平 成29年4月1日
肺結 核 合併 肺癌 の1例
山 梨 県 立 中央 病 院 肺 が ん ・呼 吸 器 病 セ ン タ ー 呼 吸 器 内 科 小 林 洋 一 内 田 賢 典 飯 島 裕 基 筒 井 俊 晴 柿﨑 有 美 子 宮 下 義 啓 要 旨:症 例 は68歳 、 男 性 。 過 去 に2回 の 肺 結 核 治 療 歴 が あ る 。2016年5月 に 手 指 の 巧 緻 運 動 障 害 と短 期 記 憶 障 害 で 発 症 。 転 移 性 多 発 脳 腫 瘍 と 左 上 葉 原 発 の 肺 癌 を 認 め 、 精 査 の 後 、肺 腺 癌cT2aNOMlb(BRA)、stagelVと 診 断 し た 。 ま た 、 入 院 時 の 喀痰 検 査 で 塗 抹2+、 結 核 菌PCR陽 性 で あ っ た こ と 、CT画 像 で 気 道 散 布 性 の 陰 影 を 認 め た こ と か ら 、活 動 性 肺 結 核 も 合 併 し て い る と診 断 し た 。 結 核 菌 は 死 菌 で あ る 可 能 性 は あ る も の の 、 抗 結 核 治 療 を 開 始 し 、 併 せ て 肺 癌 に対 す る 定 位 放 射 線 治 療(stereotactic radiotherapy;SRT)、 抗 癌 剤 治 療(CBDCA
+PEM)を 行 っ た 。 神 経 症 状 は 改 善 し 、 画 像 上 腫 瘍 は 縮 小 し た た め 、PRと 判 断 し た 。 そ の 後 も 治 療 を 継 続 し 、 現 在 通 院 中 で あ る 。 肺 結 核 と 肺 癌 は 合 併 し う る が 、 診 断 に 後 れ が 生 じ や す く 、 抗 結 核 薬 と抗 癌 剤 の 相 互 作 用 な ど の 問 題 を 孕 む 。 教 訓 的 症 例 と 考 え 、 文 献 学 的 考 察 を 加 え て 報 告 す る 。 キ ー ワ ー ド:肺 結 核 症 、 肺 癌 、rifampicin、 抗 癌 剤 、 相 互 作 用 は じめに 以 前 よ り肺 結核症 には肺癌 が、肺癌 に は肺結 核症 が合併 しや す いこ とが知 られ て い る1)。また両疾 患 とも高齢 者の 占め る割 合が増加 して い るこ とが指 摘 され て いる2)。高齢化 の進行 した本邦 におい て、 両疾 患の合併 は臨床 的 に意義深 い病態 で ある と考 え られ る。 今 回我 々は、肺結核 症 を合 併 した と考 え られ る肺 癌症例 を経験 したので 、若 干 の文献的 考察 を加 えて報告 す る。 症 例 68歳 、 男 性 。 主 訴:健 忘 、 巧 緻 運 動 障 害。 既 往 歴:19歳:肺 結 核(詳 細 不 明)、40 歳:胃 潰 瘍 、53歳:肺 結 核(HREZ、 標 準 治 療 を 完 遂)、 気 胸 、63歳:う っ 病 。 家 族 歴:父:肺 癌 、 母:食 道 癌 、妹:ペ ニ シ リン 系 抗 菌 薬 で ア ナ フ ィ ラ キ シ ー シ ヨ ッ クの 既 往 あ り。 生 活 歴:喫 煙:18歳 ∼68歳 、30本/日 、 75pack-year、 飲 酒:焼 酎 水 割 り1杯/ 日、 週3回 、 ア レル ギ ー 歴:な し。 職 業 歴:元 飲 食 店 経 営 、粉 塵 吸 入 歴 な し。 現 病 歴:19歳 時 、53歳(2003年)時 に 活 動1生結 核 で 、加 療 を 行 っ た。2003年 時 の結 核 菌 の 薬 剤 感 受 性 はす べ て 良好 で 、 標 準 治 療 に て 加 療 し、 排 菌 陰 性化 を確 認 した 。2016年5月 に手 指 の 巧 緻 運 動 障 害 が 出現 、 翌 月 に は 短 期 記 憶 障 害 が 出 現 した 。 近 医 で 撮 影 され た頭 部MRIで 多 発1生脳 腫 瘍 、胸 部X線 で左 上 肺 野 の 結 節 影 を認 め 、 当 院 紹 介 とな っ た。 胸 部CT で 肺 腫 瘍 、 肺 結 核 を疑 う病 変 が あ り、 喀 疾 で 抗 酸 菌 塗 抹 陽 性 、結 核 菌PCR陽 性 の た め 、 肺 癌 お よび 活 動 性 肺 結 核 の 疑 い で 勧 告 入 院 とな った 。 入 院 時 身 体 所 見:身 長168cm、 体 重 57.2kg、BMI20.3、 体 温37.4℃ 、 脈 拍 一25一
