は じ め に 当科における癒着性中耳炎の手術成績と し て は, 1978∼1994年の17年間の手術例83例88耳(男性46例,女 性37例,6∼66歳)に つ い て1995年 に 報 告 し て い る が1) ,術後鼓膜所見は正常60%,癒着30%, 孔10%で, 術後聴力成績 は 成 功 率55%(臨 床 耳 科 学 会 判 定 基 準 (1987)2) )であった. 当科では手術時に再癒着防止策として,当初は中耳の 換気能改善を期待する粘膜移植や誘導を中心とした方法 を行っていたが,2000年代前半頃からは従来の方法に加 えて陥凹を物理的に防止する薄切耳介軟骨を用いた cartilage tympanoplastyを中心として行うようになった. この転換の妥当性について,癒着性中耳炎の病態や手術 法の変遷とともに検討を行った. 癒着性中耳炎に対する鼓室形成術は,再癒着防止を図 りつつ良好な聴力を維持することが非常に難しいため, 現在でも手術成績は概して良好でない.しかし,全癒着 例であっても,若年者で術前の乳突腔の含気が良い場合 には良好な術後経過が期待できる症例もある.そこで, 手術時の年齢や術前の中耳の含気度が予後の推定に有効 な 因 子 で あ る か 否 か に つ い て も,cartilage tympano-plastyを中心として行うようになった2006年以降の手術 症例をもとに検討した. 対象と方法 当科での癒着性中耳炎に対する鼓室形成術における癒 着防止法としては年代とともに変遷があり,1990年代中 頃までは鼻粘膜などを用いた岬角の露出した骨面への粘 膜移植や,シリコンシートを用いて耳管からの粘膜を鼓 室・乳突洞へ誘導する段階的手術など,中耳の換気能改 善を期待する方法を中心に行っていたが,1990年代後半 からは耳介軟骨を用いた陥凹防止策の採用例が増加し, 2000年代前半には薄切耳介軟骨を用いた方法が主となっ た.さらに2000年代の後半からは全面癒着型の症例を中 心に,薄切耳介軟骨を短冊状に形成して鼓膜の再建に用 いる palisade cartilage tympanoplasty も行うようになっ
奥田 匠 松田 圭二* 中島 崇博 後藤 隆史 我那覇 章 東野 哲也 宮崎大学医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科 * まつだ耳鼻咽喉科 宮崎サージクリニック 日耳鼻 124: 756―762,2021
癒着性中耳炎に対する鼓室形成術の手術成績
1995∼2018年に施行した癒着性中耳炎に対する鼓室形成術148例を検討した結 果,対象症例の軽症化の傾向が見られた.粘膜移植等を中心とした癒着防止策を 行っていた1978∼1994年の既報の成績と,cartilage tympanoplasty を中心として 行った2006年以降の成績を比較したところ,術後鼓膜正常例が60%から83%,聴 力成績の成功率が55%から67%へ改善が見られた.2006年以降の例で,術前 CT での含気の所見が上鼓室まで認められる例および乳突腔まで認められる例を含気 良好群,同部に含気を認めない例を不良群として術後聴力成績を比較したとこ ろ,成功率は前者が84%,後者が46%で有意差を認めた(P =0.002).含気良好 群の年齢が平均31.1歳に対し不良群は平均51.8歳と,前者で有意に年齢が低かっ た(P <0.001).聴力成績では成功例の年齢が不成功例の年齢に比較して有意に 低かった(P <0.001).手術適応や時期を検討する際,若い年齢,CT での中耳 の含気が良好な所見は,高い聴力成績が期待できることが示された.一方,高齢 で含気が抑制された耳では,段階的手術で対応しても,必ずしも聴力改善に結び つかない.このような例では,補聴器の装用を前提とした耳漏を来しにくい外 耳・鼓膜形態を目指した術式や,人工聴覚器を念頭に置いた治療方針を検討すべ きである. キーワード : 癒着性中耳炎,軟骨鼓室形成術,外耳道後壁保存,聴力成績原
著
