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特集「編集委員今年の抱負2017」

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Academic year: 2021

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個別のタスクに特化した特化型 AI は,すでにしばし ば人の能力を凌駕しています.対して AI の黎明期から の夢である汎用人工知能(AGI)はいまだ長期目標となっ ています.ここ数年,賛同を得られた多くの仲間らとと もに,全脳アーキテクチャ(WBA)アプローチからの研 究を進めてまいりました.このアプローチは図 1 に示す ように「脳全体のアーキテクチャに学び人間のような汎 用人工知能をつくる(工学)」というものです.この研究 開発が開かれた形で実施されることが促進されるために NPO法人の設立も実現しました. WBAに関連した研究開発は 2014 年後半頃からしだい に本格化し,図 2 に示すように AI エージェントが学習 を行うための仮想環境シミュレータや,機械学習モジュー ルを結合するネットワークを表現するアーキテクチャ記 述言語,それに基づいて複数の機械学習モジュールを分 散処理させるソフトウェアプラットフォームの開発など が進んできています.さらにこうしたプラットフォーム を用いたハッカソンなどの開発活動が進んでおり,昨年 は当学会において創設 30 周年記念事業「みんなでつく る認知アーキテクチャ」も企画させていただきました. 昨年までは,ここで構築する認知アーキテクチャは任 意のものとしていましたが,今年からは,そのネットワー ク構造に主にコネクトームの情報を取り込んでいきます. コネクトームは神経科学分野で蓄積された脳内の神経接 続の構造ですが,私達は脳を数百程度の領域に分割した メゾスコピックというレベルのコネクトームを利用しま す.そしてこれら情報から機械学習を結合するために加 工したデータとして全脳コネクトミックアーキテクチャ (WBCA)を作成します. WBA研究は認知アーキテクチャとして,まずはげっ 歯類の WBCA を組み込むことで,いよいよ本格的に脳 と対応した AI システムとなっていきます. 一方で,AGI の創造という工学的な目的から見れば脳 に似せてつくることはしばしば足かせにもなります.し かし,以下のような意義があることを述べておきます. 一つ目に,唯一 AGI を実現している脳は共同開発の足 場として合意し得る利点があります.すでに幾多の設計 思想に基づき認知アーキテクチャが開発されてきました が,いずれの道筋から AGI にたどり着けるかは定かでは ありません.また AGI 開発の後半は多様な技術の統合が 必要になるため足場の共有は重要です.また,神経科学・ 認知科学などの知見活用を自然に行えます. 二つ目に,工学的な進展が行き詰まった際に,脳に寄 り添っていればヒントを得やすいでしょう.例えば最初 の深層学習は視覚野を参考にしました.現在の課題であ る AGI,つまり汎用目的のソフトウェア設計の困難さは 「システムの目的を人に理解できる形で機能に分解し,そ の機能を実現するように実装する」という,標準的なア プローチを取れないことにあります.このために進化を 通じて獲得された脳のアーキテクチャを参考とすること が役立つと期待できます. 上記二つは,AGI の開発に関わるものでした.一方で, AGIが社会インフラ化した場合において脳型の AGI に 期待される特徴として以下があるでしょう.脳は自然選 択と生存競争の中で生き残ったシステムであるため多様 な環境変化を乗り越えられるのではないか(ロバスト性). さらに,その振舞いが人間から見て理解しやすくなり, 制御や意思疎通を行いやすいでしょう(人との親和性). そこで 2017 年は,ドワンゴ AI ラボでの新人である神 経科学研究者(水谷治央氏)をはじめとする関係者の皆 様とともに,いよいよ脳のアーキテクチャを参考にした 形での AGI 研究開発に邁進したいと考えております.

メゾスコピックコネクトームを

AI アーキテクチャとして実装する

山川  宏

株式会社ドワンゴ,特定非営利活動法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ 図 1 全脳アーキテクチャアプローチの概要 図 2 全脳コネクトミックアーキテクチャの導入

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近年,人工知能が世間で話題となることが多い.新聞 を見ると,「人工知能で○○を実現」といった人工知能に 関する記事が頻繁に掲載されている.確かに,人工知能 研究者から見ても,最近は,話題になるような技術が多 く開発されているように思う.数年前までは,とても無 理と考えられていた囲碁のトップ棋士に人工知能が勝利 するとか,人が行っていた自動車の運転を人工知能で代 行するとか,さまざまなものが開発されている.そのよ うなものを実現するためには,多くの人工知能技術が必 要となるが,話題で中心的なものは,機械学習,特に深 層学習技術であろう.機械学習では,データから知識を 獲得するが,深層学習では従来の人工知能で取り扱われ てきた記号的知識ではなく,分散表象知識を獲得する. 記号的知識と分散表象知識を比較すると,それぞれに 特徴がある.記号的知識は,人間の理解が容易であり,デー タから自動的に学習できるが,人間が知識を設計し機械 に付与もできる.しかし,精度の高い知識の設計が困難 な場合がある点や,カバーできる領域が限られる点など の問題がある.一方,分散表象知識は,大量のデータを 与えることができれば,深層学習により精度の高い知識 が構築できる.しかし,得られた知識は,人間にとって 理解が困難であるという問題がある.このように,両方 の知識は,それぞれ,長所と短所があり,従来は用途に 応じて使い分けられることが多かった.しかし,今後の 人工知能を考えるときに,この二つの知識は,別々に取 り扱われるままでよいのであろうか. 人間の知能を見ると,両方の知識をうまくつなぎ合わ せて使っているように思われる.心理学の分野で研究さ れている CHC モデルでは,人間の知能はさまざまな要 素から構成されており,それらの総体として,知能が成 り立つとしている.知能の要素を整理した CHC モデル の分類を参照すると,記号的知識と分散表象知識の関係 が明らかになる.分散表象知識は,知能の要素の中でも, 主に,外界の知覚,パターン認識を担う部分の知識とし て考えられる.その一方で,記号的知識は,分散表象知 識よりも抽象化が進んだ知識として考えられ,主に推論 などで利用される知識として考えられる.このように, 人間の中でも,これらの二つの知識は異なる部分を担っ ている.しかし,人間と同じレベルの知的作業ができる 人工知能を考えると,人間のもつ知能要素の一部を受け もつだけでは不十分であり,そのため,両者を統合する 手法が必要となるであろう.例えば,人間は,深層学習 と異なり,少量のデータから学習をすることが可能であ る.これは,与えられた少量のデータとすでにもってい る知識とを組み合わせて推論することで,少量のデータ から精度の高い知識を学習することができるのであろう. このようなことを実現するには,両者をつなげる必要が ある.また,人間のように,自分の思考を説明できるよ うになるためにも,記号的知識と分散表象知識は,お互 いに連携する必要があるだろう. 記号的知識と分散表象知識をつなぐには,どのように すればよいのだろうか.これらの知識の本質としては, 外界から入ってくる生データから情報を徐々に抽象化し, パターンレベルの知識から,より抽象化された記号レベ ルの知識に変化していくと捉えられるであろう.人工知 能として,このような機構を実現するには,認知アーキ テクチャを考えていく必要がある.そのような認知アー キテクチャを考えていくにあたり,現在,二つのアプロー チを考えている.一つ目は,センサデータのようなそれ ぞれの要素に全く意味をもたないデータから,知識を取 り出し,推論に使える高レベルの知識まで引き上げてい くものである.そのようなことを実現するため技術とし て,ストリーム推論 [市瀬 15] が考えられる.ストリー ム推論では,センサのデータから知識を利用し特定のパ ターンを取り出し,それを推論に使えるような知識に変 換していく.これにより,パターン的な知識から推論に 使えるような高次の知識まで対応することができる.も う一つは,テキストデータのようなすでにある程度意味 をもったものから,知識を取り出し,推論に利用できる ような高次元のレベルまで引き上げるものである.その ようなことを実現するために,自然言語テキストから分 散表象知識を抽出し,それを構造化して,人間が理解で きるような知識グラフにつなげる研究を行っている.今 後は,これらを発展させ,認知アーキテクチャとして統 合する手法を考えていきたい. 近年,人工知能が危ないものであるとの議論が起こっ ている.主な原因は,人間が理解できない意思決定をす るシステムができつつあることであろう.二つの知識を つなぐことで,人間がシステムの判断を理解可能になり, 安心できる人工知能システムの作成にもつながっていく だろう. ◇ 参 考 文 献 ◇ [市瀬 15] 市瀬龍太郎:ストリーム推論,人工知能,Vol. 30, No.5, pp. 574-579(2015)

