-8-マイクロ波によるテレビジョン中継 鈴木桂二 沢村吉克 1.はしがき 我国でもテレビジョンの正式放送の開始とともにテレビジョンの中 継放送はとみと活況を呈し、リモート ピックアップ裝置による近 距離実況放送は主要プログラムとなり、他方東京-名古屋ー大阪間の 遠距離中継網も完成し東京プログラムでは大阪、名古屋で、大阪のプロ グラムは又東京、名古屋で見られるまでに到った。 しかし、これまでになるにはマイクロ波テレビ中継の研究として NHKで次の経過をへて来た。 昭和23年10月 NHK技研で初めて3000MC/Sテレビ中継の研 究を開始する 昭和24年6月 3000MC/Sテレビ中継機完成室内実験を公開す る 昭和24年7月 4000MC/Sテレビ中継機の設計を開始 昭和25年3月 4000MC/Sテレビ中継機完成、同中継機により 銀座三越屋上から放送会館(1.5kM)にテレビ中 継を行い銀座街頭風景を放送会館の50W電波に のせて放送 昭和25年6月 放送会館から技研まで(13Km)放送会館屋上か らの風景を中継して技研1KW電波にのせて三越 本店の展覧会場で公開 昭和25年11月 技研から箱根双子山まで(72Km)のテレビ中継 に成功 昭和26年6月 4045MC/S新中継機完成後楽園から三越本店ま で野球のテレビ中継を公開 昭和26年7月 進行波管使用の“通り中継機”に関し東芝との共 同研究開始 昭和26年11月 東京-双子山-牧ノ原(静岡県)-大山(愛知県) の伝播試験を実施
-9-昭和27年3月 技研からのカラーテレビを会館においてマイクロ 波中継により公開 “通り中継機”第1号機完成 昭和27年6月 技研からの天然色テレビを三越においてマイクロ 波中継により公開 昭和27年8月 大山-名古屋の伝播試験実施 昭和27年10月 東名阪中継機、通り中継室内試験完了 昭和27年11月 リモートピックアップ中継機により神宮球場から 野球中継を実施 大阪放送会館から生駒山へのSTL完成 昭和27年12月 東名阪マイクロ波中継回線実験局予備免許(22日) 昭和28年1月 東名阪マイクロ波中継回線実験局本免許(10日) 同運用開始(11日) 昭和28年8月 全進行波管式テレビ中継機東芝との共同研究完成 双子中継機に設置 東名阪テレビ上り中継回線完成 大坂リモートピックアップ7000MC中継機完成 研究の初めは外国事情も明らかでなく独自の見解からスタートした が、クライストロンを発振、変調に使用したこと、SHF増巾器に我 國で初めて進行波管増巾器を使用した点は今日諸外国の事情が明らか になるに及び研究方向として大体誤っていなかったと思われる又その 構成方式も大体同一の形式のようであり、特に全進行波管式テレビ中継機が 世界で初めて実用化されたのも意義あることである。 本文ではテレビジョン中継の技術的問題と我国の東名阪中継回線の 状況並びに諸外国の中継情況について述べる。 2.テレビジョンの中継は有線か無線か 在来テレビジョンの中継には同軸ケーブルによる有線中継と、マイ クロ波による無線中継の二つの方法が利用されている。前者は中継回 線が安定であって外部からの妨害を被らない利点があるが、一般に帯 域巾が狭く且つ数哩毎に中継機を設けなければならなぬなど、設備に莫大な
-10-経費を要する点が問題である。これに対しマイクロ波による無線中継 は第二次大戦以来著しく発展したマイクロ波技術をテレビジョン中継 分野に実用化したもので殆んど有線と同等の性能を持ち、且つ誘電中 継よりもはるかに帯域特性を広くとれる特徴がある。その上経費も僅 かに済むため最近のテレビジョン中継は殆んどマイクロ波による無線 中継に決定されようとしている。 この外奇抜な中継方式として、飛行機を中継局として使用するスト ラトビジョンという試みの発表もあったが、中継に飛行機を使用する という点が実用上に問題もあるのためかその後余り発展しないようで ある。 3.テレビジョン無線中継にマイクロ波の利用 テレビジョンの無線中継が今日のようにマイクロ波を利用するまで にはこの間歴史的に見て甚しい技術的進歩と変化を経て来た。1933 年初めてニューヨークのエンパイヤ、ステイトビルからのNBCの映 像信号をカムデンに79MCで無線中継して以來テレビジョンの中継 は外来雑音、感度、安定度に悩まされて、映像の精細度の質的向上に 努力が払われ、漸次マイクロ波が開始され、テレビジョンの固定中継 用として2000M.C、4000M.C、6000M.Cが実用化された。 他方、移動用の近距離リモートピックアップには初期の177MC(又 は288MC)から機動性に富み小型軽量でしかも小出力で動作する点 より6800~7050MC帯が実用化されるようになった。 このようにマイクロ波に変遷して来た主な理由は (1)夛くのテレビジョン回線を同時に伝送するための広帯域電送に適 すること (2)高利得のアンテナが容易に実現できて送信電力はたとえ微小でも 実質的に大電力出力に相当出来ること 例えば口径4mのパラボロイムアンテナでは利得43db位がとれ ること (3)輻射ビームが鋭いため、他からの妨害や干渉を受けないこと 例えば口径4mのパラボロイムアンテナでは半値巾約1.3°以内 であるからこれ以外からの妨害干渉はうけないこと
