1977). いる.. 4.ノッカマップ海岸産沸石類 ノッカマップ海岸のアルカリ玄武岩類には,根 室半島地域で最多の沸石種が産する.今回の調査 で再確認・採取された沸石は,これまで当地から 産出が報告されている7種(嶋,2003)にステラ 沸石(阿部,2006)が新たに加わった.多量の方 解石が産することも本地域の特徴の一つである.. 沸石類は大半が枕状溶岩の割れ目や,溶岩の発 泡によって生じた丸い空隙,複数ピローの接触部 の間隙に産するほか,火砕岩質の部分には特徴的. 21.

(5) 阿部 可愛・伊藤 俊彦・嶋 佑香. 6.Ana】.. ,.,h。m.⑥、Th。m... 図−2. に多く産する.更に,枕状溶岩を覆って,在状節 理の発達する租粒玄武岩岩体でも沸石が生成して. 岩体では方沸石は確認されていない. ソーダ沸石:連続性に富む柵脈として産する.. いる.しかし,同岩で沸石が産する箇所は岩体の. 枕状溶岩を切って見られ,幅が1cm∼数mm,. 下部に限られ,枕状溶岩に近接する部分(濁沸石). その延びは数m以上に及ぶ.針状結晶を示し,. や砂岩と接する部分(輝沸石)等の狭い範囲に限. C軸は脈の延長方向と直交する.花咲岬や桂木等. られている.. でソーダ沸石が放射状の長さ数cmもの自形結晶 集合をなして,方沸石と共に節理等の空隙を埋め. 1)代表的な沸石の産状と肉眼的な特徴. 方沸石:枕状溶岩の空隙を埋めて杏仁状に産す る.その多くは2mm前後の自形結晶をなして見. て産するのとは,その大きさ,共生関係において 明らかに異なる. 輝沸石:輝沸石は板状で真珠光沢,単一鉱物集. られるが,空隙を完全に埋めて結晶面が認められ. 合体で産する場合は板状結晶のサイズが1cm前. ない場合もある.ステラ沸石などCa沸石と一緒. 後の大きなものも知られるが,粘土鉱物や他の沸. に密雑しているのをⅩ線では確認しているが,各. 石類と共存して産する場合は数mm程度の微細な. 沸石相互の関係を結晶の形を見て判別することは. 結晶からなる.. 実体顕微鏡下でも出来ていない.その晶出は最末. 濁沸石:在状のほか肉眼的に結晶面・努開面が. 期と推測する.方沸石の産出はこれまでのところ. 明瞭でない集合体からなり,白色∼淡い肌色樹脂. 枕状溶岩中に限られており,枕状溶岩から移化す. ∼ガラス光沢を示す.その大半は母岩が角レキ化. る火砕岩質部分やその上位にのる在状節理を示す. を蒙っている部分や,より熱水変質の影響を強く. 22.

(6) 叔室半島ノッカマップ海岸の枕状溶岩に産する沸石類. 受けた部分において顕著に見られる.それら結晶. 見られる.同じグループの輝沸石が単一種の集合. 集合の内部に沸石以外の異質物(粘土,岩片等). 体,また他の沸石類とは脈際や粘土中に微細結晶. を取り込むことも特徴の一つである.先の輝沸石. として産するのとは明らかに異なる.ステラ沸石. と共に,その生成が強い熱水変質作用に関わるこ. は輝沸石と共存するほか,濁沸石や方沸石ともし. とが産状などから示唆されるが,両沸石の共存は. ばしば共存する.方解石脈の中にも単独で含まれ. 殆ど見られない点で興味深い.. るが,連続はしない.ステラ沸石の肉眼的特徴は. 淡い肌色から淡黄色で,ガラス∼樹脂光沢,板状. モルデン沸石:集合の断面において,白色繊維. 状結晶のサイズは伸長方向に1cm以下,赦密な. で若干厚みを持ち粒径は1cm前後と他の沸石類. 集合で扇形をなし,同沸石で知られる特徴的な結. と比較して大きい.脈状で産する時は中央部分に. 晶形,毛状の結晶は産しない.輝沸石や方解石と. 含まれる.それに対し,輝沸石は脈際に産し,一. 共生する.モルデン沸石と輝沸石とが近接しても,. 般に無∼白色透明,時には暗赤色で,無・白色の. それぞれ別個に見られることも希ではない.モル. 結晶では真珠光沢が特徴的である.. デン沸石と方解石との共生は,溶岩の発泡で生じ. (方解石):方解石は本地域で沸石同様に,良. たガスの抜けた穴(気孔)を埋めて見られる.. く目にする鉱物である.単独で産出する他,上述. ステラ沸石:ステラ沸石は今回新たに根室半島. したようにモルデン沸石,輝沸石,濁沸石,ステ. で存在が明らかになった沸石である(図−3).. ラ沸石に加え方沸石との共存も知られている.. 2005年に日本で初めて報告されたバレル沸石 (西戸ほか,2005)と共に輝沸石グループの束沸. 2)晶出順序. 共生する沸石の間で知られる晶出順序からは,. 石−ステラ沸石系に属する.ピローの間隙を埋め. た2cm前後の比較的幅広の脈では他の沸石と共. 各沸石の生成に伴う母液の組成変化,生成温度等. 存が明瞭で,その中央部に板状結晶として塊状で. の情報が得られる.しかし,熱水溶液からの沸石. ︵エ∧小吉咄癌. ノ 18. 20. 22. 刷 24. 26. 8(度). 図−3:ステラ沸石(Ⅹ線粉末回折線像). 23.