知識をつなげる

市瀬 龍太郎

国立情報学研究所

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人間,あるいは生物が自分自身の知能を意識するには, 社会の中での他者との関わりが必要不可欠である.もと もと知能をもった個人が集まって,それから社会ができ るという考え方よりも,社会や集団をつくろうとしてい く中で,初めて各人の知能が形成されるという考え方の ほうが個人的に好きだ.だから,「知能は個人に在るので はなく社会に在る」くらいの極端な見方で,「社会や集団 がどうやって形づくられるのか」という問題と,「社会の 中で知能がどういった役割を果たしているのか」という 問題に同時に取り組んでいきたいと思っている. 近いうちに人間の金融トレーダーはすべて人工知能 に取って代わられるのか.金融市場への情報技術の応 用を研究しているので,こういった質問を最近よく受け るようになった.こういった質問に対して,「一部のト レーディング業務は人工知能がすでに取って代わってい るが,人間のほうが少なくとも 5 ~ 10 年間は優位性を 保てるトレーディング業務もある」と答えている.例え ば裁定取引と呼ばれる,決まり切った売買ルールで必ず 利益を出せるような場面を素早く見つけて取引をするよ うなスピード勝負のルーティン業務は,人間が機械に勝 てるはずがない.また,そのような場面を膨大な過去 データから検索して発見するような業務も人工知能のお得 意な分野である.すでに国内外のヘッジファンドで,人工 知能を用いたトレードを宣伝しているところが多くある. だが,果たしてこれで人間のトレーダーが人工知能に 勝てなくなったということになるのだろうか.実は,現 在の人工知能の技術で金融市場のような社会経済現象を 予測すると,ある程度の予測精度を示すこともあるが, 各分野の領域知識を利用した人間の専門家の予測精度と 比べてさほど優っておらず新しい情報を加えることもな いという主張がある.例えば,選挙結果や音楽・映画のヒッ トの予測に関して,ソーシャルメディア上の大規模デー タから機械学習で獲得した予測結果が,従来の各分野で の専門家が用いていた単純な指標に勝てなかったという 報告もある. 社会経済現象の予測が困難である原因は,社会経済現 象にミクロ・マクロループが存在するからである.社会 経済現象におけるミクロ・マクロループとは,個人の行 動の集積がマクロなレベルの社会全体の動きを生成し, さらに社会全体の動きがミクロなレベルの個人の行動を 変化させていくような循環のことを意味している.この ようなミクロ・マクロループが存在するシステムでは, すべての期間に共通してマクロな挙動を予測できるよう な普遍的な方程式を見つけることはとても困難である. ある時期に大規模データから抽出した指標とマクロな動 きとの間に規則性が見つかったとしても,別の時期には ミクロ・マクロループから新たな規則性が出現してしま い,以前の規則性は時間とともに有効性が薄れていく. このため,ミクロとマクロの両レベルでの実データの間 には,常に未発見の関係性(ミッシングリンク)が存在 する.つまりミクロ・マクロ関係を含んだモデルを構築 しない限り,過去のデータから抽出した規則の単純な外 挿だけでは,社会経済現象の予測は困難である. 過去のパターンが通用しなくなった場面での対応は, やはり人間のほうが機械よりも格段に優れている.優れ た金融トレーダーと呼ばれている人々は,過去データか ら分析した現在の相場の解釈が一つに決まらないときに, よりメタな判断から適切な解釈を選択できる人である. または,「相場の潮目が変わった」と呼ばれるような市場 の動きのパターンが変化したときに,新しく変わった状 態を見通せる人である.「常識的にこう変わるだろう」と か「こういった場面ではほかの人達はこう振る舞うだろ う」といった一般常識的な知識から新しい状況を判断し たり,「全く関係ないかもしれないが別の分野のこういっ た局面と似ているかもしれない」というひらめきに基づ いた判断をしたりすることを人工知能ができるようにな るには,あと少なくとも 5 ~ 10 年かそれ以上の年月が 必要だろう. 人工知能が優れた金融トレーダーと同じ判断をできる ようになるには,数百,数千,数万,数億の人工知能が 集まって自分達の間で取引する金融市場をつくることが 必要かもしれない.そうすれば,自分と同じような「機能」 をもった存在と常に相互作用することになる.そのよう な状況で,機能の集積結果である金融価格を予測しよう とする中で,自分以外の機能や自分自身の機能を,何ら かの形で「意識」せざるを得ない状況になるかもしれな い.もしかしたら,そうなって初めて「機能」から「知能」 と呼べるような段階に近づくのかもしれない. 人工知能同士が集まってできた集団から,自分達の組 織や社会を発展させていく.人間同士が集まってできた 社会とは,全く異なる形になるかもしれない.異なる社 会の形から発展した知能は,人間の知能とは異なる形と なるだろう.人工知能が社会をつくれるようになって初 めて知能になるのか,それとも人工知能が知能になった から社会をつくれるようになるのか.そんなことを考え ている.

