病床機能報告の病棟単位分析による病棟転換率等の分析
岡本 悦司
福知山公立大学
キーワード: 病床機能報告,地域医療構想,ナショナルデータベース , データウェアハウス
An analysis of the conversion of wards into different functions using the
Administrative Reports on Hospital Bed Function by ward matching technique
Etsuji Okamoto University of Fukuchiyama
Key words: Administrative Reports on Hospital Bed Function, Regional Medical Care Vision, National Database, data warehousing Abstract:
The Administrative Reports on Hospital Bed Function (ARHBF) was started in 2014 to provide data for facilitating the Regional Medical Care Vision (RMCV) targeted to the year 2025. The RMCV aims at converting excessive acute care wards into less-costly chronic or rehabilitative wards. All general hospitals (excluding psychiatric hospitals) and clinics with inpatient beds are required by the Medical Care Act to report detailed data as of July each year and hospital-specific data are published on prefectural governments’ website as a form of Excel files. The author compiled the five-year cumulative data into data warehouse and analyzed the progress of converting ward-specific clinical functions through ward-matching technique. Approximately 30% of acute care wards in 2014 have already converted as of July 2018, and the negative linear correlation between the actual converting rate and the realization rate of the self-proclaimed target suggested the unwillingness of most hospitals for conversion of their ward functions. ARHBF data can be used effectively by data-warehousing to facilitate RMCV.
に監督機関である保健所を事務局として,圏内の医 療機関関係者から構成される地域医療構想調整会議 ( 医療法第30 条の 14) 等を開催し,関係者に医療 圏内の医療需要やその動向を理解してもらい,医療 機関による自発的な転換を期待するものとなってい る . 地域医療構想は,全ての都道府県において2016 年度末までに策定を終え,現在はその構想の実現に 向けた努力が続けられている . 国も2018 年 6 月か ら地域医療構想アドバイザーを任命したり,同年 10 月から病床機能報告において診療実績による基 準を明確化し,実績のない高度急性期・急性期を適 正化している1).2019 年 9 月には,公的病院につい Ⅰ.背景および目的 2025 年度を目標とする地域医療構想が推進され ている . 地域医療構想とは二次医療圏 ( 以下,医療 圏 ) を単位として,一般病院の病棟機能を地域の人 口構造にみあった区分に再編することを目的とする もので,多くの医療圏において,過剰な急性期病棟 を慢性期又は回復期病棟への転換が期待されてい る ( 医療法第30 条の 4 第 2 項第 7 号 ). わが国の医 療法上,都道府県知事は医療計画により,病床の新 設を規制したり,医療機関に対して医療法上の基準 の遵守状況を監視できるが,その機能の転換を強制 する権限はない . それゆえ,地域医療構想とは,主 岡本 悦司 福知山公立大学地域経営学部医療福祉経営学科 TEL: 0773-24-7100 E-mail: [email protected]
調査報告
て診療実績の評価分析に病床機能報告データが用い られ,再編候補として424 病院のデータが公表され たことも注目を集めた2). 病床機能報告は,地域医療構想を推進するための 基本データとすることを目的に,医療法により精神 科病院を除く全病院と有床診療所が毎年7 月 1 日現 在のデータを都道府県への報告が求められるもので あり2014 年より開始された3). 病床機能報告で報 告された医療機関単位のデータはExcel ファイルと して公表されている . 報告項目には,病棟ごとの病 床数に加えて「現在の機能区分」「六年後の機能区 分の予定」が含まれるが,これら機能区分は報告す る医療機関が自主的に選択したものであって,客観 的な指標に基づいて区分されたものではないことに 留意する必要がある . その点国が地域医療構想で示 す必要病床数が,全国共通の算定式に基づき「必要 病床数算定ツール」によって推計されたものとは異 なる4). 