術後早期に再発したI期肺癌症例の検討
山梨県立中央病院 外科 羽田真朗 本橋慎也 赤池英憲 牧真彦 小室陽子 中込博 三井照夫 芦沢一喜 千葉成宏 中沢美知雄 内科 宮下義啓 病理 小山敏雄 要旨 術後病理病期1期肺癌症例の再発および再発死亡例16例を対象とし、 術後1年以内の早期再発をきたした症例を調査し術後早期再発の要因を臨床病 理学的に検討した。術後早期(1年以内)に再発した症例7例を早期再発群(早 期群と記す)とし、それ以降に術後再発した症例9例を再発群とした。臨床的因 子(年齢、性別、腫瘍局在部位、腫瘍径)には、有意差はなかった。臨床病期で は、早期群には、再発群に比し有意にIB期が多くみられたが、病理病期では差 はなかった。病理学的因子および治療再発因子(組織型、胸膜浸潤、縦隔郭清、 根治性、術後化療、再発部位)を検討したが、両群に差はなかった。しかし、両 群での再発部位別の生存期間をみたところ、早期群での局所再発例は、生存期 間が24カ月であるのに遠隔転移再発例は、12カ月と有意に短かった。このこと は、術後早期再発をきたす一つの要因として、術前からの不顕性転移巣の存在 が示唆されると考えられた。 K●yWord :肺癌、早期再発、術後再発因子 はじめに 肺癌が増加している現在、臨床的に比較的早期ともいえる1期肺癌の症例も 増えている。しかし、原発性肺癌(NSLC)で、外科的治療の根治性が、術後 長期の生存をもたらすと期待できるこのような術後病理病期1期症例において も、再発死亡症例がみられ、さらに早期再発例がみられる。 そこで今回、1期肺癌再発症例において術後1年以内の早期再発をきたした 症例を調査し術後早期再発の要因を臨床病理学的に検討したので報告する。 対象と方法 山梨県立中央病院外科で1990年∼1999年までの10年間に手術を施行し病 理組織学的検索にて相対的、絶対的治癒切除と判定された術後病理病期1期 (pI期)肺癌症例は158例であった。そのうち、再発および再発死亡例16例を対象とした(表1)。 術後早期(1年以内)に再発した症例7例を早期再発群(早期群と記す)とし、 それ以降に術後再発した症例9例を再発群として術後早期に再発した要因を臨 床病理学的に検討した。 統計的な検定は、平均値の検定にはt検定を、因子間の独立性の検定にはx2検 定またはFisherの直接確率法を用いた。 表2 術後再発症例の臨床的因子 表1 対象原発性肺癌手術症例(Pl期) (1990年∼1999年) 病理欄1期 (内訳) 生存 再発および再発死亡症例 他病死 158例 113例(72%) 16例(10%) 29例(t8%) 早期群 @7例 再発群 X例 有意差 @P 年 齢 67.†±5.6 ア0.9士4.5 0.16 性 別 @舅 @女 61 81 0.99 局 在 @左 @右 43 54 0.99 上下 25 63 0.31 狙瘍径 50土13 40土20 0.26 結果 (1)臨床的因子 (表2) 年齢は早期群67.1歳、再発群70.9歳であった。性別は、両群とも男性が多く、 病変の左右、上下といった局在別でも有意差はなかった。腫瘍径では早期群が 50mm、再発群が40mmと若干早期群で大きかったが有意ではなかった。 (2)臨床および病理病期 (表3) 病期(Stage)では、早期群は、臨床、病理でもIA期症例はなく全例IB期で あった。早期群にT因子(TNM分類1997年)でT2の症例が多くみられた為、 臨床病期で有意差がみられた。しかし、病理病期では、この有意差はみられな かった。 (3)病理学的因子および治療再発因子 (表4) 組織型では早期群に腺癌4例、扁平上皮癌1例の他、大細胞癌1例、腺扁平上 皮癌1例が含まれていたが、再発群の腺癌8例、扁平上皮癌1例と差はなかっ た。治療因子としては、葉切除を含む縦隔リンパ節郭清を行なった症例が多か った。再発群に胸腔鏡下葉切除を行なった1例に縦隔リンパ節郭清を省略した 症例があった。術後化学療法を行なった症例は再発群に多くみられるが、有意 差はなかった。また再発部位にも差は見られなかった。
表3 術後再発症例の病期 輔群 醗群 有鮭 7例 9例 P cSage lA 0 5 0.03* lB 7 4 Pga袈 lA 0 3 0.21 lB 7 6 精髄あリ 表5 早期群および再発群の再発部位別生存期間 生存期闇 i月) 有鮭 @P 早期群 (7例) @ 局所再発(2働 @ 遠隔移(5働 15±7 Q牡1 P2±5 }0・027* 再難 (9例) @ 局所醗(3働 @ 遠嚥移(6側 37±12 S2±14 R5±12
}傭