社会が先か,知能が先か

和泉  潔

東京大学

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この記事が世に出るのは,編集委員をいったん退任後, シニア委員として改めて声をかけていただいてから 1 年 半が過ぎた頃になろうかと思う.まだ任期(8 年もある!) の 4 分の 1 も終わっていないという状況で,平編集委員 のときを含めて通算 3 回目の抱負記事の執筆となったわ けである.3 度目はできれば勘弁願いたかったが,編集 委員会の席では,3 度目の方はほかにおられなかったた め,隔年で編集委員全員が執筆するこの記事のお題は, あえなく,再び「今年の抱負」へと決まった.3 度目と なると,さすがに今回はどう書こうかと思案し,あまり 気は進まないものの,過去の自分の記事を読み直してみ た.過去 2 回は当時の研究対象をベースに記事を書いて いたようなので,今回は少し方向性を変えて,学会での 仕事の話をベースに書かせていただこうと思う.何を書 いてもよいというのが,この記事の救いかもしれない. そういうわけで,今回のタイトルは「三足のわらじ」 とさせていただいた.これは,最初にタイトルとアブス トラクトを出す必要があったものの,十分な時間がなかっ たため,ある意味勢いでつけてしまったものであるが, 現状,本学会でさせていただいている仕事が,このシニ ア編集委員,知識ベースシステム研究会主査,そして広 報委員会コンテンツワーキンググループの三つにわたっ ていることに由来する.もちろん,もっと多くのわらじ を履いておられる方はいると思うので,三足が多いとい うことを主張したいわけではない.その点はご了解いた だければと思う.以下,この三つについてささやかな抱 負を述べたいと思う. まず,シニア編集委員に関しては,年間の半数近くは, 担当授業の関係で編集委員会に出席できないため,あま りお役に立っていないような気がする.一応,AI 書庫掲 載関係の担当をしており,そちらは最低限の仕事はして きたつもりではあるが.ただ,あまり気合の入った抱負 を書くと仕事がたくさん降ってきては困るので,ここは 控えめに,微力ながら頑張らせていただくとだけ書かせ ていただこうと思う.ささやかな抱負ということで. 次に,知識ベースシステム研究会に関しては,今年は 主査として最後の年となる.第一種研究会として 100 回 を超える歴史ある研究会の主査を拝命して 4 年,その前 に 2 年ほど幹事を務めさせていただいたので,合計 6 年 ほどその運用に携わってきたことになる.その間,歴代 の主査の先生方,幹事の先生方,事務局の方々を含めて いろいろな方に大変お世話になった.まだ任期を少し残 しているが,この場を借りて御礼を申し上げたい.個別 の研究対象ごとに第 2 種研究会が設立されている現状に おいて,比較的間口の広い当研究会のプレゼンスを高め るのは容易ではなく,この 4 年間で試行錯誤してみたも のの,なかなか活性化するには至っていないのが現状で ある.そのような中,新たな試みとして,夏の研究会を 全国大会と同じ開催地で全国大会の直前に開催すること を昨年初めて試みた.周知期間が短かったために発表件 数が伸びずに苦労したが,今年も同様のスタイルで開催 する予定である.全国大会よりも原稿の締切りに余裕が あるため,全国大会にエントリーし損なったネタをおも ちの方は,ぜひともご検討いただければと思う.一応, 連続開催っぽくはなる予定である.いずれにしても,こ ちらのわらじは次に引き継ぐ時期となるため,できる限 り次の主査の方の苦労が少なくなる形で引き継ぎたいと 思う.これが二足目のわらじに関する抱負である. 最後に,広報委員会コンテンツワーキンググループ に関しては,本稿の執筆時に,長年の懸案であった学会 Webサイトのリニューアルがひとまずの完了を迎えるに 至った.まだ細かいことはこれから調整が必要であるも のの,これはまさに感無量である.ひとえに,今年度の パワフルな広報担当理事(コンテンツ担当),神田智子先 生と土方嘉徳先生のお二人と,リニューアルの素地をつ くっていただいた元広報担当理事の津本周作先生のご尽 力の賜であり,心から感謝申し上げたい.なお,本稿の 本来の締切りをご存じの方は,時間軸がおかしいのでは ないかと思うかもしれないが,それはよくあることとし て,水を差さずに流していただければと思う.いずれに しても,こちらのわらじもそろそろ引き継げられそうな 時期にさしかかったと個人的には思っているので,今年 は次につなげられるような段取りを済ませることを抱負 としたい.もちろん,次に履いてくれる人がいればの話 だが. 最後に,この 1 年ほどで学会以外も含めて履く必要の あるわらじの数がいささか増えすぎた感があり,それぞ れを履ける時間が細分化され過ぎてしまった現状を変え る必要があると痛感している.上記のように,今年は主 要なわらじのいくつかを引き継ぐ時期でもあるので,ほ かも含めて少しそれらを整理して,もう少し自分の成長 と家族のために時間を使えるようにしたいということを 今年最大の抱負として,この原稿をまとめたいと思う. これまでご迷惑をおかけした関係諸氏にはお詫び申し上 げるとともに,見切ることなく,引き続きお付き合いい ただければ幸いである.

三足のわらじ

大原 剛三

青山学院大学

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筆者は大学院から人工知能研究に取り組み,修士修了 後に入社した東芝でも引き続き AI 関連技術の研究開発 に関わってきました.筆者の入社は 1988 年です.歴史 をひもとくと,この年に第二次 AI ブームが終わったそ うで [Russell 02],何とも間が悪いことでしたが,筆者 の会社人生の大半は AI の冬の期間に属していたことに なります.その間,厳しい冬を越せずに消えてしまった もの,晴れて事業化されたもの,しぶとく生き残ったも の,形を変えて復活したものなど,さまざまな AI 関連テー マがありました.「今年の抱負」というお題をいただいた のを機に,今は亡きテーマをしのぶと同時に,今後の企 業内 AI 研究がどうなっていくかを筆者なりに展望した いと思います. 1.日の目を見なかったテーマ 入社してすぐに発想支援というテーマを与えられまし た.これは,顧客に提案するシステムを企画する担当者 を支援,いずれは代替するという野心的な試みで,類推 により発想を機械化することを狙いました [折原 94].企 業活動プロセスの中で最大の価値を生み出しているのは 最上流であるからそこを支援すべきだというのは確かに 正論なのですが,今考えてもよくこんなテーマを思いつ いたと当時の企画担当者の先見の明に感心します.壮大 なテーマゆえ課題も多く,基礎検討を着々と進めていま したが,初期プロトタイプをつくったところでバブルが 弾け,予算が尽きてご臨終です. 実は 1990 年代初めがビッグデータ時代のはしりで, POSデータの活用が小売店における経営課題となってい ました.関係会社を通じて,いくつかの店舗のデータに 触れる機会をいただき,機械学習による売上予測と利益 最適化に基づく自動発注の提案を行いました [竹並 92]. 多くの興味深い知見が得られ,一種のコンサルティング としては成功したと思いますが,発注作業を自動化して 人員削減を実現するためのシステムを事業化するには至 らず,テーマは消えました. 2.昇天したテーマ 筆者の研究生活で数少ない事業貢献の一つが,テキス トマイニング機能を備えた知識分析ソフトウェアの開発 [東芝 02] です.これは,アンケートや報告書などのテキ ストを対象に,重要な概念を情報抽出して構造化し可視 化するという機能を提供するものです.実用的ではあり ましたが,自然言語処理技術を使ってはいるものの,情 報抽出は分析者がタスクごとに作成する知識辞書に依存 しており,AI 技術の応用という観点からは高度とはいい かねるものでした.ところが,この「AI らしくないこと」 が決め手となって事業化に至るのですから世の中はわか りません.当時の担当事業部の中では(1)意図解析など 高度なテキスト理解は AI である,(2)AI は実現できな い,(3)よって高度なテキスト理解は実現できない,と いう三段論法が常識となっていました.一方,前述の知 識分析ソフトは,「これは AI じゃないから,いけるかもね」 と評価されました.筆者からすると,知識辞書は立派な 知識ベースで,この知識分析ソフトもれっきとした AI 応用なのですが,それを口に出すとせっかく軌道に乗っ た製品化計画が頓挫しかねないので,ぐっとこらえまし た.我慢の甲斐あって事業化され,社内表彰もいただき ましたが,研究テーマとしてはここで終わっています. 社内ツールとして活路を見いだしたテーマもありまし た.B2C 事業を手掛ける部門では顧客の評判が気になり ます.電子掲示板を監視し,機械学習に基づくテキスト 分類によって不満の集中している製品を同定すると同時 に,不満を述べている記事群とそうでない記事群を比較 することで不満の原因となっている部品や機能を推定す る技術を開発しました [Sakurai 06].ある事業部におい て活用いただくという形でテーマは終わっています. 3.生き延びたテーマ デジタルテレビが生まれた頃から,機械学習によるテ レビ番組推薦を手掛けています.学習器は,最初は決定 木で,その後ベイジアンネット,協調フィルタリング, SVMとさまざまに進化.使うデータも,番組単位の視 聴履歴とジャンル程度の番組情報から,より細かい視聴 履歴,詳細な電子番組表,Tweet など外部のメタデータ というように広がっていきました.技術が生み出す付加 価値も,当初は視聴生活支援でしたが,マーケティング や番組制作支援へと広がっています [ 安蔵 15].同じテー マでも,アプローチ(学習器)や環境(データ,付加価値) が変わると進化して生き残る,というと一見きれいな考 察ですが,単に筆者はテレビが好きだったから,という のが真実かもしれません. 4.帰ってきたテーマ 数年前から,AI 技術を活用した半導体製造工程の効率 化に取り組んでいます [日経産業 16].この中に,不良の 原因となっている工程や製造装置を推定する機能があり, そのベースとなっているのが上で述べた(昇天した)電 子掲示板監視技術です.全く異なる分野で同様の技術が 使えるのは興味深いことです.

