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水干鞍伝統技法研究 : 馬の博物館所蔵「烏彫木漆塗鞍」模作を通して [要旨]

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Academic year: 2021

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氏 名 葉 翠 馨 ヨ ミ ガ ナ ヨ ウ ス イ カ 学 位 の 種 類 博 士 ( 文 化 財 ) 学 位 記 番 号 博 美 第 504号 学 位 授 与 年 月 日 平 成 28年 3月 25日 学 位 論 文 等 題 目 〈 論 文 〉 水 干 鞍 伝 統 技 法 研 究 ― 馬 の 博 物 館 所 蔵 「 烏 彫 木 漆 塗 鞍 」 模 作 を 通 し て ― 〈 作 品 〉 馬 の 博 物 館 所 蔵 「 烏 彫 木 漆 塗 鞍 」 模 造 制 作 研 究 論 文 等 審 査 委 員 ( 主 査 ) 東 京 藝 術 大 学 教 授 ( 美 術 学 部 ) 三 田 村 有 純 ( 論 文 第 1 副 査 ) グ ロ ー バ ル サ ポ ー ト セ ン タ ー 特 任 教 授 井 谷 善 惠 ( 作 品 第 1 副 査 ) 東 京 藝 術 大 学 准 教 授 ( 美 術 学 部 ) 小 椋 範 彦 ( 副 査 ) 大 学 美 術 館 教 授 原 田 一 敏 ( 副 査 ) 東 京 藝 術 大 学 准 教 授 ( 美 術 学 部 ) 片 山 ま び ( 論 文 内 容 の 要 旨 ) は じ め に 本 稿 で は 、 日 本 馬 具 の 中 で 最 も 重 要 で あ り 、 代 表 的 な 鞍 の 一 つ で あ る 水 干 鞍 の 中 で も 他 に は 見 ら れ な い 独 特 な 作 風 と デ ザ イ ン を 持 つ 優 れ た 作 品 で あ る 馬 の 博 物 館 所 蔵 「 烏 彫 木 漆 塗 鞍 」 の 再 現 制 作 を 通 し て 、 大 和 鞍 の 形 式 だ け で は な く 、 大 和 鞍 の 源 流 と し て ア ジ ア 大 陸 と の 関 連 性 を 探 り 、 日 本 鞍 の 初 期 か ら 全 盛 期 ま で の 発 展 過 程 や 水 干 鞍 を 出 現 と の 影 響 を 考 察 す る 。 さ ら に 水 干 鞍 の 伝 統 技 法 と 鞍 橋 の 結 び 方 を 考 察 し 、 そ の 構 成 す る 各 素 材 と 製 作 技 法 の 特 徴 を 分 析 し 、 復 元 し た 結 果 を 今 後 の 馬 具 研 究 史 に 新 し い 視 点 を 提 供 す る こ と で 、 こ れ か ら の 馬 具 研 究 史 の 中 で 新 し い 視 点 と し て 加 え る こ と が で き た ら と 願 う 。 大 和 鞍 の 起 源 と ア ジ ア 木 製 鞍 の 関 係 古 墳 時 代 に 大 和 鞍 発 達 の 過 程 に お い て は 、 中 央 ユ ー ラ シ ア の 遊 牧 民 族 の 木 製 鞍 が そ の 起 源 と 考 え ら れ 、 中 国 の 魏 晋 南 北 朝 時 代 「 安 陽 孝 民 屯 」 と 「 遼 寧 朝 陽 袁 台 子 」 の 古 墳 か ら 出 土 し た 前 輪 ・ 後 輪 垂 直 型 の 木 製 鞍 と 吉 林 集 安 の 高 句 麗 古 墳 か ら 出 土 し た 銅 金 具 鞍 な ど の ア ジ ア 大 陸 系 の 鞍 を 強 く 影 響 を 受 け 、 江 戸 時 代 末 期 ま で に 日 本 の 文 化 、 独 特 な 美 意 識 及 び 工 芸 技 術 な ど が 複 合 し て 独 自 の 鞍 に 変 化 し た と 考 え て よ い 。 