(7) 阿部 可愛・伊藤 俊彦・嶋 佑香. 類の生成が継続した場合と,沸石の生成が不連続. の異質物を伴うことも特徴の一つである.先述の. で,異なる複数の溶液が関与した場合等との判別. ピローの間に産するステラ沸石を主とする脈に含. は困難である.硫化鉱物鉱脈や晶洞での累帯構造. まれた濁沸石は,膨縮の激しい濁沸石集合に類似. のような産状でない限り,晶出順序の決定には問. しており,又その分布も脈中で一定しないことか. 題があるが,ノッカマップにおける沸石の産状全. ら,同濁沸石は脱が形成される以前に生じていた. 体を通じて共通するものを見て判断した.. 可能性が考えられる.. 本地域において多量に,かつ多種類が産する. 1例のみであるが,同様の濁沸石の不規則集合. Ca型沸石と,少量の方沸石・ソーダ沸石(Na型. 内部にステラ沸石の板状結晶(5∼6mm)集合. 沸石)との間には,産状等において有意な関連性. が生じているのが確認された(濁沸石→ステラ沸. は認められない.特にソーダ沸石においては他の. 石).. 沸石とは産状も明らかに異なるので,ここでは Ca型沸石の多様性にのみ注目して論ずることと する. モルデン沸石と輝沸石はしばしば共生して見ら. れる.モルデン沸石は扇形・放射状集合をなすの. 以上から,ノッカマップ海岸のアルカリ租粒玄 武岩類に多量に含まれるCa沸石類の晶出順は 「濁沸石→輝沸石→ステラ沸石,輝沸石→モルデ ン沸石」として整理される.. 示された晶出順序が熱水の温度低下に沿うもの. に対し,輝沸石は板状結晶をなす.粘土化の見ら. であることを考えるならば,濁沸石は最も高温下. れない空隙に生じたモルデン沸石と輝沸石の粒界. で生じたこととなり,濁沸石の産状が激しい変質. は明瞭で,放射状モルデン沸石の成長が輝沸石の. を蒙った場所での生成を示唆していることと整合. 板状結晶で妨げられたり,内部に輝沸石の細粒結. 的である.更に濁沸石と輝沸石の晶出順序は,花. 晶を含んで見られるところから,輝沸石がモルデ. 崗斑岩の晶洞で認められた「濁沸石→輝沸石→束. ン沸石より先に晶出を終えたと判断出来る(輝沸. 沸石」の帯状分布(原田,1968)とも一致する.. 石→モルデン沸石).この順序は既に報告されて いるもの(伊藤,1990)と矛盾しない. 枕状溶岩のピロー間には,輝沸石,ステラ沸石,. 濁沸石,方沸石からなる幅数cmの脈状が特徴的 に見られる.沸石とピローの境にスメクタイト質. 5.沸石の生成 1)沸石の生成の要因. 沸石鉱物の生成環境は多様であり,火山岩の空. 緑色粘土を伴い,その粘土の部分には1mm前後. 隙,更には斑晶あるいは石基の構成鉱物,酸性凝. の輝沸石の結晶粒が多く含まれる.X線による沸. 灰岩のガラス質部分の再結晶産物,溶岩流と海水. 石種と量比の検討からは,母岩側より,輝沸石→. の反応産物,地熱地帯や低変成帯の変質・変成鉱. (濁沸石)→ステラ沸石→方沸石の順序で分布す. ることが知られた.即ち,肉眼的に,また実体顕. 物などとして,種々の環境で生成している.. これまで多種類の沸石の成因論(沸石種の帯状. 微鏡下でも沸石相互間の境界が何時も明瞭とは限. 分布・共生関係)は,鉱化熱水変質帯,続成変質. らず,それらの晶出順序を肉眼的に知ることが出. 帯の沸石について論じられてきた.. 来ない場合も多い.同派中における濁沸石の産出 は希で,その分布は不規則,不連続に見られ,他 の沸石とは多少産状を異にする.. 濁沸石は肉眼的に光沢のない淡桃色で,岩石の 割れ目を埋めて,膨縮が激しく不規則な形態の集 合(最大幅2cm±)として産するので容易に特 定できる.内部に母岩起源と思われる暗帯赤黒色. 24. それらの一定の地質環境で多種類の沸石が現れ る要因について整理すると,. ① 火成岩に伴う沸石類では,それをもたらし た熱水溶液の化学組成,温度,PH20などの 変化(石橋,1971・1974,皆川・小田ら,199郎.. ② 地熱地帯の堆積岩(火砕岩類)に含まれる 沸石類では,埋没深度に応じた帯状分布,続.