AI の社内輪廻転生

折原 良平

株式会社東芝

(6)

半導体製造の現場の方々と話をしていると,「AI は○ ○ができるんですよね」という台詞がしばしば出てきま す.期待をひしひしと感じると同時に,「AI は実現でき ない」が常識だったことを思い出します.期待に応える べく精進するのはもちろんですが,深層学習がそうであっ たように,環境の変化に伴って一度は消えたテーマが帰っ てくることは今後も頻繁に起こるでしょう.復活したテー マに居場所を見つけてあげることは,テーマの消失の片 棒を担いだかもしれないベテランの任務ではないかと考 えています. [日経産業 16] 日経産業新聞:東芝 再生に挑む 第 1 部 ここから始 まる(3),2016 年 9 月 14 日(2016) [折原 94] 折原良平:発想支援システム「知恵の泉®」,人工知能学 会誌,Vol. 9, No. 2, pp. 1-10(1994)

[Russell 02] Russell, S. and Norvig, P.: Artificial Intelligence: A Modern Approach(2nd Edition), Prentice-Hall(2002) [Sakurai 06] Sakurai, S. and Orihara, R.: Discovery of important

threads from bulletin board sites, Int. J. of Information Technology and Intelligent Computing, Vol. 1, No. 1, pp. 217-228(2006) [竹並 93] 竹並輝之 ほか:AI 技術を適用した時系列データによる 売上予測,情処第 43 回情報システム研究会(1993) [東 芝 02] 東 芝: ナ レ ッ ジ マ ネ ジ メ ン ト 支 援 シ ス テ ム 「KnowledgeMeister V2.0」の発売について,https://www. toshiba.co.jp/about/press/2002_09/pr_j2502.htm (2002) [安蔵 15] 安蔵靖志:東芝,テレビ視聴・録画の分析結果を販売, 日経ビッグデータ,No. 19, pp. 71-80(2015)

(7)

「ロボットは東大に入れるか?」(東ロボ)プロジェク トの英語科目に 2014 年から 3 年間関わらせていただい ている.このプロジェクトとの関わりの中で,現状の人 工知能技術が得意とするもの,不得意とするものが見え てきた.そこから 2017 年の抱負を考えたい. 東ロボプロジェクトでは,東大合格のために二次試験 の前に一次試験のセンター試験で高得点する必要がある ためセンター試験のソルバーが各教科で進められてきた. 英語科目の場合,センター試験の試験問題は大問が 6 問, 200点満点の問題であるが,そのすべてが選択式の問題 である. センター試験に取り組んでみて,計算機を使って解き やすい問題とそうでない問題がはっきりしてきた.抜群 の単純記憶と探索による力技が使えるものは解きやすく 安定して高得点ができるのだが,そもそも何を記憶して おけばよいのかわからない問題や問題を解くための背景 知識の収集方法がわからない問題は,試行錯誤してなか なか得点が高くならない. 例えば大問 1 の発音・アクセント問題は発音・アクセ ントについての辞書を整備すればほぼ解決する.未知語 句推定問題もそれが 1 語の問題であれば大規模な辞書を 用意すれば,かなりの確率で解くことができる.また, 与えられた単語を並べ替えて 1 文を完成させる語句整序 問題は大規模なコーパス(言語データ)から単語の並び の確率を算出することで正解を高い精度で得ることが可 能になってきている. それに対し,大規模辞書や大規模コーパスで解決しな い,あるいはそのようなデータが存在しない問題が低得 点のまま,解決が困難になっている.話題のディープラー ニングで解けるのでは,という話が内外から聞かれたし, 実際にたくさんの試みがチーム内でなされた.これまで ほかの SVM などの機械学習手法でうまくいっている問 題ではある程度使えるが,これまでうまく解けていない 問題に対して劇的に良くなったということはなかったし, むしろよりブラックボックス化されて制御が難しい,と いうことも多く体験した.ただし,word2vec は別で, word2vecによる単語の意味の分散表現は非常に役に立っ た. 解くのが難しい長文読解問題であるが,その中でも大 問 6 の A で出題される内容説明問題は word2vec を使え ばある程度解けそうである.実際,過去問題や模擬試験 を解かせたとき 6A の問題は抜群にできる問題セットも あった.しかし逆に全く得点できない問題セットもあり, 成績は安定しない.高得点できる場合は,本文中のある 文に対し,文を構成する単語あるいはその類義語が多く 現れる選択肢の文を選択すれば正解できる問題であるこ とが多い.つまり文レベルでの言い換えが認識できれば 解ける問題は現在の技術でもある程度解けるといえる. 問題は類似,言い換えになっていない問題である. 例えば,2016 年のセンター試験では大問 6A で内容 説明問題の小問が 5 問出題された.この問題を我々の word2vecを利用したシステムに解かせると 2 問正解,3 問不正解となる.不正解の問題の一つである問 4 を見る と,まさに言い換えでは解けない問題になっている.こ の大問 6A の本文は,オペラが現在直面している問題に 関する説明文であり,小問 4 はこの文章の第 5 段落で著 者が主張している内容と最も合致する選択肢を解答する 問題である.四つの選択肢は,

1)Audiences know best how opera should be performed.

2)Microphones should be used to make opera more enjoyable.

3)Opera singers’ voices should be valued more than their looks.

4)Popular culture has had a positive influence on opera.