ア ジ ア 大 陸 の 鞍 は 西 洋 の 革 鞍 に 対 し て 木 製 鞍 が 多 く み ら れ る と い う 傾 向 が あ る 。 し か し 、 同 じ 木 製 鞍 で も 鞍 の 構 造 と 形 式 に は 、 気 候 環 境 、 文 化 歴 史 及 び 当 時 の 技 術 、 鞍 の 用 途 ・ 意 匠 の な ど の 差 異 に よ り 、 ア ジ ア 大 陸 各 地 域 に お い て も 特 有 の 鞍 構 造 と 形 式 が 誕 生 し た 。 台 湾 は 自 然 環 境 を 考 え る と 、 本 来 馬 の 繁 殖 生 存 環 境 と し て 不 適 合 で あ っ た 。 ま た 外 部 か ら の 人 間 に よ る 支 配 が 繰 り 返 さ れ た た め 、 馬 の 生 息 数 や 用 途 な ど は 各 時 期 の 殖 民 支 配 者 に よ り 、 変 化 し て い く こ と に な っ た 。 台 湾 は 大 和 鞍 の よ う に 長 年 に わ た っ て 外 来 の 文 化 を 融 合 し 、 自 分 の 鞍 形 式 を 発 展 し 、 育 む こ と は で き な か っ た 。 大 和 鞍 の 概 要 古 代:古 墳 時 代 か ら 平 安 前 期 ま で に 古 代 鞍 は 戦 争 に 用 い ら れ る よ り 権 力 や 武 力 の 象 徴 で あ っ た こ と で あ り 、 豪 華 な 意 匠 が 示 し て い る 。 奈 良 時 代 に は 日 本 鞍 の 独 特 な 構 造 を 発 達 し 、 正 倉 院 に 納 め た 素 木 造 り の 鞍 は 古 代 鞍 形 式 の 代 表 的 な 作 例 と い え る 。 平 安 時 代 か ら に 、 武 士 階 級 の 地 位 が 上 が っ て 、 鞍 は 元 々 神 仏 や 公 家 な ど へ の 献 上 品 か ら 一 転 し て 武 士 の 権 力 を 示 し た も の と な っ て い る 。 中 世 : 古 代 鞍 と 中 世 鞍 の 変 化 は 平 安 時 代 後 期 と 考 え ら れ 、 こ の 二 つ に は は っ き り と 差 異 が 見 ら れ る 。 平 安 時 代 後 期 に 入 る と 鞍 橋 の 構 造 は 、 古 代 鞍 の 形 と 全 く 異 な っ て 、 新 し い 鞍 が 出 現 す る 。 こ の 時 に 、 日 本 鞍 独 自 の 構 造 は 発 展 を 始 め た 。

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近世:近世鞍の構造には、中世と大きな差異がない。しかし、その後太平の世をむかえ、軍陣鞍のかわりに略 装の時に使われている軽快な水干鞍多くみられるようになり、中世よりもっと高い加飾技術と独創的な意匠が生 まれ、各々の武将の好みに応じたさまざまな新 た な 意 匠 の も の が 作 ら れ る よ う に な っ た 。 東 京 藝 術 大 学 大 学 院 所 蔵 「 大 和 鞍 」 の 修 復 螺 鈿 鞍 は 日 本 鞍 の 流 れ に お い て 優 品 が 残 り 、 そ の 螺 鈿 技 法 は 日 本 の 漆 工 芸 技 術 を 述 べ る 際 参 照 さ れ る こ と が 多 い 。 東 京 芸 術 大 学 大 学 美 術 館 所 蔵 「 大 和 鞍 ( 別 名 :青 貝 入 和 鞍 骨 )」 一 背 の 保 存 修 復 を 行 い 、 素 地 構 造 、 下 地 、 塗 り 、 加 飾 の 技 法 や 材 料 、 修 復 工 程 を 記 録 し た 。 