建設契約におけるダブルモラルハザード
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(2) 土木学会論文集D Vol.66 No.4,414-430,2010.10. 分析する.また,契約破棄に対するペナルティ条項が,. る7),8) .そこでは,事後の効率性を確保するため,効率. プロジェクト契約の効率性に及ぼす影響を分析する.さ. 的な契約違反を容認する議論が展開されている.特に,. らに,発注者・受注者間における費用超過リスクの分担. 費用超過リスクが存在するようなプロジェクト契約の. メカニズムを設計することにより,発注者・受注者双方. 場合には,契約の中に違約金の存在 (ペナルティ条項). によるダブルモラルハザードの抑止に有効であること. を記載することにより,発注者と受注者の戦略的行動. を理論的に明らかにする.以下,2. では,プロジェク. を抑制することが可能となる.さらに,受注者の戦略行. ト契約の特殊性について考察する.3. では,プロジェ. 動を抑制するための費用が,既存事業者との契約を破. クト契約におけるダブルモラルハザード問題を分析す. 棄し,別の事業者との間で事業を再開する費用 (取引費. る.4. では,リスク分担ルールがダブルモラルハザー. 用と呼ぶ) より大きい場合,発注者が意図的に超過費用. ドを抑止する効果について考察する.. リスクを受注者に移転するという戦略的行動を採用す る可能性が存在する.その結果,受注者が契約破棄を. 2.. 選択し,発注者は新たな事業者と契約しプロジェクト. 本研究の基本的な考え方. を再開することになる.その際,取引費用の発生に伴. (1). う事業の事後の非効率性が発生する可能性がある.本. 従来の研究概要. 伝統的契約理論 (完備契約) では,契約の中に将来生. 研究では,このような契約破棄に対するペナルティ条. じうる事象をすべて記述できることを前提とし,契約. 項が,発注者・受注者の双方が関与するダブルモラル. 当事者の間における情報の非対称性に起因するモラル. ハザードの抑制に及ぼす効果 (事前の効率性) と, プロ. ハザードや逆選択問題に対処する方法について分析し. ジェクトの継続性に関わる事後の社会的効率性に及ぼ. てきた.一般に,建設工事には地質条件,自然条件,設. す影響について理論的に分析することを目的とする.. 計変更など多様な不確定要因が介在する.建設契約に は,これらの不確定要因に関して将来起こるべき内容. (2). をすべて契約の中に盛り込むことは不可能であり,不. ダブルモラルハザード問題. 伝統的エージェンシー理論9),10) では,プリンシパル. 2). 完備契約とならざるを得ない.Grossman and Hart を. が契約後にエージェントの行動を正確に知ることがで. 契機として,経済学,ゲーム理論の分野において不完. きない場合に発生するモラルハザード問題を対象とし. 備契約理論に関する研究が進展し,契約の不完備性が. てきた.そこでは,エージェントの努力水準をプリン. もたらす非効率性に関する知見が蓄積された.. シパルが観測不可能であり,プリンシパルがエイジェ. 不完備契約理論では契約当事者の間における情報の. ントの戦略的行動を効率的に抑止するようなメカニズ. 非対称性に起因する非効率性だけでなく,契約遂行に. ムの設計に主眼が置かれている.これに対して,プリ. 関わる状態や行動の立証不可能性に起因して発生する. ンシパルとエージェントの両者が,それぞれの努力水. 非効率性を分析対象とする.不完備契約においては,契. 準が相手に観察されないことを利用して自己利益を追. 約に記述されない状況が発生した場合,契約当事者に. 求するような状況をダブルモラルハザード問題と呼ぶ.. よる再交渉を通じて契約の変更が協議される.契約変. ダブルモラルハザード問題は当初農業経済学の分野11). 更に関する再交渉を通じて事後の効率性を実現できる. や,フランチャイズ契約の経済学12) の分野において発. が,再交渉の可能性を認めることにより事前の非効率性. 展し,現在では経済学の幅広い研究領域において分析. (ホールドアップ問題) が発生する可能性がある3) .さら に,De Fraha4) ,Schmitz5) は,契約当事者間の非対称. されている13)−15) .既往のダブルモラルハザード問題. 情報を導入した不完備契約理論を展開し,非対称情報. ントの双方の努力によりサービスが共同生産されるよ. 下における再交渉が,必ずしも事後の効率性を導くと. うなモデル13),14) ,検証不可能な情報に起因してダブル. に関する基本的な文献として,プリンシパルとエイジェ. 6). は限らないことを明らかにした.さらに,石等 は PFI. モザードが発生するモデル15) 等が提案されている.前. 事業を対象として,事後の費用リスクが存在する場合,. 者は.プリンシパルが自らの努力水準を操作しないこ. SPC と金融機関の再交渉により非効率的な事業清算が. とを保証しない限り,エージェントの努力水準を引き. 発生する可能性があることを指摘した.しかし,伝統. 出すことが困難であることを示唆している.一方,後. 的な不完備契約理論は,契約が完全に履行されること. 者はプリンシパルが私的情報を有するケースを想定し. を前提としているため,契約当事者による契約違反は. ている.さらに私的情報を公開することがエージェン. 考慮されていない.. トのモラルハザードの抑止を困難にさせる可能性があ. これに対して,法と経済学の分野では,契約が履行. るため,私的情報を公開するという社会的最適な契約. されない可能性を明示的に考慮し,損害賠償ルール (違. が必ずしも実現できないことを指摘している.以上の. 約金) の導入が契約の効率性に及ぼす影響を分析してい. 研究は,いずれも立証可能なシグナルあるいはアウト. 415.
(3) 土木学会論文集D Vol.66 No.4,414-430,2010.10. プットに依存するインセンティブ支払構造を初期契約. ラルハザード自体が倫理的に問題となるわけではない.. に規定することによりダブルモラルハザードの抑止が. 開発途上国のプロジェクトにおいては,贈収賄,入札. 可能であることを指摘している.しかし,いずれの研. 妨害,談合等の犯罪的行為が介在することが否定でき. 究も完備契約を対象としたものであり,プロジェクト契. ない.本研究では,このような犯罪的行為をモラルハ. 約のように不完備契約を対象としたものではない.本. ザードと呼んでいるわけではないことを断わっておく.. 研究では,不完備契約の枠組みの中でダブルモラルハ ザード問題を分析する点に新規性がある.. (3). 建設契約におけるリスク分担. 本研究では開発金融機関の立場から,融資対象となる. 建設プロジェクト契約におけるリスク分担ルールに. プロジェクトに関与する現地政府 (発注者) とプロジェ. 関しては,プロジェクト契約自体,あるいは契約約款. クトを遂行する受注者によるダブルモラルハザードを. の中に明確に記載されている.大本等1) は,日本の公共. 抑制できるような融資契約スキームを設計する問題を. 工事請負契約約款16),17) ,及び国際建設プロジェクト契. 考える.このような融資スキームの中で,発注者の現. 約に用いられる FIDIC (Federation Internationale des. 地政府は受注者に対する支払を最小化することを目的. Ingenieurs-Conseils) 契約約款18),19) をとりあげ,建設. とし,受注者は利潤最大化を目的とする.その際,発. プロジェクト契約におけるリスク分担,契約変更に関. 注者と受注者双方の努力水準が,プロジェクト費用に. する比較を試みている.リスク分担の問題は, 「リスク. 影響を及ぼすような費用超過リスクを対象とする.費. により生じた損失をいずれの主体に帰属すべきかとい. 用超過リスクが発注者と受注者の両者の努力水準に依. う問題である」とし,2 つの契約約款がともに同一のリ. 存し,さらに,これらの努力水準が立証不可能である. スク分担原則を採用していることを指摘している.リ. 場合,事後の再交渉時に適用される超過費用の分担ス. スク分担の基本原則によれば,第 1 に,リスクはリス. キームは発注者と受注者の事前の努力水準に影響を及. クの大きさとその確率をより正確に評価し,それを制. ぼす.いま,かりに費用超過リスクをすべて受注者が. 御できる主体が負担すべきであり (第 1 原則),第 2 に. 負担する場合を考えよう.発注者は自分自身の努力の. いずれの主体も評価・制御できない場合には,そのリ. 