た.上鼓室まで含気が認められる例および乳突腔まで含 気が認められる例で,アブミ骨周囲から岬角にかけての 広汎な粘膜欠損や肉芽増生を認めない例では一期的に伝 音再建を行い,それ以外の例では段階的手術の方針とし ている. まず,当科での残存する手術記録を確認し得た1995∼ 2018年(2004年と2005年は手術記録が残存しておらず除 いた)の22年間の癒着性中耳炎に対する鼓室形成術の手 術例148例について,手術件数の年次推移とともに鼓膜 所見から見た分類(全面癒着型と後半部癒着型)の割 合,段階的手術の割合,分類毎の段階的手術の割合につ いて検討した. 次に,先述の cartilage tympanoplasty が術式の中心と して定着した2006年以降の64例で,男女比,年齢,術 側,鼓膜所見から見た分類(全面癒着型と後半部癒着 型),術後観察期間,癒着防止策,術後成績(鼓膜所見, 聴力成績の成功率),伝音再建別の聴力成績の成功率を 検討した.聴力成績の判定は日本耳科学会判 定 基 準 (2010)3) による. さらに,同期間において術後も CT による画像評価を 施行した59例について,術前含気度と術後聴力成績の成 功率ならびに術後の含気度について検討した.術後の CTは 術 後1年 を 目 処 に 撮 影 し た.統 計 解 析 は Excel 2016Ⓡ によりχ2 検定を行った.また,手術時年齢と術 前含気度ならびに術後聴力成績の成功率についても検討 した.統計解析は Excel2016Ⓡ によりt検定を行った. 含気度は,耳管からの距離に応じて,含気が全く見られ ない例から中鼓室まで含気化している例を含気不良群, 上鼓室まで含気が認められる例および乳突腔まで含気が 認められる例を含気良好群として検討した(図1). 本報告は,宮崎大学医学部医の倫理委員会の承認を得 たものである(第0―0752号). 結 果 1995∼2018年(2004年と2005年を除く)の癒着性中耳 炎の手術例148例の年次推移を見ると,鼓膜所見から見 た分類では全面癒着型が40%(59例)で後半部癒着型が 60%(89例)であった.全体として鼓室形成術を行った 症例数については減少傾向にあり,全面癒着型に対する 手術が減少し,後半部癒着型に対する手術の比率が増加 していた(図2).手術方法としては一期的に行ったも のが78%(116例),段階的に行ったものが22%(32例) であった.近年では段階的手術の割合が減少している (図3).段階的手術は,全面癒着型では39%(23例)で 選択されていたのに対し,後半部癒着型で選択されたの は10%(9例)であった. 図 1 CTによる含気評価の方法 a : 含気が全く見られない. b : 耳管鼓室口または中鼓室まで含気している. c : 上鼓室まで含気している. d : 乳突腔まで含気している.
cartilage tympanoplastyが術式の中心として定着した 2006年以降の64例では,男性36例,女性28例,右39例, 左25例,年齢5∼76歳(平均41.2歳)であった.鼓膜所 見から見た分類では全面癒着型が19例,後半部癒着型が 45例であった.一期的に行われた例が57例,段階的方針 で行われた例が7例であった.観察期間は6カ月∼13年 (平均3.4年)であった(表1). 癒着防止法としては89%(57例)で薄切耳介軟骨が用 いられ,シリコンシートの留置が20%(13例),鼓膜換 気チューブの留置が1.6%(1例)であった(表2). 最終的な鼓膜所見は正常83%(53例),内陥9%(6 例),癒着例なし, 孔5%(3例),鼓膜換気チューブ 留置中ならびにコレステリン肉芽腫による外耳道後壁腫 脹による鼓膜観察困難が各1.6%(1例)であった.一 期的でも段階的でも正常例が8割以上であった. 聴力成績判定での成功率は69%(44例)で,手術方法 別に見ると,一期的に行った例での成功率は72%(41 例)であったが,段階的に行った例では43%(3例)で あった(表3).聴力改善成績を伝音再建別に見ると, Ⅰ型 が90%,Ⅲi―Mが80%で,Ⅲc,Ⅳcの 成 績 は 40∼50%台と芳しくなかった(図4).聴力成績につい て日本耳科学会判定基準(2010)では1年以上経過観察 したものが望ましいとされるが,本検討では観察期間が 6カ月の例も含まれている. 表 1 2006年以降の64例の内訳(※段階的方針での二期手術未実施4例 : 全面癒着型を除いた) 一期的(57) 段階的(7) 全例(64) 男 女 年齢(歳) 右 左 全面癒着型 後半部癒着型 観察期間(年) 32 25 38.4(5∼76) 35 22 14 43 2.9(0.5∼11) 4 3 63.4(52∼71) 4 3 5 2 7.9(2∼13) 36 28 41.2(5∼76) 39 25 19 45 3.4(0.5∼13) 表 2 癒着防止策 一期的(57) 段階的(7) 全例(64) 薄切軟骨 50 7 57(89%) シリコンシート留置 7 6 13(20%) 鼓膜換気チューブ留置 1 0 1(1.6%) 図 3 手術方法の年次推移(n=148) 近年では段階的手術の割合が減少している.図中 括弧内は症例数. 図 2 鼓膜所見分類の年次推移(n=148) 手術件数は減少傾向にあり,全面癒着型に対する 手術が減少し,後半部癒着型に対する手術の比率 が増加していた.図中括弧内は症例数.