であり,本文第 5 段落中の Emphasizing physical appearance over singing ability may cause audiences to miss out on the human voice at its best.(歌唱力よりも体の外見を強 調することは人間の最高の声を聴衆が聞き逃すことにな るかもしれない.)という文から,選択肢の 3)(オペラ 歌手の声はオペラ歌手の外見より価値がある.)が正解で あることを導く必要がある. 我々のシステムは選択肢 4)を選び不正解となった. 選択肢それぞれについて第 5 段落中に出現した単語の割 合を調べると,1)62.5%,2)44.4%,3)40.4%,4) 66.6%であり,単純な単語の重なりで見た場合でも正解 の選択肢 3)が最も重なりが小さく,単純な方法では正 解にたどり着けないことがわかる.言い換え,含意関係 ですらなく,人間の常識的な価値観に基づく原因と結果 のようなものが実装されていないと解くのは無理そうで ある.これは明らかに「類似」のものを探す従来の方法 とは全く異なるデータとアプローチが必要であるが,筆 者はまだ良い方法が思いつけていない.2017 年はこのよ うな問題の解決に一歩でも近づくように知恵を絞りたい と考えている.

「類似」で解けない問題を考える

平  博順

大阪工業大学

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著者が編集委員となったのは 2006 年であり,現在は シニア編集委員となっているが 11 年目ということにな る.小学 1 年生が大学受験を考え出す年頃になるまで編 集委員を続けてきたと思うと,感慨深いものがある. 新年の抱負も,2007 年 1 月号で初めて企画された際に 執筆させていただいたのを皮切りに,2009,2011,2013 と合計 4 回執筆の機会をもらい,今回で 5 回目の執筆に なる.過去に自分が書いた 4 回の抱負を改めて読み返し てみたところ,研究テーマや関心事,社会における AI の立ち位置などの変遷を感じられ,個人的に大変興味深 いものであった.ということで,第三次 AI ブームとい われる今,過去の抱負を振り返りつつ,これから進むべ き方向性について改めて考える機会としたい. 2007年の抱負では,AI =ヒューマノイドロボットと 思っている高校生の話を取り上げている.二足歩行をす るロボットが「未来」に対する期待感を一般の人に与え ているとし,AI も実用的なだけでなく未来への夢を与え る研究分野であってほしいと書いている.また,自身の 研究に関しては,パートナロボットについて言及し,物 理的なサポートと,情報提供によるサポートの適度なバ ランスを考え,実環境と Web を融合して扱える能力の必 要性を語っている. 2009年の抱負では,情報検索の話を取り上げている. 「検索」という作業が一般的になったのは Web が普及し てからの十数年に過ぎないが,それにより検索スキルが 専門的なものからリテラシーになってしまったとしてい る.これは,漁師が沼で魚を捕っていたのが,素人が大 海で釣りをするような時代に変わってしまったようなも のであり,この状況を解決するためには,「灯台下暗し」 の解消,あるいは「魚を得て竿を忘る」を目指す二つの 方向性があるとしている.前者は,情報可視化や要約な どの技術を活用し,検索へと駆り立てる情報提示が重要 であり,後者は,検索を意識させない知的サポートが情 報検索の将来像の一つであるとしている. 2011年には,通勤途中で歩きながら考える時間のこと を取り上げている.歩いている最中は,メモも,もちろ ん検索もできない(歩きスマホは危険)ので,すでに頭 の中にある限られた情報のみを頼りに,それを繰り返し 吟味しながら考える.外在化できないためシンプルに思 考せざるを得ないが,それが結果として情報の深い理解 やひらめきをもたらすことが多い,としている.このエ ピソードから,著者の研究分野である情報可視化も,「わ かりやすく提示する技術」であるだけでなく,「データ・ 情報の深い理解につながる技術」にならなければならな いとし,人が賢くなることが著者にとっての AI のゴー ルであると結んでいる. そして,4 年前の 2013 年の抱負では,著者が過去に経 験した,AI に対する一般の人のリアクションを取り上げ ている.一つは 2007 年でも取り上げた高校生の話だが, AI研究者をマッドサイエンティストのような目で見た空 港スタッフ,AI 冬の時代直後の企業での話などを取り上 げ,社会における AI の受け取られ方が変遷してきてい ることを感じている.特に,AI =エキスパートシステム というイメージが強かった 1990 年代の AI 冬の時代から みごと脱却し,Web や機械学習といった新しいイメージ のもとに復活を遂げた AI コミュニティの魅力について 論じている.著者なりの分析では,技術や理論ではなく コンセプト・問題意識の継承がコミュニティとしてでき ていることが,時代・環境・社会の変化に応じて知能の 定義やアプローチを柔軟に見直しながら進むことができ る大きな理由であるとしている. 過去 4 年分の抱負を踏まえ,自身の現在の研究を考え てみると,情報提供による支援という点では,価値観を 考慮した情報推薦のアプローチを提案し,個人の満足度 を満たしつつ,コミュニティ全体の目標達成を実現する ための技術へ拡大すべく研究を進めている.「検索に駆り 立てる情報提示」や「データ・情報の深い理解につなが る技術」に関しては,検索エンジンのような感覚で動向 情報(時系列データ)にアクセス可能なコンテクスト検 索エンジンの開発を進めている.それぞれ,当時の研究 内容とは変わってきているが,問題意識は現在も継続し て研究を進めることができている. AIコミュニティの状況に関しては,2007 ~ 13 年の 間で AI が復興しつつあることが読み取れる.2007 年時 点では未来への夢を与える研究分野であってほしいと書 いているが,現在の AI ブームでは,曖昧な夢ではなく, 現実に夢を叶える能力をもったものとして AI が認識さ れるようになってきているように感じる.AI コミュニ ティの魅力は特定の技術・理論に固執しない点であり, 現在の Deep Learning に牽引されたブームの次の展開を 生み出す力が,AI コミュニティにはあると信じている. 著者は今年の人工知能学会全国大会のプログラム委員長 を仰せつかっており,その成功が今年の大きな目標だが, 次のブームを牽引するような新たな AI が生まれる場に したいと考えている.

