児童虐待に関する一考察:
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The Case ofJane ofLantern Hill鬼塚 雅子
ONIZUKA Masako
Abstract:Recently the topicsofschoolbullying and domesticchild abuse have received a greatdealofcoverage in TV programsand newspapers.These problems,however,are not new by any means.Storiesofthe ill-treatmentofstepchildren,bullying and murderabound in novelsand folktales.Jane ofLantern Hill(1937)by L.M.Montgomery featuresinstancesof verbalchild abuse,orpsychologicalbullying,between a motherand daughter,and between a grandmotherand grandchild.The girlheroine istreated abusively by hergrandmother,aunt, and cousin.In thispaper,Iexplore why she ispsychologically abused by them,and how she overcomes her suffering. I also explore why her parents separated and why her grandmotherhatesher.
キーワード:児童虐待,バーバル・アビュース,母と娘 1.はじめに ここ数年、児童虐待や苛めに関する報道を見たり聞いたりしない日はないほど、その問題は大 きく広がり続け、人々の関心も高まっている。しかし、子ども間の苛めも、大人の子どもに対す る虐待も最近始まったものではない。幼い子どもを労働者や奴隷として扱う歴史はどこの国でも 古い。昔話の中にも継母の継子苛めや殺人があることはよく知られている。子どもを主人公にし
た小説の中でも100年以上前から、様々な形で虐待が描かれている。まず頭に浮かぶのは Charlotte Brontë(1816-55)のJane Eyre(1847)であろう。孤児のジェーンは引き取られた親 族の家でも、その後移った全寮制の学校でも、身体的且つ精神的虐待を受け続ける。ジェーン・ エアの闘いは身内も含めて周囲の人間や階級社会とである。世間の孤児への風当たりが強いこと はCharlesDickens(1812-70)のOliverTwist(1838)やFrancesHodgson Burnett(1849-1924) のA Little Princess(1905)などでも描かれている。
本稿では児童文学の分野から、L.M.Montgomery(1874-1942)の晩年の作品であるJane of Lantern Hill(1937)をとりあげ、子どもと血縁者との確執及び虐待について考察する。100年 近く前に描かれた作品だが、現代にも通じる家族間の問題、とくに母娘の問題が、主人公の少女 の眼を通して描かれている。母娘の確執、子どもや女性から見た身内のトラブル、悩み、苦しみ がはっきり読み取れる。精神科医の斎藤環氏が『母は娘の人生を支配する』の中で「母娘関係の 問題は、文化の垣根を越えて普遍的に存在する」1と指摘しているように、母娘間の問題はいつ の時代でもどこの国でも解決は難しい。Jane ofLantern Hillでは、主人公の少女と母、母と祖 母という2組の母娘間の問題が祖母と孫という関係と絡み合って描かれている。中でも見過ごせ ないのは言葉や態度による虐待である。ささいな言葉の暴力や冷たい態度も度重なると心に傷を 残し、人生をも狂わせる。しかし、形ある証拠がないため、他人に訴えるのは難しい。まして、 この作品が発表された頃は、カウンセリングや専門のクリニックはほとんどなかったであろうか ら、泣き寝入りするか、自分で解決するしかないのである。小説だから甘すぎる、そんな簡単に 物事がうまくいくはずはないと反論もあるだろうが、なぜ主人公の少女が虐待にあわなければな らなかったのか、祖母と孫娘及び母と娘の間にある複雑な関係はなぜ生じたのか、そしてその苦 しい現状を主人公がどのように乗り越えていったのかを考察する。 2.精神的虐待 主人公のジェーン(Jane Victoria Stuart)は経済的には豊かな暮らしをしているが、同居す る祖母から日々冷たい態度を取られ、言葉の暴力を受けている。それでも家に居続けるのはまだ 11歳で自活はできず、愛する母がいるからである。しかし、母は気弱すぎるため、自分の母親 (祖母)がジェーンに冷たく厳しくあたっても、かばうことも逆らうこともできずにいる。子ど もからみればなんとも頼りない存在だが、ジェーンはそのことに不満を抱かずにいる。おそらく
物心がついた頃から、そのような暮らしや家族関係が続いているからだろう。ジェーンが幸せで ないことは確かである。その気持ちはかれらが暮らす居住区(Gay Street)にも影響している。 なぜならジェーンはいつも”“Gay Street,...,did notlive up to itsname.Itwas,...,the most melancholy streetin Toronto ...”2と思っていたからだ。かつては高級住宅地であったため、レ
ンガ造りの屋敷が立ち並んでいるが、古い家ばかりで、樹木も老木である。トロントにある ジェーンの住む家(60番地)も大きく、ゆったりとした敷地に建っている。だが、立派な城のよ うな邸宅でも、古くて時代遅れで、住人が少なく(祖母と母と伯母とジェーン、それに使用人が 2人住んでいる)、笑い声の聞こえない家はまるで牢獄のようである。夜、使用人が門を閉ざし 錠をおろすと、ジェーンは “ a very nasty feeling thatshe wasa prisonerbeing locked in” (p.1)とあるように、閉じ込められた囚人のような厭な気持ちになるのだった。ジェーンには なじめない家だが、祖母にとっては結婚当時から45年間暮らしてきた満足しきっている家であり、 余生も過ごすつもりであった。他人から見れば死んでいるような家(“Itlooksasifithad been dead forages”p.2)でも、祖母であるロバート・ケネディ夫人(MrsRobertKennedy)の眼に 映る住宅は以前同様活気に満ちたトロントでも指折りの邸宅(“one ofthe finest‘mansions’in Toronto”p.2)のままなのだろう。かつては高級住宅地で、大勢の客が押し寄せた屋敷への思い 出(過去の栄光)に今も浸りながら、周囲への配慮や、変化の流れに同調せず、自分を中心に存 在している家の姿はケネディ夫人そのものである。今では古びた家で、ペンキもはげかかってい るし、隣家は下宿屋(“a boarding house”p.3)に落ちぶれてしまっていても、高級住宅街だっ た(祖母には今でもそうなのだろう)というプライドが鎧となって変わりゆく世間に対して超然 としているようだ。祖母であるケネディ夫人と住んでいる屋敷が一体化しているといえよう。 そのような家でもジェーンは嫌いになりたくなかった。ジェーンは家を好きになり、友だちに なり、この家のためにいろいろしたかった。しかし、好きになれなかった。家は友好的になろう とはせず、何もしてもらいたいことはなさそうだった。
And she did notwantto loathe it.She wanted to love it...to be friendswith it ...to do thingsforit.Butshe could notlove it...itwouldn’tbe friendly ...and there wasnothing itwanted done.(p.9.)
上記の引用のitすなわち「家」は祖母に置き換えることが可能だ。ジェーンの方は歩み寄ろうと しているだが、祖母にはその気持ちは全くない。何か自分にできることをして祖母を喜ばせよう
としたいが、受け付けてもらえない。家を好きになろうとしても好きになれないジェーンの気持 ちから、祖母と孫娘ジェーンの間の溝が察せられる。家は何も言わないが、祖母はジェーンの気 持ちを読み取り、嫌味を言う。
Those who did notlike it(i.e.,the house in 60 Gay Street)need notstay there. This,with a satirically amused glance atJane,who had neversaid she didn’tlike Gay Stree grandmother,asJane had long ago discovered,had an uncanny knack ofreading yourmind.(p.2.)
上記のような嫌味や皮肉は祖母の得意とするところであり、11歳の孫娘に対して何度も容赦なく 浴びせ続ける。「死人のような白い顔に微笑を浮かべながら(“with the smile on her dead-white face thatJane hated”p.3)」、「その微笑よりもっと嫌いな絹のようになめらかな声で (“in the silky voice thatJane hated stillmore”p.3)」語る穏やかな口調だけに、相手の心に鋭 く入り込み、傷つける。相手が子どもであることなど全く意に介さない。祖母のジェーンへの嫌 がらせはいろいろあるが、毎日行う聖書を使っての苛めは大人げないし、残酷だ。
Butevery nightbefore Jane wentto bed she had to read a chapterin the Bible to grandmotherand AuntGertrude.There wasnothing in the whole twent y-fourhoursthatJane hated doing more than that.And she knew quite wellthat thatwasjustwhy grandmothermade herdo it(p.. 8.)