馬 の 博 物 館 所 蔵 「 烏 彫 木 漆 塗 鞍 」 の 模 作 馬 の 博 物 館 所 蔵 「 烏 彫 木 漆 塗 鞍 」 の 模 作 を 行 い 、 両 輪 と 居 木 の 美 し い 曲 面 構 造 の 素 地 、 漆 塗 、 装 飾 、 四 緒 手 、 紐 で の 組 み 上 げ と い っ た 水 干 鞍 全 体 の 技 法 を 理 解 す る こ と を 目 的 と し た 。 原 物 の 実 見 調 査 及 び 文 献 調 査 か ら 、 当 時 使 用 さ れ て い た と 推 測 さ れ る 同 じ 材 料 、 技 法 を 可 能 な 限 り 使 用 し て 、 復 元 作 業 を 行 っ た 。 制 作 工 程 に つ い て 記 述 す る 。 結 論 本 稿 で は 、 ま ず 武 具 と 馬 具 の 軌 跡 を た ど り 、 そ の 後 、 江 戸 時 代 以 降 の 武 器 ・ 馬 具 に 関 す る 有 職 故 実 の 研 究 文 献 を 中 心 に 水 干 鞍 に 関 す る 論 究 を 行 っ た 。 水 干 鞍 に 関 し て は そ の 製 作 工 程 を 振 り 返 り 、 軍 陣 鞍 か ら 水 干 鞍 に 移 行 す る 時 期 の 資 料 を 調 査 し 、 鞍 の 緒 の 縛 り 方 と 日 本 独 自 の 鞍 の 伝 統 技 法 の 調 査 も 行 い 、 日 本 独 特 の 漆 の 加 飾 技 術 や 鞍 の 意 匠 の 変 遷 を 調 査 し 、 そ れ ら の 時 代 別 の 比 較 や 特 徴 づ け を 試 み た 。 大 和 鞍 は 修 理 時 に 解 体 し た こ と で 、 組 ん だ ま ま で 分 か ら な か っ た 両 輪 の 切 先 を 隠 れ て い た 居 木 先 の 形 態 が 明 ら か と な り 、 ま た 、 本 作 品 で は 簡 易 な 組 み 上 げ に 得 ら れ て 付 い た が 、 紐 と 通 し 穴 の 配 置 を 確 認 す る こ と が で き た 。 こ の こ と で 復 元 に 馬 の 博 物 館 所 蔵 「 烏 彫 木 漆 塗 鞍 」 の 模 造 す る 工 程 に つ い て は 大 変 役 に 立 っ た と い う こ と で あ る 。 今 後 の 水 干 鞍 研 究 に つ な げ る こ と と す る 。 江戸時代以降の武器・馬具に関する有職故実の研究文献に記載されている鞍の型紙、拓本、結び図などを検証 して、鞍の素地制作、江戸時代の漆加飾技法、鞍の組立方法や結びの工程と手順を実験・実践し、理論的且つ実 証的に鞍制作の伝統技法を解明した。現存する作品の研究調査及び歴史的な文献調査を通じて、 可 能 な 限 り 当 時 使 用 さ れ て い た と 推 測 さ れ る も の に 現 時 点 で 再 現 可 能 な 製 作 技 術 や 素 材 を 用 い 、 水 干 鞍 を 再 現 制 作 し た 。 馬 の 博 物 館 所 蔵 「 烏 彫 木 漆 塗 鞍 」 の 再 現 制 作 に よ り 、 江 戸 時 代 の 水 干 鞍 の 木 地 制 作 、 ま た 鞍 の 歴 史 文 献 に 関 す る 考 察 を 行 い 、 近 世 の 鞍 と 漆 加 飾 意 匠 と の 独 創 性 、 鞍 の 組 み に お け る 結 ぶ 技 法 の 進 化 な ど 新 た な 知 見 が 得 ら れ た 。 