11 年目の抱負

高間 康史

首都大学東京システムデザイン学部

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昨年は無事に国際会議 HAI 2016 をシンガポールで開 くことができた.札幌,つくば,大邸(韓国)と来て 4 度目の国際会議の開催となる.予想外だったのは,今ま でに比べて参加者がどっと増えたことである(150 人以 上).前年の 1.5 倍の人数増加に伴い,急遽,当初の会場 を広げることとなった.開催場所が魅力的だったのも大 きな理由だと思うが,この分野に対する注目度の高まり を感じている. ヒューマンエージェントインタラクション(HAI)は, 人とエージェントとのインタラクションを扱う研究分野 であり,人工知能・認知科学・VR・ロボティクス・HCI など,さまざまな研究分野の交点ともなっている.そし て HAI では,エージェントの外見・機能のデザインだけ でなく,人と人,人とエージェントとの関係性のデザイ ンに踏み込んだ議論を行う性質がある.例えば豊橋技術 科学大学岡田美智男研の Sociable シリーズのアプローチ (機能のないエージェントを設置して人間の関与を引き出 す)や,筑波大学田中文英研の Learning by Doing(エー ジェントに教えさせることで学ばせる)は,人とエージェ ントとの関係性を設計して,従来の対話型のエージェン ト設計では得られないような効用を得ている例である. プロパーな人工知能研究者(正確に該当する方がいる かはともかく)にとって,HAI は周辺技術ではないか, という問いかけを受けることがある.「人工知能技術はあ くまでエージェントの機能のデザインであり,こうした 人間とエージェントとの間を設計する技術は,人工知能 の周辺技術に過ぎないのではないか」という指摘だが, 筆者はそう考えていない.知能はそれが振る舞う環境な しに決定できない,というのが,Brooks から始まる身体 性を基調にした人工知能の軸である.この原則を人間社 会に当てはめ「人間社会で振る舞う知能は,人間社会と いう環境を考慮する必要がある」と考えるのが HAI 研究 の視点である.そして,人間社会で振る舞うエージェン トは必ずしも人間を模したものではなく,人間社会にとっ て相補的なものとして設計されるだろう.「ユーザと同じ エージェント」ではなく「ユーザから見て心地良いエー ジェント」をつくらないといけない,ということである. 逆にいえば,「ユーザと同じようなエージェント」,人間 と同じような知能を用意するためには,人間と同じよう な知能を必要とするような課題を見つけなければならな い.そして,これが筆者のやるべき課題であると昨今で は思っており,本年もこの方向に沿って研究を進めたい. 本年に挑戦したい焦点の一つは,人間の競争的な知能 である.現在主流の統計的アプローチは多量のデータを 必要とするが,その前提としてデータの信頼性が確保さ れる状況が重要である.ユーザが協力的でない場合,そ こには原理的に偽装の可能性が発生する.例えば米国で 接戦の末,トランプ大統領が選ばれた.ビッグデータが 外した,という議論もあるが(詳細な予測を見ると,だ いぶ当てているようにも思われるが),その理由として「投 票先を公言するのが恥ずかしい状況になってしまったか ら,有権者から正確な投票情報が取れず,予測ができな かったのではないか」などと検討されているのは興味深 い例だと思う. こうした社会における競争的課題は,データマイニン グやセキュリティ分野ですでに研究対象となっている領 域だと思うが,相手の知能に対応する知能をどうつくり 出すか,そして,相手が隠しているものを計測すること が果たして妥当なのか,というところまで含めると,機 械学習(特に敵対的学習),HAI(特に説得工学の側面), ゲーム理論(特にメカニズムデザイン),ユビキタスと IoT技術,果ては ELSI(倫理・法・社会問題)までをカ バーする広い領域が浮かび上がってくるように思われる. 現在筆者が参加している人狼知能プロジェクトでは, こうした相手を裏切る知能,相手に信頼してもらう知能 を扱っているが,統計的アプローチの一歩先の課題と技 術が発見できるテーマではないか,と思う.また,3 年前, 2014年の人工知能学会誌表紙問題を機会に発足した AIR (AI の存在する社会を考えるワークショップ)は,STS 研究者の江間有沙氏を中心にこうした接点を研究テーマ としてきた.現在 3 年目を迎え,今年度は JST RISTEX の「人と情報のエコシステム」の採択を得ることができ, 多様な価値への気付きを支援するシステムの設計に関わ る.人工知能と社会の接点の設計を考え,そこから課題 を発見していく,という課題を続けていきたい. 最後にご宣伝.早川書房より人工知能学会共著として 出版された「AI と人類は共存できるか? 人工知能 SF アンソロジー」中で,吉上 亮先生の「塋域の偽聖者」に 合わせ,「AI は人を救済できるか:ヒューマンエージェ ントインタラクション研究の視点から」という解説を書 いた.AI と宗教,という極めて触れるのが難しい分野に 対して,自分なりの見解を書いたつもりである.そのほ かの作品・解説も気合の入ったもので,よくある「小説 に対する研究者の解説」とは一味違う.もしお見掛けす る機会があれば,ご意見,ご批判をいただきたいと考え ている.

人工知能と社会の接続点の設計:HAI から社会設計まで

大澤 博隆

筑波大学システム情報系

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年明け企画として,編集委員の抱負として寄稿させて いただく機会をいただいた.せっかくの機会でもあるの で,今年だけでなく今後の筆者自身の抱負を述べさせて いただきたい. 筆者は早稲田大学機械工学科を卒業した.図面をひき, ジュラルミンをフライスや旋盤で削り,ベアリングをは め,センサドライバ,モータサーボなどの電気回路と格 闘しながら,ロボットシステムを開発した.卒業論文の ときからニューラルネットを利用していたものの,学部 にはプログラミングの講義はなく,基本的にいわゆる「知 能化」の部分はすべて自学自習であった. この機械工学科に助手まで在籍し,理化学研究所脳科 学総合研究センターを挟んで,京都大学情報学研究科に 赴任した. 当然ながらここで大きな文化の違いを実感することと なる.ロボットの分野はもちろん存在するが,それは金 属を削って開発するものではなく,さまざまにある情報 端末(人工知能技術)のデバイスの一つであった.これ までのロボットの世界での仲間達に出会う頻度は極端に 少なくなり(予想はしていたが)別世界にきたのだと実 感したのである. 1970年代,人工知能に代表される情報分野とロボティ クス分野の萌芽期,この二分野の間に大きな境はなかっ たといえる.しかし 1980 年代以降それぞれの分野の専 門化が進み,双領域の交流はけっして活発とはいえない 状況となっていると思える. 象徴的なのは 1990 年終わりから 2000 年代初期にわた るロボットの第三次ブームである.主に強力なアクチュ エータとバッテリー開発を背景とし,二足歩行技術が大 きく発展した.ASIMO や QRIO など,階段を登り,踊る, 極めてインパクトの高いパフォーマンスを見せるヒュー マノイドロボットの出現で,近未来におけるロボット技 術の幅広い応用が期待された.しかし現実には,人工知 能分野,つまり環境の認識,音声対話などの情報処理技 術にブレークスルーが起きたわけではなく,我々の身近 な生活環境で二足歩行ロボットが活用される機会は現在 に至るまでほとんどない. 現在の人工知能分野とロボット分野の乖離の理由は何 か? もちろん扱う技術の違いなど,さまざまな理由が 考え得るが,その一つに前提とする世界観の違いがある と思われる. ロボット工学の基盤は機械工学である.そこでは制御 対象を物理モデル,つまり微分方程式として記述する. 通常対象は非常に複雑で,多自由度の非線形微分方程式 を解かなければならない.そこで例えば微小時間を考慮 するなど,一定の拘束条件を仮定することで非線形問題 を線形近似することによって,対象をリアルタイムで予 測・制御する手法を設計する. 対して人工知能は多くの場合情報工学を基盤とし,対 象は確率統計モデル,つまり確率方程式として記述され る.対象モデルは上の微分方程式と同様に非常に複雑に なるが,データを多く集め,平均や分散をとって対象を ガウス,ガンマなどの確率分布で表現し予測もしくは制 御する.この場合,リアルタイム性は極端には追求され ない.つまり,前提となる要求仕様やモデルがそもそも 異なっている. 現在,人工知能の第三次ブーム(2010 年代)とともに, IOT,ドローンなどロボット分野の新しい発展が期待さ れている.興味深いことに,このブームで中心となって いる技術,ディープラーニング(Deep Learning,深層 学習)の技術は,上記のような設計者が仮定するモデル を必要としない.その意味でこの二つの流れを統合する 技術として期待できるのではないだろうか.この統合過 程の中で,インタフェース端末としてのロボットや,ラ イブラリとしての人工知能技術,ということではなく,「身 体(ロボット)を規範とした知能」,というコンセプトの 重要性が改めて顕在化すると考える. 例えば,コップの画像を“認識”するとき,そのとき の認識結果はコップに固定されるものではない.飲み物, 割れ物,洗い物,飾り,など多様に変化し得る.この変 化は,コップという実体からのみ生じるのではなく,そ のコップを見る主体の行為の可能性から生み出されるも のである.ディープラーニングは強力な手法ではあるが, それだけで世界と記号(ラベル)が結び付くことはない. 世界の認識と認識主体の関わり,という認識観がロボッ トという枠組みによって与えられると考えている. 2016年度の日本ロボット学会学術講演会で,記号創発 ロボティクス,ロボット聴覚に関する本学会との共催オー ガナイズドセッションが企画され,終日立ち見が出るほ どの盛況を博した.参加者の多くは非常に若い世代であっ たが,その議論は大変興味深いものであった.今後は逆に, 本学会全国大会におけるロボット学会との共催オーガナ イズドセッション,さらにほかの分野での合同研究会な ど両学会の交流を深める活動を支援できればと考えてい る.