日頃から恐れを抱いている祖母と堅苦しく厳格なゲルトルード伯母(AuntGertrude)の2人の 前に立つと、緊張のあまりジェーンの身体はこわばり、堅くなる。間違えてはいけない、きちん とやらなくてはと思うほど人は失敗するものであり、本来ならできるはずのものでもできなく なってしまうものである。
They alwayswentinto the drawing-room forthe reading and Jane invariably shivered asshe entered it...
“Turn to the fourteenth chapterofExodus,”grandmotherwould say. The chaptervaried every night,ofcourse,butthe tone neverdid.Italwaysrattled Jane so that she generally made a muddle of finding the right place. And grandmother,with the hatefullittle smile which seemed to say,“So you can’t even do thisasitshould be done,”.... Jane woul d stumble through the chapter,mispronouncing wordsshe knew perfectly welljustbecause she wasso
nervous(p.. 8.) ジェーンは声の大小を注意され、おどおどする。もごもご読んでいると祖母は大きな声でとやん わり注意する。そこでジェーンが声を張り上げると、そんなに大声でなく読むように注意される。 するとジェーンの声はささやきのようになってしまう。幼少期からずっと抑えられてきたジェー ンには、目上の人間に逆らうことなど考えられないことだ。極度の緊張と祖母への恐れから、戸 惑ったり、間違えなくてもいいことを間違えてしまう。そのためジェーンはますます緊張してど うしたらよいのかわからないという一種のパニック状態に陥る。どぎまぎする孫の姿を祖母は意 地悪く楽しんで見ている。一種の満足感を抱く祖母はまさに虐待者である。毎日、それも聖書を 使っての苛めはかなり恐ろしい。聖書の朗読なので、嫌だといえば、自分に非があると責められ るので何も言えない。まさに最強で最悪の嫌がらせではないだろうか。“The beautiful prayer,haloed with allthe lovelinessofagelong worship,had become a sortofhorrorto Jane”(p.9)というのはキリスト教徒にとっては何と残酷なことだろうか。
祖母はやんわりと、冷静に、それでいて胸に突き刺さるような嫌味をさらりと言ってのける。 ジェーンが傷つくのを承知のうえで嫌味を言い続ける。祖母は「人前で相手をばかげた下らない 存在だという気持ちにさせるこつを得ていた(“Grandmotherhad such a knack ofmaking you feelridiculousand silly in company”p.10)」とあるので、もともとそのような性格で、孫以外 にも同様な態度をとっているのかもしれない。本来なら良いことも祖母の手にかかると価値のな いものになり下がる。例えば、ジェーンは音楽が好きだが、ピアノは好きではない。練習はして もうまくならない。そんなジェーンに祖母は“Such a pity you are notfonderofmusic,.... Butofcourse,how could you be?”(p.27)と皮肉を言う。また、ジェーンは料理に強い関心が あり、実践したくてたまらないのだが、当時の社会では、良家の子女は家事をしないこともあり、 祖母は孫は料理を覚えたいのではなく、台所をうろつくのが好きなのだ(“Idon’tthink Victoria wantsvery much to learn how to cook,”...“I.tisjustthatshe likesto hang about kitchensand placeslike that”p.10)と自分の身内たちに告げる。祖母の声にはジェーンが低級 な趣味を持っており、台所はまともな女性が踏み入れる場所ではないという軽蔑感がこもってい る。“Itwasnotso much whatgrandmothersaid ashow she said it.She made woundsand rankled and festered”(p.27)とあるように、子ども心がひどく傷ついたことがよくわかる。悪 意を含んだ言葉と口調と態度で、祖母は繰り返し繰り返しジェーンを傷つける。これは現代の心 理学・医学によれば、言葉による精神的児童虐待である。
“精神的虐待”は子どもに対して、「馬鹿だ」、「ぐずだ」などと繰り返し中傷す ること、脅すこと、ののしること、軽くあしらうことなど、差別、無視などで心理 的外傷を与え、こころを侵害する行為である。一般的には、子どもたちの不安、お びえ、うつ状態、凍りつくような無感動や無反応、強い攻撃性、習癖異常など、日 常生活に支障をきたす精神状態が現れているものをいう。子どもたちに対する言葉 を使っての虐待が中心となるため、バーバル・アビュース(言葉による脅かし、暴 言による子どもへの虐待)などといわれたりもする。3 ジェーンの場合は、上記の説明の半分が該当する。暴言虐待の被害者であるといってよいだろう。 その暴言による虐待とは以下のようなものである。
暴言による子どもの虐待は、バーバル・アビュース(verbalabuse,暴言虐待)と
呼ばれる。親からの暴言が子どもへ日常的に浴びせられる行為は、精神的虐待とし てアメリカでは高頻度で通報される・・・こうした体験をもつ子どもには過度の不 安感、泣き叫び、おびえ、睡眠障害、うつ、引きこもり、学校にうまく適応できな いなど、様々な問題がみられる。4 上記の説明通り、ジェーンの学校生活はうまくいっておらず、進級できるかどうかわからないほ どだ。この不安は昼も夜もつきまとった。毎月の通信簿があまりよくないことは自分でも知って いた。祖母はそのことをひどく怒り、母でさえ、もう少しよくできないのかと娘に頼むほどだっ た。ジェーン自身は精一杯のことをしているのだが、うまくいかないのだ。歴史と地理がつまら なくて退屈で、算数と綴り字の方が楽であり、実際、算数にかけては全く優秀だった。すべてが 平均以下ではないのだが、祖母の眼は悪い面しか見ない。したがって褒めることはせず、あくま でも皮肉な調子で「ビクトリア(ジェーンのミドルネーム)はすばらしい作文が書けるようです よ」と祖母は言うのだった。これは後にわかるのだが、父がライターなので、ジェーンの文才は その血を引いていることの証明であり、祖母にはうとましい材料なのだ。 祖母の息子、すなわちジェーンの伯父(母の異母兄)は悪意はないのだが、祖母と同様の仕打 ちをジェーンにする。日曜日の昼食には母と父親違いの兄と姉の夫妻、そして従姉妹が同席する。 その席で、深く考えずにウィリアム伯父(Uncle William)はカナダの首都はどこかとジェーン に質問する。不意な質問なうえ、皆が食べるのをやめて耳をそばだてたので、ジェーンは顔を赤 らめ、口ごもり、もじもじした(“She blushed ...stammered ...squirmed.”p.11.)。それは答 えがわからないのではなく、あまりに易しい質問を食事中に突然され、恥ずかしさと悔しさで死
にそうだったからだ(“She wasready to die ofshame and mortification.”p.11.)。伯父は冗談の つもりだったのかもしれないが、11歳の少女にする質問としては馬鹿にしているとしか言えない。 そのうえ、無知だからジェーンが答えられないと解釈し、姪のフィリス(ジェーンの従姉妹)に カナダの首都がどこかジェーンに教えてあげなさいという。ここまでいくと悪気はないではすま されない。むしろ、ケネディ夫人の息子だけあると思ってしまう。ジェーンの身体は麻痺し、 フォークを落とし、恥ずかしい思いを重ねる。その結果、食欲が失せるのだが、祖母はそれに対 しても、孫の食欲は大丈夫だと軽蔑的に皆に言う。ここで注目すべきは大人たちにひけを取らな いほど性格の悪い従姉妹フィリス(Phyllis)である。血は争えないというべきか、まさに祖母 ケネディ夫人のミニチュア版だ。それゆえ可愛く思うのか、祖母は「フィリスはきれいで、しと やかで、行儀がよく、利口だ(“She ispretty,lady-like,wellbehaved and clever...”p.12)」と ほめちぎる。だがジェーンだけはフィリスの本性を見抜いている。フィリスは祖母同様に、ひど く人を見下すのだ(“Phylliswasso condescending.”p.12.)。そして相手を虫けら(“worm” p.46)であるかのような気持ちにさせ、自分は怒りを出さずにただ人を馬鹿にするのだった (“Phyllisnevergotmad....She justwenton condescending.”p.46.)。
There were times Jane was afraid she did hate grandmother, which was dreadful,because grandmotherwasfeeding and clothing and educating her. Jane knew she oughtto love grandmother,butitseemed a very hard thing to do. (p.4.) これほどまで冷たい態度をとられ、嫌味や皮肉を言われ続けても、ジェーンは祖母を憎まない。 それどころか、上記にあるように、祖母に養ってもらい、着せてもらい、教育を受けさせても らっているのだから、自分が祖母を嫌っているのではないかと思いながらも、そのようなことを 考えるのは恐ろしいことだと思っている。だが、祖母を好きにならなくてはいけないとわかって いても、それが非常に難しいとも思っていた。これはジェーンに理性があるからだろうか。それ は以下の引用が説明している。 小さな子供にとって、親は生存のためのすべてであり、そういう意味では、いわ ば神のようなものである。親がいなければ、・・・ 外部の世界から身を守る方法も 知らず、住む場所も食べ物も手に入れることができず、絶え間ない恐怖とともに暮 らさねばならなくなる。だから子供は、親なしにひとりで生きのびることはできな いことを知っているのである。子供にとって親は必要なものをすべて与えてくれる