2014 〜 18 年 5 年間分のデータがそろったことに より,病棟の転換状況を病棟単位で複数年のデータ を結合することによって,経年変化を分析した . Ⅱ.方法 各都道府県が公開している病院個票データ ( 大半 はExcel ファイル形式 ) をダウンロードし,データ ウェアハウス (DWH,Excel 上でピボットテーブル 操作可能なように加工したもの ) 化して5 年間の推 移を分析した . 同一医療機関,さらに同一病棟の推 移を追跡できるよう,それぞれに医療機関コード, 病棟コードを付番した . 1.医療機関コードの突合 病床機能報告データには医療機関名称と施設所在 地 ( 郵便番号含む ) が含まれているが,医療機関コー ドや電話番号等は含まれていない . 医療経済研究機 構が公開している医療機関コードファイル5)を用 い,郵便番号と名称とで突合し,医療機関コード (10 ケタ . 上2 ケタは都道府県コード ) に変換した . 名 称と郵便番号のみで突合しているため,名称変更が 合った場合には正しく突合できていない可能性もあ る . 2.病棟コードの作成 病院ごとのExcel シートには病棟の名称と現在の 機能区分が記載されている . しかしながら,名称に は「表記の揺れ」が存在するので,左から順に病棟 番号をふり,医療機関コードと合体させて病棟コー ドとした . 単純に左からの順番で付番しているの で,報告年度によって順番が前後すると,異なる病 棟に同一病棟コードが振られる可能性はある【図 1】. なお2016 年診療報酬改定より各病院はレセプトに 病棟コードの記載が義務づけられることとなり,た とえばA 病院の急性期病棟の 2 番目は,19062( 急 性期 )0002 と記載されることとなった ( なお,ど の 病 棟 を 何 番 目 と す る か は 病 院 に 一 任 さ れ て い る ). これにより,同一病院の同一病棟の請求状況 をレセプトデータでは継続的に追跡できるように なったが,病床機能報告には,各病棟の名称と現在 の機能区分 ( 病棟コードの最初5 ケタに相当 ) は記 載されるものの,各病棟が何番目の病棟か ( 病棟 コードの下4 ケタ ) は記載されていない . そのため, 各病院で左から,たとえば4 番目に記載された病棟 は調査期間を通じて同一,とみなしてデータウェア ハウス化せざるをえなかった。したがって,本デー タウェアハウスは,同一病院の合計値を継続観察で きても,同一病棟を継続的に観察することには限界 があることを付言する。
3.データベース化ならびにデータウェアハウス化 各都道府県サイトからダウンロードされた病院個 票Excel ファイルはキューブ化,正規化といった処 理を施してACCESS データベースに収納し,Excel のPowerPivot で操作できるデータウェアハウス化 を行った6).【図2】は,データウェアハウス画面 で,画面左のスライサーで任意の都道府県や医療圏, データ型を選択でき,画面右のピボットテーブル機 能で自在に作表できる (【図2】では 2018 年データ のある都道府県について,2014 年の現在の機能区 分を行,6 年後の機能区分を列にして許可病床数を 表示したもの ). これにより5 年間を通じて病棟単 位で継続して分析可能となった . もっとも【表2】 のような2014 年の 6 年後の機能区分と 2018 年の現 在の機能区分をクロス表示させるような複雑な処理 は,データウェアハウスでは困難なのでACCESS のSQL 言語を用いて行った . 4.データの限界 病床機能報告のうちレセプト件数等の報告は,各 医療機関が独自に調査するのではなく,ナショナ ルデータベース (NDB) から抽出された当該医療機 関のExcel ファイルを送付し,その内容でよければ そのまま返送する,というかたちで収集されてい る .NDB はその法的制約のため十未満の数値が非表 示 (* アステリスク ) となっている7) . その他「未確 認」等の数値以外のデータは本分析には含めなかっ た . そのため,NDB 関連のデータは 10 未満のデー タが含まれておらず過少評価になっている点に留意 する必要がある . とりわけ病棟単位では 10 未満の 数値が多いので,実態とかなり乖離している可能性 がある . 5.分析モデル 各年の病床機能報告は,病棟ごとの現在の機能 区分に加えて「6 年後」の機能区分の予定も調査し ている .2014 年の 6 年後,すなわち 2020 年度の予 定と最新の2018 年度の機能区分とを,病棟を単位 として結合し,どの程度予定通りに転換している かを医療圏ごとに分析する【図3】. 地域医療構想 は2025 年度を目標に,急性期病棟の多くを慢性期 又は回復期に転換させることにあることから,特に 2014 年度の急性期病棟について,その 6 年後の予 定と2018 年度における転換状況を分析する . 分析 も2014 年度と 18 年度との突合可能な病棟データに 限定する . 評価指標として以下の2 つを用いた . ●病棟転換率 ある年とその後の年における「現在の機能区分」 を比較し,区分が異なった病棟数の割合 . 本分析で は2014 年と 18 年の現在の機能区分とを突合,評価 した . 地域医療構想の究極のアウトカム指標であり 絶対評価といえる . ●予定達成率 ある年における「X 年後の予定機能区分」と X 年後の「現在の機能区分」とを比較し,予定通りの 機能区分となっていた病棟数の割合 .X 年間の転換 への努力をあらわすプロセス指標となる . 当初年の 予定そのものが恣意的に設定されているため相対評 価といえる ( 予定そのものを実現しやすい目標に設 定することによって予定達成率を人為的に高くする ことが可能であるため ). 本来なら2014 年の「六年 後の予定機能区分」は2020 年現在の機能区分と突 合して評価すべきだが,2018 年現在の機能区分で 代用した .