日 本 鞍 に 伝 わ っ た 技 術 の 一 つ と し て 水 干 鞍 が あ る こ と か ら 、 江 戸 時 代 に 日 本 全 国 の 鞍 生 産 地 と 現 存 し て い る 水 干 鞍 と 共 に 日 本 鞍 と 江 戸 時 代 の 歴 史 の 関 連 性 に 関 し て 論 じ ら れ る 部 分 で あ る と 考 え 、 今 後 水 干 鞍 に つ い て の 更 な る 研 究 が 重 ね ら れ 、 こ れ が 日 本 鞍 に 関 す る 歴 史 の 中 で 重 要 な 位 置 を 占 め る と の 認 識 に お い て 、 さ ら な る 理 解 も 周 知 さ せ た 、 次 に 続 く 研 究 に 続 け た い と 願 っ て い る 。 ( 論 文 審 査 結 果 の 要 旨 ) 概 論 本 論 文 は 、 今 ま で あ ま り 研 究 し て こ ら れ な か っ た 江 戸 時 代 の 水 干 鞍 に つ い て 、 前 半 は ア ジ ア の い く つ か の 民 族 の 鞍 の 歴 史 お よ び 日 本 の 鞍 の 時 代 の 変 遷 も 含 め て 美 術 史 的 に み た 鞍 の 歴 史 に つ い て た ど り 、 後 半 は 「 東 京 藝 術 大 学 美 術 館 蔵 『 大 和 鞍 』 の 修 復 を 行 っ た 過 程 と 、 馬 の 博 物 館 蔵 『 烏 彫 木 漆 塗 鞍 』 の 模 造 を 制 作 し た 過 程 を ど ち ら も 写 真 も 交 え て 詳 細 に 論 述 し た 、 先 駆 的 且 つ 独 創 性 の あ る 論 文 で あ る 。 評 価 す べ き 点 前 半 の 鞍 の 歴 史 を た ど っ た 個 所 に つ い て は 、 本 人 が 台 湾 籍 で 言 葉 の ハ ン デ ィ キ ャ ッ プ が あ り な が ら 、 日 本 の 武 具 や 馬 具 に 関 し て 古 い 文 献 に あ た り 、 時 代 別 に て い ね い に た ど っ て い る 。 ま た 、 日 本 を ア ジ ア の 一 国 と 捉 え 、 ア ジ ア の 様 々 な 木 製 鞍 に つ い て 紹 介 ・ 論 述 し た 個 所 は 非 常 に 興 味 深 い 。 修 復 に つ い て は 、 修 復 前 は 全 体 に 汚 れ や 埃 が 付 着 し 、 漆 塗 膜 と 螺 鈿 に 経 年 劣 化 が あ り 、 前 輪 ・ 後 輪 と 居 木 の 組 上 げ は オ リ ジ ナ ル の 状 態 で は な く 、 お そ ら く 後 年 の 組 み 直 し が あ っ た 。 し た が っ て 、 保 存 修 復 の 基 本 に

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立 ち 、 修 復 す べ き 点 と 、 そ の ま ま に し て お く べ き 点 を 最 初 に 明 ら か に し 、 所 蔵 先 の 東 京 藝 術 大 学 大 学 美 術 館 と も 協 議 の う え 、 将 来 的 に は 展 覧 会 で の 展 示 に も 耐 え う る 修 復 を 行 っ た と い え る 過 程 を わ か り や す く 順 を 追 っ て 論 述 し て い る 。 模 造 に つ い て は 、 当 時 使 用 さ れ て い た と 推 測 さ れ う る 同 じ 材 料 、 技 法 を 可 能 な 限 り 使 用 し て 復 元 を 行 い 、 漆 の 工 程 だ け で は な く 、 前 輪 の 形 を 削 り 出 す 過 程 な ど 、 非 情 に 興 味 深 い 写 真 図 版 が 多 く 含 ま れ る 。 鞍 に 関 し て 保 存 修 復 の 今 後 の 研 究 に 一 石 を 投 じ た 貴 重 な 研 究 で あ る 。 