全能の存在なのだ。5 ジェーンの場合は上記の親が祖母に相当する。なぜなら、母は働いておらず(同居の伯母も仕事 をしていない)、おそらく祖母の財産で生活しているからである。そのことを誰に説明されなく てもジェーンはわかっている。そして今、親から虐待を受けながらも、親のもとに居続ける幼い 子どもたちもまた同様なのである。そのような子どもたちは「残酷な言葉で心を傷つけられたり、 体罰を加えられて痛い目にあわされた時、・・・『きっと自分がいけなかったのだろう』と思う以 外に自分を納得させる道がない」。6だからこそジェーンは至らないのは自分なのだ、祖母になん とか認めてもらいたいと日々考えている。そんなジェーンにチャンスがやってきた。ジェーンの 通う女子校では保護者だけを呼ぶ行事があり、生徒による短い劇、音楽、朗読が行われる。 ジェーンは劇に出たかったが、その希望はかなわなかった。しかし教師がジェーンに暗誦を勧め た。暗誦が得意なジェーンはこれがうまくいけば、祖母は自分の教育に使っているお金が全くの 無駄ではないことを見せられると期待した。なんともけなげである。しかし結果は思わしくな かった。ジェーンの暗誦は成功で、聴衆を魅了したが、舞台からジェーンが見た祖母は怒りに燃 えていたからである。褒めるどころか、祖母は“Who putyou up to that,Victoria?”(p.37)と ジェーンを問い詰め、今後は方言の詩ではなく、きちんとした英語の詩を暗唱するように言った。 ジェーンは祖母に喜んでもらえると思ってやったのに、自分のすることは何も気に入らないのだ わと言い返した。それに対して“And in future ifyou have to recite,”very much asshe might have said,“ifyou have to have smallpox”...“please choose poemsin decentEnglish.Ido notcare forpatois”(p.37)と冷たく放つ祖母の言葉は、まるでジェーンの朗読した方言の詩が 汚いもの(天然痘)だとみなしているようだ。 これは後にわかることなのだが、祖母がジェーンを嫌うには理由がある。それは最愛の娘を一 時的にせよ、自分から奪った男の娘だからだ。祖母の娘のロビン(Robin、ジェーンの母)は若 い頃、プリンス・エドワード島で駆け落ち同然にジェーンの父と結婚した。しかし、二人の育ち の違いや、祖母の大反対と嫁として母を気に入らない伯母アイリーン(父の姉、後ほど触れる) の策略で、ロビンは結婚に敗れ、実家に戻ったという経緯がある。ロビンの夫、すなわちジェー ンの父が文筆家(新聞に寄稿する)且つ詩人で、朗読が得意なのであった。 ある日、ジェーンは同じ街の58番地にいる孤児ジョディ(Jody)と親しくなる。学校になじめ ないジェーンにとって、トロントでは唯一の友である。祖母はジョディのことを知ると、ジョ ディのことでやさし気な口調で皮肉なことをさかんに言った。ジョディは料理番の手伝いや使い
走りをしている下層階級である。本来ならジェーンとの付き合いを禁止すべき祖母が、なぜか ジョディと遊んではいけないと言わない。それはジェーンがいかに低俗な趣味を持ち、下等な者 たちを好むかを人に見せられるからだ(“...she ...understood thatgrandmotherwanted to show any one who mightquestion in thatJane had common tastesand liked low people.” p.17)とジェーンは大人になってから理解する。祖母の底意地の悪さがよくあらわれている。 ジェーンは父が生きていることを知る前から、誰からも言われていないのに、誰も憎むように 作られていない小さな胸に、割りこめるかぎりの憎しみをこめて父のことを憎んでいた。だから、 気に入っている自分の名前のジェーンは父のスチュワート家から来ているのでないかと気づき、 残念に思った。気に入りの名ジェーンが父の側からきていると思いたくなかったからだ。 ジェーンは10歳になるまで、父親が死んだものと思っていた。誰からも父のことを聞いたこと がなかった。伯父たちをみても、従姉妹に父がいてもうらましいと思うことはなかったので、父 のいない生活を当たり前のように思って過ごしてきた。ところがある日、学校の生徒からジェー ンは自分の父親が生きていることを知り、非常なショックを受けるが、その時最も心に打撃を与 えたのは自己の存在否定だった。転校生アグネスに秘密を知っていると言われ、ジェーンは自分 が3歳の時、母が父を捨てたと聞く。しかもその理由が自分だというのだ。
“.... He(i.e.,Jane’sfather)waspoor. Butitwasyou thatmade the most trouble.You should neverhave been born.Neitherofthem wanted you,.... They foughtlike catand dog afterthatand atlastyourmotherjustup and left him...”(p.23.) アグネスは悪気がないだけに始末が悪い。後先を考えずに、というより人に対する思いやりに欠 けるため、自分が秘密をもっているということで周囲にちやほやされることに喜びを感じる。し たがって、その秘密の重要性も理解できていないし、それを知った同級生がどれほど傷つくかな ど想像もできない。おそらく一生わからないままであろう。モンゴメリの作品にはこのような無 神経な登場人物(女性が多い)がしばしば登場する。おそらくモンゴメリの周囲に似たような人 たちがいたのだろうと推察できる。いずれにせよ、ジェーンはこれまでにないショックを受け、 場もわきまえずに(午後のお茶の時間で、客間に客が大勢いた)、母親に“Mummy,...,ismy fatheralive?”(p.24)とストレートに問う。イエスと言われたジェーンはそれ以上訊ねず、 “You should neverhave been born”(p.23)と言ったアグネスの声が一生耳から離れないだろ う と 思 っ た。さ ら に そ の 直 後、祖 母 は”“Yourfatherisliving.Yourmothermarried him
againstmy wish and lived to repentit.Iforgave herand welcomed herback gladly when she came to hersenses.Thatisall.”(p.25)と言う。この言葉は二人の結婚が過ちであること、 すなわち二人の間に生まれたジェーンの存在を大きく否定するものである。
『子どもの脳を傷つける親たち』によれば、こころに外傷を与え、こころを侵害するような行 為のこと心理的マルトリートメントと言い、なかでも蔑みや、差別や脅し、罵倒を繰り返すなど 言葉による行為が多いため、英語では「バーバル・アビュース(verbalabuse)」とも呼ばれて いるという7。「お前なんか生まれてこなければよかった」という子どもの存在そのものを否定
する8ような言葉ほど残酷な精神的虐待はない。この残酷な言葉を、ジェーンは親ではなく、祖
母や周囲の人に時にはストレートに、時には遠回しに言われ続けた。
さらにきょうだいを比較しすぎるようなことでも子どもは傷つく。9ジェーンは一人っ子なの
で、学校の成績のよい、同年齢の従姉妹のフィリスと絶えず比較されている。そのフィリスは “Ithink yourfatherand mothermighthave goton ifithadn’tbeen foryou,”(p.45)と、前 述のアグネスと同じような毒のある言葉を全く罪の意識なくジェーンに浴びせる。また、以下に あるように、親を中傷する言葉もまた虐待である。 さらに、自分に向けられた言葉でなくても、子どものこころを傷つけることがあり ます。母親が父親をひどく中傷したり(…)、祖父母が両親の悪口を言ったりする のを聞くと、子どもは大好きな母親(あるいは父親)が、いやしめられることで悲 しむだけでなく、血のつながりを悲観し、自分まで否定された気になるのです。10 ジェーンは祖母に父のことを悪く言われ、後にアイリーン伯母には母のことを皮肉られ、従姉妹 にもあれこれ言われる。親のことを非難されるのは自分のことを言われるよりつらいものがある。 中でも決定打は“He made yourmother’slife wretched”(p.25)という祖母の言葉である。子 どもの前でその父の悪口を躊躇なく発する行動には無神経さより悪意を強く感じる。 このように実に様々な形でジェーンはバーバル・アビュースを受けていたと言える。そして11 歳の夏に、父からの手紙でまたも打ちのめされる。それはひと夏自分のもとで過ごすことを求め る誘いだった。その父の要求をのまないと、法律的に母と別れることになるかもしれないという 伯父に判断により、母と別れて父と過ごすことが決定的になると、悪夢の中にいるような気に なった。なぜなら父を知らないジェーンの心の中では、父は母を捨てた悪人として膨れ上がって いたからである。それ以後は、ジェーンの精神状態は不安定になる。ジェーンはつねに気もそぞ ろになり、ますます学業に力が入らなくなる。それでも祖母は嫌味を言い続け、次のようにフィ
リスはジェーンを馬鹿にし続ける。
“How do you suppose you’llgetalong with yourfather?” ....