(8) 叔室半島ノッカマップ海岸の枕状溶岩に産する沸石類. 成作用では温度と圧力との関連(相原,1987). (彰 熱水変質により生成する沸石類は,温度(鉱. 脈からの距離)とイオン活動度との関係での 分帯(歌田,1997など).. ◆Si/Al ■Ca/Na+K+Ca. 後2者の続成作用,鉱化作用に伴う,モルデン 沸石→輝沸石→濁沸石の順は,両方共に温度の上 根室半島ノッカマップ海岸に産する沸石類. 昇に沿った生成の順序である.. 図−4:晶出順と理想化学組成比率の関係. 2)根室半島の沸石類の生成. 根室半島のアルカリ租粒玄武岩類に伴う沸石 は,その産状から1.主に火山活動の最末期の生. の値を,晶出順になるように配置し,矢印で早 →晩を示した(図−4).. 成物として(例:花咲の車石に含まれる沸石類). と,2.枕状溶岩と海水の反応による変質熱水か. ii.晶出順から見た音弗石の生成. らの生成物(例:ノッカマップ地域)として生成. a.今回知られた沸石の晶出順序は,「H20量 の少ない沸石から多い沸石へ」の道筋が読み取れ. したものに大別される.. る.沸石の生成トレンドはH20量の増加を示唆 i.沸石類の化学組成. する.それは温度低下のトレンドに合致しており,. 今回沸石類の化学分析は行わず,議論は理想化. 矛盾なく説明できる.これに関しては,石橋(1974). 学組成式に基づいて行った.松原(2002)によっ. もまたH20分圧の変化に関係させて沸石の共生. て,これまでの日本産天然沸石種ごとの化学組成. 関係と晶出順序を説明している.. 範囲が整理され,図示されている.同国において,. b.沸石の組成(Ca/(Na+K+Ca)の値)か. 沸石種により化学組成にかなり幅がある沸石と,. らは,「晩期晶出の沸石ほどCaに乏しいもの」. 理想組成式からあまり外れない組成の沸石のある. の生成が示唆される.また,濁沸石は母岩全体が. ことが知られる.. 強く熱水変質を受けている箇所で多く産し(阿部,. ノッカマップで晶出順序の得られたモルデン沸. 石,輝沸石,濁沸石,ステラ沸石は,松原の図に おいて組成範囲(元素比率)は重なり合っていな. 2006),輝沸石は脈際の粘土の部分に多い傾向が ある.濁沸石と輝沸石の共存は認められない.. 今回確認されたCa沸石類の晶出順序(濁沸石. い.従って,沸石相互の化学組成に関わる議論を. →ステラ沸石,輝沸石→モルデン沸石,濁沸石二. するのに,理想組成式から求めた元素比率. 輝沸石[二は推定])は,晩期に生成する沸石種. (Si/Al),Ca/(Na+K+Ca)を用いた.. ほどH20に富み,フレームワーク外の交換性陽 イオンでのCa比率は少ないものになっているこ. Mordenite:Na3KCa2(A18Si40096)・28H20. とを示す.. Heulandite:(Na,K)Ca4(A19Si27072)・24H20 Ste11erite:Ca4(A18Si28072)・28H20 Laumontite:Ca4(A18Si16048)・14H20 (GottardiandGa11i,1985). 6.考察とまとめ 根室半島ではノッカマップ海岸でのみ,アルカ リ租粒玄武岩中に,多種類のCa沸石が多量に見. 晶出順序から熱水の組成(イオン濃度)変化に. られる.また今回ステラ沸石は根室半島で今回初. ついて考察を試みた.それら各Ca沸石の理想組. めて確認された沸石で,同地において広範囲に生. 成式から得られた[Ca/Na+K+Ca]と[Si/Al]. 成している.. 25.