有無にかかわらず超過費用リスクを負担する必要がな. スクをより容易にマネジメントできる,あるいは市場. いため,受注者の努力水準に free ride する危険性があ. 保険を購入できる主体が負担すべきである (第 2 原則).. る.さらに,そういう危険性を予測した受注者側にも. 契約変更に関しては,受注者が負担すべきリスクに関. 努力する誘因は存在しない.一方,受注者が違約金を. しては,契約変更は認められない.一方,発注者が負担. 支払い契約を破棄することが可能な場合,発注者が努. すべきリスクに関しては,契約変更の対象となりうる.. 力しても,受注者が free rider する可能性がある.さら. このようなリスクとして,上位計画,法令,税制,通. に,受注者による free rider の可能性を予測した発注者. 貨規制,許認可,学術的発見,反対運動,用地取得,自. は努力する誘因も存在しない.すなわち,ダブルモラ. 然災害,天災,戦争,ゼネスト,地盤条件,契約図書,. ルハザードが発生する.このように費用超過リスクが. 調査設計,指示,工事量変更,追加指示,図面・指示. すべて受注者に移転される場合,発注者と受注者の間. 承認遅延,支払遅延,性能リスク等があげられる.ま. でダブルモラルハザードが発生する可能性がある.し. た,発注者・受注者のいずれもが責任を持てないリス. たがって,このような立証不可能な費用超過リスクに. クに関しては,契約変更により契約の効率性が増加し. 対しては,受注者・発注者の間におけるリスク分担ルー. うる場合,リスク分担能力の大きい当事者がリスクを. ルを設計することが重要な課題となる.さらに,発注. 負担することにより,他方の当事者の効率的な行動を. 者が設定する違約金は,受注者のモラルハザードを抑. 誘導できる場合には契約変更は正当化できるとしてい. 止する効果も持っている.. る.このようなリスクとして,事業破綻リスク,物価変 動リスク,不可抗力リスクがあげられる.. なお,本研究でとりあげるモラルハザードは,発注. FIDIC18) においては第 12 条「予見できない物理的障 害条件」,20 条「発注者のリスク」等において受注者が 追加的支払を請求する権利を認めている.一方で,同. 者,受注者が,それぞれが獲得する利潤 (便益) 最大化 を目的として発生する行為である.特に,開発途上国 における建設プロジェクトを海外の建設企業が受注す る場合,建設事業費は途上国から海外へ移転していく. このため,途上国政府が自国の便益のみを考慮して行動. 52 条で契約の変更の請求とその立証の義務が受注者側 にあることを明確に規定している.すなわち,契約書,. することは,途上国政府の立場からは合理的である.こ. 設計図書に明確に記載されており,かつ受注者が現実. のように,本研究で着目するモラルハザードの問題は,. の工事条件が契約時における合意事項とかい離してい. 契約当事者による利潤最大化行動の結果として発生す. ることを立証できる場合には,クレーム権を行使する. る協調の失敗 (coordination failure) の問題であり,モ. ことにより契約変更,追加支払を請求することができ. 416.
(4) 土木学会論文集D Vol.66 No.4,414-430,2010.10. ダブルモラルハザードによる費用超過リスクの発生と. 第2期. 第1期. 第0期. いう効率性の低下と,2) 契約破棄により,プロジェク. 継続. トが中断・廃止することによる損失に着目する.モラ 発注者努力水準 ai (i =H,L). 契約 受注者努力水準 ei (i =H,L) {R,K}. 超過費用C. 支払いR. ルハザードは費用超過リスク事象が発生する前に生じ る非効率性であり,契約破棄はリスク事象発生後に生. 契約破棄 違約金K. じる非効率性である.この意味で,前者の効率性を事. 図–1 モデルの時間軸. 前的効率性と呼び,後者を事後的効率性と呼ぶ.本研 究では,事前的効率性と事後的効率性の双方を同時に 達成しうる契約スキームについて分析する.. る.両者の間で合意が形成されない (建設紛争に発展す る) 場合には,仲裁廷あるいは裁判等を通じて紛争解決. 図–1 に示すように,3 期間で構成されるモデルを考. が図られることになる.しかし,クレーム権を行使す. えよう.第 0 期に発注者は入札に先立って,地盤条件. るためには,受注者が契約の変更を立証することが必. 探査等を行い,不確実性回避のために努力する.発注. 要となる.設計図書等との齟齬のように契約変更を容. 者が選択する努力水準を a ∈ {aH , aL } と表す.努力水. 易に立証できる場合を除いて,発注者の事前調査や技. 準 ai (i = H, L) を選択した場合,努力費用 F (a) は { ϕ (a = aH の場合) F (a) = 0 (a = aL の場合). 術的検討に関する努力水準は受注者にとって私的情報 であり,リスク発生の責任を発注者に帰属させること が困難な場合が少なくない.このような立証不可能な. と表される.ここで,努力水準 aL を採用した場合の努. リスク事象に関して,発注者によるモラルハザードが. 力費用を F = 0 に基準化していることを断わっておく.. 発生する可能性が大きくなる.. 第 0 期に発注者が努力水準 ai (i = H, L) を決定し,努 力費用は第 0 期における契約締結に先だって支出され. 3.. 基本モデル. (1). モデル化の前提条件. る.ついで,第 1 期の期首に発注者が入札を実施し,受 注者と建設プロジェクト契約を締結する.第 0 期におけ る発注者の努力水準は,受注者も含め第 3 者にとって. 基本モデルでは,発注者・受注者の双方が関与する超. 観察不可能である.契約には受注者が契約を途中で破. 過費用リスクに着目する.すなわち,リスク分担の第 2. 棄した場合に支払われる違約金 K とプロジェクトを完. 原則が適用されるようなリスク事象に着目する.発注. 成した場合に支払われる契約対価 R が規定される.現. 者と受注者の努力水準の双方が,費用超過リスクの発. 実には,発注者が契約破棄する場合もあるが,本研究. 生に寄与する.2.(3) で言及したように,現行の FIDIC. は受注者の契約破棄のみを考える.入札にあたって発. 契約では,このようなリスク事象に関しては,発注者と. 注者は違約金 K を提示し,最小の契約対価 R を入札し. 受注者がリスク分担するような規定になっている.し. た事業者と契約を締結する.受注者は契約後に努力水. かし,基本モデルでは,リスク分担ルールの役割を明. 準 ej (j = H, L) を決定する.努力水準 ej は受注者が. 確にするため,受注者がすべての超過費用を負担する. 安全な工法を選択することや,リスク対応への努力水. ことを前提に議論を進めることとする.このようなリ. 準等を意味している.第 2 期の期首に費用超過リスク. スク分担ルールを受注者負担ルールと呼ぶ.また,超. が発生する.受注者が第 1 期に選択した努力水準に応. 過費用リスクが顕在した時点で,受注者は契約破棄を. じて,費用超過リスクが決定される.超過費用 C が発. 選択することができる.受注者が契約破棄をした場合,. 生した場合,受注者は契約破棄を行うかどうかを決定. 受注者はペナルティ (違約金) を支払わなければならな. する.契約破棄を選択した場合,受注者は違約金 K を. い.現受注者が契約破棄をした場合,発注者はプロジェ. 支払い契約を解除する.発注者は,別の受注者とプロ. クトを継続するために,新たな受注者とプロジェクト契. ジェクト契約を締結し,プロジェクトを完成させる.契. 約を締結する必要がある.このようなプロジェクトの. 約が破棄されない場合,プロジェクトが完成し,第 2 期. 継続のために必要となる取引費用に相当する金額を違. の期末に契約対価 R が支払われる.発注者と受注者は. 約金として支払うと考える.このような違約金の算定. リスク中立的であり,割引率を考慮しないと仮定する.. 原理は,期待利益の損害賠償ルール. 20). と呼ばれる.基. あるいは,金額で表示される変数はすべて第 0 期の現. 本モデルは,このような受注者負担ルールと期待利益. 在価値で表現されていると考えてもいい.また,プロ. の損害賠償ルールの下で,ダブルモラルハザードと非. ジェクトは出来高払いであり,プロジェクト実施のた. 効率な契約破棄が発生するメカニズムを分析する.な. めに必要となる直接的工事費は,プロジェクトの進捗. お,本研究は社会的効率性の観点から建設契約の効率. に応じて支払われる.したがって,契約対価 R は,プ. 性問題を分析する.その際,1) 発注者と受注者による. ロジェクトの契約金額から直接工事費を差し引いた金. 417.