山梨 肺 癌 研 究 会 会 誌30巻2017 95回/分 、血 圧150/93mmHg、SpO295% (室 内気)、PS2、 意 識JCSI-2、 呼 吸 音 異 常 な く、心 音 異 常 な し。腹 部 平 坦 、軟, 四肢 に 浮 腫 な し、 ば ち指 な し。 神 経 学 的 所 見 と して 、 見 当識 障 害 あ り、 逆 行 性健 忘 あ り、 短 期 記 憶 障 害 あ り。 右 上 肢 に 間 欠 的 な痙 攣 あ り、 書 字 不 能 を認 め た。 入 院 時 検 査 成 績(表1): 白血 球10800/μLCRP1.1mg/dl、 赤 沈 13mrn/hrと 軽 度 上 昇 して い た 。HbAlc 6.7%と 糖 尿 病 が あ っ た 。腫 瘍 マ ー カ ー は CEA、SLX、NSEが 高 値 だ っ た 。 ELI-SPOTは 陽 性だ っ た 。 喀痰 検 査(表2):入 院 後3日 連 続 の 喀痰 検 査 で 、1回 の み 塗 抹2+と 陽 陛で 、結 核 菌 のPCRが 陽 性 だ っ た 。 胸 部CT画 像 所 見(図2):左 上 肺 野 の 結 節 は 肺 癌 を 疑 っ た。T2aNOだ っ た。ま た 両側 上 葉 中 心 に空 洞 を伴 う浸潤 影 が散 在 した 。HRCTで は散 布 影 と思 わ れ る 小 結 節 影 が 複 数 か 所 で認 め られ 、活 動 性 の あ る抗 酸 菌 感 染 症 を疑 っ た 。 学 会 分 類 で は blI2だ っ た 。 頭 部MRI画 像 所 見(図3):3か 所 に結 節 影 を 認 め 、 広 範 囲 に脳 浮 腫 を伴 っ て い た 。
入院購検蓋威績
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図1胸 部X線 表2喀 疾抗酸 菌検査 胸 部X線 画像所見(図1):2007年 よ り 認 める陳 旧性 肉芽腫 陰影 の他 に、左上肺 野に新 たに結節影 が出現 し、右肺 尖部 に も浸潤影 が出現 していた。 図2胸 部CT 図3頭 部MRI 気 管 支 鏡 検査:左B3c内 腔 に腫 瘍 が 確 認 で き 、TBBを 施 行 した。病 理 像 はPoorly differentiated aden㏄arcinomaで 、 EGFR遺 伝 子 変 異 、ALK融 合 遺 伝 子 と も に 陰性 だ っ た 。 入 院 後 の 経 過(図4):肺 腺 癌 一26一平 成29年4月1日 cT2aNOMlb(BRA)、stageIVに 活 動 性 の 肺 結 核 を合 併 して い る と診 断 した 。 入 院 後 速 や か にHREZで 抗 結 核 治 療 を 開 始 し、脳 浮 腫 、痙 攣 に 対 しdexamethasone と濃glycerin・ 果 糖 製 剤 、levetiracetam を投 与 した。 気 管 支鏡 で 肺 腺 癌 の 診 断確 定 後 、 頭 部 転 移 性 病 変 に対 しSRTを 、 次 い でcarboplatinとpemetrexedで 抗 癌 剤 治 療 を 行 っ た。 痙 攣 、運 動 障 害 、 記 憶 障 害 は 消 失 し、 日常 生 活 を 送 れ る ま で に 改 善 した 。 しか し、 喀 疾 培 養 検 査 で は 抗 酸 菌 は 陰 性で あ り、 結 核 菌 は 死 菌 で あ る 可 能 性 も否 定 で き な か っ た。 結 核 治 療 は そ の後 も標 準 治 療 を終 え る ま で継 続 し た。 化 学 療 法3コ ー ス 後 の胸 腹 部CT検 査 で は 、左 肺 野 の 結 節 影 は縮 小 した 。 頭 部MRI検 査 に て脳 転 移 病 変 はViabdhty が 消 失 し、 脳 浮 腫 も軽 減 した。PRと 判 断 し、 そ の 後 も抗 癌 剤 治 療 を継 続 し、 現 在 外 来 通 院 中 で あ る。 図4全 体経 過 考 察 肺 癌 は 活 動1生肺 結 核 の 約1-2%、 活 動 性 結 核 は肺 癌 の 約1-5%に 合 併 す る3)。リ ス ク フ ァ ク タ ー と して 、 男性 、 高 齢 、 喫 煙 者 、 扁 平 上 皮 癌 が 挙 げ られ る3)。 