(9) 阿部 可愛・伊藤 俊彦・嶋 佑香. 多くのCa沸石類の生成に関わったCaに富む. あり,熱水の温度低下に伴う変化である.従って,. 溶液の起源は,主にアルカリ租粒玄武岩類の海底. 温度上昇に伴う変成相や埋没変質作用での沸石と. 火山活動で生じた熱水溶液(変質海水)と考えら. の比較は適当でないと考えられる.皆川・小田. れる.その根拠は①同海岸の枕状溶岩には花咲海. (1998)は愛媛県久万町の安山岩買入岩での沸石. 岸の枕状溶岩や他所の岩体に比べて強い変質状態. 類の晶出順序から,それらは『si/Al比の高い熱. が認められ,②沸石類と緑泥石やスメクタイト等. 水から,Si/Al比が低く,Caに富む熱水溶液へ. の粘土(脈)との間には産状において密接な関係. の変化』に沿ったものと説明している.これはノッ. があることである.即ち,粘土化作用の強い箇所. カマップ海岸の沸石種で見られた晶出順序とは逆. では,より多くの沸石が見られる.また,気孔(発. の関係にある.. 泡に伴う空隙)に富む岩体と気孔を埋めた沸石・. 他方,熱水変質作用で知られている沸石種の分. 方解石・粘土鉱物等の産状は,比較的浅い海底で. 帯は,熱水(鉱脈)からの距離に対応したもので,. の溶岩の噴出を示唆し,水圧の低い条件の下での. 今回のノッカマップ海岸の沸石類と同じ関係を見. 海水と溶岩や火砕岩とのダイナミックな接触・反. ていることになる.両者の生成関係は温度に対し. 応のあったことが想像される.. てほぼ同じ関係にあることが判る.温度との関係. 従って,比較的浅い海での枕状溶岩等の火成活. については,続成作用においても濁沸石は高温側. 動→海水と高温の溶岩との反応による熱水の生成. に,モルデン沸石は低温側で現れ同じ関係にある.. →熱水変質作用に伴う造岩鉱物の分解に伴う粘土. 浜中モンゾニ岩で知られた「ブドウ石→濁沸石」. 鉱物の生成(Fe,Mgなどの除去)並びに熱水溶. の晶出順序(伊藤,1990)も又,変成相における. 液中へのCa,Al,Siなどの付加→熱水溶液か. 高温から低温へ向かうのとは逆方向の,温度の低. らの沸石の晶出(溶液の温度・量・化学組成の変. 下に応じた生成であることも傍証となるだろう.. 化等)のプロセスが描かれる.. 更に,最末期にステラ沸石を含んで結晶面の明瞭. ノッカマップでの「(母岩)→濁沸石→ステラ. な方沸石がステラ沸石に富む脈の一部で認められ. 沸石,輝沸石→モルデン沸石」の順は,熱水変質. たことから,溶液中のCa量が減ったことで相対. 作用(歌田,1977)における鉱脈からの距離に応. 的なNa量の上昇に伴って方沸石が生じたことを. じた沸石種の累帯配列(アルカリ帯:鉱脈→濁沸. 示している.. 石→輝沸石→束沸石・モルデン沸石)や,続成変 質作用での埋没深度の増加(温度の上昇)に応じ. 本地域での特にCaに富む沸石類の生成には,. た沸石種の消長(白水,1988)と同じである.続. 租粒玄武岩類の海底での火成活動に伴う熱水作用. 成変質作用での温度と生成沸石種の関係,また変. が関わっている.その初期には母岩と熱水との激. 成相(沸石相)での「輝沸石→濁沸石→ブドウ石」. しい反応による熱水変質作用に伴い,多量の粘土. はH20量の減少する順序であり,温度の上昇に. 鉱物が生成する.粘土鉱物の生成により,主に. 伴って生じたものである.. Mg,Feが除かれ,次第に熱水はCaに富むもの. 結成作用に伴う「H20量の減少=温度の上昇. となる.その後,熱水からは沸石の中でも高温で. に伴う」順序は,「温度上昇により凝灰岩層など. 安定なCaに富む種の晶出が始まり,温度の低下. から水分の逸脱が増加する方向」として,他書で. に従って,よりCaに乏しい沸石種が順次晶出し. も説明されている.CaA12Si7018・16H20(輝沸. た.また,母液(熱水溶液)中のCaイオン濃度. 石)=CaA12Si4012・14H20(濁沸石)+3SiO2+. の減少と共に,溶液のSi/Al比は上昇の経路をた. 2H20(都城,1965).. どったことが,それらの晶出順序から読み取れる.. ノッカマップの(濁沸石→)輝沸石→モルデン. 沸石の生成順は,孔隙壁や脈際からの晶出関係で. 26.