“He likes clever people, you know, and you’re not very clever, are you, Victoria?”(p.46.) 祖母とそのミニチュア版のフィリスによるバーバル・アビュース(精神的虐待)は、ジェーンの 父に会うことの不安をさらに大きくさせていく。このように子どもが親を憎むように仕向けるこ とは、その子の成長に大きな妨げとなる。 人格を否定したところで、… 「自分はだめな人間なのだ」という強いメッセージ を受け取り、それが自己肯定感の低下につながります。何をするにも自信がもてな くなるばかりか、人の顔色を始終うかがい、その場しのぎの嘘や出まかせを、頻繁 に口にするようにもなるのです。11 ジェーンは嘘はつかないが、自信喪失で、びくびくおどおどしている。そして何も言えなくなる。 それを周囲は馬鹿だと勘違いする。ジェーンには得意なものは何もないと思われている。これは 日頃の祖母の暴言によるものだが、最近では科学的に証明されている。 人間の脳は、人から言われた言葉をそのまま受け入れ、それをそっくり無意識の なかに埋め込んでしまう性質がある。これを「内面化」といい、ポジティブな概念 もネガティブな言葉や評価も同じように無意識のなかに収納される。するとつぎに、 人から言われた「お前は○○だ」という言葉が、自分の内部で「私は○○だ」とい う自分の言葉に変換されるのである。これは子供においては特に顕著で、親のけな しやののしりの言葉は心の奥に埋め込まれ、それが自分の言葉となって、低い自己 評価や人間としての自信のなさのもとを形作ってしまう。12 子どもへの虐待は脳に影響を与えるという。ジェーンはそこまでいかずにすむが、もし父親に会 わず、トロントの祖母の家での暮らしが続いたら、上記のようになり、脳に少なからず悪影響が もたらされたかもしれない。
3.身体的虐待
祖母の虐待は言葉が主だが、その言葉が原因の身体的虐待も見られる。といっても暴力ではな く、食事に与える影響である。
Uncle William putthe piece ofwhite chicken meathe had justcarved offon the side ofthe platter.Jane had been hoping he would give itto her.She did not often getwhite meat. .... Jane seldom dared to help herselfto white meat because she knew grandmotherwaswatching her.On one occasion when she had helped herselfto two tiny piecesofbreastgrandmotherhad said:
“Don’tforget,my dearVitoria,there are otherpeople who mightlike a breast slice,too.”
AtpresentJane reflected thatshe waslucky to geta drumstick.(p.11.)
貧しい家庭ではないので、上記の様子はたいしたことないと思う人もいるだろう。しかし当事者 である子どもにとっては、抑圧的な言葉で食べ物を制限されたり、食べたいものを食べさせても らえないのは悲しいことなのだ。食事を与えないのではないが、子どもが食欲を失う、食べるの を遠慮するように仕向けるというのは陰険な虐待と言えるのではないか。相手の心を意識的に傷 つけようと発せられる言葉を反論できずに、一方的に聞きながらでは、どんなに美味しい食事も まずくなり、量的にも十分な食事ができないことは容易に想像がつく。 ジェーンの食事状況は、死んでいると思っていた父が生きていることを知った後はどんどん悪化 していく。
Jane dreaded meal-times more than ever. Her preoccupation made her awkward and grandmotherpounced on everything.She wished she need never come to the table,butunluckily one cannotlive withouteating a little.Jane ate very little.She had no appetite and grew noticeably thinner.She could notput any heartinto herstudiesand she barely made the SeniorThird while Phyllis passed with honours.(p.47.)
この時のジェーンの状態は病気に近い、というよりほとんど病気である。一歩間違えれば、日常 生活に支障をきたすほどの精神的及び身体的状態といえる。まさに虐待されている児童の姿であ る。
ジェーンの唯一の友人ジョディ(Jody、正式名は Josephine Turner)は明らかに身体的虐待 の犠牲者である。これに比べると、ジェーンの食事の問題は取るに足らないほどだ。ジョディは 11歳で孤児である。ジェーンの家の隣の58番地で料理番をしていた母の従姉妹エミリー(Cousin Millie)に引きとられたが、ジェーンと知り合う2年前にミリーが亡くなり、ジョディはそのま ま雑役しながら居させてもらっていた。眠るところは夏は暑くて冬は寒い穴のような屋根裏部屋 で、下宿人からもらった着古しの衣類を着、特別忙しい仕事がなければ毎日学校へ行く。親切な 言葉をかけてくれるものは一人もいなかった。ジョディは「背は高いが、痩せて雑草のようにこ れまで食べるものも十分には食べたことがないような様子をしていたし、実際そうだった。」 (“Jody matched Jane’seleven yearsoflife and wastallforage,too ...though notwith Jane’ssturdy tallness.Jody wasthin and weedy and looked asifshe had neverhad enough to eatin herlife ....”p.13.) しかも58番地の持ち主であるミス・ウェスト(MissWest)の甥 ディック(Dick)がジョディをからかったり、苛めたりしていた。
ジョディの置かれた状況は不十分な食事、悪辣な生活環境、過剰労働、苛めとすべての条件が そろっている孤児への身体的及び精神的虐待である。ジョディは58番地の下宿屋に置いてもらっ ているということでただ働きを強いられ、11歳の少女の手がひび割れで真っ赤になっていること や、ジェーンの家の料理番が「奴隷の様だ(“she’sa regularlittle slave”p.17)」と証言してい ることから、身体的虐待と言えよう。さらに、その姿からは今でいうネグレクトの状況にあるこ とがわかる。なぜなら、丈が長すぎたり、汚れて油染みができていた恐ろしく古ぼけた服をきて いたからである(“The girlwore a dreadfulold blue dress.... Itwastoo long and too elaborate and itwasdirty and grease-spotted.”p.14)。その姿はまるでけばけばしいぼろをま とったかかしに似ていた(“It hung on the thin little shoulders like a gaudy rag on a scarecrow.”p.14)とまで描写されている。しかも一度に2枚より多く持っていることはないの である。 「ネグレクトとは、子どもの心身の健康的な成長・発達にとって必要な身体的ケアや情緒的ケ アを保護者が提供しないことを言う。… ネグレクトは子供が必要とするものを親が提供しない ことである。」13ジョディの場合、親はいないが、同居させていいように働かせているミス・ウェ ストは保護者も同然である。いわば身元引受人であるのなら、ジョディへの仕打ちはネグレクト 且つ身体的虐待と判断できる。
ジョディはつねにお腹をすかしている。その空腹状態は“Iwonderifshe isgetting enough to eat...butsometimesthey sound hungry to me.”(p.108)とジェーン宛てに書いた手紙から
も感じ取れるほどだ。そのジョディがディックにいじめられ、庭で泣いているのにジェーンは気 づき、友だちになる。その時のことをずっとあとになってジェーンは「同じ種類の人間だという ことがわかった」(“Iknew we were the same kind offolks”p.14)と言っている。ジェーンの ジョディへの声掛けには彼女の人柄がにじみでている。
“Can Ihelp you?”said Jane.