術後の画像評価も施行し得た59例についての検討で は,聴力成績の成功率は含気不良群が46%(13例),含 気良好群が84%(26例)と,含気良好群で統計学的に有 意に成功率が高かった(Χ2=9.205 ; P =0.002).全面 癒着型と後半部癒着型に分けて検討すると,全面癒着型 での成功率は含気不良群では37%(7例),含気良好群 では50%(1例)(Χ2 =0.133 ; P =0.716),後半部癒着 型での成功率は含気不良群では67%(6例),含気良好 群では86%(25例)(Χ2 =1.745 ; P =0.186)であった. いずれも統計学的有意差は認められなかったが,術前の 含気度が良好なほど聴力成績が良好な傾向が見られた (図5). 術前含気度と術後の含気度の関係を見ると,含気良好 群では87%(27例)が術後も含気良好であったのに対 し,含気不良群では術後に含気良好となったのは36% (10例)で,術 前 CT で よ く 含 気 さ れ て い る 例 ほ ど 術 後 の 再 含 気 化 も 良 か っ た(Χ2 =16.610 ; P <0.001) (図6). また,術前含気良好群の年齢が平均31.1歳(6∼76 歳)であるのに対し,含気不良群では平均51.8歳(7∼ 75歳)と,前者の年齢が有意に低かった(t=1.67,P =0.000823).術後の聴力成績に関しても成功群の年 齢 の 方 が 有 意 に 低 か っ た(t=1.67,P =0.000558) (図7).先述(図4)の聴力改善成績を伝音再建別に見 て80∼90%と良好であったⅠ型,Ⅲi―Mの例では術前 含気不良例は24%と少なく,平均年齢も29.8歳と若年で あったが,40∼50%と芳しくなかったⅢc,Ⅳcの例で は,術前含気不良例が81%と大半を占め,平均年齢も 58.7歳と高かった. 後壁腫脹で観察不能 1 0 1(1.6%) 聴力成績の成功(率) 41(72%) 3(43%) 44(69%) 図 4 伝音再建別聴力成績 伝音再建別に見ると,Ⅰ型が90%,Ⅲi―Mが80% で,Ⅲc,Ⅳcの成績は40∼50%台と芳しくなか った.図中括弧内は症例数. 図 6 術前含気度と術後の含気度 術前 CT でよく含気されている例ほど術後の再含 気化も良好であった.図中括弧内は症例数. 図 5 術前含気度と聴力成績 聴力成績の成功率は術前含気良好群で良好な結果 であった.図中括弧内は症例数.