結 論 図 版 の 掲 載 の 仕 方 な ど に 工 夫 を し な け れ ば な ら な い 点 は あ る も の の 、 修 復 、 模 倣 の 技 術 的 な 研 究 は 特 に 興 味 深 く 、 ま た 、 前 半 の 歴 史 的 部 分 も ア ジ ア の 木 製 鞍 と い う 観 点 か ら 江 戸 時 代 の 水 干 鞍 を み た 点 が 非 常 に 独 創 的 で あ る 。ま た 、論 文 と 作 品 =「 修 復 と 模 造 」が う ま く 融 合 し て バ ラ ン ス よ く 全 体 で 質 の 高 い 論 文 と な っ た 。 東 京 藝 術 大 学 大 学 院 美 術 研 究 科 博 士 後 期 課 程 学 位 論 文 の 合 格 要 件 を 満 た す 論 文 で あ る 。 ( 作 品 審 査 結 果 の 要 旨 ) 葉 翠 馨 は 、 日 本 の 木 製 鞍 の 四 枚 の 組 み 木 で 出 来 た 優 雅 な 曲 線 の 造 形 物 に 惹 か れ 修 理 、 模 作 、 論 文 の 三 面 か ら 研 究 に 取 り 組 ん だ 。 台 湾 出 身 で あ る た め 日 本 語 の 壁 が あ っ た が 日 本 の 鞍 の 古 い 文 献 を 調 べ 、 ア ジ ア 各 地 、 日 本 の 鞍 の 形 式 、種 類 を 研 究 し 時 代 の 流 れ を わ か り や す く ま と め 、水 干 鞍 の 装 飾 表 現 で は た い へ ん 興 味 深 い 。 そ れ ぞ れ の 時 代 に 特 徴 あ る 漆 芸 表 現 、 意 匠 で 代 表 さ れ る も の で あ る 。 東 京 藝 術 大 学 大 学 美 術 館 所 蔵 「大 和 鞍 」の 修 理 に お い て は 現 代 の 意 匠 を 思 わ せ る 綺 麗 に ま と め ら れ た 幾 何 学 文 様 の 青 貝 の 鞍 で あ る 。 剥 落 し た 青 貝 と 剥 落 欠 損 部 と の 照 合 に 時 間 を 費 や し 、 剥 落 片 は 元 の 位 置 に 戻 し 、 し ん ば り 台 、 し ん ば り 棒 を 自 作 し 、 剥 離 部 分 の 貝 は し っ か り 圧 着 さ れ て い る 。 ま た 鞍 全 体 の ク リ ー ニ ン グ が さ れ 、 損 傷 部 分 の 補 強 の 為 に 麦 漆 を 含 浸 し 、 修 理 方 法 と し て 現 状 維 持 を 基 本 理 念 に 全 体 は と て も 良 い 状 態 に 修 理 さ れ て い る 。 模 作 の 「 烏 彫 木 漆 塗 鞍 」 に お い て は ま ず 、 素 地 の 選 択 に つ い て 熟 慮 さ れ た 選 択 が な さ れ て い る 。 鞍 の 木 取 り は 独 特 で 二 股 部 の 曲 り 材 を 使 用 す る 。 文 献 、 資 料 か ら の 研 究 に よ り 素 地 の 選 別 も 問 題 な い 。 前 輪 、 後 輪 部 は ケ ヤ キ 材 の 曲 り 材 か ら 削 り 出 し 、 微 細 な 曲 面 、 厚 み 等 研 究 し て 模 作 し 、 本 品 の 銀 平 目 地 と 烏 の 構 成 が と て も 斬 新 な 例 で あ る 。 烏 は 「 錆 上 げ 黒 蒔 絵 」 と 言 っ た 方 が 漆 芸 表 現 の 用 語 と し て わ か り や す い で あ ろ う 。 高 肉 の 錆 上 げ か ら の 成 形 も 本 品 の イ メ ー ジ ど お り で あ る 。 最 終 組 み 立 て の 結 縛 法 に お い て は 鞍 の 結 び の 実 例 を 研 究 し 、 成 果 と し て 結 び の 再 現 を し 、 完 成 に 至 っ て い る 。