Though Jane herselfhad no inkling ofit,those wordswere the keynote ofher character,Any one else would probably have said,“Whatisthe matter?”But Jane alwayswanted to help:and,though she wastoo young to realize it,the tragedy ofherlittle existence wasthatnobody everwanted herhelp ... (pp.13-14.)
ジェーンはジョディと友だちになり、初めて人から褒められる経験をする。ジョディに“Ain’t you the one forthinking ofthings?”(p.16)と感心されたジューンは幸せな気分を味わうとい うことができたのだ。ジョディはジェーンに、ジェーンはジョディに支えられながら、それぞれ 立場は異なるが、自分たちの境遇に耐えられたと考えられる。 ジョディは確かにみじめな生活を送っているが、その描かれ方から、その状況に読者は悲惨さ をあまり感じない。しかし、深く読み込めば、当時の孤児の悲惨な状況が想像できる。ただ終わ り方は砂糖菓子のように甘い。ミス・ウェストが下宿屋をたたむことになり、ジョディは孤児院 に行かなくてはならなくなるが、ジェーンのおかげでプリンス・エドワード島に住む独身の姉妹 のもとに引き取られることになるからだ。この結末がややおとぎ話的なことから、ジョディの受 ける虐待も現実的に受け取られないのだ。 4.祖母と母、父と伯母 常人には想像もつかないほど、血を分けた孫娘を苛め抜く祖母(ケネディ夫人)だが、自分の 娘(ジェーンの母)のことは溺愛している。そしてそのことをジェーンはよく認識している。
...;but,then,grandmotherloved mother,which made a difference.Loved her asshe loved nobody else in the world.And grandmotherdid notlove Jane.Jane had always known that. And Jane felt, if she did not yet know, that
grandmotherdid notlike motherloving herso much.(p.4.)
貴族の家柄のケネディ夫人、旧姓ビクトリア・ムア(Victoria Moore)は二度結婚した。最初の 夫ジェームズ・アンダーソン(JamesAnderson)のことは愛していなかったようで、その間に できた子ども3人のことの接し方は淡々としてる。未亡人となったアンダーソン夫人は子連れで ロバート・ケネディと再婚した。ロバート・ケネディ(RobertKennedy)は社交的で好男子で、 結婚当時のケネディ夫人(ビクトリア)も絵のような美人だったという。ケネディ夫人はわずか な時間でも夫を自分の眼の届かないところへ行かせるのを嫌がるほど崇拝していた。二人の間に できた娘ロビンも大層な美人と評判である。ケネディ夫人が4人いる子どもの中でロビンだけを 盲愛するのは、愛する夫に似ているからと想像するのは難しくない。夫とは15年しか一緒に暮ら せなかったので、夫に似た娘をいつまでも手放したくないのかもしれない。亡き夫に似た娘が貧 しいライターと結婚して、家事に追われる日々を送るのはしのびなかっただろうし、他の子ども には愛情を抱かない分、唯一愛する存在をいつまでの自分のもとに置いておきたかったのだろう。 そう考えればケネディ夫人もごく普通の母親と言えるし、娘を奪った身分違いの男の血をひく孫 を好きになれないのも理解できる。しかし、孫ジェーンに対する仕打ちはかなり度を超えている と言わざるを得ない。さらに、盲愛している娘が自分より孫に愛情を示すと、激しい怒りをあら わにする様子には異常性を感じる。
“You fuss entirely too much about her,”grandmother had once said contemptuously,when motherwasworried aboutJane’ssore throat.
“She’sallIhave,”said mother.
And then grandmother’sold white face had flushed. “Iam nothing,Isupposed,”she said.
“Oh, mother, you know I didn’t mean that,”mother had said piteously, fluttering herhandsin a way she had which alwaysmade Jane think oftwo little white butterflies“I. meant...Imeant...she’smy only child ....”
“And you love thatchild ...hischild ...betterthan you love me!” “Notbetter...only differently,”said motherpleadingly.
“Ingrate!”said grandmother. It was only one word, but what venom she could putinto a word.Then she had gone outofthe room,stillwith thatflush on herface and herpale blue eyessmouldering underherfrosty hair(pp.. 4-5.)
と暴言を吐くほど自己中心的な性格なのだろうか。一方、これほど身勝手な女性を母とするロビ ンは、自身も娘(ジェーン)の母親でありながら、いまだに母(ケネディ夫人)に逆らえず、そ の支配下にある。そのことに疑問を抱く人は多いだろうが、以下の説明からロビンの心情も理解 できなくはない。 幼い子供の抱く「親は正しい」「親は強い」「自分は無力だ」という概念はとても 強いので、身の周りの世話をしてもらう必要のない年齢になってもなかなか消える ことがない。そのため大人になっても、自分が小さく無力で傷つけやすかった子供 のころに“神”のように強大だった親が、実は自分に害を与えていたのだという苦 痛に満ちた真実にはなかなかはっきりと直面することができない。14 つまり、「親を怖がっている子供は自信が育たず、依存心が強くなり、『親は自分を保護し必要 なものを与えてくれているのだ』と自分に信じ込ませる必要性が増す」15のである。何不自由な く、愛されて育ったロビンは身分違いの男性と恋に落ち、駆け落ちをする。しかし、結婚生活は うまくいかず、母親の元へ子どもを連れて戻る。その後ロビンと夫が離婚しないのは手続きが厄 介なのと、もし離婚すれば、また違う男性とどこかへ行ってしまうのではないかとケネディ夫人 が案じたからと周囲は憶測している。つまり、ほんの数年を除けば、ジェーンの母ロビンはずっ と実家で母の庇護のもとに暮らしているのである。 祖母と母もまた母娘である。祖母の愛情は歪んではいるが、激しく深い。たとえ血を引く孫で も、娘を奪った男(ジェーンの父親)の子であることで、憎悪の気持ちが湧いてしまうのだろう。 母ロビンは祖母に逆らえない。それは一度逆らって結婚し、うまくいかず、戻ってきたからだ。 受け入れてくれた母親(祖母)を二度裏切ることはできない。それでも娘ジェーンを愛すること はやめられない。そこで妥協点を生み出す。例えば、母に逆らって、娘をジェーン・ビクトリア と呼ぶ。ジェーンは父方の祖母(ジェーンの父の母)の名である。また、祖母の見ていないとこ ろで精一杯の愛情表現をする。情けないが、自己主張できないロビンにとってはこれが限度なの だろう。次にあるように、娘のジェーンは母の状況を理解し、我慢している。
She knew why mother seldom kissed her or petted her in grandmother’s presence. It made grandmother angry with a still, cold, terrible anger that seemed to freeze the airabouther.Jane wasglad motherdidn’toften do it.She made up foritwhen they were alone together...butthen they were so very seldom alone together(p.. 6.)