(5) 土木学会論文集D Vol.66 No.4,414-430,2010.10. 額 (利潤) に相当すると考えることができる.. モデルの不必要な複雑化を避けるために,仮定 (2),(3). 第 1 期に,受注者が努力水準 e ∈ {eH , eL } を選択す. が成立すると考える. 契約対価 R に関して. る.受注者の努力費用 L(e) は { ψ (e = eH の場合) L(e) = 0 (e = eL の場合). が成立すると考える.R ≥ C が成立する場合,受注者. と表される.これらの努力費用は,すべて自己資金か. が努力水準にかかわらず非負の利潤を獲得する.この. ら支出される.ただし,. ことは,発注者から受注者に対して所得移転が行われ. C>R≥ψ. ψ>0. ていることを意味する.発注者は契約対価の最小化を. (1). を満足する.プロジェクトの支払は出来高払いであり, 直接工事費はプロジェクトの進捗に応じて清算される. このため,受注者が負担する費用として努力費用のみ. 第 2 期に超過費用が発生する際,受注者が超過費用. かを選択する.受注者が契約を破棄する場合,発注者. 者の努力水準が超過費用の発生に影響を及ぼす.しか. が新たな事業者と契約する.新たな事業者により事業. し,各主体の努力水準は観察不可能,かつ立証不可能 であり,発注者と受注者の双方が超過費用を負担する. 基本モデルでは,受注者が超過費用 C を全額負担する. が継続される場合,発注者がプロジェクトの継続費用. C を負担する.さらに,新たな事業者と契約に至るた めに要する取引費用を Q > 0 と表す.期待利益の損害. と考える.超過費用 C が発生する確率は,第 0 期の発. 賠償ルール20) に従い,. 注者の努力水準 ai (i = H, L) と第 1 期の受注者の努力. K=Q . P (C|aH , eL ) = P (C|aL , eL ) = P (C|aL , eH ) = p. (6). を仮定する.すなわち,契約違反の被害者 (発注者) は, 契約履行されたときと同じ利益となるように違約金が. (2). 決定される.仮定 (6) が成立するため,受注者が契約の 破棄を申し出た場合,発注者は契約の破棄を許諾する.. と表わされる.ただし,. 0<q<p<1. 対価が努力費用を十分にカバーできることを意味する.. 約を破棄するか,超過費用 C を負担し契約を継続する. 第 2 期に費用超過リスクが発生する.発注者,受注. P (C|aH , eH ) = q. 目的とするために C > R が成立する.R ≥ ψ は,契約. C の支払を負担する.受注者は違約金 K を支払って契. をとりあげる.. 水準 ei (i = H, L) の条件つき確率として,. (5). しかし,契約破棄を許諾する場合,取引費用 Q が追加. (3). 的に発生するために,社会的効率性は達成できない.換. を満足する.すなわち,発注者が努力水準 aH を選択. 言すれば,超過費用が発生した時点で契約破棄が行わ. し,かつ受注者が努力水準 eH を選択する場合,超過費. れた場合,(費用超過リスクが顕在化した後の) 事後的. 用 C が発生する確率を q まで小さくすることができる.. 効率性は達成できない.. 発注者が努力水準 aH ,かつ受注者が努力水準 eL を選. 最後に,発注者と受注者のモラルハザードを分析す. 択する場合,超過費用 C が発生する確率は p となる. 仮定 (2) は発注者と受注者の一方がモラルハザードを. るために,. ϕ + ψ + qC ≤ pC. 発生すれば,いま一方の契約主体が努力しても費用超. (7). を仮定する.すなわち, 「発注者と受注者の両方が努力. 過リスクは改善されない.この仮定は,発注者と受注. する場合の期待費用」が, 「発注者と受注者がともに努. 者の努力水準の間に,完全補完性という外部経済が存. 力しない場合の期待費用」より,小さいことを表す.式. 在することを意味する.すなわち,発注者の努力水準. (7) が成立しない場合,ダブルモラルハザードはそもそ. aH は受注者が努力水準 eH を選択した場合のみ,超過 費用の削減の効果をもつ.逆に,受注者の努力水準 eH. も問題にならない.式 (7) より,. に関しても同様のことが成立する.ここで,記述の便. ϕ + ψ + qC ≤ ϕ + pC. (8a). 宜を図るために,. ϕ + ψ + qC ≤ ψ + pC. (8b). p−q =δ. が成立する.式 (8a) は,発注者が努力水準 aH を選択. (4). する場合,受注者も努力した方が社会的に効率的であ. と表記する.以上の仮定は,議論で取り扱う場合分けの. ることを意味する.一方,式 (8b) は,受注者が努力水. 数を可能な限り減少するために設けたものである.以. 準 eH を選択する場合,発注者も努力したほうが社会的. 上の仮定を緩めることにより,より現実的なモデリン. に効率的であることを意味する.さらに,明らかに. グも可能である.しかし,以下の議論で分析しようと するダブルモラルハザードの本質的特徴は,単純化し. ψ + pC > pC. (9a). た仮定 (2),(3) の下でも同様に成立する.したがって,. ϕ + pC > pC. (9b). 418.