人工知能とロボティクス領域の交流と融合に向けて

尾形 哲也

早稲田大学

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編集委員による今年の抱負ということで,本来ならば 自身の専門分野の展望などを示すべきなのだと認識しな がらも,現状,力量不足でなかなかそれも難しいので, 今回はきわめて個人的な抱負を書かせていただこうと思 う. 筆者は大学で,いわゆるデータ分析・データマイニン グ分野を専門としている(と思っている).このところ, 研究室の学生さんと一緒に,ある分野におけるエージェ ントの行動を論理プログラムの枠組みでモデル化し,分 析しようと試みている.ただ,論理プログラムをもち出 すのも久しぶりなこともあり,難航しているというのが 実状だ. そんな中,昨年,2016 年の帰納論理プログラミング (Inductive Logic Programming:ILP)に関する国際会 議に参加した.ILP になじみのない方も少なくないと思 うが,大雑把にいえば,論理プログラムを表現言語とし, 背景知識(関連知識)に基づく事例の一般化によるルー ル学習(帰納推論)を行う枠組みである.ILP の国際会 議はヨーロッパを中心とした小さな国際会議であるが, 20年ほど前に筆者が学生だった頃に初めて出席した国 際会議でもあり,また修士課程・博士課程と学生時代は ILPを対象とした研究を行っていたこともあって,思い 出のある会議の一つである.今回は,かれこれ 10 数年 ぶりの参加だったのだが,以前と変わらず使われ続けて いる技術やツールが少なくないことに加え,技術的な進 展も多く見られ,非常に良い刺激となった.例えば,筆 者が学生時代には萌芽的な技術・考え方であった(帰納 推論における)イベント計算(Event Calculus; イベント とその影響に関する表現や推論を扱う論理言語)の利用 や確率との融合などは,技術としてかなり定着してきて いる感があり,また表現言語もシンプルな一階ホーン節 から,高階論理,解集合プログラミング,記述論理,ナ レッジグラフへと非常に多様化している.この分野にお ける継続的な発展に驚かされる一方で,自分自身の知識 や理解がかなり陳腐化してきていることに気付かされる 結果となった.かなり置いていかれている感は否めない が,今年は研究を始めた頃の初心に戻り,もう 1 回この 辺りのことを基礎からキャッチアップしたいと画策して いる. さてもう一つ,置いていかれているといえば,別の学 生さんのリクエストもあり,昨年ようやく深層学習に関 する勉強を開始した.ご存じのとおり非常に研究が盛ん な分野で次々新しい技術が発表されており,技術的な面 で追いつくのは非常に難しく,また時間もかかるだろう. まずは対象を絞ったうえで,利用者の立場から貢献でき ればと考えている. 深層学習は画像処理分野を発端に研究が進展している が,強化学習,自然言語処理,情報推薦へと日々その適 用範囲を拡大している.また最近では,構造データ(系 列データやグラフデータ)を対象としたり,関係学習や ナレッジグラフの構築を行ったりなど,これまでの記号 処理分野に近いものまで対象とし始めている.特に関係 学習やナレッジグラフの構築は,目的などが帰納論理プ ログラミングとよく似ている.今年はこの点に着目し, 両者の併用の可能性を探っていければと考えている. 深層学習の勉強を始めると,当たり前なのだが,記号 化された世界を対象とした論理などとはさまざまな思想 が大きく異なることがよくわかる.深層学習はニューラ ルネットワークであり,ある意味ブラックボックスであ る.もちろん,入力に対して適切な出力が得られれば問 題ないのかもしれないが,何が出力されているのか,また, なぜそういう結果になるのかがわからないので使いにく い場面もあるだろう.一方で論理に基づく記号処理はそ の根拠が明白である.加えて,豊かな表現能力,健全で 完全な推論,再利用可能な背景知識とそれによる漸増的 な学習など,論理における学習特有のさまざまな利点も 存在する.これらの利点や考え方の一部でも深層学習に もち込めれば,また逆に深層学習の技術を論理の学習の 世界にもち込めれば,また新たな応用が生まれるかもし れない.とはいえ,いきなり相手にするには難しいので, まずはデータ分析において,論理の学習と深層学習をど う使い分けるのか,微力ながら模索していこうと思う. 以上,極めて個人的な抱負を述べさせていただいた. これらが単なる感想にならないよう,自分への戒めとし て,継続的に研究の時間を確保することを心に留めてお きたいと思う.