考 察 癒着性中耳炎に対する鼓室形成術は,再癒着防止を図 りつつ良好な聴力を維持することが非常に難しいため, 現在でも手術成績は概して良好でない.それゆえ,手術 治療の対象については,伝音難聴が軽度な段階での手術 適応・時期には議論が多い.耳漏や難聴など明確な症状 を示すまで手術の対象としない4) とする施設も多いが, 聴力が正常範囲でも遅滞なく手術を行うことで病変の進 行を防止し,長期的な予後を保障する5)6) とする意見も ある.癒着性中耳炎に対する主な治療目的は,1)耳漏 停止および真珠腫形成の回避,2)聴力改善および感音 難聴の進行回避,である7) .むろん両者を達成すること が可能であれば理想的であるが,困難であることも多い 疾患である旨を十分に患者に説明し,手術の目的と意義 を共有した上で臨むことが重要であると考えている.当 科の手術症例の年次推移のなかでは件数の減少傾向が見 られ,病態においては全面癒着型に対する手術は減少 し,後半部癒着型に対する手術の比率が増加してきた. しかし,先述の手術に臨む上での方針は当初より変わっ ておらず,適応を制限するようになった経緯はない.し たがってこの傾向,すなわち疾病頻度の減少と考えられ る手術件数の減少傾向ならびに全面癒着型の減少という 病態の変化は,当科の医療圏での癒着性中耳炎の軽症化 の結果と考えられる.近年中耳炎の軽症化が報告されて おり8)9),抗菌薬の発達や小児急性中耳炎に対するワクチ ン接種環境の整備,診療ガイドライン策定の効果等によ る一般的な傾向と考えられる. 当科における癒着性中耳炎の手術成績と し て は, 1978∼1994年の17年間の手術例83例88耳(男性46例,女 性37例)について1995年に報告しており1) ,術後鼓膜所 見は正常60%,癒着30%, 孔10%で,術後聴力成績は 成功率55%(臨床耳科学会判定基準(1987)2) )であっ た.当時の癒着防止法では癒着鼓膜剥離のみの例も25% と多く,ゼルフィルムⓇ やシリコンマスの留置や粘膜移 植など中耳の換気能改善を期待する術式が68%と中心 で,軟骨を用いた例は4%であった.陥凹を物理的に防 止する薄切耳介軟骨を用いた cartilage tympanoplasty を 術式の中心とした2006年以降の今回の検討では,術後鼓 膜正常83%,術後聴力成績成功率69%(日本耳科学会判 定基準(2010)3))と,判定基準の違いを考慮に入れて も,術後鼓膜所見と聴力成績の成功率のいずれにおいて も改善を認めた.1994年以前の既報の対象例の個別のデ ータが残存していないため,年齢や中耳の含気の状態, 病態の重症度等を考慮に入れた厳密な比較は困難である が,それらが2006年以降と同程度であったと仮定すれ ば,この術式の転換は妥当であったと考えられる.しか し,当科の手術症例の年次推移のなかで軽症化の傾向が 見られたことから,術式の転換は治療成績向上の一因と なった可能性はあるものの,その是非についての明確な 結論は出せなかった.いずれにせよ既報の成績は満足の いくものではなかったため,治療成績の向上を目指して われわれは以下のように考え cartilage tympanoplasty を 術式の中心として採用するに至った.すなわち,癒着性 中耳炎の成因は耳管機能を中心とする中耳の換気障害や 遷延する中耳腔の炎症と考えられているが,耳管機能が 正常な例もあり,いまだ完全には解明されていない.原 因が不明な以上,結果に対する方策を考える以外にな い.従来通り手術の際には耳管をはじめ中耳の換気ルー トの確保に最大限の努力を払った上で,鼓膜の陥凹部に はそれなりの,陥凹しなかった部分にもやはりそれ相応 の理由があるものと考え,後者はそのままに,前者を中 心にやや大きめの薄切耳介軟骨を用いて強化再建するの が最も理にかなった方法ではないかと考えた.
いわゆる difficult ear に対する軟骨を使った palisade techniquesは,1970年 代 は じ め に Heermann に よ り 報 告10) され,その後,多くの方法が考案,追試された.軟 骨使用による伝音効率の低下に関しては,厚さが 0.5 mm以下であれば正常鼓膜と比較して許容範囲とされ 図 7 年齢と術前含気度・聴力成績 a : 年齢と術前含気度 : 術前含気良好群で有意に年齢が低かった. b : 年齢と聴力成績 : 術後聴力成績の成功群で有意に年齢が低かった.