3. 使用したデータ項目 病床機能報告のうち本分析で使用した項目は以下 の通り ( 病床機能報告の調査票は,病院単位の施 設票と病棟単位の病棟票とからなっている ). なお データウェアハウスには2014 〜 18 年の 5 年分デー タを収録したが,今回の分析で用いたのは2014, 18 年データのみである . Ⅲ.結果 1.収録した医療圏と病院数 2020 年 5 月末現在に都道府県サイト等でデータ が公表されているデータをデータウェアハウス化 し た【 表2】. 参 考 ま で 2017 年 10 月 現 在 の 医 療 施設調査の一般病院数と比較するとほぼ100% 近 い 病 院 が 報 告 し て い た ( な お2014 年の岐阜,和 歌 山 , 2018 年 の 長 野, 和 歌 山 に つ い て は デ ー タ が 不 整 で あ っ た た め, 分 析 に 含 め な か っ た ). 対象となった都道府県において 2014 年において 六年後の機能区分を明確にしており,かつ 2018 年 施設票・・・病院名称,所在地郵便番号 ( 医療経済 研究機構の公表する医療機関リストとの突合に使 用 ) 病棟票・・・病棟名称,現在の機能区分,六年後の 機能区分 の報告と突合できた病棟は 20,422 あった . 2.医療圏ごとの分析 上 記 の2 指 標 を 医 療 圏 (345 圏 ) 単 位 で 算 出 し た . 圏内の病棟数が100 以上の 63 医療圏について, 病棟転換率の順に示したものが【表4】, 2 指標間の 相関を散布図で示したものが【図4】である . 明ら かな負の直線関係がみられ,2014 年の時点で予定さ れた「6 年後の機能区分」を 2018 年において達成した, すなわち予定通りとなった割合の高い医療圏ほど病 棟転換率が低かった .
Ⅳ.考察 病床機能報告は,2025 年を目標とする地域 医療構想を推進するための有力なデータとして 2014 年度より開始された . そのデータ量は 5 年 分でExcel のワークシート数が 3 万を超える膨 大なものであり,地域医療構想のみならず患者 の医療機関選択等,有効活用が期待される . し かしながら,統計法に基づく統計調査ではない ことからe-stat 等で一元的にデータベース化さ れて提供されるものにはなっていない . 公開は あくまで都道府県のサイト上であり,Excel ワー クシートの体裁こそ統一されている ( 病床機能 報告は制度上は都道府県が収集することになっ ているが,実際には厚生労働省が委託するデー タ処理会社を介して収集されているため ) もの の,提供のしかたは,都道府県ごとにまちまち であり扱いにくい,という難点がある ( 県によっ てはPDF ファイルでしか提供されていないとこ ろもある ). 本研究では,過去5 年間の全個票ファイルを ダウンロードし,データウェアハウス化という処理で Excel 上でピボットテーブルで容易に操作できるように した . 医療機関コードへの変換,病棟コードの付番等の 作業により同一病棟を5 年間にわたって追跡できるよう にしたので,2014 年と突合可能な医療機関分について のみ,当時の6 年後の機能区分予定と 2018 年現在の機 能区分とを病棟単位で比較することができた . 突 合 で き た 病 棟 に つ い て,2014 年 と 18 年 現 在 の 機 能 区 分 に 変 更 の あ っ た 病 棟 の 割 合 ( 病 棟 転 換 率 ) と,2014 年 に 予 定 さ れ た「 六 年 後 の 機 能 区 分 」 と 2018 年「現在の機能区分」とが一致した割合 ( 予定 達 成 率 ) の2 指標で分析した結果,興味深い事実が 明 ら か と な っ た . 突 合 で き た20,422 病棟のうち病棟 転換率は約30%,また予定達成率は約 67.5% にのぼる こ と が 明 ら か と な っ た . 両 者 の 計 は1 に近いが,こ れ に つ い て は 以 下 の よ う な 仮 説 が 考 え ら れ る .「 病 院は基本的に保守的であり,六年後も病棟の機能の変更 は予定しない . 病棟の機能転換は,そうした病院側の『抵 抗』に抗して,『予定』を変更させることが必要である」