(6) 土木学会論文集D Vol.66 No.4,414-430,2010.10. u1P 発注者. aH. a. aL. b1. 受注者. b2. u1A. 契約{R, K }. u. c1. 発注者. 第0期 契約{R, K }. 2 P. u P3. c2 −φ. 0. d1. 受注者. eH. u10 偶然手番. q. g1 受注者 契約 継続. πP πA. u. 1− q. 現状 f1 維持. 発注者. p. 4 P. 契約 継続. u e2. p. 1− p. u 3A. f3. 契約 破棄. eL. u03 e3 u P5 1− p. 現状 追加 g3維持 払い 契約 契約 継続 破棄. 追加 払い. 第1期. eH. 2 A. u02. f2. 現状 維持. g2. 追加 払い 契約 破棄. d2. eL. e1. 0 0. R R +φ R + C +φ R +φ R +C +φ R +C R R − C −ψ R −ψ R −ψ R − ψ R R − C −ψ R −C Q−K +C R +φ Q − K + C +φ Q − K + C +φ R +φ − K −ψ R −ψ − K −ψ −K R. 4. 現状 f4 維持. g4 契約 継続 R R −C. e4 u 0. p. 1− p 第2期 追加 払い. 契約 破棄 R + C R Q−K +C. R R. −K. 図–2 基本ゲームの木. が成立する.式 (9a),(9b) より,発注者 (受注者) が努力. 提案に対して,受諾するか拒否するかを決める (ノード. した場合のみ,受注者 (発注者) は努力したほうが社会 的に効率的である.. c1 及び c2 ).発注者が提案を拒否した場合,ゲームは終 了する.この時,発注者は事前に支出した努力費用の損. 定式化. 諾した場合,{R, K} に関する契約が締結される.つい. 失を被るが,受注者の利得は 0 となる.4) 発注者が受. (2). 3.(1) で設定した仮定の下で,発注者と受注者の行動 を展開型ゲーム Γ = (K, P, ρ, U, π) を用いて表す.展開. を決定する (ノード d1 及び d2 ).第 2 期に進展し,5). 型ゲームの基本的要素を以下に整理しておく.ゲーム. 確率 q, p で超過費用 C の有無が確定する.超過費用が. の木 K を 図–2 のように構成する.P0 を偶然手番全体. 発生しない場合,受注者が契約を継続し対価 R が支払. の集合,PP ,PA をそれぞれ発注者と受注者の手番の. われる.超過費用 C が確定する場合,発注者と受注者. 集合とすると,プレイヤー分割 P = [P0 , PP , PA ] は. の間で再交渉が行われる (ノード f1 ,f2 ,f3 及び f4 ).. で,第 1 期に進展し,受注者が努力水準 ei (i = H, L). P0 = {e1 , e2 , e3 , e4 }, PP = {a, c1 , c2 , f1 , f2 , f3 , f4 },. 発注者が超過費用に対して追加払いをする場合,受注. PA = {b1 , b2 , d1 , d2 , g1 , g2 , g3 , g4 }. 者が契約を継続して対価 R が支払われる.一方,発注. である.ρ = (q, p) は超過費用の発生確率を表す.. UP , UA をそれぞれ発注者と受注者の情報分割とする と,このゲームの情報分割 U = [U0 , UP , UA ] は. UP =. u2P ,. u3P ,. u4P ,. れる.一方,受注者が契約を破棄した場合,違約金 K を発注者に支払う.発注者は新たな事業者と契約する.. u5P ]. 基本ゲーム Γ は,ゲームのペイオフがプレイヤー間. = [{a}, {C1 }, {C2 }, {f1 , f2 }, {f3 , f4 }]. の共有知識となっているため完備情報ゲームである.し. UA = [u1A , u2A ] = [{b1 , b2 }, {d1 , d2 }, {g1 , g2 , g3 , g4 }] P. 継続するか破棄するかを決定する (ノード g1 ,g2 ,g3 及 び g4 ).受注者が契約を継続した場合,対価 R が支払わ. U0 = [u10 , u20 , u30 , u40 ] = [{e1 }, {e2 }, {e3 }, {e4 }] [u1P ,. 者は契約の現状維持を選択した場合,受注者が契約を. かし,受注者及び発注者の情報集合には 2 つあるいは 2. A. と表わされる.利得 π , π はそれぞれ発注者の支出額. つ以上のノードが含まれているため不完全情報ゲーム. (支払い額+努力費用) と受注者の利得を表し,図–2 に 示すとおりである.. である.基本ゲームの部分ゲーム完全均衡解を求めよ. 基本ゲーム Γ は以下の手順で進行する.すなわち,1). り超過費用が確定し,発注者と受注者の再交渉により契. う.基本ゲームの均衡解を求めるために,偶然手番によ. 発注者が努力水準 ai (i = H, L) を決定する (ノード a).. 約変更が行われるかどうかが決定されるノード f1 , f2 ,. 2) 発注者が違約金 K を提示したあと,競争入札で選ば れた受注者が発注者に対して,契約価格 R に関する契. あるいは f3 , f4 以降のゲームに着目しよう.まず,発 注者がノード f1 , f2 (あるいは,f3 , f4 ) において追加払. 約を提案する (ノード b1 及び b2 ).3) 発注者が受注者の. いせず,契約変更を許諾しない場合を考える.ノード. 419.
(7) 土木学会論文集D Vol.66 No.4,414-430,2010.10. g1 , g2 , g3 , g4 において受注者が契約を継続するか破棄す るかを決定する.受注者が契約を破棄する条件は −K ≥ R − C . 選択する問題を考える.式 (15a) と式 (15b) より,社会 的最適な努力水準 eH が選択される誘因両立条件は A ΠA H (aH ) − ΠL (aH ) = δC − ψ ≥ 0. (10). (17). となる.条件 (10) の左辺は受注者が受注者が契約を破. と表される.仮定 (7) より,条件 (17) が必ず成立する.. 棄する場合の利得,右辺は契約を継続する場合の利得. なお,契約の成立条件は. を表している.いま,条件 (10) が成立する場合を考え. R ≥ ν1. よう.このとき,発注者の支払額は. πP = C + Q − K = C. と表される.ただし,ν1 = ψ + qC である.. (11). 次に,発注者が努力水準 aL を選択する場合を考える.. と表わされる.一方,条件 (10) が成立しない場合,発. 受注者が努力水準 ei (i = H, L) を選択した場合の期待. 注者の支払額は. πP = R. (18). 利潤 ΠA i (aL ) (i = H, L) は次式で表される.. (12). ΠA H (aL ) = R − ψ − pC. となる.次に,ノード f1 , f2 において,発注者が追加払. ΠA L (aL ). いを選択した場合を考える.発注者が C − R の追加対 価を支払うため,発注者の支出額は. = R − pC. (19a) (19b). 一方,発注者の期待支出額 ΠP i (aL ) (i = H, L) は. πP = C. (13). P ΠP H (aL ) = ΠL (aL ) = R. となる.発注者が契約の現状維持を決定する条件は } C +Q−K ≤C (14) R. (20). となる.第 1 期に遡り,受注者が努力水準を選択する 問題を考える.式 (19a) と式 (19b) より,社会的最適な 努力水準 eH が選択される誘因両立条件は. と表される.仮定 (5),(6) により,条件 (14) が成立す. A ΠA H (aL ) − ΠL (aL ) = ψ ≤ 0. る.したがって,超過費用 C が発生したとしても,契. (21). 約変更の理由が立証可能ではないため,発注者は契約. と表される.仮定より,ψ > 0 が成立するため,条件. 変更に応じない (超過費用を支払わない).初期契約に おいて,超過費用を受注者と発注者の間で分担するよ. (21) は必ず満足しない.したがって,第 1 期に受注者 が努力水準 eL を選択する.受注者が努力水準 eL を選. うなスキームが導入されていない場合,結果的に受注. 択する条件は次式で表される.. 者が超過費用をすべて負担するか,あるいは契約を破. R ≥ ν2. 棄するかという選択に迫られる.本研究では,このよ. (22). うなリスク分担ルールを受注者負担ルールと呼んでい. ただし,ν2 = pC である.以上の結果を整理すると,本. る.基本ゲームにおいては,条件 (10) より,第 0 期の. ケースには以下のような最適反応戦略 (以下,最適戦略. 初期契約に規定される契約価格 R および違約金 K の多. と呼ぶ) が存在する.まず,a = aH の場合には [ 最適戦略 A e∗ = eH , R ≥ ν1. 寡により,異なった部分ゲーム完全均衡解が得られる.. (3) a). が存在する.一方,a = aL の場合には,最適戦略 [ 最適戦略 B e∗ = eL , R ≥ ν2. 基本ゲームの均衡解. K ≥ C − R が成立する場合. 本ケースでは,式 (10) が成立しない.すなわち,超. が存在する.以上の最適戦略は,発注者の戦略 aH , aL. 過費用が発生する場合,受注者が超過費用を負担し契約. を与件として定義している.発注者がいずれの戦略を. が継続される.まず,発注者が努力水準 aH を選択した. 採用するかは,のちに議論するように競争入札により. 場合を取り上げる.受注者が努力水準 ei (i = H, L) を. 決定される契約対価の多寡によって決定される.. 選択した場合に獲得できる期待利潤 ΠA i (aH ) (i = H, L). b). は次式で表される.. K < C − R が成立する場合. 本ケースでは,式 (10) が成立し,超過費用が発生す. ΠA H (aH ) = R − ψ − qC. (15a). る場合には受注者が契約を破棄する.まず,発注者が. ΠA L (aH ) = R − pC. (15b). 努力水準 aH を選択した場合を取り上げる.受注者が努. 一方,発注者の期待支払額. ΠP i (aH ). 力水準 ei (i = H, L) を選択した場合に獲得できる期待. (i = H, L) は. P ΠP H (aH ) = ΠL (aH ) = R + ϕ. 利潤 ΠA i (aH ) (i = H, L) は次式で表される.. (16). となる.すなわち,発注者が負担する金額は常に一定. ΠA H (aH ) = (1 − q)R − ψ − qK. 値 R + ϕ となる.第 1 期に遡り,受注者が努力水準を. ΠA L (aH ). 420. = (1 − p)R − pK. (23a) (23b).