普通の母娘なら当たり前のこと―母と娘のスキンシップやコミュニケーション―を祖母は許さ ない。祖母は母ロビンとジェーンを一緒に休ませなかったし、朝、母の部屋へ行ってはいけない と言われていた。ジェーンはお手伝いのメアリーの代わりに朝食の盆を部屋へ持って行きたいが、 決して許してもらえない。ジェーンは母にいろいろなことをしてあげたかったが、させてもらえ ない。こうしてケネディ夫人は娘に干渉し、コントロールし続けてきた。親が幼い子どもをコン トロールするのは危険や間違いから守るためのものだが、成人してからも干渉をやめずにいると、 次のように母娘双方に問題が生じる。 親からコントロールされてばかりいる子供は、新しいことを経験して学んでいくよ うに勇気づけられることがないため、自信が育ちにくく、しばしば自分では何もで きないように感じ、また心の奥にはフラストレーションがたまっていく。だがそう いう親は自分自身に強い不安があるため、子供に干渉してばかりいる自分をとめる ことができないのである。その結果、コントロールされてばかりいる子供もまた不 安感や恐怖心の強い人間になってしまうことが多く、精神的に成長することが困難 になる。そういう子供の多くは、思春期を過ぎて成人に近づいてもあいかわらず世 話を焼き、コントロールしようとする親から脱却できず、一方、親のほうはあいか わらず子供の人権に対する侵略を続け、心を操ろうとし、子供の人生を支配し続け る。16 さらに親の子供に対する親のコントロールが長期間にわたって強力に続くと、アイデンティ ティーの喪失につながる。子どもを自分の一部のように考えている親の中には、娘を着飾らせて 人々の賞賛を浴びることで、娘と自分を同化し、喜びを感じる母親がいる。ケネディ夫人はその 典型である。
Jane thoughtshe(i.e.,hermother)looked like a lovely golden princess,with the slender flame of the diamond bracelet on the creamy satin of her arm. Grandmother had given her the bracelet last week for her birthday. Grandmotherwasalwaysgiving mothersuch lovely things.And she picked out allherclothesforher...wonderfuldressed and hatsand wraps.Jane did not know thatpeople said MrsStuartwasalwaysratheroverdressed,butshe had an idea thatmotherreally liked simplerclothesand only pretended to like better the gorgeous things grandmother bought for her for fear of hurting grandmother’sfeelings(p.. 7.)
自分がみすぼらしい恰好をしていても、娘は着飾らせたいという母親の願望は今も昔も変わらな い。娘が美しく着飾ることは、母自身も美しく着飾っていることなのである。つまり娘と自分を 都合よく同化してしまっている。かつて絵のように美しかったケネディ夫人はロビンを美しく着 飾らせ、パーティやお茶会に出席させることで、夫が生きていた頃の華やかな晩餐会を開いてい たかつての自分を重ねて満足しているのだろう。夫人は着飾った娘の外出先もコントロールして いる。というより、娘は母の言いなりに、ほとんど毎晩のように外出し、午後もほとんど毎日出 かけている。これは祖母が美しい娘の姿を見るためであるが、娘と孫(ジェーン)が一緒にいる 時間をできるだけ少なくするためでもあろうと推察できる。 贅沢な暮らしぶりのせいなのか、結婚に失敗したからなのか、もともとの性格からなのか、ロ ビンは気弱で、意気地がなく、闘争心に欠け、諦めが早い。そして自己主張ができない。そのこ とは娘にも見抜かれている。
Motheralwaysgave way ifyou were firm enough.Jane had already discovered that.She adored motherbutshe had unerringly laid herfingeron the weak spot in hercharacter.Mothercouldn’t“stand up to”people.(p.17.)
ロビンの弱さは娘どころか使用人にも見抜かれている。料理番のメアリーに“She’llgo with the lastone thattalksto her,”...“And that’salwaysthe old lady.”(p.18)といわれるほど である。一方、そのような母を幼いころからずっと見ているジェーンには鋭い観察力と洞察力が ある。
“Happy?Ofcourse,mummy ishappy,”Jane had thoughtindignantly ...all the more indignantly because,away back in hermind,there waslurking a queer suspicion thatmother,...,wasn’thappy.Jane couldn’timagine why she had thisidea.Perhapsa look in mother’seyesnow and then ...like something shut up in a cage.(p.18.)
母ロビンは結婚に敗れた後は、もう祖母に対抗する力を失ってしまったようだ。もう一度頑張っ てみようという意欲がロビンにはない。それは彼女の人生にずっとつきまとってきた母親の贈り 物のせいかもしれない。結婚にひずみが生じ始めた頃、ケネディ夫人はロビンにたびたび手紙や 品物を送っていた。しかし、これが、歪んだ母の愛情がしかける罠だとも言える。
あなたが非常に困っているとき、過剰に関わる母親は、金、手段、経験を提供し てくれるかもしれない。それは神の恵みのように感じられるだろう。しかし、常に 罠がある。母親の贈り物はときには非常に気前のいいもので、当然母親に対して感 謝の念を覚えるだろう。しかし、自由を奪いかねない従属関係も生じる。あなたに 独立独歩の人生を歩ませないことで、母親は自分をなくてはならない存在にするの だ。それによって母親は強引にあなたの人生に割りこみ、支配する自由を手に入れ る。17 母の贈り物に束縛され、支配されてしまった母ロビンは祖母から逃れることのない生活を続けて いるのである。
祖母と母のゆがんだ愛情は、父アンドルー(Andrew)と伯母アイリーン(AuntIrene)のそ れとよく似ている。父の姉アイリーンは10歳年上なので、自分でも言っているように、姉という より母として弟アンドルーに接してきた。料理をはじめ家事全般をほぼ完璧にこなすアイリーン のおかげで、快適な生活を長く続けてこられたことから、父は姉を信頼し、姉に頼り、姉の言う ことに間違いはないと思って生きてきた。姉弟は深い絆で結ばれていた。ところがロビンと出会 い、結婚したことで二人の関係にひびが生じたのである。ジェーンの母親は祖母に、父親は年の 離れた姉にそれぞれ甘やかされ、コントロールされてきた人生を結婚まで送ってきたのである。 それはかれらにとって楽な生き方でもあったはずだ。何の不自由もない生活に双方の家族は満足 していたのだ。 ところが、ケネディ夫人がアンドルーを気に入らず、娘の結婚に反対だったように、アイリー ンもロビンが気に入らず、結婚後も小姑(というより姑)のようにちくりちくりとロビンをいじ めた。世間慣れして悪賢いアイリーンに、世間知らずで人を疑うことを知らないロビンが勝てる はずがない。お嬢様育ちのロビンは、家事については何一つアイリーンに敵うはずはなく、結婚 後は何度も恥ずかしい思いや口惜しい思いを経験した。しかも、夫のアンドルーは姉は自分たち 夫婦の味方だと信じて疑わない。 ジェーンは ある日、突然届いた父からの手紙によって、プリンス・エドワード島でひと夏一 緒に過ごすことになる。島へ行くまでは地獄へ行くような絶望感を抱いていたが、父を一目みた とたん、父を愛するようになり、これまで経験したことにない楽しい日々を過ごすことになる。 そしてその夏の間に、祖母よりも伯母のアイリーンが両親の別居の原因であることに幼いながら も気づく。両親の出会いと別れを島で知り合った「妖魔のように賢いエムおばさん」(“... everybody callsherLittle AuntEm ,,,she’sa wise old goblin”p.111)から教えられる。結婚
前の母ロビンは我儘で、欲しいものは何でも手に入れていた。父アルバートは祖母が生まれて初 めて手に入れてくれなかったもので、逆らう勇気がないため、父と二人で逃げ出したという。エ ムおばさんによれば、二人が短い結婚に敗れ別れたのは祖母であるケネディ夫人の仕業と大勢の 人が考えているが、ことを面倒にしたのは伯母アイリーンだという。以下がエムおばさんの語る 両親の別居の原因である。
“....I’ve alwayssaid itwasthattwo-faced Irene made more trouble than your grandmother.She’spoison,thatwoman,justsweetpoison.Even when she was a girlshe could say the mostp’isonousthingsin the sweetestway.Butshe had yourpa roped and tied ...she’d alwayspetted and pampered him ...men are like that,Jae Stuart,every one ofthem,cleverorstupid.He thoughtIrene was perfection and he’d neverbelieve she wasa mischief-maker.Yourpa and ma had theirupsand downs,ofcourse,butitwasIrene putthe sting into them, wagging thatsmooth tongue ofhers...‘She’sonly a child,....And patronizing her...she’d patronize God,thatone ...running herhouse forher...notthat yourma knew much aboutit...thatwasone ofhertroubles,...buta woman don’tlike anotherwoman sailing in putting thingsto rights.I’d have senther offwith a flea in herear...butyourma had darn too little spunk ...she couldn’t stand up to Irene.”(pp.115-116.) この第三者が語る両親の話は、ジェーンにとって最も真実味がある。母も父も祖母も伯母もそれ ぞれの思い込みや愛情があるので、思いや言い分が異なる。姉に甘やかされて育った父は、自分 の妻との間を割くようなことを姉がしたとは全く思わないし、思いつかない。おそらく一生気づ かないだろう。しかし、鋭い洞察力と観察力を備えたジェーンは伯母に会った時から違和感を覚 え、その性格の悪さを見抜いていた。祖母の嫌味より、アイリーンの言葉の方が底意地が悪かっ たと感じるほどだから、かなりのものである。しかも伯母は微笑みながら相手を傷つける言葉を 穏やかな口調で言ってのけるのである。
“Oh,Jane’ssecretive enough,”said AuntIrene,shaking a fingertenderly at Jane.“Ihope it’sonly‘secretive’...butIdo think you’re a little inclined to be sly.”