-11-(4)マイクロ波帯では人工雑音や空電が殆んどないこと (5)FMの変調がクライストロンにより割合簡単に行えること のためである。又、これら実際化に対してもSHF用眞空管クライス トロン進行波管や、鉱石混合器、立体回路素子が第二次大戦以后著し く開発されて充分実用機器として利用されるようになったためである。 しかし余り波長が短くなると第1図のように雨による減衰が増大する ばかりでなくフェーデングも増加するので余り短くも出来ず、中継に 使用される波長は最低4cm程度までである。 第1図 雨による減衰と波長の関係
-12-4.FM中継方式 マイクロ波テレビジョンの中継は広くFM中継方式が利用されてい る。これはクライストロンによるFM変調が容易であり多段中継の場 合にヘテロダイン中継が出来て、この場合振幅制限して回路をC級増 巾にさす便利さがある。このため全回路の直線性を維持することが比 較的簡単に出来る。 勿論FMの変調指数は映像信号の最高変調周波数が45MCにも及 ぶため一般に低くFMとしての改善係数は少ない。 又波形は非対称であり、帯域巾は普通20MC程度を必要とする。 5.テレビジョン中継の伝送規格 テレビジョンの信号を歪みなく中継するにはかなり厳格な要求を満 さねばならぬ。現在我国ではかような規格が決定していないので、次 にCCIF(Comite Consultatif International
Telepho-nique)の暫定規格を示そう。 中継距離1000Km伝送后に於ける映像信号の出力規格は次の様に 定める。 1.必要な伝送周波数帯(30C/S~3,000KC/S)にて次の規格を 満足すること (a)30C/S~200KC/Sの位相周波数特性は0又は360°の整数 倍の0周波数を遮る直線から±60以内に推移してはならない。 (b)200KC/S以上の群遅延時間は±0.1μS以内に均一になること。 (c)利得周波数特性は±2db以内に均一なこと。 2.映像信号と音声信号との伝播時間差 両チャンネルの最小群遅延時間の差は0.1sec以内のこと 3.映像信号(同期信号を除く)のピーク対ピーク電圧とノイズのピ ーク対ピーク電圧の比は (a)突発的なインパルスノイズに対しては30db以上 (b)連続的なランダスノイズに対しては35db以上 (c)周期的ノイズに対しては50db以上 4.混信 ノイズの妨害と同様に表わされ他の伝送系(テレビジョン又は電
-13-話)からの妨害は50db以上 5.非直線歪 これは少なくとも45dbの信号振幅の変化に対して無視できること 6.諸外国テレビ中継回線の現状 各国共この数年間にテレビジョン中継回線が建設され、国内テレビ ジョン普及に大きな努力が傾けられて来た。いづれも1000~4000 MC帯のマイクロ波が使用されており、英国では有線同軸回線も併行 に布設使用を見ている。 (1)アメリカ アメリカでは現在第2図のようなテレビジョン中継網が完備され 1951年9月以降New York-Chicago-OmahaーSan-Francisco 4800哩107(端局を含めて)中継の大陸横断回 線がATTの4000MC/Sのテレビジョン中継網により完成され (輻射出力0.5Wで平均の中継間隔28哩)全アメリカに中継され ている。他方これまで既に施設を見た同軸ケーブルによる有線中継 網もマイクロ波の施設と併用されている。