画 像 上 、肺 結 核 と肺 癌 を 完 全 に 区 別 す る こ と は 困 難 で 、Doctor'sdelayが 生 じ や す い と され る。肺 癌 診 断 時 の 約60%が す で にstagellIB、IV期 と進 行 期 で あ り、 両 疾 患 が 隣 接 した 症 例 で は 、 平 均11か 月 診 断 遅 れ た と の 報 告 が あ る4)。 FDG-PETCTは 結 核 病 変 に 対 す る偽 陽 性 率 が 高 く、 肺 結 核 と肺 癌 の鑑 別 に 有 用 で な い こ とが 多 い。 結 核 治 療 に 関 して は 、 肺 癌 治 療 の 影 響 を 受 けず 、標 準 治 療 で 排 菌 陰性 ま で の 期 間 、 陰 睦化 率 に差 を 認 め な い5)。 肺 癌 手 術 治 療 に 関 して は 、 術 後 膿 胸 や 気 管 支 痩 予 防 の た め 、術 前4週 間 以 上 の 抗 結 核 薬 治 療 を行 い 、 塗 抹 陰 性 を確 認 し て か らの 手 術 が推 奨 され て い る6)。 本 例 の様 に進 行 肺 癌 症 例 にお け る化 学 療 法 で は 、 骨 髄 抑 制 にお け る肺 結 核 の 増 悪 ・再 燃 の 可 能 性 が あ り、pemetrexed な ど、 な るべ く血 液 毒 性の 少 な い 薬 剤 選 択 が 望 ま れ る。 ㎡ampicinはCYP3A4な どの 誘 導 作 用 が 強 く、 薬 剤 相 互 作 用 が あ る た め 、 多 くの 抗 癌 剤 の血 中濃 度 を低 下 させ うる。 RifabutinはCYP3A4誘 導 作 用 が あ る も の の 、nfampicinと 比 較 す る と弱 く、今 後rifampicinの 代 替 薬 に な る 可 能 性 が あ る5)。今 ま で に 報 告 され た 論 文3)5)およ び 各 製 薬 会 社 に 問 い合 わ せ た結 果 を参 考 に 、㎡ampicinと 肺 癌 抗 癌 剤 の 相 互 作 用 につ い て ま とめ た(表3)。Irinotecan、 docetaxel、pachtaxel、Vinorelbine、 お よ びEGFR-TK工,ALK阻 害剤 は 血 中 濃 度 が 低 下 す るた め 、 抗 腫 瘍 効 果 が 低 下 す る 可 能 性 が あ る。今 回 用 い たcarboplatin, pemetrexedで は 血 中 濃 度 低 下 の危 険 性 は少 な い と考 え られ る。 血 管 新 生 阻 害 剤 で あ るbevacizumab、ramucirumabや 、 免 疫 チ ェ ッ ク ポ イ ン ト阻 害 剤 で あ る nivolumabもrifampicinの 影 響 は 受 け な い と され て い る。 一27一
山 梨 肺 癌 研 究 会 会 誌30巻2017 Rifaraplcinとpm癌 抗 癌 剤 の 編 叢 作 用 磁幟 繕事 灘中濃壌 箱 慶 血ψ濃度 上轟 鎖 陣 ままG醐 磯lb ⑥OCEr嚢q戯 騰lb 醐{A飴 輔顧b V鑓 賛Osime服 嫡鑓董b ぐ》群輪鐙}Crlzotinlb A蓄ec転 纏め CDDP CB1》c《 PEM GεM A岡 只 Vρ 帖16 s騨箕 議磯臓 癖笈麟 犠篠鯵 驚お麟 纏￠1撫鱗 犠熱 浦velu雛a勤 ※論交総需灘ま蟹臨製粟金鍍への悶い金わせを参照(こして轄威 表3Rifampicinと 抗 癌 剤 の 相 互 作 用 結語 肺 結核症 と肺癌 は合 併 し うるこ とを念 頭 に置 き、疑い例 は積 極的 に検 査すべ き であ る。 また抗結核薬 と抗癌剤 の相互作 用 を認 識 し、適切 な投 薬 を行 う必 要が あ る。 引用文献 1)倉 澤 卓 也 、 高 橋 正 治 、 久 世 文 幸 、 他. 肺 癌 と活 動性 結 核 の 合 併 症 例 の 臨床 的 検 討.結 核1992;67:119-125 2)山 岸 文 雄.高 齢 者 結 核.結 核2004; 79:481-486 3)田 村 厚 久 、蛇 沢 晶 、 益 田公 彦 、 他.肺 癌 と活 動 性 結 核 の 合 併:特 徴 と推 移.日 呼 吸 会 誌2007;45:382-393