縛 り に よ る 密 着 感 、強 度 等 か ら 麻 布 結 縛 法 を 選 択 し た こ と も 妥 当 な と こ ろ で あ る 。研 究 論 文 だ け で な く 、 修 理 、 模 作 の 実 制 作 の 研 究 を し 、 完 成 に 至 っ た こ と は 評 価 に 値 す る 。 ( 総 合 審 査 結 果 の 要 旨 ) 台 湾 出 身 で あ り な が ら 、 博 士 課 程 の 研 究 テ ー マ を 日 本 様 式 の 木 製 鞍 に し 、 日 本 人 の 先 攻 研 究 で も 余 り 明 ら か に さ れ て い な い 分 野 に 取 り 組 み 、 あ ら ゆ る 文 献 、 作 品 資 料 を 解 明 し な が ら 、 修 復 研 究 、 模 作 研 究 を 通 し て 論 文 と し て 昇 華 し て き た 事 は 高 く 評 価 で き る 点 で あ る 。 現 在 日 本 の 中 で も 木 製 の 鞍 は 歴 史 の 中 に 忘 れ 去 ら れ た 物 で あ り 、 多 く の 人 の 興 味 を 引 く 物 で は な い が 、 今 回 の 葉 氏 の 調 査 研 究 が き っ か け と な り 、 日 本 に お い て 独 自 に 発 展 を し た 、 水 干 鞍 の 構 造 体 と し て の 造 形 的 な 美 し さ は 、 見 直 さ れ る 物 で あ る 。 そ し て 銀 の 平 目 粉 の 上 に 高 上 げ の 黒 漆 で 表 現 さ れ た 大 胆 な 烏 の 模 様 は 、 見 る 物 を は っ と さ せ る 藝 術 感 度 を 持 ち 合 わ せ て い る 。 こ の 銀 と 黒 の 輝 く レ リ ー フ の 烏 と い う 色 彩 対 比 は 、 と に か く 美 し い 。 江 戸 期 の 日 本 の 意 匠 で あ る 浮 世 絵 の 主 題 の 拡 大 と 縮 小 を 三 次 元 に 表 し た 作 品 で あ る 。 こ の 模 作 品 の 製 作 の 中 で 部 材 を 結 ぶ 結 び 方 に 付 い て は 、 多 く の 資 料 の 中 で 、 類 推 を 繰 り 返 し 、 今 は き ち ん と 伝 え ら れ て い な い 結 び を 再 現 し た 事 は 、 実 に 有 意 義 な 発 表 で あ る 。 ま た 保 存 修 復 の 研 究 に 当 た っ た 東 京 藝 術 大 学 美 術 館 所 蔵 「 大 和 鞍 」 は 、 全 面 に 四 角 形 と 三 角 形 の 青 貝 が 幾 何 学 的 に 貼 ら れ た 鞍 で あ り 、 こ の 意 匠 は 時 代 を 超 え て 通 用 す る 現 代 性 を 秘 め て い る 。 製 作 当 時 に 漆 面 に 膠 で

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貼 ら れ た 青 貝 は 、触 る と は が れ て し ま う 状 態 で あ っ た が 、何 回 か の ク リ ー ニ ン グ を 経 て 、再 び 膠 に て 浮 き や 、 は が れ の 青 貝 を 接 着 し 、 今 後 の 保 管 、 展 示 に 耐 え ら れ る 様 に し た 修 復 技 術 は 高 く 評 価 さ れ る 。

今 回 の 提 出 物 と 口 頭 に よ る 審 査 を 経 て 、 指 導 教 員 5 人 が 満 場 一 致 で 東 京 藝 術 大 学 の 博 士 の 学 位 に 充 当 す る と の 評 価 と し た 次 第 で あ る 。

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