(8) 土木学会論文集D Vol.66 No.4,414-430,2010.10. と表される.第 1 期に遡り,受注者が努力水準を選択. 一方,発注者の期待支出額 ΠP i (aH ) (i = H, L) は. する問題を考える.式 (30a) と式 (30b) より,社会的最. ΠP H (aH ) = ϕ + (1 − q)R + q(Q + C − K) = ϕ + (1 − q)R + qC. 適な努力水準 eH が選択される誘因両立条件は. (24a). A ΠA H (aH ) − ΠL (aH ) = ψ ≤ 0. ΠP L (aH ) = ϕ + (1 − p)R + p(Q + C − K) = ϕ + (1 − p)R + pC. (32). (24b). と表される.仮定より,式 (32) は成立せず,受注者は. と表される.第 1 期に遡り,受注者が努力水準を選択. 努力水準 eL を選択する.したがって,受注者が努力水. する問題を考える.式 (23a) と式 (23b) より,社会的最. 準 eL を選択する条件は. 適な努力水準 eH が選択される誘因両立条件は. ΠA H (aH ). −. ΠA L (aH ). = δ(R + K) − ψ ≥ 0. R ≥ ν6. (33a). R < ν5. (33b). (25). と表される.式 (33a) は努力水準 eH が選択されるよう. と表される.受注者が努力水準 eH を選択する条件は ψ (26a) R≥ −K δ ψ + qK R≥ (26b) 1−q R<C −K (26c). な契約の成立条件,式 (33b) は,本ケースが成立する ための条件である.努力水準 eL が選択される条件は. ν6 ≤ R < ν5. と表される.したがって,本ケースには以下のような 最適戦略が存在する.まず,a = aH の場合には [ 最適戦略 C e∗ = eH , max{ν3 , ν4 } ≤ R < ν5. と表される.式 (26a) は,受注者が努力水準 eH を選択 するための誘因両立条件,式 (26b) は努力水準 eH が選. 最適戦略 D. 択される契約の成立条件である.式 (26c) は,本ケース. eH が選択される条件は次式で表される. max{ν3 , ν4 } ≤ R < ν5 ただし,ν3 =. − K ,ν4 =. ψ+qK 1−q ,ν5. (27). が存在する.以上の最適戦略は,発注者の戦略 aH , aL. = C − K であ. を与件として定義している.発注者がいずれの戦略を. る.一方,受注者が努力水準 eL を選択する条件は. R < ν3. (28a). R ≥ ν6. (28b). R < ν5. (28c). pK 1−p. であり,受注者が努力. と表される.ただし,ν6 =. 採用するかは,のちに議論するように競争入札により 決定される契約対価の多寡によって決定される.. (4). 競争入札解. 第 0 期に競争入札が実施され,最小の価格を提示し. 水準 eL を選択する場合の契約の成立条件を表している. 仮定 (7) より,ν3 ≤ ν5 が成立するため,努力水準 eL. た事業者が選ばれると考えよう.このような競争入札 によって選択される均衡解を競争入札解と呼ぶ.競争 入札では,違約金が提示され,その上で,契約価格に. が選択される条件は次式で表される.. ν6 ≤ R < ν3. e∗ = eL , ν6 ≤ R < ν3. が存在する.一方,a = aL に対しては,最適戦略 [ 最適戦略 E e∗ = eL , ν6 ≤ R < ν5. が成立するための条件である.したがって,努力水準. ψ δ. (34). 関する競争入札が実施され,最小の対価を入札した事. (29). 業者が選択される.ここで,契約における支払対価を. 次に,発注者が努力水準 aL を選択した場合を考えよ. 巡って入札者の間で完全競争が実現していると仮定す. う.受注者が努力水準 ei (i = H, L) を選択したときに. る.現実には,競争入札に参加する事業者の数が限られ. 獲得できる期待利潤. ΠA i (aL ). る場合が多いため完全競争が実現する保障はない.し. (i = H, L) は. ΠA H (aL ) = (1 − p)R − ψ − pK. (30a). ΠA L (aL ) = (1 − p)R − pK. (30b). かし,競争入札メカニズムに関する詳細は,本研究の 分析対象の範囲外であり,以下では,完全競争入札が 実現すると仮定する.. と な る .一 方 ,発 注 者 が 負 担 す る 期 待 支 出 額. (3) a),b) で分析した最適戦略が成立する範囲の中 で最小の R を求める.最適戦略 A と B が成立するよ. ΠP i (aL ) (i = H, L) は. A B うな最小対価 (以下,臨界的価格と呼ぶ)Rmin , Rmin は,. ΠP H (aL ) = (1 − p)R + p(Q + C − K) = (1 − p)R + pC. 式 (18),(22) より,次式のように求まる.. (31a). ΠP L (aL ) = (1 − p)R + p(Q + C − K) = (1 − p)R + pC. (31b). 421. A Rmin = ν1. (35a). B Rmin. (35b). = ν2.
(9) 土木学会論文集D Vol.66 No.4,414-430,2010.10. 競争入札解. 成立条件. a. K≤. b. 1−p ψ ≤ K δ min[ (1−p)(δC−ϕ) qδ λ , (1 − p)C] q (1−p)(δC−ϕ) + λq qδ. c d e f. 1−p ψ δ. ≤ +. 表–1 基本ゲームの競争入札解 パターン 限界対価の順序関係 入札 価格 1 ν5 ≥ ν3 ≥ ν4 ≥ ν6 ν6 ν5 ≥ ν2 ≥ ν1 2 ν5 ≥ ν6 ≥ ν4 ≥ ν3 ν4 ν5 ≥ ν2 ≥ ν1. < K ≤ (1 − p)C (1 − p)C ≤ K ≤ min[ λq , (1−q)C −ψ] max[(1 − p)C, λq ] ≤ K ≤ (1 − q)C − ψ (1 − q)C − ψ ≤ K. ν6 ≥ ν5 ≥ ν4 ≥ ν3 ν2 ≥ ν5 ≥ ν1. 3. ν6 ≥ ν4 ≥ ν5 ≥ ν3 ν2 ≥ ν1 ≥ ν5. 4. a∗. e∗. aL. 契約破棄. eL. ダブルモラ ルハザード ×. aH. eH. ○. ×. ν6. aL. eL. ×. ×. ν4. aH. eH. ○. ×. ν2. aL. eL. ×. ○. ν2. aL. eL. ×. ○. ×. 注) ダブルモラルハザードの欄で○印はダブルモラルハザードが発生しない場合を,×は発注者と受注者のどちらかにモラルハザードが 発生する場合を表す.契約破棄の欄で○印は契約破棄が発生しない場合を,×印は契約が破棄される場合を表す.また,ν1 = ψ + qC , pK − K ,ν4 = ψ+qK ,ν5 = C − K ,ν6 = 1−p , λ = δC − ϕ − ψ である. ν2 = pC ,ν3 = ψ δ 1−q. 同様に,最適戦略 C ,D 及び E が成立するような臨界的 対価. C D E Rmin , Rmin , Rmin. を選択する誘因両立条件を表わしている.. は,式 (27),(29),(34) より,. C ν5 > Rmin = max{ν3 , ν4 }. (36a). D ν3 > Rmin = ν6. (36b). E ν5 > Rmin = ν6. (36c). 臨界価格の順序関係と対応して,以下のような競争 入札解が存在する (付録 2) 参照). 競争入札解 a [ パターン 1 R∗ = ν6 , a∗ = aL , e∗ = eL 競争入札解 b [ パターン 2 R∗ = ν4 , a∗ = aH , e∗ = eH. と表される.臨界的価格 νi (i = 1, · · · , 6) の大小関係 は,確率 p, q と違約金 K ,受注者の努力費用 ψ 及び超 過費用 C の値に依存する.. 競争入札解 c [ パターン 2 R∗ = ν6 , a∗ = aL , e∗ = eL. 図–1 に示したように,入札に先立って発注者の努力 水準 a が決定される.