精麗あり 表4 術後再発症例の病理的因子および治療再発因子 早期群 再発群 有意差 7例 9例 P 組織型 4 8 Ad 1 1 044 鍋 2 0 αhers 胸膜浸潤 FO 2 5 0.27 P1 4 3 毘 1 1 縦隔郭清 あり 7 8 0.99 なし 0 1 根治性 完全切除 7 8 099 非完全切除 0 1 術後化療 あり 1 4 031 なし 6 5 再発部位 局所 2 3 0.99 遠隔 5 6 (4)早期群および再発群の再発部位別生存期間 (表5) 生存期間は、早期群で平均15カ月、再発群で平均37カ月であった。 さらに各群での再発部位別生存期間を検討した。生存期間は、早期群において 局所再発例では、平均24カ月、遠隔転移再発例では平均12カ月であり、再発部山梨肺癌研究会会誌14巻1号2001 位による生存期間の有意差がみられた。しかし、再発群には再発部位による有 意差はみられなかった。 考察 一般に1期肺癌の治療の第一一選択は外科的切除であり、治癒切除により良好 な予後が期待できるとされている。浅村1)によると1期の5年生存率はIA期 79.7%、IB期59.7%と比較的良好な予後が期待できるが、再発死亡する症例 の割合は他癌と比較すると多い。岩本ら2)は、Stage Iの術後一年未満の再発率 は11%と報告しているが、自験例では、7例(4.4%)に再発および再発死亡例 がみられた。 平井ら3)は、術後病理病期1期の肺癌症例では、年齢、性別、腫瘍径(pT因 子)、組織型が予後因子であると報告している。自験例で、臨床病理学的に早期 再発の観点から検討したが、早期再発をきたす因子として明らかなものはなか った。有意差がみられたのは、臨床病期(cStage)のみであり、臨床的に腫瘍 径の大きな症例は、早期再発をきたす可能性があると推測された。また今回検 討はしていないが、早期再発を来す因子の検索として、遺伝学的悪性度の評価 も必要と思われた。 太田ら4)は非小細胞肺癌治癒切除例における再発形式は、局所再発が20%、 遠隔転移再発が69%、同時再発11%と報告しており、自験例でも局所再発31%、 遠隔転移再発69%でありほぼ同様であった。しかし、早期再発群の遠隔転移例 の生存期間が有意に局所再発群に比し短かった。当院では、術前肺癌症例の遠 隔転移の検査として、脳、胸部、腹部のCT検査、骨シンチを通常行なっている。 今回の検討からは、早期再発群では手術時にすでに遠隔転移が存在していた可 能性が高く、CT、 Rlなどによる検査で転移巣を検出できなかった為と推測され た(Stage migrationの可能性あり)。現在の検査精度では解決困難であると思わ れるが、術後早期再発をきたす一つの要因として、術前からの不顕性転移巣の 存在が示唆されると考えられた。当院の早期再発群の遠隔転移臓器としては、 特に脳転移の占める割合が多く(4/5例 80%)、今後の課題として術前に脳MRI などによる転移巣の検出精度をあげる必要があると思われた。 また病理病期1期肺癌症例においては、術後化学療法の有用性は実証したも のはない5)が、この様な不顕性の微小転移巣を制御する為に有効な術後補助療法 が必要となる症例も存在すると思われた。 縮小手術を目的として主に1期の肺末梢部の小肺癌に対する様々な検討がな されている。当院でも末梢部小肺癌に対する治療法の一つのオプションとして 縮小手術を行なっているが、腫瘍最大径10mm以下の微小肺癌でも再発を来し 死亡する症例もある6・ 7)ことに留意し適応に関しては、慎重でなければならない
と考えている。自験例では、再発死亡した症例の最大腫瘍径17mmが最も小型 の肺癌であった。 今後の術後病理病期1期の肺癌症例の予後の改善には、癌自体の悪性度の評 価と微小転移巣の発見、制御が必要と考えられた。 結語 1.術後病理病期1期の肺癌再発例において、術後1年以内の早期再発をきたし た症例を検討した。 2.今回の結果から、早期再発をきたす因子として明らかなものはなかった。有 意差がみられたのは、臨床病期(cStage)のみであった。 3.再発の有無を規定する因子と早期再発を規定する因子とでは、若干異なると 考えられるが、1期肺癌でも腫瘍径の大きな症例は、早期再発もきたしうると 考え厳重なFollow Upが必要である。同時に術前の評価をさらに正確に行なう 努力が必要であると考えられた。 参考文献 1)浅村尚生.肺がんカウンセリング 南江堂 p39、2000 2)岩本勲、柴田紘一郎、松崎泰憲、他:原発性肺癌(Stage I、 II)の術後予後 の検討.宮崎医会誌14:22−25,1990 3)平井利和、浜田芳郎、狩野貴之、他:術後病理病期1期肺癌の予後の検討. 北関東医学44(3):289−295,1994 4)太田伸一郎、稲葉浩久、広瀬正秀、他:非小細胞肺癌根治切除例における 局所再発様式,胸部外科53(3):1 85−1 89,2000 5)桑原 修、土井 修、森 隆、他:非小細胞肺癌に対する術後化学療法の 有効性の検討 肺癌32:11−22,1992 6)小橋吉博、藤田和恵、狩野孝之、他:長径2cm以下の小型肺癌切除例の 検討 呼吸17(8):912−918,1998 7)田尻道彦、亀田陽一、前原孝光、他:腫瘍最大径10mm以下の末梢部微小 肺癌における臨床病理組織学的特徴と予後および縮小手術の適応に関する検討. 肺癌38(7):847−853,1998