というものである . 仮説を検証するため,圏内に 100 以上の病棟を有 する 63 病棟について,病棟転換率と予定達成率と の相関を観察したところ,両者にはきれいな負の直 線関係がみられ,はからずも上記の仮説を裏付け たこととなった . これらの事実は,病床機能報告 の目的である地域医療構想の実現への方策に,きわ めて重要な示唆を与えるものと思われる . 残念な がら,病院が自発的に予定する目標にまかせていて は,病棟機能の転換はすすまない,ということであ る .2025 年までに目的とする転換を実現するために は,病院側に任せるのではなく,ある程度,強権発 動的な圧力も必要であることをこれらの結果は示唆 している . 同 時 に ま た, デ ー タ ウ ェ ア ハ ウ ス 化 作 業 を 通 じ て, 病 床 機 能 報 告 の い く つ か の 問 題 点 も 明 ら かとなった . 第一に,病床機能報告には医療機関 コードが含まれておらず,5 年間にわたって同一医 療機関を追跡するためには医療機関名称と郵便番号 をたよりに医療機関コードを付番してゆく作業が必 要であった . そのため医療機関コードは 100% 正確 ではなく,また 5 年間の間に名称が変わった医療機 関については突合困難であった . もうひとつの限界 は,データ源が NDB であるため法的制約から 10 未 満の数値が非表示となっていること . 今回の分析に は影響はなかったが,この十未満非表示ルールのた め,とくにレセプト件数等は過少評価につながって いる .NDB の法的問題を議論することは本稿の目的 ではないが,NDB は統計法に基づく統計調査ではな く,病床機能報告への活用はその根拠法 ( 高齢者医 療確保法 ) が想定していない目的外使用である点も 病床機能報告データの制約となっている . 最後に,これは病床機能報告そのものの問題では ないが,各病棟の機能区分は自主選択に任されて おり,それらの区分が妥当なものかどうかはチェッ クされていない,という問題がのこる . 幸い,病床 機能報告には NDB より抽出された様々な入院基本料 のレセプト件数が収載されているため,たとえば回 復期に区分される病棟がそれにみあうリハビリテー ションの件数があるかどうか,等病床機能報告デー タそのものを用いて検証することも必要と思われ る . 開始から既に 6 年がたち,病床機能報告はわが国 入院医療の貴重なデータ源として今後一層の活用 が期待され,そのためにもデータウェアハウス化や データベース化といったビッグデータを効果的に分 析する技術が求められよう . Ⅴ.謝辞 2014 年分データの一部については藤森敏雄氏 ( 元 明治安田生命生活研究所 ) が情報公開請求により入 手したデータを提供していただいたことに感謝しま す . <参考文献> 1) 2) 3) 4) 5) 6) 7) 国民衛生の動向2019/20.P192. 第24地域医療構想ワーキンググループの資料. [https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_06944.html] 岡本悦司.保健医療福祉計画データウェアハウ ス.保健師ジャーナル.75(1):80-85 (2019). 厚生労働省.基準病床数と病床の必要数( 必 要病床数) の関係性の整理について . 第1回 地 域 医 療 構 想 に 関 す る ワ ー キ ン グ グ ル ー プ 資 料 (2016 年 7 月 19 日 ).[https://www. mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000131788.pdf] 医療経済研究機構.全国保険医療機関( 病院・ 診療所)一覧( 平成30年度版) [http://www.ihep. jp/business/other/HOSP201903.xlsx] 岡本悦司,神谷達夫.地方創生データウェアハ ウ スJapanReviw.comの 構 築 と そ の 可 能 性. 福 知山公立大学研究紀要.1(1):15-30. [https://www. fukuchiyama.ac.jp/img/report/2016/2016_report02. pdf] 岡本悦司.ナショナルデータベースの法的性質. 薬剤疫学. 17(2)117-134. [https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpe/17/2/17_117/_ pdf]