発注者の努力水準は,観察不可. 競争入札解 d [ パターン 3 R∗ = ν4 , a∗ = aH , e∗ = eH. 能である.発注者の努力水準 ai (i = H, L) を与件とし た臨界的価格 ν ∗ (ai )(i = H, L) は { ν ∗ (aH ) = ν6 パターン 1 ν ∗ (aL ) = ν6 { ν ∗ (aH ) = ν4 パターン 2 ν ∗ (aL ) = ν6 { ν ∗ (aH ) = ν4 パターン 3 ν ∗ (aL ) = ν2 { ν ∗ (aH ) = ν1 パターン 4 ν ∗ (aL ) = ν2. 選択するため,ダブルモラルハザードが発生する.さ. と表わされる (付録 1) 参照).第 0 期の初期時点に遡り,. らに,競争入札解 a と c では,超過費用 C が発生する. 発注者が努力水準を決定する問題を考える.社会的に. 場合,受注者が契約を破棄するため,事後的効率性も. 効率な努力水準 aH が選択される誘因両立条件は. 実現できない.一方,競争入札解 b, d では,社会的に. 競争入札解 e [ パターン 3 R∗ = ν2 , a∗ = aL , e∗ = eL 競争入札解 f [ パターン 4 R∗ = ν2 , a∗ = aL , e∗ = eL 以上の競争入札解を一括して表–1 に整理している.同 表に示すように,競争入札解 a, c, e, f では,発注者と受 注者がそれぞれ社会的に非効率な努力水準 aL と eL を. ΠP (aH , ν ∗ (aH )) ≤ ΠP (aL , ν ∗ (aH )). (37a). ΠP (aH , ν ∗ (aH )) ≤ ΠP (aL , ν ∗ (aL )). (37b). 効率的な努力水準 aH と eH が発注者と受注者によって 選択されるため,ダブルモラルハザードが発生しない. しかし,超過費用 C が発生する場合,受注者による契. ∗. 約破棄が起こるため事業の効率性は実現できない.. と表される.式 (37a) は受注者が入札価格 ν (aH ) を 入札するとき,発注者が努力水準 aH を選択する誘因 両立条件を表わしている.一方,式 (37b) は入札価格. 命題 1 国際建設プロジェクトにおいて,期待利益の. ν ∗ (ai ) (i = H, L) を前提とした発注者が努力水準 aH. 損害賠償ルール,受注者負担ルールが適用される場合,. 422.
(10) 土木学会論文集D Vol.66 No.4,414-430,2010.10. ダブルモラルハザード,非効率な契約破棄を同時に抑. そこで,期待利益の損害賠償ルール,受注者負担ルー. 制することは不可能である.. ルという 2 つのルールを変更し,プロジェクトの効率 性の改善が可能であることを示す.以下,4.(2) では,. このように,多くの国際建設プロジェクトにおいて採. 違約金の設定ルールを緩和し,発注者が違約金を任意. 用されているように,契約破棄に対して期待利益の損. に設定できる (以下では,違約金緩和政策と呼ぶ) 場合. 害賠償ルールが適用され,超過費用が発生した場合に. をとりあげる.さらに,4.(3) では,違約金の変更,リ. 受注者がそのリスクをすべて負担するような状況では,. スク分担ルールを導入することにより,効率的なプロ. ダブルモラルハザード,非効率的契約破棄を完全に抑. ジェクト契約を実現できることを示す.. 制することが不可能である.表–1 に示したように,発. (2). 注者が努力水準 aL を選択した場合,受注者も努力水準. 違約金とダブルモラルハザード. 基本ゲームでは,期待利益の損害賠償ルールに基づ. eL を選択する結果となる.すなわち,発注者のモラル ハザードが受注者のモラルハザードを引き起こす原因 となっている.また,取引費用 Q = K が小さくにつ. いて,違約金が設定される場合を考えた.しかし,違約. れ,ν6 ≤ ν4 が成立しやすくなる.その結果,発注者の. 私的情報であり,発注者によって恣意的に設定される可. 努力水準に依存せず,受注者の最適反応戦略は eL とな. 能性がある.本節では,発注者が違約金の金額を自由. る.さらに,受注者が eL を選択することが予想された. に設定できる場合を想定し,発注者による違約金設定. 場合,発注者も努力水準 aL を選択する.一方,取引費. 行動が,競争入札解に及ぼす影響を分析する.ここで,. 用 Q = K が大きくなるにつれ,受注者の誘因両立条件. ダブルモラルハザードの社会的費用を λ = δC − ϕ − ψ. (26a) が満足しやすくなる.そのため,発注者が aH を 選択する場合,受注者も eH を選択する.しかし,発注. と定義する.ただし,δC はダブルモラルハザードによ る期待超過費用である.ダブルモラルハザードの社会. 者が受注者の努力水準に free ride する場合,受注者は. 的費用は,ダブルモラルハザードが発生することによ. 努力水準 eL を選択する.さらに,発注者も受注者が eL. るネットの社会的費用の期待増加額 (期待社会費用と呼. を選択することを予想し努力水準 aL を選択する.この. ぶ) を表す.ここで,契約破棄による期待取引費用 qQ. ように,期待利益の損害賠償ルール,受注者負担ルー. とダブルモラルハザードの社会費用 λ との大小関係に. ルはダブルモラルハザードを防ぐことができない.. より場合分けを行い,発注者の違約金 K の設定行動と. 金の算定根拠となる取引費用は発注者のみが知り得る. 違約金が競争入札解に及ぼす影響を分析する.. 6). なお,基本ゲームでは,石等 とは異なり,受注者に. qQ > λ が成立する場合. a). よるモラルハザードのみが発生するようなケースは生 じない.石等は PFI 事業を対象として,受注者による. 契約破棄による期待社会費用 qQ がダブルモラルハ. モラルハザードが発生するメカニズムを分析し,契約. ザードの期待社会費用 λ より大きい場合を考える.以. 時点で受注者から保証金 (違約金の担保) を徴収するこ. 下では,各パターン j = 1, · · · , 4) において発注者の期. とにより,受注者のモラルハザードを抑制できること. 待支出額 ΠP (j) (j = 1, · · · , 4) と表す.付録 2) に示. を示した.これに対して,本研究では,受注者の契約. すように,違約金 K がパターン 1,4 が成立する条件を. 破棄に対する違約金支払が契約当初から義務づけられ. 満足する場合,違約金の水準とは無関係に,競争入札. ており,さらに受注者が超過費用をすべて負担するた. 解 a, f が存在する.すなわち,発注者の努力水準が aL ,. ′. めに,受注者のみがモラルハザードを引き起こすよう. 受注者の努力水準が eL となり,ダブルモラルハザード. なケースが生起しない結果となっている.. が発生する.違約金 K がパターン 1,あるいはパター ン 4 の成立条件を満足する場合,発注者の期待支出額 ′. 4.. ′. ΠP (1) と ΠP (4) は,それぞれ. 違約金とリスク分担ルール. ′. ΠP (1) = pC + pQ (1). 分析目的. ′. ΠP (4) = pC. 基本ゲームでは,1) 期待利益の損害賠償ルール,2). (38a) (38b). となる.つぎに,違約金 K がパターン 2,あるいはパ. 受注者負担ルールという条件の下で,プロジェクト契. ターン 3 の成立条件を満足する場合を考える.まず,パ. 約の効率性について分析した.その結果,命題 1 に示. ターン 2 の成立条件を満足する場合,発注者が努力水. したように,1) ダブルモラルハザード,もしくは,2). 準 aH を選択する誘因両立条件は. 非効率的な契約破棄が発生し,プロジェクトを効率的 に遂行できないことが判明した.このような事前・事. ϕ + (1 − q)ν4 + q(C + Q − K). 後の非効率性の発生は,国際建設プロジェクトにおけ. ≤ (1 − p)ν4 + p(C + Q − K). る賠償ルールとリスク分担ルールが原因となっている.. ϕ + (1 − q)ν4 + q(C + Q − K). 423. (39a).