AuntIrene wassmiling,butthere wasan edge to hervoice.Jane thoughtshe would almostprefergrandmother’svenom.You didn’thave to look asifyou like that.(p.91.)
思い余って、ジェーンは父に二人の別居の原因にアイリーンが関係あると思わないかとやんわり 問うが、父は姉と妻は仲がよく、妻が自分と仲のよい姉にやきもちを焼いていたと言い張る。こ のあたりは母ロビンが祖母のゆがんだ愛情に逆らえないのと同じように、父が姉の制圧的な愛情 に飲み込まれていることにジェーンは子どもながら気づく。祖母も伯母も、それぞれ娘と弟に対 して「子供の人権に対する侵略を続け、心を操ろうとし、子供の人生を支配し続ける」18存在な のだ。かれらは「自分が必要とされなくなることを恐れているため、子供の心の中に非力感を植 え付け、それが永久に消えないようにと望む。表面的に見れば、それは子供を自分に依存したま まにさせておこうとする行為だが、実は自分が子供に依存していることの裏返しなのだ。」19結局 この二人は自己中心的なのである。 アイリーンは結婚後も弟と自分の関係を崩すことなく、自分の言いなりになる女性を(おそら く母ロビンほど魅力的でない女性)を弟の嫁に望んでいたのだ。したがってロビンが去って喜ん でいたアイリーン伯母の元に、今度はジェーンが現れると、弟の心をつかみ、自分にとって都合 のよい弟の再婚を邪魔する存在だと思い込む。それゆえ、アイリーン伯母のジェーンに対する扱 いも祖母同様、言葉と態度の虐待である。
...speaking volumesby an amused liftofherfaireyebrows.Smooth,smiling AuntIrene would nevergetangry. Jane thoughtshe mighthave liked her betteraftera good fightwith her.She knew dad wasa little annoyed with her because she and AuntIrene didn’tclick betterand thathe thoughtitmustbe herfault.Perhapsitwas.Perhapsitwasvery naughty ofhernotto like Aunt Irene.(pp.98-99.)
父は賢いが身内に甘い、歳が離れた姉に抱く尊敬の念や育ててもらった恩は消えない、そうなる と悪いのは妻や娘ということになってしまう。アイリーンは言い方には毒がある。父のために一 生懸命家事に励んでいると、「ままごとをしているようだ(“...asifyou were justplaying at being a house-keeperfordad”p.99)」と軽蔑したり、「そんなに神経質になってはだめよ (“Don’tbe so sensitive,lovely”p.99)」と神経質ということが犯罪であるかのような言い方を したり、「あなたはすぐ喜んでしまう」(“You’re easily pleased”p.93) とまるでジェーンが 何でもすぐ喜んでしまう馬鹿者であるかのように(“...asifshe were a dearlittle foolto be so easily pleased”p.93)傷つける。こうしたアイリーンの言葉と態度の苛めは繊細で純粋な子ども の心に簡単には消えない傷を残す。自力で精いっぱい努力をしている姿を馬鹿にしたような言葉
と態度を会うたびにぶつけるのは虐待以外のなにものでもない。そしてその悪辣なやり口は祖母 とよく似ている。下記はジェーンの伯母の分析だが、子どもなりによく把握している。まだ完全 には解明できていないが、ジェーンは両親の別居の原因の心髄に迫ってきている。
Somehow AuntIrene had the mostextraordinary knack ofmaking you feelthat whatyou like orthoughtordid wasofsmallaccount.And how Jane did resent herairsofauthority in dad’shouse!Had she acted thatway when motherwas with dad?Ifshe had ...(p.. 93.) 祖母も伯母も自分より年下の弱い立場(自分たちが年上で、祖母あるいは伯母という優位な立 場にある)にある者をじわりじわりと、ことあるごとにいじめ、悪い余韻を与えることで、自分 たちは快感を味わっている。祖母が毒親なら、アイリーンは毒姉である。エムおばさんがいうよ うに甘い毒草である。父はアイリーンの毒の中毒になってしまい、それが自分の一部に溶け込ん でいるため、もはや抽出することもできないのだ。 5.成長 ジェーンは父と一緒のプリンス・エドワード島でのひと夏の暮らしで心身共に大きく成長する。 その理由の一つはまず自分自身を取り戻したことだ。ジェーンはトロントでは邸宅で何不自由な い暮らしをしていても落ち着かなった。しかし父と暮らす家は祖母からみれば掘っ立て小屋のよ うな粗末な家だが、そこはジェーンにとって居場所であった。ついに、ジェーンは我が家と呼べ る居場所ができたのだ。(“She had alwayswanted to‘belong’somewhere and she belonged here.”p.71.)。しかも自分はこの家の女主人(“mistressofthishouse”p.77)で何ごとも言い訳 しないでやりたいことができるのだ(“She could do justasshe wanted to withoutmaking excusesforanything.”p.77)。 そのうえ、父は陽気で(トロントの家には陽気な人はいない)、 ジェーンをまるで大人のように、つまり一人の人間として対応してくれるのだ(“He talked to herjustasifshe were grown up.”p.77.)。これは子どもにとても非常に嬉しいことである。さ らに、トロントではいつも役立たずで無能な存在と思われていたのが、父のいる島では有能な存 在になっているのだ。
Jane wasvery capable and could do almostanything she tried to do.Itwasnice to live where you could show how capable you were.Thiswasherown world and she wasa person ofimportance in it.There wasjoy in herheartthe clock round.Life here wasone endlessadventure.(p.81.)
これは成長である。物事への取り組み方への気持ちが変化することで、つまり何ごとにも前向き で積極的になることで、それまでの恐れが薄れ、喜びが大きくなってくる。人は自分が成長する ことを感じることができるとき、喜びを感じる。ジェーンの成長を表している一節を抜き出して みる。
In fact,nothing in herne life amazed hermore than the ease with which she liked people. Itseemed asifevery one she etwassealed ofhertribe. She thought it must be that the P.E. Islanders were nicer, or at least more neighbourly,than the Toronto people.She did notrealize thatthe change wasin herself. She was no longer rebuffed, frightened, awkward because she was frightened. . . . . She felt friendly towards all the world and all the world responded.She could love allshe wanted to ...everybody she wanted to ... withoutbeing accused oflow tastes.(p.81.) あまりに良すぎる変化に戸惑いを感じるほどだが、ジェーンが本来いるべき場所に戻ってきたと 考えれば納得できる。自分に合った、自分にふさわしい生活を送ることができ、それが自分が好 きで、自分が望むことなら、成長しないはずがない、楽しくないはずがない。また、この島では 心を開いて、本音で語ることができる。トロントのように気取って、自分を飾る必要はない。気 楽に素を出せる暮らしの中で、人々は信頼して心を開いてくれる。これはごく普通のことなのだ が、トロントの生活では体験できなかった。さらに、母と父との違いもある。夏の間の父のユ ニークな教育(指導)のおかげで、トロントでは嫌いだった聖書が好きになり、苦手で苦痛だっ た歴史と地理に興味が持てるようになる。そして大勢の人との交流のおかげで、コミュニケー ション力もついたと思われる。不思議なことに、夏を終えて学校生活が始まると、学校が好きに なっている自分に気づき、驚く。それまではいつも取り残されたような、除外されたような気持 がしていた(“She had alwaysfeltvaguely leftout...excluded atSt.Agatha’s”p.137)が、今 や「クラスの少女たちはジェーンを尊敬し、教師たちは非凡な少女だと認める(“The girlsof herclasslooked up to her. The teachersbegan to wonderwhy they had neverbefore
suspected whata remarkable child Vitoria Stuartwas”p.137)ようになっていた。祖母が嬉し くないほど学校の成績も上がった。ジェーンの精神的成長は祖母でさえ認めざるを得ないほど だった。
She feltthatJane,in so many respects,had somehow slipped beyond herpower to hurt.Allthe colourstillwentoutofJane in grandmother’spresence butshe wasnotthereby reduced to the old flabbiness.Jane had notbeen chatelaine of Lantern Hill and the companion of a keen, mature intellect all summer for nothing.A new spiritlooked outofherhazeleyes...something thatwasfree and aloof...something thatwasalmostbeyond grandmother’spowerto tame orhurt.Allthe venom ofherstingsseemed unable to touch thisnew Jane .... (p.136.)