論理プログラムの学習と深層学習と

尾崎 知伸

日本大学

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昨今の深層学習の急速な普及は凄まじい.本学会の研 究会や全国大会の参加者が増え,特に深層学習関係は立 ち見も出る状況で,個人会員数も過去最高の 1992 年を 抜いたらしい.編集委員をしている身分としては,これ は大変喜ばしい状況だと思っている.ただし,「深層学習 をやらねば,人工知能研究者ではない」と語る人が出て きていて,そういう観点だと筆者は人工知能研究者では ないなあと思ってしまった.では,「人工知能とは何か?」 を考えてみよう!……とも思ったが,すでにそういう深 淵な議論は,筆者よりも偉い研究者達が本誌で議論を戦 わせているので,そちらにお任せして,自分の研究歴を 振り返ってみることにしようと思う. 筆者の人工知能の研究は,大学院時代のランドサット 衛星映像から石油が埋蔵されている地域を発見するエキ スパートシステムの開発から始まった.当時の ICOT の 活躍を横目に見ながら,大学に泊まり込んで論理型オブ ジェクト指向言語から Window システムまで自前で実 装していたことを思い出す.企業の研究所に就職後は, SICSTUS Prologや KCL を使っていたが,TAO/ELIS を開発しているグループの隣で研究していたので自分 用の VLSI ELIS を所有し,ICOT から戻ってきた人に MELCOM PSI IIを使わせてもらったりしていた. 現在の研究を始めたきっかけは,広域分散インフラス トラクチャ Ingrid の研究開発に関わったことである.最 初は,マルチリンガル検索用の UI などを C 言語や Java で実装しており,その後東京大学で開発されたサーチエ ンジン ODIN にも開発者の入社とともに関わるように なった.この時点では,「自分は人工知能研究者である」 という意識は特になくなっていた. ただ,初期のサーチエンジンの性能はけっして良くはな く,「サーチエンジンは思ったほどは役に立たない」がユー ザの共通認識だった.我々も実世界のデータに対する当 時の情報処理技術の無力さを感じていたが,同時に Web という人間の生活行動を反映した情報空間を扱うことに 大きな可能性を感じ始めていて,HTML の文書構造から, それを結び付ける Web のハイパーリンクの構造,そして それらの情報を利用するユーザの履歴の活用という方向 に研究の活路を見いだしていった.同じことを始めたの が,当時 Stanford 大学で運用を始めた Google だった. しかし,当時はこのような研究を提案しても,社内で は理解してくれる人が少なかった.研究所長には「10 年 前からダメなことが決まっている研究」と,商用サーチ エンジンを開発していた研究部門とグループ企業からは, そういう役に立たない研究に関わっている暇はないとい われてしまったが,我々の研究を高く評価してくれた一 部の上司や大学の先生によって支えられていたといえる. その後にどう発展したかは,読者の皆さんもよくご存 じだろう.そして,このような研究分野も人工知能研究 として位置付けられ,筆者も本学会に関わるようになっ たのである. つまり,「人工知能」の範囲は時代とともに変わるもの で,実際使用するプログラミング言語やツール,前提と するデータやアルゴリズム,パラダイムは大きく変わっ た.さらに,いったんは廃れた技術にブレークスルーが 起こり,深層学習のように蘇ってくることも多い.だか ら,人工知能の範囲を厳密に決めることは難しいし,そ れは研究者としての可能性や幅を狭めることになる危険 もあるだろう.結局,どのような研究対象であれ,現状 に満足せずに,徹底的に合理的な解決を図ろうとしたら, 人工知能研究者だといわれるようになるのかもしれない. さらに企業の研究者は,「真に革新的なアイディアは なかなか理解されない」ということを覚えておくべきか もしれない.企業に勤めていたときには,「日経**」の 掲載の有無で研究の価値を判断しているとささやかれる くらい不勉強な管理職も存在していた.ただ,自戒を込 めて言えば,自分の研究を周囲に認めさせることまで含 めて研究である.特に本学会には,自分で新しい研究分 野を立ち上げているような素晴らしい研究者が多いので, それらの人の活動を観察すれば,自分にとって役立つ知 識をいろいろ得ることができるのではないかと思う. 最後に,筆者が企業の研究員だった部門は,人工知能 の研究だけでなく,インターネットや Web の誕生から普 及まで真っただ中にいて,本当にほかでは得難い体験を させてもらった.唯一非常に後悔している点は,あまり 論文を書かなかったことである.というのは,周囲に日 本でも名だたるハッカーが多く,彼らは自分達の成果を コード化しても,論文はあまり書かない影響を受けてい たからである.しかし,そういう興奮するような幸せな 状態のときにも,あえて意識的に論文化しておかないと, 自分がやったこととして世の中に残らない.実際に,そ れはすでに我々が実現していたと主張できなくて,残念 だったことが何度かあった. 読者の皆さん,今年は(広義の)人工知能研究者にな りましょう! そして,多くの論文を書きましょう ! …… という自分自身に対する宣言から,今年を始めるつもり である.

人工知能研究者になろう!

風間 一洋

和歌山大学

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2016年,世の中は人工知能ブームの真っただ中にあり ました.一般向けメディアにおいても人工知能という言 葉が連呼されるようになり,人工知能をどのようにビジ ネスに利活用するかが活発に議論されていました.こう した現状を踏まえて,筆者の専門分野である自然言語処 理における研究状況を振り返りつつ,2017 年,そしてさ らに将来の研究について考えるところを述べさせていた だきたいと思います. 昨今の人工知能を語るうえで外せないのは,もちろん 深層学習でしょう.自然言語処理分野においては,オー トエンコーダ,再帰的ニューラルネットワーク,単語の 意味の分散表現などを中心に深層学習の研究が進められ てきました.そして,汎用的な系列データ変換器であ る seq2seq モデルの登場により,最近では機械翻訳の 分野において華々しい成果が立て続けに報告されていま す.2016 年ベルリンで開催された ACL(自然言語処理 における最も権威のある国際会議)においても,Neural Machine Translationというチュートリアルが開催され ました.これは筆者も聴講しましたが,広い講堂に入り きらないほどの聴衆が集まる盛況ぶりでした. こうした研究動向に対する産業界の反応は極めて迅速 です.2016 年 9 月には,Google 社の機械翻訳サービスが, ニューラルネットをベースとしたものに変更されること が blog 上*1でアナウンスされました.当該 blog 記事に よると,驚くべきことに,多くの言語対において人間に 匹敵するクオリティの翻訳を行えることが報告されてい ます(図 1).彼らがニューラル機械翻訳に関する最初の 研究論文を発表したのが 2014 年なので,論文の準備な どに要した期間を考慮しても,せいぜい 3 年ほどで実用 化に至ったものと推測できます.こうした最近の技術革 新の速度には目を見張るものがあります. 一方,近年注目を集めているもう一つの技術として, Apple社の Siri や Amazon 社の Echo などに代表される ような,音声対話システムをあげることができます.また, 手前味噌ではありますが,弊社でも音声アシスト*2とい う同様のスマートフォンアプリを開発しております.こ れらの音声対話システムは,この数年の間に飛躍的に精 度が向上した音声認識技術,および IoT 技術の進展を追 い風として,ユーザインタフェースの形を大きく変化さ せようとしています.例えば,携帯型端末とのインタラ クティブな対話を通じてさまざまな情報を(主にインター ネットから)取得することや,身の回りにある電化製品 に話しかけることによってそれらを操作することなどは, すでに実現されつつあるといっても過言ではありません. さて,このような状況を改めて振り返って考えてみま すと,私達は,今まさに“先人達が昔思い描いていた未 来の世界”に生きているのだと感じます.自然言語処理 における永遠の課題と思われていた機械翻訳は,今や夢 の技術ではなく,誰もが利用できる単なる Web サービス の一つに過ぎなくなっています.また,人間と対話を行 いながら生活をサポートしてくれる知的なロボットも, 携帯型端末などに内蔵された音声対話システムへと形を 変え,近い将来には社会に普及する兆しが見えてきてい ます.形こそいわゆる人型ロボットとは違っていますが, 個人的にはそのような違いは些細なことであると思いま す.少なくとも工学的な目標は達成されつつあるのでは ないでしょうか. このように研究分野が成功して盛り上がること自体は 非常に喜ばしいことです.しかし同時に,我々はグラン ドチャレンジを失いつつあるのではないかとも思います. 中堅以上の自然言語処理研究者の多くは,自分達が生き ている間に機械翻訳などのグランドチャレンジが達成さ れてしまうなどとは想像すらしていなかったでしょう. 後数年もすれば,生まれたときから人工知能技術に囲ま れて育った AI ネイティブな世代が生まれてきます.そ のときになっても,機械翻訳や音声対話は果たして未来 技術のままでいられるのでしょうか.現在の人工知能ブー ムを一過性のものとするのではなく,継続したものとす るためには,次世代のグランドチャレンジを探究してい くことが,ますます重要になってくるのだと思います. 2017年は,こうした長期的な視野に立ち,腰を据えた研 究ができるような年にしたいと思っています.

これからの世代に向けた人工知能の研究

鍜治 伸裕

ヤフー株式会社 図 1 Google 社の機械翻訳システムの精度 (脚注* 1 の blog 記事から引用)   *1 http://www.googblogs.com/a-neural-network-for-machine-translation-at-production-scale *2 http://v-assist.yahoo.co.jp

図 1  昨年 4月に新設された Panasonic Wonder LAB Osakaの  入口にて

参照

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