(11) 土木学会論文集D Vol.66 No.4,414-430,2010.10. ≤ (1 − p)ν6 + p(C + Q − K). 合,契約破棄を抑止するように違約金が設定される.し. (39b). と表される.明らかに,式 (39b) は必ず成立する.した. かし,ダブルモラルハザードを抑止できない.. がって,発注者が設定する K が式 (39a) を満足する場. b). 本ケースでは,ダブルモラルハザードの期待社会費. 合,ダブルモラルハザードは抑止できる.式 (39a) を変. 用が契約破棄による期待社会費用より大きい.パター. 換すると次式を得る.. K≤ξ. ン 1 とパターン 4 において,それぞれ競争入札解 a, f. (40). が存在する.発注者の期待支出額は式 (38a) と (38b) に. (1−p)(C− ϕ δ )+λ+δQ である.これより,明 p 1−p δ ψ が成立する.前提条件 qQ > λ が成. ただし,ξ = らかに ξ >. qQ ≤ λ が成立する場合. よって示される.一方,パターン 2 においては,競争 入札解 b が存在する.発注者は条件 (41) を満足する K. 立する場合,発注者が 1−p ψ ≤ K ≤ min[ξ, (1 − p)C] (41) δ を満足するような K を設定すれば,誘因両立条件 (39a). を設定し,期待支出額は式 (42) で表される.一方,パ ターン 3 において誘因両立条件 (43b) が成立する.こ のため,発注者が. が成立する.誘因両立条件 (39b) が成立するため,発注. (1 − p)C ≤ K ≤ min[ξ, (1 − q)C − ψ]. 者は必ず競争入札解 b を選択する.言い換えれば,競. (46). を満足する K を設定すれば,誘因両立条件 (43a) を満足. 争入札解 c は発生しない.したがって,発注者の期待. ′. し競争入札解 d が成立する.発注者の期待支出額 ΠP (3). 支出額 ΠP (2) は. は. ′. ΠP (2) = ϕ + ψ + qC + qQ. (42). ′. ΠP (3) = ϕ + ψ + qC + qQ. となる.次に,パターン 3 において,発注者が努力水. (47). となる.発注者の期待支出額を比較すると,明らかに. 準 aH を選択する誘因両立条件は. ′. ′. ′. ′. ΠP (2) = ΠP (3) < ΠP (4) < ΠP (1). ϕ + (1 − q)ν4 + q(C + Q − K). (48). が成立する.ただし,発注者が契約金を最小にするよ ˜ は可能な限り小さい うに設定するためには,違約金 K. ≤ (1 − p)ν4 + p(C + Q − K). (43a). ϕ + (1 − q)ν4 + q(C + Q − K) ≤ ν2. (43b). 方が望ましい.表–1 に示す競争入札均衡において,競. と表わされる.qQ > λ が前提条件であるため,式 (43b). 争入札解 d よりも b の方が違約金の額は小さくなる.し. は必ず成立しない.したがって,パターン 3 では,競. たがって,違約金を最小にするような競争入札解 b が. 争入札解 e が存在する.すなわち,発注者が努力水準. 選択され,違約金は. aL を選択し,その結果受注者も努力水準 eL を選択す ′ る.発注者の期待支出額 ΠP (3) は. ˜ = 1 − pψ (49) K δ となる.したがって,本ケースでは以下の競争入札解 が存在する. [ 競争入札解 h a ˜ = aH , e˜ = eH ˜ = 1−p ψ K δ. ′. ΠP (3) = pC. (44) ′. となる.発注者の期待支出額 ΠP (j) (j = 1, · · · , 4) を 比較すると,明らかに ′. ′. ′. ′. ΠP (3) = ΠP (4) < ΠP (2) < ΠP (1). (45). すなわち,表–1 に示す競争入札解 b が選択される.競. ˜ を期待超過費用 (1−p)C が成立する.ただし,違約金 K. 争均衡入札解において,ダブルモラルハザードは抑止で. より大きくする場合,違約金の増加額がそのまま入札. きるが,契約破棄は抑止できない.このように,qQ < λ. 金額の増加につながる.発注者が契約金を最小にする場. が成立する場合,発注者が期待支出額を最小にするよ. 合,違約金は期待超過費用 (1 − p)C に設定される.し. うに違約金を設定すると,ダブルモラルハザードは抑. たがって,本ケースでは以下の競争入札解が存在する. [ 競争入札解 g a ˜ = aL , e˜ = eL ˜ = (1 − p)C K. 制できるが,契約破棄が発生する.以上の結果をまと. すなわち,表–1 に示す競争入札解 e が選択される.本. 命題 2 発注者が期待支出額を最小にするように違約. 競争入札解ではダブルモラルハザードが発生するが,契. 金を設定する場合,違約金は次式で表される. [ ˜ = (1 − p)C qQ > λの場合 K. 約破棄は抑止される.qQ > λ が成立する場合,発注者. めると,次の命題が成立する.. qQ ≤ λの場合. が期待支出額を最小にするように違約金を設定すると. ˜ = K. 1−p δ ψ. パターン 3 の競争入札解 e が選択され,ダブルモラル. qQ > λ の場合,契約破棄は抑止できるがダブルモラ. ハザードが発生する.ただし,契約破棄は発生しない.. ルハザードは抑止できない.qQ < λ の場合,モラルハ. 本ケースのように,契約破棄による期待社会費用 qQ が. ザードを抑止できるが,契約破棄は抑止できない.. ダブルモラルハザードの期待社会費用 λ より大きい場. 424.
(12) 土木学会論文集D Vol.66 No.4,414-430,2010.10. なお,3.(4) で分析したように,K = Q と仮定した場合, ˜ が成立する. 競争入札解 a に対しては Q ≤ 1−p ψ ≤ K. となる.第 1 期に遡り,受注者が努力水準を選択する. ˜ また,競争入札解 b, c, d, e, f に対しては,K = Q ≥ K ˜ が成立する.以上より,必ずし あるいは K = Q ≤ K. 努力水準 eH が選択される誘因両立条件は. δ. 問題を考える.式 (51a) と式 (51b) より,社会的最適な A ΠA H (aH ) − ΠL (aH ) = αδC − ψ ≥ 0. ˜ < Q が成立するとは限らない.したがって,取引 もK. と表される.努力水準 eH が選択される条件は ψ α≥ δC R ≥ τ1. コスト Q の多寡に応じて,懲罰的違約金 K ≥ Q,ある いは非懲罰的違約金 K < Q のいずれかを導入すること が必要となる.しかし,取引費用は発注者の私的情報. (53). (54a) (54b). であり,開発金融機関が取引費用に関する正確な情報. と表される.式 (54a) は努力水準 eH が選択される誘因. を獲得することは容易ではない.また,国際建設プロ. 両立条件,式 (54b) は契約の成立条件を表わしている.. ジェクトの内容によって,違約金政策を差別化するこ. ただし,τ1 = ψ + αqC である.一方,誘因両立条件. とは,実務的にも困難である.さらに,違約金政策に. (53) が満足されない場合,受注者が努力水準 eL を選択 する.努力水準 eL が選択される条件は ψ α< (55a) δC R ≥ τ2 (55b). より,ダブルモラルハザードを抑制できても,超過費 用 C が発生した場合に,非効率な契約破棄が発生する ことを抑制できない.このため,国際建設プロジェク トの効率性を改善する方策として,違約金緩和政策を. と表わされる.ただし,τ2 = αpC である.式 (55a) は. 単独で用いることは望ましいとはいえない.. 努力水準 eL が選択される誘因両立条件,式 (55b) は契. (3). 違約金とリスク分担ルール. 約の成立条件を表わしている.. 事前と事後の社会的効率性を同時に実現するために,. 次に,発注者が努力水準 aL を選択する場合を考えよ. 違約金緩和政策とリスク分担ルールを同時に導入する.. う.受注者が努力水準 ei (i = H, L) を選択したときに. 開発金融機関がリスク分担率を決定し,現地政府が違. 獲得できる期待利潤 ΠA i (aL ) (i = H, L) は. 約金を設定する場合を想定する.