ようにしている.上鼓室や後鼓室病変,コレステリン肉 芽腫等の処理のため必要例には乳突削開を行い,キヌタ 骨長脚の消失例ではキヌタ骨を摘出し,ツチ骨頭も切除 して,上鼓室前骨板の削除と顔面神経窩の開放により, 前方ならびに後方の換気ルートを十分に開存させてい る.伝音再建のためにアブミ骨底板の可動性を確認し, 近年では,後の人工中耳 VSB(Vibrant SoundbridgeⓇ ) 手術の可能性も考えて正円窓窩にアプローチが可能か否 かも同時に確認している.残存鼓膜が利用できる場合は 利用し,利用できない場合には遊離筋膜で鼓膜を形成し ている.シリコンシートを耳管鼓室口から顔面神経窩に 続く空間に1枚,中∼下鼓室に1枚置き,短冊状に切っ た薄切軟骨(軟骨膜付き,0.4mm 厚)を,シリコンシ ート上を滑らせるように形成鼓膜に短冊状に移植しフィ ブリン糊で接着する.一期的に伝音再建する場合には, シリコンシートを抜去して伝音再建している.段階的な 伝音再建を目指す場合にはシリコンシートを抜去せずに 留置し1年後に伝音再建を計画している.この選択は, 対側耳の状態についての考慮も必要で一律な規定は難し い面もあるが,原則的には中耳腔の含気の有無と,アブ ミ骨周囲の粘膜の状態をもとに行っている.すなわち, 上鼓室まで含気が認められる例および乳突腔まで含気が 認められる例で,アブミ骨周囲から岬角にかけての広汎 な粘膜欠損や肉芽増生を認めない例では一期的に伝音再 建を行い,それ以外の例では段階的手術の方針としてい る.cartilage tympanoplasty は,本邦における諸家の報 告13)14) でも再含気化率,乾燥治癒率ならびに聴力改善率 がほかの術式に比較して高く,癒着性中耳炎の手術法と して優れた方法と考えられるため,当科での治療成績の 向上の一因となった可能性があると考えられる.しか し,一定数の成績不良例が残されるのも事実である. 経験的には,全面癒着型の症例であっても,若年者で 術前の乳突腔の含気が良い場合には良好な術後経過が期 待できる例もあることを感じていた.本検討で明らかに なったことは,手術適応や時期を検討する際,若い年齢 と術前の乳突腔の含気が良好な所見は,鼓室内病変が軽 いことを示す良い指標になり,多くは一期的手術で対応 可能で,高い聴力成績が期待できることである.一方, 高齢で含気が抑制された例では,鼓室内病変が高度で耳 れていることが挙げられる.阪上らは,2018年(第119 回)の日本耳鼻咽喉科学会総会の宿題報告で,中耳真珠 腫に関しての再発率に影響する因子の一つとして経過観 察期間を挙げ,経過観察期間が長いほど再発率は増加す ると述べている15).これは癒着性中耳炎について述べら れたものではないが,緊張部型真珠腫の stage Ia は臨床 的には癒着性中耳炎(後半部癒着型)として取り扱われ ており,鼓膜全面の癒着病変を伴うものは中耳真珠腫の 進展度で stage III と分類され,病態には重なる部分も あり,参考になると思われる.今後も再陥凹の有無につ いて長期の経過観察と検討の継続を要すると考えてい る.しかし,当院の所在地や交通の便など地理的要因も あり,術後1∼2年を経ると,遠方,高齢などの理由で 地元の紹介元施設への逆紹介の希望により,当科での経 過観察からの脱落例が少なくない現状がある.克服すべ き課題の一つである. ま と め 1) 当科での1995∼2018年の癒着性中耳炎に対する鼓 室形成術148例の病態および術式の年次推移について検 討した結果,対象症例の軽症化の傾向が見られた. 2) 1978∼1994年の当科の既報の手術成績と,2006年 以降の手術成績を比較したところ,改善が認められた. これは,中耳の換気能改善を期待する粘膜移植等を中心 とした方法から,陥凹を物理的に防止する薄切耳介軟骨 を用いた cartilage tympanoplasty を中心とした方法への 方針の転換も一因と考えられた. 3) 手術適応や時期を検討する際,若い年齢と乳突腔 の含気良好な所見は,鼓室内病変が軽いことを示す良い 指標になり,多くは一期的手術で対応可能で,高い聴力 成績が期待できることが示された. 文 献 1)牧野浩二, 稲葉順子, 東野哲也, 他 : 癒着性中耳炎手術 成績の検討. Otol Jpn 1995 ; 5 : 26―31. 2)日本臨床耳科学会用語委員会 : 鼓室形成術の成績判定に ついて(提案). 臨耳 1987; 14: 306―307. 3)東野哲也, 青柳 優, 伊藤 吏, 他 : 伝音再建後の術後 聴力成績判定基準(2010). Otol Jpn 2010 ; 20 : 751―753.
4)小島博己 : 癒着性中耳炎の診断と治療. 日耳鼻 2011; 114: 632―635.
5)飯野ゆき子 : 癒着性中耳炎の治療 外耳道再建型鼓室形 成術の手術成績. Otol Jpn 2006 ; 16 : 13―16.