まずジェーンは祖母の眼を対等にじっと見つめて、話ができるようになった。それまではおどお どしていたので家具によくぶつかっていたが、自信がつくと足取りもしっかりする。聖書を読む ことに楽しさを覚え、あの高圧的な祖母が敗北を悟った。使用人たちもジェーンの成長を認めて いる。そしてそれまではっきりものを言えなかった相手に堂々と自分の意見を述べる。
“Notthatstandsup isjustthe rightword either.Butthe madam(i.e.,Jane’s grandmother)can’tputitoverherlike she used to.Nothing she saysseemsto getunderMissVictoria’sskin any more...I’ve seen herturn white with rage when she’d said something real venomous and Miss Victoria just answering in thatrespectfultone ofhersthat’sjustasgood astelling hershe doesn’t care a hoot about what any Kennedy of them all says any more.” (p.187.)
ジェーンが強くなった分、母の押しの弱さが目立ってくる。“It’stoo late forher.She’sbeen underthe old lady’sthumb too long.Neverwentagainstherin herlife exceptforone thing and lived to repentthat,so they say.”(p.187)という使用人たちの分析は的を射ている。成長 したジェーンは母に対して、かばいたいという保護者のような気持ちを抱くようになった。 ある日、母は自分の結婚について話しておきたいとジェーンに申し出る。母は父とうまくいか ず、祖母の元へ戻ったいきさつを話す。それを聞きながら、ジェーンは心の中で的確な分析を行 う。二人の間で交わされる長い会話はまるで心理カウンセリングである。母がクライアントで娘 がカウンセラーといえよう。母の話からジェーンはアイリーンの本性を改めて実感する。さらに、
子離れできていない祖母と親離れできない母をジェーンは冷静に把握する。ジェーンにはもとも と精神的強さが心の奥に潜んでいたのだと思う。それは大人の威圧で隅に追いやられていたが、 プリンス・エドワード島の自然と素朴な人々との暮らしで、氷が解けるように全面に出てきた。 意地悪く考えればその強さは祖母譲りかもしれない。時として、容赦なく立ち向かう姿は祖母の 姿を思わせるし、母が反面教師になっていたのではないか。また祖母の暴言をどこ吹く風と聞き 流せるようになった力は父譲りだろう。眠っていた家事能力は父方母方両方の伯母譲りではない だろうか。(ゲルトルード伯母は家事を取り仕切るのが好きで、アイリーン伯母は料理が得意で ある。)島で大勢の人と仲良くなったが、コミュニケーション能力は父親から、社交的要素は母 親から受けついだと考えられる。学力もそうだ。もともと能力はあったのだが、抑えつけられ、 発揮できなかった。それどころか、閉じ込められ、萎縮されていた。しかし、劣等感や恐怖心が 薄れてくると、集中力や向上心が表に出てくるのである。 一方、父からは二度目の夏を島で暮らしたときに、母との結婚と別れについて聞くことができ た。そのとき、父が去っていった母に帰ってきてくれという手紙を出していたと知る。父は母が その手紙を見ても戻らなかったと思ったことが最後の決定打になって、二人は長い別居生活に 入ったのだ。しかし、10年経って、その手紙は祖母の手に渡り、母は見ることがなかったという 真相がようやく明らかになる。その手紙のことで、後日ジェーンは祖母を追求し、事実を確認す る。 母は祖母から逃れたくても逃れられず苦しんでいるが、父は母との別れには後悔しても、自由 気ままな生活を送っているため、少なくても表面的にはあまり苦しんでいなかったように思われ る。祖母はジェーンのことで母を罵倒することはあっても、アイリーンは弟を甘やかすばかりで ある。しかし、ジェーンの両親が一緒になるためにはそれぞれが親または姉から独立しなくては ならない。そのきっかけと勇気を与えてくれたのは娘のジェーンなのである。ジェーンは伯母か ら父が再婚するかもしれないという手紙を受け取ると、考える間もなく、父の元へ向かう。ろく ろく眠らず食事もとらず、ぬかるみの道を8キロも歩き、父の家に着くと倒れ、悪性の肺炎で寝 込んでしまう。その知らせの電報を受けた母は、行ってはいけないと怒る祖母を振り切って夫と 娘の元へ向かう。娘の一途な気持ちが母を祖母の呪縛から解き放し、2人を呼び寄せたのだ。そ して最後に和解した両親のことをジェーンは守る気持ちを強める。まるで両親が子供で、ジェー ンがかれらの親のようだ。
venom,forgiving orunforgiving asshe chose,could nevermake trouble forthem (i.e., Jane’s mother and father)again. There would be no more misunderstanding.She,Jane,understood them both and could interpretthem to each other.(p.204.)
古い街と家の描写から始まった物語は、ジェーンがこれから親子三人で暮らすのに「ちょうど いい家を知っている」(“Iknow the very house.”p.204)という言葉で終わる。その家とは物語 の中ごろで、偶然見つけた新築の家だった。曲がりくねった街路は親しみ深い道であり、家々は 相手を見下した態度で互いに見つめ合ったりしていなかった。優雅にやさしく振る舞うことがで きると家々が言う場所だった。その中の売り家は一目でジェーンが自分のものだと思う家で、物 語の最後に再び登場し、家族のささやかな幸せを祝福しているようだ。 6.おわりに Jane ofLantern Hillは現代でも通じる深刻な家族・身内間の問題が描かれているにもかかわら ず、読みやすく、後味も悪くない。苦難にあるヒロインだが、生活の苦労(金銭問題)はなく、 その日の食べ物に困る生活をしているわけではなく、孤児でもなく、理不尽な大人による身体的 暴力(食事抜きや監禁も含めて)もないので、主人公の苦しみは理解できても、楽しく読むこと のできる作品である。それぞれの問題の解決方法(すでに解決したものものある)や解決の兆し も読み取れるので、安心して読める作品でもある。今、社会問題を扱う小説には、映像では目を 覆いたくなる場面が描かれることも多いが、残酷な場面イコール現実とは言えないと思う。一見、 甘く柔らかい菓子のような場面でも、その中にはスパイスや固い木の実が向き合わなければなら ない問題が含まれていることもある。小さくても口の中に入れれば、苦みが広がり、堅くて歯や 歯茎を傷つけるかもしれない。そのような問題は人からみればささいなものでも、本人の日常生 活では無視できないものだ。そして自分で薄めたり、取り除かなければ、誰も助けてくれない。 苦みや固さをどうやって除去するのか、子どもといえども考えなければならない。大人と違って、 子どもには柔軟な思考と成長という武器がある。その武器を使って見事に自分と自分を愛する家 族の問題を解決したストーリーを描いた作品として、この作品を評価したい。