すなわち,超過費用. ΠA H (aL ) = R − ψ − αpC. C が発生した場合,発注者と受注者が超過費用を一定. ΠA L (aL ). の割合で分担する場合を考える.受注者が負担する超. = R − αpC. (56a) (56b). となる.発注者の期待支出額 ΠP i (aL ) (i = H, L) は. 過費用負担率を α とする.議論の進め方として,違約 金は現地政府によって決定されるパラメータであるが,. P ΠP H (aL ) = ΠL (aL ) = R + (1 − α)pC. (57). ひとまず開発金融機関が最適なリスク分担率と最適違. となる.第 1 期に遡り,受注者が努力水準を選択する. 約金を決定すると考える.その上で,開発金融機関が最. 問題を考える.式 (56a) と式 (56b) より,社会的最適な. 適リスク分担率を設定すれば,現地政府が期待支出額. 努力水準 eH が選択される誘因両立条件は. を最小にするように違約金を設定することにより,最. A ΠA H (aL ) − ΠL (aL ) = ψ ≤ 0. 適違約金が分権的に設定されることを明らかにする.. と表される.仮定より,ψ > 0 が成立するため,条件. 式 (10) より,超過費用 C が発生するとき,受注者が. (58) は必ず満足しない.したがって,第 1 期に受注者 が努力水準 eL を選択する.受注者が努力水準 eL を選. 契約を破棄しない条件は. K ≥ αC − R. (50). 択する条件は. と表わされる.3.(3)b) で議論したように,式 (50) が. R ≥ τ2. 成立しない場合,超過費用 C の発生が判明したときに. 最適戦略が存在する.まず,a = aH の場合には 最適戦略 U e◦ = eH , R ≥ τ1 式 (54a),(54b) が成立する場合 最適戦略 V e◦ = e , R ≥ τ L 2 式 (55a),(55b) が成立する場合. が成立する場合に着目し,議論を進めることとする. まず,発注者が努力水準 aH を選択した場合を取り上 げる.受注者が努力水準 ei (i = H, L) を選択した場合 に獲得できる期待利潤 ΠA i (aH ) (i = H, L) は. (51a). ΠA L (aH ) = R − αpC. (51b). (59). と表される.以上の結果を整理すると,以下のような. 受注者は契約を破棄する.したがって,以下では式 (50). ΠA H (aH ) = R − ψ − αqC. (58). が存在する.一方,a = aL の場合には,最適戦略 [ 最適戦略 W e◦ = eL , R ≥ τ2. となる.発注者の期待支出額 ΠP i (aH ) (i = H, L) は. 式 (59) が成立する場合. ΠP H (aH ). = ϕ + R + (1 − α)qC. (52a). が存在する.以上の最適戦略は,発注者の戦略 aH , aL. ΠP L (aH ). = ϕ + R + (1 − α)pC. (52b). を与件として定義している.発注者がいずれの戦略を. 425.
(13) 土木学会論文集D Vol.66 No.4,414-430,2010.10. 採用するかは,競争入札により決定される契約対価の. 分担率 α◦ と違約金 K ◦ は無限に存在する.ここで,開. 多寡によって決定される.. 発金融機関が財務的に効率的な融資条件を設計すると. そこで,各最適戦略が成立する範囲の中で最小の R. 考えれば τ1 を可能な限り小さくするような α◦◦ を選択. を求める.最適戦略 U, V と W が成立するような最小対. することが望ましい.すなわち,最適リスク分担率は ψ (63) α◦◦ = δC と表される.また,式 (62b) より,期待支出額を最小に. 価 (臨界的価格). U V W Rmin , Rmin , Rmin. は,式 (54b),(55b),. (59) より, U Rmin = τ1. (60a). する違約金は. V Rmin = τ2. (60b). W Rmin. (60c). 1−p ψ (64) δ ′ と表される.この時,発注者の期待支出額 ΠP (S) は. = τ2. K ◦◦ =. と表される.臨界的価格 τi (i = 1, 2) の大小関係は,. ′. ΠP (S) = ϕ + ψ + qC. 確率 p, q と超過費用 C ,超過費用の分担割合 α,受注. (65). となる.. 者の努力費用 ψ 及び超過費用 C の値に依存する.式. 一方,式 (62b) が満足されない場合,超過費用 C が. (60a)-(60c) より,以下の 2 つのパターンが存在する. { パターン 1 τ1 ≤ τ2 { パターン 2 τ1 > τ2. 発生すれば受注者は契約を破棄する.ここで,違約金. K が K < K ◦◦ を満足する場合,表–1 に示す競争入札 解 a が成立する.この場合,発注者と受注者はそれぞ. また,パターン 1 とパターン 2 が成立する必要十分条. れ努力水準 aL と eL を選択する.したがって,以下の. 件は,それぞれ. ような競争入札解が存在する.. パターン 1 パターン 2. [ [. α≥. ψ δC. α<. ψ δC. 競争入札解 T [ R◦ = ν6 , a◦ = aL , e◦ = eL すなわち,競争入札解 T では,ダブルモラルハザード. と表される.したがって,発注者の努力水準 ai (i =. と非効率な契約破棄が同時に発生する.また,発注者. H, L) を与件とした臨界的価格 ν ◦ (ai )(i = H, L) は { ν ◦ (aH ) = τ1 パターン 1 ν ◦ (aL ) = τ2 { ν ◦ (aH ) = τ2 パターン 2 ν ◦ (aL ) = τ2. ′. の期待支出額 ΠP (T ) は次式で表される. ′. ΠP (T ) = pC + pQ ′. (66). ′. 発注者の期待支出額 ΠP (S) と ΠP (T ) を比較すると, ′. ′. ΠP (S) < ΠP (T ). (67). となる.最後に,発注者が努力水準 aH を選択する誘因. が成立する.したがって,発注者は式 (64) を満足する. 両立条件は. ような K ◦◦ を選択し,競争入札解 S が成立する.すな. ϕ + τ1 + (1 − α)qC ≤ τ1 + (1 − α)pC. (61a). ϕ + τ1 + (1 − α)qC ≤ τ2 + (1 − α)pC. (61b). わち,国際建設プロジェクトの契約スキームとして,最 適リスク分担率 α◦◦ が設定されていれば,発注者であ る現地政府は最適違約金 K ◦◦ を自発的に設定すること. と表される.したがって,努力水準 aH と eH が選択さ. になる.以上の結果より,以下の命題 3 を得る.. れるような超過費用の分担ルール α を設定すれば,以 下のような競争入札解が存在する.. 命題 3 開発金融機関は融資契約において,条件 (63). 競争入札解 S [ R◦ = τ1 , a◦ = aH , e◦ = eH. を満足するようなリスク分担率 α◦◦ を設定することに. すなわち,競争入札解 S では,ダブルモラルハザード. 契約破棄を同時に抑止することができる.さらに,期. より,ダブルモラルハザードと受注者による非効率な 待支出額を最小化できる.. と非効率な契約破棄の双方を同時に阻止することがで きる.ただし,以上の競争入札解が成立する条件は ϕ ψ ≤ α◦ ≤ 1 − (62a) δC δC ◦ ◦ K ≥ α (1 − q)C − ψ (62b). 式 (63) で定義される受注者の最適リスク分担率は,受 注者の努力費用がモラルハザードが生じることにより 増加する期待超過費用に占める割合として定義される.. と表すことができる.条件 (62a) はダブルモラルハザー. 他のことを一定にすれば,費用超過リスクを抑制する. ドを阻止するための条件である.さらに,式 (50) より,. ために必要となる受注者の努力費用が大きくなるほど. 式 (62b) は非効率的な契約破棄を阻止する条件となって. (費用超過リスクの抑制に対する受注者の貢献度が大き. いる.なお,条件 (62a),(62b) を満足するようなリスク. くなるほど),受注者の最適リスク分担率は大きくなる.. 426.
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