6)Dornhoffer JL : Surgical management of the atelectatic ear. Am J Otol 2000 ; 21 : 315―321. 7)東野哲也 : 癒着性中耳炎の治療―外科的聴覚管理のオプ ション―. Otol Jpn 2006 ; 16 : 17―20. 8)林 達哉 : 小児急性中耳炎難治化は解消したか?―現状 分析と抗菌薬の適正使用―. 耳展 2016; 59: 170―176. 9)都築建三, 曽根美恵子, 梅本匡則, 他 : 慢性中耳炎・真 珠腫性中耳炎の軽症化についての検討. Otol Jpn 1999 ; 9 : 149―154.
10)Heermann J Jr, Heermann H, Kopstein E : Fascia and cartilage palisade tympanoplasty. Nine years’ experi-ence. Arch Otolaryngol 1970 ; 91 : 228―241.
11)Zahnert T, Hüttenbrink KB, Mürbe D, et al : Experimen-tal investigations of the use of cartilage in tympanic membrane reconstruction. Am J Otol 2000 ; 21 : 322― 328.
12)Neumann A, Schultz―Coulon HJ, Jahnke K : Type III tympanoplasty applying the palisade cartilage technique : a study of 61 cases. Otol Neurotol 2003 ; 24 : 33―37. 13)市村恵一, 石川浩太郎, 中村謙一, 他 : 癒着性中耳炎に
対する cartilage palisade tympanoplasty の経験. 日耳鼻 2009; 112: 474―479. 14)田中康広, 小島博己, 吉田 隆, 他 : 鼓膜緊張部癒着に 対 す る cartilage tympanoplasty の 有 用 性. 耳 展 2009; 52: 16―22. 15)阪上雅史 : 宿題報告2018 QOL からみた耳科手術戦略. 第119回日本耳鼻咽喉科学会総会宿題報告. 中西印刷 ; 2018: 41―51頁. 利益相反に関する事項 : 筆者らは開示すべき利益相反を有 しない. (2020年8月6日受稿 2020年11月27日受理) 連絡先 〒889―1692 宮崎市清武町木原5200 宮崎大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科 奥田 匠
Tympanoplasty for Adhesive Otitis Media
Takumi Okuda, M.D., Ph.D., Keiji Matsuda, M.D., Ph.D.*, Takahiro Nakashima, M.D. Takashi Goto, M.D., Akira Ganaha, M.D., Ph.D. and Tetsuya Tono, M.D., Ph.D.
Department of Otorhinolaryngology, Head and Neck Surgery, Faculty of Medicine University of Miyazaki *
Matsuda Jibiinkouka, Miyazaki surgiclinic
We examined the data of 148 cases of tympanoplasty performed for adhesive otitis media from 1995 through 2018. The number of mild cases increased. We mainly performed mucous membrane transplantation as a preventive measure against adhesion from 1978 through 1994 ; after 2006, mainly cartilage tympanoplasty was performed. We compared the results between the two procedures. The ratio of cases with postoperative eardrum normalcy improved from 60% to 83%, and the success rate of hearing gain improved from 55% to 69%(former period vs. latter period). In the cases treated after 2006, we compared the hearing gain between the group that showed good pneumatization to a epitympanum or a mastoid cavity(84%)and the group which showed poor pneumatization only to a tympanic cavity on preoperative CT (46%); the former group showed a significantly high success rate of hearing gain(P=0.002). The mean age of the patients was 51.8 years old in the poor preoperative pneumatization group as compared to 31.1 years old in the group with good pneumatization in the preoperative CT. The patients in the good preoperative pneumatization group were significantly younger(P<0.001). The patients who showed good postoperative hearing were significantly younger(P< 0.001). Young age and good pneumatization on the preoperative CT were shown to be predictors of good results of hearing, in case of considering the surgical indication and time. On the other hand, the hearing gain was poor in the patients with poor preoperative pneumatization who were of advanced age, even if planned staged tympanoplasty was performed. In such case, we should adopt the surgical procedure aimed at an ear canal or the eardrum form that was hard to cause otorrhea assuming the wearing of the hearing aid, otherwise examine the treatment policy that we took an option of the artificial hearing device into consideration.
Keywords : adhesive otitis media, cartilage tympanoplasty, canal wall up, hearing gain