(10) 叔室半島ノッカマップ海岸の枕状溶岩に産する沸石類 254,3−7.. 参考文献 阿部可愛(2004)租粒玄武岩に産する沸石種と母岩の肉 眼的特徴(学士論文)40p. 阿部可愛(2006)根室半島特にノッカマップの沸石種の 多様性とその要因(修士論文)38p. 秋葉 力,金 忠(1976)北海道産沸石類の新産地(1)・ (2).北海道産鉱物の研究Ⅰ,北海道教育大学紀要(Ⅱ B)26(2),99107.,27(1),3343.. Gottardi,G.and GalliE.(1984)NaturalZeolites, Springer−Verlag,Berlin,Heiderberg,NewYork, Tokyo.,409p. 藤原哲夫(1976)北海道におけるフツ石の分布と産状, 北海道地下資源調査報告,49,107−122.. Suzuki,J.(1938)Ontheoccurrenceofaegirin−augitein natroliteveinsinthe doleritefromNemuro,Hokkaido, Japan,Jour.Fac.Sci.Hokkaido,Imp.Univ.,4(4), 139−191.. 歌田 実(1977)鉱床母岩の変質作用,現代鉱床学の基 礎(立見辰雄編),東大出版会,145−159.. Yagi,K.(1950)Petrologyofthealkalinerocksofthe Nemuro district,Hokkaido,Japan.Bul.Geol.Soc.Am., 61,1516. 八木健三(1958)根室半島のアルカリ岩一時にその枕状 溶岩について−,鈴木醇教授還暦記念論集,237−298. 相原安津夫(1987)日本の堆積岩,岩波書店,226p. 吉沢 甫(1930)北海道取室火成岩中の沸石類の化学成. 分,地球,14,411−414.. 原田一雄(1968)沸石相一時に地層の埋没深度による分 帯について−,地質雑,74(4),239−244. 原田一雄・中尾和三(1969) 日本産ソーダ沸石二種,地 質学雑誌,75(6),343−344. 石橋 澄(1971)愛媛県久万町梶野川産黒雲母安山岩中 の晶洞鉱物,九大理研報,11(1),55−65.. (阿部 可愛 釧路校2006年修士課程修了). (嶋 佑香 釧路校2003年卒業) (伊藤 俊彦 釧路校教授). 石橋 澄(1974)佐賀県東松浦玄武岩中の晶洞鉱物,岩 鉱,69(7),255−244. 伊藤俊彦(1976)北海道東部浜中モンゾニ岩の沸石と若 干の鉱物について,北海道教育大学紀要(Ⅱ−B),26 (2),35−47. 伊藤俊彦(1979)北海道根室半島アルカリ租粒玄武岩晶 洞中の沸石類,北海道教育大学紀要(ⅡB),29(2), 19−27.. 伊藤俊彦(1990)北海道釧路・根室地方の沸石の産状と 共生関係,浦島幸世教授退官記念論集,263−270. 嶋 佑香(2003)道東地域産ゼオライト種と鉱物学的検 討(卒業論文)47p. 白水晴雄(1988)粘土鉱物学一粘土科学の基礎−,朝倉 書店,185p. 松原 聴(2002)沸石の種類,岩石鉱物科学,31(5), 261−267.. 松井信輝・吉元 豊(1987)根室市の地質および岩石, 根室市の自然と文化財,1−39. 皆川鉄雄・小田文美(1998)愛媛県久万町高殿産沸石の 産状および化学的特徴,愛媛大学理学部紀要,4,17−30. 三谷勝利・藤原哲夫・長谷川潔(1958) 5万分の1地質 図幅「根室南部」および同説明書,北海道地下資源調. 査所 都城秋穂(1965)変成岩と変成帯,岩波書店,458p.. 西戸裕嗣・赤司治夫・大西政之・藤本雅太郎・小林洋 一・草地功(2005)長崎県平戸島から国内初のBar− reriteの産出について,日本鉱物学会 2005年度年会 (講演要旨)143. 岡崎由夫(1979)ノ根室の地形について釧路博物館館報,. 27.

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参照

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