尚最近Maiami. New Orleans, Tuls Oklahoma, Ft Worth Dallas, San Antonia, Honstonまで中継し 得るとのことである。 この外、各テレビジョン局でもかなり長距離に亘る中継網を有し ている。NBCが使用しているNew York、Washington間の中継回線は中間のPhila-delphiaやBaltimoreにも中継され、New York、 Philadelphia間はphilico会社のものであり、6000M.C 帯が使用され、途中Neshanic、Laurel山の二ヶ所で、そ れぞれ出力1Wで中継している。この外の残部はRCAとNBCの もので、6900~7000MCが使用されている。 この他、GE会社のしようのものにNew York-Schnenectady 間の無線中継回線があり使用波長は2000MCで途中、Beacon Round山頂、Helderbergでそれぞれ10Wで中継してい る。又Federal会社ではNashville-Lousville間164哩を途中5中継( 無人化)している。
-15-(2)イギリス イギリスは第3図のように各都市間に長距離用として同軸ケーブ ルによる有線中継網と無線中継網が併用されており、London-Brurmingham-Manchester間は有線中継で、Manchester -Edinburgh間は4000M.Cのテレビ専用回線になっている。 尚、London-Bermingham間は900M.CのFM中継もあ ったが最近休止したようである。 第3図 イギリスのテレビ中継網
-16-(3)フランス フランスはパリ-リール間に900M.Cと3770M.Cの両テレビ中 継回線があり前者はPTF、后者はPTTに属し進行波管を用いた マイクロ波回線で3ルート建設され、1つは8/9本のテレビ中継 に他の2ルートは240通話路を電話に用いられている。 第4図 フランス ルール中継回線 (PTT回線)
-17-(4)ドイツ ドイツはHamburg-Koln間を1755MCで中継して いる。 尚走査線は625本である。 (5)其の他国際間の中継 上述の外カナダ、メキシコなどでもマイクロ波のテレビ中継回線 を有しているが、特に興味あるのはイギリスと欧州大陸間の国際中継 網の問題である。 今回イギリスの戴冠式の実況中継には第5図のようにLondon からの405本の映像をPTF回線でParisに中継し、ここでイ ギリスの標準方式からフランスの標準方式441本と819本に変 えて放送している。更に405本の映像はCasselから分岐し、 Belgiumを経てBredaに中継され、こゝで625本に変更さ れてHilversum Hamburg、FrankfurtにCmで中継されている。 Hamburg、W. Berlin間200MC帯で中継している。
-19-7.我が国のテレビ中継 わが国でも戰後NHK技術研究所でマイクロ波によるテレビ中継の 研究が進められ昭和25年11月には周波数4000MC/S、出力0.5 Wで東京-双子山間72Kmの中継に成功し、その后数次の伝播試 験を経て、東京-名古屋-大阪間全長464Kmの中継ルートとし て第6図のように東京-双子山-牧ノ原-名古屋-霊山-生駒(大阪テレビ実験局送信所)を結ぶルートが決定された。 同時に進行波管を使用した長距離用のテレビ中継装置の研究を昭和 26年7月から開始し使用機器の国産化を計りそれぞれ優秀な結果を 得て 昭和27年10月現地中継所に設置された。越えて 昭和28年1月我が国初の長距離中継回線として東京-名古屋-大阪を結ぶに到った。 昭和28年1月中継回線の開通以来4月までは経済的見地から東京 -双子山間は東京テレビ放送電波を利用して双子中継所からマイク ロ波で中継していた。然しVHFの東京テレビ放送電波を利用するこ とはマイクロ波に比し解像度が著しく劣化するので5月以降は東京 -双子山間もマイクロ波中継に変更し使用した。 尚8月以降は双子中継所に全進行波管式テレビジョン中継機を使用 し各中継所導波管切換器により上下両回線用になった。 次にNHK東-名-阪テレビ中継回線用中継機について記述する。 中継機の設計上問題となったのはSHF用増巾管であり、設計当時 モルトン管や二空洞クライストロンはその製作が困難であり、且つ帯 域特性も狭く将来期待し得ないと見込んで日本で最初に進行波管増巾 器を使用することにした。尚設計当時進行波管を中継回線に実用に供 しようとした例はなくこの点大きな飛躍であった。他方アンテナ利得 の増大については経済的な見地並に鉄塔への取付けについて口径4m のパラボラを設計した。この二つの考え方は最近の海外事情が明らか になるに及びイギリスSTC中継機と同一傾向にあることが明らか にされた。
-21-中継方式についてはFM中継によるヘテロダイン中継方式を採用し 送受周波数を4,000MC及び4045、4045MC及び 4,000MCを交互に用い、中継機の受、送両周波数の偏位方式につい ては種々の方式について検討したが、結論として二重スーパーヘテロ ダイン方式中継機と全進行波管中継を考慮した。 ○送信端局 送信端局の構成は第7図のようであり、クライストロンのリペラー 電圧に映像信号を重畳して直接変調してその出力を進行波管2段増巾 して出力3Wを得る様にした。 第7図 マイクロ波中継回線送信端局 尚、この場合映像信号による周波数変調は同期信号の頭の周波数を一定に
-22-おさめる様に工夫し、マイクロ波出力の一部をAFC用副導波管に取 り出して定在波型周波数辨別器に加えその途中にTR管を利用したス イッチ回路を挿入し、これに外部より同期パルスの瞬間だけ辨別器の 方にマイクロ波信号を通すようにした。 ○通り中継機 通り中継機の構成は第8図のような二重スーパーヘテロダイン法であ る。 第8図 マイクロウエーヴ中継回線通り中継機
-23-この方法は第1、第3混合用の局部発振器がクライストロン1本で共 用出来、第2局部発振器周波数を第1、第2中間周波数の差周波数と し且つ水晶制御にすれば受信周波数が安定化していれば第1局部発振 器の周波数変動が送信周波数の変動にならない利点がある。 このため周波数の選定は次のようにした。 入力周波数 f1=4000MC 第1、第3局部発振周波数 f2=3930MC 第1中間周波数 f3=70MC=f1-f2 第2局部発振周波数 f4=45MC=f6-f1=f5-f3 第2中間周波数 f5=115MC=f1-f2+f4 出力周波数 f6=4045=f1+f4 従ってf4としては水晶発振器を使用すればよく、f5の周波数の 中心部を中心に働くようAFCをかけている。 又SHF増巾器としては進行波管3段増巾器を使用し、出力3Wを得た。 尚通り中継機の理想型式は全進行波管式テレビジョン中継機と考え て別に東芝との間に共同研究をすゝめていた中継機が本年6月完成し ていたので8月上下回線に変更する際、双子中継所に設置し実用化と 計った。第9図は全進行波管式中継機の構成を図示したものである。 第9図 全進行波管式テレビジョン中継機
-24-進行波管7本を使用し初段に低雑音型を、終段に出力管を使用してい る。尚途中の周波数変換管には鉱石混合器を使用しAGC方式には 機械的に抵抗減衰器を動かす方法を使用しているが、今后はマイクロ 波gyratorによる方式に変える方針である。 綜合のノイズフィギヤは13dbで周波数特性は20MCの帯域に渉 って利得変化2db以内で送信出力3Wである。 ○受信端局 名古屋受信端局は中 継機モニター出力を、生駒 受信端局は第10図の構成 の受信機を使用しAFC 回路としては同期パルス の周波数を固定するよう にしてある。尚東京受信 端局も殆ぼ同一型式のも のである。 ○送受信用パラボロイドアンテナ アンテナは第11図のような パラボロイドアンテナで励 振用ホーンにしてあり導波管開口はポリフォーム を糊付けして防水裝置にしてある。利得は約40db 以上で半値巾は水平1,34°垂直1,44°である。 中継機は極めて安定に動作し充分その機能を発揮 してその目的をはたしている。 第10図受信端局装置 第11図 パラボロイドアンテナ 8.各国テレビジョン中継回線の比較 各国テレビジョン中継回線とその機器の性能は最近各種の文献でか なり明らかになったので、これらの資料より比較をしたのが第1 表~第3表である。機器の構成はいづれも大同小異であるがアメリカ ATT回線と類似名方式をとっている。又モルトン管から進行波管に
-25-移行して来た傾向にある。 9.テレビジョン中継の今后の問題 以上述べたように、わが国でも現在テレビジョン中継技術は大体諸 外国の水準にまで立ち到っているので、今后は更に全進行波管中継機 の簡易化、中継機操作の無人化に一層の努力を払う必要を認める。又 現在のようにFM中継の場合には多段に中継するほど雑音電力が累加 され、最終端局のS/Nは距離と共に著しく低下するからこれを避ける ためにPCM、Delta Codulationよるテレビジョン中継が望ま しく、更にテレビジョン中継方式にinformation Theoryを応用し 撮像管に可変速度走査を使用して帯域巾を低減する方式など今後の研 究課題と思われる。 以上テレビジョン中継の現況について諸外国の状況やわが国の現状 の大要を記述した。もとよりテレビジョンの中継はテレビジョンプロ グラムを豊富に提供できる点や、プログラムの経済面からもテレビジ ョン放送実施上重要な問題であり更には今后国際間中継の問題も新し く展開されるものと思われる。 これからは必ずわが国技術の粋により解決され、近き将来全国主要都 市がテレビの恩恵に浴し、国際間中継の開かれんことを望むものであ る。